SLD光源

SLD光源とは

SLD光源とは、発光ダイオード (LED) と半導体レーザー (LD) の両方の特性を持った広帯域光源のことです。

SLDとは「スーパールミネッセントダイオード」の略で、発光ダイオードのように幅広いスペクトルと、半導体レーザーのような高輝度の光を兼ね備えています。

しかし、半導体レーザーとは異なり、低コヒーレンスであることも特徴の一つです。このような特性から、SLDは計測用の機械やセンサ機器に広く用いられています。

SLD光源の使用用途

SLD光源はLEDとLDの二つの特性を活かして、次のような機器に使われています。

1. OCT

光干渉断層計とも呼ばれ、光の干渉を利用して物体の断層イメージを計測する機器です。対象に触れること無く内部を計測できます。同様に内部を観察できるX線と比べて分解能が高く、被爆の心配が無いのも利点で、医療用として広く使用されています。

2. 原子間力顕微鏡

物質の表面で指針を動かし、指針と物質との間に働く原子間力を測定することで表面の状態を観察する顕微鏡のことです。光学顕微鏡に比べて非常に高い分解能を持っており、表面の原子レベルの凹凸も確認できます。

SLD光源の原理

ここでは、SLD光源が光を放つ原理について説明します。

SLD光源もLEDやLDと同様にpn接合に順方向の電圧がかかることで発光します。これらが励起された状態では、伝導帯には電子が多く、価電子帯には正孔が多く存在しています。この電子と正孔が再結合をする過程で発生したエネルギーが光となって放出されるのです。

このようにSLDもLEDやLDのように光を発生させますが、生まれた光を増幅させるという点で2つとは異なっています。SLDは発生させた光をそのまま放出せずに、活性層の光学利得で増幅させてから放出します。この増幅によってコヒーレンスな光を発生させることが可能です。SLDのスペクトル幅はLDと比べると広いですが、LEDと比べると狭くなります。こうして、LEDやLDの中間に位置するような特性を持つことができるのです。

この原理によってSLDは、LEDのように幅広いスペクトルの光を放ち、LDのようにコヒーレンスな光を発生させることが可能となり、医療や研究の場で活躍する光源となりました。

SLD光源のその他の情報

1. OCTへの適用

OCTとは光干渉断層像 (Optical Coherence Tomography) の略であり、光の干渉を利用して、非破壊・非接触で物体の表面粗さや生体の断層イメージを計測できる技術です。

OCTによって、X線をとらずとも人体の断面画像が取得できるようになります。このOCTになくてはならない存在がSLD光源です。OCT光源には時間コヒーレンス性が低く、かつ空間コヒーレンス性が高い特性が求められます。

時間コヒーレンス
レーザー光は一定の波長で発光する単色光であり、光の進行方向に正弦波で伝搬していきます。この正弦波の強度が長い距離にわたって維持されてしまうため、光の進行方向にそって波長の整数倍離れた複数の光が生じてしまいます。これがノイズとして観測されてしまう問題があり、時間コヒーレンス性が低い方が、つまりレーザー光と比較してLED光の方がOCT光源には適しています。

空間コヒーレンス
レーザー光は空間直進性が優れているため、所望の光量で照明することが容易です。しかしLED光の場合は、光の拡散性が強いため、所望の対象に所望の光量で照明することが難しいという問題があります。

そこで、時間コヒーレンス性が低く、かつ空間コヒーレンス性が高い光源として、両方の性質を併せ持つSLD光源が注目されています。

2. SLD光源の発光波長

SLD光源の発光波長はLDやLEDと同じく使用する半導体材料のバンドギャップにより決まります。バンドギャップの大きな半導体では短波長、小さな半導体では長波長の光源が開発可能となります。

先述の通りSLD光源はOCTへの適用に期待されています。OCTでSLD光源を用いる場合は近赤外の光源が良く使われます。これは、波長1~1.1μm付近に水の吸収が極小となる領域、通称生体の窓と呼ばれるものが存在しており、生体の窓付近では人体に含まれる水分の影響を低減しつつOCTへ適用することで高SNRが得られる可能性があるからです。

参考文献
https://www.jstage.jst.go.jp/article/isj/52/3/52_219/_pdf/-char/ja
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jpnjvissci/39/3/39_39.37/_pdf/-char/ja

板金ハサミ

板金ハサミとは

板金ハサミ板金ハサミとは、2枚の刃を交差させて物を切る板金加工の道具です。

金切鋏 (かなきりはさみ、もしくは、かなきりばさみ) とも呼ばれます。古来は、切り箸 (きりはし) と呼ばれていて、鉄板やブリキなどを切ることに適したハサミです。

板金ハサミは、一般的な鋏と異なる形状をしていて、サイズや種類が豊富です。握り手が刃に対して長く、切れ味を良くするために刃部に裏スキやソリ、ネジリがつけられています。

