窒化アルミニウム

窒化アルミニウムとは

窒化アルミニウムとは、アルミニウムの窒化物で、無色または灰色結晶の無機化合物です。

別名でアルミナイトライドとも呼ばれます。窒化アルミニウムは、電子伝導性が低いにも関わらず熱伝導性が高い材料です。窒化物のうちでは、最も酸化に対して安定です。

窒化アルミニウムの使用用途

窒化アルミニウムは、優れた熱伝導性、電気絶縁性、各種半導体に近い熱膨張性などの特性を有していることから、熱に弱い半導体等の電子部品の放熱材料として主に使用されています。

具体的な用途としては、パワートランジスタモジュール基板、LED用マウント基板、ICパッケージなどが挙げられます。その他、プラズマエッチャー用部品、ウエハーチャック用部品、ステッパー用ウエハー保持冶具、ダミーウエハー、ヒーター均熱板なども用途の1つです。

窒化アルミニウムには、フィラーとしての用途もあり、各種樹脂材料との混合で、樹脂の性能を高める効果があります。例えば、窒化アルミニウムの微粉末を、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、BTレジンなど各種樹脂との混合で、充填性、流動性、高放熱性を付与できます。

窒化アルミニウムの性質

窒化アルミニウムの分子式はAlNで、分子量が40.99の無色または灰色の結晶質の固体です。比重は3.3、常圧では融解せず2,150℃で分解します。化学的には非常に安定な物質で、焼結体は塩酸、硫酸、硝酸などの一般的な酸や塩基には溶けません。しかし、粉末状態の窒化アルミニウムの場合は、空気中の水と容易に反応して、水酸化アルミニウムとアンモニアを発生させます。 (AlN +3H2O → Al(OH)3 + NH3)

特にpHが高い水溶液の場合は、急速に分解します。このため、粉末を保管する場合は、高純度窒素ガス中か、乾燥空気中で保管することが重要です。粉体の窒化アルミニウムは加水分解の懸念がありますが、成形のために1,700℃以上で焼結処理された焼結体は加水分解せず、耐薬品性が高い特徴もあります。

焼結体は窒化アルミニウムの粉体をバインダー、可塑剤などと混合してガム状にして、成形したい形に加工され、高温で焼結させることで作成されます。窒化アルミニウムは、熱伝導率・熱放射率が大きく、均熱性が高い物質です。

室温での熱伝導率は70~200W/m・Kでアルミナ (Al2O3) の2~15倍ほどあります。熱膨張率がシリコンと同程度と低く、熱変形しにくいことも特徴です。熱変形しにくいため、耐熱衝撃性も他のセラミックと比較して高くなっています。

窒化アルミニウムのその他情報

窒化アルミニウムの製造方法

窒化アルミニウムの製造方法としては、酸化アルミニウムから作る方法と、単体のアルミニウムから作る方法、塩化アルミニウムから作る方法の3通りあります。

1. 酸化アルミニウムから作る方法
ボーキサイト (酸化アルミニウムを高含有率で含む鉱物) とコークスの混合物を、窒素中で1,700℃、高圧で反応させることで得られます。

  Al2O3 + 3C + N2 → 2AlN + 3CO

2. アルミニウム粉と窒素の直接反応
アルミニウム粉を窒素雰囲気化で加熱すると600℃ぐらいから窒化反応が開始します。徐々に温度を上げて800~1,000℃で反応は完了します。アルミニウム粉は600℃で融解して凝集し始め、窒素との接触面積が減るため、凝集を防止しながら窒化反応を行う必要があります。

  2Al + N2 → 2AlN

3. 塩化アルミニウムとアンモニアとの反応
塩化アルミニウムとアンモニアと1,200~1,500℃で反応させることで窒化アルミニウムが得られます。小規模で窒化アルミニウムの薄膜を形成する場合等に使われる方法です。

  AlCl3 + NH3 → AlN + 3HCl

参考文献
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jvsj1958/9/5/9_5_183/_pdf

硫酸コバルト

硫酸コバルトとは

硫酸コバルトとは、コバルトの硫酸塩の無機化合物です。

硫酸コバルトには、硫酸コバルト (II) と硫酸コバルト (III) の2種類が存在します。硫酸コバルト (II) には、無水物、一水和物、七水和物が知られています。

硫酸コバルト (II) の七水和物は、濃紅色の柱状結晶です。別名、赤バン (英: bieberite) とも呼ばれています。日本で赤バンは、奈良県の堂ヶ谷鉱山や山梨県の鳳来鉱山などで確認されています。

硫酸コバルトの使用用途

硫酸コバルト (II) は、コバルトめっきや磁性材料、陶磁器の釉薬、コバルト塩の製造などに用いることが可能です。また、防錆材原料や各種表面処理蓄電池、ぺイント・インキの乾燥剤、ガラスや陶磁器の彩色用顔料、触媒、金属せっけん、不可視インク原料など、幅広い用途が挙げられます。

硫酸コバルト (II) は、医薬品分野では、貧血用薬にミネラル成分として配合されています。さらに、農業分野においても、同様の目的で、飼料添加物として使用可能です。

それに対して硫酸コバルト (III) は、強い酸化剤として使用されています。

硫酸コバルトの性質

1. 硫酸コバルト (II)

硫酸コバルト (II) の無水物の融点は735℃、七水和物の融点は74℃です。硫酸コバルト (II) の水和物は、空気中で風解します。水和物を250℃まで熱すると無水物が生じます。

