シクロヘプタン

シクロヘプタンとは

シクロヘプタンの基本情報

図1. シクロヘプタンの基本情報

シクロヘプタン (Cycloheptane) とは、化学式C7H14で表されるシクロアルカン (脂環式有機化合物) です。

七員環構造を取ります。別名はヘプタメチレン、CAS登録番号は291-64-5 です。分子量98.2、融点-12℃、沸点 118℃であり、常温では無色の油状液体です。

臭いはおだやかな芳香と形容されます。密度は0.8110g/cm3であり、しばしば無極性溶媒として用いられます。エタノールジエチルエーテルに容易に溶け、ベンゼンクロロホルムにも溶解可能です。なお、水には溶けません。

シクロヘプタンの使用用途

シクロヘプタンの主な用途は、有機化学薬品分析のための実験用化学薬品、有機合成原料です。官能基置換のない、七員環シクロアルカンであるという構造的特徴から、無極性溶媒として用いられたり、ビルディングブロックとして用いられたりします。

化学工業においては、無極性溶媒や化学薬品、医薬品を製造する合成中間体として使用されます。

シクロヘプタンの特徴

シクロヘプタンの安定配座

図2. シクロヘプタンの安定配座

シクロヘプタンは7員環ですが、平面構造を取らないため、三次元的構造をしており、いくつかの配座があります。安定配座には、ねじれいす形、ねじれ舟形という2つの構造があり、最も安定なのはねじれいす形です。

それ以外の配座には、いす形、舟形、T3があり、安定配座間の遷移状態においてこれらの構造を取ります。また、塩化アルミニウムの作用によって環縮小反応が起こって異性化し、メチルシクロヘキサンが生成します。

引火点は6℃と低く、可燃性の高い物質です。熱や火炎に曝すと火災の危険性が高いとされています。強酸化剤などの酸素に富む物質とは反応性が高く、保管においては混触を避けることが必要です。

シクロヘプタンの種類

シクロヘプタンは、一般的に研究開発用試薬製品として販売されています。容量の種類は、1g , 5g , 25g , 25mLなどがあり、実験室で取扱いやすい、小型・小容量での提供が一般的です。常温で保管・輸送が可能な試薬製品として取り扱われます。

シクロヘプタンは引火性や可燃性が高く、人体にも有害な物質です。そのため、労働安全衛生法では「危険物・引火性の物」、消防法における 「第4類引火性液体、第一石油類非水溶性液体」として取り扱われる製品です。

そのほか、海洋汚染防止法や船舶安全法、航空法でも規制を受けています。法規制を遵守した保管・輸送・収受を心がけることが必要とされます。

シクロヘプタンのその他情報

1. シクロヘプタンの合成

シクロヘプタンの合成

図3. シクロヘプタンの合成

シクロヘプタンの合成方法には、シクロヘプタノンのクレメンゼン還元によるカルボニル基の還元や、1,6-ジブロモヘキサンとマロン酸ジエステルを用いた環化反応などがあります。

2. シクロヘプタンの安全性情報

シクロヘプタンは引火性・可燃性が高く、危険性の高い物質です。人体にとっても有害であり、 眠気やめまいを引き起こします。また、蒸気によって目の炎症が引き起こされ、大量に吸引すると換気低下の恐れがあるとされる物質です。

取り扱いの際は、 熱、火花、裸火、高温のもののような着火源から遠ざけ、使用時には換気を行うことが重要です。また、適切な保護具を使用し、ミスト、蒸気、スプレーの吸入を避けること、直接触らないようにすることも必要です。

もし、人体と接触してしまった場合は、衣類を脱ぐ、流水で流すなど、液体を速やかに取り除くべきとされています。吸入した場合は医療機関の受診が必要です。また、廃棄の際は、都道府県知事の許可を受けた専門の廃棄物処理業者に業務委託し、適切に廃棄処分を行うことが求められます。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/291-64-5.html

シクロブタジエン

シクロブタジエンとは

シクロブタジエン(C4H4)とは環式炭化水素のなかで共役二重結合を含む最も簡単な化合物です。

1965年にプティR.Pettitによって、シクロブタジエンの鉄カルボニル鎖体と4価セリウム塩を反応させて、シクロブタジエンを遊離されることが示されました。

π電子の数はベンゼンのような6個(4π+2)で構成される場合は安定になります。

シクロブタジエンはσ結合によって四角形を形成し、4個のπ電子で構成されるため不安定になり反芳香属性となります。

シクロブタジエンの使用用途

シクロブタジエンは4つの炭素原子で構成される反芳香属性のため存在できない分子です。

ヒュッケル則から不安定と解明されたシクロブタジエンは1970年代、長方形で一重項のシクロブタジエンが、最も安定した構造であることが明らかとなりました。

平成29年に、筑波大学数理物質系の関口教授(当時)らは、イスラエル工科大学Apeloig教授との共同研究によって、三重項状態のシクロブタジエンを光学的に観測することを、世界で初めて成功させました。