それらの仕組みにより、大きなせん断力を発揮できますが、工具独特のくせがあるため職人向けのハサミです。

板金ハサミの使用用途

板金ハサミは、建築作業や板金加工の現場で使用され、主に鉄板、アルミ板、針金の切断に用いられます。

具体的な使用例は下記のとおりです。

  • 自動車整備工場でのパーツの切断
  • 屋根材やフラッシングのカット
  • 自宅DIYでの金属加工
  • 配管設置作業での、金属プレート加工やシートメタル切断
  • ジュエリー作り
  • 金属製の家具や装飾品の作成や修復

板金ハサミは、さまざまな業種で幅広く使用されています。

板金ハサミの原理

板金ハサミは通常のハサミと同様、てこの原理を利用している道具です。ハサミの回転中心を支点として、板金を切断するために必要な力が、作用点である持ち手に加わります。

この力が鋏荷重です。鋏荷重は、物を切る直線的せん断荷重、物が曲がることに伴う曲げ荷重、ハサミのフレーム摩擦荷重の和となります。

板金ハサミの選び方

板金ハサミは、各メーカーから様々なタイプの製品が販売されていて、刃の形状や素材が様々です。使用目的に応じ、最適な製品を選ぶことが重要です。

1. 刃の形状

刃の形状は、大きく分けて3種類に分類されます。被切断物をどのように切断したいのかによって、選ぶべき刃の形状は変わってきます。

直刃 (すぐば)
材料を直線的に切断するときに使用されるタイプです。刃が一直線になっているため、切断面が滑らかで均一な仕上がりとなります。

柳刃 (やなぎば)
直線や曲線など比較的自由度の高い切断加工を行うときに使用されるタイプです。刃の先端が尖っているため、切り込みが容易で、スムーズな切断を行うことができます。

抉刃 (えぐりば)
トタン板などに穴を開けるときや、急な曲線などを切断する際に使用されるタイプです。細かな作業や緻密な切断に適しています。

その他にも、板金の山に合わせて切る波板切ハサミや、DIYで使われる倍力構造の洋バサミなどがあり、作業しやすく、仕上げが美しいハサミの開発が進んでいます。

2. 刃の素材

板金ハサミを選ぶ際は、素材も重要な要素です。適切な素材を選ぶことで、ハサミの耐久性や切断能力が向上します。

安来鋼
日立金属株式会社の安来工場で生産された鋼です。硬度や成分により、青紙・白紙・黄紙などに分けられていて、日本の刃物の多くにこの鋼が使われています。

モリブデン鋼
ステンレスにモリブデンを添加した素材で、通常のステンレス鋼と比べ丈夫で切れ味が持続しやすい特徴があります。またサビに強いため、医療用メスなどにも使われる素材です。

ハイス鋼
ハイス鋼とは高速度鋼と呼ばれ、非常に硬い鉄鋼材料で、厚い板金や硬い材料を効率的に切断することできます。また、耐摩耗性に優れているため、長期間にわたり刃の鋭さを維持することができます。

SLD鋼
SLD鋼は非常に高い硬度を持ち粘りがある特徴を持ち、よく切れ、切れ味も長持ちします。また、ステンレス並みのクロームと多くの炭素やモリブデンバナジウム等を含んでいることで、他の素材より錆びに強く、性能とコストのトータルバランスに優れた鋼です。

ZDP鋼
ZDP鋼は、日立金属が粉末冶金技術により製造した新しいタイプの刃物鋼です。均一微細なミクロ組織を有し、硬度、耐食性、耐摩耗性、靭性をそなえた最高峰と言える素材です。ただし、硬度が高いため刃付けが難しく、研ぎにくいというデメリットがあります。

参考文献
http://www.kinzoku-yane.or.jp/technical/pdf/200701.pdf
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jspe/70/10/70_10_1322/_pdf/-char/ja

ブチルテープ

ブチルテープとは

ブチルテープ

ブチルテープとは、ブチルゴムを原料に製作されたテープです。

優れた防水性を持っており、屋根や窓など、水の侵入を防ぐ必要がある場所で使用されます。雨水や湿気から保護し、建物内部への侵入を防止することが可能です。耐候性も高く、長期間の屋外使用に適しています。

また、多くの表面に強力な接着力を発揮し、しっかりと密閉・固定が可能です。これにより、異なる素材の接合や補修に役立ちます。切断が容易であり、使用に際して特別な道具や専門知識が必要ありません。

ただし、ニトリルゴムやシリコンゴムに比べ、ガソリンなどに対する耐油性や耐火性は劣ります。低温環境では硬化し、高温環境では柔らかくなることがあるため、適切な温度範囲内での使用が重要です。製品の指示に従って適切な温度条件で適用することが大切です。

ブチルテープの使用用途

ブチルテープはその優れた密封性や接着性から、さまざまな用途で使用されます。以下はブチルテープの使用用途です。

1. 建設現場

ブチルテープは屋根材の接合部分などに使用され、雨水や積雪から建物内部を保護します。一般的な屋根材には瓦やスレオートなどがあり、これらの防水補助に使用されることが多いです。ブチルテープは屋根の耐久性と防水性を向上させ、屋根の寿命を延ばします。

