酸化バリウム

酸化バリウムとは

酸化バリウムとは、化学式がBaOのバリウムが酸化した無機化合物です。

酸化バリウムの結晶構造は立方晶系で、塩化ナトリウム型の構造でをとっています。酸化バリウムは白色~うすい灰褐色の粉末または塊です。吸湿性を持っているほか、希塩酸に溶けます。分子量は153.33、CAS登録番号は1304-28-5です。

毒劇法で「劇物・包装等級3」、安衛法では「名称等を通知すべき危険物および有害物」「名称等を表示すべき危険物および有害物」、危規則で「毒物類・毒物」、航空法で「毒物類・毒物」に指定されています。

なお、酸化バリウムの関連物質として、バリウム (英: Barium) 、水酸化バリウム (英: Barium hydroxide) 、過酸化バリウム (英: Barium peroxide) などが挙げられます。

酸化バリウムの使用用途

酸化バリウムはガラス原料を代表として、バリウム塩 (塩化バリウム硫酸バリウム硝酸バリウムなど) やセラミックスの原料として利用されています。化学的安定性から塗料だけでなく、インキ・プラスチック・化粧品といった分野で活用されている硫酸バリウムの原料でもあります。硫酸バリウムは、X線検査の造影剤の一つです。

また、今日のIT分野で幅広く応用されている炭酸バリウムの原料としても知られています。さらに、合成化学において酸化バリウムは、塩基や乾燥剤として用いられています。

酸化バリウムの性質

酸化バリウムの融点は1,920℃、沸点は2,000℃です。酸化バリウムと水が反応して水酸化バリウムが生成します。この反応は酸化カルシウムよりも激しく、発熱量も大きいです。

他の水溶性のバリウム化合物と同じく、水溶液には毒性があります。塩基性による腐食性も有しています。空気中や酸素中では加熱によって、酸化バリウムから過酸化バリウムを得ることが可能です。ただし、800℃以上の高温になると分解して、再び酸化バリウムに戻ります。

酸化バリウムのその他情報

1. 酸化バリウムの合成

酸素存在下で金属バリウムを燃焼すると、酸化バリウムが生成します。水酸化バリウムや炭酸バリウムなどの熱分解によっても、酸化バリウムを得ることが可能です。

ただし、この分解反応は、アルカリ土類金属の水酸化物や炭酸塩としては、最も高温を必要とします。具体的には、二酸化炭素の分圧が1気圧のときの炭酸バリウムの分解温度は1,450℃、水蒸気圧が1気圧のときの水酸化バリウムの分解温度は998℃です。

2. バリウムの特徴

空気中でバリウムは徐々に酸化され、白色の酸化バリウムを生じます。バリウムはアルカリ土類金属の一つです。バリウムの原子番号は56、元素記号はBaです。

3. 水酸化バリウムの特徴

酸化バリウムを水に溶解させると、水酸化バリウムが生成します。ただし、この水和反応は、生石灰の消和よりも激しいため危険です。得られたものを再結晶することで、水酸化バリウムの8水和物が生成します。これを空気中で加熱すると水酸化バリウムの1水和物になり、減圧下で100℃に加熱すると水酸化バリウムの無水物が得られます。

水酸化バリウムはバリウムの水酸化物です。化学式はBa(OH)2で表されます。水酸化物イオンとバリウムイオンから形成されるイオン結晶で、塩基性の無機化合物です。分析化学において水酸化バリウムは、弱酸や有機酸の滴定に用いられています。

4. 過酸化バリウムの特徴

酸化バリウムに酸素を吸収させると、過酸化バリウムを生成することが可能です。これは可逆反応なので、加熱によって酸化バリウムと酸素に分解します。

また、過酸化バリウムは硫酸と反応して、硫酸バリウムと過酸化水素を生じます。過酸化バリウムはバリウムの過酸化物であり、化学式がBaO2で表される無機化合物です。過酸化バリウムの構造は炭化カルシウムに似ています。

過酸化バリウムは酸化剤や漂白剤として用いられているほか、炎色反応で緑色に発色するため、花火にも添加されています。

参考文献
https://www.nite.go.jp/chem/chrip/chrip_search/dt/html/GI_10_001/GI_10_001_1304-28-5.html

酸化ニッケル

酸化ニッケルとは

酸化ニッケルとは、暗緑色の粉末の無機化合物です。

酸化ニッケルは塩酸に溶けますが、水には溶けません。酸化ニッケルのCAS登録番号は1313-99-1で、国内法規上の適用として安衛法で「名称等を表示すべき危険物および有害物」「名称等を通知すべき危険物および有害物」「特定化学物質第2類物質」、「作業環境評価基準」(法第65条の2第1項)の指定がされています。

PRTR法で「特定第1種指定化学物質・特定第1種-No. 309」、水濁法で「指定物質」、大気汚染防止法で「有害大気汚染物質 (優先取組物質) 」にも指定されています。

酸化ニッケルの使用用途

ニッケルの持っている触媒としての活性を用いて、酸化ニッケルは広く利用されています。具体的には、油脂やその他有機化合物の水素添加触媒としてです。その理由として、水素によって酸化ニッケルが還元され、生成した微粒子状のニッケルの触媒作用が高いことが挙げられます。

