硝酸鉄

硝酸鉄とは

硝酸鉄 (英: Iron nitrate) とは、組成式をFe(NO3)3、またはFe(NO3)2で表せる無機化合物です。

鉄の硝酸塩で、2価および3価が主となっています。一般に、2価の硝酸鉄よりも3価の硝酸鉄の方が安定であり、より多く製造されています。

硝酸鉄の使用用途

1. 硝酸鉄 (Ⅲ) 

硝酸鉄 (Ⅲ) は、基本的に硝酸イオンまたは鉄 (Ⅲ) イオンを利用する場合に使用されることが多いです。一般的な無機物は、水には溶けやすいですが、アルコールなどの有機溶媒には溶けにくいことが多くあります。それに対して、硝酸鉄 (Ⅲ) はアルコールに溶けやすいため、有機化合物の反応でも利用可能です。

鉄イオンは、他の重金属イオンのように金属触媒を合成する際の出発物質に用いられることがあります。また、硝酸イオンはベンゼン環のニトロ化反応など、有機化合物の反応で用いられるほか、無機化合物同士の反応でも酸化剤として使用されることがある使用頻度が高い試薬です。

その他、染料を用いる際の媒染剤、絹の増量剤、なめし剤、さまざまな分析試薬にも用いられます。

2. 硝酸鉄 (Ⅱ) 

硝酸鉄 (Ⅱ) の六水和物は、不安定であり、示す性質も硝酸鉄 (Ⅲ) と同じような性質が多いため、使用されることは少ないです。硝酸鉄 (Ⅲ) を製造する際の副生成物としての意味合いが強くなっています。

しかし、加熱すると一酸化窒素を発し、Fe (+3) を含む水酸化物塩が沈殿するため、そこから硝酸鉄 (Ⅲ) を製造することは可能です。

硝酸鉄の性質

1. 硝酸鉄 (Ⅲ)

硝酸鉄 (Ⅲ) は、分子量が241.86g/mol、融点が47.2℃、比重が1.68で、常温常圧では薄紫色の固体の状態で存在しますが、125℃で分解してしまいます。CAS番号は、10421-48-4です。水にかなり溶けやすく、アルコールやエーテルにも溶けます。

通常水分子が9個配位した九水和物の状態で存在しています。九水和物も非常に水やエタノールに溶けやすく、また潮解性が高いため、固体を空気中に放置すると水分を吸収して、褐色の液体に変化することが特徴です。

九水和物を加熱すると分解して硝酸を発生させるほか、さらに赤熱すると酸化鉄Fe2O3に変化します。

2. 硝酸鉄 (Ⅱ)

硝酸鉄 (Ⅱ) は、結晶状態では主に六水和物として存在しており、無水物は知られていません。六水和物の分子量は287.95g/mol、融点が60.5℃、CAS番号は14013-86-6、常温常圧では緑の固体の状態で存在します。水への溶解度は非常に高く、溶けやすいです。

また、水溶液は酸性を示し、-12℃以下に降温することで九水和物を析出させることができます。

硝酸鉄のその他情報

1. 硝酸鉄 (Ⅲ) の製造法

硝酸鉄 (Ⅲ) は、金属鉄を20~30%の硝酸に溶かして製造します。析出時の溶液や酸の濃度の違いにより、六水和物または九水和物になります。また、出来上がった結晶が斜方晶系なら無色、単斜晶系は淡紫色のなることが特徴です。

六水和物は、九水和物を発煙硝酸に飽和させて五酸化二窒素を作用させる方法や、融解させた九水和物に無水硝酸を加える方法で得られます。物理的な性質は、九水和物と類似しています。

2. 硝酸鉄 (Ⅱ) の製造法

硝酸鉄 (Ⅱ) は、硫酸鉄 (Ⅱ) と硝酸 (Ⅱ) または硝酸バリウムとの間の複分解を利用して製造します。また、硝酸鉄 (Ⅲ) 溶液を銀で還元する方法もあります。

水溶液から析出させると、通常淡緑色の六水和物となります。湿った状態では安定ですが、乾燥状態では暗赤色の鉄 (Ⅲ) 水酸化物塩に変わります。

3. 硝酸鉄の危険性

2価のものと3価のものはともに酸化性や刺激性を持っているため、取り扱う際にはゴム手袋や保護メガネ、白衣を着用する必要があります。また、硝酸鉄 (Ⅱ) は空気に対して不安定です。

飽和溶液状態で保存すると壊れることはありませんが、空気中に放置しないよう注意が必要です。

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