硫酸コバルト (II) の無水物は、水、メタノールエタノールなどに溶かすことが可能です。

2. 硫酸コバルト (III)

硫酸コバルト (III) は酸化力が強く、エタノールからアセトアルデヒドに酸化して、塩酸から塩素を発生させます。

硫酸コバルトの構造

1. 硫酸コバルト(II)

硫酸コバルト (II) の化学式はCoSO4で、モル質量は155.00g/molです。硫酸コバルト (II) の一水和物の化学式はCoSO4・H2O、モル質量は173.01g/molであり、七水和物の化学式はCoSO4・7H2O、モル質量は281.103g/molです。

硫酸コバルト (II) の無水物と一水和物は赤みを帯びた結晶であり、硫酸コバルト (II) の七水和物はFeSO4・7H2Oと同形の柱状晶を作っています。硫酸コバルト (II) の無水物の密度は3.71g/cm3、一水和物の密度は3.08g/cm3、七水和物の密度は2.03g/cm3です。

2. 硫酸コバルト(III)

硫酸コバルト (III) の十八水和物は、青色をした針状の結晶です。硫酸コバルト(III)の十八水和物の化学式はCo2(SO4)3・18H2Oで、モル質量は730.33g/molです。

硫酸コバルトのその他情報

1. 硫酸コバルトの産出

天然にはビーバーライト (英: beaverite) として、硫酸コバルト (II) が得られます。ビーバーライトとは、マグネシウムを含んだハイドロカルシルタイト (英: hydrocalcilutite) で、米国ミシガン湖にあるビーバー島  (英: Beaver Island) で産出されます。

2. 硫酸コバルトの合成

酸化コバルト硫酸に溶かし、41.5℃以下で析出させることで、硫酸コバルト (II) の七水和物を生成できます。硫酸コバルト (III) は35℃で分解しますが、硫酸には分解せずに溶けます。硫酸コバルト (III) を加水分解すると、酸素が発生し、硫酸コバルト (II) を得ることが可能です。

その一方で硫酸コバルト (III) は、硫酸コバルト (II) の硫酸酸性溶液を低温で電気分解することによって生成されます。

3. 硫酸コバルトの危険性

マウスを用いた実験では、硫酸コバルト (II) の吸入によって、毒性や発癌性が確認されました。サルモネラ菌を使用した実験で、変異原性も確認されています。

カナダのケベック州にあるビール会社では、硫酸コバルト中毒によって、16名の死者を出しました。硫酸コバルト (II) は不燃性ですが、加熱によって分解するため、硫黄酸化物を含んだ有害ガスを生じます。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/10124-43-3.html

硫酸アルミニウム

硫酸アルミニウムとは

硫酸アルミニウムとは、アルミニウムの硫酸塩です。

硫酸アルミニウムは、硫酸ばんどやアラム、礬土とも呼ばれています。硫酸アルミニウムには、無水和物の他、多くの水和物が存在しますが、14~18水和物が一般的です。

日本国内で硫酸アルミニウムは、毎年約60万トン生産され、工業消費量は約9万トンです。硫酸アルミニウムの水溶液は、酸性で収斂性を有し、中和することで、水酸化アルミニウムが析出します。

硫酸アルミニウムの使用用途

硫酸アルミニウムは、都市上下水道・工業用水・産業廃水等の浄水剤 (凝集剤) として広く用いられています。その他にも、染色助剤、土壌中和剤、医薬品、顔料、建材、コンクリート急結剤、皮革なめし剤など、幅広い分野で利用可能です。

硫酸アルミニウムは、製紙分野において、サイズ剤として利用されています。インキのしみ止めを代表とする液体の浸透防止や毛羽立ち防止のほか、平滑性の付与も含めて、紙質を向上させるのに用いられています。

硫酸アルミニウムは、泡沫消火器に消火剤として使用されている他、アルミナホワイト・ミョウバン等の原料としても使用可能です。

硫酸アルミニウムの性質

硫酸アルミニウムの無水和物は、空気中で安定です。770℃まで熱すると、SO3、SO2、Al2O3に分解します。約850℃になると熱分解が完了し、アルミナが生成します。

硫酸アルミニウムは水に可溶です。具体的には、0℃の100gの水に86.9g、20℃の100gの水に107.4g溶解します。水溶液中の硫酸アルミニウムは[Al(H2O)6]3+を含む錯塩を形成しています。硫酸アルミニウムの水溶液は加水分解して、[Al(OH)(H2O)5]2+とH3O+を生成するため、かなり酸性が強いです。さらに水溶液は、酸味や渋い味がします。

また、硫酸アルミニウムは希酸に溶けますが、エタノールには溶けません。複塩を生成しやすい性質を用いて、他のアルミニウム塩の原料として利用されています。

硫酸アルミニウムの構造

硫酸アルミニウムの無水物の化学式はAl2(SO4)3で、式量は342.14g/molです。硫酸アルミニウムの無水物は無色結晶であり、密度は2.71g/cm3です。

硫酸アルミニウムの十六水和物の化学式は、Al2(SO4)3·16H2Oと表されます。比重が1.96の無色の針状結晶です。

硫酸アルミニウムのその他情報

1. 硫酸アルミニウムの合成法

工業的に硫酸アルミニウムは、ボーキサイト (英: bauxite) や粘土などを硫酸で処理し、不純物を取り除いて得ています。鉄イオンを含んでいない高純度品は、水酸化アルミニウムの硫酸溶液を濃縮し冷却することで、硫酸アルミニウムの十六水和物として得られます。

