メカニカルシール

メカニカルシールとは

メカニカルシール

メカニカルシールは、回転軸からの液体の漏れを低減するものです。具体的には、ポンプやコンプレッサなど回転機構を有する機械の回転軸に使用され、回転軸から水や油などの液体を漏れにくくするのを目的としています。

メカニカルシールの使用用途

メカニカルシールは液体を使用しており、回転機構を有する自動車や産業用プラントなどの工業用機械、住宅用の設備などで幅広く使用されています。

液体ごとに特性が異なるため、液体に応じてメカニカルシールに使用される材料や機構を適切に選定することが重要です。適切な選定を行えば、危険な液体の漏れも防止できて環境問題対策になり、かつ回転を効率的に行えるため、省エネ化や装置の安全性の向上に寄与することができます。

メカニカルシールの原理

メカニカルシールは、機械の回転部分の回転軸方向に回転する「回転環」と、回転しない「固定環」が基本構造です。そして、回転環に設けられた環状の「シーリング」を固定環に設けられた「フローティングシート」に押し付けて摺動させ、これらの摺動面に液体が漏れない程度の隙間を形成して液漏れを防止しています。

このような構造と原理であることから、メカニカルシールの種類によっては、高回転や高圧力のもと、危険な液体の漏れを防止することも可能です。

メカニカルシールの種類

メカニカルシールは、様々な種類があり、回転環のシーリングの特性や取り付け位置、設置方法などによって特性が異なります。種類としては、アンバランス型、バランス型、回転型、静止型、インサイド型、アウトサイド型が一般的です。

1. アンバランス型・バランス型

回転環のシーリングの特性により、アンバランス型とバランス型に分けられます。液体による圧力が決定される要因は、回転環のシーリングの液体側の受圧面積(A1)です。

この時、受圧面積(A1)と摺動面積(A)の関係が、A>Aであると、液体の圧力がそのまま摺動面圧に影響します。一方で、A<Aである場合には、液体からの圧力が低減されます。

このA1とAの比、A/Aはバランス比(B.V.)と呼ばれ、液体の圧力の影響を強く受けるB.V.>1のものがアンバランス形、圧力の影響が弱いB.V.≦1のものがバランス形です。

2. 回転型・静止型

シーリングが軸と同期して回転する機構が回転型で、シーリングが固定されており、回転しない機構が静止型です。回転型は静止型に比べると小型にできますが、高速回転の場合、シーリングが変形しやすくなり、不良につながる恐れがあります。

3. インサイド型・アウトサイド型

漏れる液体が、外から内の方向に進む機構をインサイド型、内から外の方向に進む機構をアウトサイド型と呼びます。インサイド型は液体が遠心力の影響を受けるため、密閉性が向上するのが特徴です。

一方のアウトサイド型は、液体がメカニカルシールに接する部分が少ない構造にできるため、腐食の影響を受けにくい利点があります。

メカニカルシールのその他情報

1. メカニカルシールとグランドパッキンの比較

回転機の回転部分からの液体の漏れを防止するには、メカニカルシール以外にグランドパッキンも有用です。そこで、メカニカルシールとグランドパッキンの特徴とメリット・デメリットなどを解説します。

メカニカルシール

  • 漏れ量: 微小
  • 構造: 複雑
  • コスト: イニシャル(導入時)=大 ランニング=小
  • 寿命: 比較的長い

グランドパッキン

  • 漏れ量: 使用にはある程度の漏れが必要
  • 構造: 簡単
  • コスト: イニシャル=小 ランニング=大(定期交換が必要、増し締めにかかる手間を配慮)
  • 寿命: 比較的短い

使用する流体によって、メカニカルシールとグランドパッキンを使い分けますが、水など多少洩れても危険がない場合はグランドパッキンが一般的に使用されます。逆に危険物など漏れさせたくない場合はメカニカルシールが使用されるケースが一般的です。

流体以外に粉体を使用する機器については、グランドパッキンが多く使用されます。なお、排水などの流体に異物が混入しているものやスラリー液などの液体に粘性があるものを使用する機器にメカニカルシールを使用する場合には検討が必要です。

これらの液体が、摺動面間に混入、または摺動面に固着すると、摺動面に傷が付き漏れ出す可能性が高くなります。また、シーリングやメカニカルシールを押し付けるためのスプリングの中に入り込んで固着すると、スプリングの追従性が損なわれてしまい、漏れにつながるケースもあります。

2. メカニカルシールの寿命

メカニカルシールの寿命は機械の仕様に大きく左右されます。使用流体、機械稼働時間、稼働回数、流体温度などが主な寿命決定要因です。基本的にはそれまでの導入実績からおよその寿命を暫定的に決定し、周期交換として設定しますが、一般的に2年交換とされています。

機器の重要性にもよりますが、交換周期が設定されていないものについては、目視での漏れ量が多くなったら交換のタイミングです。メカニカルシールでは、非接触でシールすることができます。

このため、摺動面を均等に保つスプリングや流体の侵入を防ぐパッキン類が摩耗しない限りメンテナンスフリーで使用可能です。しかしながら、消耗品は経年劣化するため漏れを防ぐために、消耗品は定期的に交換する必要があります。

参考文献
https://www.jstage.jst.go.jp/article/tribologist/58/2/58_58.02_102/_pdf
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsmemag/64/512/64_KJ00001466293/_pdf
http://www.mohno-pump.co.jp/learning/manabiya/a3a.html
https://www.torishima.co.jp/jp/ecopump/news/vol67.html
http://energy-kanrishi.com/mecha-grand/
https://yuaigiken.com/yuai-school/

