炭酸バリウム

炭酸バリウムとは

炭酸バリウムとは、炭酸のバリウム塩です。

天然では石灰岩質の堆積層に作られた熱水鉱床の中で、毒重石 (英: witherite) として産出します。バリウムの原料は、一般的に重晶石 (英: bariteまたはbaryte) が使用されています。ただし、イギリスでは多く毒重石が産出されたため、バリウムの原料として毒重石を使うこともありました。

日本では「毒物及び劇物取締法」や「毒物及び劇物指定令」において「劇物」に指定されています。消防法、大気汚染防止法、労働安全衛生法、航空法、船舶安全法などにも規定があります。

炭酸バリウムの使用用途

炭酸バリウムは、バリウム塩やクリスタルガラス、ブラウン管に使用されるバリウムガラスなどの原料として用いられています。また、電極、塗料、エナメル、陶磁器・琺瑯の釉薬、金属熱処理の浸炭剤、紙などといった用途にも利用可能です。

近年では、炭酸バリウムは、電子材料用の原料として幅広く使用されています。主に、セラミックコンデンサ等に使われるチタン酸バリウムや複合酸化物などの原料として使用可能です。

それ以外にも、PTCサーミスタ用の原料、光学ガラス・半導体用スパッタガラス用の原料、蛍光体材料のバリウム成分の原料などとしても、幅広く利用されています。さらに、炭酸バリウムには毒性があるため、殺虫剤や殺鼠剤にも使用されています。 

炭酸バリウムの性質

炭酸バリウムは、水にはほとんど溶けません。20°Cにおける水への溶解度は、0.0024g/100mLです。ただし、二酸化炭素を含む水には、炭酸水素バリウムとなって溶けます。炭酸バリウムは硝酸塩酸エタノールにも溶解しますが、硫酸には溶けません。

炭酸バリウムの融点は811°Cです。空気中で炭酸バリウムが加熱されると、1,450℃で分解します。酸によっても分解し、二酸化炭素を発生します。

炭酸バリウムの構造

炭酸バリウムはバリウムの炭酸塩であり、通常の炭酸バリウムは無色の結晶です。バリウムイオン (Ba2+) と炭酸イオン (CO32-) の両イオンの配列は、硝酸カリウム中のカリウムイオン (K+) と硝酸イオン (NO3) の両イオンと配列が同じです。

この斜方状結晶以外にも、非晶質と六方晶系結晶の二変態が存在し、これら三変態をα形、β形、γ形と呼びます。高圧二酸化炭素中811℃で斜方晶系のγ形は非晶質のβ形になり、982℃で六方晶系のα形に転移します。

炭酸バリウムの化学式はBaCO3、モル質量は197.34g/mol、密度は4.286g/cm3です。屈折率 (nD) は1.60で、標準生成熱 (ΔfHo) は−1,219kJ/molです。

炭酸バリウムのその他情報

1. 炭酸バリウムの合成法

炭酸バリウムは、水酸化バリウム水溶液に二酸化炭素を通すと生成します。バリウム塩水溶液に炭酸アルカリを加えても、沈殿物として炭酸バリウムを得ることが可能です。

工業的には、重晶石を600~800℃で炭素還元し、生成した硫化バリウムの熱水溶液に、二酸化炭素を通すことによって製造しています。

2. 炭酸バリウムの危険性

炭酸バリウムは塩酸に溶けて、バリウムイオンを有する水溶液となります。したがって、X線撮影の造影剤として誤って硫酸バリウムを使用すると、塩酸を含んでいる胃酸に溶けるため、有毒なバリウムイオンを生成して危険です。このような理由から、炭酸バリウムを含む天然鉱物に毒重石という名称が付けられました。

ウィリアム・ウィザリング (英: William Withering) は、化学的に毒重石と重晶石が違うことを発見しました。重晶石とは硫酸塩鉱物の1種であり、化学組成は硫酸バリウム (BaSO4) です。硫酸カルシウムを含んだ水によって、毒重石は硫酸バリウムに変化するため、結晶の表面が重晶石で覆われている場合がよくあります。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/513-77-9.html

水酸化バリウム

水酸化バリウムとは

水酸化バリウムとは、バリウムの水酸化物で、塩基性の無機化合物です。

乾燥体には92~95%の一水和物が存在し、水溶液では無色の結晶である8水和物が生成されます。水溶液は強アルカリ性で、バリタ水 (英: baryta water) と呼ばれます。

