DINレール

DINレールとは

DINレール

DINレールとは、制御盤内部に使用される金属製のレールのことです。

DINはドイツにおける工業規格の一種であり、日本におけるJISやASMEなどと同様の概念です。ドイツで標準化されましたが、現在では世界中で使用されており、国際規格IECでも規定されていることから、IECレールと呼ぶこともあります。

国内では35mm幅のDINレールを使用される場合がほとんどです。これ以上幅が大きいDINレールを使用されることはほとんどなく、質量が大きい盤内機器はビス留め固定されるのが一般的です。

DINレールの使用用途

DINレールは、産業用制御盤の内部で使用される場合がほとんどです。産業用制御盤内部では、電力供給の有無を切り替える電磁開閉器や有接点リレー、シーケンス制御を司るロジックコントローラなどが混在しています。これらが盤内で散在していると見栄えも悪く、誘導電圧の影響を受ける不具合も考えられます。

DINレールはこれらの盤内機器を整然と並べて見た目を整え、用途に応じて整理することで制御機器を保護するために使用されます。

DINレールの原理

DINレールの材質は、主にアルミが使用されます。軽量安価である事が特徴の一つです。制御盤内は温度や湿度等の環境が整えられている場合が多いため、塗装はされません。腐食環境に置かれることや衝撃を加えられることも想定されないため、ステンレスや鉄を材料に用いられることは稀です。

DINレールを正面から見ると、中心線に規則的に楕円状の穴が開いた長方形の板のような外観をしています。DINレールは制御盤の基板と呼ばれる鉄板または木板上に張り付けて使用される場合が多いです。楕円状の穴は、基板上にビスでDINレールを固定するために使用されます。

DINレールを側面からみると、鍋型のような外観です。DINレールに取付可能な盤内機器は背面に着脱用の爪が付いており、鍋型の取手部分に爪が引っかかることで固定されます。長さは盤の幅に応じて切断して使用されます。制御盤の横幅は2mを超えない範囲である場合が多いため、最長2m程の長さで使用されます。

DINレールの種類

ほとんどのDINレールは35mm幅で高さ7.5mmですが、販売時の長さや穴形状は異なります。

1. 長さ

DINレールの長さは1,000mmや2,000mmで販売されるのが一般的です。制御盤内部の寸法に完全には一致しないため、切断して使用します。短い製品は100mmや200mmで販売される場合もあります。

2. 穴形状

穴形状は短穴や長穴などがあります。性能に大きな違いはありません。大きめのねじで制御盤に留めるために、穴の幅が大きい製品も販売されています。

DINレールのその他情報

1. DINレールを使用する盤内部品

DINレールには盤内部品を固定する役割があります。以下はDINレールを使用して盤内に配列される部品例です。

また、レール式端子台は大きくなると重量が増えてDINレール取付が難しくなるため、計装用端子台や比較的小型の端子台でDINレールを使用します。大型の端子台はビスで直接基板に取り付けます。

2. 特殊仕様のDINレール

DINレールは需要に合わせて特殊仕様の製品も販売されています。以下は特殊仕様のDINレールの一例です。

  • マウント型DINレール
    サーバ用ラックにマウントすることができるDINレールです。サーバールームでは稀にFA機器を使用しなければならないため、その需要に合わせて販売されています。
  • 15mm高さDINレール
    一般的なDINレールの高さは7.5mmですが、15mm高さのDINレールも販売されています。端子台に段差をつけたい場合などに用います。
  • 鋼板製DINレール
    DINレールは一般的に軽量安価なアルミが材料です。ただし、鋼板で製作したDINレールも特殊仕様として販売されています。鋼板のDINレールは主に亜鉛メッキ処理などが施されます。

参考文献
https://www.nikki-tr.co.jp/html/din_rail.html
https://www.shinohara-elec.co.jp/products/prod_list.php?bun=10&bcat=1&ccat=17

HEMT

HEMTとは

HEMTは、High Electron Mobility Transistor(高電子移動度トランジスタ)の略で、2種類以上の元素から成る化合物半導体で構成された電界効果トランジスタ(FET:Field Effect Transistor)の一種です。

HEMTは、性質の異なる2つの化合物をヘテロ結合させてpn接合を形成していることから、ヘテロ結合(Hetero-Junction)FETと呼ばれることもあります。

HEMTに使われる材料としては、GaAs(ガリウム砒素)、GaN(窒化ガリウム)、InP(リン化インジウム)などがあります。

HEMTには、シリコン系MOSFETと比べて電子の移動速度が速くノイズが少ないという特徴があります。

HEMTの使用用途

HEMTは、高速処理に優れ、低雑音であることから、衛生通信システム、光通信用高速デジタル回路、カーナビゲーションシステム、自動車用レーダー、携帯電話基地局システムなど、高周波数の通信用途に向いています。

特に携帯電話基地局システムは、シリコン系MOSFETなど従来のトランジスタでは第5世代の(5G)の高周波かつ広い周波数帯に対応できなくなっており、HEMTの重要性が非常に高い分野です。