騒音計

騒音計とは

騒音計

騒音計は環境騒音や機械が発する騒音を測定する装置です。

サウンドレベルメータとも呼ばれます。騒音測定では単純な音量測定ではなく、人がどのように聞こえるかを考慮することが必要です。そのため、大きく聞こえる音や不快音の音圧を重みづけして算出した『騒音レベル』を用いて騒音の度合いを測定します。

騒音の測定精度に応じて、普通騒音計と精密騒音計の2種類があります。

騒音計の使用用途

騒音計は、主に産業用途で使用されます。

建設現場や工場での機械騒音を測定するために使用されます。騒音の許容限度は法律で定められており、建設工事時や新規機械導入時は騒音基準を満たすかの確認が必要です。

また、住宅を建設する際には、住宅内部の騒音レベルを基準値以下にしなければなりません。したがって、建設前に周辺道路や電車などから発する騒音の測定を行う際に騒音計が使用されます。

騒音計の原理

騒音計の構成は、マイクロホン、増幅アンプ、周波数重み付け部、騒音レベル演算部、表示部などです。騒音計の原理は以下の3ステップに分けられます。

1. 測定対象場所における収音

マイクロホンの役割は周辺の音を拾い、それを電気信号に変換することです。マイクロホンには振動膜が使用され、振動膜の振動周期によって周波数を測定し振動幅によって音圧を測定します。その後、マイクロホンから発生した電気信号を増幅アンプで増幅させます。
マイクロホンの測定精度によって普通騒音計と精密騒音計の2種類に分類されます。

2. 周波数重み付け

周波数重み付け部で増幅された電気信号の周波数は、人が聞き取りやすい周波数に応じて重み付けされます。

3. 騒音レベルの演算

騒音レベル演算部の役割は、重み付けされた周波数と音圧を使用して騒音レベルを演算することです。演算時は、等ラウドネス曲線を利用して算出されます。

騒音計の選び方

騒音計は数千円~数十万円まで、幅広い価格帯で多種多様な製品が販売されています。使用する際は用途応じた選定が必要です。

1. 精密騒音計の選定

大学の研究や音響機器の評価・開発など、信頼性の高いデータが必要な場合には精密騒音計を選定します。
精密騒音計は、計量法またはJIS規格に準じた仕様で製造されているため、裁判所などの公的機関でも使用できるデータを取得できます。測定精度は0.7dB以内、周波数帯は20~12500Hzで測定が可能です。
非常に高性能な精密騒音計ですが、その分価格は約20万円と高額です。

2. 普通騒音計の選定

公的機関に提出するほどの精度は要求しないものの、工場や住宅の環境騒音をしっかり測定したい場合には普通騒音計が適しています。
普通騒音計も計量法またはJIS規格に適合しており、1.5dB以内の測定精度と20~8000Hzの周波数帯で測定ができます。価格は10万円程度の製品が多いようです。

3. 簡易騒音計の選定

騒音レベルを目安として確認したい場合は簡易騒音計が最適です。
精度や周波数帯など性能の面では前者に劣りますが、価格は数千円台から購入でき、誰でも手軽に騒音測定ができます。

4. 周波数特性の選定

騒音計を選ぶ際は周波数特性への考慮も必要です。周波数特性には「A特性」と「C特性」の2種類があります。
「A特性」は人間の聴覚感度に合わせてを周波数を重み付けします。生活騒音などを測定するのに適しています。基本的にはどの製品もA特性を基準としていることがほとんどです。
どの周波数帯でも感知しやすいのが「C特性」です。モーターの駆動音などを正確に測定したい場合は、周波数特性の影響を受けにくいC特性の製品を選定します。

騒音計のその他情報

騒音計の使い方

騒音計を使う際に最も注意すべきことは反射音の影響です。音は物体にぶつかると反射する特性があるため、測定時はなるべく壁等から離れた位置に騒音計を設置します。できれば3.5m以上離すのが理想です。

また、騒音計は三脚等で固定し、マイクロフォンを対象音源に向けて設置します。測定者が騒音計を持って測定する場合は、体からの反射音を拾わないようになるべく体から離して測定します。

参考文献
https://www.jstage.jst.go.jp/article/souonseigyo1977/2/6/2_6_3/_pdf
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jasj/55/5/55_KJ00001457189/_pdf
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jasj/67/12/67_KJ00007695287/_pdf/-char/ja

万能投影機

万能投影機とは

万能投影機

万能投影機とは、測定対象を正確な倍率でスクリーン上に拡大投影し、拡大された像から形状や寸法を観察・測定する装置です。

万能測定機は光学測定なので、測定対象物に非接触で測定・観察が可能で、測定対象物を傷つけることがありません。また、スクリーンに拡大投影して計測するため、複数の人が同時に観察することもできます。取り扱いが簡単な点がメリットです。

スクリーンの大きさは300~500mm程度が主流ですが、大きいものには1,000mm以上になる製品もあります。万能測定機は構造が単純で安価、場所を選ばず導入できるため、現在でも根強い需要を保っている測定機です。

万能投影機の使用用途

万能投影機は主に、工業製品の生産現場や品質保証分野で使われています。電源投入すれば即使用できる上、スクリーン上に拡大投影されることから、製造ラインでの品質確認には便利な測定機です。

加工品の輪郭形状の観察や寸法測定 に用いられ、さらにテンプレートを用いた比較測定にも有用です。測定対象は主には金属部品や樹脂成型品などですが光学測定のため、生物など、光と透過するものの観察もできます。また、簡易的ながら表面の観察をする機能を備えた機種もあるため、使用場面や分野は幅広いです。

