反射防止膜

反射防止膜とは

反射防止膜

反射防止膜とは、ガラスやディスプレイ表面に成形され、光の表面反射や映り込みを低減するための光学薄膜です。

ARコート (アンチリフレクションコート) と呼ばれることもあり、基本的にはコーティングの一種です。製品にもよりますが、反射率を0.5%~2%程度に抑えることができます。層間における屈折率の差を利用して光の干渉を起こし、反射光を弱め合うことで反射率を低減することができるという仕組みです。反射防止膜の中には、微粒子を添加して、光を散乱させるタイプのものもあります。

一方、コーティングではない反射防止フィルムはベースとなるフィルムの上に高分子の膜を積層した構造をしています。家庭用として市販もされており、テレビ、PCモニターやスマートフォンのディスプレイ表面に貼り付けて使用することができます。

反射防止膜の使用用途

反射防止膜は一般的に、基材、ハードコート層などの上に塗布して形成されるコーティングの一種です。表面反射を抑える効果に加えて、ホコリや汚れの付着を抑制する、ディスプレイを保護するなどの効果も期待され、使用されます。コーティングされる素材には下記が挙げられます。

  • ガラス
  • アクリル樹脂 (PMMA)
  • ポリカーボネート樹脂 (PC)
  • ポリエチレンテレフタレート (PET)

使用される製品としては、次のような製品が挙げられます。

  • ガラス板
  • 液晶パネル
  • 光学レンズ
  • 天体観測用望遠鏡
  • 眼鏡のレンズ
  • モニターやディスプレイ

また、表面反射によるエネルギーロス防止の目的で、太陽熱集熱器や核融合用レーザー装置などの大型機器にも使用が検討されています。

反射防止膜の原理

1. 概要

反射防止膜は、基材の上に単層もしくは複層のコーティング膜が積層した構造をしています。ガラス表面に屈折率の異なる素材の薄膜を施し、光の透過特性を変えて光の反射を抑制する加工技術です。

各層の界面での屈折率が異なるため、干渉がおこりその原理を利用して特定の波長の反射率を低減させています。通常、乾式法 (ドライ) と湿式法 (ウェット) の2つの処理方法のいずれかで製造されています。

2. 反射率特性

反射防止膜は、表面反射光のスペクトルの山部とARコートを通過した裏面反射光の谷部を合わせることで、反射光を打ち消す仕組みです。打ち消したい光の波長λに対してコーティング膜厚がλ/4になるように制御します (2つの光の光路差がλ/2となるようにして波を打ち消すため、往復分でλ/4)。

反射防止膜の反射率は、基材とコーティング材料の屈折率との関係で決定する値です。中心波長 (最も反射が落ちる波長) は、膜厚によって決まり、要求値に合わせて膜構成は設計されます。また、単層よりも2層、3層とすることで反射率は更に抑えられます。

3. 反射防止フィルム

反射防止膜は、ガラスだけでなく、フィルム・樹脂への成膜も可能です。

反射防止フィルムはLR (英語: Low-Reflection) フィルムとAG (英語: Anti-Glare) フィルムに大別されます。LRフィルムは、光の干渉を利用して反射光を低減させることが可能です。高い透過率と高いコントラストを有し、透過光の散乱も少ないので、画像の解像度低下を抑制することができます。AGフィルムは、ハードコート層の中に粒子を入れることで、膜の表面に凹凸を形成するフィルムです。この表面の凹凸が入射光を散乱させると同時に、ハードコート層と粒子の屈折率の差による内部散乱を利用することで、映り込みを抑制することができます。

反射防止膜の種類

反射防止膜には、様々な膜構成の製品があります。コーティング材料に用いられる物質は、屈折率の低い方から順にSiO2、MgF2、Al2O3、TiO2、ZrO2、ITO (In2O3+SnO2) などです。これらは主に、樹脂基材/ガラス基材の別や、必要な屈折率の値に合わせて使い分けられています。

また、これらのコーティング材料は、用途や目的や用途に合わせて、層数が使い分けられています。基本的な構成は、単層、2層、3層の3パターンです。4~7層程度のARコートも一般的に存在していますが、この場合は3層構成を基本として、特性調整のために1層構成部分を2層に分割したり、物性対策用として層を追加している場合が多くなっています。単層の代表例としてはSiO2、MgF2などがあり、複層では、Al2O3+MgF2の2層や、Al2O3+ZrO2+MgF2の3層などが挙げられます。

参考文献
https://www.jstage.jst.go.jp/article/sfj1970/32/8/32_8_421/_pdf
https://www.konicaminolta.jp/about/research/technology_report/2007/pdf/introduce_008.pdf
https://www.toppan.co.jp/electronics/display/anti_reflection_film/

分光光度計

分光光度計とは

分光光度計

分光光度計 (英: Spectrophotometer) とは、光を様々な波長の光に分光し、分光した光を試料に照射し、試料を透過した光と反射した光の波長や量を調べることができる装置の総称です。

分光光度計は汎用性のある分析装置であり、研究開発や品質管理、化学分析など幅広い分野で使用されています。代表的な装置として、真空紫外分光光度計 (VUV) 、紫外可視分光光度計 (UV-Vis) 、赤外分光光度計 (IR) などがあり、それぞれ異なる波長域の光を使用することで様々な情報を得ることができます。