また、窓やドアの枠周りにブチルテープを適用することで、気密性を確保し、外部からの気温の影響や雨水の浸透を防ぐことが可能です。これにより、エネルギー効率の向上と快適な室内環境を実現できます。

2. 自動車

自動車の外部部品やシーリング部分にブチルテープが適用され、雨水や湿気から車内を保護します。これにより、腐食や内部損傷を防ぐことが可能です。また、自動車の内装の一部にも使用可能で、振動を吸収して静音性を向上させます。

3. 船舶

船舶のハッチやデッキなどでブチルテープが使用され、海水や雨水の侵入を防止します。特に、海洋環境における堅牢な防水が重要です。船内の電気配線やケーブルのシーリングにも使用され、水の侵入を防ぎます。

ブチルテープの原理

ブチルテープの密封および接着の原理は、主にブチルゴムの物理的特性に基づいています。ブチルゴムはポリイソブチレンと組成が類似した合成ゴムの一種です。イソブチレンと少量のイソプレンを重合することによって合成されます。

ブチルゴムは非常に柔軟で伸縮性があります。これにより、異なる表面の凹凸や不均一な形状に対応することが可能です。さまざまな材料にしっかりと密封できる柔軟性を持っています。

また、ブチルゴムは多くの表面に対して優れた接着性を発揮します。これはブチルゴムが表面に密着し、微細な隙間や凹凸に沿ってフィットするためです。表面にブチルテープを適用すると、ブチルゴムが接触面にしっかりと密着し、接合部を密閉します。

水分や気体の浸透を防ぐことも可能です。適切に適用されると、水分や空気の侵入を防ぐことで、水密性や気密性を確保します。耐候性にも優れており、太陽光や温度変化、湿度の影響に対して安定して性能を発揮します。

ブチルテープの選び方

ブチルテープを選ぶ際は、幅や長さを考慮します。

1. 幅

幅はブチルテープの横幅です。広い箇所への適用は横幅が大きな製品が有利です。ただし、狭い箇所には細いテープでなければ入らない可能性があるため、適用箇所に応じて選定します。

2. 長さ

長さはブチルテープの分量です。長い製品は多量に巻くことができます。余らないように選定することが重要です。

ブチルテープのその他情報

1. ブチルテープの使い方

ブチルテープを使用する際は2〜2.5倍に引き伸ばしながら対象物に巻きつけます。対象物に巻き付ける際、一周でブチルテープ同士が被る部分を幅の半分程度に調節しながら巻きます。必要な厚みになるまで、重ねながら巻くことが重要です。

巻き終わりは、中央部において張力を無くした状態でブチルテープを切ります。 端末部は引き伸ばすことなく対象物に押し付け、全体を指で押さて接着させます。端末部を引き伸ばすと、端末剥離が発生する可能性が高くなるため注意が必要です。

2. ブチルテープと防水テープの違い

ブチルテープは防水テープの一種です。一般的に防水テープは気密性・防水性に優れ、粘着性も高いテープを指します。防水性が高いため、屋外でも使用されます。壁面や床面のすき間を塞いだり、水道漏れや雨漏りの補修など、用途は幅広いです。

ブチルテープは防水テープの中でも、未加硫のブチルゴムを活用しています。防振性に防水性に優れているため、自動車や建材用途で使用されます。

参考文献
https://in.misumi-ec.com/pdf/fa/p1483.pdf
https://www.jstage.jst.go.jp/article/gomu/88/12/88_473/_pdf/-char/ja
https://www.nittoshinko.co.jp/products/self-fusing-tape/guide.php
https://electrictoolboy.com/media/44324

防寒服

防寒服とは

防寒服

防寒服とは、冬の屋外作業や凍結温度以下の厳しい寒冷環境において寒さを防ぐ衣服です。

主に、寒冷地や冬季などの寒い状況下で使用されます。防寒服は保温性の高い素材や厚手の布地で作られており、身体の熱を内部に閉じ込め、外部の寒冷空気を遮断して体温を維持する役割を果たします。

17世紀から18世紀にかけて、防寒性を高めるために複数の衣服を重ね着するスタイルが一般的になりました。内側には保温性のある素材を、外側には風や雨を防ぐ素材を使用し、寒冷地での生活に適した服装が確立されました。

現代の防寒服は、ナイロンポリエステルなどの先進的な素材技術が組み合わさった製品が多いです。防風性や通気性を持ちつつ、高い保温性を提供する機能的なデザインが求められています。また、アウトドアアクティビティやスポーツの分野で専門的な防寒服が開発され、幅広いニーズに対応しています。

防寒服の使用用途

防寒服は、寒冷な気候や寒冷地で身体を暖かく保護するために使用される衣類です。以下は防寒服の使用用途です。

1. 日常生活

寒冷な季節や冬季には、通勤や買い物、散歩など日常的な活動を行う際に防寒服が重要です。屋外での短い滞在や移動時に寒さから身を守ります。通常はコートやジャケット、セーターなどが使われ、保温性が高いため体温を保つ効果があります。

