漏れ電流計

漏れ電流計とは

漏れ電流計

漏れ電流計 (英語:leakage current measure) とは、電気機器からの漏電電流を測定する機器です。

一般にmA以下の微小な電流を測定できるクランプメーターのことを指します。

漏れ電流計の使用用途

漏れ電流計は、一般的に法令で定められた基準に適合するか判断することを目的として、電気設備や医療機器などに使用されます。

漏れ電流は人体への影響が大きく、微弱でも死に直結するため安全の観点から正確な測定が必要です。また、通信機器ノイズの原因につながるので、品質の観点からも重要となります。

漏れ電流計の原理

漏れ電流計は回路導体と非接触に測定可能で、線をクランプメータで挟むことで電流を測定します。

電流検出の原理は、電流により発生した磁界を検出して測定電流に比例した出力を取り出します。検出方法は、最も一般的なものとしてCT方式、ロゴスキーコイル方式、ホール素子方式、フラックスゲート方式などがあります。

1. CT方式

測定対象の電流を、巻線比に対応する2次電流に変換する方式です。

2. ロゴスキーコイル方式

測定対象の電流の周辺にできた交流磁界によって、空芯のコイルに誘起される電圧を変換する方式です。

3. ホール素子方式

ホール素子とCT方式を合わせることで、直流電流から測定する方式です。ホール素子とは磁界を発生させた箇所に電流が流れる際に発生する電圧を測定する素子で、直流測定ではこの方式が主流となります。

4. フラックスゲート方式

フラックスゲート (FG素子) とCT方式を合わせることで、直流電流から測定する方式です。フラックスゲートとは鉄心に2本の逆向きコイルを巻くことで発生磁界を測定する素子で、磁界から電流値に逆算します。

漏れ電流計のその他情報

1. 漏れ電流と医療機器

医療機器の発売前には厚生労働大臣の承認が必要です。その中でも、能動医療機器といわれる医療用電気機器の承認には、装着部 (患者に接続する箇所) が電気的にどのカテゴリに該当するのかを規定しなければなりません。

特に心臓など、最もシビアな環境に対して使用される医療機器では、IEC 60601-1 (JIS T0601-1) で規定される「CF型装着部」といわれるカテゴリー (漏れ電流許容限界0.01 mA) に適合する必要があります。このように、医療機器の設計検証の段階では、機器から漏れる漏れ電流の厳格な管理が重要です。したがって、医療機器の承認では規格に対応した専用の漏れ電流計 (試験装置) を用いて漏れ電流を測定します。

2. 漏れ電流計と一般的な電流計の違い

漏れ電流計の最大の特徴は分解能です。負荷電流を測定する電流計は、クランプ方式の場合は1A以上の大電流を測定します。一方、漏れ電流計は微弱な電流を計測する必要があるため、1A以下の微弱電流を測定できるのが特徴です。半導体製造工程向けに微弱電流を測定する負荷電流計も存在しますが、その用途では回路へ直列接続する機器が一般的です。

3. 漏れ電流計の使い方

クランプ型漏れ電流計は電気配線の漏電検査などに用いられ、停電不要で機器を通電状態で検査できます。

測定環境の整備
漏れ電流計は、その原理から外部磁界の影響を受けます。そのため、トランスなど外部磁界の原因となる機器から隔離した場所での測定が必要です。

計測の方法
環状のクランプを開き、測定対象ケーブルを環内に挿入してクランプを閉じます。零相による漏れ電流測定では、全相一括でクランプします。アース線による漏れ電流測定ではアース線を単独でクランプします。その後、測定レンジを計測目的に従って設定し、計測開始です。表示インターバル間隔を設定できる製品や、平均値を表示できる製品も存在します。計測対象や計測目的によって漏れ電流計を選定することが大切です。

4. 漏れ電流の種類

保護導体電流 (接地漏れ電流)
IEC 60601-1規格において、「主電源部品から絶縁体を通ってまたは絶縁体を横切って保護接地導体または機能接地接続線に流れる電流」として定義されます。

タッチ電流 (接触電流) またはエンクロージャの漏れ電流
IEC 60990規格において、「設置または機器の1つまたは複数のアクセス可能な部分に触れるときの人体または動物の身体を通る電流」として定義されます。

患者漏れ電流
IEC 60601-1規格において、「患者接続から患者を経由してアースに流れる電流」として定義されます。

患者測定電流 (医療用電気機器のみ)
IEC 60601-1規格において、「正常な使用時に,患者を介してある患者接続部と他のあらゆる患者接続部との間に流す生理的な効果を意図しない電流」として定義されます。

参考文献
https://estcj.com/%E8%A3%BD%E5%93%81%E5%AE%89%E5%85%A8%E3%81%AE%E8%80%83%E3%81%88%E6%96%B9%EF%BC%9A%E6%BC%8F%E3%82%8C%E9%9B%BB%E6%B5%81%EF%BC%81
https://www.panasonic.com/jp/corporate/pac/safety/safety_test/leakage-current.html
https://metoree.com/categories/leakage-current-measure/
https://www.kew-ltd.co.jp/files/jp/manual/2433R-2433RBT_IM_92-2347A_J_L.pdf
https://www.hioki.com/file/cmw/hdInstructionManual/94201/pdf/
https://www.kew-ltd.co.jp/support/knowledge/technical/clampmeter

超音波センサー

超音波センサーとは

超音波センサー

超音波センサー(英語: Ultrasonic sensor)とは、超音波を利用して物体までの距離を測る装置です。

超音波とは、周波数が高くて人間に聞こえない音の総称です。人間の耳は20Hz~20,000Hzを感知しますが、それ以上の周波数音を超音波と言います。

超音波センサーは超音波を発生させ、反射した音波を感知することで距離を測定します。近年では小型軽量化が進み、安価となったため幅広く用いられています。

超音波センサーの使用用途

超音波センサーは家庭用から産業用まで広く用いられます。

家庭用としては、非接触で距離測定可能である利点が活かされ、車載距離計やジェットタオル等に用います。車載距離計は衝突被害軽減ブレーキ義務化によって急速に広まりつつあります。

産業用途としては、排水タンクや薬品貯液槽のレベル計などに使用されます。腐食性の高い液体などに対して使用されることが多いです。

魚群探知機も超音波センサーを使用しています。古くから使用されている超音波センサーの用途です。

超音波センサーの原理

超音波センサーは、超音波を発信し反射波を感知することで距離を測定します。

音の速度は伝播する雰囲気によって決まっており、大気中では340m/s、水中では1,500m/s程度とされます。伝播する雰囲気が分かれば、反射波が受電素子に到達する時間を測定して距離換算可能です。