硫酸アルミニウムの十六水和物は、穏やかに熱し続けると、泡を出しながら結晶水を失って、350℃で無水和物に変わります。水溶液から結晶化させると、−19〜95°Cで硫酸アルミニウムの十六水和物を得ることが可能です。他にも硫酸アルミニウムの水和物には、6、10、18、27水和物などが知られています。

2. 酸性紙としての硫酸アルミニウム

硫酸アルミニウムを製造過程で使った酸性の洋紙のことを、酸性紙 (英: acid paper) と呼びます。硫酸根が紙に残って、紙の酸性度が高まるため、数十年で劣化しやすいです。したがって、酸性紙の長期保存には問題があります。

3. 硫酸アルミニウムの関連化合物

ミョウバンの1種であるカリウムミョウバン (英: potassium alum) は、硫酸カリウムアルミニウムとも呼ばれています。硫酸イオン、カリウムイオン、水和アルミニウムイオンを含んだ複塩の結晶です。

当量の硫酸アルミニウムと硫酸カリウム水溶液の反応によって、カリウムミョウバンが生成します。水酸化カリウムにアルミニウムを溶解させて、硫酸を用いてもカリウムミョウバンは得られます。

硫酸

硫酸とは

硫酸とは、化学式H2SO4の化学物質で、無色無臭の酸性の液体です。

別名で緑バン油ともよばれ、純度の高いものは油状の液体です。一般的には、水溶液としたものが硫酸と呼ばれており、希釈され濃度が低くなるにつれて粘度も下がっていきます。

硫酸は「医薬用外劇物」に指定されており、皮膚に付くと重度の薬傷となる恐れがあります。取り扱いには注意が必要です。

硫酸の使用用途

硫酸は化学工業における基礎原料の1つで、肥料工業や繊維、金属製錬、製鋼、紡績、製紙・食料品工業、めっきなどの広い分野で利用されています。また、硫酸は化学実験に用いる試薬としても重要です。

そのほか、脱水剤、酸化剤、乾燥剤などとして用いられ、硫酸アンモニウム、火薬、染料、無機化学薬品の製造、有機化合物の合成、石油や油脂の精製、触媒、車のバッテリーに使われる鉛蓄電池の電解液など、工業分野で幅広く使用されています。

硫酸と各種金属から成る塩も重要な働きをしています。例えば、硫酸カリウムは肥料に利用されており、硫酸カルシウムは石膏の主成分となっています。

硫酸の性質

硫酸は分子量98.07で、濃度の高いものは油状の液体です。98%の硫酸の比重は1.841で融点は3.0℃で、比熱は0.3325 (15℃) です。

金属との反応で、水素、硫化水素、二酸化硫黄、硫黄および金属硫化物、硫酸塩を生成します。この反応生成物は、硫酸の濃度、温度、金属の種類によって異なります。また、金属酸化物と反応して、硫酸塩を生成します。

硫酸の水への溶解熱が非常に高いため、濃硫酸を水で希釈して希硫酸にする場合は、水へ濃硫酸を攪拌しながら少しずつ加える方法が採用されています。逆に濃硫酸に水を加えてしまうと、水が急速に沸騰してしまい混合物が溢れ出すことがあるため、非常に危険です。

有機化合物とは脱水、水和、スルホン化などの諸反応を起こします。また、触媒作用もありニトロ化などに使われます。硫酸は水溶液中では2段階で電離し、強い酸性を呈します。電離の第1段階では硫酸水素イオンが生じ、電離の第2段階では硫酸イオンが生じます。硫酸イオンは、多くの金属元素と安定な硫酸塩を形成します。

硫酸の種類

硫酸水溶液のうち、硫酸濃度が約90%未満と低いものを希硫酸、約90%以上の濃度の高いものを濃硫酸と呼びます。他にも濃硫酸を290℃以上に加熱した熱濃硫酸、三酸化硫黄を濃硫酸に吸収させた発煙硫酸などがあります。

いずれの硫酸も強酸性であることは共通していますが、濃硫酸には希硫酸には見られない脱水作用や吸湿作用があり、さらに加熱した熱濃硫酸では酸化作用が出てきます。

硫酸のその他情報

硫酸の製造方法

硫酸の製造方法としては、硝酸式と接触式があります。しかし、硝酸式は製品濃度が低く、不純物が多くなり、さらに排ガス中に有害な窒素酸化物が含まれるため、現在国内で工業的に製造されているものは接触式のみです。

どちらの方法も二酸化硫黄を原料として、酸化により三酸化硫黄としてから、水に吸収させることで硫酸が得られます。

1. 二酸化硫黄の酸化
二酸化硫黄の原料は、別の工業製品を作る際の排ガスが用いられることが多く、このガスを純度の高い二酸化硫黄ガスに精製します。精製された二酸化硫黄は420~430℃に加熱され、五酸化バナジウムを主成分とする触媒を充填した転化器に導入し、三酸化硫黄に酸化されます。

2SO2 + O2 → SO3

2. 三酸化硫黄の水へ吸収
三酸化硫黄を水へ吸収させることで硫酸になります。実際は、水と直接反応させるのではなく、濃硫酸が循環する吸収塔に三酸化硫黄を導入して発煙硫酸にさせてから、これを希釈し、濃硫酸にしています。