分光光度計の原理

分光光度計では、試料が透過する光や反射する光を検出し、それに応じたスペクトルを得ることができます。これらのスペクトルを解析することにより、試料に関する様々な情報を得ることができます。例えば、ピーク強度から試料の定量分析、スペクトルの波形から定性分析、電子状態、分子構造、材料特性の評価を行うことができます。

装置は主に光源、分光部、試料部、検出器などから構成されています。光源は分析用の光を出す部位であり、紫外領域用の重水素放電管、可視・近赤外域用のタングステンランプの2種が主に使用されています。

分光光度計の原理

図1. 分光光度計の原理

分光器は光源からの光から特定の波長の光を選ぶ働きをするところであり、フィルタ式、プリズム式、回折格子式などがあります。試料部には測定するサンプルの入ったセルが入っており、ガラス製や石英製のセルが主に使用されます。

検出器では試料から透過してきた光を電気信号に変換します。光半導体 (ホトセル) や光電子増倍管 (ホトマル) などの種類があります。

分光光度計の種類

分光光度計では、試料に光を照射し、透過光と反射光の波長や吸収量を調べることができる装置です。装置は照射する光によっていくつか種類があります。ここでは、真空紫外分光光度計、紫外可視分光光度計、赤外分光光度計の3つの分光光度計の概要について記載します。

1. 真空紫外分光光度計 (VUV) 

真空紫外領域 (200nm以下) の光を光源として、物質が透過、反射した光を調べることができる装置です。真空紫外領域の光は酸素分子や窒素分子に吸収されるため、真空状態にして測定する必要があります。材料特性の評価に使用されます。

2. 紫外可視分光光度計 (UV-Vis)

紫外線 (200-380nm) や可視光線 (380-780nm) を光源として、物質が透過、反射した光を調べることができる装置です。試料中の成分の定性、定量分析を行うことができます。

3. 赤外分光光度計(IR)

赤外線を光源として、物質が透過、反射した光を調べることができる装置であり、近赤外線 (780-2500nm) を使用する近赤外分光光度計と中赤外線 (2500-25000nm) を使用する赤外分光光度計の2種類があります。分子の結合や官能基の推定や、成分の定量分析を行うことができます。

また特殊な分光光度計として、試料から散乱されるラマン散乱光を検出し資料の分子構造同定や物性を評価するラマン分光装置や、干渉計を使用することで非分散で全波長の光を同時に検出し、フーリエ変換を行うことで各波長成分の計算を行うフーリエ変換赤外分光光度計 (Fourier Transform Infrared Spectroscopy: FT-IR) などもあります。

分光光度計のその他情報

1. シングルビームとダブルビーム

分光光度計の光学系は、目的に応じて多岐に渡ります。例としてシングルビーム方式とダブルビーム方式について説明します。

シングルビーム (単光束) 方式とは、分光器で分光された単色光 (単一波長の光) が試料に照明され、反射光もしくは透過光を検出器にて検出するタイプの光学系を指します。光学系構成が非常に簡単なため、比較的安価で入手できます。しかし、光源のゆらぎや装置の自己発熱等によるドリフトにより、経時誤差が生じやすい光学系でもあり、簡便な反面、測定誤差が多く精度を要求される測定には不向きです。

これらの欠点を改善したものがダブルビーム(複光束)方式です。ダブルビーム方式は分光器で分光した光をハーフミラー等で試料光と参照光に分波します。試料光は試料に照明され、シングルビーム方式と同様に反射・透過光を検出器にて検出します。一方の参照光は装置に起因するドリフトの補正に用いられます。

参照光と試料光にはどちらも装置起因の誤差を含んでいますので、参照光から得られた信号を、試料光から得られた信号に対して処理を施すことで影響をキャンセルします。

2. 分光光度計の日常管理目安

測定機につきまとう問題として、その精度の維持と担保というものがあります。分光光度計も例に漏れず、この問題に直面することになります。いざ故障が生じてから対策をとっても遅いため、日常点検は欠かせません。

その目安として分光光度計にとって重要な指標をいくつか紹介します。この指標を日常的に管理することで異常の早期発見に繋げることができます。

波長の正確さ
装置が検出した波長と、光源波長との間の誤差を指します。日常的に点検を実施することで光源もしくは検出器の精度を点検可能です。

波長繰り返し精度
同じ波長を繰り返して測定した場合の波長のばらつきを意味します。誤差は分散や標準偏差及び平均値で管理します。

分解能
単色光を測定したときに、バンド幅を評価します。バンド幅の定義は複数ありますが、ここではFWHMで管理することとします。

迷光
装置から得られる目的波長以外の光を指します。迷光を規定しておかなければせっかく得たスペクトルの正しさが不透明となってしまいます。

シリコン樹脂

シリコン樹脂とは

シリコン樹脂シリコン樹脂はケイ素と酸素からなるシロキサン結合(Si-O-Si)を主骨格とした樹脂で、一般にシリコーンとも呼ばれます。側鎖には有機基が導入されており、シリコン樹脂は無機的な性質と有機的な性質両方を示します。また、側鎖の官能基の種類によって様々な物性を示します。
シロキサン結合はプラスチックの主鎖を形成する炭素-炭素結合に比べて結合エネルギーが大きいため、シリコン樹脂は耐熱性、耐候性、電気絶縁性などが一般的なプラスチックに比べて優れます。

シリコン樹脂はシリコンオイル、シリコンゴムに分類され、液状シリコン樹脂の場合、製品として成形する際には射出成形や押出成形などの方法が用いられます。また最近では3Dプリンターによる成形も行われています。