超音波センサはメインとなる部品は圧電素子です。圧電素子は電気エネルギーを圧力エネルギーへ変換し、圧力を加えると電気エネルギーへ変換する仕組みを持ちます。

従って、圧電素子は送受信双方の機能を担っています。入力電気信号を超音波へ変換し、反射波を感知して電気信号を出力します。

原理上、超音波センサーのメリットとデメリットは以下のようになります。

超音波センサーのメリット

  • 非接触で物体の距離を検知できること
  • 対象物がガラスのような透明なものでも検知できること
  • 対象物までの間に多少の汚れやほこりなどがあっても通過すること
  • 超音波の速度は速いので、対象物が動いていても検知できること

超音波センサーのデメリット

  • 温度や風に変化されやすいこと
  • 柔らかくてでこぼこしたものは感知することができない

また、超音波センサーの最大の特徴は、非接触で距離を測定できる点にあります。非接触測定が必要な場合に使用されることがほとんどです。

超音波センサーのその他情報

1. 超音波センサーの使い方

市販されている超音波センサーは、アナログ回路発信器として販売されています。出力信号は4-20mAなどの規格が確立されたアナログ信号で、補助電源を入力すればソース出力も可能です。

また、モジュールとしても販売されており、Raspberry PiやPICなどの小型コンピュータとも相性よく接続できます。簡単なバッファーアンプで増幅すれば、波形を成型してI/Oに接続できます。

発信側も消費電力は微少で、出力端子に(アッテネータを介して)直接接続することができます。

センサーは発信側と受信側が対で必要です。ただし、超音波センサーは送信素子が受信素子としても作動するため、一つの素子で送受信ができ、回路自体が簡単になります。

なお、透過型で使用する場合、送信素子と受信素子は別々に設置することが必要です。

2. 超音波センサーを使った回路

超音波センサーの発信素子駆動電圧は一般的に数Vなので、CPUのI/O端子に直接接続できます。

受信信号をデジタル回路で使用する際は、バッファアンプ、検波器、コンパレータでデジタル信号に変換してからCPUで演算処理を行います。

なお、一般的な超音波センサーの共振周波数は40kHzです。

3. 超音波センサーの精度

超音波センサーの精度は一般的に波長程度とされています。40kHz超音波を用いる場合、精度は10mm程度となります。

受信素子に戻ってきた超音波パルスの波形が対象物の形状などによって、測定値にバラツキが出てくるためです。反射波パルスの検出ポイントを最適化することで、精度を上げることもできます。

参考文献
https://www.keyence.co.jp/ss/products/sensor/sensorbasics/us_comparison.jsp
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jime1966/17/4/17_4_276/_pdf
https://www.bannerengineering.com/jp/ja/company/expert-insights/ultrasonic-sensors-101.html
https://www.keyence.co.jp/ss/products/sensor/sensorbasics/us_info.jsp http://ww1.microchip.com/downloads/jp/AppNotes/00001536B_JP.pdf
https://www.murata.com/ja-jp/products/sensor/ultrasonic/overview/open
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjspe1933/51/6/51_6_1238/_pdf

レーザーダイオード

レーザーダイオードとは

レーザーダイオード

レーザーダイオード (英: laser diode) とは、半導体の再結合発光利用した光です。

再結合発光とは、電子の抜けた穴 (正孔) と電子が接合部で出会い、お互いが持っていた余分なエネルギーが光となって発光することです。

レーザーダイオードの光は、単一波長で位相が揃ったレーザー光であり、半導体レーザーとも呼ばれてLDと表記します。半導体レーザーの色は半導体の構成元素により決まります。例えば、InGaNは紫外から緑色 (380~540nm) 、AlGaInPは赤色 (620~700nm) 、InGaAsPは赤外光となります。それぞれの基板はInGaNは「GaN」、AlGaInPは「GaAs」、InGaAsPは「InP」です。

LEDは半導体レーザーと同じように光を放ちますが、半導体レーザーに比べ光の位相や波長の幅にばらつきがあります。つまり半導体レーザーはLED (発光ダイオード) と異なり、「誘導放出」と呼ばれる原理に基づいて光を放つため、位相の整った強い光を発射することが可能になります。

レーザーダイオードの使用用途

レーザーダイオードは民生用機器で広く用いられます。その理由は、サイズが小型で大量生産が可能なため製造コストが低く押さえることができるためです。

情報機器では、CDやDVDやBD等の光学ドライブの光ピックアップ、コピー機やレーザープリンター、光ファイバーを用いた通信機器などに利用されます。また、高出力なものではレーザーマーカーレーザー加工機などにも応用されています。

他にもレーザー光のもつ拡散しにくく遠距離まで届くという性質を用いて、測量機器や物を指し示すレーザーポインターとしても利用されており、低出力赤色半導体レーザー素子の小型化・低価格化とともに大きく普及しました。

レーザーダイオードの原理

レーザーダイオードは、電圧印加により正孔 (電子の抜けた穴) と電子が再結合して光が放出されます。

その際、放出された光子が引き金となり、別の電子も正孔と次々と再結合することで光子を放出するため、発生した光は同じ位相、同じ波長の光となります。光の波長が常に一定であるため、バーコードリーダーやレーザーポインター、光ファイバー通信など、一定の光量が必要な場面に用いられています。

レーザーダイオードのその他情報

1. レーザーダイオードの仕様

レーザーダイオードの仕様を理解するためにはL/I曲線を利用します。この曲線を用いることで出力される光強度に対して供給される駆動電流を記録しておくことができるようになります。

この曲線はレーザーでの動作点 (定格発光出力での駆動電流) 及び閾値電流 (レーザーの発振開始電流) を決定するために使用されており、特定の電流で高出力を得るのに必要な電流を決定するためにも使用されています。

この曲線図を読むことで光出力は温度に大きく依存しており、温度が上昇するとレーザー特性も低下することが分かるようになっています。このことからL/I曲線を取り入れることでレーザーダイオードの効率を視覚化し、推定することが可能になっています。

2. レーザーダイオードと発光ダイオードの違い

発光ダイオードは光の位相が揃っていないため放射状に拡散することが特徴です。それに対してレーザーダイオードは位相が揃うため直線的な光線になります。

発光ダイオードでは発光層の面が広いためコア系の小さなファイバに入射しにくい特性があります。一方で、レーザーダイオードは発光層が狭いがコア系の小さな光ファイバには入射しやすいという特徴を備えています。

レーザーダイオードでは電圧印加により正孔と電子が再結合して放出された光子が引き金となり、別の電子も正孔と次々と再結合することで光子を放出 (誘導放出) します。そのために発生した光は同じ位相、同じ波長の光となります。これに対して発光ダイオードで発生される光は位相や波長がバラついた様々な光となります。