2. 労働現場

建設現場や農業などの寒冷地での労働では、作業中に体温を保つために防寒服が重要です。重い機械操作や体力が必要な作業でも、防寒服は作業者の健康と安全を確保します。

耐久性が求められ、防風・防水性を備えた衣類が使用されることが一般的です。気温が0~10℃での建設労働や郵便配達労働、林業における労働など、さまざまな屋外作業で活用されます。また、食品工場における氷点下以下の冷凍庫などでも作業者が身に付けます。

3. スポーツ

スキーやスノーボードなどのスポーツでは高い速度や風により体温が急激に低下するため、防寒服が重要です。運動中の体温維持とパフォーマンスの向上に役立ちます。動きやすさや通気性も考慮され、特に設計されたスポーツ用の防寒服が用意されています。

4. 登山

登山においても長時間屋外で過ごすために保温性が重要です。こうした活動では、特に保温性に優れたダウンジャケットや防風・防水のアウターウェアが使用されます。また、体温調節が重要なため、重ね着が奨励されることも多いです。

防寒服の原理

防寒服の主な原理は、体温を保ちつつ外部の寒冷な環境から身を守ることです。これは保温性と空気絶縁の原理に基づいています。

防寒服は身体の熱を内部に閉じ込めるために、断熱材や多層構造を利用することが一般的です。内部にはダウンフェザーや合成繊維の充填材などが使用され、その間に空気を取り込んで断熱効果を高めます。また、多層の構造を持っており、内側の層が体温を保ち、外側の層が外部の寒冷な空気を遮断します。

一方で、適切な通気性も重要です。運動中や活発な動きをする際には発汗が生じ、湿度が増すことがあります。通気性のある素材やデザインは湿気を逃がして体を乾燥させ、快適さを維持する役割を果たします。

近年、吸湿発熱素材が防寒服に使用されることも多いです。これらの素材は湿気を吸収して発熱し、体温を一定に保つ効果があります。

防寒服の選び方

防寒服を選ぶ際には、自身のニーズや状況に合わせて慎重に選ぶことが重要です。

1. 用途

どのような活動や状況で防寒服を使用するかを考慮することが重要です。アウトドア活動やスポーツ、日常生活など、用途によって必要な機能や保温性が異なります。

2. 保温性

保温性は防寒服の最も重要な要素の1つです。選ぶ際には、寒冷な気温に耐えられる保温性を持つ素材やデザインを選びます。ダウンや合成繊維の充填材、吸湿発熱素材などが高い保温性を有する場合が多いです。

3. サイズ・着心地

適切なサイズと着心地は快適さと保温性に影響します。選んだ服が適切なサイズで、腕や足の動きを制限しないようなフィット感を持っていることが重要です。また、必要に応じて他の服を重ね着できる余裕も考慮して選びます。

4. 防水性

外側のアウターシェルは風や雨を遮るために防水性が重要です。特にアウトドア活動や冬季スポーツでは、風や雨から身を守るための防風・防水素材を選ぶことが大切です。

参考文献
https://www.jstage.jst.go.jp/article/tjsrae/5/3/5_3_285/_pdf
https://www.jstage.jst.go.jp/article/senshoshi1960/9/7/9_7_430/_pdf

電動送風機

電動送風機とは

電動送風機

電動送風機とは、電動モーターによって空気を吸い込んで加速し、特定の方向に風を送るための装置です。

ファンブレード (羽根) を回転させることで風を生成します。電動送風機は電動モーターによって駆動されるため、運転の速度や風量を容易に制御可能です。

多くの電動送風機は速度調節機能を持ち、必要に応じて風の強さを調整できます。これにより、異なる気象条件や快適性の要求に合わせて運転をカスタマイズする際に有利です。

送風機は送風圧によって名称が変化します。送風圧が10kPa未満の場合をファン、10kPa以上100kPa未満をブロワと呼びます。なお、100kPa以上はコンプレッサと呼び、これは送風機ではなく圧縮機に分類されることが多いです。

電動送風機の使用用途

電動送風機はさまざまな使用用途で活用されています。以下は電動送風機の使用用途の一例です。

1. 工業

工場や製造施設では、機械やプロセスの冷却や排熱のために電動送風機が使用されます。送風機によって機械の過熱を防いだり、工業用炉内の温度を制御したりすることが可能です。また、有機溶剤による塗装の換気などにも利用され、労働者の健康と安全を確保するのに役立ちます。

2. 空調機

電動送風機は暑い季節に室内の温度を下げるのに使用されます。風を送ることで体感温度が下がり、冷房の負荷を軽減することが可能です。

特にエアコンを使用しない場合や、エアコンの冷風を均一に広げるためにも活用されます。ユーザーは風の速度や風量を調節して、快適な環境を作り出すことができます。

3. 地下駐車場

地下駐車場などでは、室内の空気循環を促進するために電動送風機が使用されます。適切な位置に送風機を設置することで新鮮な空気を取り込み、古い空気を排出することが可能です。これにより、室内の空気がより清潔で健康的な状態を保つことができます。

