バラクタダイオード

バラクタダイオードとは

バラクタダイオードとは、逆電圧を印加することによって、静電容量を変化することができるダイオードのことです。

可変容量ダイオードやバリキャップとも呼ばれています。一般的に、ダイオードのPN接合部分に逆方向の電圧を印加すると発生すると、電子や正孔といったキャリアが無い部分である空乏層がコンデンサのようにふるまいます。

バラクタダイオードはそのコンデンサとしてふるまう静電容量が、さらに印加する電圧の大きさによって変化する性質を積極的に利用しているものです。

バラクタダイオードの使用用途

バラクタダイオードの使用用途は、電子同調回路や電圧制御発振器 (VCO) などの電子部品です。電子同調回路や電圧制御発振器 (VCO) は、ラジオやテレビ、通信機器、スマートフォンなどの移動式通信機器などの電波を受信するような機器で用いられています。

それらの機器は、特定の周波数の信号を受信するため、受信部のコンデンサの容量やコイルのインピーダンスの値を調整しなければなりません。そのために、静電容量を電圧によって制御することができるバラクダイオードが使用されます。

バラクタダイオードの原理

バラクタダイオードの原理は、ダイオードのPN接合部に逆方向電圧を印加した際に生じるキャリアがない空乏層を容量として活用し、その容量の値が逆方向電圧値に依存する特性を積極的に用いることにあります。通常のダイオードは、順方向の向きにバイアス電圧が印加されると順方向電流が流れ、逆方向の向きにバイアス電圧が印加されると電流が流れなくなります。

この逆方向に電圧を印加した状態では、PN接合部分から、P型半導体部分では正孔が電極側に移動し、N型半導体部分では電子が電極側に移動するため、PN接合部分ではキャリアがない空乏層と呼ばれる層を形成します。その空乏層には電荷が無く、空乏層の両サイドには電荷が発生するため、コンデンサのようにダイオードがふるまうことになります。

逆方向の印加電圧の絶対値が大きければその分だけ空乏層の厚みが大きくなり、結果として等価的な静電容量は小さくなります。この逆方向電圧を印加しその値を可変することにより、静電容量が変化するダイオードがバラクタダイオードです。この容量の変化特性を有効に活用しています。

バラクタダイオードのその他情報

1. バラクタダイオードを用いたLC共振回路

バラクタダイオードは、バイアス印加電圧で容量値を可変できることから、インダクタとLC共振回路を形成し、その共振周波数を調整することが可能です。

この電圧値で可変できるLC共振回路を用いて、例えば一例としてコルピッツ発振器などに共振回路を組み込んだものが、電圧制御発振器 (VCO) です。

電圧制御発振器 (VCO) は、移動体通信用の周波数調整回路であるPLL (Phased Lock Loop) の一部です。基地局と移動体端末の間で実施されるセルラー通信用途には欠かせない非常に重要な回路となっています。また、同調回路としては、ラジオなどのFM変調用途にもこのLC共振回路は使われています。

2. バラクタやバリキャップの語源と降伏電圧

バラクタダイオードのバラクタ (英: Varactor) とは「Variable Reactor」の略称であり、可変リアクタンスを意味し、バラクタダイオードの場合には特に容量性の可変リアクタンスを表しています。一方で、バリキャップとは「Variable Capacitor」の略称であり、文字通りに可変容量という意味です。

バラクタやバリキャップは共に容量を変更できるという意味合いの略称ですが、容量を可変できる逆方向側のダイオードバイアスにもブレークダウン電圧 (降伏電圧) があることには注意が必要です。使用予定のバラクタダイオードの電気的な仕様をよく確認し、逆方向側の使用可能範囲内の電圧で用いるようにしましょう。

なお、ブレークダウン電圧 (降伏電圧) はツェナー電圧とも呼ばれ、この領域を積極的に用いるダイオードはツェナーダイオードとも呼ばれます。ツェナーダイオードは過電圧が本体の回路へ印加されることを防止する保護回路向けの用途や、定電圧生成のための回路用途などに用いられる場合が多いです。

参考文献
https://www.marutsu.co.jp/contents/shop/marutsu/mame/61.html
https://toshiba.semicon-storage.com/jp/semiconductor/knowledge/e-learning/discrete/chap2/chap2-9.html
https://detail-infomation.com/variable-capacitor-diode/

電流発生器

電流発生器とは

電流発生器とは、電子機器などの電気的な測定のために、一定の定電流を発生させる装置です。

製品としては、電圧電流発生器として発売されているものが多いです。一定の電流を流し続ける必要があるため、負荷抵抗が変化しても定電流を流せるように、搭載されているオペアンプや基準電圧ICによって電流の大きさを制御しています。

電流発生器の中には、大電流を流すことで大規模な電気設備の測定などを行える電流発生器もあります。

電流発生器の使用用途

電流発生器は、半導体デバイスや電子機器、電子部品の電気特性の評価や測定などの用途が主です。また、大電流を発生できる電流発生器では、ブレーカなどの遮断動作の確認や、ヒューズの溶断の検査、変電設備の評価などの用途で使用されます。

電流計電圧計が備え付けられている製品が多く、高精度で測定対象の電気特性を計測することが可能です。装置を選定する際は、対応している電圧や電流の大きさ、測定精度、安全性などの各種仕様を良く考慮する必要があります。

電流発生器の原理

電流発生器の原理は、負荷のインピーダンス値によらない定電流発生回路を構成すべく、オペアンプや基準電圧回路による負帰還回路を活用し、発生する電流値を基準電圧 (Ref電圧)と内部の抵抗値で決定している点にあります。

定電流を発生させるための回路でよく用いられているのが、負帰還回路でのオペアンプの入力端子で0Vになるバーチャルショートを成立させる回路です。バーチャルショートを成立させる回路には、通常は吸い込み型と吐き出し型があります。

1. 吸い込み型

吸い込み型は、外部から電流をトランジスタに吸い込むように定電流発生の回路に流し、オペアンプとグランドを利用して、バーチャルショートの回路を作る方式です。

2. 吐き出し型

吐き出し型は、電流発生器の回路からトランジスタを利用して増幅させて吐き出すように、外部に電流を流すことでバーチャルショートを成立させる方式です。 

 

ともにオペアンプに印加されるRef電圧を内部の抵抗で割った値で電流値が決定するため、負荷インピーダンスに依存なく、電流値は抵抗でその値を調整可能となっています。

電流発生器のその他情報

1. 電流発生器と計装設備

計装設備の分野で標準的に用いられる、4-20mA及び1-5Vとはアナログ信号の一種で、センサー (変換器) からの出力信号または調節器、シーケンサなどの制御信号として幅広く使われています。