また、HEMTは低消費電力で発熱量が低く、空冷ファンなどの設置を省略することが可能で、基地局システムの小型化・軽量化に貢献しています。

HEMTの原理

HEMTは電界効果トランジスタ(FET)の一種です。

FETは、ゲート電極に電圧(ゲート電圧)を印加することで電子の通り道であるチャネル領域に電解を発生させ、電子または正孔の量を制御してソース・ドレイン電極間に流れる電流(ソース・ドレイン電流)を制御します。

MOSFETでは、電圧を印加されたゲート電極直下のシリコン半導体と酸化膜との界面に空乏層が形成されます。ある程度大きなゲート電圧が印加されると、界面近傍がP-N反転状態になり、そこをチャネル領域として電流が流れます。

一方HEMTは、半絶縁層の上に薄い半導体障壁層があり、ゲート電極と障壁層がショットキー接触を形成する構造をしています。最も基本的なAlGaAs/GaAs系HEMTの場合、半絶縁層にはGaAs、障壁層にはAlGaAsが使われます。

AlGaAs層は非常に薄く、AlGaAs内部は完全に空乏状態になっていて、ここにチャネル層を形成することはできません。その代わり、自由電子はAlGaAsとGaAsとの界面に蓄積され、GaAs側に2次元電子ガスから成る薄いチャネル領域を形成します。

ゲート電極に電圧を印加すると、電界効果によって2次元電子ガス濃度が変化します。このときソース・ドレイン間に電圧を印加しておくと、電流が流れます。

HEMTのチャネル領域は不純物を極力なくした高純度のGaAs層なので、電子が不純物にぶつかることなく高速で移動することができ、雑音の発生も少なくなります。

参考文献
apmc-mwe.org/MicrowaveExhibition2010/program/tutorial2009/TL02-01.pdf
https://www.jstage.jst.go.jp/article/itej1978/36/8/36_8_704/_pdf

HIDランプ

HIDランプとは

HIDランプ

HIDランプ (英: High Intensity Discharge lamp) とは、高輝度放電ランプのことです。

白熱灯と比べて、高輝度、低消費電力であり、長寿命である特徴があります。ガラス管内に希ガスと金属原子の蒸気を封入し、アーク放電を起こすことで発光させます。金属原子のガスに応じて、水銀ランプや高圧ナトリウムランプ、メタルハライドランプなどがあります。

点灯直後は青白から白色に発光し、十数秒ほどかけて発光の色味が安定していくという特徴があります。

HIDランプの使用用途

HIDランプは、高輝度の可視光を必要とする街灯や体育館、倉庫、スタジアム、植物育成室などで照明を必要とする場面で使用されます。明るく遠くまで照らすことができることから車のヘッドライトにも取り入れられており、高速道路や山道などの暗い道路での走行時の安全性が高める時に有用です。

車のライトに用いられる場合には、キセノンライト、ディスチャージランプとも呼ばれます。広告や看板を目立たせるためのライトアップにも用いられています。

可視光の照明だけでなく、紫外光を取り出すことで、紫外線照射用のランプとして使用されることもあり、紫外線による殺菌や洗浄、表面改質などに応用が可能です。

HIDランプの原理

HIDランプは、高圧の電気エネルギーを使って、ガス中でアーク放電を起こすことで光を発します。発光管にガスを封入し、内部で放電を発生させると、ガスの種類や電圧など条件に応じて様々な発光を生じます。

発光管の材料としてはセラミックや石英ガラスなどが使用されます。発光管の内部には2枚の対向電極が設置され、電極に電流を流すことで電極が加熱されます。このとき、電極表面から熱電子が放出されます。電子は対向電極に向かい、発光管内に封入された金属原子と衝突し可視光を放出します。

HIDランプの場合、蛍光ランプの場合と比べて封入された金属ガスの蒸気圧と温度が高いため、より多くの光を放出し高輝度化を実現しています。HIDランプの中で最も効率が高いのが高圧ナトリウムランプで、メタルハライドランプ、水銀ランプの順です。高圧ナトリウムランプはオレンジがかった白色光、メタルハライドランプや水銀ランプは白色系の発光を示します。

バラスト (安定器) と呼ばれる装置で交流電源を直流に変換し、安定した電圧を出力しアーク放電を維持します。また、イグナイタと呼ばれる高圧電源装置により、ランプ内部のガスを昇圧してアーク放電を起こします。このように、HIDランプは専用の制御回路を備え、安定した電源や制御によって高輝度かつ安定した光を維持できます。

HIDランプの種類

HIDランプには、先にも述べたように、水銀ランプ、高圧ナトリウムランプ、メタルハライドランプなどがあります。それぞれの特徴や用途を紹介します。

1. 水銀ランプ

水銀ランプは、白熱灯よりも明るく、さらに長寿命であり、高輝度を実現できるために、街灯や大型施設の照明などに多く使用されています。また、水銀ランプは、そのスペクトルが非常に狭く、一定の波長の光を放出するため、蛍光物質などの発光材料を励起するのに適しています。

2. 高圧ナトリウムランプ

高圧ナトリウムランプは、オレンジがかった白色光を放射するのが特徴で、主に屋外用途に使用されます。高圧ナトリウムランプは、比較的高い効率で光を発生し、特に白色光の発生に優れています。