参考文献
筑波大学 正方形型シクロブタジエンの観測に世界で初めて成功
https://www.tsukuba.ac.jp/journal/images/pdf/170706sekiguchi-1.pdf

シクロオクタン

シクロオクタンとは

シクロオクタンの基本情報

図1. シクロオクタンの基本情報

シクロオクタン (Cyclooctane) とは、有機化合物の一種で、飽和8員環構造を取るシクロアルカン (脂環式化合物) です。

分子式は C8H16、CAS登録番号は292-64-8です。分子量112.21、融点12-14℃、沸点150℃であり、常温では無色から褐色の透明の液体となっています。

樟脳のような臭気があります (ただし、樟脳の成分であるカンファーとは分子構造は全く異なります) 。エタノールアセトンに溶けますが、水にはほとんど溶けません。水への溶解度は7.90 mg/Lです。密度は0.836g/mL (20℃) 、引火点は30℃です。

シクロオクタンの使用用途

シクロオクタンの主な使用用途は、溶媒や試薬です。合成中間体としても有用であり、例えばプラスチック、繊維、接着剤、コーティングを製造する中間体としても使用されます。

また、学術的には飽和8員環化合物の代表として、その立体配座は計算化学の手法を用いて広く研究されてきました。

シクロオクタンの性質

ニトロベンゼンと過酸化物を用いたシクロオクタンのアミノ化の例

図2. ニトロベンゼンと過酸化物を用いたシクロオクタンのアミノ化の例

シクロオクタンの化学反応には、飽和炭化水素の典型的な反応である燃焼反応やフリーラジカルハロゲン化反応があります。例えば、過酸化ジクミルのような過酸化物とニトロベンゼンを用いることでシクロオクタンのアミノ化が可能です。

通常の保管方法では安定ですが、保管においては、高温、直射日光、熱、炎、火花、静電気を避ける必要があります。また、強酸化剤との混触も厳禁です。有害な分解生成物としては、一酸化炭素二酸化炭素が挙げられます。

シクロオクタンの種類

シクロオクタンは主に研究開発用の試薬製品として販売されています。容量の種類には25mL , 500mLなどがあります。室温での取り扱いが可能な試薬ですが、引火点が低く、消防法での規制を受ける化合物であるため、法令を遵守した取り扱いが必要です。

また、全ての水素原子が重水素で置換されたシクロオクタンd-16も試薬製品として販売されています。こちらはNMR分析用の重溶媒として用いられる物質です。重水素の数が多いため高価であり、他の溶媒が使用できない場合など特殊な場合に用いられています。

シクロオクタンのその他情報

1. シクロオクタンの合成

シクロオクタンの合成はシクロオクタジエンを水素化して、飽和炭化水素にする方法で可能です。まず中間体である1,5-シクロオクタジエンなどの化合物が、ビス (シクロオクタジエン) ニッケルのようなニッケル (0) 錯体を触媒としたブタジエンの2量化で合成されます。

このシクロオクタジエンを接触還元などによって水素化することにより、シクロオクタンは合成されます。

2. シクロオクタンの立体配座

シクロオクタンの立体配座

図3. シクロオクタンの立体配座

シクロオクタンは似かよったエネルギーの立体配座が幾つも存在し、その立体化学は非常に複雑なシクロアルカンです。配座には、舟-いす形、かんむり形、おけ形、舟-舟形、ねじれ舟-いす形、ねじれいす-いす形があります。尚、最安定配座は舟-いす形であることが報告されています。

3. シクロオクタンの法規制情報と取扱い上の注意

シクロオクタンは引火点が30℃と低く、引火性の高い液体及び蒸気です。消防法では、「危険物第四類 第二石油類 危険等級Ⅲ」に指定されています。また、労働安全衛生法においては、危険物・引火性の物との指定を受ける化合物です。

火災予防としては、防爆型の電気機器・換気装置・照明機器を使用すること、 火花の出ない道具を使用すること、静電放電の予防措置を講ずることなどが必要です。また、本物質を取り扱う場合は、保護手袋、保護衣、保護眼鏡、保護面などの保護具を着用することが必要です。

もし皮膚に付着した場合は、ただちに汚染された衣類を全て脱いで皮膚を流水で洗う必要があります。また、飲み込んで気道に侵入すると生命に危険の恐れがあり、大変危険です。