4. 乾燥機

湿度を調整するためにも利用されます。洗濯物などを乾燥させる際に、風を送ることで水分を蒸発させる場合に有利です。これにより、湿度を下げることができ、カビや湿気による問題を防ぐことができます。

電動送風機の原理

電動送風機は、風を生成するために電動モーターとファンブレードを使用する装置です。基本的な動作原理は電動モーターによってファンブレードを回転させて空気を加速し、特定の方向に送り出すことです。電動送風機の中心には電動モーターがあります。電力を供給するとモーター回転軸が回転します。この回転運動が、風を生成するためのエネルギー源となる仕組みです。

電動モーターの回転運動は、ファンブレードに伝達されます。ファンブレードは複数の羽根で構成され、回転することで風を生み出す役割を果たします。ファンブレードは特定の角度や形状で配置され、風を効果的に送り出すようにデザインされた部品です。

ファンブレードが回転することで、周囲の空気が吸い込まれます。吸い込まれた空気はファンブレードによって加速され、送風機の出口から外部に向けて送り出されます。ファンブレードの回転速度や形状によって、生成される風の速さや風量が調整することが可能です。

電動送風機の種類

電動送風機は、その内部のファンの形状や風の流れ方によって異なる種類に分類されます。

1. 軸流送風機

ファンの羽根軸と空気の流れが平行な構造を持つ送風機です。ファンの羽根は円盤状で、空気は中心軸に向かって吸い込まれ、軸方向に押し出されます。

このタイプの送風機は主に風量を確保することに優れており、冷却や換気などで広範囲な風を効果的に送るのに適しています。航空機のエンジン冷却や、空調システムなどで使用されることが多いです。

2. 遠心送風機

根軸と空気の流れが直角に交差する構造を持つ送風機です。空気は羽根軸に沿って吸い込まれ、その後、羽根軸から外向きに放出されます。圧力を高めることに優れており、排気や換気、空調などで比較的高い圧力が必要な場合に有利です。

3. 斜流送風機

軸流送風機と遠心送風機の中間的な性質を持つ送風機です。羽根軸と空気の流れが一部で斜めに交差する構造をしており、空気は一部は軸方向に、一部は外向きに送られます。風量と圧力の両方をバランス良く確保できるため、空調や換気、冷却、排気などの幅広い用途に使用されます。

参考文献
https://www.nikko-pb.co.jp/products/detail.php?product_id=161
https://eccj.hondana.jp/book/b351392.html

換気設備

換気設備とは

換気設備

換気設備とは、室内の空気を外気と交換するための設備です。

衛生管理や結露防止などを目的として、住宅やビルなどに設置されます。形状としては換気扇やダクトなどがあります。

換気設備の使用用途

換気設備は、現代社会でありとあらゆる場所で使用されます。また、法律で換気設備の設置が義務付けられている場合もあります。以下は換気設備の使用箇所例です。

  • 戸建ての住宅
  • 学校や病院などの公共施設
  • 百貨店や映画館・劇場などの商業施設
  • 共同住宅などのいわゆる特殊建築物

換気には室内の酸素濃度を一定に保つ効果があります。また、シックハウス対策や脱臭などに対しても一定の効果があります。

換気設備の原理

換気設備には機械換気と自然換気の2種類に大分されます。

1. 機械換気

機械換気は、プロペラファンやシロッコファンなどの送風機を使用した換気方法です。送風機によって外気を室内へ導入したり、室内空気を室外へ排出したりします。オールフレッシュ型の空調機で換気する場合もあります。オールフレッシュ型は外気を空調して室内へ送気する空調機です。高層ビルや大型の商業施設などで採用されます。

2. 自然換気

自然換気は窓やふすまなどを使用した換気方法です。換気したい場合に窓を開けるなどして換気します。換気扇などの機械的な換気設備を使用せず、外気風などを利用して自然の力で換気する方式です。体育館などではこの方式が利用される場合があります。

換気設備の種類

先述した機械換気設備には、第一種から第三種まで換気方式によって種類が分かれます。

1. 第一種換気設備

排気と給気を同時に行う換気設備を第一種換気設備と呼びます。排気と給気のための換気機械や交換型換気システムを組み合わせた設備です。排風機と送風機を活用する方法で、排気量と吸気量の調整により外気圧に対して室内の気圧をプラス圧 (正圧) に、あるいはマイナス圧 (負圧) に保持することが可能です。

ただし、給気側のダクトに微生物などが発生・繁殖し、シックハウス症候群の原因となる場合があります。また、排気・給気の2つの設備を必要とするため初期投資や維持管理費が高いという欠点があります。

2. 第ニ種換気設備

送風機で外気を室内に供給し、排気口から排気する換気設備を第ニ種換気設備と呼びます。第ニ種換気設備は室内がプラス圧 (正圧) となり、出入口を開けても汚染した空気が入りこまないというメリットがあります。換気による室内汚染を極力避けたいクリーンルーム (手術室・無菌室) などに採用される換気方法です。