例えば、バルブの開度で考えた場合、開度計からの出力信号は次のようになります。

  • バルブ開度0%: 4mAまたは1V
  • バルブ開度100%: 20mAまたは5V

つまり、計測値が0の時に4mAまたは1Vを出力し、計測値が100の時に20mAまたは5Vを出力すると言うことです。信号を標準化・統一化することで、計装機器同士の信号の受け渡しが可能です。

計測値が0の時に4mAを出力させる理由は、電線が断線しているかどうかを判断するためです。すなわち、4mAの電流が流れて0を指示しているのか、若しくは電線が途中で切断して0を指示しているのかを判断する目的です。広角度形指示計においては、4mAで0を示し、断線して電流が流れていない場合は0以下を示すように作られています。

2. 計装設備評価時のノイズ対策

電圧で信号を送ると電圧降下が発生し測定誤差の要因となりますが、電流で信号を送った場合には電圧降下が発生しないため長距離の伝送に適しています。

その他、別の計装機器の入力が1-5Vであった場合、250オームの抵抗を挿入すれば、容易に電圧信号に変換できることが電流信号の特徴です。反対にデメリットとして、ノイズの影響を受けやすく測定値に誤差が生じることがあります。

ノイズ対策としては、シールドケーブルを使用する、ノイズフィルタを取り付ける、アースの取り方などを考慮することで、ノイズの影響を最小限に抑えることが効果的です。また、4-20mAの信号でループ回路を形成している場合には、断線するとループ全体に影響が出るといった点が挙げられます。これは、直列回路であるためです。対策として、アイソレータを使用することも1つの手段です。

参考文献
https://www.jstage.jst.go.jp/article/kogyobutsurikagaku/40/4/40_258/_pdf
http://www.nahitech.com/nahitafu/mame/mame3/teid1.html
https://www.marutsu.co.jp/contents/shop/marutsu/mame/123.html
https://tmi.yokogawa.com/jp/solutions/products/generators-sources/source-measure-units/
http://www.tokyo-seiden.co.jp/technic/current/
http://energy-kanrishi.com/4-20ma/

小型サーボモーター

小型サーボモータとは

小型サーボモーター

小型サーボモータとは、精度の高い位置ぎめや速度制御ができるモータです。

モータの内部には、回転数やトルクの制御装置が内蔵されているので、指令値にフィードバックしながら制御することによって、高精度の制御を実現しています。サーボモータの「サーボ」とはギリシャ語のServus (奴隷) が語源で、命令に対して正確に動くという意味が含まれます。

従来は直流電流で駆動するDCサーボモータが主流でしたが、現在は耐久性やメンテナンス性に優れいて、交流電流で駆動するACサーボモータが主流です。なお、本記事では「小型」と称していますが、小型に対する明確な区分けは定義されていません。

各モーターメーカーのラインナップに応じて、大型、小型、精密といった区分けがされています。

小型サーボモータの使用用途

小型サーボモータは、精密な動作が要求される生産ラインや計測装置、医療機器などで使用されます。具体的な例としては、工作機械や産業用ロボット、精密機器や電子部品、液晶ディスプレイ、半導体の製造装置、検査装置、バイオ機器などです。

自動車製造工場で活躍する産業用ロボットであれば、部品にピッキング、溶接、塗装などの作業を、繰り返して正確に行うことができますが、サーボモータによる正確な制御によって実現しています。私たちの日常生活においてはさまざまなOA機器、自動車などにもサーボモータは使用されています。

小型サーボモータの原理

サーボモータは複数の機器と組みわわせることによって、正確な動作が可能になります。サーボモータのシステムは、司令塔となるコントローラ、制御部となるドライバまたはサーボアンプ、そして駆動部となるモータで構成されます。さらに、モータの実際の駆動状況を把握するための検出器になるのがエンコーダ です。

サーボモータが動作する際には、コントローラからドライバに、位置や回転数、トルク、速度などの動作条件が伝達されます。ドライバが伝達された条件と、エンコーダから伝達されたモータの回転状態などから、回転に最適な電力をモータにながし、モータがコントローラから伝えられた目標の回転条件になるように、エンコーダからのフィードバックをもとに制御されます。

また、サーボコントローラがドライバに指令をする際の制御は速度制御システム、または位置制御システムのいずれかの方式が用いられるのが一般的です。

小型サーボモータのその他情報

ACサーボモータとDCサーボモータとの違い

サーボモータに限らずモータには、直流モータ、交流モータ、パルスモータがあります。このうちサーボモータとしては直流モータであるDCサーボモータと、交流モータであるACサーボモータがあります。現在、もっとも広く使われているのは、ACサーボモータです。

ACサーボモータは、ロータと呼ばれる回転軸に永久磁石が使われており、回転軸の周りにステータとして、鉄心とコイルで囲まれている構造になっています。交流電流の周波数のタイミングに合わせて、ステータのコイルに電流をながして磁場を発生させ、回転軸の永久磁石との間に引力や反発力を生じさせることによって回転軸を回転させます。

回転軸はコイルなどには非接触で動作するため、摩擦摺動する部分はベアリングのみです。ステータ側に電流が流れるので、発熱するのはモータの外側にあるステータになります。DCモータは回転子に電流がながれるので、発熱するのもロータです。放熱性の面から見ると、モータの外側になるステータが発熱するACモータのほうが放熱しやすいモータになります。 

反対にDCサーボモータは、比較的小型であっても大きなトルクが得られます。制御性がよく低コストなのも特徴の1つです。しかし、DCモータはブラシと整流子が直接接触して電気を流すため、ブラシの摩耗が発生します。摩耗に対してのメンテナンスが必要で、また環境によってはブラシ摩耗粉によって火花が発生する可能性があるのもデメリットです。

参考文献
https://www.fujielectric.co.jp/products/column/servo/servo_01.html
https://www.yaskawa.co.jp/newsrelease/product/35763
https://www.on-side.co.jp/pdf/yokuwakaru_ac_servo_motor.pdf

ロードスイッチIC

ロードスイッチICとは

ロードスイッチICとは、電源供給をON/OFFするオン抵抗の低いMOSFETとFETを駆動する機能に加えて、 各種保護機能と異常状態をIC外部に出力する機能が一体化された集積回路です。

ロードスイッチICを使用することで、単体の電子部品を組み合わせで同機能を実現した場合よりも部品点数が削減可能で、省スペース化にもつながります。

ロードスイッチICの使用用途

ロードスイッチICは、 電子機器内の電源供給回路で使用されます。 ロードスイッチICの定格電流は0.5Aから5Aの製品が多いため、 モーターやソレノイド等を動作させる産業機器よりもバソコン本体、パソコン周辺機器、モバイル機器等の情報通信機器に用いられることが多いです。

各種保護機能が付いているため、 負荷の短絡故障やFETの異常発熱時に周辺回路やハーネスを保護したい場合やUSBを代表とする電源を入れたまま接続機器を挿入できる用途に適しています。