3. レーザーダイオードの寿命

レーザーダイオードの平均寿命は動作環境 (動作温度、静電気、電源でのサージ) によって異なり、一般的には10,000時間と言われます。ここでは平均寿命に影響する動作環境要因のうち、動作温度について説明します。

まず動作温度の影響では動作温度が10℃上昇すると寿命が半分に減少するといわれており、最大動作温度を超えて上昇が続く場合はレーザーダイオードが損傷したり、長期的なパフォーマンスが低下したりする可能性が大きくなっていくことが分かっています。したがって、発熱による影響を極力避けるため、製品内部の熱を外へ逃がす目的としてヒートシンク (放射板) を使用することが推奨されます。

参考文献
https://www.fiberlabs.co.jp/tech-explan/about-ld/
https://www.fiberlabs.co.jp/tech-explan/about-led/
https://www.rohm.co.jp/electronics-basics/laser-diodes/ld_what1
https://www.electronics-notes.com/articles/electronic_components/diode/laser-diode-specifications-parameters.php

触覚センサー

触覚センサーとは

触覚センサー (英: Tactile sensor) とは、ヒトの触覚を模したセンサーのことです。

使用されるセンシングデバイスは、接触面の圧力と振動を電気的信号に変えるセンサーであり、このセンサーの働きをヒトの触覚に模倣するために、センサー技術の周辺含め様々な技術的取り組みがなされています。さらに、触覚センサーは温度に対する感受性など複数の情報と統合され、繊細な対象の質感を推定したりする機能を備えるものもあります。

触覚は対象の性質、テクスチャを評価する機能にとどまらず、物を適切な力で掴むため、ペンを握って文字を書いたりするためなど、人の基本動作に重要な役割を果たすことから、ロボティクス技術の発展に必須です。

触覚センサーの使用用途

触覚センサーは、医療診断やロボットへ活用されたり、産業分野への応用されたりしています。

ただし、昨今ではVR (Virtual Reality:仮想現実) に代表されるゲーム空間やメタバース分野への応用も、Hapticsという触覚技術の総称名で多いに期待されています。

1. 触覚センサーの医療への応用

触覚センサーの医療への応用

対象の硬さを評価できることから、乳がんや前立腺がんに由来する「しこり」の存在を感度よく捉えることが可能で、がんの早期発見に貢献しています。また、表面の粗さに起因するざらつきを評価することで、皮膚炎や乾皮症などの定量評価に用いられます。

2. 触覚センサーのロボティクスへの応用

触覚センサーのロボティクスへの応用

ロボティクスでは、指に擬したセンサー開発によりロボットハンド用センサーとして、握力調整のための情報を提供します。

3. 触覚センサーの産業分野への応用

産業においては製品のテクスチャをモニタリングすることで、品質管理に役立てることができます。

4. VR向けのHaptics

VR (Virtual Reality:仮想現実) の世界では、3D向けのゴーグルなどは既に商品化されていますが、このVRにスーツやグローブを装着し、触覚センサーを搭載することで、VRの世界においてより現実感あふれる世界を再現するためのアプリケーション応用が取り組まれています。

触覚センサーの原理

触覚センサーは、物体への接触力を電気量に変換するための様々な物理現象を活用しており、変換デバイス (センサー:素子) を中心に構成されています。これらの電気信号は、信号・情報処理回路を介して解析されます。このセンサーには、原理的に様々な検出様式が採用可能です。

例えば、導電性で挟まれた空間の圧力を加えたことによる変化に伴う静電容量を検知する方法があります。用途にもよりますが、一般的にはセンサー素子として圧電セラミックス素子 (PZT:ジルコン酸チタン酸鉛) が利用されているケースが多いです。圧電セラミックス素子はピエゾ素子とも呼ばれて、圧力を加えることによって電圧変化を生じます。これを圧電効果と呼びます。

ピエゾ素子の固体結晶内のイオンの配置が、圧力を掛けることにより変化することで、結晶の一端がプラスの電気を帯び、もう片方がマイナスの電気を帯びるという、電気分極という現象が起こります。圧力の情報や振動の周波数情報が圧電素子によって電気信号に変換されることで、ASICなどで構成されるアナログ・デジタル各々の処理回路を介して触覚の情報へと変換が可能です。

また、光学的な原理としては、センサー内部の光導波路の散乱光の変化を検出することにより、センサー表面での物体の接触位置を捉えられます。

触覚センサーのその他情報

1. 触覚センサーの市場

触覚センサーの市場規模は、2019年の82億490万$から、2025年までに160億8380万$へ達すると予測されています。

触覚センサーは、⼈と共同で働くことができるロボットの発展を⽀える重要な要素の⼀つです。実例を挙げると、アメリカのMITで開発が進められているRoCycleというロボットでは、材質を識別する触覚センサーをロボットハンドに内蔵し、紙やプラスチック、⾦属を認識して分別することができるように研究が進められています。

韓国の浦項⼯科⼤学校では、ナノスプリングなどを⽤いて、微細な圧⼒や振動を感じ取ることができる⼈⼯指紋センサの開発が進められています。開発の成果として、触覚センサーで得た情報を機械学習で解析し、99.8%の精度で8種類の繊維の区別に成功したと発表しました。触覚センサーの精度が向上することによって、ロボット産業を中心にこれから益々需要が見込まれます。

2. MEMS触覚センサー

MEMS (Micro Electro Mechanical Systems) とは、センサー、電子回路などを、微細加工技術によって基板上に集積化したデバイスのことです。

近年では、MEMS技術を用いた超高感度の触覚センサーが注目されています。

  • 香川大学高尾研究室での研究結果はこちら

3. Haptics分野への展開

VRの世界だけでなく、Hapticsは様々な身近な分野にもその応用が広がっています。例えば、スマートフォンの画面のホームボタンや電気自動車のインパネのナビゲーションシステム、電子認証のためのタッチペン、PCのキーボードなどです。

これらの分野では、いかに小型軽量で薄く、臨場感に溢れた触覚センサーを実現できるかが、触覚技術の観点では重要になります。そのため、最先端のMEMS技術や、圧電デバイス技術、アプリケーションソフトウェアの開発に、各メーカーはしのぎを削っています。

参考文献
https://www.jp.tdk.com/tech-mag/knowledge/089
https://www.kagawa-u.ac.jp/ccip/images/2-02/EN-11-022.pdf
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjws/75/4/75_4_230/_pdf
http://www.cmctd.co.jp/tech/sensor/sensor.html
https://www.aeonbank.co.jp/investment/report/pdf/2019090502.pdf

FFTアナライザ

FFTアナライザとは

FTT (Fast Fourier Transform) アナライザとは、高速フーリエ変換を (FFT) 行う解析機器です。

機械や建物にはさまざまな振動が発生しますが、FFTアナライザを使うことによって、振動の発生原因や低減策を見つけることが可能になります。FFTと類似した計測機器にスペクトラムアナライザやメモリレコーダがありますが、FFTアナライザは主に低周波信号の周波数成分を観察するときに用いられます。

