キセノンとは
キセノン (英: xenon) とは、原子番号54の元素で、第18族元素である貴ガスの1つです。
1898年に発見され、ギリシア語のxenos (異邦人) から命名されました。天然には9種の同位体が存在し、人工的にも放射性同位体が得られています。
常温常圧では無色無臭の気体で存在し、空気中にもわずかに含まれています。化学的には非常に安定な不活性ガスです。労働安全衛生法では、労働安全衛生規則第24条の14、15危険有害化学物質等に関する危険性又は有害性等の表示等に該当します。
キセノンの使用用途
キセノンは、自然光に近い光を発するため、キセノン封入ランプとして使用されています。具体的には、写真のフラッシュランプ、灯台のランプ、自動車のヘッドライトなどです。
また、ロケットエンジンの1つであるイオンエンジンとして、人工衛星の軌道制御に使用可能です。断熱性能が高いため、複層ガラスにも封入されています。
医薬分野では、人体への拡散や溶解性に優れており、X線の高エネルギー電磁波の透過を防ぐ能力もあるため、CTスキャナの造影剤として使うことが可能です。麻酔作用もあるため、研究が進められています。
キセノンの性質
キセノンの融点は-111.9°Cで、沸点は-108.1°Cです。一般的な貴ガスの最外殻電子は閉殻構造を取っており、ほぼ反応しません。その一方で、キセノンは原子核から最外殻まで距離があり、他の電子の遮蔽効果により束縛は弱いです。
したがって、イオン化エネルギーが比較的低いので、他の貴ガス元素に比べてキセノンはイオン化しやすいです。そして、反応性が高い酸素やフッ素と反応して、酸化物やフッ化物などを生じます。
キセノンの構造
キセノンの元素記号はXeです。固体のキセノンは、安定な面心立方構造を取っています。電子配置は[Kr] 5s2 4d10 5p6です。
全元素中でキセノンは、スズに次いで2番目に安定同位体の数が多いです。例えば、124Xe、126Xe、134Xe、136Xeなどは二重ベータ崩壊 (英: double beta decay) が起きると予測できますが、これまでに観測されていないため、安定同位体として数えられています。
キセノンには、放射性同位体が40種類以上知られています。129Iのβ崩壊で129Xeが生成し、235Uや239Puの核分裂反応で131mXe、133Xe、133mXe、135Xeは生成するため、核爆発の指標に使用可能です。
キセノンのその他情報
1. キセノンの精製
キセノンは、単独で空気中から精製されません。液体酸素、液体窒素、液化アルゴンなどを生産する際に、大型空気分離装置を用いたジュール=トムソン効果 (英: Joule–thomson effect) による断熱膨張によって、液化した空気の分留の副産物として回収されています。
2. キセノンの化合物
1962年に化学結合を持つ最初の貴ガス化合物として、ヘキサフルオロ白金酸キセノンが合成されました。化学式はXePtF6です。それ以外にも、二フッ化キセノン (XeF2) 、四フッ化キセノン (XeF4) 、六フッ化キセノン (XeF6) などのハロゲン化物も合成できます。ただし、フッ化物はいずれも、容易に水で加水分解されます。
四フッ化キセノンや六フッ化キセノンと水の反応によって、酸化物である三酸化キセノン (XeO3) を得ることが可能です。三酸化キセノンの構造は三角錐型で、爆発性の化合物です。アルカリ条件下では、Xe0とXeVIIIに不均化します。さらに、六フッ化キセノンと石英 (SiO2) を反応させると、四フッ化酸化キセノン (XeOF4) が生成します。
ジクロロメタン中でC6F5BF2とXeF4を混合すると、有機キセノン化合物である[C6F5XeF2]+[BF4]–を合成可能です。
参考文献
https://www.hokkaido-awi.co.jp/industry/gas/sds/pdf/xenon.pdf