3. メタルハライドランプ

メタルハライドランプは、高輝度であることと、光の再現性が高いことが特徴です。発光管には、数種類の金属ハライドを使用し、様々な色温度や色相を表現できます。また、メタルハライドランプは、水銀ランプに比べて光量が多く、高圧ナトリウムランプに比べて色温度が高く、植物の育成用照明としても使用されます。

参考文献
https://www.bulbs.com/learning/hid.aspx
https://www.sphere-light.com/article/topics/228
https://electric-facilities.jp/denki3/hid.html
https://www.jlma.or.jp/tisiki/pdf/guide_hid.pdf

MEMS非接触温度センサー

MEMS非接触温度センサーとは

MEMS(Micro Electro Mechanical System)は、機械要素部品、センサー、アクチュエータ、電子回路などを1つの基板上に搭載した超小型システムで、半導体の微細加工技術を応用して製造されます。LSIが平面上に電子回路を集積するのに対し、MEMSは電子回路に加えて機械的機構をウエーハ上に立体的に積み上げて立体形状や可動構造を形成します。

MEMS非接触温度センサーは、このMEMS技術を応用した温度センサーです。測定対象物からの放射熱エネルギーをサーモパイル素子で受けて、対象物の表面温度を非接触で測定することができます。

MEMS非接触温度センサーの使用用途

MEMS非接触温度センサーは、対象物に触れることなく表面温度を計測することができることから、変圧器や配電盤の異常温度モニタリング、省エネ家電の温度検知、人感センサーなどのセキュリティ機器、入室管理時の発熱者スクリーニングなどに使用されます。

また、MEMS非接触温度センサーはMEMSの特徴を活かして小型化で低消費電力化を実現しており、HEMS(Home Energy Management System)、BEMS(Building Energy Management System)、FEMS(Factory Energy Management System)など幅広い分野で、エネルギー削減、設備の最適制御などの用途に使われています。

MEMS非接触温度センサーの原理

代表的なMEMS非接触温度センサーは、小型の基板上にシリコンレンズ、サーモパイル素子、信号変換用のICなどを搭載した構成をしています。

対象物が発している遠赤外線は、シリコンレンズによってサーモパイル素子上に集光され、サーモパイル素子は、ゼーベック効果を利用して遠赤外線の入射エネルギー量に比例した熱起電力を発生します。

ゼーベック効果は、物質の両端に温度差を与えると、両端間に起電力が生じる効果です。

物質の片側を加熱するとキャリア(電子または正孔)が発生しますが、冷却されている側ではキャリアはほとんど発生しません。そのためキャリアの密度バランスが崩れ、熱接点側から冷接点側にキャリアが流れますが、やがてキャリアの移動は収束します。

熱接点側ではキャリアが流れた後、反対側の電荷を持つため、熱接点・冷接点間の電位差が生じます。この電位差は熱接点と冷接点の温度差に比例しており、遠赤外線の入射エネルギーに比例します。

MEMS非接触温度センサーによっては、サーモパイル素子で発生した電位差をA/D変換してビット値として出力するものもあれば、ビット値をさらに補完演算して温度データとして出力するものもあります。

参考文献
https://www.hitachi-hightech.com/jp/products/device/semiconductor/noteworthy.html
https://www.omron.co.jp/ecb/product-detail?partNumber=D6T
https://omronfs.omron.com/ja_JP/ecb/products/pdf/CDSC-019/pdf

XYZステージ

XYZステージとは

XYZステージ (英:xyz stage) とは、3軸方向に微動できる台です。

ステージのXYZ方向にマイクロメータが取り付けられており、各方向にステージを動かすことができます。ステージ上部には複数のネジ穴が開けられており、その穴を利用して光学素子などが固定可能です。

また、ステージ本体はマグネットを取り付けることもでき、強力な磁力により光学台に設置が可能です。マイクロメータを用いることで0.01mmというごく微細な刻み幅で位置が調整できます。 

XYZステージの使用用途

XYZ3軸の移動機構により、試料ホルダーや試料加熱機構、各種導入機、その他コンポーネントの位置調整が可能です。

ステージ上に固定されたカメラやセンサ、その他の様々な光学素子について、その位置の精密な決定が可能です。3軸方向に移動できるため、測定・観察対象に応じて空間的にステージを位置調整したい場合に適しています。

また、レーザーを扱う場合には、その光路上に設置したミラーやレンズの位置調整が必要な場合があり、XYZステージが役立ちます。既存の光学系に容易に組込み可能です。 

XYZステージの原理

XYZステージは、メカニカルステージや移動ステージと呼ばれるステージの1種です。XYZステージの移動調整はガイドに沿って行われ、ガイドの種類に応じて以下の3つの方式に分類されます。

1. クロスローラガイド方式

クロスローラとは、内輪と外輪の間にローラを直交させたコンパクトな構造のベアリングです。ボールベアリングと異なり線接触のため、高い剛性を得ることができます。また差動滑りがほとんどないため、摩擦が少なく送り幅の微細な調整が可能です。