万能投影機の原理

投影機は、測定対象に光を透過させて作った影をレンズを通すことでスクリーンに拡大した像を投影します。そのため、ステージの測定対象を置く部分は、ガラスなどのように光が透過できるよう透明体で透過率が高くなければなりません。

透過照明の光学系には、テレセントリック光学系が採用されています。テレセントリック光学系は焦点が合っていない状態でも像がぼやけるだけで、大きさを変えることがないのがメリットです。

なお、万能投影機は焦点から結像までを1つのレンズユニットで行うため、レンズの大きさと倍率により、焦点からスクリーンまでの距離が自然と決まります。スクリーンや装置の大きさに限りがある点に注意が必要です。

万能投影機のその他情報

1. 万能投影機の誤差要因

万能投影機で測定する際の誤差要因として代表的なものは、測定誤差と倍率誤差です。万能投影機は、基本的にスクリーンに映されたエッジを目視で位置合わせして測定するため、目視による合わせ誤差や、作業者の癖によるかたよりが無視できません。

測定物の傾きとXYステージの平行が一致していないことによる誤差や、万能投影機本体や測定物の水平が出ていないことによる誤差も測定誤差の一因となります。また、万能投影機はその測定原理から、光源からスクリーンまでの光が平行光になっていません。

そのため、内部に取り付けられたミラーが傾いていると、スクリーンの中央と端では倍率に差が出てしまいます。これを倍率誤差といい、倍率誤差が大きくなりすぎると、光軸中心から外れた箇所での測定値の信頼性が落ちてしまいます。

2. 万能投影機という名称

投影機について規定しているJISはJIS B 7184になりますが、万能投影機という名称は規定されていません。JISでは測定投影機という名称で規定されています。つまり、正確に言うと、万能投影機という名称はJISに規定された製品ではありません。しかし、メーカー各社には万能投影機という名称でラインナップされています。

JIS B 7184は1972年に制定され、その際は投影機もしくは万能投影機として規定されました。しかし、1999年に書換えられ、その際に万能投影機の名称を測定投影機に差し替えました。万能投影機という名称からは、あたかも万能な測定機のように捉えられてしまい測定機の名称としてふさわしくない、という理由からです。

そのため、それ以前に開発された製品には万能投影機という名称が残っている製品もありますが、決してJIS規格から外れた製品というわけではありません。ただし、測定に必要なスケール、カウンタ、角度表示などができるものという規定があります。これらが搭載されていない投影機は、JISに当てはまるとは言えないので注意が必要です。

参考文献
https://www.keyence.co.jp/ss/products/measure-sys/measurement-selection/type/projector.jsp

形状測定機

形状測定機とは

形状測定機

形状測定機とは、物体表面の形状を正確にトレースすることで、輪郭形状を記録、解析、測定するための装置です。

形状測定機は、大きく2つのタイプに分けられます。スタイラスと呼ばれる触針を用いる接触式タイプと、レーザ等で表面をなぞる非接触式タイプです。非接触式の形状測定機の場合、測定作業は比較的容易に行えますが、物体表面の材質や性状に大きく左右されることもあります。そのため、接触式の形状測定機が主流です。

形状測定機の分解能は高く、輪郭形状のトレースは0.001mm以下で行うことができます。しかしス、タイラスの可動範囲を超えた測定はできないため、高さ方向が大きい測定をする際には、十分に検討する必要があります。

形状測定機の使用用途

形状測定機は、金属を中心とした工業製品の開発、生産、品質管理などに使用されています。形状測定機によって計測される項目は、測定対象物の寸法、角度、段差、ねじピッチなどの、輪郭形状の測定・解析に関わるもの全般です。

形状測定機の中でもCNC制御が可能な機種は、一連の測定動作をプログラムとし、生産ラインサイドでの自動計測として使用されることもあります。例えば、ペットボトルの蓋のねじ形状などのように規格化されたものは、形状測定機により品質管理されることが一般的です。また、形状そのものに特許を取得した製品などは、その輪郭形状を細かく規定しています。

形状測定機の原理

ここでは形状測定機の主流となっている、接触式の形状測定機の原理について説明します。接触式の形状測定機は、測定対象の輪郭形状を、水平方向に移動する検出器と検出器に取り付けられたスタイラスの上下動の変位をプロットします。

スタイラスを動かしながら、デジタルスケールにより0.001mm程度のピッチで、水平方向の移動によるX座標と、スタイラスの上下位置のY座標をプロットし続けることで輪郭形状をトレースして行きます。

多くの形状測定機のスタイラス上下動は、ピボットと呼ばれる中心を軸に円弧運動です。そのため、スタイラスが水平位置からの上下動が大きくなるほど、円弧による水平方向の誤差が発生します。スタイラス先端の位置は、この誤差を常に補正しながら検出する必要があります。

また、スタイラス先端が測定対象に接触し続けるため、スタイラスが摩耗します。スタイラスが摩耗することで、摩耗量に応じてスタイラス先端の位置が変化します。定期的にスタイラス先端の形状を確認し、摩耗量に応じた補正を行う必要です。

形状測定機のその他情報

1. 形状測定機と輪郭形状測定機の違い

通常、形状測定器と輪郭形状測定機は同じものを指します。しかし、厳密に意味を分けて名称を使用しなければならない場面は、以下のような場面です。

厳密に両者を分ける場合、輪郭形状を連続測定なのか、非連続測定なのかで分けます。つまり、輪郭形状測定機はスタイラスが常に接触し続ける連続測定であり、形状測定機は連続測定以外も含まれす。例えば、等間隔のピッチである程度離れた距離の変位を測定し、その測定点を結ぶことで形状を表すような場合です。