シリコン樹脂の使用用途

シリコン樹脂はケイ素と酸素が繰り返し結合した樹脂です。耐熱性、耐候性、電気絶縁性などの様々な長所を活かして、シリコンオイルまたはシリコンゴムとして使われています。
例えば耐熱性の高いオイルとして熱媒体として使われたり、温度変化の激しい環境での防振油などの工業用途でも使われます。その他、哺乳瓶のゴムや各種パッキン、シャンプーなどにも使用されています。

また、建築分野ではコーティングの劣化を防ぐための保護剤やガスケットなどに使用されています。その他、車両の各種部品にもシリコン樹脂は使われています。

シリコン樹脂の特徴

シリコン樹脂で形成されるケイ素と酸素が連続したシロキサン結合はガラスや石英などの無機物と同じ種類に属します。シロキサン結合は有機物の主要な結合である炭素-炭素結合に比べて結合エネルギーが高く、化学的に安定です。これがシリコン樹脂の耐熱性、耐候性が高い理由の一つです。

シロキサン結合は無機物の性質を示すのに対して、シリコン樹脂は側鎖に炭素などの有機の官能基も有するため、無機と有機両方の性質を示します。また、側鎖にはメチル基、アルコキシ基、アミノ基など様々な有機官能基を導入することが可能で、官能基によって異なる性質を発現させることができます。さらに、側鎖に結合している官能基の数によってもシリコン樹脂の性質は異なり、例えばケイ素に酸素が3つ以上結合したシリコン樹脂は3次元網目状の構造を示し、特に優れた耐熱性、耐候性を示します。
シリコン樹脂 特徴

シリコン樹脂とプラスチックの違い

シリコン樹脂は加工性が高く、加熱によって柔らかくなるなどプラスチックと似た特徴を持っていますが化学的には異なる物質です。シリコン樹脂はケイ素原子を主骨格に多く含むのに対して、エポキシ樹脂のようなプラスチックは主に炭素原子から主鎖骨格を構成しています。

プラスチックの主骨格である炭素-炭素の結合に比べてシリコン樹脂の主骨格のケイ素-酸素結合の結合エネルギーは高く、反応性は低いため一般的にプラスチックよりも耐薬品性や耐熱性に優れています。そのため、日用品やキッチン用品、工業用品などでシリコン樹脂は広く用いられています。なお、強酸や強アルカリと接触すると分解、劣化を引き起こす可能性があるため薬品を使用する場合は注意が必要です。

シリコン樹脂の安全性

シリコン樹脂は生理活性が極めて低く、人体への影響がほぼ無いと考えられています。また、経口摂取しても健康への影響は低く、急性毒性や遺伝毒性に関する調査でも、陰性であることが報告されています。

シリコン樹脂は食器や調理器具などに使用されますが、極めて安定な樹脂であるため、調理時の高温環境下でも食品と反応することはありません。ただし過加熱や空焚きなどで異常な高温となるとシリコン樹脂が融けたり、変色したりする可能性があるので、使用温度に注意する必要があります。

一方で、スプレーなどに含まれるシリコン樹脂は非常に小さい粒子であるため、吸引によって呼吸器系の中毒症状を引き起こす可能性があります。撥水スプレーなど家庭用の商品を使用する際も換気の良いところで使用する、人体に直接使用しないなどの取り扱いに注意が必要です。また、使用前には説明書や安全データシート(SDS)を熟読する必要があります。

参考文献
https://www.silicone.jp/info/begin1.shtml
https://www.kda1969.com/materials/pla_mate_si.htm
https://www.silicone.jp/info/begin4.shtml
http://www.siaj.jp/ja/pdf/siaj.pdf
https://www.silicone.jp/catalog/pdf/Automobiles_j.pdf
https://www.fsc.go.jp/sonota/factsheets/130617_silicone.pdf
https://www.shouhiseikatu.metro.tokyo.jp/anzen/kyougikai/r2/documents/r2kyogikai-1_handout02.pdf

ロータリーエバポレータ

ロータリーエバポレータとは

ロータリーエバポレータ

ロータリーエバポレータは減圧蒸留装置の一種です。減圧下で試料溶液を回転させることで効率よく溶媒を除去することができます。操作が簡単で幅広い溶媒の除去に用いることができるため大学などの研究室、民間企業の研究開発部門で幅広く使われています。

一方で試料溶液の加熱温度や減圧の程度によっては試料溶液の突沸を引き起こす可能性があるほか、試料溶液の重さで接続部のガラスが破損するなどのリスクがあるため、使用前に溶媒の沸点を調べたり、使用する器具のキズやヒビの有無などの点検を行ったりすることが必要です。

ロータリーエバポレータの用途

ロータリーエバポレータは減圧蒸留装置の一種です。溶液中に溶解した目的成分を濃縮する際などに用いられる装置で、減圧度や加熱温度を上げることで高沸点の溶媒も蒸発させることができるため、合成実験を行う実験室では頻繁に用いられます。

ロータリーエバポレータを用いた蒸留は合成実験の基本的な操作の一つであるため、大学の研究室のみならず学部生の化学実験でも使われることが多いです。その他、化学や高分子、繊維メーカーをはじめとする様々な民間企業の研究開発部門でも日常的に使われています。