H2SO4 + SO3 → H2SO4・nSO3
H2SO4・nSO+ nH2O → (n+1) H2SO4

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/0626.html

硫化鉄

硫化鉄とは

硫化鉄とは、鉄と硫黄の化合物です。

硫化鉄は硫化第一鉄と硫化第二鉄と二硫化鉄に分類されます。硫化第一鉄は化学式がFeSで鉄粉と硫黄を坩堝内で融解して作ります。灰黒色または淡褐色の結晶です。希酸に溶けて硫化水素を発生します。天然では磁硫鉄鉱として採取します。硫化第二鉄は化学式がFe2S3 で黒色の粉末です。塩酸と反応して硫化水素を発生します。天然ではとの複塩をなす黄銅鉱として採取します。二硫化鉄は化学式がFeS2 で黄金色の結晶です。硫酸の原料で天然では黄鉄鉱として採取します。

硫化鉄の使用用途

硫化鉄第一鉄は、水に溶けやすく手軽に施用できる鉄剤で、主に土壌施用、葉面散布にて使用します。硫化鉄第二鉄は、ポリ硫化鉄第二鉄として、し尿、都市下水、食品加工廃水の三次処理 (脱水および脱臭) として使用されます。二硫化鉄は、電池の原料として使用されています。

硫化鉄は「黄金の金」とされる鉱物黄鉄鉱です。水素の脆化抑制のために、合金およびステンレス鋼の製造にも使用されています。かつては硫酸や硫酸アンモニウムの原料として使用されていました。しかし、石油精製工程での脱硫処理により硫黄が副次的にに生産されるようになったこと、石炭や胴、鉛、亜鉛の精錬による排ガスから硫酸が製造されるようになったことから、硫酸や硫酸アンモニウムの原料としては使用されなくなりました。

また、種々の鋼部品の製造に使用される鋼鋳造機の溶鋼品質を改良するための分解剤として使用されています。粗リン酸の精製において、硫化鉄はリン酸から重い不純物を除去するための還元剤としても使用されています。

硫化鉄の性質

硫化第一鉄 (硫化鉄II) の分子量は87.91で融点は1195℃、比重は4.84です。CAS番号は1317-37-9です。水には溶けません。また、硫化第一鉄は7水和物として安定して存在します。薄い青緑色の結晶です。硫化鉄(II)七水和物の分子量は278.02、融点は64℃、比重は1.898です。CAS番号は7782-63-0です。水には溶けやすく、エタノールにはほとんど溶けません。硫化第二鉄は不安定であるため、結晶構造や磁気的性質は明確ではありません。

二硫化鉄の分子量は120.0で融点 (分解温度) は600℃です。比重は結晶構造によって異なり、斜方晶では4.88、立方晶は5.00です。CAS番号は12068-85-8です。水には溶けず、硝酸には溶けます。硫化鉄は乾燥状態で大気と接触すると、酸化発熱が進み自然発火する危険性があリます。

硫化鉄の種類

地球上に存在する硫化鉄は以下が挙げられます。鉄の硫化鉱物は硫化鉄鉱と呼ばれます。

1. 黄鉄鉱 (Pyrite) (FeS2)

硫化鉱物では最も広く、多量に産出します。六面体や八面体、正十二面体、立方体等の結晶形です。薄黄色で金属光沢をもつため、金と間違えられることも多く、「愚者の黄金」と呼ばれています。

2. 白鉄鉱 (Marcasite) (FeS2)

黄鉄鉱と同じ組成ですが、白鉄鉱は斜方晶形です。黄鉄鉱より低温環境で生成し、450℃以上では黄鉄鉱に変化します。

3. トロイライト (FeS)

地球上ではほとんど産出されませんが、隕石中には広く見出されます。

4. 磁硫鉄鉱 (ピロータイト) (Fe1-xS)

鉄と硫黄の割合に応じて、結晶構造が異なります。

5. グレイガイト (Fe3S4)

磁硫鉄鉱とともに、強磁性を示す鉱物です。

6. マッキナワイト ((Fe Ni)1+xS) (x=0~0.11)

鉄とニッケルの硫化鉱物で、正方晶の結晶です。

硫化鉄のその他情報

硫化鉄以外の硫化鉱物

鉄以外にも、銅、鉛、亜鉛、ニッケル、水銀、モリブデン、コバルト、アンチモンなどの硫化鉱物があります。代表的な硫化鉱物は、黄銅鉱CuFeS2、黄鉄鉱FeS2、方鉛鉱PbS、閃亜鉛鉱ZnSです。硫化鉱物になる金属は硫黄の代わりに砒素、テルル、セレン、と結合し、砒化鉱物、テルル化鉱物、セレン化鉱物をつくります。

参考文献
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jcorr1954/16/7/16_7_291/_pdf/-char/ja
http://www2.city.kurashiki.okayama.jp/musnat/geology/
https://www.jstage.jst.go.jp/article/ganko1941/66/2/66_2_76/_pdf/-char/ja

硫化水素

硫化水素とは

硫化水素とは、硫黄と水素からなる無機化合物で腐卵臭をもつ無色の気体です。

別名、スルファン、硫化二水素などとも呼ばれます。高濃度では嗅覚が麻痺するため、特有な腐卵臭は硫化水素が低濃度の場合にのみ感じられます。悪臭防止法の特定悪臭物質の1つです。