測定ピッチの間の変位は測定できないので、ピッチを短くするか、測定点の座標から近似式を求めて補完することになります。そのため、測定ピッチの細かさにより、正確に形状を測定できるトレース力や最小分解能などの精度が異なってきます。

2. ハンディタイプの形状測定機

据え置き型の形状測定機では測れないほどの巨大なもの測定する場合や、ラインサイドで簡易的に測定する場合は、ハンディタイプの形状測定機を使用します。

巨大なものをハンディタイプの形状測定機で測定する場合、全体の形状測定を行うことは不可能です。寸法公差が厳しく求められる個所や、形状の変化が機能や性能、安全性に大きく影響する箇所など、測定個所を限定して使用します。

3. 表面粗さ測定機を形状測定機として用いる場面

表面粗さ測定機の測定原理は、水平方向のX軸とスタイラスの上下動であるZ軸方向の変位を組み合わせて測定します。これは、形状測定機でも同様の測定原理なので、X軸とZ軸の測定可能な範囲であれば、表面粗さ測定機を形状測定機として用いることも可能です。

ただし、表面粗さ評価は形状測定よりも高い精度が求められるため、スタイラスの先端形状や、検出器もより高精度の分解能が必要になります。

参考文献
https://www.keyence.co.jp/ss/products/measure-sys/measurement-selection/type/shape.jsp

回転ステージ

回転ステージとは

回転ステージ (英: rotating stage) とは、装置や物体を取り付ける回転台です。

回転ステージに取り付けた物体の向きや角度を任意の状態にしたり、位置決めや計測を行うために使用します。回転する方法は手動や電動などです。制御方法がオープンループやフィードバック制御のもの、大きさも大小さまざまあるので、用途によって使い分けが重要です。

また、回転動作は加工や計測など、その後に何らかの動作が伴うという目的があって行うことが多いため、回転テーブル単体で使用される場合は少なくなっています。

回転ステージの使用用途

回転ステージは、半導体ウェハなどを固定して、検査、精密計測、モーションシミュレータなどを行います。また、オプトメカニクス部品を固定して、精密計測をします。

回転ステージ自体の取付方向は、さまざまな向きに取り付けて使用可能です。加工や測定の対象物と装置の機構部品のどちらを回転させる方が効率が良いかを考えた上で、使用されています。

大まかな角度が必要な場合は手動による粗回転、細かい角度調整が必要な場合は微動回転を使用するなど、用途に応じて高精度なものが求められます。

回転ステージの原理

回転ステージの回転台を支持する構造として、クロスローラベアリングを使用するもの、摺動方式のもの、及びアンギュラベアリングを使うものなどが実用されています。

1. クロスローラベアリング方式

クロスローラベアリングとは、90°のV溝を有するローラレースと円筒コロから構成される軸受です。円筒ローラは、45°の接触角を持って直交に互い違いに配列されます。ボールベアリングにおける背面受け構造を1列で実現でき、多方向からの荷重を同時に受けることが可能な構造です。

回転ステージを駆動すると、ローラレース上を複数の円筒コロが転がるため、停止時から起動時への摩擦の変化がほとんどない特徴があります。クロスローラベアリングは、線接触で荷重を支えており、ボールガイド機構よりも剛性が高い方式です。また、回転台とクロスローラベアリングは直結させることができるので、構造部品を少なくすることも可能です。

回転ステージの回転精度は、ローラの精度に依存するため、ローラの精度等級によって高い回転精度を得ることができます。また、クロスローラベアリングは摩擦力が小さく、軽い力で動作させることができるので、微動回転機構にマイクロメータヘッドなどが使用可能で、高い位置決め精度を得られます。

回転機構にステッピングモーターを接続することで、回転の角度や方向、動作手順などを自動化することもできます。

2. 摺動方式

回転ステージの一面と固定側の一面が面接触して摺動する方式です。アリ摺動と呼ばれます。機構が簡素で、隙間に汚れが入りにくい構造です。支持する面積が広いので、衝撃荷重や大荷重に耐えることができます。

3. アンギュラーベアリング方式

アンギュラーベアリングは、接触角を有するベアリングで、一方向のアキシャル荷重を受けるものです。回転ステージに使用する場合は、アンギュラーベアリングを2個使用して、互いに向かい合わせに配置します。この方式により、アキシャル荷重とラジアル荷重の両方に剛性が大きくなります。

4. モータ駆動

電動式の回転ステージには、ステッピングモータが多く使われます。基本ステップ角は、0.36°、分解能は、フルステップで0.004°、1/20分割のマイクロステップで0.0002°前後です。

回転ステージの特徴

1. 微動機構

回転ステージには、360°回転可能な粗動回転機構の他、特定の範囲を微細に回転ができる微動回転機構が付いています。微動回転は、精密マイクロメータを使用してウォームとギア駆動で回転させます。

微動回転できる範囲は、±3~5°が一般的です。分解能は、5 arc-min程度のバーニヤ目盛です。

2. 高剛性

回転ステージは、がた、ふらつき、ぐらつき、バックラッシュなどを非常に小さくしています。軸方向のふらつきは、500μrad以下が一般的です。

3. 機能性

クラス100のクリーンルームで使用できる回転ステージもあります。また、多くは欧州RoHS指令に準拠した製品です。粗動回転機構と微動回転機構は、ねじによりロックが可能です。

