レーザー顕微鏡

レーザー顕微鏡とは

レーザー顕微鏡とは光源にレーザー光を走査して試料を観察できる光学顕微鏡の一種です。

一般に共焦点光学系を採用しており、共焦点レーザー顕微鏡やCLSMとも呼ばれます。レーザー顕微鏡は共焦点光学系によって非焦点面からの光を除外できるので、水平方向であるXY方向だけではなく、高さ方向であるZ方向の空間分解能も高いです。

そのため、高さ方向にずらしながら顕微鏡画像を測定することで、3次元画像や全焦点画像を取得することもできます。

レーザー顕微鏡の使用用途

レーザー顕微鏡は光を用いた測定であるため、サンプルに触れる必要がありません。そのため、工業分野では半導体や電子部品などの精密機器の三次元形状観察、表面形状観察を行うために用いられ、生命科学分野では蛍光物質で標識された細胞や生体組織の観察に用いられています。

また、メーカーによってはレーザー顕微鏡の測定ステージをカスタマイズできるため、大画面のフラットパネルディスプレイなど大型のサンプルに対しても測定することが可能です。

レーザー顕微鏡の原理

レーザー顕微鏡の比較

図1. レーザー顕微鏡の比較

レーザー顕微鏡はレンズやミラーといった一般的な顕微鏡の構成と似ていますが、光源としてレーザーが用いられており、共焦点光学系として設計されています。レーザー光は放出される光の波長、位相が揃っており、単色性、指向性、直進性に優れているのが特徴です。

通常の光では位相、波長がバラバラであるため、光路が揃うことはなく、サンプルに照射して生じる反射光には散乱光が重なってしまいきれいな画像が得られません。一方、レーザー顕微鏡ではレンズの透過、サンプルの反射を経て反射光が集光される位置にピンホールを設置し、散乱光などの余分な光を除去することが可能です。そのため、輪郭がはっきりしたきれいな画像を得ることができます。

また、レーザー顕微鏡で二次元画像を得るときにはステージを動かす方式とレーザー機構を動かす方式があります。それぞれの特徴は以下の通りです。

  • ステージを動かす方式
    広範囲を測定できますが、ステージの大きさには限界があるので、大きなサンプルを測定することはできません。
  • レーザー機構を動かす方式
    幅広い大きさのサンプルを測定できるほか、表面の微細構造を測定することができます。

レーザー顕微鏡のスキャン方法

レーザー顕微鏡のスキャン方法

図2. レーザー顕微鏡のスキャン方法

レーザー顕微鏡でスキャンを行う方法は様々です。例えばガルバノミラーによるスキャンでは機械的にミラーを動かしていますが、MEMSスキャナやレゾナントスキャナー方式によって高速化させることもあります。

スピニングディスク方式は高速測定に対応しており、多数のマイクロレンズ、ピンホールアレイが並べられたディスクにレーザー光を当て、サンプルから反射した多数の光を同時に拾う方法です。この方法は一度に多数の情報を得ることが可能ですが、ある程度広がっても十分な強度を有する高出力レーザーが必要になります。

レーザー顕微鏡のその他情報

1. レーザー顕微鏡と電子顕微鏡の違い

レーザー顕微鏡と電子顕微鏡の違い

図3. レーザー顕微鏡と電子顕微鏡の違い

高倍率な顕微鏡として、レーザー顕微鏡の他に電子顕微鏡が挙げられますが、これらの装置の原理は同一ではありません。レーザー顕微鏡では光を用いますが、電子顕微鏡では電子線を用いており、観察倍率、設備、測定技術が大きく異なります。

電子は波長に変換すると可視光に対して非常に短いため、電子顕微鏡の分解能は非常に高く、走査型電子顕微鏡 (SEM) は数ナノメートルの構造まで観察できます。一方で、レーザー顕微鏡は波長よりも短い領域の構造を観察することはできず、分解能は数百ナノメートルです。

レーザー顕微鏡と電子顕微鏡では設備が大きく異なり、電子顕微鏡は電子線を用いるため真空下での測定が必要になります。また、絶縁性の高い材料を電子顕微鏡で測定した場合、電子線によって表面に電荷が蓄積して画像がゆがむなどの制約もあり、サンプル固有の物性がどのようなものか注意が必要です。

また、測定技術としても電子顕微鏡は表面の切り出しや観察条件の最適化などに熟練した技術が求められます。一方で、レーザー顕微鏡は電荷の蓄積がなく、表面の切り出しも精密さを求められないため、電子顕微鏡に比べて汎用的に使用することが可能です。

2. レーザー顕微鏡での表面粗さ測定

共焦点のレーザー顕微鏡は、非接触でサンプル表面の粗さを測定することができます。サンプル表面の粗さを測定する方法としては原子間力顕微鏡が挙げられますが、共焦点レーザー顕微鏡は非接触で測定できるというメリットが大きいです。一方で、原子間力顕微鏡とは分解能が異なるため、サンプル表面の粗さによって適切な装置を選定する必要があります。