ただし、住宅などではすき間から室内の高湿度空気が建物外部に流出するため、壁内で結露する欠点があります。

3. 第三種換気設備

給気口から自然空気を導入し、排気ファンによって排気する換気設備を第三種換気設備と呼びます。外気に対して室内空気がマイナス圧 (負圧) となるため、出入口を開けた際にも室内空気が流出しないことが特徴です。

大量の湿気や水蒸気がこもる厨房などで採用されます。また、臭気が滞留しているトイレなどにも適用可能です。汚れた空気が外部に流出しないようにするため、排気ファンが局所的に取り付けられています。

換気設備のその他情報

換気設備に関する建築基準法の記載

従来の住宅では各部屋単独の換気設備が取り付けられていました。ただし、建築基準法の改正 (2003年7月1日施行) によって、24時間換気設備の導入が義務化されました。シックハウス症候群対策などが目的です。

シックハウス症候群とは、室内を漂う化学物質などで発生する健康被害を指します。主に換気をしない密閉住居において発生します。日本家屋から近代建築へ推移するに従って、住宅が高気密化したために問題化しました。症状としては目・のどの乾燥や頭痛などが挙げられます。

他のシックハウス症候群対策のための規制として、建築材料へのホルムアルデヒド使用制限やクロルピリホスの使用の禁止措置などがあります。 

参考文献
https://dl.mitsubishielectric.co.jp/
https://kenchiku-setsubi.biz/kanki/
https://www.mitsubishielectric.co.jp/ldg/ja/air/products/ventilationfan/knowledge/detail_04.html https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/build/sickhouse.files/sickhouse_1.pdf

レーザードップラー速度計

レーザードップラー速度計とは

レーザードップラー速度計とは、レーザー光のドップラー効果を利用した速度の計測装置です。

被測定物にレーザ光をあて、移動もしくは回転する物体の速度を測定します。レーザードップラー速度計の利点は分解能が高く、逆回転など回転方向の検出も可能なことです。

レーザードップラー速度計は、被測定物が気体や液体などの場合はレーザードップラー流速計と呼ばれます。レーザードップラー流速計では、気体や流体の流れの中に混入させた微小な水滴などにレーザ光をあて、流れの速度を計測します。

レーザードップラー速度計の使用用途

レーザードップラー速度計の使用用途は、ベルトなどの移動する物体の速度計測や、ロール、モーター、ギヤなどの回転する物体の計測などです。また、エレベータの開閉の検知などにも使われます。測定対象となる物体は、紙、建材、アルミホイル、ケーブル、チーズ (食品) 、鉄板など多岐に渡ります。

レーザードップラー流速計の使用用途は、流体力学研究の基礎分野、航空機や船舶、自動車などの物体まわりの流れといった工業計測です。具体例としては、車両や航空機などの空力特性を解析する風導実験、エンジンにおいては燃料や混合気、排気ガスなどの流れの解析などに用いられています。

レーザードップラー速度計の原理

レーザードップラー速度計もしくは流速計のどちらも、ドップラー効果を利用しています。ドップラー効果とは、波を発生する音や光などの波源と、それを観測もしくは検出する装置のどちらか一方、あるいは両方が動いている場合に、波の周波数がずれて観測される現象です。

私たちの生活の身近な例では、救急車や消防車のサイレンが、私たちの目の前を通過すると音が急激に変化して聞こえる場面が挙げられます。レーザードップラー速度計の原理は、動いている測定物に光を照射すると反射した光の周波数がずれるため、この反射光を検出し、速度を割り出すことです。ずれた周波数は光に比べ小さく検出が困難であり、もとの光源の光を重ね合わせて検出します。

レーザードップラー速度計のその他情報

1. レーザー光の特徴

レーザー光には、ドップラー効果を検出するために有利な特徴があります。レーザーとは「Light Amplification by Stimulated Emission of Radiation」の頭文字をとったもので、日本語に訳すと誘導放出による光増幅放射です。レーザー光は太陽光などの普通の光にはない、4つの特徴があります。

指向性が高い
指向性が高いため、光が1方向に真っ直ぐに進みます。

コヒーレンスが良い
コヒーレンスとは可干渉性と訳されますが、光の位相が規則正しく揃っていることを指します。

波長の幅が非常に狭い
波長の幅が非常に狭いため、単色の光が得られることです。

収束性に優れている
収束性が良いとは、レンズを使って光を一点に集めやすいことです。虫眼鏡を使って太陽光を集めると紙などが燃えますが、太陽光にはさまざまな波長の光があります。私たちが焦点を合わせたつもりでも、実際にはすべての光が1点には集まっていません。

これは、収差と呼ばれる焦点の誤差があるからです。しかし、レーザー光は収束性に優れているため、レンズを使って光を一点に集めやすい性質があります。

2. レーザードップラー速度計による気体や流体の測定

気体や液体の速度を計測するレーザードップラー流速計の場合は、流れの中に水滴、シリコーン油、酸化チタンなどの微小なトレーサ粒子を混入させる必要があります。流れの速度を計測する場合、このトレーサ粒子にレーザ光をあて、粒子が発する散乱光を検出し、トレーサ粒子の速度を求めます。そのため、トレーサ粒子が流れに十分追従していることが重要です。

