歯切り加工

歯切り加工とは

歯切り加工

歯切り加工とは、歯車部品の歯の形状を形成する加工手法です。固定された加工対象物に対して、回転する刃物を上下させ、歯車の歯の部分を作る加工手法が一般的です。歯切り加工は、歯切り盤と呼ばれる専用の工作機械を用いて加工を施します。なお、歯切り盤はホブ盤とも呼ばれます。

歯車の精度が悪ければ噛み合わせの度に接触部に負荷が溜まります。負荷がたまり続ければ部品の破損につながるおそれがあるため、高い加工精度が求められる加工方式です。

歯切り加工の使用用途

歯切り加工は、歯車部品を製造する際に使用されます。歯車を用いた機械の仕様に応じて、平歯車かさ歯車、ヘリカルギアなど、様々な形状およびサイズの歯車が存在し、歯切り加工によって歯車の種類に応じた歯を形成します。

自動車分野、航空産業、工業分野における製造装置、農業工具、時計などの精密機械など、歯切り加工によってつくられた歯車部品は世の中の広範な分野で使用されています。歯切り加工は、これらの分野を支える重要な工程です。

歯切り加工の種類

歯切り加工は、大別して2種類の方式が存在します。

1. 創成法

歯車全体を徐々に切削していく方式です。加工の効率が良く、歯車全体の精度も平準化されます。そのため、量産に適した方式です。
専用の加工機を必要とするため設備の導入コストが高くなるデメリットはありますが、歯を全体的に少しずつ成形するので精度の高い歯車ができる特徴があります。ホブ盤を加工機械として用いる歯切り加工が本方式に該当します。

2. 成形法

歯車の歯を1つずつ成形していく方法です。 加工対象となる部品の位置調節が非常に重要であり部品の位置決め精度および固定精度が歯車の加工精度にも大きく影響するため、創成法と比較して効率・精度ともに劣ります。しかしながら、汎用のNC工作機械で加工ができるため、設備の導入コストおよび加工コストを安く抑えられる特徴があります。フライス盤を用いた歯切り加工が本方式に該当します。

 

歯切り加工は、精度とコストのトレードオフになるため、歯車部品の使用用途に応じて適切な方式を選択する必要があります。

粉体塗装

粉体塗装とは

粉体塗装

粉体塗装とは、粉末状の固体塗料を用いて行う塗装のことです。

一般的な塗料は、顔料、樹脂、添加剤、溶剤の4つの要素で構成されています。粉体塗装に用いられる塗料には、溶剤が含まれません。顔料、樹脂、添加剤を細かく砕き、100%粉末状にしたものを塗料として用います。

粉体塗装の使用用途

粉体塗装の特徴として、耐久力が高く柔軟性があり、防錆性も優れていることが挙げられます。そのような特徴から、屋外など温度変化の大きい場所で使われる製品の塗装に、粉体塗装が採用されることが多いです。

また、有機溶剤を用いた塗装では、光化学スモッグの原因となる揮発性有機化合物が発生してしまいます。しかし、粉体塗装では有機溶剤を使用しないため、その心配はありません。そのため、粉体塗装は環境への配慮が必要な工業製品にも広く利用されます。

粉体塗装の種類

粉体塗装に使われる塗料は、含まれている樹脂の種類によって、熱可塑性粉体塗料と熱硬化性粉体塗料の2種類に分けられます。

1. 熱可塑性粉体塗料

熱可塑性粉体塗料の特徴

熱可塑性粉体塗料は、熱によって溶解・軟化して形状が変化し、その後冷却して固化することで塗膜を形成する塗料です。主なものとして、上記の表1に示すポリエチレン系、塩化ビニル系、ポリアミド系の樹脂が用いられています。

熱可塑性粉体塗料の塗装には、流動浸漬塗装法が用いられます。粉体塗料の入った容器に圧縮空気を送ることで塗料を流動させ、その中に予備加熱した被塗物を浸漬し、塗料を付着させた後、後加熱を行うことで塗膜を形成する方法です。

分厚い塗膜が得られやすいことから、防錆性に優れ、耐食を目的として、屋外に用いられる線材類、バルブ、パイプなど建材、道路資材などの塗装に用いられます。

2. 熱硬化性粉体塗料

熱硬化性粉体塗料の特徴

熱硬化性粉体塗料は、加熱によって架橋反応が生じることで塗膜を形成する塗料です。主なものとして、表2に示すエポキシ系、ポリエステル系、エポキシポリエステル系、フッ素系の樹脂が用いられたものがあります。

架橋反応によって性質が変わるため、用途に応じた塗料を選択することができます。熱硬化性粉体塗料の塗装には、静電粉体塗装法が用いられます。アースによって被塗物をプラスに帯電させ、スプレーガンによって塗料をマイナスに帯電させながら噴射することで、被塗物に塗料を付着させた後、高温で焼付を行う方法です。家電製品、農機具、建築物の外装など、幅広い用途に用いられます。