参考文献
https://www.thorlabs.co.jp/newgrouppage9.cfm?objectgroup_id=12958

真円度測定器

真円度測定器とは

真円度測定器

真円度測定器とは、円筒や球などの断面が円形となる形状をした物体の真円度を測る装置です。

真円度は、JIS B 0621において「円形形体の幾何学的に正しい円からの狂いの大きさ」と定義されています。これは、測定された物体の断面形状を幾何学的に正しい2つの同心円で挟んだとき、その2つの円の半径差が最小となるものを真円度として表すということです。

真円度測定器には、検出器を固定して回転ステージにより測定対象を回転させるステージ回転型と、測定対象を固定して検出器が回転するプローブ回転型の2種類があります。

真円度測定器の使用用途

真円度測定器は、部品などのさまざまな物体の一断面における真円度を測定する際に使用されています。例えば、油圧回路のバルブや弁では、オイルのシール性や気密性を確保するために、高精度で厳しい寸法公差が設けられています。

ベアリング部品においては滑らかでフリクションの少ない軸受機能を果たすために、真円度は重要な特性です。機械部品でも、高精度を求められる部品の品質保証に用いられます。また、真円度を測定する目的は、軸物の寸法形状の測定だけではなく、表面性状を測る目的もあります。

真円度測定器の原理

先に述べたように真円度測定器には2種類ありますが、動作の違いによるものです。どちらもメリットデメリットがありますが、ここではより高精度な測定が実現しやすいテーブル回転型の原理について述べます。

テーブル回転型の真円度測定器の構成は、ロータリエンコーダにて回転角を検出できる回転テーブルと、テーブルの回転と同期してワークの表面を変位を検出する検出器の2つです。測定対象を回転テーブルの上に載せて回転させながら、測定対象の表面の変位をプローブで検出します。回転角度とワーク表面の変位を360°記録して得られたプロファイルから、真円度が求められます。

真円度測定で気をつけなければならないのは、測定対象の中心軸と回転時にズレが生じると、振れ回りが発生して誤差の原因となることです。また、回転軸とプローブの変位方向の角度が直角でない場合も誤差につながります。

真円度測定器のその他情報

1. 基準円と真円度の種類

真円度を評価する際には基準となる基準円を定義する必要があります。基準円の求め方には4種類あり、基準円に合わせてそれぞれ真円度が定義されます。

最小二乗基準円 (LSC) 
最小二乗基準円とは、この基準円を測定対象物に当てはめた際に、基準円よりも外側にある部分の面積と、基準円より内側にある面積が等しくなる基準円です。この最小二乗基準円から最も近い部分の距離と、最も遠い部分の距離との差が、最小二乗真円度として評価されます。

最小領域基準円 (MZC) 
最小領域基準円は、測定対象物を外側と内側から挟むように配置した2つの円のうち、2つの円の直径の差が最小になる同心円であり、2つの円の差が最小領域真円度として評価されます。JISの定義に則した基準円と真円度です。

最小外接円 (MCC)
最小外接円は測定対象をすべて囲むことができる円で直径が最小になる円です。最小外接円から測定対象の輪郭まで、最も遠い距離が最小外接真円度として評価されます。

最大内接円 (MIC)
最大内接円は測定対象に対して内接する円の中で、最も大きな円です。最大内接円から測定対象の輪郭まで、最も遠い距離が最大内接真円度として評価されます。

2. 真円度と円筒度の違い

真円度に類似した幾何公差に円筒度があります。両者の違いは評価する範囲の違いです。真円度は任意の断面について評価しますが、円筒度では軸方向にある範囲を持った評価が行われます。

評価範囲が真円度よりも広いので、精度を確保することは難しくなります。真円度と円筒度のどちらを指示するのかは、部品の機能から判断することが大切です。真円度はテーパー形状など、断面によって直径が異なる形状にも評価できますが、円筒度は軸方向に同一直径をもつ円柱にしか指示できません。

参考文献
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjspe/82/9/82_803/_pdf

除振台

除振台とは

除振台とは、地盤、基礎、床などの周囲から伝達する振動が機器に伝わらないよう振動を低減させるための装置です。

「除振」は振動絶縁とも言われ、周囲から発生する振動を、対象とする機器などに伝えないようにすることを指します。類似の用語である「防振」は、振動源から発生する振動を、周いに伝えないようにすることです。既に発生した振動が伝わるのを防ぐのか、それとも振動源に対して対策をするのかによって使い分けられます。

さらに、「制振」という言葉もありますが、制振は振動を抑えたい対象に対して、直接作用することにより、振動を減衰させることです。除振台のタイプには、周囲からの振動を抑制して防止するパッシブ型の除振台と、センサーとアクチュエータにより振動を減衰する動きを行うアクティブ除振台とがあります。

除振台の使用用途

除振台は、精密な加工を行う機器や、電子顕微鏡の土台として使われます。精密測定機器、半導体・液晶製造検査装置、超精密加工機といったミクロンオーダーの加工・計測を行うためには振動による影響を最小限にすることは欠かせません。

電子顕微鏡などで高倍率で観察する場合にも、振動を抑えることが重要です。

除振台の原理

除振台には、パッシブ型とアクティブ型があります。どちらのタイプの除振台が優れているということはなく、使用目的や周囲環境、振動の固有振動数などにより、最適な方法を選択することが大切です。

1. パッシブ型

パッシブ型の除振台は、スプリングなどの弾性とダンパーとなる粘性を組み合わせたものです。弾性はスプリングが代表例であり、自ら変形することによって振動のエネルギーを一時的に蓄え、一時的なエネルギーの蓄積で振動を低減させます。

