サンプリングオシロスコープとは
サンプリングオシロスコープとは、高速に変化する信号波形を観測するために使われる電子計測機器です。
主にナノ秒からピコ秒の範囲で変化する非常に高速な信号波形を正確に取り込んで表示するために用いる電子計測器の一種ですが、同じパターンを繰り返す信号を測定対象としています。通常のリアルタイム・オシロスコープとは異なり、単発信号を観測することはできません。被測定信号を少しづつタイミングをずらして波形データとして取り込み、そのデータを用いて元の信号波形を再現表示することを特徴としています。
サンプリングオシロスコープの使用用途
サンプリングオシロスコープは、次のような幅広い分野で活用されています。
- 通信分野:高速デジタル通信の信号品質評価、光通信の波形解析
- 電子工学:集積回路の開発、半導体デバイスの評価
- 高度な研究開発:高速信号の物理現象解析、先端技術開発
- 計測機器の校正:精密なタイミング計測を必要とする校正作業
サンプリングオシロスコープの原理
1. 測定原理
サンプリングオシロスコープは、信号の全体を一度に記録するのではなく、入力信号を一定の間隔でサンプリング (標本化) し、そのデータを蓄積して波形を再構成します。この原理は「等価時間サンプリング」と呼ばれ、以下のステップで動作します。
- サンプリング:入力信号を規則的な間隔でサンプリングし、その瞬間の電圧値を記録します。
- 時間のずれ:次のトリガ信号が発生する毎に、サンプリングのタイミングをわずかに遅らせます。これを繰り返して複数回のデータを記録しておきます。
- 波形の再構成上記の記録されたデータを集めて、信号の全体的な波形を再現します。
この方法により、オシロスコープ自体のサンプリング周期が信号の繰り返し周期より遅い場合であってあっても、非常に高い時間分解能で観測することが可能です。
2. 測定の特徴
サンプリングオシロスコープの特徴を以下に挙げます。
- 時間分解能が高い等価時間サンプリングを用いて、ピコ秒単位の精密な時間分解能が得られます。
- 広帯域測定に向けた工夫がなされており、リアルタイム・オシロスコープでは困難な数十GHzの高周波信号の測定が可能です。
- 同じ信号が繰り返し発生する前提であり、単発のイベントには対応できません。
以上のように、サンプリングオシロスコープは、高速信号の正確な測定と解析を可能にする高度な計測機器で、極めて広い周波数帯域と時間分解能を活かして、通信や電子工学、光学分野での先端的な研究・開発に不可欠な存在です。
一方、単発イベントの観測には対応できないため、例えばリアルタイムオシロスコープなどの他の種類の計測器を併用した上で、超高速信号の解析に特化して観測するための測定器として用いるのが一般的な使い方です。
サンプリングオシロスコープの選び方
サンプリングオシロスコープは高速信号の測定や解析に特化しており、繰り返し現れる高周波信号の精密な測定が求められる場合に使用されます。選ぶ際には、用途や測定対象に応じて以下のポイントを考慮する必要があります。
1. 帯域幅
必要な帯域幅を明確にする。測定したい信号の最高周波数の3~5倍程度の帯域幅が推奨されます。 例えば、1GHzの信号を測定する場合、最低でも3~5GHzの帯域幅が必要です。
2. サンプリング速度
サンプリング速度は信号の再現性に影響を与えます。高速であるほど観測波形の時間精度に有利です。
3. 分解能
小さな信号電圧を高分解能で観測する必要あれば、ビット数が多い機種 (例えば12bit) を選ぶ必要がありますが、サンプリング速度が遅くなる傾向があります。
4. 入力インピーダンスとプローブ
被測定回路に適合するインピーダンスを選択します (通常50Ωまたは1MΩ) 。またプローブの種類 (アクティブプローブ、パッシブプローブ) も重要です。特に高周波測定では、プローブの帯域幅も考慮する必要があります。
5. チャネル数
必要な同時測定数に応じたチャネル数を選択します。一般的に2チャネル、4チャネルモデルが多いですが、複数信号を同時測定する場合はチャネル数が多い方が便利です。高性能な機種ほど高速信号の観測には有利ですが、非常に高価なものとなります。用途に応じて必要十分な性能を持つ機種を選ぶことが望ましいです。
サンプリングオシロスコープのその他情報
操作上の注意事項
- 広い周波数帯域を実現するため、一般的なオシロスコープが備えるアッテネータや増幅回路を設けず、直接信号をサンプリングすることから、ダイナミックレンジ (信号の大きさの範囲を表す指標で、最大値と最小値の比率) が制限されます。また通常入力部には保護回路がないので、過電圧信号を印加しないなど取り扱いには注意が必要です。
- 高価で複雑な測定器でありながら、極めて高速な繰り返し信号を観測する必要がある場合など、特定の用途に限定されてしまいます。
- リアルタイムオシロスコープのような汎用性はなく、被測定信号の特徴を理解した上で測定条件を適切に設定する必要があり、ある程度専門的な知識が求められます。
参考文献
https://www.jemima.or.jp/tech/3-03.html
http://www.rf-world.jp/bn/RFW29/samples/p024-025.pdf
https://news.mynavi.jp/article/serialif-13/
https://www.iti.iwatsu.co.jp/ja/support/05_14.html
https://life-techs.jp/yougo/2016-04-19-03-15-50.html
https://go.orixrentec.jp/rentecinsight/measure/article-20
https://ednjapan.com/edn/articles/0712/01/news017.html
https://ednjapan.com/edn/articles/1403/13/news011.html
https://www.nicpartners.co.jp/report/53121/
https://dl.cdn-anritsu.com/ja-jp/test-measurement/files/Product-Introductions/Product-Introduction/MT1000A_MT1100A_CPRI_JL1100.pdf