参考文献
https://www.jstage.jst.go.jp/article/kogaku1972/7/3/7_3_93/_pdf
http://eng.hgu.jp/hrc/activities/1999/02.pdf

電磁場解析

電磁場解析とは

電磁場もしくは電磁界解析は、電磁気現象を支配する基礎方程式を解くことを意味する。この方程式はマクスウェルの方程式と呼ばれる。最近では、解析的に解くというよりはむしろ、有限差分時間領域法や有限要素法などの数値解法を用いて、特定の物性値や境界条件などを与え解くことを意味する場合が多い。

電磁場解析は、時間的に変動しない電場などを扱う静電場解析や電磁波解析などを含み、その適用事例は直流モーターなどの電動機はもちろん、電子レンジやアンテナ、ワイヤレス給電など様々である。

電磁場解析の使用用途

電磁場解析は、電磁波や磁力などが、対象物にどのような影響を及ぼすかを調べるために行われます。自動車、宇宙、防衛などの幅広い産業で利用されていますが、特に、電気・電子機器などの製造業でよく用いられ、設計工程で使用される場合が多いです。対象物としては、スーパーコンピューターやノートパソコン、電子レンジ、アンテナ、モーター、スピーカーなど様々で、電磁波や磁力などが生じる部品もしくは装置に電磁場解析が実施されます。

電磁場解析の特徴

電場と磁場を合わせて電磁場といい、これは電荷によってつくられます。電荷が静止している場合は電場のみをつくりますが、電荷が動き、電流が流れると電場に加えて磁場が生じます。このように、電場と磁場は密接に関係しており、その関係を表したのが、マクスウェルの方程式です。電磁場解析は、このマクスウェルの方程式を基礎方程式としたいわばシミュレーションです。

解析手法としては、大きく分けて2つあり、1つは時間領域での解析法、そして、2つ目は周波数領域での解析法です。時間領域の解析法としては、有限差分時間領域法、伝送線路法などがあり、周波数領域の解析法としては有限要素法やモーメントなどがあります。

電磁場解析を行う最終的な目標は、回路や装置などの電圧や電流分布、もしくは、装置近傍の電磁界や遠方へ放射される電界を知ることにあります。これを達成するためには、現実的な時間で結果が出るようにモデルを作成し、適切な計算条件のもとで、解析を実行する必要があります。

参考文献

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jiep1998/4/5/4_5_354/_pdf/-char/ja
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsaem/22/1/22_7/_pdf

振動解析ソフト

振動解析ソフトとは

振動解析ソフトとは、解析する対象物に振動が作用した際に生じる現象をコンピュータ上で予測するために用いられるソフトウェアのことです。

物体にある一定の外力が作用すると、外力の大きさや方向に応じて変形が生じます。一般的に物体には変形量に応じて元の形に戻ろうとする力が生じ、物体の材料が持つ強度を超えた力が作用すると、塑性変形したり、破断してしまったりします。

一方で振動は、一定の外力ではなく、時間とともに変化する力として物体に作用するものです。特に波動というある周期で繰り返し作用することによって、物体に大きな外力が作用したかのような大きな変形や、破壊にまで至ってしまうこともあります。振動解析ソフトは、複雑な振動による現象をシミレーションするためのソフトウェアです。

振動解析ソフトの使用用途

振動解析ソフトは、振動の生じる様々な構造物で使用され、自動車や電気機器などの製造業はもちろん、地震による振動の影響をシミュレーションするために建築業界などでも用いられます。

構造物はそれぞれ固有振動数をもつため、加えられた振動と固有振動数が一致すれば、共振現象を引き起こしかねません。この共振によって振動が大きくなり、構造物の破損や破壊が生じるため、設計の段階で、シミュレーションなどを用いて、共振について確認する必要があります。振動解析ソフトは、このような現象の確認のために使用されます。

なお振動解析の機能は、線形動解析として構造解析ソフトに組み込まれています。また、音響振動解析ソフトと呼ばれる実験データを処理する装置もありますが、ここでは、シミュレーションソフトとしての振動解析ソフトについて説明します。

振動解析ソフトの原理

まず、振動解析の背骨となるのが、運動方程式です。ニュートンの第二法則として知られ「物体に働く合力は、その物体の質量に比例し、物体に加速度を与える」というものであり、数式ではF=maで表現されます。ここでFは外力、mは物体の質量、aは加速度です。

振動解析ソフトでは、実際の物体に即したバネ・マス系の F=ma+kx+c の方程式に、時間で変化する加速度や変位を用いて解析します。この時に用いられるのが微分・積分です。

振動解析ソフトでは、実際の物体の挙動を知るために、次のようなステップで解析します。まず物体を数式で表現するためのモデリングを行います。モデリングでは形だけでなく物質の情報、具体的には密度やヤング率なども入力します。次にモデリングした物体に運動方程式を適用しますが、その際には有限要素法、有限差分法、有限体積法などの数値解法が用いられます。数値解法を適用するための条件として、初期条件、境界条件なども必要です。

