MAG溶接とは
MAG溶接とは、アーク放電による高熱を利用して金属部材を溶接する、アーク溶接の一種です。
ガスシールドアーク溶接の一種であり、シールドガスと呼ばれるガスを吹き付けながら部材の溶接を行います。MAGとは「Metal Active Gas (金属活性ガス) 」のことであり、空気からのシールド用に活性ガス (炭酸ガス単体、炭酸ガスとアルゴンガスの混合ガスやそれに酸素ガスを混合したものなど酸化性のあるガス) を用いるためMAG溶接と呼ばれます。
溶接部は高温になり、防護策を施さなければ空気中の酸素によって容易に酸化します。また、空気が気泡として入り込むことで、溶接部が脆くなる可能性も高いです。空気による悪影響を避けるため、シールドガスによって溶接部を保護しています。
MAG溶接の使用用途
MAG溶接は、様々な分野において一般的に広く用いられる溶接手法です。自動車業界、建築現場、重工業など幅広い業界で鉄系材料の溶接に使用されます。
炭酸ガスの割合を変化させることで、溶け込み量や外観の美しさを調整できるため、各メーカーでシールドガス中の炭酸ガスの割合を工夫してMAG溶接が行われています。活性ガスを使用するため、化学変化を起こす材料 (アルミなどの非鉄金属) の溶接には用いることはできませんが、活性ガスによってアークが集中する特徴があり、高い溶接強度を得られます。
また、活性ガスは非活性ガスに比べて安価であるため、加工コストを抑えることが可能です。大量に溶接する用途に適しています。
MAG溶接の原理
MAG溶接の原理を3つに分けて解説します。
1. アーク放電
MAG溶接は、電極と非接触の金属部材との間に高い電圧をかけてアーク放電を起こします。空気に高い電圧がかかることで絶縁破壊による放電が起こり、電極と部材間に電流と高熱が発生します。この熱を利用し、接合します。溶接温度は、5千度から2万度にも達し、あらゆる部材を融解させることが可能です。
2. シールドガス
大気中に存在する酸素および窒素と金属部材を接触させてしまうと化学的に反応してしまうため、空気を遮断するために大量のガスを吹き付けながら溶接を実行します。
さらに、活性ガスを吹き付けることで、発生するアークが局所領域に集中する効果もあります。これは、MAG溶接におけるアーク発生過程においては、母材の陰極点から電子の放出が起こりますが、一般的に金属よりも酸化物の方が仕事関数が小さく、陰極点として機能するためです。
母材の溶融部分に酸化物が十分に存在しなければ、アークは陰極点を求めて電極と金属部材の間を暴れてしまいます。そこで活性ガスにより、母材の溶融部分に酸化物を生成する必要があります。
3. 溶接ワイヤ
MAG溶接においては、針金状のワイヤーが電極として用いられます。溶接の進行に伴いワイヤー自身も溶融していくため、ワイヤー送給装置と共に用いられることが一般的です。
ワイヤーには大きく分けて「ソリッドワイヤ」と「フラックスワイヤ」の2種類があります。ソリッドワイヤは単純な金属線であるのに対し、フラックスワイヤはワイヤ内部にフラックスが含まれています。溶接ワイヤによって、スラグの発生量や溶接ビードの外観が異なります。
例えばフラックスワイヤは、ソリッドワイヤよりも溶接時間を短縮することができますが、ワイヤにフラックスを含む分、スラグの発生量が多くなってしまいます。また、コスト面ではフラックスワイヤの方が高コストです。
MAG溶接のその他情報
MAG溶接のメリット・デメリット
1. メリット
- 溶接ワイヤーの溶解速度が速く、作業能率が高い
- 溶接ロボットを用いた自動溶接が可能
- 溶け込みが深いため、溶接部に強度を持たせることができる
- 炭酸ガス溶接よりもスパッタの発生が少ない
2. デメリット
- 炭酸ガスがアークと反応する際に一酸化炭素が発生するため、換気が必要
- ガスを利用するため、屋外で作業する場合は風よけなどの対策が必要