FFTアナライザの使用用途

FFTアナライザの主な使用用途は、機械や設備、建造物の振動解析です。測定対象物に加速度ピックアップを固着し、電気信号に変換してFFTアナライザへ入力し、演算処理をして周波数成分を解析します。

機械や建造物が発する振動、および共振周波数を確認し、疲労故障が発生しないように構造物を補強したり、振動を抑制したりすることも可能です。また、モータの回転ムラの検出も用途の1つです。モータが回転する際の振動をFFT解析すると、振動の発生要因、例えば「モータの回転軸 (ロータ) が振動しているのか」「歯車やベアリングが振動しているのか」など、振動の発生源が明らかになります。

そのほか、音声解析にもFFTが活用されています。人や楽器が発する音の領域を確認したり、騒音を周波数分析してどのような場所、設備から発しているかを確認します。この場合は、マイクロフォンを用いて音声をアンプに通し、信号変換および増幅をしてFFT解析を行います。

最近では、事務機や家電製品などの開発領域も、FFTが活用される分野です。例えば、製品の静音性の評価や、騒音原因及びその対策方法の検討に使用されます。低周波信号に対するノイズ源特定にも用いられることから、周波数信号を扱う製品のノイズ対策にも利用・応用されます。

FFTアナライザの原理

高速フーリエ変換 (FFT) は、フランスの数学者Fourierが提唱したフーリエ級数の理論を基にしています。フーリエ級数の理論とは、どんな複雑な波形でも周期性を持っているのであれば、単純な正弦波 (sin波) 、余弦波 (con波) の級数で表現することができるという理論で、この級数の考え方を拡張したのが、フーリエ変換です。

一般的に、実際に測定しようとする信号は、どこまで測定すれば、周期性があるかは不明です。そこで、フーリエ変換では、観測される波形から適当な時間分を切り取り、切り取った波形が無限に繰り返される信号と仮定します。フーリエ変換黎明期には、フーリエ変換の計算には膨大な回数の掛け算が必要でした。

しかし、J.W.TurkeyとJ.W.Cooleyによって、データ数を2のn乗回取ることによって、計算回数を少なくする方法が提案されました。例えば、データ数を1024とすると、1024×1024=1,048,576回の計算が、10,240回に短縮されます。この方法を高速フーリエ変換 (FFT) と呼び、FFTはその頭文字を取ったものです。

一般的な波形は、振幅と周波数 (または周期) と位相 (時間差) の3つのパラメータで表すことができます。この原理にFFTを適用し、FFTアナライザを用いることによって、時間を横軸とした入力波形信号が、横軸を周波数、縦軸はそれぞれの周波数における波形の振幅を表すグラフへと変換されます。

FFTアナライザのその他情報

1. FFTアナライザとスペクトラムアナライザの違い

FFTアナライザとスペクトラムアナライザの違いは、まず扱える周波数の領域が異なることです。FFTアナライザは、DC~100kHzまでの低周波信号を扱います。一方、スペクトラムアナライザが扱うのは、周波数レンジが10kHz~10GHzと非常に広い領域です。

最近の機種だと、DC~50GHzまで対応できるものもあります。また、使い方の違いとしては、FFTアナライザはどのような周波数成分を持つかわからない場合に使用するのに対して、スペクトラムアナライザは、既知の高周波信号 (携帯電話やWiFi発信機) の周波数成分分析に使用する装置です。

さらに、装置の構造から両者の違いを見ると、従来スペクトラムアナライザはアナログ回路で構成されていたのに対して、FFTアナライザではADコンバータによって、得られた波形をデジタル化した後に、高速フーリエ変換処理を行い、周波数の強度分布を算出しています。

参考文献
https://www.onosokki.co.jp/HP-WK/c_support/newreport/analyzer/FFT1/fft_1.htm#mark1
https://www.techeyesonline.com/tech-column/detail/Reference-FFTAnalyzer-01/?page=3

測長器

測長機とは

測長機

測長機とは、その名の通り長さを測る機器です。

現在では、光の速さを基準にして、単位時間で光が進む距離で長さを定義します。長さの測り方は、直接法と間接法に区別されます。

  • 直接法
    一般的によく使われる物差し、巻き尺、ノギス、マイクロメータなどを使用し、標準の長さやスケール、目盛りと比べて長さを測る方法です。
  • 間接法
    長さと関係のある他の物理量を用いたり、電気的、光学的な手法を用いたりして長さを測る方法です。

多くの場合は直接法で長さを計測できますが、長大な構造物や、ミクロンオーダーの微細な対象物である場合は、標準の長さ (スケール) を用意することが困難なため、間接法が用いられるケースがあります。また、形が複雑だったり、手が届かない場合、あるいは接触することが許されない対象物の場合も、間接法が用いられます。

測長機の使用用途

測長機は様々な分野で使用されていますが、用途に合わせて最適なものを選ぶ必要があります。

  • 数mm~数十mmで手のひらや卓上に乗る程度の大きさのもの: 定規やノギス
  • 数百mm~数mでやや大きく長いもの: 巻き尺等
  • 仕上がり精度がμオーダーで、出来映えを顕微鏡で観察するようなもの: マイクロメータ
  • 野外での数m~数十mの距離: 光学的な手法 (三角測量、レーザー測長計)
  • レンズや半導体ウェハなど精密工業製品の微細な凹凸測定: レーザー干渉計

さらに、光や触針ではアクセスできない対象内部の測定には、X線CTなどの技術が計測に応用されています。また、ナノテク産業ではナノメートルレベルの測定が必要であるため、走査型電子顕微鏡が応用された方法で計測されます。手軽な用途として、最近ではスマートフォンのカメラから測長するアプリが開発されるなど、画像解析による測長法も開発が進んでいます。

測長機の原理

1mの定義は、「1秒の1/299,792,458の時間に、光が真空中を進む長さ」です。これに基づいたメートル原器が長さの基準となっています。原理的には直接法はこのメートル原器との比較です。

長さの定義に基づいた測定原理としては、光の飛行時間 (time of flight: ToF) を計測する方法があります。光が非常に速いことから、高度なエレクトロニクス技術が必要とされます。現在多くのレーザー型の機器 (ToF) では、強度変調された入射光と反射光の位相差にもとづいた測定法が一般的に採用されています。

定義では真空中の光の挙動となっているため、実際には空気の屈折率による補正が必要です。レーザー干渉計では、レーザー光同士の干渉現象を利用した計測法を採用しています。