粉体塗装の塗装方法

熱可塑性粉体塗料には流動浸漬塗装法、熱硬化性粉体塗料には静電粉体塗装法が適用されます。それぞれの工法における各工程の内容は図1の通りです。

粉体塗装の塗装工程の違い

また、各工法を比較するとそれぞれ表3のような特徴があり、被塗物の種類によって、どちらの工法、すなわち熱可塑性、熱硬化性のどちらの塗料を選択するかが制限されてきます。

流動浸漬塗装法と静電粉体塗装法の違い

粉体塗装のその他情報

粉体塗装のメリットデメリット

一般的な溶剤系塗料の塗装と比較した場合、粉体塗装のメリットデメリットとしては以下のような点が挙げられます。

1. メリット

  • 塗膜の耐久性が高い
    分厚い塗膜を形成させることができるため、被塗物が空気に触れにくく、錆が発生しにくいです。また塗膜自体に柔軟性があるため、被塗物の伸縮にある程度追随することができます。
  • 環境や人体に優しい
    環境汚染や人体への悪影響が懸念される、揮発性有機化合物 (VOC) が含まれません。
  • コストパフォーマンスが高い
    粉体塗装の場合、被塗物に付着しなかった塗料を回収して再利用することができます。耐久性が高いため、再塗装の必要性が低くなります。

2. デメリット

  • 専用設備が必要になる
    溶剤系塗料ではスプレーガンがあれば塗装できますが、粉体塗装の場合、流動浸漬槽、静電塗装設備、加熱炉などの粉体塗装専用の設備が必要になります。
  • 被塗物が限定される
    粉体塗装用の設備にセッティングできるサイズ面や、加熱するため耐熱性面で、被塗物が制約を受けます。

焼付塗装

焼付塗装とは焼付塗装

焼付塗装とは、塗装被膜を加熱して焼き付けることで、被膜を硬化させる塗装方法のことです。焼き付ける温度は塗装の種類によって異なりますが、通常100~200℃で20分以上加熱して行います。

単に加熱をすれば良いわけではなく、焼付塗装には、加熱すると硬化する、専用の塗料を用います。焼付塗装は、金属の強度を高めたり、耐久性や耐候性を高めたりすることを目的に行います。また、焼付塗装によってツヤを出すことができ、程よくツヤを出すことで高級感を演出することができます。

焼付塗装の使用用途

焼付塗装は、シャッター、自動車、外壁などに用いられます。塗装する対象にもさまざまなものがありますが、素材によって焼付塗装が可能なものとそうでないものがあります。

焼付塗装が可能なものとしては、鉄、ステンレス、アルミ、真鍮などがあります。焼付塗装は高温で行うため、塗装する対象も高い温度に耐えられるものである必要があります。そのため、ABS樹脂、ナイロン、カーボン、塩化ビニルなどは、焼付塗装を行うことができません。これらの塗装には、ウレタン塗装など、違う塗装方法が用いられます。

焼付塗装の種類

焼付塗装には、メラミン焼付塗装、フッ素焼付塗装、アクリル焼付塗装の3種類があります。

1. メラミン焼付塗装

メラミン焼付塗装は、もっとも一般的な焼付塗装です。耐候性・耐薬品性・耐摩耗性がどれも平均的なレベルで、価格も比較的安価なため、多くの加工会社が利用しています。紫外線に弱いという欠点があり、長時間紫外線にさらされると、色があせやすいです。

2. フッ素焼付塗装

フッ素焼付塗装は、耐候性が非常に高いです。さらに、汚れを弾きやすい性質も持っているため、外壁などの長期間天候の変化の影響を受けるような場所で使われることが多いです。性能が非常に優れている代わりに、価格も非常に高価になっています。

3. アクリル焼付塗装

アクリル焼付塗装は、耐候性があり、硬度も高くなるため、メラミン焼付塗装のワンランク上の仕上がりを期待できます。電化製品や自動車など、耐久性が必要とされるものによく使用されます。メラミン焼付塗装と比べて塗料がくっつきにくいため、硬度をより高めるために膜を厚くすることが難しいです。 

金属塗装

金属塗装とは

金属塗装

金属塗装とは、金属の表面に塗料を塗る加工処理のことです。メッキ加工と並ぶ、代表的な金属表面の加工処理方法です。

塗装の工程は、前処理、調合、塗布、乾燥の4段階に分かれています。前処理では、金属表面の遺物などを取り除くことで、塗料が密着しやすいようにします。調合では、必要な機能や色に合わせて、塗料やシンナーなどの溶剤を混合させます。塗布では、塗料を塗りつけたり吹き付けたりして、対象の金属の表面に塗膜を形成させます。最後に乾燥では、常温あるいは加熱下で、塗膜を乾燥させます。

