酸化バリウム

酸化バリウムとは

酸化バリウム (英: Barium Oxide) とは、化学式BaOで表記されるバリウムが酸化した無機化合物です。

酸化バリウムの結晶構造は立方晶系で、塩化ナトリウム型の構造を成します。酸化バリウムは粉末または塊で、白色~うすい灰褐色をしており、吸湿性を持っているほか希塩酸に溶けます。分子量は153.33、CAS登録番号は1304-28-5です。毒劇法では「劇物・包装等級3」、安衛法では「名称等を通知 (あるいは表示) すべき危険物および有害物」、危規則や航空法では「毒物類・毒物」、に指定されています。

酸化バリウムの使用用途

酸化バリウムはガラスの原料として広く利用されており、バリウム塩 (塩化バリウム、硫酸バリウム、硝酸バリウムなど) やセラミックスの製造にも使われます。その化学的安定性から、塗料だけでなく、プラスチックや化粧品といった分野でも活用されています。特に硫酸バリウムは、X線検査の造影剤として利用されており、安全に使用できる材料です。

また、IT分野・電子部品で幅広く応用されている炭酸バリウムの製造でも重要な役割を果たしています。合成化学においては強塩基として機能し、触媒として使われています。例えば、石油化学プロセスでの中和反応やアルカリ条件を必要とする反応です。また、吸湿性により、乾燥剤として用いられています。

酸化バリウムの性質

酸化バリウムは非常に高い融点と沸点を持っています。具体的には、融点が1,920℃、沸点が2,000℃です。この高温に耐える特性は、特定の工業プロセスや材料科学において重要な役割を果たします。水と反応すると水酸化バリウムが生成されますが、この反応は激しく多くの熱を発するのが特徴です。

また、他の水溶性のバリウム化合物と同様に毒性を持ちます。水に溶けることで、バリウムイオンが生成され、これが人体に有害となるため、取り扱いには注意が必要です。酸化バリウムは腐食性もあり、皮膚や粘膜に触れると刺激や損傷を引き起こす可能性があります。空気中や酸素中で酸化バリウムを加熱すると、過酸化バリウムを生成しますが、約800℃以上の高温になると分解し、再び酸化バリウムに戻ります。つまり、特定の条件下で酸化と還元反応を繰り返すことが可能です。

酸化バリウムの構造

酸化バリウムは、立方晶系に属する塩化ナトリウム型構造を持つ化合物です。この構造において、各バリウムイオン (Ba²⁺) と酸化物イオン (O²⁻) は交互に配置され、面の中央にもイオンが存在する面心立方格子となっています。三次元空間において等方的な対称性があるのが特徴です。配位数については、各バリウムイオンは6個の酸化物イオンに囲まれており、各酸化物イオンも同様に6個のバリウムイオンに囲まれています。これにより、バランスの取れた安定した構造が形成されます。

酸化バリウムのその他情報

酸化バリウムは、酸素が存在する環境で金属バリウムを燃焼して生成されます。また、水酸化バリウムや炭酸バリウムなどを熱分解することでも生成可能です。しかし、これらの分解反応は、アルカリ土類金属の水酸化物や炭酸塩の中でも最も高温を必要とします (二酸化炭素の分圧が1気圧のときに炭酸バリウムを分解する温度は1,450℃、水蒸気圧が1気圧のときに水酸化バリウムを分解する温度は998℃) 。また、空気中でバリウムが徐々に酸化されると、白色の酸化バリウムを生成します。

酸化バリウムを水に溶解させると、水酸化バリウムが生成します。ただし、この水和反応は、生石灰の消和よりも激しいため危険ですので注意してください。得られたものを再結晶すると、水酸化バリウムの8水和物が生成します。これを空気中で加熱すると水酸化バリウムの1水和物になり、減圧下で100℃に加熱すると水酸化バリウムの無水物が得られ、分析化学で弱酸や有機酸の滴定に用いられています。酸化バリウムに酸素を吸収させると、過酸化バリウムを生成することが可能です。これは可逆反応なので、加熱によって酸化バリウムと酸素に分解します。

参考文献
https://www.nite.go.jp/chem/chrip/chrip_search/dt/html/GI_10_001/GI_10_001_1304-28-5.html

酸化ニッケル

酸化ニッケルとは

酸化ニッケルは、ニッケルと酸素無機を結合させた化合物の総称です。

ニッケルは様々な酸化数をとり、それに応じて多種多様な酸化ニッケルが存在します。酸化ニッケル (II)  (化学式:NiO) や酸化ニッケル (III)  (化学式:Ni2O3) はその代表例で、通常は緑色または灰色の粉末として存在し、それぞれ異なる性質や用途があります。

またその特性により、触媒、顔料、電子材料など幅広い分野で利用され、セラミックスの着色剤やニッケル水素電池の正極材料としても重要な役割を果たしています。

酸化ニッケルの使用用途

酸化ニッケルは、その特性を活かして多岐にわたる分野で利用されています。

1. 着色剤

鮮やかな緑色を呈するためガラスや陶磁器の着色剤として古くから使われており、とくにニッケルグリーンと呼ばれる緑色の顔料が有名です。

2. 触媒

ニッケルの高い活性ゆえに、油脂や水素添加反応において触媒として重要な役割を果たします。その理由は、水素によって酸化ニッケルが還元されて生成される、微粒子状のニッケルが触媒作用に優れているためです。例えばニッケル水素電池の正極材料や、水素の吸蔵・放出反応を促進する触媒として利用されています。

3. 電子材料

電気伝導性や磁気特性を持つことから、電子管・特殊鋼の添加剤としての利用以外に、サーミスタ・P型半導体・フェライトなどの電子材料と最適です。例えば抵抗器やセンサーなどの電子部品の材料として用いられ、透明導電膜の研究も進められています。

くわえて反強磁性体としての性質を持つことから、磁気記録媒体などの磁性材料としても利用されており、その他にも、燃料電池の電極材料やメッキ液の添加剤など様々な用途で活躍しています。

酸化ニッケルの性質

酸化ニッケル (NiO) は、化学的および物理的性質にていくつかの重要な特徴を持つ化合物です。

1. 基本構造

分子量は74.69、融点は1,960℃、密度は6.67g/cm3で、室温では反強磁性を示し、1.3BMほどの磁気モーメントを持っています。通常は緑色または灰色の粉末として存在し、その色はNi2+イオンが可視光を吸収することで生じますが、粒径や製造方法によって色合いが変化し、高温で焼成すると黒色を帯びることもあります。結晶構造は塩化ナトリウム型で、Ni2+イオンと O2-イオンが交互に配置した立方晶系です。