大気中で水酸化バリウムは、二酸化炭素と反応することで、炭酸バリウムを生成可能です。水酸化バリウムの一水和物が市販されています。一般的な水溶性バリウム化合物と同じく毒性が強いため、劇物に指定されています。

水酸化バリウムの使用用途

水酸化バリウムは、ガラスの製造や油の精製、水の軟化、製糖、各種バリウム化合物の製造、有機合成など、幅広い用途で用いられています。また、グリース塩化ビニルの安定剤として利用されるバリウム石鹸の製造において、油脂の鹸化にも使用可能です。

水酸化バリウムは、中和滴定のアルカリ標準液や二酸化炭素の定量など、分析試薬・実験試薬としても利用されています。水酸化バリウムは他にも、触媒や潤滑油添加剤の製造、顔料の原料、硫酸の中和除去剤、めっき用試薬、ケイ酸塩の融解などにも使用されています。

水酸化バリウムの性質

水酸化バリウムは、潮解性を有する白色の結晶です。水やメタノールに溶けやすいです。水酸化バリウムの融点は408℃、8水和物の融点は78℃、780℃で分解します。

水酸化バリウムは、水酸化物イオンとバリウムイオンから構成されるイオン結晶です。外観は粒状または粉末状で、分子量は171.34、化学式はBa(OH)2です。

無水物の結晶構造は単斜晶系で、8水和物は正方晶系を取っています。無水物の密度は4.495g/cm3、一水和物の密度は4.495g/cm3、8水和物の密度は3.74g/cm3です。

水酸化バリウムのその他情報

1. 水酸化バリウムの合成法

水酸化バリウムは、酸化バリウムと水の反応により生成されます。再結晶によって8水和物が得られ、空気中で加熱すると一水和物になります。

減圧下で100℃まで熱すると、無水物を得ることも可能です。ただし、酸化バリウムの水和反応は、生石灰 (酸化カルシウム) の消和よりも激しいため危険を伴います。

また、硝酸バリウム水酸化ナトリウムの反応によっても、水酸化バリウムの8水和物が得られます。

2. 水酸化バリウムを用いた滴定

指示薬の構造

図1. 指示薬の構造

分析化学で水酸化バリウムは、弱酸や有機酸の滴定に利用されています。透明な水酸化バリウムの水溶液は、炭酸塩を含んでいないことを示します。水に炭酸バリウムが不溶なためであり、水酸化カリウムや水酸化ナトリウムなどが持っていない特徴です。

この性質を利用すると、アルカリ性で変色する指示薬として、フェノールフタレイン (英: phenolphthalein) やチモールフタレイン (英: thymolphthalein) を用いた場合に、弱塩基の炭酸イオンが存在しても、終点誤差が出ずに滴定できます。

3. 水酸化バリウムを用いた分解反応

水酸化バリウムによる加水分解

図2. 水酸化バリウムによる加水分解

有機合成では強塩基として水酸化バリウムを、エステルやニトリルの加水分解に利用可能です。また、こぼした酸性の物質を中和して、危険性を減らすために水酸化バリウムは使用されています。

さらに、ウンデカンカルボン酸ジメチルエステル (英: undecanoic acid dimethyl ester) のエステル結合の片方だけを、加水分解する反応にも用いることが可能です。

4. 水酸化バリウムを用いた合成反応

水酸化バリウムを用いた合成反応

図3. 水酸化バリウムを用いた合成反応

シクロペンタノン (英: cyclopentanone) 、ジアセトンアルコール (英: diacetone alcohol) 、D-グロン酸-γ-ラクトン (D(-)-gulonic acid γ-lactone) などの合成にも、水酸化バリウムは使用されます。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/17194-00-2.html

水酸化アルミニウム

水酸化アルミニウムとは

水酸化アルミニウムとは、アルミニウムの水酸化物です。

水酸化アルミニウムは、ギブス石 (英: gibbsite) やダイアスボア (英: diaspore) 等として、天然に産出します。化学的にはアルミン酸ナトリウム水溶液と二酸化炭素との反応や、アルミニウム塩水溶液のアンモニアまたは水酸化アルカリによる中和によっても生成されます。

水酸化アルミニウムは、両性水酸化物です。強酸・水酸化アルカリ溶液に可溶ですが、放置すると徐々に溶けにくくなる傾向があります。また、水酸化アルミニウムを300℃で加熱すると脱水し、最終的にはα-アルミナが生成されます。