同じレーザー照射に対する参照面からの反射光と、測定面からの反射光を干渉させると生じる干渉縞を解析することで、測定面の参照面からの距離をnmオーダーで測定することができます。いくつか測長器を例示しましたが、手法は非常に多いです。

測長機のその他情報

1. 測長機の使い方

多くの測長機で採用されている横型測長機は、ベッドと、ベッド上を移動する標準尺を内蔵した往復台,標準尺を観測する測微顕微鏡,被検体を一定の測定力のもとにおく測定面、および被測定物を支持する測定台から構成されています。この横型測長器には、アッベの原理を満足する構造と、エッペンシュタインの原理を満足する構造とが知られています。

アッベの原理を満足する構造を有する横型測長機においては、ベッドの非真直性に基づく往復台の測定軸線からの角偏差による測定誤差を無視できるように、被検体の測定軸線と標準尺の目盛面とを同一直線上に配置することにより測定が行われます。

一方、エッペンシュタインの原理を満足する構造を有する横型測長機においては、ベッドの非真直性に基づく測定誤差を取り除くために、被検体の測定軸線と標準尺とが離れているときのその距離と標準尺用の対物レンズの焦点距離とを等しくなるように構成し、レンズの焦点面を標準尺上に光学的に配置することにより測定が行われます。

2. レーザー測長機

レーザー測長機は被検体にレーザー光を照射し、その反射光を利用して被検体の距離を測定します。レーザー測長機は、測定する距離に応じて「変位センサー」「距離センサ」と称します。

  • 変位センサー
    近距離 (数十mm~数百mm) の範囲をミクロン単位で測定する測長機です。
  • 距離センサ
    長距離 (数mm~数m) の範囲をミリ単位で測定する測長機です。

上記測長機における測定方法としては、「三角測距方式」と「タイム・オブ・フライト方式 (time of flight: ToF) 」が知られています。

三角測距方式
反射光をもとに三角測量の原理で測定する測定方法であり、測長機は発光素子と受光素子とにより構成されています。発光素子には半導体レーザーが使用されます。測定方法は、半導体レーザーから投光レンズを介して集光されたレーザー光が被検体に照射されます。被検体に照射されたレーザー光の拡散反射の一部は、受光レンズを介して受光素子上にスポット像を結びます。結像したスポットの位置を検出、演算することで被検体までの変位量が測定可能です。

なお、受光素子にCMOS (Complementary Metal Oxide Semi-conductor: 相補型金属酸化膜半導体) を使用しているものをCMOS方式、受光素子にCCD (Charge Coupled Device: 電荷結合素子) を使用しているものをCCD方式と称しています。

タイム オブ フライト方式 (time of flight: ToF)
照射光が被検体で反射して受光部で受光するまでの時間を計測することにより、距離を測定する方法です。この方式には、投光波長と受光波長との間に生じる位相差を利用する「位相差距離方式」と、一定のパルス幅をもったレーザーを投射する「パルス伝播方式」が知られています。

参考文献
https://www.keyence.co.jp/ss/3dprofiler/keijou/3d/laser/

ネットワークアナライザ

ネットワークアナライザとは

ネットワークアナライザ

ネットワークアナライザ (英語:Network analyzer) とは、被試験対象 (DUT; device under test) の回路網の特性を評価する装置のことです。

具体的にはDUTへの入力信号の減衰やインピーダンスを測定することが可能です。特に電子部品などの高周波特性を評価できるため、伝送デバイスをはじめ広い応用範囲があります。

ネットワークアナライザのアウトプットはSパラメータ (scattering parameter) によってあらわされます。Sパラメータで定義された物理量は順方向の反射 (S11) 、順方向の伝送 (S21) 、逆方向の伝送 (S12) 、および逆方向の反射 (S22) です。

ネットワークアナライザの使用用途

ネットワークアナライザはスカラネットワークアナライザとベクトルネットワークアナライザ (VNA) に大別され、そのうち振幅情報だけでなく位相情報まで得られるベクトルネットワークアナライザ (VNA) は使用用途範囲が広いです。

ネットワークアナライザの利点である高周波への応用を用いて、高周波増幅器の整合回路の開発などに利用されています。ここでは、増幅器、アンテナ、フィルタそれぞれの正確なSパラメータをもとに設計が行われます。

高周波を扱う回路網において、各デバイスやケーブルなどの伝送路におけるインピーダンスの不整合は電力のロスや信号歪の原因になることから、インピーダンスマッチングの評価にも利用されるケースが多いです。

ネットワークアナライザの原理

ネットワークアナライザには信号源と信号分離器、方向性結合器及び、最低3つの受信部が備えられています。

  • 信号源
    信号源はシステムに信号を供給する役割を持ち、シンセサイによって供給されます。
  • 信号分離器
    信号分離器には抵抗器によるスプリッタが利用され、入力信号は回路信号と受信機へ分岐します (基準信号R) 。
  • 方向性結合器 (directivity coupler)
    方向性結合器では入力波と反射波が分離され、反射波は受信機で測定されます( 基準信号A) 。

DUTのアウトプットは3つ目の受信機で測定されます (伝送信号B) 。信号の比較により評価が行われ、例えばS11はA/Rで、S21はB/Rで定義されます。

また、ネットワークアナライザの高精度測定は、正確な校正によって担保されます。校正にはあらかじめ特性が分かっている標準機を用います。一般的に利用されている校正法はSOLT法と呼ばれる短絡 (short) 、開放 (open) 、整合負荷 (load) が可能な標準器と、基準面を結合した直結 (thru) における測定により校正する方法です。

非常に精密な測定を行うため、コネクタ締め付けのトルクや環境温度、入力信号やケーブルの安定化など様々な観点から測定誤差を生まないよう留意します。

ネットワークアナライザのその他情報

1. ネットワークアナライザの基礎知識

ネットワークアナライザは日本語で回路網解析器と言います。そして、ネットワークアナライザには、ベクトルネットワークアナライザ (VNA) とスカラネットワークアナライザがあり、昨今ではベクトルネットワークアナライザが多く利用されています。

ネットワークアナライザにはSパラメータという伝送や反射測定における振幅の変化を測定する方法がありますが、SパラメータはS行列とも呼ばれ、定義として番号の付け方が存在しています。番号の付け方は「Sij i=出力ポート、j=入力ポート」となっており、S11ならポート1に入射した信号がポート1に伝送される信号の測定を表しています。S12ならばポート2から入射した信号がポート1に伝送される測定を意味します。

Sパラメータの測定にはVNA測定器を利用することで測定が可能です。しかし、VNAは測定前にいくつかの校正方法を利用して校正を行う必要があります。

VNAの校正は標準機を3個使用しておこなう方法が基本的な方法です。校正方法として広く知られている方法は、先に述べたSOLT校正法やUnKnown Thru校正法、TRL校正法などがあります。