金属塗装の使用用途

塗装は主に、装飾、材料の保護、機能の付与、といった目的で行われます。例えば、自動車の外装には塗装が施されています。

塗装によって、色や模様、光沢を与えることができるので、同じ車種でもさまざまな色の車を製造することができます。また、金属表面が露出していると、雨風にさらされて錆が発生してしまいます。

塗装によって塗膜で覆うことで、表面を保護し耐久性を高めることができます。さらに、導電性、耐熱性、放熱性、潤滑性など、塗装によってさまざまな機能を付与することが可能です。

金属塗装の種類

塗装には、ハケで塗る以外にも以下のようにさまざまな種類があります。

1. 溶剤塗装

溶剤塗装は、シンナーなどの溶剤に溶かした塗料を、スプレーやローラーなどを用いて塗布する塗装方法です。汎用性が高く比較的安価なため、幅広く用いられています。

2. 焼付塗装

焼付塗装は、塗料を吹き付けた後に、加熱して塗料を硬化させる方法です。塗膜の密着性が上がり、耐候性に優れた塗膜を形成できます。

3. 粉体塗装

粉体塗装は、粉末状の塗料を静電気によって被塗物に付着させ、加熱して溶かすことで塗膜を形成させる方法です。液状の塗料を使う場合と比べて、一度の塗装で厚い塗膜を形成することができます。

4. 静電塗装

静電塗装は、帯電した塗料を用いる塗装方法です。静電気によって塗料を付着させるため、無駄が少なく均一な仕上がりになります。高電圧を利用するため、感電や火災に注意が必要です。

5. 電着塗装

電着塗装は、塗料の入った容器に被塗物を入れ、電気を流すことで塗膜を形成させる方法です。複雑な形状のものであっても均一に塗装を行うことができます。 

金属焼付塗装

金属焼付塗装とは

金属焼付塗装

金属焼付塗装とは、鉄、アルミ、真鍮などの金属材料に塗装する方法の1つです。

塗装用の溶剤あるいは粉末状の塗装材料を被対象素材に塗布し、熱硬化性のある専用塗料を用いて塗装被膜を形成します。塗装材を塗布した材料を110度から200度程度の温度で加熱して焼き付けることにより、塗装被膜が硬化します。

金属焼付塗装は、金属製品の美しい装飾を得るだけでなく、防錆性や耐候性が高まるため、製品の安定した品質を保つ目的でも焼付塗装が施されます。

金属焼付塗装の使用用途

金属焼付塗装は、金属製品の塗装後の表面仕上がり向上、強度、耐久性を高める用途で使用されます。そのため、風雨や紫外線に長期間さらされる自動車部品、建設重機部品、建物の外構金属製品、屋外照明器具など、幅広い製品の塗装用途で使用されます。

金属焼付塗装の原理上、焼付の高温に耐えられない金属素材への塗装はできません。鉄製品、アルミ製品、ステンレス製品など、高温に入れても問題ない金属素材への塗装に適しています。そのため、樹脂やゴムといった材料へは焼付塗装はできません。

金属焼付塗装の種類

金属焼付塗装は、塗装剤の系統により2種類に大別されます。1つ目が有機溶剤を用いる焼付塗装、2つ目が粉体塗料を用いる焼付塗装です。

硬質で光沢のある塗料で、所望の特性を得るためには高温で焼成します。焼き付け塗装は、通常、油脂樹脂または合成樹脂(アルキド、メラミン、エポキシ、硝酸セルロース、尿素)をバインダーとして作られます。金属表面にスプレーまたは塗装した後、焼成して溶剤やその他の揮発性成分を除去します。これにより、均一で緻密な、耐摩耗性に優れた丈夫な仕上がりになります。焼き付けエナメル仕上げは、キッチン用品などの金属コーティングとしてよく使用されます。

各々の塗装方法においても、塗装剤の配合成分によりさらに細かい種類が存在します。代表的なものを一例として記載します。

1. 有機溶剤による焼付塗装

  • メラミン樹脂
    一般的であり、塗装の色・艶の自由度が高い特徴があります。平均的な耐候性があります。
  • アクリル樹脂
    メラミン樹脂よりも耐候性に優れます。こちらも色・艶の自由度が高い特徴があります。
  • エポキシ樹脂
    耐水性、耐薬品性は、非常に高いのですが、耐候性は、低く主に下地処理として使用されます。色・艶に制限もあります。

2. 粉体塗料による焼付塗装

  • ポリエステル樹脂粉体
    耐久力が強く耐候年数が長い特徴があります。
  • エポキシポリエステル樹脂粉体
    耐候性は低いですが、塗装時の作業性が高く、あらゆる金属製品に塗装できる点が特徴です。