さらに、酸化ニッケルは、電子管・特殊鋼の添加剤としての利用以外に、サーミスタ・P型半導体・フェライトといった電子材料の原料にも使われています。酸化ニッケルはガラスや陶磁器などの窯業分野で、着色剤として早くから使われていました。

その他、酸化ニッケルは、ニッケルめっきなどに使用されるニッケル塩の原料としても利用されています。

酸化ニッケルの性質

酸化ニッケルの分子量は74.69で、融点は1,960℃、密度は6.67g/cm3です。室温で反強磁性を示し、1.3BMほどの磁気モーメントを持っています。

酸化ニッケルは塩基性酸化物です。水にはほとんど不溶ですが、酸には溶解して、緑色の水和ニッケルイオンを生成します。しかし、加熱によって結晶化した酸化ニッケルは、酸に溶解しにくいです。

その一方で、酸化ニッケルはアルカリ水溶液にはほとんど溶解しません。ただし、アンモニア水には徐々に溶解して、淡青紫色のアンミン錯体が生成されます。また、酸化ニッケルを水素ガス中で加熱すると、還元されて金属ニッケルが生成します。

酸化ニッケルの構造

酸化ニッケル (II) の化学式はNiOです。ニッケルの酸化物には酸化ニッケル (II) の他に、酸化ニッケル (III) や酸化ニッケル (Ⅳ) などが報告されています。その中で酸化ニッケル (II) は、唯一詳細な構造が明らかになっているニッケル酸化物です。

酸化ニッケル (II) は、塩化ナトリウム型の構造を取っています。他の多くの二成分金属酸化物と同様に、しばしば、NiとOの比が1:1から外れた不定比化合物になります。

酸化ニッケルのその他情報

1. 酸化ニッケル (II) の合成方法

純度の高い酸化ニッケル (II) は、Ni(OH)2、Ni(NO3)2、NiCO3などのニッケル (II) 化合物を熱分解することで、緑色の粉末であるNiOとして得られます。

2. 酸化ニッケル (III) について

ニッケルの酸化物の一つである酸化ニッケル (III) は、空気中で硝酸ニッケル (Ⅱ) を300℃に熱すると得られますが、微量の水を含んでいます。酸化ニッケル (III) は灰黒色の粉末で、アルカリ蓄電池に使われています。

ただし酸化ニッケル (III) は、文献には記されているものの、はっきりと確認されていない化合物です。酸化ニッケル (III) は三酸化二ニッケルとも呼ばれ、しばしばNi2O3と書かれていますが、実際には不定比の酸化ニッケル (II) とも考えられています。

その一方で、Ni2O3はニッケルの表面に微量に存在する、もしくはニッケルの酸化の中間体であるという文献もあります。

3. 酸化ニッケル (Ⅳ) について

酸化ニッケル (Ⅳ) の化学式はNiO2で、二酸化ニッケルや過酸化ニッケルとも呼ばれています。酸化剤として使用されている緑灰色の粉末です。

酸化ニッケル (Ⅳ) は酸素が酸化ニッケル (Ⅱ) に吸着したものと言われていて、アルカリ性溶液中で水酸化ニッケルを次亜塩素酸塩などを用いて酸化すると得られます。

参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0114-0536JGHEJP.pdf
https://www.nite.go.jp/chem/chrip/chrip_search/dt/html/GI_10_001/GI_10_001_1313-99-1.html

酸化ナトリウム

酸化ナトリウムとは

酸化ナトリウムとは、ナトリウムと適量の酸素を混ぜて、化学反応させることで生成する化合物です。

通常の状態では酸化ナトリウムは、白色結晶の状態で存在しています。水によく溶け、溶解後は水酸化ナトリウムに変化します。酸化ナトリウムは水に触れると激しく反応するため、保管や取り扱いには注意が必要です。

一般的に酸化ナトリウムは、水と反応後の水酸化ナトリウムの状態で使用されることが多く、主な国内法規については、毒劇法において、劇物に指定されています。

酸化ナトリウムの使用用途

酸化ナトリウムは通常、水と反応させた水酸化ナトリウムの状態で使用されることが多いです。水酸化ナトリウムは、苛性ナトリウムとも呼ばれ、化学繊維、紙、パルプ、化学薬品、食品工業、石鹸など幅広い用途に使用されています。

その他にも、酸化ナトリウムは二酸化炭素を吸収して炭酸ナトリウムに変化したり、空気中で加熱することで過酸化ナトリウムに変化します。酸化ナトリウム単体の状態では、様々な化合物の材料として使用される場合が多いです。

酸化ナトリウムの性質

酸化ナトリウムの融点は1,132℃で、分解する温度は1,950℃です。400℃以上に加熱すると、酸化ナトリウムは分解して過酸化ナトリウム (Na2O2) とナトリウム (Na) になります。

岩石の風化作用の際には、大気中の二酸化炭素が水に溶けることで、岩石中に含まれている長石中の酸化ナトリウムが反応し、炭酸水素ナトリウムに変わります。また、酸化ナトリウムは、二酸化炭素を吸収すると炭酸ナトリウムになります。

酸化ナトリウムは吸湿性です。そのため、酸化ナトリウムを水へ溶かすと、水と激しく化学反応して、水酸化ナトリウムに変わります。酸化ナトリウムを空気中で加熱した場合には、過酸化ナトリウムになります。

