硝酸

硝酸とは

硝酸とは、化学式HNO3で表される、代表的な強酸のひとつです。

硝酸は劇薬で、皮膚・口・食道・胃などを侵します。また、発煙した硝酸を吸入するだけでも、気管を侵し、肺炎となる恐れがあります。そのため、硝酸の取り扱いには、十分な注意が必要です。

硝酸の使用用途

硝酸は、農業、建設、軍事、工業、繊維、化学、医薬品などの多くの分野で使用されます。以下にいくつかの一般的な使用例を挙げます。

1. 肥料用原料

植物、作物育成のための肥料の3大要素として、窒素、りん酸、カリがあります。このうちの窒素の供給源として硝酸を原料とする肥料が用いられています。

2. 火薬原料

ニトログリセリン、ニトロセルロース、トリニトロトルエン (TNT) 、ピクリン酸など、建設現場や軍事用途に用いられる火薬の原料となるニトロ化合物の合成にも使用されています。また、濃硝酸は、アミン類と急激に反応分解するため、ロケット推進薬の酸化剤として用いられています。

3. その他

セルロイド、染料 (アゾ染料・アニリン染料等) 、顔料、電気メッキ、金属溶解用、医薬品、化学繊維や、ポリウレタンの主原料であるトルエンジイソシアネート、アジピン酸などの製造原料としても使用されています。 

硝酸の性質

硝酸は分子量が63.02、比重が1.502の無色の液体です。融点は-42℃、沸点が86℃ (98%濃硝酸) 、121℃ (68%希硝酸)で、水に易溶、エーテル、アルコールに可溶です。淡黄色で特異臭があり、空気に触れると発煙するという特徴があります。強酸なので塩基とは特に激しく反応します。また硝酸は、光に当たることによって分解がおこります

硝酸は、酸化力が強く、金、白金以外のほとんどの金属を腐食しますが、鉄・クロムアルミニウム等は不動態をつくるため、硝酸に溶けません。

加熱すると分解し、有毒なヒュームを発生させます。強力な酸化剤で、可燃性または還元性の物質と激しく反応します。また多くの一般的な有機化合物、アセトン酢酸無水酢酸などと激しく反応し、爆発や火災の危険をもたらします。

硝酸のその他情報

硝酸の製造方法

硝酸の工業的な製造方法としては、硝石を硫酸により分解する方法、空気中の窒素を固定化する方法、アンモニアを酸化する方法の3つがあります。一般的には、最後のアンモニア酸化法 (オストワルト法) によって製造されています。

オストワルト法は大きく分けて、アンモニア (NH3) の酸化による一酸化窒素 (NO) の生成、一酸化窒素の酸化による二酸化窒素 (NO2)の生成、二酸化窒素の水への吸収の3工程からなります。以下にそれぞれについて説明します。

1.  アンモニア (NH3) の酸化
アンモニアと圧縮空気を混合した混合ガスを、白金ロジウム触媒に通すことで、アンモニアが酸化されて一酸化窒素が生成します。この反応は発熱反応で反応速度も大きく、副反応も起こりますが、主反応が90%以上の高い収率で進むことで一酸化窒素が得られます。

主反応  4NH3 + 5O2 → 4NO + 6H2O
副反応  4NH3 +3O2 → 2N2 + 6H2O

2. 一酸化窒素 (NO) の酸化
1段階目のアンモニアの酸化で得られた一酸化窒素と過剰の酸素を含む反応ガスを冷却することで一酸化窒素の酸化を行います。この酸化反応は温度が低いほど進行する特異な反応で、冷却の際の排熱は工場内で有効活用されます。

  2NO + O2 → 2NO2

3. 二酸化窒素の水への吸収
2段階目の反応で生成した二酸化窒素ガスを水に吸収させることで、硝酸 (HNO3) を生成します。この反応は発熱反応であることから、温度を下げることで反応が硝酸生成側に進みます。この方法で得られる硝酸濃度は、通常55~68%程であり、希硝酸と呼ばれます。

  3NO2 + H2O → 2HNO3 +NO

濃度が68%以上の濃硝酸を作るため、加熱によって水を除去して濃縮することが考えられますが、水の蒸発と並行して硝酸も蒸発していく共沸という現象により、この方法では68%以上に濃度が上げられません。このため、濃硝酸を作るためには水を吸収する脱水剤を添加して水だけを除くといったような方法がとられます。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/7697-37-2.html

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