その他樹脂として、フッ素樹脂があります。溶剤型、粉体型ともに使用することができます。紫外線に強く高い超耐候性の塗装で、汚れにくいため、道路の資材や家の外壁などに使用される製品に適用されます。高耐久度が得られますが、ツヤの調整が難しく、また塗料の価格が高いことが特徴です。

上記のように、様々な樹脂が焼付塗装で使用できますが、メラミンなど室内のみで使用できるものからフッ素やシリコン系といった超高耐久性まで幅広くあります。耐久性やコストといった様々な条件を検討しながら選定する必要があります。

粉体塗装との比較

液体塗料と粉体塗料のを比較した際、粉体塗装の方が比較的硬い表面仕上がりが得られます。近年では、エナメル塗料は、粉体塗装が代替手法になりつつあります。焼付エナメルの代わりに粉体塗装を使用する理由として、溶剤塗装と比較して環境への負荷が少なく、焼き付けエナメルよりも優れた仕上がりで耐久性のあるコーティングとなることも要因の一つと考えるられます。

加工工程において、スチール製品は、油分、金属酸化物、溶接痕を除去するための前処理が施されています。この前処理により、粉末と金属との結合を向上させ、吸着性向上のためのプライマーを不要にします。粉体塗装は、静電気で粉体を基材に固定し、コーナーの内側と外側に優れたカバー力を発揮し、流動性のある乾燥粉体としてスチールに塗布します。塗布後、オーブンで一定時間熱にさらすと、粉が流動して基材と熱的に結合し、耐久性のある硬い仕上げとなります。

フッ素樹脂塗装

フッ素樹脂塗装とは

フッ素樹脂塗装とは、フッ素樹脂塗料を使用した塗装加工のことです。

耐候性が非常に優れていることが最大の特徴と言えます。耐候性とは、温度変化、紫外線、風雨などの、気候の変化に対する耐性のことです。一般に耐候性が高いシリコーン樹脂と比べても、フッ素樹脂の方がより優れています。

また、耐候性以外に、耐熱性、耐薬品性なども優れており、フッ素樹脂塗装は非常に高性能です。そのため、他の樹脂による塗装と比べて高価です。

フッ素樹脂塗装の使用用途

フッ素樹脂塗装は、頻繁に塗装を行うことが困難な高層ビルや大型建造物などの塗装に用いられます。

少し高価ですが、一般住宅の外壁塗装にも用いられます。耐候性が高く非常に高性能であるため、一度塗装を行えば長期間塗替えを行う必要はありません。</p.

また、フッ素樹脂は熱に強く、表面の水や油を弾くため汚れがつきにくいとされています。そのような性質を生かして、フライパンや炊飯器などの家庭用品にも利用されています。 

フッ素樹脂塗装の耐久性

フッ素樹脂物性比較表

フッ素樹脂塗装に使用されているフッ素樹脂の耐久性 (耐薬品性、耐候性、使用上限温度等) は、他の一般的な樹脂と比較してとても高くなっています。これは、フッ素樹脂の分子構造が、主鎖である炭素-炭素結合の周りをフッ素原子がしっかりと覆うような構造になっているからです。

原子サイズの大きなフッ素原子により、薬品や光などの劣化因子が炭素―炭素結合へ攻撃できないため、フッ素樹脂は高い耐久性を有してます。また、炭素原子とフッ素原子間の結合は、分極率が小さいのが特徴です。これは、分子間でプラスとマイナスの電気的な相互作用が生じにくいことを意味しています。

このため、分子間の静電的な相互作用がほとんどないので、物質が付着しにくくなります。このような性質が、フッ素樹脂塗装に撥水・撥油性を与えています。

一方で、フッ素樹脂分子同士の相互作用も小さく、そのままでは強度が弱いです。強度を高めるために、ETFEやPFAのように水素や酸素などの極性を生じやすい原子を導入させたり、分岐を持たせたりして分子間相互作用を高めて機械的物性を向上させています。PTFEの場合は、分子量を超高分子量にするなど分子同士の絡まりを増やし、使用上問題ない強度にしています。

フッ素樹脂のその他情報

1. フッ素樹脂塗料の種類

フッ素樹脂分子構造

フッ素樹脂塗料の種類には、ポリテトラフルオロエチレン (PTFE) 、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体 (PFA) 、エチレンテトラフルオロエチレン共重合体 (ETFE) などがあります。

PTFEは、炭素原子とフッ素原子のみからなるフッ素樹脂です。炭素原子とフッ素原子間の結合は、炭素原子と水素原子間の結合と比べても、結合エネルギーが高くなっています。

結合エネルギーが高いということは、壊すのにそれだけ大きな力が必要だということです。そのため、PTFEは劣化しにくいという性質を持っています。

PFAとETFEはPTFEと比較して溶融粘度が低いため、焼付を行う粉体塗料用の原料として使用されており、PTFEと同等の耐熱性、耐薬品性等の諸物性を有しています。