参考文献
https://amasawahakusyo.com/electronics/soldering-method/

シクロオクタテトラエン

シクロオクタテトラエンとは

シクロオクタテトラエンの基本情報

図1. シクロオクタテトラエンの基本情報

シクロオクタテトラエン (Cyclooctatetraene, COT) とは、環状の不飽和炭化水素に分類される有機化合物の一種です。

分子式はC8H8で表され、分子内に4つの2重結合を含みます。アヌレン類の一種であることから、[8]アヌレンとも呼ばれます。IUPAC命名法による名称は、シクロオクタ-1,3,5,7-テトラエンです。通常、二重結合が全てシス型の (1Z, 3Z ,5Z, 7Z)-シクロオクタテトラエンを指します。CAS登録番号は、629-20-9です (all-cis体) 。

分子量は104.149、融点は-3 ℃、沸点は143 ℃であり、常温では密度0.919 g/cm3の黄色の液体です。悪臭をもち、空気中において徐々に重合します。水には溶解せず、エーテル、ベンゼンエタノールなどの有機溶媒に溶解します。

シクロオクタテトラエンの使用用途

シクロオクタテトラエンは、シリコン表面用の高有機膜の合成に使用されます。その他に、液体状態の有機色素レーザーや、2色素のまばたきを低減するための三重項状態消光剤としても使用用途があります。

また、有機合成化学においても合成上有用な化合物として扱われます。主な用途は、環状の化合物の合成中間体や、テレフタルアルデヒドやフェニルアセトアルデヒドの合成原料などです。

シクロオクタテトラエンの原理

シクロオクタテトラエンの原理を合成と化学的性質の観点から解説します。

1. シクロオクタテトラエンの合成

シクロオクタテトラエンの合成

図2. シクロオクタテトラエンの合成

シクロオクタテトラエンは、アセチレンテトラヒドロフランに溶解させてシアン化ニッケルを触媒として15~25気圧に加圧し、加熱しながら重合させる方法 (レッペ法) によって合成されます。

歴史的には、1912年にドイツのR・ウィルシュテッターにより、天然物のペレチュリンから初めて合成されました。

2. シクロオクタテトラエンの化学的性質

シクロオクタテトラエンの化学反応

図3. シクロオクタテトラエンの化学反応

シクロオクタテトラエンは、8π(パイ)電子系の環状不飽和炭化水素です。ヒュッケル則では、π電子の数が4n + 2  (n は0を含めた正の整数) であれば芳香族性を有するとされますが、シクロオクタテトラエンは該当しません。4nπ電子系の分子ですが、平面構造を取らないため、反芳香族にも分類されず、非芳香族の分子に分類されます。

all-cis型のシクロオクタテトラエンの配座は、おけ型 (ボート型) 構造です。炭素原子間の距離は結合の種類によって異なります。また、シクロオクタテトラエンは付加反応が起こりやすい化合物です。異性体であるビシクロオクタトリエンに転位しやすく、臭素化、付加反応、酸化反応などは、ビシクロオクタトリエンの形の反応生成物を与えます。

シクロオクタテトラエンの化学反応の中にはπ電子の数を変化させ、非芳香族から芳香族へと変わるものがあります。例えば、カリウムとの反応です。カリウム原子より二つ電子を受け取ってジアニオン (シクロオクタテトラエンジアニオン) となり、π電子数が10となってヒュッケル則を満たします。この二カリウムシクロオクタテトラエニドは、ウラノセン (シクロオクタテトラエンジアニオンとウランの化合物) の前駆体となります。 

シクロオクタテトラエンの種類

シクロオクタテトラエンは、有機合成上有用な化合物として、主に研究開発用試薬として販売されています。容量には、1mL , 5mL , 1g , 5gなどの種類があり、ガラス瓶容器で販売されている物質です。通常、冷蔵もしくは冷凍保管が必要な試薬として取り扱われます。

製品としてのシクロオクタテトラエンには0.1%程度の重合禁止剤 (ヒドロキノンなど) が含まれています。これは、シクロオクタテトラエンが非常に重合しやすい化合物であるためです。

その他に関連する物質では、シクロオクタテトラエン鉄トリカルボニルが研究開発用試薬として販売されています。この物質中では、シクロオクタテトラエンは鉄配位子としての機能を果たしています。

参考文献
https://www.jstage.jst.go.jp/article/yukigoseikyokaishi1943/25/1/25_1_25/_article/-char/ja/

グルタルアルデヒド

グルタルアルデヒドとは

グルタルアルデヒドの基本情報

図1. グルタルアルデヒドの基本情報

グルタルアルデヒド (Glutaraldehyde) とは、ジアルデヒド化合物に分類される有機化合物です。

分子式はC5H8O2であり、IUPAC命名法に則った名称では1,5-ペンタンジアール (1,5-Pentanedial) と呼ばれます。CAS登録番号は111-30-8です。

分子量100.12、融点-14℃、沸点71-72℃であり、常温では無色またはわずかに薄い黄色の液体です。刺激臭があります。水、アルコール、アセトンに容易に溶解する物質です。