分析試験、金属の精製、肥料や、医薬品の製造、蛍光体など幅広く使用されています。

硫化水素の使用用途

硫化水素は、主に分子内に硫黄 (S) をもつ化学物質の製造工程で広く使用されています。例えば、メチルメルカプタン (CH3SH) 、エチルメルカプタン (C2H5SH) 、メルカプト酢酸 (HS-CH2-COOH) などの硫黄を含む有機化合物の合成です。

硫化水素を重金属塩の水溶液に通すと、有色の硫化物の沈殿を生じることから、金属イオンの定性分析の試薬としての用途もあります。また、有機合成の際に、還元剤として使用されます。

そのほか、化学分析の核磁気共鳴分析 (NMR) などで使用される重水 (D2O) を通常の水から分離する用途もあります。

硫化水素の性質

硫化水素の化学式はH2Sで分子量は34.082で、常温で無色の気体で空気に対する比重は1.1905です。融点は-85.5℃、沸点は-60.7℃、発火点は260℃、可燃性で引火性のある気体で、加熱すると約400℃で分解し始め、水素と硫黄に分かれます。

水にはよく溶け、弱酸性の水溶液になります。硫化水素の水溶液は、不安定な性質をもち、酸化すると硫黄を析出して白く濁ります。硫化水素は、天然にも存在し、火山ガスや温泉、鉱泉、原油、天然ガス等の中に含まれるほか、下水処理場、ごみ処理場でも硫黄が嫌気性細菌によって還元され、硫化水素が発生します。

動物や植物のタンパク質の腐敗によっても発生します。また、飲食店の厨房排水が流れ込む分離槽や溜め枡内で、水が滞留する場所があると発生します。さらに、糞や屁にも若干の硫化水素が含まれ、口臭にも関係しています。

硫化水素を空気中で点火すると、青色の炎を出して燃え、二酸化硫黄 (亜硫酸ガス) と水を生じます。(2H2S + 3O2 → 2SO2 + 2H2O)

硫化水素の特徴

1. 硫化水素の製造方法

硫化水素は、工業的には天然ガス、石油精製、工業排気ガス等から得られます。また、硫黄とメタンを高温で反応させることで、硫化水素と二硫化炭素が生成されます。他にも硫黄と水素の反応でも硫化水素を得ることができます。

排ガス等からの分離
硫化水素を含む酸性ガスを、アルカリ性の水溶液に吸収させます。アミン系水溶液などが吸収液に用いられます。吸収した後に、再加熱を行うことで硫化水素の高濃度ガスが得られます。

二硫化炭素製造工程での副生
原料のメタンガスと硫黄を反応炉で反応させると、二硫化炭素と硫化水素の混合気体が生成されます。この反応は、高い反応率で生成物の二硫化炭素と硫化水素が得られます。その後、蒸留装置によって、二硫化炭素と硫化水素を分離します。

  CH4 + 4S → CS2 + 2H2S

硫黄と水素の反応
単体の硫黄に水素を添加し、触媒存在下で加熱反応させることで、高純度の硫化水素を得ることができます。

  S + H2 → H2S

2. 硫化水素の危険性

硫化水素は、可燃性や引火性が非常に高く、消防面での危険性が高いだけではなく、中枢神経系や呼吸器系等に障害をもたらすなど、強い毒性をもつため、取り扱いには注意が必要です。労働安全衛生法の特定化学物質の第二類物質に指定されています。

硫化水素は高濃度で吸入すると、即死するほどの猛毒です。腐卵臭が硫化水素の特徴ですが、20ppmを超えると嗅覚が麻痺して臭いを感じなくなるため、臭いで濃度確認はできません。この濃度のガスを吸入すると気管支炎、肺炎、肺水腫を起こす可能性があります。

また、100ppmの蒸気を長時間にわたって吸い続けると、生命を落とす可能性が出てきます。700ppmでは脳神経に作用して、意識障害、呼吸麻痺、死亡の可能性、5,000ppmを超えると即死の可能性が出てきます。

硫化水素のその他情報

上記で述べたように、硫化水素は非常に毒性の高いガスのため、取り扱いには細心の注意が必要です。高濃度の硫化水素を吸入すると、呼吸困難、意識喪失、さらには死亡に至る可能性があります。取扱時には下記の点に注意してください。

1. 換気

硫化水素を取り扱う作業を行う際には、十分な換気が必要です。

2. 防護具

硫化水素ガスを漏らさないように、防護服、マスク、手袋などを着用する必要があります。

3. 検知器

硫化水素ガスを検知する装置を設置し、万が一漏洩した場合に備える必要があります。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/7783-06-4.html

硝酸カリウム

硝酸カリウムとは

硝酸カリウム (英: Potassium nitrate) とは、無色のイオン結晶粉末です。

カリウムの硝酸塩で、化学式はKNO3、分子量は101.10、CAS登録番号は7757-79-1です。英語では、石の塩を意味するsaltpetreとも呼ばれ、 天然では硝石として存在しています。

硝酸カリウムの使用用途

1. 酸化剤

硝酸カリウムは特に「黒色火薬」の酸化剤として古くから使われてきましたが、銃火器向けとしては無煙火薬のコルダイトなどに置き換わっています。酸化剤としてはその他に、「マッチ」「花火」「ロケットの推進剤」などに使用されています。