酸化ナトリウムの構造

酸化ナトリウムは、ナトリウムの酸化物である無機化合物です。酸化ナトリウムの化学式はNa2O、モル質量は61.979で、密度は2.27g/cm3です。

酸化ナトリウムの結晶は、立方晶系に属する白色結晶です。逆蛍石型構造であり、フッ化カルシウムにおけるフッ化物イオンの位置にナトリウムイオンが、カルシウムイオンの位置に酸化物イオンが、それぞれ配置しています。また酸化ナトリウムの格子定数は、a = 5.55Åです。

酸化ナトリウムのその他情報

1. 酸化ナトリウムの生成

酸化ナトリウムは、適量の酸素とナトリウムを混ぜて、化学反応によって生成可能です。過剰の空気中でナトリウムを加熱した場合には、酸化ナトリウムだけでなく、約20%の過酸化ナトリウムも生成します。

比較的純度が良い酸化ナトリウムを得るためには、300℃でナトリウムと水酸化ナトリウムを化学反応させて、未反応のナトリウムを蒸留を用いて取り除くことで得ることが可能です。

さらに、液体のナトリウムと硝酸ナトリウムの化学反応によっても、窒素とともに酸化ナトリウムが生成します。

2. 他のナトリウム酸化物

ナトリウムの酸化物の組成には、酸化ナトリウム (Na2O) 以外にも、過酸化物イオン (O22- を含む過酸化ナトリウム (Na2O2) や超酸化ナトリウム (NaO2) があります。

例えば、過酸化ナトリウム (Na2O2 は、過酸化ソーダとも呼ばれ、黄白色の粒状または粉末状の物質です。過酸化ナトリウムは酸化力が強く、水と激しく反応することで、過酸化水素と水酸化ナトリウムに分解します。そのため、過酸化ナトリウムは、過酸化水素の製造原料でもあります。

それに対して、超酸化ナトリウム (NaO2) は、ナトリウムの超酸化物です。過酸化ナトリウムと酸素を高温高圧下で反応することで得られます。もしくは、ナトリウムのアンモニア溶液と酸素の反応によっても、超酸化ナトリウムを得ることが可能です。

超酸化ナトリウムは容易に加水分解して、過酸化ナトリウムと水酸化ナトリウムの混合物になります。

参考文献

https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/1310-73-2.html

酸化タンタル

酸化タンタルとは

酸化タンタルとは、白色~ほとんど白色の粉末または塊の無機化合物です。

酸化タンタルの主な組成・成分情報および物理的・化学的性質は、化学式がTa2O5、分子量が441.89、CAS登録番号が1314-61-0、分解温度が1,470℃です。また、水にほとんど溶けないという性質を有しています。

酸化タンタルの国内法規上の主な適用としては、安衛法で「名称等を表示すべき危険物および有害物」「名称等を通知すべき危険物および有害物」、同法施行令第18条の2別表第9でNo. 338の指定がされているのみです。

酸化タンタルの使用用途

酸化タンタルは、可視光域での高屈折率やIAD (イオンアシスト蒸着) における膜質安定性が、他の高屈折率材料と比べ優れていることから、光学レンズの原料として重用されています。また、酸化タンタルは、パソコンのディスプレイや自動車のフロントガラスなどに使われている反射防止膜や干渉フィルターの原料です。

さらに、酸化タンタルは、高誘電率で知られるタンタルの化合物として、電解コンデンサの誘電体をはじめ「電子セラミックス」という日本が世界に誇る分野で広く使用されています。

酸化タンタルの性質

酸化タンタルは、高い屈折率で低い吸収の不活性物質です。あらゆる溶媒に不溶ですが、強塩基やフッ化水素酸の腐食を受けます。

すなわち酸化タンタルは、HClやHBrとはそれほど反応しません。ただし、フッ化水素酸に溶解して、フッ化水素カリウムとHFとは反応します。

酸化タンタルの構造

酸化タンタルは、酸化タンタル (V) や五酸化タンタルとも呼ばれています。バルク材料は無秩序で、アモルファスや多結晶です。

単結晶の成長は困難なので、酸化タンタルの結晶構造において、提供されている構造情報は少なく、X線結晶学の粉末回折などに限られています。なお、β-Ta2O5の密度は8.18g/cm3、α-Ta2O5の密度は8.37g/cm3です。

酸化タンタルのその他情報

1. 酸化タンタルの発生

タンタルは、火成岩ペグマタイトで生成する鉱物のコルンブ石やタンタル石として生じます。これらの石が混ざったものは、コルタンと呼ばれています。タンタル石はスウェーデンやフィンランドで発見されました。

マイクロ石には約70%、パイロクロアには10%のタンタルが含まれています。自然界の純粋な酸化タンタルは、鉱物タンタイトとして有名ですが、非常に希少です。

2. 酸化タンタルの精製

酸化タンタルは以下の手順で、精製されています。

浸出段階
タンタルの鉱石には、大量のニオブが含まれていることも多く、それ自体も有価金属です。そのため抽出されて、両方の金属が販売されています。

全体の過程は、湿式製錬の一つです。浸出の段階から始まり、鉱石がフッ化水素酸と硫酸で処理されます。へプタフルオロタンタル酸塩などの、水溶性のフッ化水素が生成され、岩石の各種非金属不純物から金属を分離可能です。