2. 化学的性質

化学的に安定な塩基性酸化物です。酸に溶けると緑色の水和ニッケルイオンを生じますが、水にはほとんど溶けません。ただし、加熱によって結晶化した酸化ニッケルは酸に溶けにくく、特定の条件下では金属酸化物と反応して複合酸化物を形成します。また、アルカリ水溶液にはほとんど溶けませんが、アンモニア水には徐々に溶け、淡い青紫色のアンミン錯体を生成します。

3. 物理的性質

物理的性質として、電気伝導性や磁気特性を有します。純粋な酸化ニッケルは絶縁体ですが、不純物や酸素欠損を導入すると、半導体的な性質を示す、反強磁性体です。

ただし、人体に対して毒性を持つことが知られており、粉末を吸入すると呼吸器系に炎症を引き起こしたり、皮膚に接触するとアレルギー反応を引き起こすこともあるため、取り扱いには注意が必要です。

4. 国内法規上の指定

酸化ニッケルのCAS登録番号は1313-99-1です。国内法規上、労働安全衛生法では「名称等を表示すべき危険物および有害物」「名称等を通知すべき危険物および有害物」「特定化学物質第2類物質」、「作業環境評価基準」(法第65条の2第1項)の指定を受けています。

また、化学物質排出把握管理促進法では「特定第1種指定化学物質・特定第1種-No. 309」、水質汚濁防止法 (水濁法) では「指定物質」、大気汚染防止法では「有害大気汚染物質 (優先取組物質)」に指定されてます。そのため、取り扱いには十分な注意が必要です。

酸化ニッケルの構造

酸化ニッケル (II) は、塩化ナトリウム (NaCl) 型の結晶構造ですが、NiとOの比が1:1ではない不定比化合物となることもあります。この構造は、Ni2+イオンとO2-イオンが交互に配置された立方晶系であり、Ni2+イオンは6つのO2-イオンに囲まれた正八面体形の間隙に位置し、O2-イオンも同様に6つのNi2+イオンに囲まれた正八面体形の間隙に位置しています。

Ni2+イオンのイオン半径は0.069nm、O2-イオンのイオン半径は0.140nmであり、O2-イオンの方が大きく、このイオン半径の差が、塩化ナトリウム型構造を安定化させる要因の一つです。単位格子は立方体で、各頂点にO2-イオン、各辺の中央にNi2+イオン、中心にO2-イオンが位置し、単位格子の一辺の長さ (格子定数) は、約0.417nmです。

酸化ニッケルのその他情報

1. 酸化ニッケル (II) の合成方法

最も一般的な酸化ニッケルであり、様々な方法で合成することができます。

水酸化ニッケル (II)  (Ni(OH)2) 、硝酸ニッケル (II)  (Ni(NO3)2) 、炭酸ニッケル (II)  (NiCO3) などのニッケル (II) 化合物を高温で熱分解することで生成可能です。また、金属ニッケルを高温で酸素と反応させても生成でき、純度の高い酸化ニッケル (II) を得られます。その他、水熱法やゾルゲル法などの合成方法もあります。

2. 酸化ニッケル (III) について

酸化ニッケル (II) よりも酸化数が高く、化学式はNi2O3です。
硝酸ニッケル (Ⅱ) を酸素雰囲気下で高温に加熱したりオゾンと反応させたりして合成でき、灰黒色の粉末で、アルカリ蓄電池などに使われます。

ただし酸化ニッケル (III) は、不定比の酸化ニッケル (II) とも考えられており、文献には記されているものの明確に確認されていない化合物です。一方、ニッケルが表面に微量に存在する、もしくはニッケルの酸化の中間体であるという文献もあります。

3. 酸化ニッケル (Ⅳ) について

さらに酸化数の高いニッケル酸化物で、化学式はNiO2です。二酸化ニッケルや過酸化ニッケルとも呼ばれ、酸化剤として使用される緑灰色の粉末です。

酸素が酸化ニッケル (Ⅱ) に吸着したもので、アルカリ性溶液中で水酸化ニッケルを次亜塩素酸塩や過マンガン酸カリウムなどの強力な酸化剤を用いて酸化すると得られます。

参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0114-0536JGHEJP.pdf
https://www.nite.go.jp/chem/chrip/chrip_search/dt/html/GI_10_001/GI_10_001_1313-99-1.html

酸化ナトリウム

酸化ナトリウムとは

酸化ナトリウムとは、ナトリウムと適量の酸素を混ぜて、化学反応させることで生成する化合物です。

通常の状態では酸化ナトリウムは、白色結晶の状態で存在しています。水によく溶け、溶解後は水酸化ナトリウムに変化します。酸化ナトリウムは水に触れると激しく反応するため、保管や取り扱いには注意が必要です。

一般的に酸化ナトリウムは、水と反応後の水酸化ナトリウムの状態で使用されることが多く、主な国内法規については、毒劇法において、劇物に指定されています。

酸化ナトリウムの使用用途

酸化ナトリウムは通常、水と反応させた水酸化ナトリウムの状態で使用されることが多いです。水酸化ナトリウムは、苛性ナトリウムとも呼ばれ、化学繊維、紙、パルプ、化学薬品、食品工業、石鹸など幅広い用途に使用されています。

その他にも、酸化ナトリウムは二酸化炭素を吸収して炭酸ナトリウムに変化したり、空気中で加熱することで過酸化ナトリウムに変化します。酸化ナトリウム単体の状態では、様々な化合物の材料として使用される場合が多いです。

酸化ナトリウムの性質

酸化ナトリウムの融点は1,132℃で、分解する温度は1,950℃です。400℃以上に加熱すると、酸化ナトリウムは分解して過酸化ナトリウム (Na2O2) とナトリウム (Na) になります。

岩石の風化作用の際には、大気中の二酸化炭素が水に溶けることで、岩石中に含まれている長石中の酸化ナトリウムが反応し、炭酸水素ナトリウムに変わります。また、酸化ナトリウムは、二酸化炭素を吸収すると炭酸ナトリウムになります。

酸化ナトリウムは吸湿性です。そのため、酸化ナトリウムを水へ溶かすと、水と激しく化学反応して、水酸化ナトリウムに変わります。酸化ナトリウムを空気中で加熱した場合には、過酸化ナトリウムになります。