また、強い毒性と刺激性を持ち、化学物質過敏症の発症も示唆されています。これらの有害性から、グルタルアルデヒドは各種法規制を受ける化合物です。例えば、化審法では「 第2種監視化学物質」、労働安全衛生法では「 名称等を表示すべき危険有害物」「リスクアセスメントを実施すべき危険有害物」「変異原性が認められた既存化学物質」に指定されています。

グルタルアルデヒドの使用用途

グルタルアルデヒドは電子顕微鏡の固定液のほか、皮のなめし剤や紙・プラスチックなどへの定着剤、 写真用ゼラチンの架橋剤 (硬膜剤) 、レントゲン写真の現像液などに使用されます。

アルデヒド基を2つ持っているため固定力が強く、微細構造の形態保持に優れています。しかし、組織内の浸透力が弱いため、通常、組織試料は1mm角の大きさが上限です。更に、約1~2時間程度、4℃で冷却する必要があります。

強い殺菌力を有しており、内視鏡や手術器具類などの医療用器具・機器・装置に対して、化学的滅菌・殺菌消毒剤として利用されます。2%グルタルアルデヒド溶液や20%グルタルアルデヒド溶液は医療用医薬品として認可されている薬品であり、ほとんど全ての細菌、真菌、芽胞、ウイルスに有効です。

医療以外では、クーリングタワー等の殺藻剤、畜鶏舎や養鶏用器具機材の殺菌・消毒剤にも使用されています。

グルタルアルデヒドの特徴

グルタルアルデヒドは、加熱などに対して比較的不安定であり、重合することがあります。また、酸化反応によってグルタル酸に変化します。

グルタルアルデヒドの種類

現在販売されているグルタルアルデヒド製品には、医療用医薬品、研究開発用試薬などの種類があります。

医療用医薬品としての製品は前述の通り医療用器具の殺菌剤として用いられる薬品であり、2%グルタルアルデヒド溶液や20%グルタルアルデヒド溶液などの種類があります。

研究開発用試薬製品も主には水溶液で販売されており、濃度には25%や50%などの種類があります。容量は25mL , 500mL , 1L , 3Lなどがあり、実験室で取り扱いやすい容量での提供です。

グルタルアルデヒドのその他情報

1. グルタルアルデヒドの作用と反応性

グルタルアルデヒドの水溶液中の構造

図2. グルタルアルデヒドの水溶液中の構造

グルタルアルデヒドの固定液や殺菌液としての作用は、アルデヒド基の反応性の高さに由来します。生物学分野において固定液として用いた場合の主要な反応は、タンパク質のリジン残基のε-アミノ基との反応ですが、α-アミノ基やSH基との間でも反応は起こります。

これらによって分子間架橋を形成し、固定液として機能するというメカニズムです。この際、1分子のグルタルアルデヒドが単独で架橋形成を起こすのではなく、水溶液中に形成された2量体や3量体といった重合体や、それらがアルドール縮合を起こした不飽和アルデヒドが反応活性種であると考えられています。

グルタルアルデヒドの化学反応

図3. グルタルアルデヒドの化学反応

なお、殺菌剤として用いられた場合の作用機序は、グルタルアルデヒドのアルデヒド基が細胞質のアミノ基の部分をアルキル化することによるとされています。

2. グルタルアルデヒドの有害性

グルタルアルデヒドは強い毒性と刺激性を持つため、下記の有害性が報告されています。明確な発がん性は報告されていないものの、ホルムアルデヒド同様の化学物質過敏症の発生が指摘されています。

  • 飲み込むと有害
  • 皮膚に接触すると有害
  • 吸入するとアレルギー、喘息または呼吸困難を起こすおそれ
  • 重篤な皮膚の薬傷・眼の損傷
  • アレルギー性皮膚反応を起こすおそれ
  • 中枢神経の障害
  • 呼吸器への刺激のおそれ
  • 長期または反復暴露による気道の障害

参考文献
https://catalog.takara-bio.co.jp/PDFS/SDS_0325.pdf
https://www.env.go.jp/chemi/report/h23-01/pdf/chpt1/1-2-2-06.pdf
http://www.kbkb.jp/bus/fixed.html

グリシドール

グリシドールとは

グリシドール (C3H6O2) とは、分子内にエポキシドと水酸基の両方を含む有機化合物です。

グリシドールは慣用名ですが、一般的に用いられており、別名としてオキシラニルメタノール、2,3-エポキシ-1-プロパノールなどがあります。

グリシドールの使用用途

グリシドールはエポキシ樹脂、アルキド樹脂の反応性希釈剤などに用いられます。また、分子内に2つ以上のカルボン酸をもつ化合物とグリシドールの水酸基を反応させエステル化することで、簡単に多官能のエポキシ基をもつ化合物の合成ができるため、多品種のエポキシ樹脂前駆体を作る原料としても使用可能です。