2. 食品添加物

食品分野では「食肉の発色剤および防腐剤」として使われています。また、チーズ製造の際に「発酵調整剤」として使用されることがあります。

3. 肥料

硝酸カリウムは肥料としても幅広く利用されており、カリウムと窒素の供給源として水耕栽培などで使用されています。塩素ナトリウム、その他の植物に有害な成分が含まれておらず、塩化物に敏感な作物には特に必要とされます。

4. その他

他にも「強化ガラス」「医薬品」「太陽光発電などの蓄熱媒体」「釉薬」「熱処理剤」「寒剤」「歯の研磨剤」など、幅広い用途に使用されています。また、歯の過敏症を抑える目的で歯磨き粉に硝酸カリウムが含まれている場合もあります。

硝酸カリウムの性質

1. 物理的特性

硝酸カリウムの融点は333~334℃、沸点 (分解温度) が400℃で、密度/相対密度が2.1です。熱水によく溶けて水溶液は中性を示しますが、水の温度が下がるにつれ溶けにくくなります。硝酸カリウムは、無水アルコールには難溶ですがグリセロールには可溶といった性質ももちます。

2. その他の特徴

融点である339℃以上に熱すると、酸素を出して亜硝酸カリウムに変化します。また、強力な酸化剤であるため他の有機化合物と反応すると爆発する可能性があります。カリウムの炎色反応を示すため、可燃物と混合して燃焼させると、ピンクから紫色の炎を上げます。

硝酸カリウムの構造

硝酸カリウムはカリウムカチオンのK+と硝酸アニオンNO3– から構成されており、結晶は室温で斜方晶系柱状晶となります。硝酸カリウムの結晶は、128°Cで三方晶系に変化し、200°Cから冷却すると、124°Cから100°Cの間で別の三方晶相が形成されます。硝酸カリウムの室温構造では、各カリウムイオンは6つの硝酸イオンに、各硝酸イオンは6つのカリウムイオンにそれぞれ囲まれています。

硝酸カリウムのその他情報

1. 硝酸カリウムの製法

硝酸カリウムは硝酸水酸化カリウムや炭酸カリウムで中和し、生成した溶液を蒸発させる方法によって析出します。また、塩化カリウムと濃硝酸を反応させることで、硝酸カリウムを生成する方法もあります。工業的には、チリの砂漠で多く産出される硝酸ナトリウム結晶石 (チリ硝石) を原料に、塩化カリウム (KCl) と反応させ硝酸カリウム水溶液を得て、製造されています。

2. 法規情報

毒物及び劇物取締法で指定はありませんが、労働安全衛生法で「危険物・酸化性の物」に指定されており、取り扱いには注意が必要です。消防法では、危険物第1類 (酸化性固体) の硝酸塩類に、水質汚濁防止法で施行令第2条有害物質に指定されています。

3. 取扱いおよび保管上の注意

取扱い及び保管上の注意は、下記の通りです。

  • 容器を密栓し、冷暗所に保管する。
  • 屋外や換気の良い区域のみで使用する。
  • 可燃物と混合すると容易に発火するため、熱や可燃物から遠ざけて使用、保管する。
  • 使用時は保護手袋、保護眼鏡を着用する。
  • 取扱い後はよく手を洗浄する。
  • 皮膚に付着した場合は、石鹸と水で洗い流す。
  • 眼に入った場合は、水で数分間注意深く洗う。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/7757-79-1.html

硝酸アンモニウム

硝酸アンモニウムとは

硝酸アンモニウムとは、硝酸のアンモニウム塩で、無色の結晶です。

別名、硝酸アンモニアや硝安などとも呼ばれます。硝酸アンモニウムは、自然界でも生成されますが、50~70%の硝酸をアンモニアで中和することによって、大規模製造することが可能です。世界で年間およそ20百万トンの硝酸アンモニウムが生産されています。

これまでに偶然の硝酸アンモニウムの爆発によって、何千人もの人々が命を落としてきました。そのため、多くの国で誤用を懸念して、消費者向けの用途での利用を段階的に廃止しています。

硝酸アンモニウムの使用用途

硝酸アンモニウムは、主に肥料として使用されることが多い物質です。ただし、硝酸アンモニウムの肥料は、水によって脱窒しやすいため、水田には不向きとされています。

その他の用途として、火薬や花火製造、除草剤、殺虫剤、寒剤、酵母培養の養分、麻酔薬の製造、マッチの製造原料、ロケットエンジンの推進剤などが挙げられます。さらに、爆薬としても利用可能です。特に94%の硝酸アンモニウムと6%の燃料油を混合したANFO爆薬が有名で、採石場・セメント産業・石炭採掘用などで使用されています。 

硝酸アンモニウムの性質

硝酸アンモニウムは、アンモニウムイオンと硝酸イオンから構成されています。化学式はNH4NO3、モル質量は80.04、密度は1.7g/mLの化合物です。

融点は170℃であり、210℃で分解します。硝酸アンモニウムは、吸湿性が極めて高いです。ただし、水和物を形成しません。水によく溶け、エタノールにも溶解します。

空気中で硝酸アンモニウムは安定していますが、可燃性物質が混入したり、密閉容器中で加熱・衝撃・摩擦などを受けたりすると、爆発する恐れがあります。

硝酸アンモニウムのその他情報

1. 硝酸アンモニウムの合成法

工業的に硝酸アンモニウムは、硝酸とアンモニアの酸塩基反応によって得られます。非常に激しい発熱反応です。無水状態のアンモニアを使い、まず硝酸を濃縮します。溶液が形成された後、高濃度の硝酸アンモニウムを残すために、余計な水を蒸発させます。