酸化ナトリウムの構造

酸化ナトリウムは、ナトリウムの酸化物である無機化合物です。酸化ナトリウムの化学式はNa2O、モル質量は61.979で、密度は2.27g/cm3です。

酸化ナトリウムの結晶は、立方晶系に属する白色結晶です。逆蛍石型構造であり、フッ化カルシウムにおけるフッ化物イオンの位置にナトリウムイオンが、カルシウムイオンの位置に酸化物イオンが、それぞれ配置しています。また酸化ナトリウムの格子定数は、a = 5.55Åです。

酸化ナトリウムのその他情報

1. 酸化ナトリウムの生成

酸化ナトリウムは、適量の酸素とナトリウムを混ぜて、化学反応によって生成可能です。過剰の空気中でナトリウムを加熱した場合には、酸化ナトリウムだけでなく、約20%の過酸化ナトリウムも生成します。

比較的純度が良い酸化ナトリウムを得るためには、300℃でナトリウムと水酸化ナトリウムを化学反応させて、未反応のナトリウムを蒸留を用いて取り除くことで得ることが可能です。

さらに、液体のナトリウムと硝酸ナトリウムの化学反応によっても、窒素とともに酸化ナトリウムが生成します。

2. 他のナトリウム酸化物

ナトリウムの酸化物の組成には、酸化ナトリウム (Na2O) 以外にも、過酸化物イオン (O22- を含む過酸化ナトリウム (Na2O2) や超酸化ナトリウム (NaO2) があります。

例えば、過酸化ナトリウム (Na2O2 は、過酸化ソーダとも呼ばれ、黄白色の粒状または粉末状の物質です。過酸化ナトリウムは酸化力が強く、水と激しく反応することで、過酸化水素と水酸化ナトリウムに分解します。そのため、過酸化ナトリウムは、過酸化水素の製造原料でもあります。

それに対して、超酸化ナトリウム (NaO2) は、ナトリウムの超酸化物です。過酸化ナトリウムと酸素を高温高圧下で反応することで得られます。もしくは、ナトリウムのアンモニア溶液と酸素の反応によっても、超酸化ナトリウムを得ることが可能です。

超酸化ナトリウムは容易に加水分解して、過酸化ナトリウムと水酸化ナトリウムの混合物になります。

参考文献

https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/1310-73-2.html

酸化タンタル

酸化タンタルとは

酸化タンタルとは、化学式がTa2O5であらわされる無機化合物です。

白色からほぼ白色をした粉末ないしは塊の構造物です。酸化タンタルの分子量は441.89であり、水には難溶性です。溶解温度は1470℃と高温であり、1314-61-0 がCAS登録番号です。

国内法規上の適用は安全衛生法内で、「名称等を通知すべき危険物および有害物」および「名称等を表示すべき危険物および有害物」として規定されています。同法施行令第18条の2別表第9でNo. 338の指定があります。

酸化タンタルの使用用途

酸化タンタルは、優れた屈折率特性を有する為、光学系レンズの原料に用いられています。また光学素子の薄膜コーティングの原料としても使われています。応用事例は、パソコンの反射防止膜や自動車のガラスコーティング向けなどの需要があります。

さらに、酸化タンタルを、電解コンデンサの誘電体の箇所に用いた、タンタルコンデンサもエレクトロニクスの分野で広く用いられています。また酸化タンタルは、半導体デバイスの優れた絶縁層膜の物性材料としてもそのウエハプロセスにおいて、非常に重宝されています。

酸化タンタルの性質

酸化タンタルは、その材料物性上高い屈折率を有します。化学的不活性であるため吸収は低い特徴があります。溶媒には溶けませんが、強塩基やフッ化水素酸や強塩基ではダメージを受けて、腐食されます。例えば、HClやHBrなどに対しても不活性です。しかしながら、フッ化水素酸には溶けます。また酸化タンタルは、HFやフッ化水素カリウムとHFとは活性化し反応します。

酸化タンタルの構造

酸化タンタルの物質の材料は、アモルファスや多結晶状態の構造体です。酸化タンタル自体は五酸化タンタルや酸化タンタル (V)という名称で呼ばれています。

単結晶の成長は困難です。酸化タンタルに関する結晶構造データは、X線結晶学の粉末回折などに限定されています。結晶の密度情報としては、β-Ta2O5の密度は8.18g/cm3であり、α-Ta2O5の密度は8.37g/cm3です。

酸化タンタルは、エレクトロニクス分野で広く用いられています。具体的には、半導体ウエハや電子回路のコンデンサ、工学系のフィルタなどです。この用途の多くの場合には薄膜の形で使用されています。これらの用途では、揮発性のハロゲン化物とアルコキシドの加水分解を含む、有機金属気相成長法 (MOCVD) またはその関連技術によって合成可能です。

酸化タンタルのその他情報

1. 酸化タンタルの源泉

タンタルは、火成岩から生成する鉱物のタンタル石として生じます。これらの石が混ざったものは、コルタンという名称で呼ばれています。タンタル石はスウェーデンやフィンランドで発見されました。

メジャーな鉱石としては、マイクロ石には約70%、パイロクロアには10%のタンタルが含まれています。自然界の純粋な酸化タンタルは、鉱物タンタイトとして有名ですが、非常に希少です。

2. 酸化タンタルの精製

酸化タンタルは次のような手順を経て、精製されています。

1. 浸出段階
まずは浸出段階ですタンタルの鉱石には、大量のニオブが含まれていることも多いです。ニオブも有価金属であり、ともに抽出されて、両方の金属が販売されています。浸出の段階においては、鉱石がフッ化水素酸と硫酸で処理されます。この過程で、水溶性のフッ化水素であるへプタフルオロタンタル酸塩などが生成され、所望の金属物質を分離することができます。

2. 抽出段階
次に抽出段階です。タンタルやニオブのフッ化水素は、メチルイソブチルケトンシクロヘキサンなどの有機溶媒を用いた液抽出によって、水溶液から取り除かれます。ここで水相にある、鉄やマンガンや鉄類などの金属不純物を、容易に取り除くことができます。

3. pH調整
その後はpH調整によって、タンタルとニオブを分離できます。酸性度合を下げて、酸性度が低い水に抽出することで、タンタルを選んで取り除くことが可能です。

4. 焼成段階
最後に焼成段階です。アンモニア水でフッ化水素タンタル溶液中和することにより。所望の水和タンタル酸化物が生成可能です。この水和タンタル酸化物を焼成して、酸化タンタルを取り出します。

参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0120-0934JGHEJP.pdf
https://www.nite.go.jp/chem/chrip/chrip_search/dt/html/GI_10_001/GI_10_001_1314-61-0.html