2. アリ溝ガイド方式

アリ溝とは逆八の字の構造をした溝で、横からレールを滑り込ませて溝から抜けないよう工夫がされています。ガイド構造が単純なため、低コストで製造することができます。ただし、面同士が接触するため、摩擦係数が高く、微細な位置決めは困難です。簡単な位置決めに最適な方式です。

3. ボールガイド方式

2枚のステージにそれぞれガイドを固定し、その間にボールを配列した方式です。ステージの厚さを薄く出来るだけでなく、高い剛性を持ち、送り幅の分解能も良いという特徴があります。

XYZステージの特徴

1. 高精度な位置決め

各軸方向に高精度で位置決めが可能です。マイクロメータを搭載し、位置決めに、クロスローラーベアリングなどを使用して、確実・高精度の位置決めができます。

2. 超真空装置に最適

分子線エピタキシーMBEや表面分析装置などに使用する各種超真空装置用のタイプがあります。トランスファーロッド、回転導入機などと組み合わせて、真空装置内の移動が可能です。

3. 耐高温性

オールメタルシールやコンフラットフランジなどを使用したタイプは、最高200℃のベーキングができます。

XYZステージのその他情報

1. XYZステージの位置決め方式

XYZステージを使用して位置決めする方法は、3種類に分類できます。

  • 手動式

手動式は目標位置との差をカメラ等で拡大し、人間の目によって確認しながら、マイクロメータヘッド等によりステージを駆動する方法です。

  • 半自動式

半自動式は、目標位置との差を人間の目によって確認するのは、手動式と同じですが、ステージの移動を電動式にした方法です。手動式に比べ、より精度が高く位置決めができます。

  • 自動式

自動式は、目標位置との差を画像処理装置などの視覚センサを使って検出するので、自動位置決めが可能です。さらに高精度・高効率が期待できます。位置決め業務の自動化が可能になり、作業の効率化が図られます。

2. 自動式位置決めの実施例

  • 半導体の露光

XYZステージに対象物の半導体とマスクを固定し、カメラでマスクの位置決めマークを検出して目標にステージを移動させます。そして、UVランプをマスクの上から照射して露光を行います。

  • スクリーン印刷

マスクの位置決めマークを検出して目標にステージを移動させます。そして、ステージをマスクの下に移動して印刷を行います。

参考文献
https://www.chuo.co.jp/core_sys/product/images/186/catalog/GC40_310-311.pdf
https://www.global-optosigma.com/jp/category/mp/mp01.html
https://www.global-optosigma.com/jp/category/mp/mp02.html

アクリル

アクリルとは

アクリルとは、アクリル系モノマーを重合して作られる高分子の1種です。

一般的にアクリルというと、アクリル樹脂もしくはアクリル繊維を指します。どちらもアクリルという名前ですが、それぞれの原料となるモノマーは異なるものが用いられています。

アクリルの使用用途

1. アクリル樹脂

アクリル樹脂は1934年頃に工業化され、プラスチックの原料として今日まで様々な場所で使用されています。当初の使用用途は戦闘機のキャノピーと呼ばれる窓部分など軍事利用でした。

しかし、現在では無機ガラスの代替用途、照明器具や建材、電子部品、産業資材、アクリル樹脂塗料など多岐に渡ります。

2. アクリル繊維

アクリル繊維は1950年ごろに開発されました。ウールに似た性質を持つように開発されており、主な使用用途はセーターなどの衣料品です。その他、ニット製品、毛糸、毛布、カーペットなどに使用されています。

これら以外にも工業分野にて、ろ過装置に使用するろ材や、アスベストの代替として建築分野でも使用しています。

アクリルの性質

1. アクリル樹脂

アクリル樹脂という名前から、アクリル酸のみを重合した高分子のことを指すように思われますが、実際はメタクリル酸エステル、またはアクリル酸エステルと呼ばれる有機化合物を重合することで製造されています。製造されたアクリル樹脂は、加工が容易で耐衝撃性、耐久性、耐熱性が高いです。中でも一番の特徴は高い透明性で、同様に高透明なポリカーボネートと共に有機ガラスとも呼ばれます。

そのため、パネル状にしたアクリル樹脂が、水族館の水槽などに使用されています。デメリットとして、表面が傷つきやすいことが挙げられます。アクリル樹脂は塗料の基材としても使用されます。アクリル樹脂が使用されたアクリル樹脂塗料は、他の樹脂を基材にした塗料と比較して、高い光沢性と弾力性があるが耐久性が低いという特徴をもち、価格帯は最も安価です。

2. アクリル繊維

アクリル繊維もアクリル樹脂と同様に原料はアクリル酸ではなく、アクリロニトリルと呼ばれる有機化合物を主原料として、他の有機化合物と重合し、繊維状に製造されたものです。

アクリル繊維の特徴は、軽さ、保温性、染色性が良いことで、ウールと比較すると価格も安く、アクリル繊維で作った衣類は型崩れしにくいのがメリットです。反面、吸湿性が低いため、衣類にした際にはムレやすく、静電気が発生しやすいことがデメリットです。