2. インピーダンス測定について

インピーダンスとは電子回路や電子部品、電子材料の特性評価に使用する重要なパラメータであり、一部の周波数で回路などに流れる交流電流を妨げる量です。インピーダンス測定方法には種類が様々あり、それぞれがメリットやデメリットを持ち合わせています。

測定に必要な周波数の範囲やインピーダンスの測定範囲の測定条件を考慮して測定方法を選択しなければなりません。測定方法にはブリッジ法や共振法、I-V法、ネットワーク解析法、時間領域ネットワーク解析法、自動平衡ブリッジ法などがあります。

例としてブリッジ法を解説します。ブリッジ法のメリットは高確度であること (0.1%程度) や複数の測定器で広い周波数範囲をカバーできる上、安価に測定できる点が挙げられます。一方でデメリットとしては、バランスの操作が必要で一台では狭い周波数の範囲しかカバーできない点です。ブリッジ法の測定周波数範囲はDCでおおよそ300MHzまでです。

3. 周波数拡張の動向

ネットワークアナライザの最大周波数の拡張は、現在サブテラヘルツ帯 (220GHz) にまで及んでいます。これは次世代の通信規格である6GがD-bandと呼ばれる140GHz帯が用いられる可能性が高いと予測されているからです。

ただし、サブテラヘルツ帯ともなると、その高い周波数故、電気長誤差や寄生素子の影響を受けやすくなり、RFプローブやケーブル含めたトータルのキャリブレーションの精度が極めて重要です。

現実には1回でキャリブレーション可能な周波数範囲も限られていることが多く、キャリブレーション間の繋ぎのデータの扱いや、ミリ波帯専用の周波数エクステンダーの追加等含め、使いやすい測定器を目指して各メーカーが開発競争にしのぎを削っています。

4. 変調パワー評価機能等の追加

ネットワークアナライザは、DUTのインピーダンス評価やSパラメータという小信号を扱う評価が一般的な測定器ですが、昨今変調解析や大信号評価と小信号評価解析がセットで行われることも多いため、ネットワークアナライザにて従来のスぺクトラムアナライザで主に取り扱う変調解析を実施可能にした機種も徐々にリリースされている状況です。

今後は、ネットワークアナライザは単にインピーダンスやSパラメータ評価だけにとどまらず、スイッチやフィルタ、高周波 (RF) の増幅器やLNA (ローノイズアンプ) 他の各種RFフロントエンドの評価のために、大信号解析や変調解析含め様々な用途に活用されるでしょう。

参考文献
https://www.jemima.or.jp/tech/3-09-01.html
https://go.orixrentec.jp/rentecinsight/measure/article-31
https://www.jstage.jst.go.jp/article/bplus/2010/14/2010_14_14_60/_pdf
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https://ejje.weblio.jp/content/NETWORK+ANALYZER
https://jp.mathworks.com/discovery/s-parameter.html
https://www.jstage.jst.go.jp/result/global/-char/ja?globalSearchKey=%E5%91%A8%E6%B3%A2%E6%95%B0%E9%A0%98%E5%9F%9F%E3%81%AE%E4%BF%A1%E5%8F%B7%E8%A8%88%E6%B8%AC%E6%8A%80%E8%A1%93
https://www.jemima.or.jp/tech/3-09-01.html
https://home.hiroshima-u.ac.jp/amakawa/S-parameter-j.html
https://kobaweb.ei.st.gunma-u.ac.jp/lecture/lecture.html
https://kobaweb.ei.st.gunma-u.ac.jp/
https://www.jstage.jst.go.jp/article/oubutsu1932/70/11/70_11_1340/_article/-char/ja

高圧電源ユニット

高圧電源ユニットとは

高圧電源ユニット

高圧電源ユニットとは、電源装置の中で特に高電圧を扱う装置のことです。

高電圧とは、一般的に数千V (ボルト: 電圧の単位) から数万V以上の電圧を指しており、電力会社が送電する電圧は6.6kV以上ですが、電気設備技術基準の定義では交流600V (直流750V) 以上の電圧を高電圧と定義しています。

私達が日常生活で使用している電化製品は、AC100V又は200Vと電圧は低いです。これは、電力会社の発電設備から各家庭に送電されている電源電圧がAC100Vか200Vを標準としていることが理由として挙げられます。

一般的な電源ユニットはAC100Vや200Vですが、使用条件によっては高電圧を発生させたい機器もあります。具体的には、電源電圧以上の高電圧が必要である機器や高電圧に対する耐性試験を行うための機器です。この要求をクリアさせるためには、一般ユーザーが使用する電源電圧以上の高電圧を発生させる変換器が必要になります。このような時に、使用されるのが高圧電源ユニットです。

高圧電源ユニットの使用用途

高圧電源ユニットの使用用途は、主に高電圧が必要な製品の動作や、耐圧試験などに用いられます。

高電圧が必要な機器として、自動車の車体や建築材などの塗装に用いる機器や、金属、プラスチックなどの表面処理に用いる機器、放射線治療やレントゲンに用いられるX線放射装置や、電子顕微鏡などが挙げられます。

耐圧試験は、電線など産業用電気機器に対して行われます。電化製品などは、電気用品安全法 (通称:電安法) と呼ばれる国内電気関連の安全性を担保するための法律によって、製品出荷時に1500Vを1分間または1800V1秒と言った製品耐圧試験や絶縁耐圧の実施が義務化されています。そのため、高圧電源ユニット設備導入は必須です。また、高電圧・特別高電圧電気取扱者資格取得獲得のための実習などにも用いられています。

高圧電源ユニットの原理

高圧電源ユニットは末端に送電される一般的な交流電源を入力して、これを高電圧として出力するコンバータとなっています。コンバータとは、電力会社から送電される交流電源電圧を整流器と呼ばれるダイオードを使った回路で直流電圧にして、電解コンデンサで電圧を平滑させる装置 (ユニット) のことです。

ただし、単純にコンバータユニットを使うだけでは、100Vや200Vであるため、低い電圧のまま平滑された直流電圧が出力されるだけで、本来欲しかったその10倍や100倍以上の高電圧が得られません。単純に昇圧トランスの巻き数比によって昇圧することは可能ですが、巻き数比は現実的には限界があります。

高電圧を得るために、ダイオードとコンデンサを組み合わせたコッククロフト・ウォルトン回路が用いられています。コンデンサによる蓄電能力とダイオードの整流作用を用いた方法です。交流の一方向の入力に対してコンデンサが蓄電された後、逆向きの電流が流れたときに昇圧されるという仕組みです。

この回路方式は、先に説明した整流器を使った回路を重ねて使うことで電圧を上げていく方法として一般的に用いられており、技術関係者の間では倍電圧回路または高電圧発生回路などとも呼ばれています。電圧の上昇は偶数倍加であるため、奇数倍の昇圧はできません。適切な高圧ダイオードとセラミックコンデンサの組み合わせにより、1kV以上の高電圧を得ることが可能です。