ロータリーエバポレータの構造と仕組み

ロータリーエバポレータは試料を温める水浴(またはオイルバス)、冷却水循環装置、減圧ポンプ、装置内で凝縮した溶媒を溜めるフラスコなどから構成されています。ロータリーエバポレータを使用するときは試料溶液が入ったナスフラスコを装置に取り付けて回転させた状態で減圧を開始し、その後に所定の温度に温めた水浴にフラスコを入れて加熱します。減圧条件下では溶媒の沸点が下がるので、大気下よりも低い温度で溶媒が気化します。また、試料溶液が入ったナスフラスコを回転させることでフラスコ内に薄い膜が作られる、すなわち表面積が大きくなるため、より効率的に溶媒を気化させることができます。

ロータリーエバポレータの構造

図1. ロータリーエバポレータの構造

試料溶液が入ったナスフラスコと減圧ポンプの間には冷却水循環装置が取り付けられており、蒸発した溶媒蒸気は冷却されて凝縮、液化して冷却水循環装置の下に取り付けられた溶媒回収用のナスフラスコに溜まっていきます。試料溶液を回転させ続け、一定の液量まで溶液が減少したら装置を止めて減圧を解き、試料を回収します。

ロータリーエバポレータ使用時の注意点

ロータリーエバポレータは非常に便利な装置ですが使用時にはいくつかの注意点があります。

1つ目は試料溶液の突沸に注意することです。上記の通り、ロータリーエバポレータは減圧下で試料を気化させるため、低沸点溶媒では溶液が急に沸騰して装置内まで到達してしまい、装置の汚染、サンプルのロスとなる可能性があります。突沸を防ぐため低沸点溶媒を用いるときは液量を少なめにする、水浴で加熱せずに室温で減圧するなどの対策を行った上で、最初は液面の様子を見ながら使用することを推奨します。

2つ目は器具の破損に注意することです。試料溶液が入ったナスフラスコを装置に取り付ける際、フラスコの首の部分には大きな荷重が加わります。そのため、小さなキズがあったり、白く濁ったりしたフラスコは取り付けた際に首が破損して予期せぬ事故につながる危険性があります。このような事故を防ぐためにも、ロータリーエバポレータに取り付ける前に目視でキズの有無を確認する、試料溶液量を減らして荷重自体を小さくするなどの対策が必要です。

ロータリーエバポレータの洗浄

長期間の使用によって減圧度が低下したり突沸によって装置内部が汚染した場合、ロータリーエバポレータを洗浄することがあります。装置はジョイント部分で分解することが可能です。ただし冷却水循環部など大型のガラス製部品は重く、割れやすいため分解時には滑りにくい手袋を着用し、二人以上で作業することが望ましいです。エバポレータを分解したあとは各部品を洗浄、または交換します。真空度が下がっている場合は真空シールの交換やグリースを塗るなどの作業も必要です。なお、コンタミネーションを避けたい試料を扱う場合はあえてグリースを塗らないこともあります。

サーボコントローラ

サーボコントローラとは

サーボコントローラとは、各種産業機械の駆動制御を高速・高精度に実現する制御機器です。

英語名は「Servo Controller」であり、シーケンサベース、および産業用パソコンベース等の用途に応じた複数のサーボコントローラが存在しています。各制御用途にあわせて、サーボコントローラを選択する必要があります。

サーボコントローラとクラウドベースのシステムをIoT技術を駆使して統合制御することで、大規模なサーボコントロールシステムを構築するような事例も近年生まれています。

サーボコントローラの使用用途

サーボコントローラの使用目的は、主に産業分野における各種産業機械における駆動制御を高速・高精度に行うことです。サーボコントローラは、大きく2つのタイプに大別可能で、シーケンサベース,および産業用パソコンベースに分類されます。

シーケンサベースは、単体設備から複数台の設備に搭載されているサーボモーターを統合制御する形で使用され、産業用パソコンベースは生産ライン全体を一括制御する等の大規模なシステム向けに使用されるタイプです。サーボコントローラの使用例には、次のケース等が挙げられます。

  • 電動機の生産ラインにおけるマグネットワイヤ巻取り装置
  • ペットボトル飲料の搬送ラインにおける多軸制御

サーボコントローラの原理

サーボモータは単体では動作するものではなく、サーボモータを動作させるドライバであるサーボアンプと司令塔の役割を果たすサーボコントローラが必要です。

サーボコントローラがサーボアンプに指令信号を伝達し、サーボアンプがサーボモータに電力供給することでサーボモータが動作します。

1. サーボコントローラの指令信号

サーボコントローラの役割は、サーボモータを動かす位置・速度・回転力の目標値を指令信号として出力することです。

2. サーボアンプの電力供給

サーボアンプはサーボコントローラから受け取った指令信号を基にサーボモーターに電力を供給します。サーボモーターが目標値通りに動いているとは限りません。そこで、サーボアンプは後述するサーボモーターからのフィードバック信号を受け取ります。

3. サーボモーターからのフィードバック

サーボモーターはエンコーダを内部に持っており、エンコーダはサーボモーターの実際の回転位置や速度を検出し、電気信号に変換します。この電気信号は、サーボアンプにフィードバック信号として送信されます。

サーボアンプはサーボコントローラから受け取った目標値とフィードバック信号を比較し、誤差が小さくなるようにサーボモーターへの電力供給を制御しています。

サーボコントローラのその他情報

サーボモーターの制御

サーボコントローラを含むサーボモーターの制御はフィードバック制御で行われています。制御はオープンループ制御とクローズドループ制御の2種類があります。

1. オープンループ制御
現状と制御システム上の数学的モデルを使い、入力に対して計算を行う制御です。単純なプロセスに使用されています。シーケンス制御が代表例で予め定められた順序に従い、制御の各段階を逐次進めていきます。