酸化タングステン

酸化タングステンとは

酸化タングステン (英: tungsten oxide) は、タングステンと酸素からなる金属酸化物です。

酸化数の異なる複数の酸化物が存在し、最も安定な化合物は酸化タングステン(VI)  (化学式:WO3) で、三酸化タングステンとも呼ばれます。CAS番号は1314-35-8、淡黄色の粉末です。

酸化タングステンの使用用途

酸化タングステン (Ⅵ) は、その物理的、化学的性質を利用して、さまざまな産業で利用されています。

1. 電子デバイス

酸化タングステン (Ⅵ) のエレクトロクロミック性を利用することで、高い断熱効果を持つ膜の製造が可能となり、車や建物のスマートウィンドウに使用されています。電圧によって光の透過率を調整できるため、エネルギー効率の向上に貢献します。

2. 触媒材料

化学反応の触媒として使用され、環境浄化や有機合成において固体酸触媒として重要な役割を担います。また、可視光応答型の光触媒として有機物の分解や水素生成の研究対象となっており、環境浄化やエネルギー生成の分野で活用されています。

3. 光学材料

酸化タングステン (Ⅵ) は、その着色特性を活かし陶磁器やガラス製造の分野で塗料や顔料として使用されています。特に、黄色の着色剤として広く用いられ、耐久性や色の安定性が求められる製品に適した物質です。また、蛍光特性や高いX線吸収性を利用して、X線スクリーンの蛍光材料としても応用されています。

4. ガスセンサー

水素、一酸化炭素、アセトンなどの検出に用いられるガスセンサー材料として使用されます。半導体特性を持ち、表面でのガス分子との反応により電気抵抗が変化する性質を利用し、高感度にガスを検出します。

酸化タングステンの性質

1. 物理的性質

モル質量は231.84 g/mol、密度は約7.16 g/cm³、融点は1,473℃、沸点は約1,750 ℃です。結晶構造は温度によって変化し、17 ℃から330 ℃では単斜晶系、330 ℃から740℃では斜方晶系、740 ℃以上では正方晶系となります。特定の条件下では、斜方晶系や立方晶系をとることもあります。常温では安定ですが、700 ℃以上で酸化が始まり、1,400 ℃以上では顕著な昇華が起こります。水や酸には溶けませんが、フッ化水素 (HF) には溶解します。

2. 化学的性質

酸化タングステン (Ⅵ) は、空気中や水溶液中では安定した性質を示し、アルカリ性溶液やアンモニア水に溶解してタングステン酸塩を生成します。水素気流中で加熱すると酸化タングステン (IV)  (WO2) に還元されます。有機化合物と高い反応性を示す強い酸化剤である他、太陽光を利用して化学反応を促進する光触媒としても機能します。また、広く研究されているエレクトロクロミック材料の一つであり、電圧をかけることで透明から不透明に変化します。

酸化タングステンの種類

タングステンの酸化数により、酸化タングステン (Ⅵ) (WO3) 以外にもさまざまな形態の酸化タングステンが存在します。酸化タングステン (Ⅵ) 以外の主な化合物は以下の3種類です。

1. 青色酸化タングステン (WO2.9

青色の粉末で、特に国際的な需要に応じて生産されています。青色酸化タングステンは、タングステン粉末やタングステンカーバイドの製造において、黄色酸化タングステンよりも優れた特性を持ちます。

2. 紫色酸化タングステン (WO2.72

紫色または紫赤色の微細結晶性粉末で、化学的活性が高く、超微細タングステン粉末の製造に適しています。ナノメートルサイズのタングステン粉末の需要拡大に伴い、市場での需要も増加しています。

3. 褐色酸化タングステン (WO2

褐色の粉末で、主にタングステン粉末やタングステン三酸化物の中間体として使用されます。工業生産では一般的ではありませんが、特定の用途において重要な役割を果たし、触媒やセラミック添加剤としての利用が注目されています。

酸化タングステンのその他情報

1. 酸化タングステンの安全性

酸化タングステン (Ⅵ) の取り扱いには十分な注意が必要です。取り扱い時には最新の安全データシート (SDS) を参照し、適切な安全対策を講じてください。

2. 健康影響

眼に重篤な損傷を引き起こす可能性があるため、保護具の着用が必要です。粉じんやミストの吸入は避けてください。

急性毒性 (ラット経口LD50) は840 mg/kgで、GHS区分4に該当します。皮膚刺激性や眼への損傷性については十分なデータがないため、慎重に取り扱う必要があります。

3. 火災時のリスク

加熱により腐食性や毒性の煙を発生する可能性があります。

4. 取り扱い対策

局所排気装置や全体換気設備を使用してください。また、作業後は手を洗浄してください。

5. 漏洩時の対応

漏洩物は回収し、適切に廃棄してください。

参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0120-0346JGHEJP.pdf
https://www.chem-info.nite.go.jp/chem/chrip/chrip_search/cmpInfDsp?cid=C004-952-54A
https://www.kojundo.co.jp/dcms_media/other/WWO02PAG.pdf
https://www.chem-info.nite.go.jp/chem/chrip/chrip_search/cmpInfDsp?cid=C004-952-43A

酸化セリウム

酸化セリウムとは

酸化セリウム (英: cerium oxide) は、希土類元素のセリウムと酸素からなる金属酸化物です。

酸化セリウムには酸化数が異なる形態が存在しますが、通常は酸化セリウム (IV) を指します。酸化セリウムの化学式はCeO2、CAS番号は1306-38-3で、淡黄色または灰黄色の粉末です。

酸化セリウムの使用用途

酸化セリウムは、研磨材から触媒まで幅広い産業分野で重要な役割を果たしています。

1. 研磨剤

光学レンズやガラスの研磨剤として広く使用されます。二酸化ケイ素と化学反応を起こし、表面を滑らかにする特徴があります。他の研磨材と比較して最も高い研磨速度を実現できる研磨材です。

2. 触媒

酸化セリウムの酸素吸蔵能によって自動車の排気ガス浄化用三元触媒の浄化性能を改善し、NOXや一酸化炭素を削減して浄化ウインドウを拡大させる触媒として用いられます。また、水素生成や有機物分解の光触媒としても利用されます。

3. 紫外線散乱剤

紫外線防止用ガラスやブラウン管の電子線吸収、化粧品の紫外線遮蔽剤として使用されています。酸化チタンや酸化亜鉛と同等の性能を持つUV遮蔽材料として注目されており、特にUV-AおよびUV-B波長の効果的な遮断が可能です。