高圧電源ユニットのその他情報

1. 高圧電源モジュール

高圧電源モジュールは、概ね1kV以上を発生する高電圧を供給することが可能な高圧対応型の電源ユニットです。

その中でも特に、低ノイズと信頼性を確保しながら高効率化によるダウンサイジングを実現化した技術力に定評のある電源ユニットメーカーが、その物量と使いやすさの向上により廉価を達成し、汎用品としてモジュール化した高電圧出力型の電源モジュールです。

高圧電源モジュールの主なメーカー及び製品としては、ベルニクス製OHVシリーズ他、アメリカンハイボルテージ製TCRシリーズ他、松定プレシジョン製HGPシリーズ他、ゼネラル物産HitekPower、高砂製作所TMK形シリーズ、浜松ホトニクス製C14051シリーズ等があり、元々の高電圧に加えて、出力電流も増加すればする程、そのモジュールのサイズは大きくなるため、実際に使用する負荷の使用に応じて、その余裕度と温度上昇および絶縁耐圧の確保に注意しながら選定する必要があります。

2. 高圧電源の基板

高圧電源の基板については、高電圧であるが故に、その高電圧回路に使用されている基板の注意点があります。それは、電圧が高くなればなるほど、基板の絶縁距離が十分に確保されることが規格として求められているためです。高電圧は、エネルギーが大きいため、作業中に重篤な感電災害を起こす可能性が大きくなり、その安全を担保するため、基板の沿面距離や絶縁距離や安全アースの設置と言った耐電圧や感電に対する安全処置を施さなければなりません。

実際には、国内であれば電気用品安全法 (通称: 電安法) であり、国外であれば、IEC規格を代表として、それに準拠した各国ごとの規格に基づいた基板上にある導電する銅箔パターン間絶縁距離を確保した基板パターン設計が絶対必要になります。これが順守されない場合、法律違反として罰金などの処罰の対象になり、また処罰を受けるだけでなく、社会的な信用そのものが失墜する可能性も有り得るため、高圧型の電源基板に関しては、特にその基板パターンの絶縁距離が、確実に規格をクリアしていることが非常に重要な確認ポイントになり、メーカー側もユーザー側も共に十分注意が必要です。

参考文献
https://www.yamabishi.co.jp/guide/yh/select.html#sp_pageTit
https://www.matsusada.co.jp/column/words-psel.html
https://www.matsusada.co.jp/column/words-hvpsel.htmlhttps://www.hamamatsu.com/resources/pdf/etd/High_Voltage_Power_Supply_TACC0005J.pdf
https://www.matsusada.co.jp/product/psel/hvps2/
https://www.matsusada.co.jp/column/words-hvpsel.html

蛍光顕微鏡

蛍光顕微鏡とは

蛍光顕微鏡

蛍光顕微鏡( 英語:Fluorescence Microscope )は、レーザー光、超高圧水銀灯やキセノンランプを光源として用い、対象物中の蛍光物質の蛍光を観察する装置です。通常の光学顕微鏡では、ハロゲンランプなどの可視光線を光源として対象物に照射し反射光や透過光を観察します。

蛍光顕微鏡は顕微鏡の一種であり、蛍光を発する物質で標識された生体組織・細胞などを主な対象としています。顕微鏡の分解能は用いる光の波長に依存するため、波長の短い光を用いる蛍光顕微鏡では空間分解能や時間分解能が優れていることが特長です。

そのため、高い定量性のある情報が取得できます。蛍光顕微鏡は共焦点レーザー顕微鏡や多光子顕微鏡など高機能化が進んでおり、ますます重要性が高まっています。

蛍光顕微鏡の使用用途

蛍光顕微鏡は主にバイオイメージングに用いられます。具体的な対象は細胞や組織であり、生きたまま観察することも可能です。対象を蛍光で標識するためには、以下のような技術が組み合わせて用いられます。

  • 遺伝子組み換えなどにより、特定のタンパク質を蛍光標識する技術
  • 蛍光標識された化学物質を用いて、核酸などを標識する技術
  • 蛍光を発するタンパク質を特定の細胞に発現させる技術

これら技術により、標的タンパク質や発現遺伝子の局在などが観察できます。また、特定の物質に反応して蛍光を発する薬剤やタンパク質が開発されており、神経の活動や細胞内の物質動態の可視化が可能です。

近年、CRISPR技術の登場により遺伝子組み換え生物の創出が格段に容易になり、その応用範囲が急速に広まっています。

蛍光顕微鏡の原理

蛍光顕微鏡は蛍光を観察する装置です。蛍光は、蛍光物質が特定の光をエネルギーとして吸収し(励起光)、再びエネルギーを放出する際に発せられます。

励起光の照射により速やかな発光が起こります。蛍光の波長は励起光の波長よりも長く、これらの波長は蛍光物質により異なります。蛍光顕微鏡は特異的な蛍光を観察するために、以下から構成されるフィルターユニットを有しています。

  • 光源から励起光を透過させるフィルター
  • 発した蛍光を透過させるフィルター
  • 蛍光に励起光が干渉しないためのミラー

フィルターユニットを変えたり組み合わせたりすることにより、様々な蛍光物質を同じ標本から観察することが可能です。

蛍光顕微鏡のその他情報

1. 蛍光顕微鏡の分解能

蛍光顕微鏡の原理

図1.蛍光顕微鏡の分解能

顕微鏡の分解能とは、「二つの近接した点を異なる点と見分けることが可能な最小の距離」を意味しています。顕微鏡ではレンズを用いて対象物を拡大し観察しますが、レンズを組み合わせることで原理的には無限に倍率をあげることが可能です。

しかし、光を使用してサンプルを観察する 光学顕微鏡の場合、光の持つ特性である回折が原因で、光の波長のおよそ半分の大きさが分解能の限界となります。これが顕微鏡の分解能の理論的な限界とされていましたが、この限界を打破した技術が開発され、開発者は2014年にノーベル化学賞を受賞しました。

その技術が「超解像顕微鏡法」と呼ばれる手法です。超解像顕微鏡法が開発されるまでは蛍光顕微鏡の分解能の限界はおよそ250nmでしたが、超解像顕微鏡法を用いると、電子顕微鏡にせまる15~100nmまでの高分解能が得られます。超解像顕微鏡では、様々な技術を用いて分解能を制限する要因を回避し、高い分解能を実現しています。

分解能を飛躍的に向上させ、ノーベル化学賞を受賞した超解像顕微鏡法には、「PALM」や「STED」といった手法があります。 「PALM」や「STED」は、特殊な光学系や特殊な色素を利用することにより、蛍光顕微鏡分解能の限界を突破することを実現しました。その他様々な技術を用いた超解像顕微鏡が生み出されており、各社が製品化を行っています。