粘性は空気や流体などの粘性を使って、振動のエネルギーを熱に変換して吸収するものです。スプリングが蓄えた振動エネルギーをダンパーが熱に変換することによって、振動は吸収されます。

また、スプリングやダンパーの動きの早さも除振の原理のポイントです。振り子をゆっくり大きく動かすと大きく振れますが、早く細かく動かすとほとんど動きません。

2. アクティブ型

アクティブ除振台は、床などに固定されたセンサーが常に外部の振動を感知しており、アクチュエータを通してその周波数と逆向きの周波数となるような振動を発生させています。これによって、外部の振動と除振台が起こした振動をが打ち消しあい、装置は静止した状態を維持することが可能です。

なお、アクティブ型の除振台の制御方法は、装置もしくは除振台の振動をセンサで感知するフィードバック制御と、床や地面の振動を感知するフィードフォワード制御に分けることができます。

除振台のその他情報

除振性能を示す振動伝達特性とは

除振台の性能を示すデータが振動伝達特性のグラフです。縦軸に振動伝達率 (db) をとり、横軸には振動周波数 (Hz) がとられます。振動伝達特性は一般的に、縦軸と0で接して上昇しある周波数でピークを迎え、周波数が高くなるにつれて富士山の稜線のようななだらかな円弧状の曲線を描いて低下していきます。

縦軸の0は振動伝達率が0dbである、同期という状態です。対象物はちょうど、振動源と一体となったように同じ動きをすることを示します。つまり、振動はそのまま伝わる状態です。

振動伝達特性のピークの部分は「共振」と呼ばれる状態です。発生した振動に対して、対象物が非常に大きく振動することを意味しており、場合によっては機械は破壊することにもなりかねません。共振は機械では避けるべきポイントです。共振から周波数が高くなり、振動伝達率が0よりも小さいマイナスになる領域が除振領域になります。

除振台を選ぶ際には、設置環境の振動の周波数を振動伝達率の大きさから、どの程度振動を抑えることができるのかを判断することができます。

参考文献
http://www.herz-f.co.jp/data/avs/
http://www.meiritz.jp/support/tech/joshin.html

測定顕微鏡

測定顕微鏡とは

測定顕微鏡

測定顕微鏡とは、顕微鏡で拡大観察した映像から寸法を計測する寸法測定機です。

正確な倍率で拡大された光学顕微鏡と、比較測定を行うためのテンプレートなど、測定ワークを平面上で精密に動かすためのXYステージなどが組み合されています。測定顕微鏡を使えば非接触による測定ができるので、ワークを傷つけずに、輪郭形状や表面の観察が可能です。

測定顕微鏡では、光学系にテレセントリック光学系を用いたものが一般的です。近年では、光学ヘッドに無限遠補正光学系を採用し、微分干渉観察や簡易偏光観察ができる仕様もあります。

測定顕微鏡の使用用途

測定顕微鏡は比較的小型の機械部品、電子機器部品、半導体製品の生産や品質管理に使用されます。顕微鏡で拡大しなければ計測が難しい、小さな部品、細かい部位の計測に適した測定機です。

また、寸法測定だけではなく、半導体基板のキズの検出など、偏光や微分干渉を用いた観察にも用いることができます。拡大倍率の正確さから、テンプレートを用いた比較測定を行うことで、製品が公差の範囲内にあるかを判定する簡易検査にも有用です。

測定顕微鏡は測定機としても顕微鏡としても用いることが可能で、1台あればさまざまな用途に使用できます。

測定顕微鏡の原理

測定顕微鏡は、照明方法によって分類することができます。

1. 透過照明

透過照明は光を透過させて物体の影を輪郭形状として捉え、寸法測定を行うための透過照明です。輪郭部を測定するために用いられます。

2. 垂直反射照明

垂直反射照明は、物体の表面に垂直に光を当て、反射光で表面を観察します。垂直反射照明は寸法計測だけでなく、表面形状の観察も可能です。

3. 斜め反射照明

斜め反射照明は、測定物の表面に対して斜めに光を当てる照明方法です。特徴は像のコントラストが強調されるので、立体的かつシャープな映像が得られます。ただし、寸法測定においては誤差を生じやすくなります。

測定顕微鏡のその他情報

1. テレセントリック光学系

ほとんどの測定顕微鏡は、透過照明にテレセントリック光学系を採用しています。テレセントリック光学系を用いていない顕微鏡は、近くのものが大きく、遠くのものは小さく見えるようになります。

この現象は、私たちが日常的に使うカメラでも同じです。しかし、この特性は寸法測定において、高さ方向に違う部位に対して、遠くにある部位は小さく計測してしまうことになってしまいます。

テレセントリック光学系によるレンズでは、レンズに対する距離、光軸方向にピントをずらした場合でも、像はボケても大きさは変わりません。顕微鏡で観察しながら寸法測定をする寸法測定顕微鏡において、テレセントリック光学系は不可欠です。

2. 測定顕微鏡の平行出し

測定顕微鏡は測定物を、XYステージの上に載せて測定します。そのため、測定個所はXYステージの稼働範囲内であればどこでも構いません。つまり、測定物がXYステージのどこにあっても、XYステージを測定個所まで動かして測定すればよいということになります。

測定する角度や円径の中には、XYステージを大きく動かす必要のあるものもありますが、特に調整せずに測定物の輪郭がXYステージの動きと並行に置かれていることはありません。そのため、測定前にXYステージの動きと測定物の基準となるエッジを平行にする作業が必要です。

