触覚センサー

触覚センサーとは

触覚センサー (英: Tactile sensor) とは、ヒトの触覚を模したセンサーのことです。

使用されるセンシングデバイスは、接触面の圧力と振動を電気的信号に変えるセンサーであり、このセンサーの働きをヒトの触覚に模倣するために、センサー技術の周辺含め様々な技術的取り組みがなされています。さらに、触覚センサーは温度に対する感受性など複数の情報と統合され、繊細な対象の質感を推定したりする機能を備えるものもあります。

触覚は対象の性質、テクスチャを評価する機能にとどまらず、物を適切な力で掴むため、ペンを握って文字を書いたりするためなど、人の基本動作に重要な役割を果たすことから、ロボティクス技術の発展に必須です。

触覚センサーの使用用途

触覚センサーは、医療診断やロボットへ活用されたり、産業分野への応用されたりしています。

ただし、昨今ではVR (Virtual Reality:仮想現実) に代表されるゲーム空間やメタバース分野への応用も、Hapticsという触覚技術の総称名で多いに期待されています。

1. 触覚センサーの医療への応用

触覚センサーの医療への応用

対象の硬さを評価できることから、乳がんや前立腺がんに由来する「しこり」の存在を感度よく捉えることが可能で、がんの早期発見に貢献しています。また、表面の粗さに起因するざらつきを評価することで、皮膚炎や乾皮症などの定量評価に用いられます。

2. 触覚センサーのロボティクスへの応用

触覚センサーのロボティクスへの応用

ロボティクスでは、指に擬したセンサー開発によりロボットハンド用センサーとして、握力調整のための情報を提供します。

3. 触覚センサーの産業分野への応用

産業においては製品のテクスチャをモニタリングすることで、品質管理に役立てることができます。

4. VR向けのHaptics

VR (Virtual Reality:仮想現実) の世界では、3D向けのゴーグルなどは既に商品化されていますが、このVRにスーツやグローブを装着し、触覚センサーを搭載することで、VRの世界においてより現実感あふれる世界を再現するためのアプリケーション応用が取り組まれています。

触覚センサーの原理

触覚センサーは、物体への接触力を電気量に変換するための様々な物理現象を活用しており、変換デバイス (センサー:素子) を中心に構成されています。これらの電気信号は、信号・情報処理回路を介して解析されます。このセンサーには、原理的に様々な検出様式が採用可能です。

例えば、導電性で挟まれた空間の圧力を加えたことによる変化に伴う静電容量を検知する方法があります。用途にもよりますが、一般的にはセンサー素子として圧電セラミックス素子 (PZT:ジルコン酸チタン酸鉛) が利用されているケースが多いです。圧電セラミックス素子はピエゾ素子とも呼ばれて、圧力を加えることによって電圧変化を生じます。これを圧電効果と呼びます。

ピエゾ素子の固体結晶内のイオンの配置が、圧力を掛けることにより変化することで、結晶の一端がプラスの電気を帯び、もう片方がマイナスの電気を帯びるという、電気分極という現象が起こります。圧力の情報や振動の周波数情報が圧電素子によって電気信号に変換されることで、ASICなどで構成されるアナログ・デジタル各々の処理回路を介して触覚の情報へと変換が可能です。

また、光学的な原理としては、センサー内部の光導波路の散乱光の変化を検出することにより、センサー表面での物体の接触位置を捉えられます。

触覚センサーのその他情報

1. 触覚センサーの市場

触覚センサーの市場規模は、2019年の82億490万$から、2025年までに160億8380万$へ達すると予測されています。

触覚センサーは、⼈と共同で働くことができるロボットの発展を⽀える重要な要素の⼀つです。実例を挙げると、アメリカのMITで開発が進められているRoCycleというロボットでは、材質を識別する触覚センサーをロボットハンドに内蔵し、紙やプラスチック、⾦属を認識して分別することができるように研究が進められています。

韓国の浦項⼯科⼤学校では、ナノスプリングなどを⽤いて、微細な圧⼒や振動を感じ取ることができる⼈⼯指紋センサの開発が進められています。開発の成果として、触覚センサーで得た情報を機械学習で解析し、99.8%の精度で8種類の繊維の区別に成功したと発表しました。触覚センサーの精度が向上することによって、ロボット産業を中心にこれから益々需要が見込まれます。

2. MEMS触覚センサー

MEMS (Micro Electro Mechanical Systems) とは、センサー、電子回路などを、微細加工技術によって基板上に集積化したデバイスのことです。

近年では、MEMS技術を用いた超高感度の触覚センサーが注目されています。

  • 香川大学高尾研究室での研究結果はこちら

3. Haptics分野への展開

VRの世界だけでなく、Hapticsは様々な身近な分野にもその応用が広がっています。例えば、スマートフォンの画面のホームボタンや電気自動車のインパネのナビゲーションシステム、電子認証のためのタッチペン、PCのキーボードなどです。

これらの分野では、いかに小型軽量で薄く、臨場感に溢れた触覚センサーを実現できるかが、触覚技術の観点では重要になります。そのため、最先端のMEMS技術や、圧電デバイス技術、アプリケーションソフトウェアの開発に、各メーカーはしのぎを削っています。

参考文献
https://www.jp.tdk.com/tech-mag/knowledge/089
https://www.kagawa-u.ac.jp/ccip/images/2-02/EN-11-022.pdf
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjws/75/4/75_4_230/_pdf
http://www.cmctd.co.jp/tech/sensor/sensor.html
https://www.aeonbank.co.jp/investment/report/pdf/2019090502.pdf

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