ロードスイッチICの原理

1. 負荷への電源供給

ロードスイッチICは、内部のPチャネル型FETまたはNチャネル型FETを使用して負荷への電源供給をON/OFFします。 ロードスイッチIC内部のFET駆動回路がFETのゲート電圧を制御し、FETのドレイン-ソース間の抵抗値が変化することで、負荷への電源供給ON/OFF機能を実現しています。

2. 過電流保護

ロードスイッチICの出力する電流が規定以上になった場合に、 負荷への電源供給をOFFします。ロードスイッチICの出力端子がGNDとショート時や、負荷に電流が流れた場合にロードスイッチICを保護することができます。

例えば、負荷動用のFETに過電流が流れた場合、過電流保護機能が無い場合は、過電流がFETに流れ続けます。 その結果、 FETが故障したり、 配線が切れたりしますが、 過電流保護機能がある場合は、負荷への電源をOFFするため、 FETが故障したり配線を切れたりすることはありません。

3. 過熱保護

ロードスイッチIC内部の半導体接合部温度が規定以上になった場合に、 負荷への電源供給をOFFにします。 外部環境の異常発熱時や負荷電流が想定よりも大きい場合に、ロードスイッチICを保護することが可能です。

例えば、 負荷が故障し、 想定よりも大きな電流がFETに流れた場合、 過保護機能が無いときはFETが発熱し続け、FETが故障します。それに対して、過熱保護機能があると、負荷への電源をOFFするため、 FETが故障することはありません。

4. 低電圧保護

ロードスイッチICに入力する電源電圧が規定以下になった場合に、 負荷への電源供給をOFFします。電源回路の故障で電源電圧が低下した際、 負荷の誤動作を防止することができます。

例えば、 電源回路が故障し、 電源電圧が動作保証より低い電圧になった場合、 低電圧保護機能がないと負荷への電源供給をONし続けるため、負荷が誤作動します。一方で、 低電圧保護機能があると、 負荷への電源をOFFするため、 負荷が誤作動することはありません。

ロードスイッチICのその他情報

ロードスイッチicの端子

ロードスイッチICの代表的な端子は、VCC、GND、EN、FLG、VOUTの5ピンです。

1. VCC端子
VCC端子は、ロードスイッチICの電源入力端子です。負荷に供給する電源線を接続し、VCC端子とGND端子間にはバイパス用のセラミックコンデンサを接続します。バイパス用のセラミックコンデンサは、端子の近くに配置しないと効果が出ません。

2. VOUT端子
VOUT端子は、電源出力端子で負荷の電源線を接続します。ロードスイッチIC内MOSFETの寄生ダイオードは無効化されているので、VOUTからVCCに逆電流は流れません。

3. EN端子
EN端子は、ロードスイッチ接点の電源出力をON/OFF制御する入力端子です。EN端子とマイコンの出力ポートを接続することで、負荷への電源供給を制御することができます。

ロードスイッチICによって、EN端子の論理や電圧レベルが異なりますので、データシートを確認して適切な論理、電圧を接続します。

4. FLG端子
FLG端子は、ロードスイッチICの状態を示す出力端子です。ロードスイッチICが正常時と異常時でFLG端子の電圧が変化します。

FLG端子をマイコンの入力ポートに接続することで、ロードスイッチICの状態を監視することができます。通常、FLG端子はオープンドレイン出力なので、外付けにプルアップ抵抗を接続し、FLG端子を使用しない場合は端子を未接続状態にします。

参考文献
https://detail-infomation.com/load-switch/
https://www.rohm.co.jp/electronics-basics/transistors/tr_what8
https://toragi.cqpub.co.jp/Portals/0/backnumber/2004/12/p106-107.pdf
https://toshiba.semicon-storage.com/info/docget.jsp?did=68574
https://toshiba.semicon-storage.com/info/docget.jsp?did=13560
https://toshiba.semicon-storage.com/jp/semiconductor/knowledge/faq/liner_load-switch-ics/load-switch-ics12.html

衝撃試験機

衝撃試験機とは

衝撃試験機とは、衝撃試験を行うための試験機です。

衝撃試験では、私たちが使用する製品が衝撃を受けた際、十分な強度があることを確認したり、壊れる場合にはどのような壊れ方をするのかを確認したりします。私たちが日常使う製品には、衝撃荷重を受けながら使用される部品や偶発的な要因で衝撃を受ける製品もあります。製品の安全性を保つために、衝撃荷重に対する耐久性や壊れ方を評価することは、製品開発において不可欠です。

なお、衝撃試験には大きく2つの区分があります。専用の試験片を作成し、材質自体や塗膜など特性としての衝撃強度を確認する試験と、製品そのものの衝撃強度や衝撃を受けた際の壊れ方などを確認する試験です。

JISなどによって規格化された試験の多くは、前者に区分されます。これらの試験では、試料に衝撃が加わった時の歪み量や膨張量、縮小量、平面度、表面のひび割れなどが測定されます。

衝撃試験機の使用用途

衝撃試験機は、製品や製品に使用される部品、その素材が規定の衝撃強度があるか、またはどの程度の衝撃強度があるかを評価する際に使用されます。金属材料や樹脂の衝撃強度、工業製品の衝撃荷重に対する強さを確認するために、衝撃試験機が用いられます。

私たちの生活に不可欠なスマートフォンは、普段衝撃荷重を受けることはありません。しかし、うっかり落下させてしまうことは起こりえます。このような偶発的な落下でも、製品が壊れないことを確認したり、どのような壊れ方をするかを知るために、衝撃試験機を使った衝撃試験が行われています。

衝撃試験機の原理

衝撃試験にはさまざまな試験方法があり、それぞれ専用の試験機があります。衝撃試験機の原理として共通して言えることことは、試験の繰り返し精度を確保するために、試験片や試験方法が定められていることです。

衝撃試験機では試験対象に衝撃荷重を与えますが、繰り返し試験した際に、同じ条件を与えることが重要になります。衝撃試験を行うと、試験対象物は大きな塑性変形が生じたり、割れてしまう場合もありますが、衝撃荷重のわずかな違いによって、結果が大きく変わってきます。

試験対象物自体のばらつきも影響するかもしれません。そこで、いかにして同じ衝撃荷重を、繰り返し与えられるかどうか、再現性の高い試験が行えるかという観点から、試験方法が定められています。

衝撃試験機のその他情報

衝撃試験の種類

代表的な衝撃試験として、以下の3つが挙げられます。

1. アイゾット衝撃試験機
アイゾット衝撃試験は料片の片側を固定し、反対側に衝撃を与えて衝撃値を測定する方法です。切り込みを入れた試料片の片側を固定して、振り子式のハンマーで衝撃を与えます。