4. 燃料電池材料

高いイオン伝導性を持つ材料として、主に固体酸化物形燃料電池 (SOFC) の電解質材料として研究されています。希土類元素をドープすることで、高温域での優れた酸素イオン伝導性を示し、SOFCの性能向上に貢献しています。また、特定の条件下では混合伝導体としての特性も示すため、電極材料としての応用も研究対象です。

5. 電子材料

高屈折率材料として可視光から中赤外領域に透過波長域を持つ光学材料として利用されています。その屈折率は約2.2であり、高屈折率材料の範囲 (1.9〜2.5) に含まれます。また、シリコンとの格子整合性に優れており、半導体デバイスへの応用も可能です。

酸化セリウムは結晶質の膜を形成し、化学的安定性と熱安定性に優れているため、さまざまな光学デバイスや薄膜コーティングに使用されます。さらに、比較的低温で蒸発する特性を持つことから、真空蒸着などの成膜プロセスにも適しています。

酸化セリウムの性質

1. 物理的性質

モル質量は172.11 g/mol、密度は約7.13 g/cm³です。融点は約2,400 ℃、沸点は約3,500 ℃と高温特性に優れています。比較的低温で蒸発する特性もあります。モース硬度は7で、比較的硬い物質です。屈折率は2.2 (550 nm付近) で、可視光から赤外領域に透過波長域を持ちます。

2. 化学的性質

水には不溶、塩酸や硝酸には溶けにくい性質を持ちますが、熱濃硫酸には溶解します。空気中で安定しており、酸化還元反応において重要な役割を果たす他、酸素吸蔵能を持ちつ物質です。500-650 ℃の中間的な温度で高い酸化物イオン伝導性を示し、高温や低酸素分圧下で酸素欠陥を生じます。酸素分圧が低い環境では、セリウムイオンが還元され、導電性を示します。

酸化セリウムの構造

蛍石型 (CaF2型) の結晶構造を持ち、8配位のCe4+、4配位のO2-で構成されています。空間群はFm3m  (#225)  です。酸素分圧や機械的負荷によって格子欠陥を生じますが、特に酸素欠陥とセリウムイオンに局在化した電子による、ポーラロン生成が注目されます。

酸化セリウムは酸素欠陥数の増加に伴いイオン伝導性が増加し、酸化物イオンの拡散速度が上昇するという性質があるため、固体酸化物形燃料電池 (SOFC) の固体電極として期待されています。

酸化セリウムの種類

酸化セリウムには酸化セリウム (Ⅳ) (CeO2) の他に酸化セリウム (III)  (Ce2O3) が存在します。酸化セリウム (III) は空気中で不安定なため容易に酸化されて酸化セリウム (Ⅳ) に変化します。酸化セリウム (III) のCAS番号は1345-13-7、淡青色から紫色の粉末です。主に還元剤として使用され、水には不溶ですが、酸には溶解する性質があります。

酸化セリウムのその他情報

1. 酸化セリウムの安全性

酸化セリウムは、GHS分類において眼に対する重篤な損傷性/刺激性が区分2B (眼刺激) に分類されています。粉じんの吸入により肺に障害を引き起こす可能性があり、長期にわたる、または反復ばく露による臓器 (肺) の障害のおそれがあります (GHS区分2) 。取り扱い時には以下の注意が必要です。

日本では消防法や毒物および劇物取締法などの主な法規制の適用はありませんが、取り扱い時には安全データシート (SDS)  に従った適切な管理が必要です。

2. 取扱いおよび保管上の注意

取扱い及び保管上の注意は、下記の通りです。

  • 適切な換気設備の下で取り扱う
  • 保護手袋、保護眼鏡、防じんマスクを着用する
  • 皮膚に付着した場合は、多量の水と石けんで洗う
  • 眼に入った場合は、水で数分間注意深く洗い、医師の診察を受ける
  • 粉じんの吸入を避ける
  • 保管時には容器を密閉し、乾燥した冷暗所に保管する

参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0103-1220JGHEJP.pdf
https://www.chem-info.nite.go.jp/chem/chrip/chrip_search/cmpInfDsp?cid=C004-991-87A
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/1306-38-3.html
https://www.chem-info.nite.go.jp/chem/chrip/chrip_search/cmpInfDsp?cid=C011-996-77A

酸化スズ

酸化スズとは

酸化スズ (英: tin oxide) とは、スズと酸素からなる金属酸化物です。

酸化スズには、酸化数が異なる形態が存在しますが、通常は酸化スズ (IV)  (化学式:SnO2) を指します。CAS登録番号は18282-10-5、白色または淡灰色の粉末で、自然界では錫石として存在します。水やアルカリに不溶で、化学的に安定した物質です。

酸化スズの使用用途

酸化スズは、その物理的、化学的性質を利用して、さまざまな産業で利用されています。

1. 電子デバイス分野

透明導電膜として広く使用されており、液晶ディスプレイやタッチパネル、太陽電池の電極材料として重要な役割を果たしています。

2. セラミックス・ガラス工業

ガラスやセラミックスの製造において不透明化剤や光沢を与えるコーティング材として使用され、高級ガラスや装飾品の製造に利用されています。

3. センサー・触媒材料

化学反応を促進する触媒として使用されます。また、一酸化炭素、水素、メタンなどのガス漏れ検知や、飲酒運転防止用アルコール検知のためのガスセンサー材料としても使用されています。

4. 化粧品・顔料

化粧品の増量剤や白色顔料、塗料の耐久性向上剤として広く利用されています。

酸化スズの性質

1. 物理的性質

モル質量150.71 g/mol、密度約6.95 g/cm³の結晶性無機化合物です。融点は1,630 ℃、昇華点は1,800~1,900 ℃で優れた高温特性を示します。ルチル型結晶構造を持ち、6配位のスズ原子と3配位の酸素原子で構成されています。また、可視光領域において高い透明性を有し、電気伝導性も示します。

2. 化学的性質

標準的な大気条件下で化学的に安定な物質で、水には不溶ですが、強酸 (塩酸や硫酸など) には可溶です。両性酸化物であり、酸とも塩基とも反応し、強酸に対してはスズ (IV) 塩を、強塩基に対してはスズ (II) 塩を形成します。また、酸素欠陥を生じることでn型半導体としての特性を示します。エネルギーギャップは約3.8 eVであり、これらの性質を利用して、半導体材料や触媒として広く使用されています。