オープンループシステムのメリットは、システムが測定ノイズや不安定性の影響を受けにくいことです。デメリットとしては、設計に固有な制御となる点が挙げられます。

2. クローズドループ制御
システムの出力を入力にフィードバックする手法であり、オープンループ制御よりも正確な制御ができます。クローズドループシステムはロバスト性に優れていますが、システムに制御不能な動作を引き起こす可能性がある点はデメリットです。

また、測定ノイズにも弱い欠点も挙げられます。モーターサーボモーターはクローズドループ制御を採用しており、精密な回転数・速度を実現可能になっています。

参考文献
https://www.mitsubishielectric.co.jp/fa/products/cnt/ssc/index.html
https://www.yaskawa.co.jp/product/mc

メンブレンフィルタ

メンブレンフィルタとは

メンブレンフィルタ

メンブレンフィルタは溶液中の微粒子を除去するときに用いるフィルタです。メンブレンフィルタを用いるろ過は精密ろ過とも呼ばれ、フィルタの孔径以上の粒子を確実に除去することができます。ただしメンブレンフィルタは目詰まりを起こしやすいため、ろ過前にプレフィルタを用いた粗ろ過を行うことが多いです。

メンブレンフィルタの材質は多種多様で、PTFEPVDF、PESやセルロース混合エステル、ポリプロピレンなどがフィルタとして使われています。使用時にはろ材の耐薬品性、試料に含まれる成分がフィルタの材質と吸着するか否か、除去したい微粒子に対してフィルタの孔径が小さいか、などの観点から適切なメンブレンフィルタを選定する必要があります。

メンブレンフィルタの使用用途

メンブレンフィルタはメンブレン、つまり「膜」で作られたフィルタです。食品や飲料、医療や電子機器、化学や繊維など、様々な業界で液体のろ過は日常的に行われています。その中でもメンブレンフィルタは「精密ろ過」と呼ばれる作業で使われます。

精密ろ過は膜の孔の大きさ(孔径)よりも大きな物質を完全に捕捉する工程で、液体に含まれる不純物を安定して除去する事ができます。そのため微量の異物混入も許されない半導体業界などで用いられる溶媒、溶液として販売される製品を充填する前などにメンブレンフィルタを用いた精密ろ過は行われています。

メンブレンフィルタの構造

メンブレンフィルタと比較されるものとして、プレフィルタと呼ばれるものがあります。これらは同じ「フィルタ」でも内部の構造と粒子の捕捉メカニズムが異なります。プレフィルタはデプスフィルタとも呼ばれるもので、ガラスなどの繊維状の材料を押し固めて作られています。そのため、フィルタ内の流路の大きさは一定ではありません。また、ろ過時に大きな粒子は流路の途中で詰まることで捕捉されます。ただし、過剰量を流すと詰まった粒子が押し出されてフィルタを通過してしまう場合があります。

メンブレンフィルタの構造

図1. メンブレンフィルタの構造

一方でメンブレンフィルタは孔径の最大値が規定されており、カタログの孔径以上の大きさの流路はありません。そのため、孔径以上の粒子はフィルタ表面で捕捉され、ろ液とは完全に分離されます。ただし、すべての粒子がフィルタ表面に蓄積されていくため、メンブレンフィルタは目詰まりを起こしやすいという欠点があります。実際の工程ではまずプレフィルタで簡易的にろ過を行ったあとにメンブレンフィルタでろ過を行うことが多いです。

メンブレンフィルタのその他情報

メンブレンフィルタの材質

メンブレンフィルタの材質は多種多様です。材質の例として、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)、PES(ポリエーテルスルホン)、ナイロン、セルロース混合エステル、ポリプロピレンなどが挙げられます。

これらの高分子はいずれも有機溶媒や酸・塩基に対する耐性が異なりますし、化学構造も大きく異なります。そのため、ろ過する溶液への耐久性を考慮するのはもちろんのこと、メンブレンフィルタへの試料吸着の起こりやすさも考慮に入れる必要があります。

ストレーナ

ストレーナとは

ストレーナ

ストレーナは、液体や気体の中から細かい異物を除去する部品です。類似部品にラインフィルタがありますが、用途が異なります。ストレーナは機器の上流に挿入して機器保護を目的として設置されるのに対して、ラインフィルターは流体をろ過し正常化する目的で設置されます。

ストレーナの使用用途

ストレーナは民生品の場合、自動車などに使用されます。エンジン保護を目的としており、エンジンオイル配管のエンジン上流に設置されます。他の使用用途には、下水道配管などがあります。

産業用途としては、プラントや油圧ユニットなどに使用されることが多いです。主に異物の噛み込み防止を目的に、減圧弁やポンプなどの機器上流に設置します。

また、ストレーナには内部スクリーンを定期掃除する製品とテンポラリーストレーナの2種類があります。テンポラリストレーナは使い捨てするストレーナです。基本的には配管工事後に配管内の汚れを除去し、以降は取り外されます。テンポラリーストレーナにはコーン型や差込み型などの種類があります。

ストレーナの原理

ストレーナーは本体、Oリング、スクリーンなどから構成されます。本体の中にスクリーンが入っており、Oリングで配管と漏れがないように接続されます。最も重要なのがスクリーンで、網目状のパンチングメタルやメッシュからできた部品です。