抽出段階
タンタルやニオブのフッ化水素は、メチルイソブチルケトンシクロヘキサンなどの有機溶媒を用いた液液抽出によって、水溶液から取り除かれます。この段階では水相にフッ化物として残っている、鉄やマンガンといった金属不純物を、容易に取り除くことが可能です。

そして、pH調整によって、タンタルとニオブを分離できます。高いレベルの酸性度では、ニオブが有機相で溶解したままなので、酸性度が低い水に抽出することで、タンタルを選択的に取り除けます。

焼成段階
純粋なフッ化水素タンタル溶液を、アンモニア水で中和することで、水和タンタル酸化物が生成できます。水和タンタル酸化物は、酸化タンタルに焼成されます。

3. 酸化タンタルの合成法

酸化タンタルは、頻繁に電子工学で用いられており、多くの場合には薄膜の形で使用されています。これらの用途では、揮発性のハロゲン化物とアルコキシドの加水分解を含む、有機金属気相成長法 (MOCVD) またはその関連技術によって合成可能です。

参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0120-0934JGHEJP.pdf
https://www.nite.go.jp/chem/chrip/chrip_search/dt/html/GI_10_001/GI_10_001_1314-61-0.html

酸化タングステン

酸化タングステンとは

酸化タングステンとは、タングステンと酸素から構成される無機化合物です。

タングステンの酸化数によって、さまざまな化合物が存在します。酸化タングステンの中で最も一般的なものの一つは、酸化タングステン(VI)です。それ以外にも、酸化タングステン(IV)や酸化タングステン(III)などが知られています。消防法をはじめとした国内法規上の適用は指定されていません。

酸化タングステンの使用用途

酸化タングステンは、工業的には触媒 (可視光応答型の光触媒など) や金属タングステンの原料、セラミックス・ガラスはじめ焼結金属の添加剤、二次電池用の添加剤、電子材料として使われています。また、炭素や水素、窒素のような元素の分析添加剤としても使用可能です。

さらに、シンチレータ (放射線にあたると蛍光を発する物資の総称) として、レントゲン検査や非破壊検査にも活用されています。

酸化タングステンの性質

酸化タングステン (VI) の融点は1,473℃、沸点はおよそ1,750℃です。水に微溶で、アルカリやアンモニア水には溶解し、タングステン酸塩が生成します。酸化タングステン(VI)はタングステンの最終酸化物であり、空気中や水溶液中で安定です。ただし、還元剤によって、あらゆる低酸化物が生じます。

常温の空気中では安定です。1,500~1,600℃で分解し、酸化されて酸化タングステン(VI)に変わります。水素気流中で灼熱すると、還元されて金属タングステンになります。酸化タングステン (IV) は大きな電気伝導性を有し、酸や水酸化カリウム水溶液に可溶ですが、水には不溶です。

酸化タングステンの構造

酸化タングステン (VI) は、三酸化タングステンとも呼ばれます。化学式はWO3で、モル質量は231.84g/molであり、密度が7.16g/cm3の黄色の粉末です。酸化タングステン(VI)の結晶構造は、温度によって変化します。-50〜17℃は三斜晶系、17〜330℃は単斜晶系、330〜740℃は斜方晶系、740℃以上は正方晶系です。

酸化タングステン (IV) は二酸化タングステンとも呼ばれ、化学式はWO2で、モル質量は215.84g/molです。青銅色の固体であり、結晶は単斜晶系を取っています。248pmの短いW-W結合を有する八面体配位のWO6を中心に、歪んだルチル型の構造を形成し、それぞれのW中心がd2の電子配置を取っています。

酸化タングステン (III) の化学式はW2O3で、モル質量は415.68g/molです。

酸化タングステンのその他情報

1. 酸化タングステンの合成法

酸化タングステン (VI) は、金属タングステン、他のタングステン酸化物、タングステン硫化物などを、空気中や酸素中で加熱すると生成します。また、CaWO4や灰重石を塩酸と反応させるとタングステン酸が生じ、高温の水と反応して酸化タングステン (VI) に分解されます。さらに、パラタングステン酸アンモニウムを酸化条件で焼成しても、酸化タングステン (VI) を合成可能です。

酸化タングステン (VI) を加熱すると、酸化タングステン (IV) を得ることが可能です。具体的には、40時間900°Cでタングステン粉末によって、酸化タングステン (VI) を還元します。反応の中間体として混合原子価状態のW18O49を経由して、部分的に還元されながら反応が進みます。

2. 酸化タングステンのその他化合物

酸化タングステンにはWO3、WO2、W2O3以外にも、これまでにW4O3、W3O、WO、W2O5、W3O8、W4O8、W5O9、W5O14などが報告されました。

タングステンの酸化物の色は、酸化数が増えると、灰、茶、紫、青、黄と変わります。例えば、青紫色のW2O5は、タングステンブルーの主成分と言われています。

参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0120-0346JGHEJP.pdf
https://www.nite.go.jp/chem/chrip/chrip_search/dt/html/GI_10_001/GI_10_001_1314-35-8.html