評価は試験片に衝突したハンマーが、惰性で持ち上がった時の角度で行われます。主に材料の靱性、粘り強さを評価する試験方法です。

2. シャルピー衝撃試験機
シャルピー衝撃試験は、材料の脆弱性を評価する試験です。脆弱性とはもろさのことです。中央に切り込みを入れた試料片の両端を固定し、その中央に固定の力で衝撃を与えてその時の試料片の変形量や、破損時の衝撃値の大きさを測定することで評価します。

破損時は、衝撃を加えて飛び上がったハンマーの位置エネルギーを利用して、破損する際の試験片が吸収するエネルギーを算出しています。

3. 高加速度衝撃試験機
高加速度衝撃試験機は、衝撃テーブルの上に測定対象の製品を固定し、テーブルに衝撃加速度の波形を発生させて、製品がどの程度衝撃によって損害を受けるかを測定する試験機です。スマートフォンやノートパソコンなどの電子機器に使用されます。

 

その他、プラスチック‐引張衝撃強さ試験や、デュポン式落下衝撃試験、ダートインパクト試験などがあります。

参考文献
https://www.shinyei-tm.co.jp/shocktesting/info/shockinfo/
https://www.shinyei-tm.co.jp/tech_dropshock_shocktest.html
https://www.keyence.co.jp/ss/products/recorder/testing-machine/material/impact.jsp

ニードルベアリング

ニードルベアリングとは

ニードルベアリング

ニードルベアリング (英: Needle Bearings, Needle Roller Bearings) とは、「ニードルローラベアリング」とも呼ばれ、転動体のローラ (ころ) がニードル (針状) 形状のベアリングです。ニードルローラ (針状ころ) は、外径が小さく長い円筒状のローラです。

ニードルベアリングの使用用途

ニードルベアリングの型式と特長

図1. ニードルベアリングの型式と特長

ニードルベアリングは、一般産業用機械、車など多くの場所で、いろいろな場面で使用されています。代表的な用途では、エンジン等の内燃機関のコネクティングロッドです。専用型式もあります。

ニードルベアリングは、前述の通り外径が小さく、他のベアリングに比べ負荷容量が大きく剛性が高いため、コンパクトな設計が可能です。また、ニードルベアリングには複数の型式があり、それぞれ特長や使用用途も異なるので、これらの特長に適したものを選定します。種類による特長は図1を参照してください。

ニードルベアリングの原理

ニードルベアリングは、他のベアリングと同じく「ラジアルベアリング」、「スラストベアリング」があります。

ベアリングに加わる荷重は、シャフト (回転軸) の軸中心に対して直角方向のラジアル方向に加わる「ラジアル荷重」、シャフト (回転軸) の軸中心に対して平行方向のアキシアル方向に加わる「スラスト荷重」です。ラジアルベアリングはラジアル荷重が加わる場合に、スラストベアリングはスラスト荷重が加わる場合に使用します。

ニードルベアリングの特長は、転動体のニードルローラと軌道輪のアウターリング (外輪) やインナーリング (内輪) とが線接触で、ボールベアリングなどと比べて接触面積が広く、接触面の応力が小さいため、負荷容量が比較的大きくなります。

ニードルローラは外径が小さいことで、1つのベアリングに多数のニードルローラを配置でき、省スペース、高剛性、高負荷に対応できます。また、質量と慣性力が小さいため、揺動運動する機械に使用が可能です。

ニードルベアリングの種類

ニードルベアリングの型式

図2. ニードルベアリングの型式(1)

ニードルベアリングの型式は数多くあります。代表的な形式は以下の通りです。

1. ラジアルベアリング

ケージ付きニードルベアリング

ニードルベアリングの型式

図3. ニードルベアリングの型式(2)

ケージ付きニードルベアリングは、ケージ (保持器) でニードルローラの間隔を維持しているベアリングです。ケージは、ソリッド形、打ち抜き形、溶接形があります。ニードルローラは、1列配置の単列と2列配置の複列があります。

このベアリングは、転動体のニードルローラは相手側のハウジングやシャフトが軌道面になり、アウターリングとインナーリングはないため、全体寸法が小さく省スペースでの設置が可能です。ただし、ニードルローラが接触するハウジング、シャフトの軌道面は、高精細な仕上げ加工精度と、表面硬度は高硬度で、摩耗対策としての十分な硬化深さが必要です。ケージ付きニードルベアリングは、自動車などのエンジンやトランスミッションに使用されています。

シェル形ニードルベアリング

ニードルベアリングの型式

図4. ニードルベアリングの型式(3)

シェル形ニードルベアリングは、薄板鋼板を 絞り加工したシェルをアウターリングとし、ケージとニードルローラで構成されています。アウターリング付きベアリングの中では最も外径が小さく、省スペースでの設置が可能です。

シェルがあることで組込み部への圧入が可能で、取り付けが簡単になります。ニードルローラは、1列配置の単列と、2列配置の複列があります。また、ベアリング端部が開放されたオープンエンド形と、片端にカバーが付くクローズドエンド形があります。

シャフト端部側にクローズエンド形を使用し粉塵等の侵入を防ぐことが可能です。シェル形ニードルベアリングは、産業用機械全般で使用されています。

ソリッド形ニードルベアリング

ニードルベアリングの型式

図5. ニードルベアリングの型式(4)

ソリッド形ニードルベアリングは、合金鋼機械加工したアウターリング、インナーリング、ケージとニードルローラで構成されています。インナーリングがなく、直接ニードルローラがシャフトなどの軌道輪に接触している型式もあります。

アウターリングが合金鋼の機械加工品で、ベアリングとしての剛性が高く、外径の寸法精度は高いです。ニードルローラは、1列配置の単列と、2列配置の複列があります。ソリッド形ニードルベアリングは、印刷機械、工作機械や一般的な機械などに幅広く使用されています。

ソリッド形ニードルベアリング分離形
ソリッド形ニードルベアリング分離形は、上記のソリッド形ニードルベアリングでアウターリングとインナーリングをニードルローラ (ケージ付き) と分離することができるベアリングです。各構成部品が分離し分解することできるため、組み立てが簡単になります。

2. 自動調心ニードルベアリング

ニードルベアリングの型式

図6. ニードルベアリングの型式(5)

自動調心ニードルベアリングは、アウターリングは合金鋼で外径が球面状に機械加工され、シェル内側で回転する構造です。シェル形ベアリングと同じく、シェル、アウターリング、インナーリング、ケージとニードルローラで構成されています。

ただし、シェル形ベアリング分離形とは異なり、シェル、アウターリング、ニードルローラ (ケージ付き) の分離はできません。インナーリングありの場合は、インナーリングとそれ以外一体での分離が可能です。シャフトのたわみが大きい場合や、芯だしが困難な場合などに適用します。

3. すきま調整形ニードルベアリング

すきま調整形ニードルベアリングは、合金鋼に複数の溝加工したアウターリングと円筒のインナーリング、ケージとニードルローラで構成されています。自動調心ベアリングと同じく、アウターリング、ニードルローラ (ケージ付き) の分離はできません。