網目粗さを選定して除去する異物の大きさ決定します。異物が大きい場合はスクリーンの目を粗くし、小さい場合はスクリーンの目を細かくします。また、ストレーナーにはY型やU型などがあります。基本的には流量の小さなものにY型を使用し、大きなものにU型を使用します。

ストレーナーの圧力損失に注意が必要です。ストレーナを設置すると圧力損失が発生するため、ポンプの入口に目が細かいストレーナを設置するとキャビテーションが発生する恐れがあります。

ストレーナのその他情報

1. ストレーナの清掃

ストレーナは流体中のゴミをフィルターで除去するため、内部にゴミが堆積します。定期的に清掃しなければフィルターの目詰まりが発生し、さまざまな不具合が発生します。内部フィルターを取り外して水洗する清掃方法が一般的です。

ストレーナの入出口のバルブで縁切りして清掃作業を実施します。ラインを容易に停止できない場合は、あらかじめストレーナにバイパスラインを設けて清掃します。ライン内ポンプの吐出圧力を監視することでストレーナのつまりを発見します。また、長期停止後はライン内の異物がストレーナに流入することがあるため、稼働前にストレーナの点検を行うことが重要です。

2. ストレーナのメッシュ

ストレーナにおいてフィルター粗さは一般的にメッシュという数値で表されます。メッシュとは、1インチ中にある網目の数です。仮に1インチの中に網目が10個あれば10メッシュということになります。実際には1インチ×1インチの正方形の中にそれぞれ10個の網目なので、1インチ角中に100個の網目があることになります。

2重構造フィルターを持つストレーナも販売されています。二重構造フィルターでは、外側に目の粗いフィルターを取り付け、内側に目の細かいフィルターを取り付けます。ストレーナの粗さや構造は、メーカーとの協議や過去実績を基に選定します。

参考文献
https://www.tlv.com/ja/steam-info/steam-theory/other/1001filter/
https://jp.misumi-ec.com/vona2/mech/M2000000000/M2007000000/M2007030000/
https://www.wasinokiki.co.jp/product/f02.pdf
http://www.vth.co.jp/strainer

ステンレス鋼管

ステンレス鋼管とは

ステンレス鋼管

ステンレス鋼管とは、ステンレス鋼を材料とする配管のことです。

ステンレス鋼の中でもSUS304のようなオーステナイト系のステンレスは、含有されるクロムにより表面が不導体膜で保護されているので、錆が発生しません。そのため、錆が問題になるような配管に使用されます。高温・低温に強いのもステンレス配管の特徴です。

また、内面を光輝焼鈍 (無酸化焼鈍) や電解研磨により仕上げたものは、高純度な製品が必要な半導体工場や食品工場でも使用可能です。

ステンレス鋼管の使用用途

ステンレス鋼管は工場やプラントで多く使用されます。具体的な使用用途は以下の通りです。

  • 高温反応を有する化学プラント
  • 超低温の液体を搬送する産業ガスプラント
  • 異物やバクテリアの発生が厳禁な食品・医薬品プラント
  • 高純度な製品が必要とされる半導体工場
  • 硫酸プラントや苛性ソーダプラント
  • 石炭火力発電プラント
  • 液体酸素・液体窒素の移送配管

錆が発生すると困る配管に幅広く使われており、純水や蒸気配管に使用されることもあります。

ステンレス鋼管の原理

ステンレス鋼管でもオーステナイト系ステンレス製の配管は、クロムによる不導体被膜によって錆が発生しません。ただし、溶接時の熱による鋭敏化という現象により耐食性が低下することがあります。

特に、溶接部近辺ではクロムが炭化クロムとなり、不導体被膜を形成するのに十分なクロムが無くなることがあります。この現象を避けるために、溶接時の熱管理が必要です。

また、内部を光輝焼鈍 (無酸化焼鈍) や電解研磨に仕上げたステンレス鋼管は、見た目もきれいでコンタミの原因となる残存部がありません。そのため、食品業界や半導体工場などで多用されます。ステンレス配管は溶接方法を誤ると、液だまりの発生や溶接部の凸凹などが発生します。そのため、ステンレス鋼管の能力を完全に発揮するには正確な施工が必要です。

ステンレス鋼管のその他情報

1. 配管用ステンレス鋼管と一般配管用ステンレス鋼管の違い

配管用ステンレス鋼管 (JIS G 3459:2016) は、耐食用や低温用などの配管に用いるステンレス鋼管です。外径の範囲は、10.5mm〜660.4mmである場合が多いです。

一方で、一般配管用ステンレス鋼管 (JIS G 3448:2016) は、給水用や給湯用水に用いるステンレス鋼管です。従来のステンレス鋼管に比べて薄肉であり、SUS304、SUS315J1、SUS315J2、SUS316の4種類に分類されます。外径は9.52mm〜318.5mmです。

2. 水道とステンレス鋼管

一般配管用ステンレス鋼管 (JIS G 3448:2016) に類似した規格で、水道用ステンレス鋼管(WWA G 115:2012) があります。水道用ステンレス鋼管 (JWWA G 115:2012) は、日本水道協会規格の定めた規格で、最高使用圧力1.0MPa以下の水道に使用します。