酸化セリウム

酸化セリウムとは

酸化セリウム (英: Cerium oxide) とは、白色もしくはうすい黄色の粉末の無機化合物です。

セリウムと酸素から構成され、化学式はCeO2、分子量は172.11、CAS登録番号は1306-38-3です。希土類酸化物の一つで、セリアとも呼ばれます。融点/凝固点が2,600℃、沸点または初留点および沸騰範囲が3,285℃で、密度/相対密度が7.132です。溶解度については、塩酸硝酸には溶けにくく、水にはほとんど溶けません。

酸化セリウムの構造

酸化セリウムは、蛍石 (英: Fluorite) と同じ構造で8配位のCe4+、4配位のO2-を持ち、空間群はFm3m (#225) です。

酸素分圧や機械的負荷によって格子欠陥を生じますが、特に酸素欠陥とセリウムイオンに局在化した電子による、ポーラロン生成が注目されます。酸素欠陥数の増加に伴いイオン伝導性が増加し、酸化物イオンの拡散速度が上昇するという性質があるので、酸化セリウムは固体酸化物形燃料電池 (SOFC) の固体電極として期待されています。

酸化セリウムの使用用途

1. 研磨剤

酸化セリウムは、ガラスや光学レンズ、ブラウン管の研磨剤の原料として使用されています。酸化セリウムを使った研磨剤は、単に表面を削るだけでなく、ガラスの主要構成元素である二酸化ケイ素と化学反応をおこし、より一層表面を滑らかにする特徴を有しています。従来は酸化鉄やジルコニアなどの酸化物が用いられてきましたが、次々と酸化セリウムに置き換えられました。

2. 紫外線散乱剤

酸化セリウムは、紫外線散乱剤としてガラス紫外線防止用やブラウン管着色防止用のほか、紫外線カット用化粧品の添加剤にも応用されています。酸化チタンや酸化亜鉛の代替として注目されています。

3. 触媒

酸化セリウムは、可逆的に組成を変化させることができる性質があるので、酸化反応の触媒として用いられます。また、ホワイトガソリンランタンの発光部には、酸化セリウムをドープした酸化トリウムが用いられ、酸化セリウム触媒の燃料ガスの空気酸化によって発熱しています。自動車の排気ガスを分解する三元触媒のセンサーにも用いられており、空燃比を調節し、NOxや一酸化炭素を減らすのに役立っています。

4. 光学材料

酸化セリウムは、可視光から赤外領域に透過波長域を持つ高屈折率材料としても利用されます。結晶質の膜を形成し、化学的安定性、熱安定性に優れ、シリコンとの格子整合性があるとされています。 可視光を透過波長域に持つ高屈折率材料の中では、比較的低温で蒸発することも特徴です。

5. その他

酸化セリウムは、電池負極材の原料、ファインセラミックスの材料にも利用されています。ガラスの脱色剤としても使われ、緑がかった2価の鉄の不純物をほぼ無色の3価の酸化鉄に変えることができます。優れたイオン性と導電性を持つ性質から、イオン・電子混合伝導体としての活用も期待されています。

酸化セリウムのその他情報

1. 酸化セリウムの製法

酸化セリウムは、バストネサイトやモナズ石からその他の希土類元素との混合物として産出した天然のセリウムから得ることができます。塩基性水溶液中に抽出してから、酸化剤を加え、pHを調節してセリウムを分離します。酸化セリウムの低い溶解度と、その他の希土類元素が酸化されないことを利用した手法です。

2. 法規情報

酸化セリウムは、消防法はじめ毒物および劇物取締法、労働安全衛生法、PRTR法といった、おもな国内法規上での規制適用は行われていません。

3. 取扱いおよび保管上の注意

取扱い及び保管上の注意は、下記の通りです。

  • 容器を密栓し、乾燥した冷暗所に保管する。
  • 屋外や換気の良い区域のみで使用する。
  • 粉塵が飛散しないように注意する。
  • 使用時は保護手袋、保護眼鏡を着用する。
  • 取扱い後はよく手を洗浄する。
  • 皮膚に付着した場合は、石鹸と水で洗い流す。
  • 眼に入った場合は、水で数分間注意深く洗う。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/1306-38-3.html

酸化スズ

酸化スズとは

酸化スズとは、黒灰色もしくは黒色の結晶性粉末あるいは粉末の無機化合物です。

酸化スズの化学式はSnO、分子量は134.71、CAS登録番号は21651-19-4、融点/凝固点は1,080℃です。国内法規上の主な適用法令としては、労働安全衛生法に「名称等を表示すべき危険物および有害物」「名称等を通知すべき危険物および有害物」の指定があるのみで、そのほか消防法といった主だった法令での指定はされていません。

酸化スズの使用用途

酸化スズは、還元剤をはじめ、触媒や有機合成の原料として使われています。顔料や第一スズ塩類の原料、スズメッキ用補給剤としても使用可能です。

さらに、酸化スズは、PVC (英: Polyvinyl Chloride (ポリ塩化ビニル) ) の長期間使用による劣化を防止する安定剤としても使われています。PVCは、生活に幅広く関わっているフィルム・シートや上下水道・電話・電気といったインフラにも深く関わるパイプ・電線のような製品の原料となっている重要な物質です。