2. 蛍光顕微鏡のメリット

蛍光顕微鏡で確認できる大きさ

図2. 蛍光顕微鏡で観察できる対象

蛍光顕微鏡のメリットは、分子の挙動や細胞の構造などを視覚情報として詳細に観察できる点です。目的に応じて適切な蛍光顕微鏡を用いることで、時間的・空間的に高い解像度で対象を観察することができます。

複数の色素を利用して対象物を観察することも可能です。例えば、2つの異なるタンパク質を赤色と緑色の蛍光物質で標識し観察した際、黄色を示した部分があれば、これら2つのタンパク質が細胞内の同じ場所に存在する可能性を示します。

目的や用途に応じて様々な蛍光物質や蛍光顕微鏡が開発されており、生命科学研究や臨床研究においてますますその重要性が高まっています。

参考文献

https://www.yodosha.co.jp/yodobook/book/9784897069302/
http://www.nict.go.jp/publication/shuppan/kihou-journal/houkoku66-1_HTML/2020B-03-04.pdf
https://www.keyence.co.jp/ss/products/microscope/beginner/microscope/
https://www.orangescience.co.jp/what-is-fluorescence-microscope

EMC対策部品

EMC対策部品

EMC対策部品とは、信号を扱う電気機器に対するノイズの対策に使う電子部品のことです。

EMCは「electro-magnetic compatibility (電磁環境両立性) 」の略で、「compatibility」は両立性と訳されます。EMCは大きく分けて、EMI (electro-magnetic interference:電磁干渉) と呼ばれる当該機器自身が放出する電磁波ノイズを規制するものと 、EMS (electro-magnetic susceptibility: 電磁的感受性) と呼ばれるもので当該機器自身が受けるノイズにより動作傷害などを起こさないようにするものに分類できます。

国内ではJIS C61000、国際的にはIEC61000などの規格により詳細を定義しているのが一般的です。他方で電気回路などを設計する段階においてノイズの発生度合いや外来ノイズへの耐性を予測することは難しく、製品を試作して動作させてみないとEMIやEMSの具合を伺い知ることができないのが実情です。

一般的な開発プロセスでは、設計→試作→評価→生産という流れの中で、評価の段階で実験的に測定して知り得ることになります。

EMC対策部品の使用用途

EMC対策部品は、当該機器自身が出して周辺機器に悪影響を及ば差ないように規制されたEMIと、外部から当該機器自身がノイズの影響を受けて誤動作を起こさないように規制されたEMSに効果を発揮する用途で使用されます。

EU圏向けではCEマークが付いたもの、国内向けでは概ね電気用品安全法で規制されている◇で囲われるPSEマークが付いた家電製品やOA機器、自動車部品、医療機器などです。我々が日常的に接する機会がある電気製品の大半が対象で、それらの開発途上においてEMC試験により基準を満たなかった場合の対策部品として使用されます。

EMC対策部品の原理

EMC対策部品は大別すると、電気回路上で電気的に対策するもの、電気回路外で電磁的に対策するもの、サージ系のノイズに対策するものの3つに分類できます。

1. 電気回路上での対策部品

電気回路上で短時間で大きな電位の変化が生じると、これが電波となって機器の外部に電波として放出され、この放射されたノイズはEMIとして扱われます。そのため、電気回路設計においては、なるべくこの様な放射ノイズが発生しないように工夫する必要があります。

例えば、スイッチング回路であればスナバ回路を付帯したり、電源回路ならば電源フィルターを付帯したり、信号回路ならばLPF (low pass filter) を付帯したりするのが有効的です。これらの対策部品は、抵抗やコンデンサ、コイル等により構成され、時定数やコンデンサやコイルの周波数特性を組み合わせ特定の周波数帯域に作用します。この周波数帯域をノイズの周波数帯域と併せることで、ノイズに作用させることが可能です。

2. 電気回路外での電磁的な対策部品

電気機器を設計する場面においては、例えばモーターに配線したり、ランプに配線したり、基板間を電線で接続したりするなど、電線を用いる場合が多々存在します。そのような状況で、電気回路では対策しきれず電線上にノイズが乗ってしまうと、電線がアンテナのような作用をしてしまい、ノイズが放射されやすくなる現象が起きやすいです。

このような線路上のノイズを対策するために、磁気的な対策部品としてフェライトコアなどがあります。磁気的な部品は、線路 (電線など) に装着することで、電線自身にインダクタンス特性を発生させ、電波として放射されやすい周波数帯域のノイズを減衰させる作用があります。

3. サージノイズ系の対策部品

EMS規格の中で静電気に対する耐性は、JIS C61000-4-2などで定義されています。人が触った際にその静電気で誤動作しないことなどを定めた物で、製品群により規格は電圧は異なります。しかし、気中放電の最大で言えば15KVもの電圧に耐えるようにしなければなりません。

一般の電子回路は数V~数十Vの電圧で設計されているため、このような大きな電圧が直接印可して回路を誤動作させたり破壊しないようバリスタ、ツェナーダイオード、サージフィルターなどにより電圧の制限を行う素子で静電気に対して対策する必要があります。

EMC対策部品のその他情報

1. EMC対策部品の目的

現在、国内販売向けならPSE認証、EU圏へ輸出する際にはCE認証を取得しなければ、その商品自体を販売できない法律があります。PSEやCEなどの認証を受ける際には、JISやIECの規格で定めるEMCの試験に合格することが必須の条件です。

EMC対策部品は、開発途上の製品をこれらの規格をクリアさせて合法的に製品を販売できるようにすることを目的としています。

2. EMC対策を予期した設計

設計段階において、事前にEMCを全て予見して対策することは非常に困難です。多くの場合では、設計→試作→評価→生産という一連の流れの中で、評価段階でEMCに対する評価を行い、その結果から対策方針を決めていくような流れとなっています。

そのため、設計上で事前に対策する場合は、過去の経験や回路の性質からノイズ源になりそうな箇所をピックアップして、そこにフィルターなどを後付けで追加できるように予め基板設計をしておくと、対策の選択肢を増やすことができます。

3. フェライトコアの活用

EMC (特にEMI) は予見が難しく、かつ評価の段階では開発が進捗した状態であり、試作にも費用を投じた後であるため、大きな設計変更ができない可能性が高いです。

そのような場合に、大きな効果を発揮してくれる可能性を秘めているのがフェライトコアです。フェライトコアに信号線や電源線を通すだけで大きな効果を発揮する場合もありますが、フェライトコアは後付けできるタイプも多く、開発途上の機器に大きな変更を加えず対策できるという利点があります。