振動解析ソフトは以上の計算を行い、結果を出力することができます。

振動解析ソフトのその他情報

振動解析ソフトは通常、以下の3つの解析を行うことができます。

1. モーダル解析 (固有値解析)

モーダル解析は、解析対象が特定の周波数の振動によって、どのように振動するかを調べるものです。共振というたとえ小さな振動を受けた場合でも、対象物に大きな振動が生じて破壊にまで至ってしまう現象を知るために行います。解析で得られる結果は固有振動数や振動モードです。

2. 周波数応答解析

与えられた振動に対して、さまざまな振動周波数領域ごとの応答を調べるための解析です。この解析ではFFT (高速フーリエ変換) という計算が行われ、結果としてそれぞれの条件に応じた変位、速度、加速度、応力などを求めることができます。

3. 過度応答解析

過度応答解析は時刻歴応答解析とも呼ばれ、時間の経過による振動の変化を調べます。地震による建物の振動の状態の変化なども過度応答解析が適用された例です。解析結果では変位、速度、加速度、応力が得られます。

参考文献
http://www.tetras.uitec.jeed.or.jp/files/kankoubutu/i-114-06-03.pdf

風洞

風洞とは風洞

風洞とは、固定したビル、飛行機、自動車などの模型の周りに空気を流し、その模型に働く力やその周りの風の流れを計測解析するための試験設備です。

風を流すことで、飛行機の場合は飛行状態、自動車は走行状態を模擬できます。レイノルズ数という数値を一致させれば、例え実機より小さい模型であっても、実際の飛行や走行とほぼ同じ実験結果を得ることが可能です。

風洞のサイズは大小様々で、JAXAの試験設備である低速風洞は模型を固定する測定部分の縦と横のサイズが5から6mほどあります。これが国内の航空宇宙分野で最大のサイズです。アメリカには縦約24メートル、横約37メートルという巨大な風洞があります。

風洞の使用用途

風洞の使用用途は、流体設計が重要な航空機やロケットなどへの測定データの活用はもちろんのこと、自動車や鉄道、風の影響の考慮が重要な高層ビルや橋梁設計へのデータ活用なども挙げられ、使用分野は非常に幅広いです。風洞による実験では、揚力や抗力などの模型に働く力や模型表面の圧力などの基本的な計測の他に、空気の流れを可視化するPIV (粒子画像流速測定法) なども活用されます。

風洞は、送風機、ノズル部分、整流板、測定部、ディフューザー部分などで構成されます。基本的には、人工的な風を模型に吹き付ける装置であるため、流体力や圧力の計測には、別途、計測装置が必要です。PIVなどで流れを可視化する場合も同様です。

風洞の原理

風洞の原理は、大きな流体解析したい対象となる物体を小さな相似形状な模型に変えて実際に風を与え、条件を整えてレイノルズ数を一致させることで、現実の風 (流体) の流れを計測で予測することにあります。レイノルズの法則を用いて実際の周囲の風の流体の影響を実測解析する実験設備が風洞です。

レイノルズ数Reを一致させることで、実機と模型の形状が相似の場合には周囲の流体の流れが等しくなることを、流体力学ではレイノルズの法則と呼んでいます。レイノルズ数Reは、以下の式で算出できます。

流体全体の運動量の慣性力 (速度x長さ) ÷動粘性で計算される物理量 (無次元量)

例えば、自動車の走行について精密な模型を実機の1/10のサイズで作成した場合を考えると、この時、風洞の風速を実際の走行の10倍に設定すれば、レイノルズの相似則を満足することができます。ただし、動粘性は温度によって変化するため、実際の走行と風洞速度で動粘度を一致させるのに温度の調整も重要となります。

風洞の種類

風洞は、大きく分けて2種類あります。

1. 単純吹き出し型

単純吹き出し型は、エッフェル型風洞とも呼ばれ、構成が単純であり設置スペースも小さいなどの長所がある反面、風を与えるための必要な動力が大きいなどの短所があります。

2.回流型

回流型は、風速を発生させるための動力が小さく流れも安定しやすいですが、気流の温度上昇が著しいという短所があります。また、装置自体も大がかりになりやすいです。ゲッチンゲン型風洞が有名です。

風洞のその他情報

CFDの活用

風洞実験の結果をシミュレーションで予測するCFD (Computational Fluid Dynamics、数値流体力学) の技術が昨今急激に進化しています。風洞は実際の試験装置や建築物に比べてスケールダウンした模型を扱いますが、それでもその試作費用と工数には費用を伴います。

一方でCFDの場合、PCやソフトウエアの導入費用は掛かりますが、その後の運用費用は風洞実験に比較すると抑制することが可能です。ただし、CFDのデータのみで風洞実験なしでの設計が大丈夫なレベルに到達するには、データの積み上げや細部のパラメータの決定という取り組みが不可欠です。いわば、CFDと風洞実験のデータ検証の補完関係により、設計精度の向上と工数コストの低減が日進月歩で進められています。

参考文献

https://www.aero.jaxa.jp/spsite/wind-tunnel/001.html
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jvs/32/124/32_20/_pdf/-char/en