硫化水素

硫化水素とは

硫化水素とは、硫黄と水素からなる無機化合物で腐卵臭をもつ無色の気体です。

別名、スルファン、硫化二水素などとも呼ばれます。高濃度では嗅覚が麻痺するため、特有な腐卵臭は硫化水素が低濃度の場合にのみ感じられます。悪臭防止法の特定悪臭物質の1つです。

分析試験、金属の精製、肥料や、医薬品の製造、蛍光体など幅広く使用されています。

硫化水素の使用用途

硫化水素は、主に分子内に硫黄 (S) をもつ化学物質の製造工程で広く使用されています。例えば、メチルメルカプタン (CH3SH) 、エチルメルカプタン (C2H5SH) 、メルカプト酢酸 (HS-CH2-COOH) などの硫黄を含む有機化合物の合成です。

硫化水素を重金属塩の水溶液に通すと、有色の硫化物の沈殿を生じることから、金属イオンの定性分析の試薬としての用途もあります。また、有機合成の際に、還元剤として使用されます。

そのほか、化学分析の核磁気共鳴分析 (NMR) などで使用される重水 (D2O) を通常の水から分離する用途もあります。

硫化水素の性質

硫化水素の化学式はH2Sで分子量は34.082で、常温で無色の気体で空気に対する比重は1.1905です。融点は-85.5℃、沸点は-60.7℃、発火点は260℃、可燃性で引火性のある気体で、加熱すると約400℃で分解し始め、水素と硫黄に分かれます。

水にはよく溶け、弱酸性の水溶液になります。硫化水素の水溶液は、不安定な性質をもち、酸化すると硫黄を析出して白く濁ります。硫化水素は、天然にも存在し、火山ガスや温泉、鉱泉、原油、天然ガス等の中に含まれるほか、下水処理場、ごみ処理場でも硫黄が嫌気性細菌によって還元され、硫化水素が発生します。

動物や植物のタンパク質の腐敗によっても発生します。また、飲食店の厨房排水が流れ込む分離槽や溜め枡内で、水が滞留する場所があると発生します。さらに、糞や屁にも若干の硫化水素が含まれ、口臭にも関係しています。

硫化水素を空気中で点火すると、青色の炎を出して燃え、二酸化硫黄 (亜硫酸ガス) と水を生じます。(2H2S + 3O2 → 2SO2 + 2H2O)

硫化水素の特徴

1. 硫化水素の製造方法

硫化水素は、工業的には天然ガス、石油精製、工業排気ガス等から得られます。また、硫黄とメタンを高温で反応させることで、硫化水素と二硫化炭素が生成されます。他にも硫黄と水素の反応でも硫化水素を得ることができます。

排ガス等からの分離
硫化水素を含む酸性ガスを、アルカリ性の水溶液に吸収させます。アミン系水溶液などが吸収液に用いられます。吸収した後に、再加熱を行うことで硫化水素の高濃度ガスが得られます。

二硫化炭素製造工程での副生
原料のメタンガスと硫黄を反応炉で反応させると、二硫化炭素と硫化水素の混合気体が生成されます。この反応は、高い反応率で生成物の二硫化炭素と硫化水素が得られます。その後、蒸留装置によって、二硫化炭素と硫化水素を分離します。

  CH4 + 4S → CS2 + 2H2S

硫黄と水素の反応
単体の硫黄に水素を添加し、触媒存在下で加熱反応させることで、高純度の硫化水素を得ることができます。

  S + H2 → H2S

2. 硫化水素の危険性

硫化水素は、可燃性や引火性が非常に高く、消防面での危険性が高いだけではなく、中枢神経系や呼吸器系等に障害をもたらすなど、強い毒性をもつため、取り扱いには注意が必要です。労働安全衛生法の特定化学物質の第二類物質に指定されています。

硫化水素は高濃度で吸入すると、即死するほどの猛毒です。腐卵臭が硫化水素の特徴ですが、20ppmを超えると嗅覚が麻痺して臭いを感じなくなるため、臭いで濃度確認はできません。この濃度のガスを吸入すると気管支炎、肺炎、肺水腫を起こす可能性があります。

また、100ppmの蒸気を長時間にわたって吸い続けると、生命を落とす可能性が出てきます。700ppmでは脳神経に作用して、意識障害、呼吸麻痺、死亡の可能性、5,000ppmを超えると即死の可能性が出てきます。

硫化水素のその他情報

上記で述べたように、硫化水素は非常に毒性の高いガスのため、取り扱いには細心の注意が必要です。高濃度の硫化水素を吸入すると、呼吸困難、意識喪失、さらには死亡に至る可能性があります。取扱時には下記の点に注意してください。

1. 換気

硫化水素を取り扱う作業を行う際には、十分な換気が必要です。

2. 防護具

硫化水素ガスを漏らさないように、防護服、マスク、手袋などを着用する必要があります。

3. 検知器

硫化水素ガスを検知する装置を設置し、万が一漏洩した場合に備える必要があります。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/7783-06-4.html

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です