そのほか、グリシドールは塩素系有機化合物の安定剤、合成樹脂の反応性希釈剤及び改質剤、染料の染色性改良剤等としても使用されています。

グリシドールの性質

無色から淡黄色の透明の液体で、わずかに粘性があります。-54℃に融点を持ち、沸騰の前に162℃で熱分解し始めます。引火点は72℃で消防法の危険物第4塁第3石油類水溶性に該当します。

脂肪族炭化水素には溶けませんが、水、エタノール、エーテル、ベンゼンなどほとんどの溶媒に溶けます。密度は1.112g/mlです。

グリシドールのその他情報

1. グリシドールの製造方法

グリシドールは、アリルアルコール (CH2=CHCH2OH) を過酢酸または過酸化水素と反応させることで合成することができます。過酢酸 (CH3COOOH) との反応では、グリシドールと酢酸が生成し、過酸化水素 (H2O2) との反応では、グリシドールと水が生成します。

原料となるアリルアルコールはプロピレンから合成されますが、この経路の方法はさまざまです。元々このプロピレン→アリルアルコール→グリシドールの合成経路には、さらにその先にグリセリンという最終目的物がありました。

しかし、グリセリンは天然油脂の加水分解生成物でもあり、近年はバイオディーゼル燃料の需要が増え、バイオディーゼル燃料を製造する際の副生物としてグリセリンが大量に生成され供給過剰になっている状況です。そのため、現在はグリシドールが目的生成物になっています。

2. グリシドールの危険有害性

グリシドールが暴露する経路は、蒸気が口から侵入したり皮膚から吸収される経路があります。この物質に暴露した場合は、眼や上部呼吸器、皮膚、粘膜に対して刺激を感じ、中枢神経系への影響もあります。

許容濃度を超えて暴露した場合は、意識が低下することもあります。また、蒸気を吸入することによって肺水腫や肺炎、長期暴露の場合、皮膚が感作される危険性も高いです。

沸点が高いため、蒸気の暴露や吸入の可能性は低いですが、取扱う際は目や皮膚に付着しないように、保護マスク、保護メガネ、保護手袋、長袖作業衣といった保護具の着用が必要です。

3. グリシドールの安定性及び反応性

化学的危険性としては、強酸、強塩基、塩 (塩化アルミニウム、塩化第二鉄) 、あるいは金属 (亜鉛) と接触すると分解し、火災や爆発を起こすことがあります。また、プラスチックやゴムを腐食することがあります。

4. グリシドールの発がん性

グリシドールは、発がん性物質グループ2A (おそらく発がん性がある) に分類されています。以前、グリシドール脂肪酸エステルを主成分とする食用油が、脂肪がつきにくい食用油として特定保健用食品で販売されていました。

しかし、グリシドール脂肪酸エステルが体内で分解されると、発がん性物質とされるグリシドールを許容できないレベルの摂取と同義になりかねないことから、メーカーの自主回収、販売自粛に至ったことがありました。

参考文献
https://www.mhlw.go.jp/shingi/2004/11/dl/s1115-11k1.pdf
https://www.kao.com/jp/nutrition/about-dag/ge/ge02/

キセノン

キセノンとは

キセノン (英: xenon) とは、原子番号54の元素で、第18族元素である貴ガスの1つです。

1898年に発見され、ギリシア語のxenos (異邦人) から命名されました。天然には9種の同位体が存在し、人工的にも放射性同位体が得られています。

常温常圧では無色無臭の気体で存在し、空気中にもわずかに含まれています。化学的には非常に安定な不活性ガスです。労働安全衛生法では、労働安全衛生規則第24条の14、15危険有害化学物質等に関する危険性又は有害性等の表示等に該当します。

キセノンの使用用途

キセノンは、自然光に近い光を発するため、キセノン封入ランプとして使用されています。具体的には、写真のフラッシュランプ、灯台のランプ、自動車のヘッドライトなどです。

また、ロケットエンジンの1つであるイオンエンジンとして、人工衛星の軌道制御に使用可能です。断熱性能が高いため、複層ガラスにも封入されています。

医薬分野では、人体への拡散や溶解性に優れており、X線の高エネルギー電磁波の透過を防ぐ能力もあるため、CTスキャナの造影剤として使うことが可能です。麻酔作用もあるため、研究が進められています。

キセノンの性質

キセノンの融点は-111.9°Cで、沸点は-108.1°Cです。一般的な貴ガスの最外殻電子は閉殻構造を取っており、ほぼ反応しません。その一方で、キセノンは原子核から最外殻まで距離があり、他の電子の遮蔽効果により束縛は弱いです。

したがって、イオン化エネルギーが比較的低いので、他の貴ガス元素に比べてキセノンはイオン化しやすいです。そして、反応性が高い酸素やフッ素と反応して、酸化物やフッ化物などを生じます。