通常は83%程度で、グレードによっては95%から99.9%の硝酸アンモニウムの溶融物を得ることが可能です。硝酸アンモニウムの溶融物は、スプレータワーでプリルや小さなビーズにするか、回転ドラムで噴霧やタンブリングすることにより顆粒にします。

プリルや顆粒は乾燥と冷却の後に、固結を防止するためにコーティングすることが可能です。

2. 硝酸アンモニウムの合成における原料と生成物

硝酸アンモニウムの合成に必要となるアンモニアは、ハーバー・ボッシュ法 (英: Haber–Bosch process) で水素と窒素から生成可能です。ハーバー・ボッシュ法によって得たアンモニアを、オストワルト法 (英: Ostwald process) によって硝酸へ酸化します。

硝酸アンモニウム以外の生成物である炭酸カルシウムは別々に精製できる他、硝酸カルシウムアンモニウム (英: calcium ammonium nitrate) として販売されています。

3. 硝酸アンモニウムの反応

硝酸アンモニウムを開放状態で加熱すると、融点以上で徐々にアンモニアと一酸化二窒素へ分解していきます。触媒として塩化物イオンを用いても、硝酸アンモニウムを分解することが可能です。

また、硝酸アンモニウムを密閉状態で加熱した場合には、容易に爆発反応が起こり、窒素・酸素・水に分解します。ニトロナフタリンや木粉を混ぜたものは、爆発反応を活用した硝安爆薬として使用可能です。

硫酸アンモニウム尿素と同じく、硝酸アンモニウムも水に溶解すると吸熱します。食塩と比べて吸熱反応のエネルギーが大きく、瞬間冷却パックなどの寒剤として用いることも可能です。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/6484-52-2.html

硝酸鉄

硝酸鉄とは

硝酸鉄 (英: Iron nitrate) とは、組成式をFe(NO3)3、またはFe(NO3)2で表せる無機化合物です。

鉄の硝酸塩で、2価および3価が主となっています。一般に、2価の硝酸鉄よりも3価の硝酸鉄の方が安定であり、より多く製造されています。

硝酸鉄の使用用途

1. 硝酸鉄 (Ⅲ) 

硝酸鉄 (Ⅲ) は、基本的に硝酸イオンまたは鉄 (Ⅲ) イオンを利用する場合に使用されることが多いです。一般的な無機物は、水には溶けやすいですが、アルコールなどの有機溶媒には溶けにくいことが多くあります。それに対して、硝酸鉄 (Ⅲ) はアルコールに溶けやすいため、有機化合物の反応でも利用可能です。

鉄イオンは、他の重金属イオンのように金属触媒を合成する際の出発物質に用いられることがあります。また、硝酸イオンはベンゼン環のニトロ化反応など、有機化合物の反応で用いられるほか、無機化合物同士の反応でも酸化剤として使用されることがある使用頻度が高い試薬です。

その他、染料を用いる際の媒染剤、絹の増量剤、なめし剤、さまざまな分析試薬にも用いられます。

2. 硝酸鉄 (Ⅱ) 

硝酸鉄 (Ⅱ) の六水和物は、不安定であり、示す性質も硝酸鉄 (Ⅲ) と同じような性質が多いため、使用されることは少ないです。硝酸鉄 (Ⅲ) を製造する際の副生成物としての意味合いが強くなっています。

しかし、加熱すると一酸化窒素を発し、Fe (+3) を含む水酸化物塩が沈殿するため、そこから硝酸鉄 (Ⅲ) を製造することは可能です。

硝酸鉄の性質

1. 硝酸鉄 (Ⅲ)

硝酸鉄 (Ⅲ) は、分子量が241.86g/mol、融点が47.2℃、比重が1.68で、常温常圧では薄紫色の固体の状態で存在しますが、125℃で分解してしまいます。CAS番号は、10421-48-4です。水にかなり溶けやすく、アルコールやエーテルにも溶けます。

通常水分子が9個配位した九水和物の状態で存在しています。九水和物も非常に水やエタノールに溶けやすく、また潮解性が高いため、固体を空気中に放置すると水分を吸収して、褐色の液体に変化することが特徴です。

九水和物を加熱すると分解して硝酸を発生させるほか、さらに赤熱すると酸化鉄Fe2O3に変化します。

2. 硝酸鉄 (Ⅱ)

硝酸鉄 (Ⅱ) は、結晶状態では主に六水和物として存在しており、無水物は知られていません。六水和物の分子量は287.95g/mol、融点が60.5℃、CAS番号は14013-86-6、常温常圧では緑の固体の状態で存在します。水への溶解度は非常に高く、溶けやすいです。

また、水溶液は酸性を示し、-12℃以下に降温することで九水和物を析出させることができます。

硝酸鉄のその他情報

1. 硝酸鉄 (Ⅲ) の製造法

硝酸鉄 (Ⅲ) は、金属鉄を20~30%の硝酸に溶かして製造します。析出時の溶液や酸の濃度の違いにより、六水和物または九水和物になります。また、出来上がった結晶が斜方晶系なら無色、単斜晶系は淡紫色のなることが特徴です。