参考文献
https://www.future-science.com/doi/full/10.2144/000112089
https://www.microscopyu.com/techniques/confocal/introductory-confocal-concepts
http://www.bgu.ac.il/~glevi/website/Guides/Lasers.pdf
https://www.yokogawa.co.jp/library/documents-downloads/technical-information/what-is-confocal-microscopy/
https://www.lasertec.co.jp/products/special/hybrid/solution/sem.html

電子顕微鏡

電子顕微鏡とは

電子顕微鏡

電子顕微鏡は、電子線を照射することで試料を観察する顕微鏡です。電子線の波長が非常に短いことから、光学顕微鏡では観察できないような超微細構造を可視化することができます。電子線の透過率を画像として出力するものと、電子線と試料との相互作用によって生じるシグナルを画像化するものと、大きく分けて2種類のものがあります。

製品として販売されている電子顕微鏡の多くは、工業材料に最適化されたものと、生物試料の観察に最適化されたものがそれぞれ販売されています。また、電子顕微鏡はしばしば略して電顕(でんけん)または英語の頭文字を撮ってEMなどと呼ばれています。

電子顕微鏡の使用用途

工業分野においては、破損した金属部品の破面解析をすることでその原因を調べたり、加工表面を観察することで品質チェックなどを行うために用いられます。また高分子ポリマーのネットワークを観察することで、器械的特性を調べたり、不純物の混入を評価したりします。生命科学分野では、細胞内小器官の微細構造を可視化したり、複雑に絡み合った神経細胞を観察することで、神経細胞同士のつながりをマッピングしたりします。また、試料に簡単な前処理を行うことで、タンパク質の構造解析に応用可能であることが明らかになったため、2017年のノーベル化学賞を受賞しました。

電子顕微鏡の原理

電子顕微鏡を構成する要素は、線源、レンズ、検出器であり、言葉だけで見ると光学顕微鏡とよく似た構成をしています。しかし、その一つ一つは光学顕微鏡のそれとは大きく原理が異なります。

まず、電子線は空気中の分子などと衝突してすぐに減衰・消滅してしまいます。そのため、電子線の発生と照射は真空中で行わなければなりません。

次に一般的な光学系で使用されるようなガラスレンズは透過してしまうため、電子線を屈折させるには磁場を印加して収束させる磁気レンズを用いる必要があります。

このようなレンズの特性として、光学的な収差が大きく、これを改善するために、開口数が小さく設計されています。これによって、電子顕微鏡は焦点深度が深く、奥行きのある立体的な観察をすることができます。

標準的な電子顕微鏡は、次の2つに分類されます。

1. 透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscopy:TEM)

電子線を試料に透過させ、その減衰をもとにコントラストを得る方法です。電子線を透過させるために、試料の厚みは非常に薄く調整されている必要があります。電子を打ち出す強さを加速電圧と呼びますが、300kVの加速電圧での波長は0.00197nmと極めて短く、分解能も0.1nmとなり原資サイズのオーダーであることがわかります。これを最高倍率に換算すると80万倍となり、光学顕微鏡の800倍になり分解能の高さが分かります。透過電子顕微鏡では試料内部を透過してきた電子を観察するため、極小領域の試料内の結晶構造などの内部の構造を見ることに優れています。

2. 走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscopy:SEM)

真空中で資料に電子線を照射すると、二次電子、反射電子、特性X線などが放出されます。走査型電子顕微鏡像は空間的に収束させた電子線を走査し、二次電子や反射電子信号から像を形成します。二次電子は試料表面近くから発生する電子であるため、二次電子像は試料の微細な凹凸を見るのに適しています。反射電子は試料を構成する原子に衝突し跳ね返された電子であり、反射電子の数は試料の組成(原子番号、結晶方位等)に依存します。そのため、反射電子像は試料表面の組成分布を評価するのに適しています。

電子線が試料に衝突すると、その表面を構成する原子が励起され、電子を放出します。その他にも反射電子や特性X線などが放出されますが、二次電子とよび、放出される二次電子の強度をポイントスキャンすることで得られます。

電子顕微鏡でしか観察できないもの

電子顕微鏡は一般的な光学顕微鏡と比較して分解能が極めて高いので、例えば細胞などの微細な組織構造や金属の結晶を原子サイズのオーダーで観察することができます。

細胞を例に取ると、光学顕微鏡では核以外の細胞中の微細な構造を詳しく観察することができませんが、電子顕微鏡では観察可能になります。これにより、細胞内での酵素の働きや細胞構造の反応など、様々な機能まで詳細に調査できます。