肉厚は一般配管用ステンレス鋼管と同じであり、SUS304とSUS316の2種類で規定しているのが特徴です。外径は15.88mm〜48.60mmの管があります。

3. ステンレス鋼管の継手

ステンレス鋼管の継手とは、ステンレス鋼管同士をつなぎ合わせるための部品です。継手を使用することにより、ステンレス鋼管の方向を変えたり外径のサイズを変えたりすることができます。

継手の代表的な種類は以下があります。

  • エルボ
    配管の方向を45°, 90°, 180°に変える
  • チーズ
    配管の合流や分岐をさせる
  • レジューサー
    外径の異なる配管をつなぎ合わせる
  • ブッシング
    径の異なる配管の外ネジと内ネジを接続する
  • ニップル
    配管の内ネジ同士を接続する
  • ソケット
    配管の外ネジ同士を接続する
  • フランジ
    配管と配管を接続する

つなぎ方は主に、溶接式とネジ込み式の2種類です。溶接式には突合せ溶接式管継手と差込み溶接式管継手があり、ネジ込み式にはネジ込み式管継手があります。また、ネジ込み式管継手は、溶接で固定しないので補修メンテナンスがしやすい点が魅力です。

参考文献
https://www.mory.co.jp/product/stainless/circle/02.html
https://jis.jts-tokyo.com/stainless-pipes-standards/

パラジウム触媒

パラジウム触媒とは

パラジウム触媒

パラジウム触媒 (英: palladium catalyst) とは、パラジウムを含む化合物を触媒用途に製造したものです。

パラジウム (元素記号: Pd) とは、原子番号46の白金族元素の1つです。パラジウム触媒は、有機合成には欠かせない材料で、創薬・天然物合成・高分子合成などの分野で、幅広く利用されています。

特に2010年にノーベル化学賞を受賞した、パラジウム触媒クロスカップリング反応は世界的に有名です。クロスカップリング反応とは、2つの化学物質を選択的に結合させる反応を指します。パラジウム触媒には数多くの種類があり、使用する原料や反応に合わせた使い分けが必要です。

パラジウム触媒の使用用途

パラジウムは、触媒・ 歯科用材料・電気・電子工業用部品・宝飾品などに使われています。パラジウムは、自身の体積の935倍の水素を内部に吸着できるので、水素吸蔵合金の用途もあります。

パラジウムを主成分とした化合物を、触媒用途に製造したものがパラジウム触媒です。触媒はそれ自身は反応前後で変化しませんが、反応物の反応速度を変化させます。反応物と反応中間体を形成し、この反応中間体を介して反応が進行します。

パラジウム触媒は有機合成に使用されることが多いです。特にクロスカップリング反応を使って、目的物を合成する際に使用されます。医薬品合成や天然物合成などには欠かせない重要な材料です。近年では、自動車エンジンの排ガス浄化用触媒の用途が増加しています。

パラジウム触媒の原理

代表的なパラジウム触媒として、塩化パラジウム・酢酸パラジウム・ホスフィン配位子がついたパラジウム錯体などが挙げられ、種類によって反応性が異なります。これらの触媒は創薬・天然物合成・高分子合成などの分野で、幅広く利用されています。

また、パラジウムは自動車分野の三元触媒に使用されます。三元触媒とは、自動車の排気ガス中に含まれる炭化水素・一酸化炭素・窒素酸化物などの有害物質を除去することができる装置のことです。パラジウム・プラチナ・ロジウムなどの金属が使用されています。

パラジウム触媒のその他情報

1. パラジウム触媒の自動車排ガスの無害化利用

自動車の排気ガスには有毒で環境負荷の高い、窒素酸化物 (Nox) ・一酸化炭素 (CO) ・未燃焼の成分である炭化水素 (HC) が多く含まれています。この有毒な成分を酸化・還元反応により無害な二酸化炭素・水・窒素・酸素に変換するのが触媒であり、パラジウムはここで利用されています。

他にもプラチナやロジウムなどの貴金属元素も触媒として利用されています。パラジウムはガソリン車の触媒を主とするため、より需要が高いです。

パラジウム触媒は、エンジンからの排気を集中させるエキゾーストマニホールドの後に設置されます。排ガスとの接触面積を増やすために、ハチの巣状のハニカム構造をしたセラミックスに、ナノメートルサイズのパラジウム触媒が均一に分散されています。

自動車排ガスの無害化利用でのパラジウム触媒のデメリットは、非常に高価であることと、さらに高温での使用中にセラミックス表面を触媒が移動して集まり、表面積を減らしてしまうため、あらかじめ大量に投入する必要があることです。パラジウム資源の枯渇に対応すため、パラジウム触媒の使用量を減らす研究開発が行われています。

2. パラジウム触媒の価格

パラジウム触媒に使用されるパラジウムは、希少なレアメタルであり、1kg数百万円もする高価な金属です。パラジウム需要のほとんどはガソリン自動車の触媒であるため、ガソリン車の需要が高まれば高まるほど価格は高騰します。

近年、パラジウムの価格は、急激に上昇しています。この要因は、鉱山生産が200t/年であるのに対して、需要が300t/年と需給ギャップが大きいことです。近年の環境規制の厳格化や中国などでのガソリン車需要の上昇はもちろん、ディーゼル車の排ガス対策不正も、ガソリン車需要の上昇を加速させる要因になっています。

パラジウムの産出国は主にロシアと南アフリカで、2017年のデータによると、それぞれ40.5%と37.5%と大部分を占めています。産出国が限られていることで、政情不安などによる供給不足の影響が大きく、さらに最近のロシアでの産出量の激減なども、価格が高騰する原因になっています。