2. フッ素樹脂塗装の方法

液系フッ素樹脂塗料特徴

粉体フッ素樹脂塗料

フッ素樹脂塗装には水系、溶剤系の液系塗料を用いた液塗装と、粉体塗料を用いた粉体塗装があります。フッ素樹脂塗装はその高い耐熱性、耐候性、耐薬品性から、液塗装、粉体塗装に関係なく、性能面でのメリットが多い塗装方法です。反面、高価格であるというデメリットも共通しています。

着色を目的とした塗装だけでなく、被塗物の表面を腐食などから保護することに重点をおいた厚膜のコーティング (ライニング) 目的で使用されることも多いです。ライニング方法としては、塗装以外のフッ素樹脂シートを貼り付けるといった方法もありますが、被塗物の形状が複雑だったりする場合は、塗装による工法がとられます。

厚膜の塗膜を得るためには、液系塗料よりも粉体塗料が適しており、粉体を被塗物に静電塗装したり、加熱した被塗物に粉体塗料を溶融付着、被膜形成させたりする方法がとられます。

シリコン塗装

シリコン塗装とは

シリコン樹脂の構造と構成モノマー例

図1. シリコン樹脂の構造 (上) / アクリル樹脂の構成モノマー例  (下)

シリコン塗装とは、シリコン塗料を用いた塗装のことです。

一般的に塗料は、顔料、樹脂、溶剤、添加剤の4つの要素で構成されています。主成分にシロキサン結合 (-Si-O-) を有するシリコン樹脂を有する塗料がシリコン塗料です。

シリコン塗料に用いられる樹脂の実体はアクリル樹脂にシリコン樹脂骨格を導入した樹脂で、アクリルシリコン塗料と呼ぶのがより一般的と言えます。シリコン塗料は、アクリル塗料の短所である長期耐久性、耐水性を改良した塗料であり、他にも強い耐熱性、防汚性、透湿性などの性質を持っています。

シリコン塗装の使用用途

シリコン塗料は、家屋の外壁塗装にもっともよく用いられる塗料です。これはシリコン塗料が、価格や耐用年数のバランスがよく、コストパフォーマンスに優れているからです。また、シリコン塗料は透湿性に優れ、湿気を通しやすいため、カビなどが生じにくく、塗装が剥がれにくいという利点があります。

さらに、シリコン塗料にはセラミック成分が配合されている場合が多いです。シリコンにセラミックを配合することで、汚れが付きにくく、断熱性が高い塗装を施せます。 

シリコン塗装の種類

シリコン塗料の水性と油性の違い

図2. 水性と油性の違い

シリコン塗料には、水性と油性、1液型と2液型という種類が存在します。一般に塗装をする際は、塗料を液体に溶かす必要があります。

1. 水性塗料

水性塗料は水に塗料成分は溶けないので、塗料成分を細かく分散させて用いられます。水性塗料の特徴は、有機溶剤を使わないため、揮発性有機化合物をあまり生じないことです。そのため、臭いが弱く、環境への負荷も抑えられます。

2. 油性塗料

油性塗料は、塗料成分をシンナーなどの有機溶剤に溶かして用います。シンナーなどは、大量に吸うと人体に害を及ぼし、引火性も高いため非常に危険な物質です。油性塗料の場合は、扱いには特に注意が必要です。

3. 1液型

1液型とは、硬化剤があらかじめ含まれている塗料を指します。2液型と違い、余った分は保管しておくことができます。1液型の方が扱いが楽で低価格ですが、2液型の方が耐久性が高くさまざまな場所に使用できるという特徴があります。また、塗料の品質保持期間も主剤と硬化剤が分かれている2液型の方が長めです。

4. 2液型

2液型は反応硬化型とも呼ばれ、主剤と硬化剤の2つがあります。塗装をする直前に2つを混ぜ合わせて使用する塗料のことです。混ぜたらすぐに反応が始まり、塗料が固まり始めてしまうため、速やかに作業を行う必要があります。混合後、塗装が行える可使時間はおよそ3~7時間程度で、可使時間を超えると塗装はできなくなります。

シリコン塗装のその他情報

シリコン塗装のメリットデメリット

シリコン塗料のメリットとしては塗膜が硬く、撥水性があることから汚れを寄せ付けないという特徴が上げられます。また、化学的安定性の高いシロキサン結合を有しているため、耐薬品、耐熱性が高いです。

長期耐久性についてもシロキサン結合により、アクリル塗料やウレタン塗料と比較して長寿命になりますが、フッ素塗料に比べると劣ります。反面、コストは耐久性に反比例しており、フッ素塗料は非常に高価です。よってシリコン塗料は塗替えを頻繁に行わない箇所の塗料としては、コストパフォーマンスの高い塗料となります。このような理由から、シリコン塗料は、住宅など建物の外装向け塗料として、最も広く使われています。