酸化スズの種類

酸化スズには酸化スズ (Ⅳ) (SnO2) の他に酸化スズ (Ⅱ)  (SnO)  が存在します。酸化スズ (II) は、暗藍色または赤色の粉末で、CAS番号は、21651-19-4です。モル質量134.71 g/mol、密度約6.45 g/cm³、融点1,080 ℃で、水には不溶ですが、強酸や強塩基には溶解する両性物質です。空気中で加熱すると酸化スズ (IV) に変化し、不活性雰囲気下では不均化反応を起こして金属スズと酸化スズ (IV) になります。主に還元剤として使用され、銅赤ガラスの製造や顔料、触媒として利用されています。また、スズメッキ用補給剤としても使用されます。

酸化スズのその他情報

酸化スズの安全性

酸化スズは、一般的に低毒性とされています。急性毒性については、ラットに対するLD50は20 g/kg以上と報告されており、経口摂取による毒性が比較的低いことが示されています。皮膚刺激性や眼刺激性はほとんどなく、アレルギー反応も稀です。

酸化スズ の粉じんやヒュームを吸入すると、良性のじん肺 (スズ肺) を引き起こす可能性があります。そのため、取り扱い時には適切な換気と防護具の使用が推奨されます。特に粉末状の場合、浮遊粒子が有害濃度に達する可能性があるため、作業環境では粉じんの拡散を防ぐ措置が必要です。

長期的な酸化スズへの曝露は肺に障害を引き起こす可能性があるため、作業環境の適切な管理が重要です。国内法規上の主な適用法令として、労働安全衛生法において「名称等を表示すべき危険物および有害物」「名称等を通知すべき危険物および有害物」に指定されています。

参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0120-0160JGHEJP.pdf
https://www.chem-info.nite.go.jp/chem/chrip/chrip_search/cmpInfDsp?cid=C004-747-42A
https://labchem-wako.fujifilm.com/jp/product/detail/W01W0120-0161.html
https://www.chem-info.nite.go.jp/chem/chrip/chrip_search/cmpInfDsp?cid=C004-747-64A

酸化ジルコニウム

酸化ジルコニウムとは

酸化ジルコニウムはセラミックによく使われる白色で無臭の無機化合物です。

化学式はZrO2で粉末状として存在します。安定化処理を施すことで構造が変化し特性が向上するのが特徴です。特にイットリア (Y2O3) を添加した安定化ジルコニア (YSZ) は、高靭性と優れた耐摩耗性を持ち、工業用途に広く利用されています。

代表的な用途には、ファインセラミックス、セラミック刃、歯科材料、燃料電池の電解質、耐熱コーティングなどがあります。

酸化ジルコニウムの使用用途

酸化ジルコニウムは、優れた耐熱性・耐摩耗性・耐食性を活かし、多くの分野で使用されています。

1. セラミック部品

酸化ジルコニウムは、一般的なセラミックスに比べて高い強度と靭性を持ち、耐摩耗性や耐薬品性にも優れています。そのため、化学プラントや流体制御機器のバルブシートやポンプ部品として活用され、摩耗による劣化を大幅に抑制できます。また、高硬度であることから、耐摩耗工具 (パンチ・ノズル・ベアリング) や切削工具にも使用されます。

さらに、スマートフォンや高級時計の筐体材料としても採用され、傷がつきにくく高級感を維持できることが特徴です。特に部分安定化ジルコニア (PSZ) は、応力による自己修復効果 (相変態強化) を持ち、耐衝撃性を必要とする精密部品に適しています。

2. 歯科材料

ジルコニアは、従来の金属製クラウンやセラミックよりも優れた審美性・耐久性・生体適合性を持ち、歯科治療に広く利用されています。さらに、金属アレルギーのリスクがなく、生体適合性が高いため、インプラントやブリッジの支台歯などの歯科材料として使用されることも特徴の1つです。

耐摩耗性にも優れ、長期間の使用でも咬耗しにくく、咬合力の強い奥歯にも適しています。近年では、透明度の高い「フルジルコニアクラウン」も開発され、審美性と強度の両立が進んでいます。

3. 燃料電池の電解質

酸化ジルコニウムは、高い酸素イオン伝導性と耐熱性を持ち、固体酸化物形燃料電池 (SOFC) の電解質材料として不可欠です。特にイットリア安定化ジルコニア (YSZ) は、700〜1,000℃の高温環境下でも安定したイオン伝導を維持し、高効率な発電を可能にします。

自動車の燃料電池や家庭用コージェネレーションシステムにも応用され、環境負荷の少ない分散型エネルギー供給が可能です。その他には圧電素子セラミックコンデンサといった電子部品の材料や光学ガラスの添加剤、触媒や化粧品などの医薬部外品の添加物に使用されることもあります。

酸化ジルコニウムの性質

酸化ジルコニウムは、原子番号40のジルコニウムの酸化物であり、セラミックスに分類されます。分子量は123.218、主な物理的および化学的性質は、融点が2,715℃、沸点が4,300℃、密度が5.68g/cm3、屈折率が2.13です。

1. 機械的特性

酸化ジルコニウムはモース硬度8.5〜9.0と非常に硬く、耐摩耗性に優れたセラミック材料です。特に、部分安定化ジルコニア (PSZ) は「相変態強化」により高い破壊靭性 (8〜12 MPa√m) を示し、一般的なセラミックスの2〜3倍の靭性を持ちます。

また、応力が加わると結晶構造が変化し、クラックの進展を抑制するため、高衝撃部品にも適用可能です。化学的安定性が高いため、医療用メス・人工関節などの摩耗や腐食に強い製品にも利用されています。

2. 耐熱性と耐熱衝撃性

酸化ジルコニウムは融点約2,700℃と非常に高い耐熱性を持ち、耐火材や耐熱コーティングに利用されます。特に、イットリア安定化ジルコニアは、高温下でも相変態を抑えられ、航空機エンジン・ガスタービンの熱バリアコーティング (TBC) に使用されます。

しかし、単体では熱膨張係数 (10.5×10-6/K) が高く、温度変化に弱いため、他の材料との組み合わせや安定化処理が必要です。耐熱衝撃性を向上させるため、微細構造制御や層状コーティングが施され、高温環境下での耐久性向上が進められています。

3. 化学的安定性と耐食性

酸化ジルコニウムは、酸・アルカリ・酸化環境に対して非常に安定であり、過酷な環境下での使用が可能です。特に、強酸 (硫酸・塩酸) や高温酸化環境に対しても分解しにくく、耐薬品性が求められる化学プラントのバルブシート・ポンプ部品・反応容器に適用されます。