酸化スズの性質

酸化スズには、酸化スズ (II) 、酸化スズ (IV) 、酸化スズ (VI) が存在します。例えば、酸化スズ (II) には、安定な暗藍色型や準安定状態の赤色型の状態があり、このときのスズの酸化状態は+2です。

酸化スズの構造

黒色のα-SnOは、配位四角錐型のスズ原子を含む、正四面体型のPbO層構造を取っています。希少鉱物であるロマーク石として、自然で見られる構造と同じです。

非対称性については、立体的に活性な孤立電子対によって、単純に説明できます。しかし、電子密度計算において非対称性は、スズ原子の5s軌道と酸素原子の2p軌道との、反結合性相互作用に起因していることが明らかになっています。また、SnOには不定比性が見られ、 電子バンドは2.5eVから3eVの間です。

酸化スズのその他情報

1. 酸化スズ (II) の反応性

酸化スズ (II) は、空気中で暗緑色の炎を出して燃焼し、酸化スズ (IV)になります。酸化スズ (II) を不活性雰囲気下で加熱した場合には、まず不均 化が起こって金属SnとSn3O4が生成して、Sn3O4はさらに反応するため、最終的にSnO2と金属スズになります。

酸化スズ (II) は両性物質です。強酸に溶解するとスズ (II) 塩となり、強塩基中ではSn(OH)3を含む亜スズ酸塩が生成します。酸化スズ (II) は強酸溶液にも溶解するため、イオン性錯体であるSn(OH2)32+やSn(OH)(OH2)2+を与え、弱酸性溶液中ではるSn3(OH)42+となります。K2Sn2O3やK2SnO2などの無水亜スズ酸塩としても知られている物質です。

また、SnOは還元剤なので、銅赤ガラスの製造に使用されています。

2. 酸化スズ(II)の合成方法

暗藍色の酸化スズ(II)は、NaOHのようなアルカリ性水酸化物と、二価のスズの塩を反応させた際に沈殿する酸化スズ(II)水和物を加熱すると調製できます。

準安定状態の赤色の酸化スズ (II) は、アンモニア水を二価のスズの塩に作用させることで生成した沈殿を、おだやかに加熱して調製できます。

さらに実験室でも酸化スズ (II) は、空気のない条件下で、温度制御しながらシュウ酸スズ (II) を加熱することで、純物質として調製可能です。

3. 酸化スズ (IV) について

酸化スズ (IV) は酸化第二すずや二酸化すずとも呼ばれ、化学式はSnO2で、反磁性です。酸化スズ (IV) は両性酸化物であり、水に溶けず、酸やアルカリにも溶解しません。

酸化スズ (IV) の外観は、無色の粉末です。6配位のスズ原子と3配位の酸素原子から構成される、ルチル型の結晶構造を取っており、酸化スズ (IV) は酸素の欠乏したn型半導体とされています。

酸化スズ (IV) の水和物はスズ酸とも呼ばれていましたが、粒径によって異なる水分量を有する酸化スズ (IV) の微粒子であることが明らかになっています。

参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0120-0986JGHEJP.pdf
https://www.nite.go.jp/chem/chrip/chrip_search/dt/html/GI_10_001/GI_10_001_21651-19-4.html

酸化ジルコニウム

酸化ジルコニウムとは

酸化ジルコニウムとは、白色で無臭の無機化合物です。

国内法令上で酸化ジルコニウムは、安衛法で「名称等を表示すべき危険物および有害物」「名称等を通知すべき危険物および有害物」という指定がありますが、消防法などほかの主だった国内法規で指定はされていません。

酸化ジルコニウムの使用用途

酸化ジルコニウムの性質を生かした使用用途は、以下の通りです。

  • 融点が非常に高い・耐熱性が高い・化学的な侵食に強い
    切削工具や研磨工具、耐火物などの原料
  • 高硬度・耐久性が高い
    歯科用材料、セラミックス包丁、宝飾品 (模造ダイヤモンド)
  • 酸素イオンの良伝導体
    固体電解質型の燃料電池

酸化ジルコニウムはダイアモンドと呼ばれるほど高硬度で、その硬さは一般的なセラミックスの10倍程度と非常に高いです。その他、酸化ジルコニウムは圧電素子セラミックコンデンサといった電子部品の材料や光学ガラスの添加剤、触媒や化粧品などの医薬部外品の添加物に使用される場合もあります。

酸化ジルコニウムの特徴

酸化ジルコニウムは、原子番号40のジルコニウムの酸化物でセラミックスに分類されます。化学式はZrO2、分子量は123.22、主な物理的および化学的性質は、融点が2715℃、沸点が4300℃、密度が5.68g/cm3、屈折率が2.13です。

酸化ジルコニウムは、低熱伝導率、耐熱性、耐食性、高強度等、多くの機能を有しています。その一方、酸化ジルコニウムは、温度変化によって結晶構造が変化し体積変化も伴うため、劣化しやすいです。

室温では最も安定な単斜晶の結晶構造を形成していますが、温度を上げていくと正方晶、立方晶へと順次変化していきます。この結晶構造変化による体積変化を抑えるために、酸化イットリウム (Y2O3) 、酸化カルシウム (CaO) 、酸化セリウム (CeO2) 、酸化マグネシウム (MgO) などの酸化物が安定化剤として用いられます。