六水和物は、九水和物を発煙硝酸に飽和させて五酸化二窒素を作用させる方法や、融解させた九水和物に無水硝酸を加える方法で得られます。物理的な性質は、九水和物と類似しています。

2. 硝酸鉄 (Ⅱ) の製造法

硝酸鉄 (Ⅱ) は、硫酸鉄 (Ⅱ) と硝酸 (Ⅱ) または硝酸バリウムとの間の複分解を利用して製造します。また、硝酸鉄 (Ⅲ) 溶液を銀で還元する方法もあります。

水溶液から析出させると、通常淡緑色の六水和物となります。湿った状態では安定ですが、乾燥状態では暗赤色の鉄 (Ⅲ) 水酸化物塩に変わります。

3. 硝酸鉄の危険性

2価のものと3価のものはともに酸化性や刺激性を持っているため、取り扱う際にはゴム手袋や保護メガネ、白衣を着用する必要があります。また、硝酸鉄 (Ⅱ) は空気に対して不安定です。

飽和溶液状態で保存すると壊れることはありませんが、空気中に放置しないよう注意が必要です。

硝酸

硝酸とは

硝酸とは、化学式HNO3で表される、代表的な強酸のひとつです。

硝酸は劇薬で、皮膚・口・食道・胃などを侵します。また、発煙した硝酸を吸入するだけでも、気管を侵し、肺炎となる恐れがあります。そのため、硝酸の取り扱いには、十分な注意が必要です。

硝酸の使用用途

硝酸は、農業、建設、軍事、工業、繊維、化学、医薬品などの多くの分野で使用されます。以下にいくつかの一般的な使用例を挙げます。

1. 肥料用原料

植物、作物育成のための肥料の3大要素として、窒素、りん酸、カリがあります。このうちの窒素の供給源として硝酸を原料とする肥料が用いられています。

2. 火薬原料

ニトログリセリン、ニトロセルロース、トリニトロトルエン (TNT) 、ピクリン酸など、建設現場や軍事用途に用いられる火薬の原料となるニトロ化合物の合成にも使用されています。また、濃硝酸は、アミン類と急激に反応分解するため、ロケット推進薬の酸化剤として用いられています。

3. その他

セルロイド、染料 (アゾ染料・アニリン染料等) 、顔料、電気メッキ、金属溶解用、医薬品、化学繊維や、ポリウレタンの主原料であるトルエンジイソシアネート、アジピン酸などの製造原料としても使用されています。 

硝酸の性質

硝酸は分子量が63.02、比重が1.502の無色の液体です。融点は-42℃、沸点が86℃ (98%濃硝酸) 、121℃ (68%希硝酸)で、水に易溶、エーテル、アルコールに可溶です。淡黄色で特異臭があり、空気に触れると発煙するという特徴があります。強酸なので塩基とは特に激しく反応します。また硝酸は、光に当たることによって分解がおこります

硝酸は、酸化力が強く、金、白金以外のほとんどの金属を腐食しますが、鉄・クロムアルミニウム等は不動態をつくるため、硝酸に溶けません。

加熱すると分解し、有毒なヒュームを発生させます。強力な酸化剤で、可燃性または還元性の物質と激しく反応します。また多くの一般的な有機化合物、アセトン酢酸無水酢酸などと激しく反応し、爆発や火災の危険をもたらします。

硝酸のその他情報

硝酸の製造方法

硝酸の工業的な製造方法としては、硝石を硫酸により分解する方法、空気中の窒素を固定化する方法、アンモニアを酸化する方法の3つがあります。一般的には、最後のアンモニア酸化法 (オストワルト法) によって製造されています。

オストワルト法は大きく分けて、アンモニア (NH3) の酸化による一酸化窒素 (NO) の生成、一酸化窒素の酸化による二酸化窒素 (NO2)の生成、二酸化窒素の水への吸収の3工程からなります。以下にそれぞれについて説明します。

1.  アンモニア (NH3) の酸化
アンモニアと圧縮空気を混合した混合ガスを、白金ロジウム触媒に通すことで、アンモニアが酸化されて一酸化窒素が生成します。この反応は発熱反応で反応速度も大きく、副反応も起こりますが、主反応が90%以上の高い収率で進むことで一酸化窒素が得られます。

主反応  4NH3 + 5O2 → 4NO + 6H2O
副反応  4NH3 +3O2 → 2N2 + 6H2O

2. 一酸化窒素 (NO) の酸化
1段階目のアンモニアの酸化で得られた一酸化窒素と過剰の酸素を含む反応ガスを冷却することで一酸化窒素の酸化を行います。この酸化反応は温度が低いほど進行する特異な反応で、冷却の際の排熱は工場内で有効活用されます。

  2NO + O2 → 2NO2

3. 二酸化窒素の水への吸収
2段階目の反応で生成した二酸化窒素ガスを水に吸収させることで、硝酸 (HNO3) を生成します。この反応は発熱反応であることから、温度を下げることで反応が硝酸生成側に進みます。この方法で得られる硝酸濃度は、通常55~68%程であり、希硝酸と呼ばれます。

  3NO2 + H2O → 2HNO3 +NO

濃度が68%以上の濃硝酸を作るため、加熱によって水を除去して濃縮することが考えられますが、水の蒸発と並行して硝酸も蒸発していく共沸という現象により、この方法では68%以上に濃度が上げられません。このため、濃硝酸を作るためには水を吸収する脱水剤を添加して水だけを除くといったような方法がとられます。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/7697-37-2.html