また、耐酸化性が高いため、排ガス処理装置・燃焼炉部品にも使用可能です。金属と異なり腐食によるイオン溶出がないので、生体適合性が求められる歯科インプラントや人工関節にも適用されています。

酸化ジルコニウムの構造

酸化ジルコニウムは、多形 (ポリモルフィズム) を持つセラミック材料であり、温度によって以下3つの結晶構造をとります。

  • 単斜晶
  • 正方晶
  • 立方晶

1. 単斜晶 (m-ZrO2)

単斜晶 (m-ZrO2) は、室温から1,170℃まで安定する酸化ジルコニウムの低温相です。歪んだ八面体 (ZrO6) 構造を持ち、酸素イオンが不均等に配置されるため、他の相に比べて対称性が低いのが特徴です。1,170℃を超えると正方晶相 (t-ZrO2) に相転移し、約3〜5%の体積収縮が発生します。

一方で、靭性が比較的高いため、耐摩耗性を求める用途に適しています。酸化ジルコニウム単体では脆い性質を持つため、安定化処理が必要となりますが、特定のセラミック部品や耐火材料には単斜晶相のまま使用されることもあります。

2. 正方晶 (t-ZrO2)

正方晶 (t-ZrO2) は、1,170〜2,370℃で安定する酸化ジルコニウムの中温相であり、機械的特性が最も優れているとされます。単斜晶よりも対称性が高く、酸素イオンの配置が均一になるため、機械的強度が向上します。特に注目すべきは、相変態強化 (英: Transformation Toughening) という現象です。応力が加わると、正方晶相から単斜晶相へ変化し、その際の体積膨張によってクラックの進展が抑制されます。

ジルコニアは他のセラミックスよりも高い破壊靭性を持っているため、耐摩耗部品や歯科材料、人工関節などの用途に適用されます。安定化剤 (Y2O3, CaO, MgO) を適量添加することで、室温でも正方晶相を維持できるように調整も可能です。

3. 立方晶 (c-ZrO2)

立方晶 (c-ZrO2) は、2,370℃以上で安定する高温相であり、最も対称性が高い結晶構造を持ちます。酸素イオンが規則正しく配置されるため、化学的安定性が高く、酸素イオンの移動がスムーズになります。高い酸素イオン伝導性を持つため、立方晶は燃料電池 (SOFC) の電解質や酸素センサーに使用されます。

ただし、立方晶相は機械的強度が低く、靭性も劣るため、通常は単体で使用されることは少なく、イットリア (Y2O3) を添加して常温で安定化させるのが一般的です。

酸化ジルコニウムのその他情報

1. 製造方法

酸化ジルコニウムの製造には、湿式精製法と乾式精製法の2種類があり、それぞれ異なる手法で精製が行われます。どちらの方法も、ジルコンやハデライトなどのジルコニウム鉱石が原料です。

湿式精製法では、まず鉱石を選別し、苛性ソーダで溶融した後、塩酸を用いて分解・濃縮する工程が行われます。その後、水洗や濾過を経て水酸化ジルコニウムを抽出し、焼成と粉砕を施すことで酸化ジルコニウムの粉末が取得可能です。一方、乾式精製法では、鉱石を細かく粉砕して不純物を取り除き、選鉱を繰り返すことで純度の高い酸化ジルコニウムを精製します。

2. ジルコニウムとの違い

ジルコニウムは金属であり、原子同士が金属結合によって結び付いています。一方、酸化ジルコニウムはセラミック材料であり、原子間の結合はより強固な共有結合が主体です。

また、ジルコニウムは環境中の酸素や硫黄といった腐食性元素と反応しやすく、比較的容易に酸化や腐食が進みます。一方で、酸化ジルコニウムは高い耐食性を持ち、ほとんど腐食することがありません。

酸化コバルト

酸化コバルトとは

酸化コバルトは、コバルトと酸素を結合させた化合物の総称です。

コバルトは多様な酸化数を持ち、それに応じてさまざまな化合物が存在し、それぞれ性質や用途が異なります。酸化コバルト(II)  (CoO) や酸化コバルト(II,III)  (Co3O4) などが代表例です。酸化コバルト (II) は青緑色の粉末で、磁性材料や陶器の着色料として利用され、一方、酸化コバルト (II,III) は黒色の結晶であり、リチウム電池の材料として注目されています。

酸化コバルトの使用用途

酸化コバルトは、その特性を活かして多岐にわたる用途に利用されています。ただし国内法規において、「コバルト及びその無機化合物」として、以下の法令で規制されています。そのため取り扱いには十分な注意が必要です。

労働安全衛生法

  • 名称等を表示すべき危険物および有害物
  • 名称等を通知すべき危険物および有害物 No.172
  • 特定化学物質第2類物質
  • 作業環境評価基準

化学物質排出把握管理促進法

  • 第1種指定化学物質 第1種-No.132

1. 着色剤

酸化コバルトは、古くからガラスの着色剤や顔料に利用され、とくに陶磁器の着色剤として広く知られています。酸化コバルトの種類により、鮮やかな青や紫色、ピンク色まで多様な色彩を表現します。

たとえば酸化コバルト (II) は、数世紀前には陶磁器の着色剤として利用されていました。その起源は古く12世紀のドイツにまで遡り、陶磁器の独特の深青色は一般にコバルトブルーと呼ばれています。

2. 触媒や電極材

また、反応を促進する触媒としても重要な役割を果たします。さまざまな工業プロセスにて使用され、とくに石油精製や化学製品の製造では酸化コバルトを触媒とし、効率的な反応を実現しています。

さらに、リチウム電池の正極材としても注目され、高いエネルギー密度を持つリチウムイオン電池の開発に欠かせない材料です。その他にも、ホーローの製造や、飼料の添加物としても利用されています。

酸化コバルトの性質

コバルトは酸化数によって様々な化合物を形成しますが、ここでは代表的なものについて解説します。

1. 酸化コバルト (II)

化学式は CoO 、分子量は 74.93、融点は 1,933℃、CAS登録番号は 1307-96-6 です。赤から黄緑色の結晶、または黒や灰色の粉末として存在し、セラミックス産業では青色の釉薬やエナメルに、化学産業ではコバルト (II) 塩の合成に利用します。結晶構造はペリクレース型で、格子定数は 4.2615Å です。

酸化コバルト (II) は、コバルトに水蒸気を接触させて生成し、酸化コバルト (II,III) は 950℃ に加熱すると、酸化コバルト (II) と酸素に分解されます。また、水、アンモニア水、エタノールに不溶ですが、酸には溶解し、湿った空気中では容易に酸化してCoO (OH) に変化します。