インナーリングありの場合は、インナーリングとそれ以外一体での分離が可能です。アウターリングをアキシアル方向 (シャフト軸中心方向) へ力を加えて押えると、アウターリング内径が小さくなり、ニードルローラのすきまを調整できることが特長です。

すきま調整形ニードルベアリングは、工作機械の主軸など高速回転し回転精度の高い場合に使用されています。形状や構造の詳細は、上記図6ニードルベアリングの型式 (5) を参照してください。

4. 複合形ニードルベアリング

ニードルベアリングの型式

図7. ニードルベアリングの型式(6)

複合形ニードルベアリングは、ラジアルベアリングとスラストベアリングを両方の機能を一体化したベアリングです。ラジアル・スラストベアリングの両方を設置するよりも、コンパクトで省スペースの設置が可能です。

ラジアル荷重用にはニードルベアリング、スラスト荷重用にはボールベアリング、ローラベアリングまたはニードルベアリングを使用しています。複合形ニードルベアリングは、工作機械や減速機などに使用されています。

5. スラストニードルベアリング

スラストニードルベアリングは、スラスト荷重が加わる場合に使用するニードルベアリングです。スラストニードルベアリングは、ケージ付きニードルベアリングと同じく、ケージ (保持器) でニードルローラの間隔を維持しているベアリングです。専用のアウターリング、インナーリングがあり、必要に応じて使用することができます。

ケージは、鋼板打ち抜き形、アルミ合金形、樹脂製などがあります。スラストニードルベアリングは、工作機械やポンプなどに使用されています。構造の詳細は、上記図7ニードルベアリングの形式 (6) を参照してください。

6. トラックローラ

カムフォロア
カムフォロアは、ニードルローラ (ケージ付き) とトラックローラ (アウターリング) 、内輪側にシャフト (スタッド) を組込んだベアリングです。シャフトはベアリング片側のみに突き出しています。

トラックローラは、外径形状は円筒形と球面形状があります。円筒形は接触面積が大きいため、高荷重の場合などに有利で、球面形状は多少の取り付け誤差を許容することが可能です。

シャフト端はねじ加工がされていて、ナットなどで装置に簡単に取り付けることができます。<カムフォロアは、トラックローラが装置や設備に設けられた軌道(トラック)の上で、回転し移動するような場合に使用します。

ローラフォロア

ニードルベアリングの型式

図8. ニードルベアリングの型式(7)

ローラフォロアは、ニードルローラ (ケージ付き) とトラックローラ (アウターリング) 、インナーリングで構成されているベアリングです。カムフォロアとの違いは、シャフトではなくインナーリングになっている点で、その他はカムフォロアと同じです。なお、インナーリングなしの型式もあります。

参考文献
https://www.ntn.co.jp/japan/products/rollingbearing/radial_roller.html#anchor03
https://www.ntn.co.jp/japan/products/rollingbearing/radial_roller.html#anchor02
https://www.ntn.co.jp/japan/products/catalog/pdf/2300_01.pdf
https://www.nsk.com/jp/products/rollerbearing/needle/3
https://koyo.jtekt.co.jp/products/type/needle-roller-bearing/
https://www.ikont.co.jp/product/needle/index.html

ニッケルめっき

ニッケルめっきとはニッケルめっき

ニッケルは錆びにくくて化学的にとても安定しているため、めっき用の金属として幅広くされており、電気部品や装飾物の表面を保護する方法としてニッケルめっきは多く使用されています。

ニッケルめっきをおこなう方法は大きく分類して2種類です。

1つ目は、電気ニッケルめっきと呼ばれている方法で、電気を利用して陽極であるニッケルに酸化反応を起こし、還元反応により陰極である被めっき物(めっきを施す材料)にニッケルを析出させることでめっき処理を施しています。

2つ目は、無電解ニッケルめっきと呼ばれる方法で、電気の代わりに薬品を利用し化学反応を起こし、ニッケルを析出させてめっき処理を施す方法です。

電気ニッケルめっきの歴史は古く、1830年代に世界で初めて開発されました。日本では1892年に初めてニッケルめっきが行われたと言われています。なお、初期の電気ニッケルめっきには表面に光沢がなく、めっき処理後に研磨をして表面に光沢を出していました。

ニッケルめっきの方法ごとの原理および種類と使用用途

ニッケルめっきの方法としては、電気ニッケルめっきと無電解ニッケルめっきが挙げられます。

電気ニッケルめっきの原理

電気ニッケルめっきは、溶液の中に電気を流してめっき金属であるニッケルを電気分解させ化学反応を起こすことによりめっきする方法です。

図1に示すように、被めっき物(めっきを施す材料)を陰極、とニッケル板を陽極として硫酸ニッケル水溶液の中に浸しておこないます。これに通電するとニッケル板が酸化反応を起こして、ニッケルイオンが溶液中に溶け出し、溶液中の電子と結びついて還元反応を起こし、陰極の被めっき物表面にニッケルが析出して被形成されます。

電解ニッケルめっきの模式図

図1. 電解ニッケルめっきの模式図

電気ニッケルめっきの種類と使用用途

電気ニッケルめっきは、アート性のあるものから電気部品など幅広い分野のめっき処理に使用されています。なお、電気ニッケルめっきの種類は、光沢ニッケルめっき、半光沢ニッケルめっき、無光沢ニッケルめっきの3種類です。

光沢ニッケルめっきの代表的な使用用途としては、家庭用コンセントやコネクターなどの表面処理が挙げられます。

半光沢ニッケルめっきは、はんだ付けや溶接が主な使用用途です

無光沢ニッケルめっきは、光沢ニッケルめっきと比較して艶がなく見た目は悪くなりますが、光沢ニッケルめっきと異なり光沢を出す為の添加剤を必要としません。このため、添加剤に影響されることなく、非常に安定した緻密なニッケルめっき被膜が得られ、内部部品のめっきに適しています。

無電解ニッケルめっきの原理

無電解ニッケルめっきは、めっき液となる溶液の中に2種類の薬品を入れその化学反応でニッケルを析出させて、被めっき物の表面に被膜を形成する方法です。

図2に示すように被めっき物をめっき液の中に浸した状態にしておこないます。めっき液は、例えば、硫酸ニッケル次亜リン酸ナトリウム、pH緩衝材、錯化剤、安定化剤等で構成されており、めっき液中のニッケルイオンが還元反応を起こして被めっき物表面にニッケル析出し、膜が析出されます。

無電解ニッケルめっきの模式図

図2. 無電解ニッケルめっきの模式図

ニッケルクロムめっきについて

ニッケルクロムめっきとは

ニッケルクロムめっきは、水道の蛇口などによく使用されるシルバー色で少し青白いメッキです。ニッケルクロムめっきは装飾クロムめっきも言われています耐食性が良いうえ、硬く、耐候性もあり、光や熱の反射性がよいため、ニッケルめっきの上層に仕上げとして良く使用されています