キセノンの構造

キセノンの元素記号はXeです。固体のキセノンは、安定な面心立方構造を取っています。電子配置は[Kr] 5s2 4d10 5p6です。

全元素中でキセノンは、スズに次いで2番目に安定同位体の数が多いです。例えば、124Xe、126Xe、134Xe、136Xeなどは二重ベータ崩壊 (英: double beta decay) が起きると予測できますが、これまでに観測されていないため、安定同位体として数えられています。

キセノンには、放射性同位体が40種類以上知られています。129Iのβ崩壊で129Xeが生成し、235Uや239Puの核分裂反応で131mXe、133Xe、133mXe、135Xeは生成するため、核爆発の指標に使用可能です。

キセノンのその他情報

1. キセノンの精製

キセノンは、単独で空気中から精製されません。液体酸素、液体窒素、液化アルゴンなどを生産する際に、大型空気分離装置を用いたジュール=トムソン効果 (英: Joule–thomson effect) による断熱膨張によって、液化した空気の分留の副産物として回収されています。

2. キセノンの化合物

1962年に化学結合を持つ最初の貴ガス化合物として、ヘキサフルオロ白金酸キセノンが合成されました。化学式はXePtF6です。それ以外にも、二フッ化キセノン (XeF2) 、四フッ化キセノン (XeF4) 、六フッ化キセノン (XeF6) などのハロゲン化物も合成できます。ただし、フッ化物はいずれも、容易に水で加水分解されます。

四フッ化キセノンや六フッ化キセノンと水の反応によって、酸化物である三酸化キセノン (XeO3) を得ることが可能です。三酸化キセノンの構造は三角錐型で、爆発性の化合物です。アルカリ条件下では、Xe0とXeVIIIに不均化します。さらに、六フッ化キセノンと石英 (SiO2) を反応させると、四フッ化酸化キセノン (XeOF4) が生成します。

ジクロロメタン中でC6F5BF2とXeF4を混合すると、有機キセノン化合物である[C6F5XeF2]+[BF4]を合成可能です。

参考文献
https://www.hokkaido-awi.co.jp/industry/gas/sds/pdf/xenon.pdf

インジウム

インジウムとは

インジウムとは、周期表第13属に属する金属元素で、元素記号はIn、原子番号は49です。

密度は7.3で、融点は156.4℃で、金属の中ではかなり低い部類に入ります。インジウムは発光スペクトルが濃い青色であることから、Indigoという言葉が語源になって名前が付けられました。

天然では単独の鉱物として存在せず、主に閃 (せん) 亜鉛鉱などの硫化物中にわずかに存在し、亜鉛や鉛の精錬の際に副産物として回収されます。非常に希少性が高く、レアメタルの1つです。希少な資源であるにもかかわらず、需要は拡大しているため、資源確保およびコストの面が問題になっています。

化学式 In
原子番号 49
英語名 Indium
分子量 114.818
融点 156.6°C

インジウムの使用用途

インジウムの主な用途に、液晶ディスプレイやタッチパネルがあります。構造上、液晶パネルには透明な電極が必要ですが、この透明な電極には酸化インジウムスズが利用されています。酸化インジウムスズは、インジウムの酸化物である酸化インジウム (In2O3) に酸化スズ (SnO2) を添加した物質で、通称ITOと呼ばれています。

酸化インジウムスズ (ITO) で形成された薄膜 (ITO膜) は、可視光の透過性と導電性を併せ持っており、液晶パネルにおける透明な電極としての役割を果たしため多く用いられてきました。そのほか、インジウムをシリコン、ゲルマニウムにドーピングすることでp型半導体とすることができます。

また、インジウムは、常温でも柔らかく、展延性に優れていますので、ガラスや金属との接合性が非常に高いです。そのため、低温環境下でも使用可能なシール材として利用されたり、低融点合金のはんだとしても有用です。

インジウムの性質

物理的性質は、帯青白色または銀灰色をしており、ナイフで切断できるほど柔らかいです。常温の空気中では非常に安定しています。化学的性質は、酸に侵されやすいですが、アルカリには安定しています。

インジウムの化合物として、酸化インジウム、リン化インジウム、ヒ化インジウム、アンチモン化インジウムなどが挙げられます。また、インジウムは質量数が113のものと115のものが存在し、113のものが安定同位体で、115のものが放射性同位体となっています。

しかし、インジウムは自然界においては質量数115のものがおよそ95%の存在比を占めており、安定同位体よりも放射性同位体の方が多くの存在比を持つという珍しい元素です。しかし、この質量数115の放射性同位体は半減期が441兆年と非常に長く、ほとんど安定同位体と言っても差し支えありません。