アクリル繊維はアクリロニトリルが質量比で85%以上含まれるものに使われる呼称で、似た名前でアクリル系繊維というものがあります。アクリル系繊維は、アクリロニトリルが質量比35%以上85%未満のものを呼びます。残りの成分は塩化ビニリデンや塩化ビニルが用いられているため、難燃性に優れており、難燃製品に用いられます。

ただし、2020年11月にJIS用語、2022年1月以降は家庭用品品質表示法、繊維製製品品質表示規定において、アクリル系繊維の名称は、モダクリル繊維に変更されることになりました。今後はアクリル系繊維の名称は見られなくなっていく可能性が高いです。

アクリルのその他情報

1. アクリル樹脂の製造方法

アクリル樹脂は多くの場合は、原料モノマーを懸濁重合と呼ばれる重合方法で重合したのち、高分子成分から水を除去することでアクリル樹脂の製品になります。塗料用途で使用する場合は、溶液重合や乳化重合と呼ばれる重合方法で重合後、高分子を溶解または分散させている溶媒を除去させずに、そのまま塗料の原料として使用します。

2. アクリル繊維の製造方法

アクリル繊維の原料のアクリロニトリルは、プロピレンを金属酸化物触媒の存在下、アンモニアと酸素を作用させ生産されます。このアクリロニトリルを有機溶媒に溶解させた溶液を、細いノズルから凝固液の中に繊維状に押出します。繊維状のアクリロニトリルは凝固液により固まることで、アクリル繊維になります。

参考文献
https://i-maker.jp/blog/acrylic-5309.html#i-4
https://www.orizuru.co.jp/media/technical_information/synthesis_technology/a31

アラミド

アラミドとは

アラミド

アラミドとは、芳香族ポリアミドからなる高性能繊維の総称です。

1965年にアメリカのデュポンにより開発されました。パラまたはメタフェニルジアミンとフタル酸ジアミンの重縮合により合成されます。同じく合成繊維として知られている脂肪族ポリアミドであるナイロンに比べ、芳香環を主鎖に持つ剛直な分子骨格であることから、高い強度と弾性率を有しています。1974年にナイロンと区別する目的でアラミドという一般名称が与えられました。

アラミド繊維は分子構造の違いにより、パラ系とメタ系に分類されます。前者は機械的強度、耐切創性、振動減衰性に優れており、後者は耐熱性、難燃性、耐薬品性に優れています。

アラミドの使用用途

アラミド繊維はパラ系、メタ系にそれぞれ特徴があり、その特徴を活かした用途で応用されています。

1. パラ系アラミド繊維

パラ系アラミド繊維は、産業用途から航空宇宙分野に至るまで、非常に幅広い分野で使われています。産業分野の用途例として、光ファイバー用のテンションメンバーやロープが挙げられます。これは同重量の鋼鉄と比較して約5倍もの強度を持ちながら、伸びにくいという性質を活かした用途です。

また、摩擦に強いという特性を利用して、タイヤやブレーキパッドなど長期間の摩耗に耐える必要のある用途にも用いられています。さらに、耐切創性があることから作業用手袋や防弾チョッキ用など安全保護用品用の繊維としても使われています。一方、航空宇宙分野では、耐熱性を活かしパラシュート用の部材としても採用されています。

2. メタ系アラミド繊維

メタ系アラミド繊維はパラ系とは異なり、強度に秀でているわけではありません。汎用のポリエステルと同等の強度、比重、風合いを有しながらも、難燃性能を示す酸素指数が高く、400℃まで溶融も分解しないという特長を持っています。消防服や航空機シートなど、耐熱性と難燃性が求められる用途に応用されています。

アラミドの性質

1. パラ系アラミド繊維

パラ系アラミド繊維の強度や高い弾性率は、高分子内の結合の強さに由来します。パラ系は全トランス型であるため、直線性と平面性が高い分子骨格です。

パラ系アラミド樹脂を濃硫酸に溶解させて延伸させると、まず分子鎖同士が水素結合し、それが連鎖していくことで平面状のプレートが形成されます。さらに、プレート同士が分子間力で凝集することで円柱状の繊維材が構成されます。このように、特殊な分子鎖の配列と高次構造を形成することで高強度、高弾性率をはじめとする数々の特性が発現します。

2. メタ系アラミド繊維

メタ系アラミド繊維は分子がジグザグ状に配列するため、水素結合や分子間力はパラ系と比較して弱く、ポリエステルやナイロン繊維と同等の強度を持ちます。他方で、構造が比較的柔軟であり、高温化ではベンゼン環が密集した構造をとるため分解、引火しにくく良好な耐熱性を示します。また、酸やアルカリに対する耐薬品性にも優れています。

アラミドのその他情報

アラミドと炭素繊維の違い

同じく有機系で高強度を持つ繊維として、炭素繊維が知られています。炭素繊維とはカーボンファイバーとも呼ばれ、圧倒的な軽量性と強度を持つためスポーツ用品から航空宇宙分野まで用途が広がっている材料です。