また、測定物とXYステージの平行出しができていないと、角度や平行度の測定時に大きな誤差が生じてしまいます。そこで、測定結果を補正するための計算が必要になります。近年では、メーカーにはXYステージ上に座標系を作り、原点と測定点の座標から計算してくれる測定装置がラインナップされています。それを用いることで、平行出しの工数を削減することが可能です。

3. 測定顕微鏡の視野

顕微鏡は対象物を大きく拡大観察できることが大切ですが、一度に広い視野が得られることも重要です。顕微鏡を使って一度に確認できる範囲を視野といい、視野は接眼レンズの直径で決まります。

視野の大きさは視野数といい、視野内に測定物の表面のどのくらいの範囲が見えているかを表したものが実視野です。実視野とレンズの倍率の関係は、以下のようになります。

実視野 = 接眼レンズの視野数/対物レンズの倍率

上記の式から分かるように、接眼レンズの視野数が同じであれば、実視野の範囲は対物レンズの倍率が大きくなればなるほど狭くなります。このことから、対物レンズの倍率を大きくして測定物を拡大して見ることと一度に見ることのできる範囲は、トレードオフの関係にあることが分かります。

実視野を大きくする場合は、接眼レンズの直径を大きくするか、対物レンズの倍率を下げなければなりません。しかし、測定には必要な拡大倍率があるので、対物レンズの倍率を下げるには限界があります。そのため、測定顕微鏡は、XYステージと移動量を表示するカウンタ等を持ち合わせ、視野に入りきらない部分の測定を行う装置を搭載しています。

参考文献
http://www.nikon-instruments.jp/jpn/learn-know/measuring-instrument-abc/about-measuring-microscope

フェライトコア

フェライトコアとは

フェライトコア

フェライトコア (英: ferrite core) とは、フェライトと呼ばれる鉄を主成分としたセラミックの磁性体を、用途に応じて加工したものです。

フェライトを磁心とすることにより、高周波電流を阻止できるため、ノイズ除去としての効果が発揮されます。フェライトはその組成によって系統が分かれますが、ノイズ除去用にはNi-Zn系が主に用いられます。

この理由は、Ni-Zn系は絶縁加工が不要なことや高周波特性が優れていることなどです。リング状のフェライトコアにケーブルを通すことでノイズが除去できます。

フェライトコアの使用用途

フェライトコアは、電子機器のノイズ除去に使用されます。フェライトコアのノイズ除去効果は、ケーブルに外部から入るノイズだけでなく、ケーブル側から発生するノイズも除去可能です。

フェライトコアは、単純で安価なノイズ対策部品であり、取り扱いが簡単な特徴があります。したがって、基板や回路の設計変更が不要で、ノイズ対策を行うことができます。そのため、最終仕様を確定させる前の実験的方法として、また応急的なノイズ対策として用いることも可能です。

フェライトコアの原理

フェライトコアがノイズを除去できる原理は大きく分けて2種類あります。1つ目は高周波をカットするフィルターの作用をし、高周波電流に起因するノイズを除去することです。

フェライトコアの穴に通したケーブルに電気が流れるとインダクタとなり、フェライトコアの磁化に応じてケーブルのインピーダンスが変わります。この時、インピーダンスが高周波帯域で高くなり、ノイズ成分である高周波電流の減衰が可能です。

フェライトコアのノイズ除去

図1. フェライトコアノイズ除去

2つ目はヒステリシス損失により、ノイズ電流が熱エネルギーとして放出されることです。フェライトコアによってインダクタが構成され、そこに交流電流が流れると、発生する磁場は時間とともに方向と大きさがある周期で変動します。

フェライトコアの磁化が一周することを、ヒステリシスループと呼び、その際に発生するエネルギーの損失を、ヒステリシス損失と呼びます。

フェライトコアの選び方

フェライトコアを選択する場合、留意することがあります。

1. 目安として150MHz以上の高周波帯域のノイズカットをする場合

  • フェライトコアの内径はケーブルに合わせ、外径が出来るだけ大きく、長さが長いタイプを選択
  • ケーブルはターンしないで使用
  • フェライトコアの形状ファクターにより、良好なインピーダンス特性を取得

2. 150MHzより低い周波数海域のノイズカットをする場合や装置内のケーブルのノイズ対策として使用する場合

  • フェライトコアの内径は大きく、長さの短いタイプを選択
  • ケーブルをターンして使用
  • ターン数により、良好なインピーダンス特性を取得

フェライトコアのその他情報

1. フェライトコアの材質

ソフトフェライトと呼ばれる軟磁性材料が、フェライトコアに使用されます。ニッケル、鉄、亜鉛などの遷移金属の酸化物が主原料です。ソフトフェライトは、その組成によって透磁率を変えられるため、インピーダンスを主原料の配合割合によって、チューニングが可能です。

インピーダンスは2つの成分、即ちリアクタンスとレジスタンスがあります。ノイズ除去用のフェライトコアは、材料の組成がレジスタンス成分を多く含みます。そのため、ノイズ除去は、高周波をカットするフィルターの効果に比べ、ヒステリシス損失によってノイズ電流のエネルギーを熱として放出する効果の方が大きいと言えます。

2. フェライトコアのノイズ除去性能

フェライトコアのノイズ除去性能は、インピーダンスによって評価されます。インピーダンスは、材料特性、形状ファクター、及び巻き数で決まります。

材料特性は、ソフトフェライトの組成で決まります。形状ファクターは、フェライトコアの断面積を平均磁路長で除した値です。したがって、断面積が大きく、内径が小さい形状のフェライトコアが、一般的には性能は良好です。ノイズ除去効果を上げる場合は、ケーブルをフェライトコアに複数回巻き付けることも有効です。