酸化物を酸化ジルコニウムに添加し反応させ、結晶構造中に固溶させることで、立方晶の室温での安定的な存在が可能です。なお、室温で立方晶が安定となった酸化ジルコニウムを混合する安定化剤の添加量によって、安定化ジルコニア、もしくは部分安定化ジルコニアと呼びます。安定化剤の影響で酸素空孔が形成されるため、酸素イオンの良導体となります。

酸化ジルコニウムのその他情報

1. 酸化ジルコニウムの製造方法

酸化ジルコニウムの製造方法は、主に湿式精製法と乾式精製法の2種類があります。どちらもジルコン、ハデライトなどのジルコニウム鉱石が原料です。湿式精製法での最初の工程は、選別した鉱石を苛性ソーダで溶融した後、塩酸で分解、濃縮する工程です。

さらに、水洗、濾過などの工程を経て、得られた水酸化ジルコニウムを焼成、粉砕することで酸化ジルコニウム粉末を製造します。一方の乾式精製法では、鉱石を粉砕して不純物を除去した後、選鉱を繰り返し行うことで、純粋な酸化ジルコニウムを製造します。

2. ジルコニウムとの違い

ジルコニウムは金属で原子同士が金属結合で結び付けられているのに対して、酸化ジルコニウムはセラミックスで金属結合より強固な共有結合で原子同士が結び付けられています。結合様式の違いにより、ジルコニウムと比較して以下のような優れる特性を持ちます。

腐食しにくい
ジルコニウムは環境中の酸素や硫黄などの腐食性の元素と結合しやすく、比較的容易に腐食してしまいますが、酸化ジルコニウムはほとんど腐食することがありません。

高硬度で耐熱性に優れている
酸化ジルコニウムは金属結合よりも強い共有結合で形成されているので、非常に硬く丈夫で変形しづらく、また融点も1,855℃と高温であることからも耐熱性にも優れています。

参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0126-0048JGHEJP.pdf
https://www.nite.go.jp/chem/chrip/chrip_search/dt/html/GI_10_001/GI_10_001_1314-23-4.html

酸化コバルト

酸化コバルトとは

酸化コバルトとは、別名が四酸化三コバルトで、灰黒色もしくは黒色の粉末の無機化合物です。

化学式はCo3O4、分子量は240.80、CAS登録番号は1308-06-1、融点/凝固点は895℃で、水に溶けず塩酸・酸・濃アルカリに溶ける性質を有しています。

国内法規上で酸化コバルトは、安衛法では「名称等を表示すべき危険物および有害物」「名称等を通知すべき危険物および有害物No. 172」「特定化学物質第2類物質」「作業環境評価基準」に指定された物質です。PRTR法で「第1種指定化学物質 第1種-No. 132」、大気汚染防止法でも「有害大気汚染物質」という指定がされています。

酸化コバルトの使用用途

酸化コバルトは、酸化剤や触媒として主に使用されています。具体的な使用例は、コバルト塩類の原料としての使用です。また、陶磁器に使用する呉須 (ごす:絵付け顔料) として知られ、ガラスの着色剤、顔料としても使われています。

酸化コバルトは、リチウム電池の正極材の原料としても知られています。そのほか、ホーロー用の素材や飼料の添加物としても使用可能です。

酸化コバルトの性質

酸化コバルトには、コバルトの酸化数の違いによって、3種類の化合物が存在します。酸化コバルト (II) 、酸化コバルト (III) 、酸化コバルト (II,III) です。

例えば酸化コバルト (II,III) は黒色の固体で、コバルト (II) とコバルト (III) の両方を含んだ混合原子価化合物です。形式的に酸化コバルト (II,III) は、CoIICoIII2O4と書けます。

1. 酸化コバルト (II)

酸化コバルト (II) の化学式はCoOで、分子量は74.93、融点は1,933°Cです。赤色から黄緑の結晶、または黒色から灰色の粉末です。酸化コバルト(II)はセラミックス産業においては青色の釉薬やエナメルに、化学産業においてはコバルト (II) 塩の合成に使用されています。酸化コバルト(II)の結晶はペリクレース構造で、格子定数は4.2615Åです。

酸化コバルト (II) は、赤熱した単体のコバルトに、水蒸気を接触させると生成します。また酸化コバルト (II,III) を950℃に熱することで、酸化コバルト (II) と酸素に分解しても得られます。

酸化コバルト (II) は水、アンモニア水、エタノールには不溶ですが、酸には可溶です。湿った空気中で容易に酸化され、CoO (OH) になります。

2. 酸化コバルト (III)

酸化コバルト (III) の化学式はCo2O3で、分子量は165.86、融点は1,900°Cです。吸湿性がある黒褐色の粉末で、三酸化二コバルトとも呼ばれています。

硝酸コバルト (II) を次亜塩素酸ナトリウム水溶液に加えると、潮解性の黒色固体として酸化コバルト (III)が 生成します。酸化コバルト(III)は触媒や酸化剤として使用されており、ほとんど天然には存在していません。