2. 酸化コバルト (III)

化学式 Co2O3、分子量は 165.86、融点は 1,900℃、CAS登録番号は 1308-04-9 で、吸湿性の黒褐色の粉末です。

硝酸コバルト (II) を次亜塩素酸ナトリウム水溶液に加えると、潮解性の黒色の固体、すなわち酸化コバルト (III) が生成されます。触媒や酸化剤に利用されますが、自然界にはほとんど存在しません。

3. 酸化コバルト (II, III)

化学式Co3O4、分子量は240.80、融点は895℃、CAS登録番号は 1308-06-1 です。形式的にCoIICoIII2O4と書かれることもあり、酸化コバルト (II) と酸化コバルト (III) の両方を含んだ混合原子価化合物です。灰黒色もしくは黒色の粉末で水に溶けず、塩酸・酸・濃アルカリに溶ける性質を有します。

酸化コバルト (II,III) は、空気中で酸化コバルト (II) を600〜700°C付近に熱すると生じますが、900°C以上にすると酸化コバルト (II) の方が安定化します。

酸化コバルトの構造

1. 酸化コバルト (II)

塩化ナトリウム型構造(岩塩型構造)で、コバルトイオン (Co2+) と酸素イオン (O2-) が交互に配列し、それぞれのイオンが6つの反対電荷のイオンに囲まれた正八面体構造を形成しています。

2. 酸化コバルト (III)

スピネル型に類似した複雑な結晶構造で、コバルトイオン (Co3+) は正八面体型に6つの酸素イオン (O2-) と配位し、酸素イオン (O2-) は4つのコバルトイオン (Co3+) と四面体型に配位しています。

3. 酸化コバルト (II,III)

スピネル型構造で、コバルト (II) イオンとコバルト (III) イオンが立方最密充填構造をとることにより安定化しています。コバルト (II) イオンは四面体間隙に、コバルト (III) イオンは八面体間隙に位置しています。

参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0103-0879JGHEJP.pdf
https://www.nite.go.jp/chem/chrip/chrip_search/dt/html/GI_10_001/GI_10_001_1308-06-1.html

酸化ガリウム

酸化ガリウムとは

酸化ガリウムとは、Ga2O3という化学式で定義される無機化合物です。

化学的に安定な物質なので、SDSでの消防法他法令による規制化合物の指定はなく、CAS登録番号は12024-21-4です。分子量は187.44で、直射日光を避けたガラスなどの安全な容器に保管することを推奨されています。保存すべき環境としては、温度が涼しく喚気の良い場所にガラス瓶に密閉して保管するのが望ましいです。

酸化ガリウムの使用用途

酸化ガリウムは、照明用のLED (英: Light-Emitting Diode: 発光ダイオード) に使用する基板の原料として使われています。

そのほか、酸化ガリウムを使ったパワー半導体素子 (電力変換用スイッチング素子など) は、従来、使用されていた炭化ケイ素からなる半導体素子と比較して、バンドギャップエネルギーが大きい利点を有します。そのため、酸化ガリウムは高温、高電圧動作可能なパワー半導体向けの使用用途として期待されています。

またβ-酸化ガリウム (III) は触媒関連の用途や光触媒関係の開発にも用いられています。

酸化ガリウムの性質

酸化ガリウムは塩酸などの多くの酸に溶けますが、水にはほとんど溶けません。酸化ガリウム (III) は、5つの違う形を持ち、その中でもβ-酸化ガリウム (III) が最も安定した形です。そのβ-酸化ガリウム (III) の融点は1740℃です。

酸化ガリウムのバンドギャップエネルギーは大きいので、絶縁破壊電圧を大きくとることが可能です。具体的にはワイドバンドギャップ半導体として実用化が進む SiC(炭化ケイ素)の3.26eVやGaN(窒化ガリウム)3.39eVと比較して、β-酸化ガリウム (III)の場合にはその値は4.5eVから4.9eVと非常に大きいです。

バンドギャップエネルギーが大きい材料物性を利用して半導体素子を作成した場合に高い電圧まで非破壊で動作可能なメリットを有しますが、一方で欠点もあります。β型の酸化ガリウムは、放熱性が良くない点や、α型も含めて酸化ガリウムではP型の半導体が作成困難な点があげられます。パワー半導体向けの放熱性の改善については、構造や内部に酸化ニッケル等を用いて熱抵抗を下げる工夫が実施されています。

酸化ガリウムの構造

5種類の異形の酸化ガリウム (III) の中で、β -酸化ガリウム (III) は、最も安定しています。最密充填構造配列を有した構造に特徴を有し、八面体もしくはひずみ四面体構造を形成しています。

β-酸化ガリウム(III)の安定性の理由については、このような構造の歪みに起因しており、様々な使用用途に適した将来の有望な物性材料として期待されています。

酸化ガリウムのその他情報

1. 酸化ガリウムの合成法

酸化ガリウム (III) の合成法は酸性や塩基性のガリウム塩溶液を中和します。その際に生じる沈殿が生成物です。金属ガリウムの加熱や、硝酸ガリウム (III) を200-250℃で熱分解する合成方法もあります。

有機誘導体であるガリウム (III) を1000℃で加熱することで、β-Ga2O3は合成できます。原料には硝酸ガリウム (III) や、シュウ酸ガリウム (III) および 酢酸ガリウム (III) などがあげられます。

2. 酸化ガリウムのその他の結晶構造

α-Ga2O3はβ-Ga2O3を、65kbar、1,100℃で1時間加熱して得られます。α-Ga2O3の水和物は、500℃で水酸化ガリウムを分解することにより生成します。

γ-Ga2O3はゲル状の水酸化ガリウムを、400から500 ℃で急速に加熱すると得ることが可能です。δ-Ga2O3は硝酸ガリウム(III)を、250℃で加熱して得られます。ε-Ga2O3はδ-Ga2O3を、30分間550℃で加熱することで生成します。

3. 酸化ガリウムのナノ構造

酸化ガリウム (III) のナノリボンやナノシートは、Ga0と水を高温で反応させるか、高温の酸素雰囲気下で窒化ガリウムを蒸発させると合成可能です。

これらは単結晶であり、走査型電子顕微鏡 (SEM) により反応物はシート状構造、またはワイヤー状構造であることが示され、透過型電子顕微鏡 (TEM) 写真によって酸化ガリウム (III) がリボン状構造であることが判明しています。

参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0107-0453JGHEJP.pdf
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/p0200