粉体塗装とは
粉体塗装とは、粉末状の固体塗料を用いて行う塗装のことです。
一般的な塗料は、顔料、樹脂、添加剤、溶剤の4つの要素で構成されています。粉体塗装に用いられる塗料には、溶剤が含まれません。顔料、樹脂、添加剤を細かく砕き、100%粉末状にしたものを塗料として用います。
粉体塗装の使用用途
粉体塗装の特徴として、耐久力が高く柔軟性があり、防錆性も優れていることが挙げられます。そのような特徴から、屋外など温度変化の大きい場所で使われる製品の塗装に、粉体塗装が採用されることが多いです。
また、有機溶剤を用いた塗装では、光化学スモッグの原因となる揮発性有機化合物が発生してしまいます。しかし、粉体塗装では有機溶剤を使用しないため、その心配はありません。そのため、粉体塗装は環境への配慮が必要な工業製品にも広く利用されます。
粉体塗装の種類
粉体塗装に使われる塗料は、含まれている樹脂の種類によって、熱可塑性粉体塗料と熱硬化性粉体塗料の2種類に分けられます。
1. 熱可塑性粉体塗料
熱可塑性粉体塗料は、熱によって溶解・軟化して形状が変化し、その後冷却して固化することで塗膜を形成する塗料です。主なものとして、上記の表1に示すポリエチレン系、塩化ビニル系、ポリアミド系の樹脂が用いられています。
熱可塑性粉体塗料の塗装には、流動浸漬塗装法が用いられます。粉体塗料の入った容器に圧縮空気を送ることで塗料を流動させ、その中に予備加熱した被塗物を浸漬し、塗料を付着させた後、後加熱を行うことで塗膜を形成する方法です。
分厚い塗膜が得られやすいことから、防錆性に優れ、耐食を目的として、屋外に用いられる線材類、バルブ、パイプなど建材、道路資材などの塗装に用いられます。
2. 熱硬化性粉体塗料
熱硬化性粉体塗料は、加熱によって架橋反応が生じることで塗膜を形成する塗料です。主なものとして、表2に示すエポキシ系、ポリエステル系、エポキシポリエステル系、フッ素系の樹脂が用いられたものがあります。
架橋反応によって性質が変わるため、用途に応じた塗料を選択することができます。熱硬化性粉体塗料の塗装には、静電粉体塗装法が用いられます。アースによって被塗物をプラスに帯電させ、スプレーガンによって塗料をマイナスに帯電させながら噴射することで、被塗物に塗料を付着させた後、高温で焼付を行う方法です。家電製品、農機具、建築物の外装など、幅広い用途に用いられます。
粉体塗装の塗装方法
熱可塑性粉体塗料には流動浸漬塗装法、熱硬化性粉体塗料には静電粉体塗装法が適用されます。それぞれの工法における各工程の内容は図1の通りです。
また、各工法を比較するとそれぞれ表3のような特徴があり、被塗物の種類によって、どちらの工法、すなわち熱可塑性、熱硬化性のどちらの塗料を選択するかが制限されてきます。
粉体塗装のその他情報
粉体塗装のメリットデメリット
一般的な溶剤系塗料の塗装と比較した場合、粉体塗装のメリットデメリットとしては以下のような点が挙げられます。
1. メリット
- 塗膜の耐久性が高い
分厚い塗膜を形成させることができるため、被塗物が空気に触れにくく、錆が発生しにくいです。また塗膜自体に柔軟性があるため、被塗物の伸縮にある程度追随することができます。 - 環境や人体に優しい
環境汚染や人体への悪影響が懸念される、揮発性有機化合物 (VOC) が含まれません。 - コストパフォーマンスが高い
粉体塗装の場合、被塗物に付着しなかった塗料を回収して再利用することができます。耐久性が高いため、再塗装の必要性が低くなります。
2. デメリット
- 専用設備が必要になる
溶剤系塗料ではスプレーガンがあれば塗装できますが、粉体塗装の場合、流動浸漬槽、静電塗装設備、加熱炉などの粉体塗装専用の設備が必要になります。 - 被塗物が限定される
粉体塗装用の設備にセッティングできるサイズ面や、加熱するため耐熱性面で、被塗物が制約を受けます。