当然のことながら、ニッケルクロムめっきを施した場合、ニッケルめっきのみの場合よりも衝撃や腐食に強くすることができ、大気中ではクロムの表面に酸化被膜が生じるので、内部を腐食から守ると同時に外観も維持することが可能です

ニッケルクロムめっきを施した場合、ニッケルめっきの光沢感とニッケルクロムめっきの銀白色の金属感が合わさり、装飾としても人気があるので、上述の水道の蛇口など以外にも広く使用されている処理方法です。

クロムについて

クロムには酸化数の違いによって、三価クロムと六価クロムがあります。六価クロムは環境汚染や人体への有害性が報告されていることから、RoHS指令、RoHS2指令で使用が禁止されている物質です。従来は六価クロムによるめっき処理が主流でしたが、近年ではその有害性により三価クロムを使用しためっき処理が広く活用されています。三価クロムによるめっき処理は均一性に優れており、従来と同等の耐食性を有するものも開発されています。また、人体に無害なので、作業性等の面でも使用しやすいめっき処理方法です。

無電解ニッケルめっきの腐食について

ニッケルめっき膜の海などにおける塩気への耐性を向上する方法として、無電解ニッケルめっきの際に、還元剤として次亜リン酸塩を用いてめっきを析出させる方法があります

このようなニッケルめっき被膜は、無電解ニッケル-リンめっきと呼ばれていますが、この無電解ニッケル-リンめっき膜は、大気中の海塩などが比較的少ない状態において短期間の間に被膜が損傷し、金属がむき出しとなり、さびてしまうのが大きな課題です

研究の結果、大気中の亜硫酸ガス由来の硫酸イオンが表面のニッケル層に接触すると、硫酸ニッケルの水和物が生成し、これが、表面のニッケル層の腐食を進行させる原因物質であるということがわかっています。

このような課題に対しては、犠牲防食タイプのめっき(電気化学的に、上層のめっき皮膜がゆっくり酸化することで下地めっきまたは素材の腐食を守る)ニッケル二層めっきやこの二層めっきの中間にイオウを0.1~0.2%含む光沢ニッケルを挟んだ三層ニッケルめっきが開発されています。また、前述のニッケルクロムめっきなども有用です

参考文献
https://www.sun-kk.co.jp/room/function/nickel-type.php
https://www.sanko-seisaku.co.jp/mekki-kakou/total_support/plating/index.html
https://www.sanwa-p.co.jp/mekki/nickel/
https://www.jstage.jst.go.jp/article/sfj1989/42/11/42_11_1058/_pdf
https://www.wakayamapp.jp/faq/faq6/entry-81.html
https://www.sanko-seisaku.co.jp/mekki-kakou/total_support/plating/index.html
http://www.ssken.co.jp/research/pdf/111/111_04.pdf
https://www.asahimekki.com/faq/3520.html
https://www.sanwa-p.co.jp/mekki/no-electrolysus-nickel
https://www.sanwa-p.co.jp/faq/detail5141.php

撹拌子

撹拌子とは

攪拌子のイメージ図

図1. 攪拌子のイメージ図

攪拌子とは、液体を攪拌する際に使用する、小さな磁石でできた実験器具です。

スターラー・バー、スターラー・チップ、回転子などと呼ばれることもあります。撹拌子を入れた容器をマグネチックスターラーの上に載せ、撹拌子を回転させるのが一般的な使用方法です。マグネチックスターラーの磁石の動きに伴って容器中の撹拌子も回転し、液体を攪拌することができます。 

撹拌子の使用用途

磁気攪拌機は化学や生物学、薬学、医学の分野をはじめとする、液体の撹拌が必要なあらゆる分野の実験・開発・分析などで使用されています。

単純な棒状の磁石自体よりも効率的に攪拌ができるという長所があります。また、破損や磨耗する可動の外部部品を持たないため、ギア駆動の電動攪拌機よりも使用しやすいです。良好な撹拌状態にするために、マグネチックスターラーの速度を細かく調整することが大切です。

ただし、粘性のある液体や厚い懸濁液を扱うことは困難であり、大きな容積またはより粘性のある液体を攪拌するためには、形状、大きさが異なる撹拌子を用いる必要があります。

撹拌子の原理

攪拌子の使用方法

図2. 攪拌子の使用方法

撹拌子は通常マグネチックスターラーとセットで使用します。マグネチックスターラーと撹拌子によって容器の中の液体が撹拌される仕組みは下記のようになります。

  1. 撹拌容器に液体と撹拌子を入れ、マグネチックスターラーの上に置きます。
  2. マグネチックスターラーの中には磁石が入っているので、撹拌子とマグネチックスターラーの中の磁石が引き合います。
  3. マグネチックスターラーの電源を入れると、マグネチックスターラーの中の磁石が回りはじめ、攪拌子も一緒に回転します。
  4. 撹拌子の回転によって液体が攪拌されます。

攪拌子は小さいため、他の装置や攪拌棒よりも容易に洗浄および殺菌することが可能です。ただし、粘性のある液体や濃厚な溶液を混合する場合は、撹拌力が十分でない可能性があるため、別の攪拌方法を用いる方が望ましいとされます。

複雑な密閉など条件を必要とせず、磁気に影響を与えない容器であれば使用が可能です。一般的には、バイアルビーカーなどの、実験用のガラス器具において使用されます。

また、攪拌子は通常はテフロンまたはガラスでコーティングされており、化学的に不活性です。混合中の混合物を汚染したり、反応したりすることはありません。

撹拌子の種類

様々な攪拌子

図3. 様々な攪拌子

撹拌子の撹拌力は、撹拌する液体や容器の形状によって変わってきます。様々な形状の製品が市販されており、大きさは数ミリから数センチまで様々です。

1. 棒状の撹拌子

最も使用されている一般的な撹拌子です。底面が平面である、ビーカーなどの容器を撹拌する際に使用されています。

2. フットボール型の撹拌子

フットボールのように先細りになっている、テーパーがついている撹拌子です。先細りの構造になっているため、丸底フラスコやナスフラスコなどでもスムーズな撹拌が可能です。

3. オクタゴン型の撹拌子

断面が八角形の形状をしており、回転のために中心に帯がついていることが特徴です。中心の帯によって、撹拌の際に容器に当たりにくくなっています。

4. 三角型の撹拌子

断面が三角形の撹拌子です。撹拌力が強く、沈殿物を含む液体や、粘性の強い液体を撹拌するときに使用されています。

5. クロス型の撹拌子

上から見た時に十字型の形をしている撹拌子です。その形状から、撹拌の際に渦を作り出せるため強力な撹拌力を所持しています。

撹拌子の選び方

撹拌子は撹拌するものの量や状態、使用する容器やスターラーのモーターの力などに合わせてよって選択します。多種多様な撹拌子がありますが、基本的には自分の使用目的を明確にした上で、撹拌子の仕様書に書かれている内容を目安に選択することをおすすめします。

