炭酸バリウムとは
炭酸バリウムとは、炭酸のバリウム塩です。
天然では石灰岩質の堆積層に作られた熱水鉱床の中で、毒重石 (英: witherite) として産出します。バリウムの原料は、一般的に重晶石 (英: bariteまたはbaryte) が使用されています。ただし、イギリスでは多く毒重石が産出されたため、バリウムの原料として毒重石を使うこともありました。
日本では「毒物及び劇物取締法」や「毒物及び劇物指定令」において「劇物」に指定されています。消防法、大気汚染防止法、労働安全衛生法、航空法、船舶安全法などにも規定があります。
炭酸バリウムの使用用途
炭酸バリウムは、バリウム塩やクリスタルガラス、ブラウン管に使用されるバリウムガラスなどの原料として用いられています。また、電極、塗料、エナメル、陶磁器・琺瑯の釉薬、金属熱処理の浸炭剤、紙などといった用途にも利用可能です。
近年では、炭酸バリウムは、電子材料用の原料として幅広く使用されています。主に、セラミックコンデンサ等に使われるチタン酸バリウムや複合酸化物などの原料として使用可能です。
それ以外にも、PTCサーミスタ用の原料、光学ガラス・半導体用スパッタガラス用の原料、蛍光体材料のバリウム成分の原料などとしても、幅広く利用されています。さらに、炭酸バリウムには毒性があるため、殺虫剤や殺鼠剤にも使用されています。
炭酸バリウムの性質
炭酸バリウムは、水にはほとんど溶けません。20°Cにおける水への溶解度は、0.0024g/100mLです。ただし、二酸化炭素を含む水には、炭酸水素バリウムとなって溶けます。炭酸バリウムは硝酸、塩酸、エタノールにも溶解しますが、硫酸には溶けません。
炭酸バリウムの融点は811°Cです。空気中で炭酸バリウムが加熱されると、1,450℃で分解します。酸によっても分解し、二酸化炭素を発生します。
炭酸バリウムの構造
炭酸バリウムはバリウムの炭酸塩であり、通常の炭酸バリウムは無色の結晶です。バリウムイオン (Ba2+) と炭酸イオン (CO32-) の両イオンの配列は、硝酸カリウム中のカリウムイオン (K+) と硝酸イオン (NO3–) の両イオンと配列が同じです。
この斜方状結晶以外にも、非晶質と六方晶系結晶の二変態が存在し、これら三変態をα形、β形、γ形と呼びます。高圧二酸化炭素中811℃で斜方晶系のγ形は非晶質のβ形になり、982℃で六方晶系のα形に転移します。
炭酸バリウムの化学式はBaCO3、モル質量は197.34g/mol、密度は4.286g/cm3です。屈折率 (nD) は1.60で、標準生成熱 (ΔfHo) は−1,219kJ/molです。
炭酸バリウムのその他情報
1. 炭酸バリウムの合成法
炭酸バリウムは、水酸化バリウム水溶液に二酸化炭素を通すと生成します。バリウム塩水溶液に炭酸アルカリを加えても、沈殿物として炭酸バリウムを得ることが可能です。
工業的には、重晶石を600~800℃で炭素還元し、生成した硫化バリウムの熱水溶液に、二酸化炭素を通すことによって製造しています。
2. 炭酸バリウムの危険性
炭酸バリウムは塩酸に溶けて、バリウムイオンを有する水溶液となります。したがって、X線撮影の造影剤として誤って硫酸バリウムを使用すると、塩酸を含んでいる胃酸に溶けるため、有毒なバリウムイオンを生成して危険です。このような理由から、炭酸バリウムを含む天然鉱物に毒重石という名称が付けられました。
ウィリアム・ウィザリング (英: William Withering) は、化学的に毒重石と重晶石が違うことを発見しました。重晶石とは硫酸塩鉱物の1種であり、化学組成は硫酸バリウム (BaSO4) です。硫酸カルシウムを含んだ水によって、毒重石は硫酸バリウムに変化するため、結晶の表面が重晶石で覆われている場合がよくあります。