しかしながら、導電性を持つため電磁波が透過せず、かつ耐摩耗性が低いという欠点があります。さらに、加工に非常に手間がかかるためコストも高くなってしまいます。そのため、スマートフォンの背面パネルなどには、絶縁性や耐摩耗性のあるアラミド繊維を複合したプラスチックが用いられる場合が多いです。

参考文献
https://www.td-net.co.jp/kevlar/about/
https://www.jcfa.gr.jp/about_kasen/katsuyaku/02.html
https://www.jstage.jst.go.jp/article/fiber/56/8/56_8_P_241/_pdf/-char/ja
https://www.tcichemicals.com/JP/ja/support-download/chemistry-clip/2008-07
https://i-maker.jp/blog/nylon-polyamide-5418.html

アルミニウム

アルミニウムとは

アルミニウム

アルミニウムとは、元素記号Alで表される原子番号13の元素です。

アルミニウムは非常に軽量 (比重が2.7) です。そのため、自動車や航空機、自転車などの車両部品や、スポーツ用品や包装材料、建築材料などに広く使用されています。また、アルミニウムは熱伝導性や導電性にも優れた材料であり、熱交換器にも利用されます。

アルミニウムは軟らかく加工しやすい性質があるため、鋳造や押し出しや圧延などによる成形が容易です。アルミニウムの表面には空気中の酸素と反応して防錆皮膜が形成されるので、腐食や錆びに強い性質があります。

アルミニウムの使用用途

以下はアルミニウムの使用用途の一部です。

  • 輸送機器
    自動車のエンジンブロック、飛行機の主翼や胴体、列車の車体や座席、窓枠など
  • 包装材料
    アルミニウム箔やアルミニウム缶、ブリスターパック、フィルムなど
  • 建築材料
    サッシや屋根材、手摺り、駐車場の屋根など
  • 電気製品
    電力ケーブルやスマートフォンの筐体、ヒートシンク、コンデンサーなど
  • 食器や調理器具
    鍋やフライパン、マグカップ、プレート、ボウルなど
  • 医療機器
    人工関節や歯科インプラント、外科用具など

アルミニウムの性質

1. 軽量性

アルミニウムは、原子間の間隔が比較的大きく原子同士の引力が弱いため、密度が低くなります。アルミニウムの比重はであり、鉄の約34%、銅の約30%です。

  • アルミニウム: 約2.71 (g/cm3)
  • 鉄: 約7.87 (g/cm3)
  • 銅: 約8.96 (g/cm3)

2. 耐腐食性

アルミニウムは自然界で酸化されて酸化被膜を形成するため、耐腐食性があります。酸化被膜は非常に薄くて頑丈であり、アルミニウムを腐食から保護します。ただし、一部の環境下では腐食の可能性があるため、適切な表面処理が必要です。

3. 電気伝導性

アルミニウムは優れた電気伝導性を持ちます。理由として、まずアルミニウムの原子は電子を他の原子と共有するのが容易であることが挙げられます。

また、アルミニウムは金属結合を持っているので、電子が原子間を自由に移動可能です。さらに、面心立方格子構造を持ち、原子が密に配置されているため、電子が原子間を容易に移動できる経路が形成されます。

4. 熱伝導性

アルミニウムは高い熱伝導性を持つ金属であり、熱を素早く伝達できます。その理由は、アルミニウムの結晶構造は面心立方格子構造であるため、原子が密に詰まっており、熱エネルギーが原子間を迅速に伝わるからです。

また、アルミニウムは優れた電気伝導性を持つ素材です。電気伝導性と熱伝導性は密接に関連しており、電気伝導性が高い金属は通常、熱伝導性も高くなります。アルミニウムの電子は自由に移動できるため、熱エネルギーも電気エネルギーと同様に効率的に伝達できることが特徴です。

5. 加工性

アルミニウムは優れた加工性を持ち、容易に成形や加工ができる素材です。軟らかい性質を持ちながらも耐久性や強度を保持します。

6. 可塑性

アルミニウムは非常に可塑性が高くて変形や加工に非常に適しているため、熱間加工や冷間加工により様々な形状や構造に成形することが容易です。

7. 非磁性

非磁性とは、磁気を帯びないまたは磁場に影響を与えない特性のことです。アルミニウムは非常に弱い磁性を持っていますが、実質的に非磁性とみなされています。

アルミニウムは電子の配列によって磁気的に均衡しているため、外部の磁場に対して磁気反応を示しません。この性質は、磁気材料を扱う場合や磁気ノイズが問題となる場合に非常に有用です。例えば、電子機器のケースにアルミニウムを用いることで、周囲の磁場による干渉を防げます。

アルミニウムの種類

アルミニウムには合金を含め,様々な種類があります。以下はその一部です。

1. 純アルミニウム

純アルミニウムは、純度が99%以上のアルミニウムのことです。他の元素との合金化がなく、純粋なアルミニウムの性質を持っています。純アルミニウムは柔軟性があり、加工や成形が容易で、導電性や耐腐食性にも優れている素材です。ただし、強度や硬度が低いため、特定の用途には制約があります。

2. アルミニウム合金

アルミニウム合金は、アルミニウムと他の金属との合金です。アルミニウムに他の元素を添加することで、合金の特性を調整できます。例えば、やマグネシウムを添加することで強度を向上させたり、シリコンを添加することで耐食性を高めたりできます。

