酸化タングステンとは
酸化タングステン (英: tungsten oxide) は、タングステンと酸素からなる金属酸化物です。
酸化数の異なる複数の酸化物が存在し、最も安定な化合物は酸化タングステン(VI) (化学式:WO3) で、三酸化タングステンとも呼ばれます。CAS番号は1314-35-8、淡黄色の粉末です。
酸化タングステンの使用用途
酸化タングステン (Ⅵ) は、その物理的、化学的性質を利用して、さまざまな産業で利用されています。
1. 電子デバイス
酸化タングステン (Ⅵ) のエレクトロクロミック性を利用することで、高い断熱効果を持つ膜の製造が可能となり、車や建物のスマートウィンドウに使用されています。電圧によって光の透過率を調整できるため、エネルギー効率の向上に貢献します。
2. 触媒材料
化学反応の触媒として使用され、環境浄化や有機合成において固体酸触媒として重要な役割を担います。また、可視光応答型の光触媒として有機物の分解や水素生成の研究対象となっており、環境浄化やエネルギー生成の分野で活用されています。
3. 光学材料
酸化タングステン (Ⅵ) は、その着色特性を活かし陶磁器やガラス製造の分野で塗料や顔料として使用されています。特に、黄色の着色剤として広く用いられ、耐久性や色の安定性が求められる製品に適した物質です。また、蛍光特性や高いX線吸収性を利用して、X線スクリーンの蛍光材料としても応用されています。
4. ガスセンサー
水素、一酸化炭素、アセトンなどの検出に用いられるガスセンサー材料として使用されます。半導体特性を持ち、表面でのガス分子との反応により電気抵抗が変化する性質を利用し、高感度にガスを検出します。
酸化タングステンの性質
1. 物理的性質
モル質量は231.84 g/mol、密度は約7.16 g/cm³、融点は1,473℃、沸点は約1,750 ℃です。結晶構造は温度によって変化し、17 ℃から330 ℃では単斜晶系、330 ℃から740℃では斜方晶系、740 ℃以上では正方晶系となります。特定の条件下では、斜方晶系や立方晶系をとることもあります。常温では安定ですが、700 ℃以上で酸化が始まり、1,400 ℃以上では顕著な昇華が起こります。水や酸には溶けませんが、フッ化水素 (HF) には溶解します。
2. 化学的性質
酸化タングステン (Ⅵ) は、空気中や水溶液中では安定した性質を示し、アルカリ性溶液やアンモニア水に溶解してタングステン酸塩を生成します。水素気流中で加熱すると酸化タングステン (IV) (WO2) に還元されます。有機化合物と高い反応性を示す強い酸化剤である他、太陽光を利用して化学反応を促進する光触媒としても機能します。また、広く研究されているエレクトロクロミック材料の一つであり、電圧をかけることで透明から不透明に変化します。
酸化タングステンの種類
タングステンの酸化数により、酸化タングステン (Ⅵ) (WO3) 以外にもさまざまな形態の酸化タングステンが存在します。酸化タングステン (Ⅵ) 以外の主な化合物は以下の3種類です。
1. 青色酸化タングステン (WO2.9)
青色の粉末で、特に国際的な需要に応じて生産されています。青色酸化タングステンは、タングステン粉末やタングステンカーバイドの製造において、黄色酸化タングステンよりも優れた特性を持ちます。
2. 紫色酸化タングステン (WO2.72)
紫色または紫赤色の微細結晶性粉末で、化学的活性が高く、超微細タングステン粉末の製造に適しています。ナノメートルサイズのタングステン粉末の需要拡大に伴い、市場での需要も増加しています。
3. 褐色酸化タングステン (WO2)
褐色の粉末で、主にタングステン粉末やタングステン三酸化物の中間体として使用されます。工業生産では一般的ではありませんが、特定の用途において重要な役割を果たし、触媒やセラミック添加剤としての利用が注目されています。
酸化タングステンのその他情報
1. 酸化タングステンの安全性
酸化タングステン (Ⅵ) の取り扱いには十分な注意が必要です。取り扱い時には最新の安全データシート (SDS) を参照し、適切な安全対策を講じてください。
2. 健康影響
眼に重篤な損傷を引き起こす可能性があるため、保護具の着用が必要です。粉じんやミストの吸入は避けてください。
急性毒性 (ラット経口LD50) は840 mg/kgで、GHS区分4に該当します。皮膚刺激性や眼への損傷性については十分なデータがないため、慎重に取り扱う必要があります。
3. 火災時のリスク
加熱により腐食性や毒性の煙を発生する可能性があります。
4. 取り扱い対策
局所排気装置や全体換気設備を使用してください。また、作業後は手を洗浄してください。
5. 漏洩時の対応
漏洩物は回収し、適切に廃棄してください。
参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0120-0346JGHEJP.pdf
https://www.chem-info.nite.go.jp/chem/chrip/chrip_search/cmpInfDsp?cid=C004-952-54A
https://www.kojundo.co.jp/dcms_media/other/WWO02PAG.pdf
https://www.chem-info.nite.go.jp/chem/chrip/chrip_search/cmpInfDsp?cid=C004-952-43A