ただし、導線を2回以上巻きつける場合、巻き始めと巻終わりが接近するため、間に浮遊容量ができます。この浮遊容量によって、高周波成分への対策効果が低減するため、ノイズ低減したい周波数帯域を見極めながら、巻きつける必要があります。

参考文献

https://www.techno-kitagawa.com/techinfo/tech/ferrite.html
https://article.murata.com/ja-jp/article/basics-of-noise-countermeasures-lesson-8
https://techweb.rohm.co.jp/knowledge/emc/s-emc/01-s-emc/6899

トランス

トランスとは

トランス

トランスとは、電気的な交流電圧を電磁誘導を用いて変換する変圧器です。

正式名称はトランスフォーマーといいますが、既にトランスという単語で定着しています。電気製品などは交流のコンセントから電源を得ていますが、それらの電気製品の中にはモーターなど交流ではなく直流の電気で使用する部品が多数あります。

また、交流のまま使用できる部品であってもコンセントからの100Vの電圧では使用するのに電圧が高すぎるものも多いです。そのために電気製品は電圧や電流を変化させる目的で小さなトランスを内蔵し、常に最適な電圧で動作しています。

トランスの使用用途

トランスの主な使用用途は、交流の電圧を昇圧したり降圧したりするための電気機器としての用途です。

大きいものは変電所で発電所などから送られた高電圧の交流電圧値を下げるために使用されますが、小さいものはシェーバー等の海外旅行先でコンセントの電圧を適切な値に変えるための変圧器として使用されています。

トランスは産業用・家庭用にかかわらず幅広い用途で使用されており、電圧値を適切な値に変換するためになくてはならないものとなっています。

トランスの原理

トランスの原理は電磁誘導の法則を応用しています。

コイルに生じる磁界変動起因の起電力がトランスの巻き数に比例する物理現象を用いたものです。トランスの構造は、一般に鉄芯に2つのコイルを巻きつけた形をしており、入力側を1次コイル、出力側を2次コイルと呼びます。このコイルはコイル内の磁界の強さを変化させることで起電力が生じます。1次コイルに交流電圧をかけることで鉄芯に磁界が発生し、この磁界の電磁誘導作用により2次コイルに電流が誘導され起電力が発生します。

2次コイルに発生する起電力の大きさとコイルの巻き数は比例の関係にあり、1次側に対する2次コイルの巻き数によって電圧の大きさを変えることが可能です。理想的なトランスは入力側と出力側の電気容量が同じになることですが、実際には抵抗による電力損失があり、ほとんど熱として放出されます。

トランスの種類

1. 絶縁トランス

絶縁トランスとは、交流商用電源で電源ラインと機器の電源とを絶縁し、安全性を確保するためのトランスです。

電源がAC100Vの機器ではINPUT:100V / OUTPUT:100Vの絶縁トランスが使われます。商用電源は100Vまたは200Vの交流電源ですが、電力会社からの給電は最寄りの柱状トランスまではもっと高圧の電源で、柱上トランス2次側で正相、逆相の100Vを、中性線には0Vを取り出して接地されています。ここで絶縁トランスを使用していない機器で漏電が発生した場合、漏電した機器には対地電圧100Vの電圧がかかっているため機器を人が触れば感電してしまいます。このような場合に絶縁トランスを使うことにより、100V側と中性線側共に商用電源側の100V側と中性線側から絶縁されるので感電を防止することが可能です。

2. 柱上トランス

街でよく見かける電柱は電気を供給するための電線を保持するためのほか、変圧器 (柱上トランス) を設置するための柱でもあります。電柱はその約1/6が地面に打ち込まれており、最上部には高圧電線、その下に低圧電線があり、低圧電線の少し下に柱上トランスが設置されている場合があります。

柱上トランスは高圧電線から6600Vを受け、低圧側に100Vを供給するためのものです。また、低圧側(2次側)には正相100Vと逆相100Vが出ており、正相-逆相間で200Vが取れるようになっています (単相200V / 対地電圧は100V) 。

柱の高圧電線は6600Vで送電していますが、もっと長距離を送電する鉄塔ではさらに高い電圧が使われ、日本の送電最高電圧は50万Vです。高圧電圧で送電する理由は送電ロスを少なくするためです。電線は僅かとはいえ電気抵抗があり、流れる電流に比例した電圧ロスが発生します。送電ロスを少なくするには極力電流を少なくする必要があり、一定の送電電力の維持のために高電圧で送電しています。

トランスのその他情報

トランス構造の内部の鉄心にはケイ素鋼またはアモルファスが用いられていますが、アモルファスの場合はコストが高くなるため、ケイ素の含有率が4%程度、厚さ0.35mmのケイ素板を積み重ねた積層鉄心が使用されている場合が多いです。

トランスのコイルの巻き方には単巻と複巻があり、1次コイルと2次コイルが絶縁できるため通常は複巻を用いますが、サイズが大きくなる、コストが高くなるなどの理由から単巻を用いることもあります。

電圧変換損失での発熱対策のため、トランスは冷却の必要があります。このためのトランスが油入トランスまたは乾式 (モールド) トランスです。前者は絶縁油をトランス内部に浸して冷却を図っていますが、防災の観点から病院やオフィスビルではワニスやエポキシ樹脂による冷却機構を取り入れた乾式トランスやモールドトランスが広く普及しています。

参考文献
https://www.kitagawa-denki.co.jp/products/about/whats/
電気設備技術基準の解釈 第29条