3. アルミニウム鋳造合金

アルミニウム鋳造合金は、アルミニウム合金の中でも鋳造に適した合金です。鋳造過程での耐熱性や耐腐食性に優れており、複雑な形状を成型できます。

アルミニウムのその他情報

1. 生体適合性

アルミニウムは一般的に生体適合性があり、人体との相性が良い金属です。表面に生成される酸化皮膜が非常に薄く、強固な保護層としてアルミニウムを腐食などから守ります。この酸化皮膜には、組織や細胞が酸化被膜に付着しやすいことが特徴です。

また、アルミニウムは、酸やアルカリ、塩水などの一般的な化学物質に対しても反応が起こりにくく、変質や腐食が起こりにくいため、人体組織と接触した場合にもアレルギー反応や炎症を引き起こすリスクが低い材料です。

さらに、人体の組織や生物と接触してもほとんどの場合で反応が起こらず、体内での影響や副作用が極めて少なくなります。

2. 反射性

アルミニウムは優れた反射性を持ち、可視光線や熱を反射する能力があります。その反射性は、結晶構造や電子の配列が要因です。アルミニウムの結晶は電子を自由に移動できるため、光や熱のエネルギーを素早く受け取って反射できます。

3. リサイクル

アルミニウムは、再生可能な材料です。使用済みのアルミニウム製品や廃棄物はリサイクルによって回収され、再利用されることが一般的です。

4. 電解質反応

アルミニウムは、電解質反応を起こしやすい特徴を持っています。これはアルミニウムが金属としての性質を持つため、電気的に陽極 (酸化) 反応を起こし、陰極 (還元) 反応を促進することが原因です。

しかし、電解質反応を起こしやすいため、腐食しやすいことが欠点です。アルミニウムを使用する場合には、表面に酸化皮膜を形成して腐食を防止する必要があります。また、適切な塗装や防食処理を行うことで、アルミニウム製品の寿命を延ばせます。

アンカーボルト

アンカーボルトとは

アンカーボルト

アンカーボルトとは、木材や金属製の構造部材や設備機器などを床や壁面に固定するねじです。

アンカーボルトの製造方法には転造と切削の2種類があります。転造は塑性変形を利用してねじ山を作る製造方法です。それに対して切削は作業者が手作業で削ったり、機械を用いて自動で削り出すことでねじ山を形成します。

切削ねじに比べて転造ねじの方が高強度とされており、条件に合わせて使用可能です。

アンカーボルトの使用用途

アンカーボルトは取り付けられた設備機器などが分離や移動、転倒しないために使用可能です。

例えば架台上に駆動部を持つユニットが設置されている場合には架台上をユニットが動くと振動が生じます。ユニットは架台に強く締結されているため、発生した振動は直接架台に伝わり、架台は振動に合わせて揺れ、揺れが大きくなると移動したり転倒する恐れがあります。

このような事態は架台の足と床をアンカーボルトで締結し、振動を床に逃がすことで防止可能です。

アンカーボルトの原理

アンカーボルトに生まれるせん断力や引張り力を計算します。コンクリートからの許容引抜き力に加えてアンカーボルトの許容せん断力や許容引張り力を計算して、アンカーボルトのせん断力や引張り力を超えないように埋め込み長さ・材質・太さを決定可能です。

引張りはコンクリートからの許容引抜き力とアンカーボルトの許容引抜き力の中で小さい方を用います。アンカーボルトの許容引張り力がコンクリートからの許容引抜き力より大きいとコンクリートの破壊が先行し、アンカーボルトの許容引張り力がコンクリートからの許容引抜き力より小さいと鋼材の降伏が先行します。

柱・梁・耐力壁などの耐震性が必要な場所では、アンカーボルトの許容引張り力がコンクリートからの許容引抜き力より小さくなる設計が必要です。

アンカーボルトの種類

アンカーボルトは種類によって特徴が異なります。主な種類は下記の通りです。

1. 内ねじアンカー

最も一般的なアンカーボルトです。床や壁面の表面に突起が出ない状態でボルトを打ち込めます。

2. 芯棒打ち込み式アンカー

締結対象の上から直接打ち込めるアンカーです。オールアンカー、ベストアンカー、ルーティアンカー、Cタイプアンカー、タイトアンカーなどの種類があります。

3. 接着系アンカー

接着剤で締結されるためケミカルアンカーとも呼ばれ、カプセル方式と注入方式があります。カプセル方式では先に孔を開けておき、接着剤が入ったカプセルを埋め込み、アンカーを打ち込むことでカプセル内の接着剤が漏れ出て固定されます。その一方で注入方式では開けた孔に接着剤を直接注入し、アンカーボルトを打ち込んで接着可能です。