参考文献
https://www.tcichemicals.com/JP/ja/c/12640
http://www.spring8.or.jp/ja/news_publications/research_highlights/no_07/

グリース

グリースとは

グリース

グリースとは、基油に増稠剤を混ぜ合わせてジェル状にした潤滑剤です。

グリスとも呼ばれ、具体的にはJIS K2220:2013で定義されます。使われる基油によって鉱油系グリースと合成油系グリースに分けられ、鉱油系グリースが一般的です。

グリースに特徴を持たせるために、酸化防止剤や耐荷重添加剤などの添加剤を加えることもあります。

グリースの使用用途

グリースは産業において、幅広い機械装置に適用される潤滑剤です。以下は、グリースの使用用途一例です。

  • 軸受や装置機械の可動部分の摩擦防止
  • ジョイント部分へ塗布し密着性の向上
  • 機械の放熱補助

特に軸受の潤滑剤性能は、自動車産業や精密機器業界で重要な役割を担います。また、機械の放熱を補助するグリースは放熱グリースと呼び、コンピュータのCPUヒートシンクなどに使用されます。

グリースの原理

グリースは、石けん分子からなる増稠剤が三次元の網目状構造を形成し、基油を取り込むことで構成されます。グリースに応力がかかることで網目状構造が歪み、基油が滲み出すことで潤滑の役割を果たします。異物がグリースに接触しても網目状構造は大きく乱れず構造を保持するため、潤滑剤としての機能が大きく損なわない点が特徴です。

なお、回転中のグリース評価は流体の非ニュートン性を考慮する必要があります。潤滑油は低速の応力ではくさび効果が生じず、油膜が切れてしまいます。一方、グリースは低速でも一定の粘性を示すため、せん断面での膜厚を保つことが可能です。

グリースの種類

増稠剤の種類によって、石けん系グリースと非石けん系グリースにも分けられます。とりわけリチウム石けん基グリースは、現在でも幅広い分野で利用されています。

また、さまざまな種類に分類されますが、代表例は以下の通りです。

1. モリブデングリース

二硫化モリブデンを配合したグリースです。極圧性が高いことが特徴で、重荷重部に多く用いられます。ただし、粘度が比較的低いので、グリースの流出には注意が必要です。

2. リチウムグリース

原料基油にステアリン酸リチウムやひまし油の硬化脂肪酸のリチウム塩を増稠剤として分散させた石けん系のグリースです。耐熱温度は約130℃です。1938年に耐水性・耐熱性ともに優れたリチウムグリースが開発されて以降、万能グリースとして幅広い分野において使用されています。

耐水性・機械的安定性に優れますが、いずれも非石けん系のウレアグリースと比較して劣ります。しかしながら、ウレアグリースは高温下やせん断によって硬化・軟化するものがあるため、特異な用途でない限りリチウムグリースを用いるのが一般的です。低速から高速まで、幅広い回転速度での利用に適しています。

ゴムや樹脂に悪影響を与える場合もあるため、ゴム製品や樹脂製品にはラバー用と明記された製品を使用します。

3. シャーシグリース

カルシウム石鹸などを増稠剤としたグリースです。自動車に多く使用されており、汎用性の高いのが特徴です。リチウムグリースに比べて性能は劣りますが、比較的安価で入手できるグリースです。

4. シリコングリース

シリコンオイルを使用したグリースです。ゴムや樹脂に悪影響が出にくいため、ゴム製品や樹脂製品に多く用いられます。

グリースの使い方

グリースの使用方法は塗布、手動給脂、自動給脂などがあります。

1. 塗布

塗布は、潤滑したい部分に手で塗布する方法です。機器によっては塗布を指定されている場合があります。

2. 手動給脂

手動給脂は、リニアガイドボールネジなど内部にグリースを給脂する際に行う方法です。内部に給脂が必要な機器にはグリースニップルと呼ばれる給脂口がついており、グリースガンを使用して給脂します。

3. 自動給脂

自動給脂は、グリースポンプによって定期的に自動給脂するシステムです。硬質チューブなどで給脂位置までグリースを供給します。

配管内に定量バルブを組み込み、グリースの供給量を一定にするのが一般的です。グリースポンプには一般的に電動ポンプが使用され、制御機器からの指令で定期的に給脂してメンテナンス工数を削減しつつ、給脂忘れによる設備トラブルを防止します。

グリースのその他情報

1. グリースのメリット

潤滑材と比較したときのメリットは以下の通りです。

  • 使用中の損失が少なく、交換および給油回数が少なくて済む
  • 漏れが生じにくく保管しやすい
  • 低速回転、衝撃荷重の条件下でも使用できる
  • グリースに異物が混入した場合でも、グリース内で保持され機械装置を傷つけない
  • 少量の水が混入しても潤滑材として使用できる

2. グリースのデメリット

潤滑材と比較したときのデメリットは以下の通りです。

  • 交換および掃除する際の手順が煩雑
  • 放熱しにくいため、超高速回転での利用には適していない
  • 異物の除去が困難

参考文献
https://kikakurui.com/k2/K2220-2013-01.html
https://www.eneos.co.jp/company/rd/technical_review/pdf/vol51_no02_06.pdf
https://www.jstage.jst.go.jp/article/sekiyu/2008f/0/2008f_0_136/_article/-char/ja/
https://f-gear.co.jp/howto/3063/
https://www.kyusha.net/?p=86