耐熱樹脂とは
耐熱樹脂とは、高温環境においても変形や強度の低下を起こすことなく、機能を維持することができる樹脂素材です。
「高温」の明確な統一的定義はありませんが、通常、150℃もしくは200℃以上の連続使用に耐える樹脂素材を耐熱樹脂と呼ぶことが多いです。耐熱性を比較・評価する指標には、長期耐熱性、短期耐熱性、荷重たわみ温度、ガラス転移点などがあります。
代表的な耐熱樹脂としては、耐熱性の高い方から順に、PBI (ポリベンゾイミダゾール) 、PI (ポリイミド) 、PTFE (フッ素樹脂) 、PAI (ポリアミドイミド) 、PEEK (ポリエーテルエーテルケトン) 、PPS (ポリフェニレンサルファイド) などが挙げられます。最も耐熱性に優れた素材であるPBIは、連続使用温度が310 ℃にも達します。
耐熱樹脂の使用用途
耐熱樹脂は主に、航空宇宙・自動車産業や、電子・精密機器、医療機器などで利用されています。それ以外には、エネルギー分野における発電機器の部材、食品製造や化学処理装置における配管システム、梱包材、ポンプ、コンテナなどが挙げられます。
1. 航空宇宙・自動車産業
航空機や自動車のエンジン周辺は高温環境となります。耐熱樹脂は、従来の金属部品に匹敵する耐熱性を有しながらも金属部品より軽量な素材として、高温となる航空機や自動車のエンジン部材に使用されています。耐熱樹脂への代替により燃費の向上や機体・車体の軽量化が可能です。
具体的には、エンジン周辺部品や配管、内装部品、給排気系、電装部品、バッテリー周辺など様々な部材に利用されています。普段は高温環境ではない内装部材でも、耐熱樹脂を利用することで火災の際に有害ガスなどの発生を抑えることができるという利点があります。
2. 精密機器・電子部品
精密機器や電子部品の中には使用時に高熱になる可能性のある部材があり、熱による損傷を防ぐために耐熱樹脂が利用されています。消費電力の高い機器は特に発熱することが多いため、耐熱樹脂が積極的に利用されています。
具体的にはコネクタやケーブル被覆、ハウジング、電子部品の絶縁材として利用されている場合が多いです。耐熱樹脂を用いることで製品の耐久性を高め、安定した動作が可能です。スマートフォンなどの精密機器にも耐熱樹脂が用いられています。また、高温環境で動作するセンサーや半導体製造装置の部品にも適しています。
3. 医療機器
医療機器部品は、オートクレーブなどによる高温の滅菌プロセスに耐えることが必要です。耐熱樹脂は、オートクレーブによる滅菌が可能なため、医療分野で様々な製品に利用されています。
手術器具、器具トレイ、滅菌装置、オートクレーブハウジングへの耐熱樹脂などの器具類のほか、PEEK樹脂などの生体適合性が高い樹脂は人体へ直接使用するインプラントや人工関節、医療用チューブなどにも利用可能です。耐熱樹脂は金属に比べて軽量で成形性が高いというメリットがあります。複雑な形状の部品成形にも対応し、医療機器の小型化・軽量化に貢献します。