各種塗装の特徴比較

図3. 各種塗装の特徴比較

シリコン塗料を用いる際の注意点は、シリコンの含有量により性能が大きく変わるということです。この点がアクリル塗料、ウレタン塗料、フッ素塗料と大きく異なります。

シリコン塗料の樹脂成分はアクリル樹脂にシリコン樹脂を導入した樹脂ですが、高い長期耐久性、防水性、防汚性はシリコン樹脂部分に由来します。このため、シリコン樹脂の量が少ない製品は、アクリル樹脂に似た特性となります。このような理由から、表1でもシリコン塗料の価格や長期耐久性については、他の塗料に比べて幅があります。

抵抗溶接

抵抗溶接とは

抵抗溶接

抵抗溶接とは、金属に通電させた際に生じる抵抗発熱を利用した溶接技術の一つです。

溶接したい二つの金属に、適度な圧力を加えながら電流を流します。電流を流した際に発生する抵抗熱によって金属が溶け、冷えて凝固することで二つの金属が接合します。

抵抗溶接は、アーク溶接やレーザー溶接と違い、外部から与えた熱エネルギーではなく、内部から発生した熱を利用します。母材同士が直接溶けて溶着しているため、接合後の強度が高く、はんだなどの溶接補助剤を必要としないためコストも抑えることができます。また、溶接跡が比較的目立たず、仕上がりもきれいです。

抵抗溶接の使用用途

金属は適度な電流を流すと速やかに溶解するため、抵抗溶接では他の溶接方法と比べて短時間で加工できることが最大のメリットです。

抵抗溶接は作業が簡単であるため、ロボットを利用した自動化も容易です。そのため、家電や自動車などの大量生産工場でよく利用されています。また、高いスキルがなくともきれいな仕上がりを得られるため、機能だけでなく見た目も重要な自動車や鉄道車両の外観部分の加工に利用されています。

抵抗溶接では金属を加圧して電流を流す必要があるため、電流が流れないものや、厚すぎるもの、抵抗が不十分なものには利用することができません。抵抗溶接に向いている素材としては、ニッケルやステンレスなどがあります。 

抵抗溶接の原理

抵抗溶接.png

 図1. 抵抗溶接の原理

抵抗溶接の原理は、金属へ電流を流した際の電気抵抗によって発生する熱を利用した接合方法です。

電気抵抗によって発生する熱は、通常電流を流した際の導電ロスであるため、例えば発電所から電気を各家庭へ送電する際は送電効率を阻害する要因として可能な限りゼロに抑えたいもののひとつです。

しかし、抵抗溶接においてはあえて導電ロスである熱を意図的に発生させ、逆にその熱を利用して金属を溶かすことに利用するといった逆転の発想を持った接合方法になります。

抵抗溶接で重要な要素が3つあり、「抵抗溶接の3大条件」と言われています。

  1. 加圧力
  2. 溶接電流
  3. 通電時間

最近では、上記3つに加えて「電極形状」も含めて、「抵抗溶接の4大条件」とも呼ばれています。

この4大条件は抵抗溶接の仕上がり品質に対して相関関係を持って密接に関わっているため、注意深く設定を行う必要があります。

1. 加圧力

加圧力は、接合したい金属に電流を流すため、電極を金属に押し当てる際の圧力のことを指します。加圧力が高すぎてしまうと、電極を押し当てた際にワークの歪みや凹み等を引き起こしてしまい、溶接の品質が安定しないため注意が必要です。

2. 溶接電流

溶接電流は、溶接時に金属へ印加する電流値を指します。溶接電流を高めることで金属へ熱を早く発生させることができますが、その分金属が早く溶けてしまうため、通電時間の設定によっては溶ける面積が狭くなり溶接強度が下がる場合があるため注意が必要です。

3. 通電時間

通電時間は、溶接電流をどのくらいの時間流しておくかを指します。通電時間が長いと単純に溶接の作業効率が下がってしまうため注意が必要です。

4. 電極形状

電極形状は、金属へ押し当てる電極の形状を指します。電極の形状によって、金属への接地面積が変わるため電流密度に影響があります。

電極形状が小さい場合、接地面積が小さくなるため局所的に早く金属を溶かすことができますが、その分溶ける面積も小さくなるため溶接強度が下がってしまいます。電極形状を大きくすると、小さい時とは逆のことが起こるため注意が必要です。