4. 溶接アンカー

締結対象を溶接で固定します。ヘッド部分を直接溶接して固定でき、サイズが小さいです。

5. グリップアンカー

コンクリートに締結するために使用可能です。アンカー本体をコンクリートに打ち込みます。アンカー本体はねじ切りされており、ボルトを締めると対象物が締結されます。

6. ボードアンカー

中空構造壁や石膏ボードのような部品を取りつける際に用いられます。ある程度の重量に耐えられ、種類が豊富です。壁を傷つけずに設置可能なタイプや耐火性に優れたスチール製などがあります。ただし取り外し不可能な種類が多いです。

7. ALC用アンカー

軽量気泡コンクリート板を金具に取りつけるためのアンカーです。強度で使い分けられ、幅広い場面で利用可能です。耐熱性、耐薬品性、耐衝撃性、耐候性などに優れたALC用アンカーもあります。

8. 締めつけアンカー

ネジを締めつけるようにコンクリートに固定します。穴の深さが必要です。

9. 高機能アンカー

ボルトを回すのみで容易に施工可能です。電動工具で設置でき、作業時間を短縮できます。

10. 中空壁用アンカー

アメラハンガーやITハンガーに分類可能です。アメラハンガーはロールプレートが短く、中空壁への取りつけに適しています。ITハンガーは保持力を維持して貫通施行でき、取りつけ器物を設置した状態で作業するため周りを傷つけません。

参考文献
https://www.anchor-jcaa.or.jp/anchor/foundation.html#foundation02
https://www3.roymall.jp/shop/e/eanchor/

イネーブルスイッチ

イネーブルスイッチとは

イネーブルスイッチ

イネーブルスイッチ (英: Enable Switch) とは、産業用ロボットなどの教示用ティーチングペンダントなどに組み込まれ、安全装置の役割を果たすスイッチです。

イネーブルグリップスイッチ (英: Enabling Grip Switch) 、イネーブルスイッチ3ポジション (英: Enabling Switch, 3 Position) 、3ポジションイネーブルスイッチ (英: 3-Position Enabling Switch) とも呼ばれます。

イネーブルスイッチがONの場合は作業者が明確な意思を持ってティーチングペンダントを操作している状況です。作業者の明確な意思でロボットの操作をしていると判断できる場合に限り、産業用ロボットの手動運転の許可を制御します。意図しないロボット動作の実行を防ぎ、作業者の安全を守っています。

イネーブルスイッチの使用用途

イネーブルスイッチは産業用ロボットなどの機器を操作するための機器 (ティーチングペンダント) に搭載される安全スイッチです。

通常、産業用ロボットなどを含む生産装置は周囲を安全策などで囲われているため作業者が入り込む余地はなく、機械の動作に巻き込まれることはありません。しかし装置立ち上げ時やトラブル発生時など、安全策の中に作業者が入ってティーチングペンダントを操作するような場面では機械の動作から作業者を守る仕組みが必要です。

ティーチングペンダントに搭載されたイネーブルスイッチはONにならないとどんな操作をしても機械は動きません。作業者が明確な意思を持って操作していると判断できる状態 (イネーブルスイッチON) にのみ動作が実行され、意図しない危険な動作から作業者を守れます。

イネーブルスイッチの構造

代表的なイネーブルスイッチは3ポジション式で動作します。通常スイッチは「ON / OFF」の2ポジションの場合がほとんどですが、イネーブルスイッチはボタン操作が「OFF / ON / OFF」の3ポジションです。

ポジション1はボタンに触れていないフリーの状態で接点はOFFです。どのような操作を実行してもロボットが動作しません。ポジション1からボタンを軽く押しこむと状態はポジション2に遷移します。ポジション2で接点はONになり、ロボットは実行された命令に従い動作します。ボタンから手を離すと状態は再びポジション1に遷移し、動作中のロボットを即停止可能です。

ポジション2の状態からさらに強くボタンを押し込むとポジション3へ遷移します。ポジション3は接点OFF状態です。ロボットが動作停止命令を受けて即停止します。

イネーブルスイッチの原理

人は危険が及ぶと物を手放すか逆に握るか、どちらかの行動を取ります。つまりロボットのティーチング作業時などで作業者の安全を守るために、ボタンを離した状態 (ポジション1) とボタンを強く押し込んだ状態 (ポジション3) の両方でロボットの動作を即停止可能です。

手動運転では作業者が意図してポジション2でボタンを保持している間は手動運転が許可されます。作業中の操作ミスやノイズによってロボットが予想外の動作をすると作業者が危険に巻き込まれ、予想外の動作に驚いた作業者は反射的にティーチングペンダントを放り出すか、持つ手を強く握ります。

驚いたときの反射反応のため、手を放すか手を握り込むか、どちらの反射動作を作業者が行うかは事前に決められません。したがって手を放した場合と強く握り込んだ場合の両方で機械を停止するため、ポジション1とポジション3が設置されています。

イネーブルスイッチの選び方

危険区域内で安全を確保するためにイネーブルスイッチやシステムには高い安全性が必要です。

イネーブルスイッチの多くは接点が2重化されており、片方が故障してももう片方のみでも機械を停止して安全を確保可能なコントローラと組み合わせたシステムが構築されています。2つの接点の信号が一致した場合だけ正常と判断され、2つの信号が一致しないと故障だと検出されます。

参考文献
https://jp.idec.com/RD/safety/guide/safety05