酸化コバルトの構造

酸化コバルト (II,III) は、四酸化三コバルトとも呼ばれ、スピネル型構造を取っています。具体的には、酸化物イオンの立方最密充填単位格子の四面体間隙にCo2+イオン、八面体間隙にCo3+イオンが配置しています。

酸化コバルトのその他情報

1. 酸化コバルト (II,III) の合成法

酸化コバルト (II,III) は、空気中で酸化コバルト (II) を600〜700°C付近に熱すると生じます。ただし900°C以上にすると、酸化コバルト (II) の方が安定化します。

2. 酸化コバルト (II) の使用用途

数世紀前から酸化コバルト (II) は、陶磁器の着色剤に使われてきました。古くは12世紀のドイツでも使われていました。酸化コバルト (II) を添加した陶磁器は、コバルトブルーと呼ばれており、深青色に着色されます。

磁器の着色剤以外にも、磁性材料の原料や二次電池材料、各種酸化反応の触媒などに使用されています。

参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0103-0879JGHEJP.pdf
https://www.nite.go.jp/chem/chrip/chrip_search/dt/html/GI_10_001/GI_10_001_1308-06-1.html

酸化ガリウム

酸化ガリウムとは

酸化ガリウムとは、白色の粉末の無機化合物です。

酸化ガリウムの化学式はGa2O3、分子量は187.44で、CAS登録番号は12024-21-4です。推奨保管条件下では化学的に安定した物資とされ、国内の消防法をはじめとした法規でも特に指定はありません。

推奨保管条件としては、「ガラス」を安全な容器包装材料とし、「直射日光を避け、換気のよいなるべく涼しい場所に密閉して保管する」とされています。

酸化ガリウムの使用用途

酸化ガリウムは、これまでの照明器具に使われていた蛍光灯や電球にとって代わりつつあるLED (英: Light-Emitting Diode: 発光ダイオード) に使用する基板の原料以外にも、緑色の蛍光体の原料として用いられています。

そのほか、酸化ガリウムを使ったパワー半導体素子 (電力変換用スイッチング素子など) は、従来、使用されていた炭化ケイ素からなる半導体チップと比較して、導通時の抵抗が小さいことから小型化かつ低損失化が図れると期待されています。

酸化ガリウムの性質

酸化ガリウムは塩酸などの多くの酸に溶けますが、水にはほとんど溶けません。

酸化ガリウム (III) は、α、β、γ、δ、εの5つの異なる形を取っています。その中でもβ-酸化ガリウム (III) の融点は1740℃であり、β-酸化ガリウム (III) が最も安定した形です。

酸化ガリウムの構造

酸化ガリウム (III) の中で、最も安定しているβ-酸化ガリウム (III) は、歪んだ立方最密充填構造の配列を取っており、歪んだ四面体構造や八面体構造を持っています。Ga-Oの結合距離は、それぞれ1.83Åと2.00Åです。β-酸化ガリウム(III)の安定性は、このような構造の歪みに起因しています。

酸化ガリウムのその他情報

1. 酸化ガリウムの合成法

酸化ガリウム (III) は酸性や塩基性のガリウム塩溶液を中和することで、沈殿として得られます。空気中で金属ガリウムを加熱したり、硝酸ガリウム(III)を200-250℃で熱分解しても生成します。

β-Ga2O3は酢酸ガリウム (III) 、硝酸ガリウム (III) 、シュウ酸ガリウム (III) 、その他ガリウム (III) の有機誘導体を、1,000℃で加熱して得ることが可能です。

2. 酸化ガリウムのその他の結晶構造

α-Ga2O3はβ-Ga2O3を、65kbar、1,100℃で1時間加熱して得られます。α-Ga2O3の水和物は、500℃で水酸化ガリウムを分解することにより生成します。

γ-Ga2O3は水酸化ガリウムのゲルを、400から500 ℃で急速に加熱すると得ることが可能です。δ-Ga2O3は硝酸ガリウム(III)を、250℃で加熱して得られます。

ε-Ga2O3はδ-Ga2O3を、30分間550℃で加熱することで生成します。

3. 酸化ガリウムの触媒

β-酸化ガリウム(III)は、触媒の製造においても非常に重要です。例えば、Ga2O3-Al2O3触媒の合成に必要です。

Ga2O3-Al2O3触媒は、硝酸ガリウム (III) の水溶液と酸化アルミニウムを反応させて、393Kで蒸発乾固させた後に、空気中4時間823Kで、化合物を熱分解することによって合成されています。

4. 酸化ガリウムのナノ構造

酸化ガリウム (III) のナノリボンやナノシートは、Ga0と水を高温で反応させるか、高温の酸素雰囲気下で窒化ガリウムを蒸発させると合成できます。酸化ガリウム (III) のナノリボンやナノシートの構造は、純粋な単結晶で、構造のずれは見られません。

具体的には走査型電子顕微鏡 (SEM)、透過型電子顕微鏡 (TEM)、X線回折装置 (XRD)、エネルギー分散型X線分析 (EDS)などを用いて、熱蒸発反応によって得られた反応物が分析されました。分析結果からも、反応物は灰色の綿状構造であると示されています。

SEMにより反応物はワイヤー状構造やシート状構造であることが示され、TEM写真によって酸化ガリウム (III) がリボン状構造であることが明らかになりました。

参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0107-0453JGHEJP.pdf
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/p0200