そのため、さまざまな電子部品にインジウムは使用されていますが、その放射能が問題とされることはありません。

インジウムのその他情報

1.  インジウムの危険性

インジウムから作られるITOについて、以前に間質性肺炎による死亡例が報告されており、ITOを取り扱う作業者の間で間質性肺炎の罹患例はいくつか報告されています。それを受けて、2010年に厚生労働省からインジウム・スズ酸化物等取扱い作業による健康障害防止対策が発表されました。

2. インジウムの生産

かつては日本の北海道にある鉱山が世界で最もインジウムを生産していましたが、現在は中国が最も生産しています。その他、生産量が多い国は、韓国やカナダ、日本などです。

しかし、現代の需要に応じてインジウムの採掘現場や加工工場が急速に増加し、そのことが環境破壊につながっているとされています。そのため、日本においてはインジウムのリサイクルを促進したり、代替材料を使用したりといった対応策がとられています。

参考文献
https://pubchem.ncbi.nlm.nih.gov/compound/5359967
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/7440-74-6.html 

アジポニトリル

アジポニトリルとは

アジポニトリルの基本情報

図1. アジポニトリルの基本情報

アジポニトリルとは、ジニトリルの1種で、常温では無色の液体です。

別名、「ヘキサンジニトリル」「1,4-ジシアノブタン」などとも呼ばれます。可燃性で、有毒ガスを発生させます。他のシアン化合物と同様に、劇毒です。

消防法にて「第4類引火性液体」に、毒物及び劇物取締法にて「劇物」に、労働安全衛生法にて「名称等を表示し、又は通知すべき危険物及び有害物」に、それぞれ指定されており、取り扱いには注意が必要です。

アジポニトリルの使用用途

アジポニトリルは、ナイロン66 (Nylon 66) の製造に用いられる重要な中間体で、用途の大部分はナイロン製造用です。ナイロン66には、高強度・耐摩耗性・電気絶縁性といった特性があり、電子機器や自動車、包装、建築、消費財などの用途に幅広く使用されています。

ナイロンの原料として用いられる以外にも、さび止め剤やゴムの加硫促進剤の製造中間体としても用いられています。ガラス繊維などとのコンポジット化によって、自動車の構造材としても利用される場合が多いです。 

アジポニトリルの性質

アジポニトリルは、水・メタノールエタノールクロロホルムに溶けます。融点は1°C、沸点は295°Cです。経口的に他のシアン化合物と同じく劇毒ですが、呼吸的には蒸気圧が低いため経皮的に危険性は少ないと言えます。

分子式はC6H8N2、分子量は108.14です。シアノ基を2つ持った有機化合物であり、示性式はNC(CH2)4CN、密度は0.97g/cm3です。

アジポニトリルのその他情報

1. アジポニトリルの合成例

アジポニトリルの合成法

図2. アジポニトリルの合成法

一般的にアジポニトリルは、五酸化バナジウム等を触媒として、アジポアミドを脱水することで得ることが可能です。工業化された方法には、ブタジエンをヒドロシアノ化することによる合成法があります。

それ以外にも、プロペン (英: propene) のアンモ酸化 (英: ammoxidation) で生じるアクリロニトリル (英: acrylonitrile) を、電解二量化還元すると生成します。

2. アジポニトリルの合成法の詳細

アジポニトリルは、アジポアミドの脱水で得られます。具体的には、シクロヘキサンの酸化によって生じるアジピン酸に、アンモニアを反応させます。生成したアジピン酸アンモニウムを、リン酸系触媒を使用して脱水すると得ることが可能です。

ブタジエンのヒドロシアノ化でも合成できます。まず、銅-マグネシウムクロマイト触媒によって、青酸とブタジエンを気相で反応させると、3-ペンテンニトリル (英: 3-pentenenitrile) と4-ペンテンニトリル (英: 4-pentenenitrile) が主生成物として得られます。

これら生成物をニッケル系錯体触媒を用いて、さらに液相でシアン化水素酸と反応させることで、アジポニトリルを得ることが可能です。

3. アジポニトリルの反応

アジポニトリルの反応

図3. アジポニトリルの反応

ニッケルなどを触媒として、アジポニトリルを水素化すると、ヘキサメチレンジアミン (英: hexamethylene diamine) となります。そして、加水分解によって、アジピン酸 (英: adipic acid) を得ることが可能です。アジポニトリルから生成するヘキサメチレンジアミンとアジピン酸を縮重合することで、ナイロン66が製造されています。

4. ナイロンの合成中間体としてのアジポニトリル

ナイロン66の合成中間体として、アジポニトリルは重要な化合物です。ナイロン66を得るために必要なヘキサメチレンジアミンとアジピン酸は、いずれもアジポニトリルから合成できます。