水酸化アルミニウムの使用用途

水酸化アルミニウムは、アルミナを製造する際の原料として使用される他、硫酸アルミニウムや合成ゼオライト等の化学薬品の原料、窯業材料などとしても利用されています。また、媒染剤、制酸剤、繊維の防水などといった用途でも、水酸化アルミニウムを使用可能です。

水酸化アルミニウムは、耐火性や白色度などを高めるために、ゴムやプラスチックの填料、紙用充填剤などにも用いることが可能です。さらに、収れん剤等の医薬品やガスや液体の精製、クロマトグラフィーの吸着剤、乳化剤、イオン交換体、ろ過材、セラミックガラス、難燃剤などにも、水酸化アルミニウムが使用されています。 

医療分野において水酸化アルミニウムは、リン酸アルミニウム (AlPO4) とともにワクチンのアジュバント (英: Adjuvant) としてよく用いられます。

水酸化アルミニウムの性質

水酸化アルミニウムは、密度が2.42 g/cm3、融点が300°Cの白色の無定形粉末です。水酸化アルミニウムは、水酸化物イオンとアルミニウムイオンから構成されています。組成式はAl(OH)3、式量は78.00g/molです。

メチルアミンには溶けますが、水にはほとんど不溶で、アセトンエタノールにも溶けません。また、水酸化アルミニウムは、水と長時間接することでゲル化します。

水酸化アルミニウムを熱すると酸化アルミニウムになり、水が発生します。そのため、水酸化アルミニウムを添加した紙は、炎を出さないので燃えません。防火性が高い壁紙のような建築材料として、水酸化アルミニウムの不燃紙が使用可能です。

水酸化アルミニウムのその他情報

1. 水酸化アルミニウムの溶解性

水酸化アルミニウム自体の溶解度積は非常に小さく、Ksp = 5×10-33です。ただし、水酸化アルミニウムの水溶液から新しく生じたゲル状沈殿は、酸や塩基の水溶液に容易に溶けます。塩基性溶液中では水酸化物イオンによる配位結合が形成され、[Al(OH)4]という構造のテトラヒドロキシドアルミン酸イオンを生成するからです。

このときの溶解度積はKsp = 4×10-13です。それに対して酸性溶液中では水酸化物イオン (OH) の濃度が極めて小さいため、平衡が溶解方向へ移動しています。

ただし、沈殿後に時間が経過したものや結晶性の水酸化アルミニウムは、塩基水溶液に溶解しにくいです。

2. 水酸化アルミニウムの応用

水酸化アルミニウムには、α型のバイヤーライト (英: bayerite) とγ型のギブサイト (英: gibbsite) が存在します。25℃、105Paでは、熱力学的にギブサイトの方がバイヤーライトよりも安定です。

熱水溶液中では水酸化アルミニウムが水1分子を脱水して、AlO(OH) を生成します。AlO(OH)はボーキサイトの主要な成分であり、ベーム石 (英: Boehmite) やダイアスポア (英: diaspore) が存在します。

Al(OH)3 とAlO(OH) はいずれも加熱によって、水を容易に失うため、酸化アルミニウム (Al2O3) を得ることも可能です。

参考文献
https://www.chemicoco.env.go.jp/detail.php?=&chem_id=3349

次亜塩素酸ナトリウム

次亜塩素酸ナトリウムとは

次亜塩素酸ナトリウムとは、水酸化ナトリウム水溶液と塩素ガスを反応させることによって製造される、化学式NaClOの白色の固体です。

次亜塩素酸ナトリウムは、熱や光などの刺激に対して非常に不安定な物質のため、通常は水溶液として取り扱われています。安定剤として水酸化ナトリウムを添加し、pHが12以上になるように調整するのが一般的です。

次亜塩素酸ナトリウム水溶液は緑黄色の透明な溶液で、塩素ガスに似た臭気を持つのが特徴です。

次亜塩素酸ナトリウムの使用用途

強い酸化力で微生物や有害成分を分解できる次亜塩素酸ナトリウムは製造業やサービス業、家庭あるいは各種施設などの様々な場面で用いられています。

1. 消毒

次亜塩素酸ナトリウムは、ノロウイルス・インフルエンザウイルス・サルモネラ菌・大腸菌など、多くの病原体に有効です。また、水で薄めて濃度を自由に調節できるため扱いやすく消毒目的で幅広く使用されています。