撹拌子に使用されている磁石の一例は以下の通りです。

1. ネオジム磁石

ネオジム、炭素、ホウ素を合わせて焼結することで作られた磁石です。永久磁石の中でも高い磁性を示します。値段が高いことと、温度によって磁性が変化することが欠点です。80 ℃以下で使用する必要があります。

2. フェライト磁石

酸化鉄とバリウムを合わせて焼結することで作られた磁石です。安定した磁性を示すだけでなく値段も安価です。大型のものにも使いやすい磁石です。

3. サマリウムコバルト磁石

サマリウムとコバルトを合わせて作られた磁石です。希少な金属を利用しているため、ネオジム磁石よりさらに高価です。高温でも磁性が安定しているため撹拌子の材料としても使用されることがあります。

4. 希土類磁石

ネオジム、ホウ素、鉄を焼結させて製造されたものであり、最高の磁気特性を有しています。温度特性が低いため80℃以下で使用する必要があります。強磁力スターラーや超強磁力スターラーとして使用されています。

攪拌子のその他情報

1. 回転子によるコンタミネーション防止

回転子はコンタミネーションの原因となりやすい器具です。溶液から取り出したあとは、使用した溶液が除去できる適切な方法で洗浄します。

また、使用前には表面が清浄であることを確認し、黄ばみがある場合には廃棄します。

2. 回転子の取り出し

回転子を使用後には、マグネットを容器の外からあてたり、マグネットでできた棒などを用いたりして、回転子を取り出します。取り出し後は不用意に触らず、洗浄します。

参考文献
https://axel.as-1.co.jp/asone/s/A0020500/
http://www.nissinrika.co.jp/product/st_mayottara.html

ラマン顕微鏡

ラマン顕微鏡とは

ラマン顕微鏡

ラマン顕微鏡 (または顕微ラマン) とは、ラマン分光装置と光学顕微鏡を組み合わせた測定機器です。

化学構造や分子間相互作用、結晶性などの物質に関する詳細な情報を非破壊で分析できます。ラマン分光装置と顕微鏡を組み合わせることで、測定対象を顕微鏡で観察して選んだ箇所を測定したり、組成の分布を可視化した画像を得ることが可能です。

ラマン顕微鏡の使用用途

ラマン分光法は化学結合に基づいているため、測定によって以下の情報を得ることができます。

  • 化学構造
  • 位相、多形
  • ひずみ
  • 不純物、汚染

ラマンスペクトルは物質ごとに固有であるため、迅速に物質を識別したり、他の物質と区別するために使用することができます。また、ラマン顕微鏡は多くの異なるサンプルの分析に使用することができます。 一般的には、金属や合金の分析には適さず、以下の分析に適しています。

  • 固体、粉体、液体、ゲル、スラリー、気体
  • 無機、有機、生体材料
  • 純化学品、混合物、溶液
  • 金属酸化物と腐食

ラマン顕微鏡が使用されている代表的な例としては、下記の通りです。

  • 芸術と考古学の分野における顔料、セラミック、宝石の特性評価
  • 炭素材料ナノチューブの構造と純度、欠陥・乱れの評価
  • 化学分野において、構造、純度、反応モニタリング
  • 生命科学において、単一細胞と組織、薬物相互作用、疾患診断

ラマン顕微鏡の構造

図1-ラマン顕微鏡の構造

図1. ラマン顕微鏡の構造

ラマン顕微鏡はラマン分光装置と顕微鏡を組み合わせた測定機器で、上図のような構造をしています。

レーザー光源からの照射光は、顕微鏡の対物レンズを通して試料に導かれ、試料に照射されます。試料から発生した散乱光を対物レンズで集光し、レイリー光カットフィルターを通してラマン散乱光のみを検出します。

ラマン顕微鏡の原理

図2-ラマン散乱

図2. ラマン散乱

物質に光を照射すると散乱現象が起きます。生じた散乱光のほとんどは照射光と同じ波長のレイリー散乱光ですが、一部、照射光と波長がわずかに異なった散乱光が含まれており、この散乱光をラマン散乱光といいます。

ラマン散乱光には、照射光の波長よりも波長が長いストークス散乱光と、波長の短いアンチストークス散乱光の2種類がありますが、一般的なラマン顕微鏡ではより強度の強いストークス散乱光を測定します。

ラマン散乱光は、照射光が物質と相互作用した結果生じるもので、レイリー散乱光とラマン散乱光の波長差が照射された物質の分子振動のエネルギーに相当します。このとき、ラマン散乱が起こる分子振動は、ラマン活性のある振動モードのみであることが知られており、分子構造からラマン活性な振動モードの推測やシミュレーションをすることが可能です。

分子の振動を利用した類似の分析装置として赤外分光光度計がありますが、測定できる分子振動に違いがあり、相補的な分析装置となっています。

分子の種類や結合状態の違いによって分子振動のエネルギーが異なるため、異なったラマンスペクトルが得られます。ラマンスペクトルのピーク位置と相対的なピーク強度を既知の物質と比較することで物質の同定が可能です。また、次のような解釈をすることで定性分析にもよく利用されます。

  • ピーク位置
    化学結合の情報
  • ピークシフト
    分子間相互作用、応力、ひずみの情報
  • スペクトル波形
    分子構造の情報、結晶構造の違い
  • 半値幅
    結晶・非結晶性の違い

スペクトルの強度が濃度に比例することを利用して定量分析も可能です。

ラマン顕微鏡のその他情報

1. ラマン顕微鏡の注意点

図3-レーザー照射による影響

図3.  (a) レーザー照射による蛍光発生の影響  (b) レーザー照射による劣化

ラマン散乱光はレイリー散乱光に比べて弱いため、ある程度のレーザー光の強度が必要ですが、そのレーザー光によって問題が生じる場合があります。レーザー光の波長が測定する分子の吸収領域と重なっている場合、分子が蛍光を発してラマンスペクトルのバッググラウンドが上昇し、得たいスペクトルが埋没します。

これを避けるためには、露光時間などの測定条件の調整、焦点深さの調節、分光スリットを絞る、共焦点フィルター (DSF) を用いるなどの対策をとる必要があります。他にも、レーザー光源を変えることで蛍光を抑制することができます。

有機物などでは一般的な532 nmのレーザー光を用いると蛍光が生じる場合が多いため、785 nmなどのより長波長のレーザー光が選択されることがあります。ただし、長波長のレーザー光に変更する場合には、分光器や検出器によっては感度が極端に低下することがあるため注意が必要です。

測定対象が有機物やカーボン材料などの場合には、レーザー光の強度と照射時間によっては、測定物質が “焦げて” 劣化することがあります。測定物質の劣化を防ぐには、レーザー強度をさげる、露光時間を短くするなどの測定条件の調整で対応することができます。