参考文献
http://www.kishida.co.jp/product/catalog/msds/id/14055/code/LBG-01583j.pdf

銅クロロフィル

銅クロロフィルとは

銅クロロフィルとは、クロロフィル中のマグネシウムがで置換された化合物です。

別名として、銅葉緑素が挙げられます。銅クロロフィルは、水には難溶である一方で、油に可溶という性質を有します。

銅クロロフィルの元となるクロロフィルは、植物に含まれる天然の緑色色素です。クロロフィルによって植物の葉が緑色に見えています。しかし、クロロフィルをそのまま緑色の着色剤として使用すると、時間の経過とともに退色してしまいます。

クロロフィルの代わりに着色剤として用いられる物質が、銅クロロフィルです。銅クロロフィルは、天然のクロロフィルよりも酸や光に対する安定性が高まっているため、緑色を安定的に発色できます。

銅クロロフィルの使用用途

銅クロロフィルの使用用途は主に着色剤です。ただし、銅クロロフィルは水にほとんど溶けないため、着色剤としての用途が限定されます。

そこで、銅クロロフィルを加水分解することによって得られる水溶性の銅クロロフィリンナトリウムが、着色料として使用されています。銅クロロフィリンナトリウムは、食品や化粧品などの分野で使用されています。銅クロロフィルは、銅クロロフィリンナトリウムを得るための中間原料として使用される場合が多いです。

1. 食品分野における使用用途

銅クロロフィルは、緑色の着色剤として各種の食品に添加物として使用されますが、安全性の観点で使用基準が定められています。使用対象食品を列記すると以下の通りです。銅クロロフィリンナトリウムは下記の食品の他、あめ類にも使用できます。

  • 昆布
  • 野菜類や果実類の貯蔵品
  • チューインガム
  • 魚肉ねり製品
  • 生菓子
  • チョコレート
  • みつ豆缶詰中の寒天

銅クロロフィルおよび銅クロロフィリンナトリウムの両方が、指定添加物の着色料として認可されています。銅クロロフィルや銅クロロフィリンナトリウムの配合上限は、食品の種類ごとに定められています。

配合量は、銅クロロフィルや銅クロロフィリンナトリウム自体の量で決められているのではなく、銅 (Cu) の量に換算した量で定められています。例えば、食品1kgあたり銅クロロフィルを1g配合した場合、銅で換算した配合量は1gよりも少なくなります。

2. 食品以外の分野における使用用途

銅クロロフィルは、緑色に着色させる目的で化粧品、医薬部外品、医薬品などに添加されます。化粧品および医薬部外品では、例えば、クレンジング製品、シャンプー製品、洗顔石鹸、歯磨き剤といった洗浄系の製品に配合されています。特定の医薬部外品 (薬用化粧品) では、以下の通り配合上限が定められています。

  • 薬用口唇類 (0.050%)
  • 薬用歯みがき類 (0.050%)

銅クロロフィルの性質

銅クロロフィルの主な性質として、長期間にわたって緑色を発色できる点が挙げられます。銅クロロフィルは、分子の中心にある銅 (Cu) が分子外へ離脱しにくいため、天然にあるクロロフィルよりも退色が抑えられています。

換言すると、天然のクロロフィルの分子中心にあるマグネシウム (Mg) は銅 (Cu) よりも離脱しやすいことから、天然のクロロフィルは比較的短時間で退色します。つまり、マグネシウム (Mg) と銅 (Cu) を比べると、銅 (Cu) の方がクロロフィルのテトラピロール環の中に安定して存在可能です。

このような理由により、天然のクロロフィル中にあるマグネシウム (Mg) が銅 (Cu) に置き換えられて銅クロロフィルになると、安定的に緑色を発色できるようになります。よって、緑色を安定的に発色するという効果が発揮されます。

銅クロロフィルの構造

銅クロロフィルの分子構造は、クロロフィル (葉緑素) と類似しています。クロロフィルは、テトラピロール環という環状構造と、疎水性の長鎖アルキル構造を有します。テトラピロール環の中心にあるマグネシウム (Mg) が銅 (Cu) に置き換わった物質が銅クロロフィルです。

銅クロロフィルは疎水性の長鎖アルキル構造を有するため、水に溶解しにくい油溶性です。油溶性の銅クロロフィルが加水分解されると水溶性になります。すなわち、銅クロロフィルの分子内にある長鎖アルキル構造が加水分解によって外れると、水溶性のクロロフィリン構造へと変化します。

クロロフィリン構造が塩となった銅クロロフィリンナトリウムは、さらに水に溶解しやすい性質を有します。

銅クロロフィルのその他情報

クロロフィルの種類

クロロフィルには複数の種類があります。植物および藻類に一般的に含まれているクロロフィルa、植物のみに含まれているクロロフィルb、藻類のみに含まれているクロロフィルc1、c2などが代表的です。

参考文献
https://www.pref.aichi.jp/eiseiken/gijyutu/19941804.pdf