抵抗溶接の種類

抵抗溶接には、大きく分けて以下の2つの種類があります。

1. スポット溶接

スポット溶接.png

 図2 スポット溶接

スポット溶接は対象を点で溶接するため、このように呼ばれます。金属の溶接したい部分を棒状の2つの電極で挟んで加圧し電流を流します。生じた抵抗熱によって金属が溶解し、冷却されると再凝固して2つの金属が接合されるという手法です。安全性が高く作業も簡単です。熱が発生する時間が短く局所的であるため、溶接したい金属が熱で歪んでしまう可能性が低いです。

欠点は、既にスポット溶接がされている近傍に連続して溶接していく場合、一定の距離を空けないと「分流」が発生してしまい品質が安定しなくなります。

分流とは、既にスポット溶接されている箇所とこれから新しく溶解させる箇所では電気的な抵抗値が異なるため、既にスポット溶接されている箇所の方に電流が逃げてしまい、狙った箇所にうまく熱が加わらなくなる現象です。接合する対象によっては高い加圧力や大きな電流を印加しないと熱が発生しない場合もあるため、溶接を行う機器にも高い強度が求められます。

2. シーム溶接

シーム溶接.png

 図3 シーム溶接

シーム溶接では、ローラー状の電極で溶接する対象の金属を挟み、電極を回転させながら電流を流し、発生した抵抗熱を利用して線状に溶接する手法です。スポット溶接が点で接合するのに対し、シーム溶接では線状に連続的な接合ができます。そのため、強度や気密性が高く、溶接がスピーディで作業効率が高いです。

ただし、連続で熱を発生させて溶接する分、溶接部近傍の温度が高くなりやすいため、加工後の製品に熱による歪みが発生しやすいことに注意が必要です。 

レーザー溶接

レーザー溶接とはレーザー溶接

レーザー溶接とは、レーザー光を金属に当てて融解・凝固させて金属同士を接合する加工方法です。

レーザー光は、ガスなどの特殊な素材に光を当てることで励起される強い光を指します。発振器でレーザー光が発生・増幅され、光ファイバーやミラーによってレーザー加工ヘッドに伝送されます。

レーザー光をレンズなどで集光すると、とても小さなスポットに高密度のエネルギーを集められます。そのため、レーザー溶接は熱ひずみが小さくて溶接速度が速いです。

レーザー溶接の使用用途

レーザー溶接はコンピュータによる制御やCAD/CAMとの相性が良く、ロボット化にも適しています。エネルギー密度が高くて熱源のスポットが小さいため、大きなものから微細なものまで幅広く使用されています。

例えば、自動車のフレームやボディの溶接に有用です。抵抗溶接のように母材を電極で挟む必要がないため、ロボットアームを自由に動かせて入り組んだ場所でも溶接できます。

レーザー溶接の原理

レーザー溶接では、光のエネルギーが誘導放出により高められます。安定した状態である基底状態の原子は外部からの光エネルギーを受けると原子内にある電子が励起状態になり、自然光を発すると基底状態に戻ります。自然放出光は他の励起状態の原子に当たると誘導放出光が生じて、入射光と同じ方向に光のエネルギーが増幅される原理です。

光を往復させるためにレーザー発振器は全反射ミラーと一部透過ミラーでレーザー媒体を挟んで、強い光に増幅してレーザー光を生み出します。高エネルギーのレーザー光を集光部に収束させるとワークの溶接部が高温になって溶融します。

レーザー溶接の種類

レーザー溶接はレーザー光を発生させる素材によって気体レーザーと固体レーザーに分けられます。CO2レーザー、YAGレーザー、ディスクレーザー、ファイバーレーザーなどが代表的です。

1. CO2レーザー

最も一般的なレーザーが気体レーザーであるCO2レーザーです。二酸化炭素を励起してレーザー光を誘導放出させて利用します。固体レーザーと比べて変換効率が高いため、高出力で連続発振できます。

2. YAGレーザー

固体レーザーの代表例がYAGレーザーです。YAGはイットリウム、アルミニウム、ガーネットの頭文字から取っています。それらの物資からなる結晶にレアアースを少し加えた結晶体をレーザーの媒体に用います。波長がCO2レーザーと比べて10分の1程度と短いため、母体へのエネルギー吸収率が高いです。

3. ディスクレーザー

ディスクレーザーのレーザーの形状は薄い円盤状です。そのためディスクレーザーは固体レーザーですが、YAGレーザーとは形状が大きく異なります。ポンプ光を結晶へ照射して薄い円盤状のレーザーを発振可能です。数W~数kWと発振器の出力が幅広いため、波長で用途が使い分けられます。レーザー溶接だけでなくレーザー切断などの多種多様な用途に利用可能です。

4. ファイバーレーザー

光ファイバーの中に希土類元素を添加すると、ファイバー自身がレーザーの媒体となるファイバーレーザーも存在します。発振器の構造が簡便で装置がコンパクトであり、近年普及が加速しています。