また、カーボン材料の一部などは、照射したレーザー光によって反応を起こす光反応性を持つものがあります。このような材料には、同様の測定条件の調整で対応することができる他、レーザー光の波長を変えることで光反応を抑制することができます。

2. ラマン顕微鏡の新技術

ラマン顕微鏡の感度や分解能の向上を目的に、様々な手法が開発されています。

表面増強ラマン (SERS) 、チップ増強 (TERS) などは、金属表面で起こる局在表面プラズモン共鳴という現象を利用しており、ラマン散乱光の強度が大きく測定でき、より高感度、高空間分解能の測定が可能になっています。

コヒーレント反ストークスラマン散乱 (CARS) 、誘導ラマン散乱 (SRS) は非線形ラマン散乱の種類で、2つの波長の異なる光を同時に使用することで、何桁も高い信号強度のスペクトルを得ることができます。

他にも、ビームスプリッター等を用いることで、1度のレーザー照射で直線状や面状にラマンスペクトルを取得でき、ラマンイメージングがより迅速に行える技術も開発されています。

参考文献
https://www5.hp-ez.com/hp/calculations/page322

ヘマトクリット毛細管

ヘマトクリット毛細管とはヘマトクリット毛細管

ヘマトクリット毛細管とは、血液検査に用いられる器具の一つです。

血液は、細胞性成分である血球 (酸素輸送に関与する赤血球や身体の免疫防御に関与する白血球) 及び血小板、並びにこれらを浮遊させる液性成分である血漿で構成されています。健康な人の血液では、細胞成分の大部分は赤血球です。赤血球には血液の赤色を呈するヘモグロビン (Hb) が含まれており、酸素結合能を持っています。

血漿は主に水 (約93%) から構成されており、その他の構成要素は塩類、各種タンパク質、脂質、糖 (グルコースなど) などです。血液検査で血液に占める赤血球の体積の割合 (ヘマトクリット) を調べることがあります。例えば、貧血の指標とする場合です。貧血は血液が薄くなった状態を指し、その指標としてヘマトクリットが用いられています。

このヘマトクリットを測定する器具が、ヘマトクリット毛細管です。

ヘマトクリット毛細管の使用用途

ヘマトクリット毛細管は、主に血液検査におけるヘマトクリットの測定に用いられます。また、動物実験などで少量の血漿を得る目的に使われることもあります。

1. ヘマトクリットの測定

ヘマトクリットの測定は、貧血や脱水、出血、その他の内科的・外科的疾患が疑われる場合に行われることがあります。低ヘマトクリットは、循環赤血球の数が少ないことを反映しており、酸素運搬能力の低下または過湿の指標となります。

低ヘマトクリット(貧血)を引き起こす状態の例としては、以下のものがあります。

  • 内出血または外出血 – 出血
  • 慢性腎不全の合併症-腎臓病
  • 悪性貧血~ビタミンB12欠乏症
  • 溶血 – 輸血反応に伴う
  • 自己免疫疾患や骨髄不全

高いヘマトクリットは、赤血球数の絶対的な増加、または血漿量の減少を反映している場合があります。

  • 重度の脱水 – 例:火傷、下痢、または利尿剤の過剰使用の場合
  • 赤血球過剰症-赤血球過剰症
  • ウイルス性多血症-血球の異常な増加
  • ヘマクロマトーシス – 遺伝性の鉄代謝障害
  • 赤血球の生成を促す外因性エリスロポアチン(EPO)の過剰摂取の指標

2. 動物実験

ごく少量の血液を採取でき、遠心分離により血漿が得られる特徴から、主に動物から微量の血漿を得るときに用いられることがあります (マイクロサンプリング) 。

ヘマトクリット毛細管の原理

ヘマトクリット毛細管は、よく使われるものは、内側がヘパリン処理された毛細管 (キャピラリーチューブ) です。未処理のもの (プレイン) もあります。

採取した血液に毛細管の一端を接すると、毛細管現象によって血液が毛細管に吸い込まれます。吸い上げると同時に、ヘパリン処理のものはヘパリンにより抗凝固処理がされるのです。

この毛細管を遠心分離機にかけ、血球と血漿を分離します。赤色に見える血球部分 (赤血球カラム) の長さと、無色~淡黄色 (ヒトの場合) に見える血漿部分の長さから、ヘマトクリットを求めます。

ヘマトクリット毛細管のその他情報

1. ヘマトクリットの定義

ヘマトクリットの定義は、全血液量に対する赤血球の体積の比率であり、パックド・セル・ボリューム (PCV) とも呼ばれています。ヘパリン化した血液 (ヘパリンは抗凝固剤) を遠心分離すると、赤血球はチューブの底に詰まった状態になり、血漿は上部に透明な液体として残ります。この赤血球が詰まった体積と全血量の比がヘマトクリットです。

ヘマトクリットはパーセンテージまたは比率として報告されます。健康な成人では約40~48%ですが、新生児では60%に達することもあります。

以下は、ヘマトクリットを議論する際に関連する略語の要約です。

  • Hct:ヘマトクリット
  • ctHb:総ヘモグロビン濃度
  • 赤血球 (RBC)
  • MCV:平均細胞体積
  • MCHC:平均冠状ヘモグロビン濃度

2. ヘマトクリットを測定する場合の使い方

シール
遠心分離する前に毛細管の一端をシールする必要があります。シールしなければ遠心力で血液が流れ出てしまうためです。毛細管をシールするには、専用のパテを使用します。

血液を吸いあげた後、一方の端を専用のパテに突き刺してパテを毛細管内部に食い込ませることで、毛細管の一端をシールします。シールした側を外側、すなわち遠心力がかかる向きにします。

スケールプレート
毛細管内の遠心分離された血液サンプルからヘマトクリットの値を得るためには、スケールプレートを参照します。充填された赤血球カラムの底部が最初に目盛り板の「0」の線に並び、次に血漿カラムの上部が「100%」の線に並ぶまで目盛りをサンプルの下に移動させます。

この状態で、赤血球カラムと血漿カラムの境目の数値を読み取ります。赤血球と血漿の間の層である白色の層は、約1%を占めますが、この層は赤血球側には含めません。

3. 微量採血器としての使い方

ガラス製毛細管を使用し、通常使用と同様に、血液採取しシールした毛細管を遠心分離します。ガラス製にするのは、途中で折る操作があるためです。遠心分離後、血球カラムと血漿の境目、やや血漿寄りにガラス切りで傷をつけ、毛細管を折ります。

折った毛細管の血漿側を回収容器 (マイクロチューブなど) に立て、遠心分離することで容器に血漿を回収することができるのです。この方法は折る操作が実施しにくいため、近年ではマイクロサンプリング専用の器具が開発されています。

参考文献
https://www.monotaro.com/g/02957720/