レーザー溶接のその他情報

1. レーザー溶接のメリット

レーザー溶接に使用されるレーザー光は、アーク溶接のアークと比べてとても小さい接合面積に絞り込めます。そのため、局所的な溶接に適しています。

レーザー光のエネルギーを高密度化すると違う融点の金属同士を溶接可能です。接合部分周辺への影響が少なく溶接痕を細くできます。レーザ溶接機に真空チャンバーが必要ないため溶接設備を小型化され、コンピュータ制御によって自動化可能です。

2. レーザー溶接のデメリット

加圧工程がなくて集光径が小さいため、溶接個所で溶接面や密着精度の管理が必要です。高熱かつ強力なレーザー光の安全対策も重要です。反射光で火傷したり、レーザー光を見つめて網膜が損傷する恐れがあります。

MAG溶接

MAG溶接とは

MAG溶接

MAG溶接とは、アーク放電による高熱を利用して金属部材を溶接する、アーク溶接の一種です。

ガスシールドアーク溶接の一種であり、シールドガスと呼ばれるガスを吹き付けながら部材の溶接を行います。MAGとは「Metal Active Gas (金属活性ガス) 」のことであり、空気からのシールド用に活性ガス (炭酸ガス単体、炭酸ガスとアルゴンガスの混合ガスやそれに酸素ガスを混合したものなど酸化性のあるガス) を用いるためMAG溶接と呼ばれます。

溶接部は高温になり、防護策を施さなければ空気中の酸素によって容易に酸化します。また、空気が気泡として入り込むことで、溶接部が脆くなる可能性も高いです。空気による悪影響を避けるため、シールドガスによって溶接部を保護しています。

MAG溶接の使用用途

MAG溶接は、様々な分野において一般的に広く用いられる溶接手法です。自動車業界、建築現場、重工業など幅広い業界で鉄系材料の溶接に使用されます。

炭酸ガスの割合を変化させることで、溶け込み量や外観の美しさを調整できるため、各メーカーでシールドガス中の炭酸ガスの割合を工夫してMAG溶接が行われています。活性ガスを使用するため、化学変化を起こす材料 (アルミなどの非鉄金属) の溶接には用いることはできませんが、活性ガスによってアークが集中する特徴があり、高い溶接強度を得られます。

また、活性ガスは非活性ガスに比べて安価であるため、加工コストを抑えることが可能です。大量に溶接する用途に適しています。

MAG溶接の原理

MAG溶接の原理を3つに分けて解説します。

1. アーク放電

MAG溶接は、電極と非接触の金属部材との間に高い電圧をかけてアーク放電を起こします。空気に高い電圧がかかることで絶縁破壊による放電が起こり、電極と部材間に電流と高熱が発生します。この熱を利用し、接合します。溶接温度は、5千度から2万度にも達し、あらゆる部材を融解させることが可能です。

2. シールドガス

大気中に存在する酸素および窒素と金属部材を接触させてしまうと化学的に反応してしまうため、空気を遮断するために大量のガスを吹き付けながら溶接を実行します。

さらに、活性ガスを吹き付けることで、発生するアークが局所領域に集中する効果もあります。これは、MAG溶接におけるアーク発生過程においては、母材の陰極点から電子の放出が起こりますが、一般的に金属よりも酸化物の方が仕事関数が小さく、陰極点として機能するためです。

母材の溶融部分に酸化物が十分に存在しなければ、アークは陰極点を求めて電極と金属部材の間を暴れてしまいます。そこで活性ガスにより、母材の溶融部分に酸化物を生成する必要があります。

3. 溶接ワイヤ

MAG溶接においては、針金状のワイヤーが電極として用いられます。溶接の進行に伴いワイヤー自身も溶融していくため、ワイヤー送給装置と共に用いられることが一般的です。

ワイヤーには大きく分けて「ソリッドワイヤ」と「フラックスワイヤ」の2種類があります。ソリッドワイヤは単純な金属線であるのに対し、フラックスワイヤはワイヤ内部にフラックスが含まれています。溶接ワイヤによって、スラグの発生量や溶接ビードの外観が異なります。

例えばフラックスワイヤは、ソリッドワイヤよりも溶接時間を短縮することができますが、ワイヤにフラックスを含む分、スラグの発生量が多くなってしまいます。また、コスト面ではフラックスワイヤの方が高コストです。

MAG溶接のその他情報

MAG溶接のメリット・デメリット

1. メリット

  • 溶接ワイヤーの溶解速度が速く、作業能率が高い
  • 溶接ロボットを用いた自動溶接が可能
  • 溶け込みが深いため、溶接部に強度を持たせることができる
  • 炭酸ガス溶接よりもスパッタの発生が少ない

2. デメリット

  • 炭酸ガスがアークと反応する際に一酸化炭素が発生するため、換気が必要
  • ガスを利用するため、屋外で作業する場合は風よけなどの対策が必要