次亜塩素酸ナトリウムは、病原体などの有機物を酸化した後にNaCl (食塩) となり、有害物質を残しません。そのため、比較的安全な殺菌料として、食品製造業界などで活用されているほか、水道水、プールの水や公衆浴場の風呂水などの消毒にも使用されています。

2. 漂白、その他

次亜塩素酸ナトリウムは、色素を分解する酸化漂白剤としても使われています。主な用途はクリーニングや製紙業界での漂白です。

一般家庭でも漂白剤として、あるいは漂白機能をもつ洗剤などの主成分に使われています。その他の用途としては、金型や食器の汚れ (特にタンニン) 、排水中の有害物質などを酸化分解する除染、便器や排水口などの臭い成分を分解する消臭などがあります。

次亜塩素酸ナトリウムの特徴

構造式と空間充填モデル

図1. 次亜塩素酸、次亜塩素酸ナトリウムと次亜塩素酸イオン

化学的には、塩化ナトリウム (食塩) が塩酸のナトリウム塩であることと同様に、次亜塩素酸ナトリウムは次亜塩素酸のナトリウム塩です。保存に最適な状態を保っても濃度の高いものは不安定で、放置すると徐々に分解して酸素を失い、塩化ナトリウムなどに変化してしまいます。

そのため、市販されている次亜塩素酸ナトリウム水溶液のほとんどは有効塩素 (酸化能力のある塩素) 濃度4~12%の強アルカリ性水溶液として売られています。

次亜塩素酸ナトリウムのその他情報

1. 次亜塩素酸存在比率のpH依存性

市販されている次亜塩素酸ナトリウム原液はpHが12以上です。そのため、次亜塩素酸ナトリウムは、ほぼ完全に次亜塩素酸イオンとナトリウムイオンに解離した状態となっています。

NaClO → ClO + Na+
このような高いpHの次亜塩素酸ナトリウム水溶液を水で希釈してpHを10以下まで下げていくと、次亜塩素酸イオンの一部が水素イオンと結合して次亜塩素酸に変化していきます。

ClO + H+ → HClO
酸と混合することでpHをさらに下げ続けると、pH7.5付近で次亜塩素酸と次亜塩素酸イオンの量比がほぼ同じになります。次亜塩素酸がほぼ100%を占めるようになるのは、pHが4~6付近です。さらに、pHを下げると次亜塩素酸が水素イオンと反応して塩素と水になる反応が進みます。

2HClO + 2H+ → Cl2 + 2H2O
pHの低下に従って、有効塩素の存在形態が次亜塩素酸イオンから次亜塩素酸へ、さらに次亜塩素酸から塩素へと変化する様子は下記図2を参照してください。

存在比のpH依存性を示すグラフ

図2. 次亜塩素酸イオン、次亜塩素酸および塩素の存在比のpH依存性

次亜塩素酸は次亜塩素酸イオンに比べて殺菌能力が約80倍以上あることが分かっているので、消毒効果を目的とする場合はpHを下げた方が有利です。従って、食品や調理器具などの消毒を目的として用いる場合は、安全性も考慮して、有効塩素濃度100~500ppm (pH8~10) 程度に薄めて用いるのが一般的です。

2. 次亜塩素酸ナトリウムの希釈濃度

家庭用漂白剤やカビ取り剤など、使用目的に合わせて調合されている製品であれば、容器などに記載されている使用方法と使用上の注意に従ってください。

それ以外の製品の場合は、次亜塩素酸ナトリウム水溶液の原液を希釈して用いるのが一般的です。原液を自分で希釈する場合、金属や有機物などの酸化されやすい不純物が入っている水は用いないでください。日本国内であれば、水道水による希釈で問題ありません。

3. 次亜塩素酸ナトリウム希釈水溶液の有効塩素濃度の目安

使用濃度の目安

図3. 次亜塩素酸ナトリウムを使用する際の濃度目安

消毒・漂白対象 有効塩素濃度の目安 使用方法など
生野菜や食器類 100ppm 5~10分間浸漬
まな板、包丁類 200ppm 清拭
浴室、浴槽、便器等の除菌 500ppm 清拭
嘔吐物などの汚物 1% 5~30 分間浸漬
水(飲料水) 0.1~0.4ppm 残留塩素濃度
水(プール、風呂水) 0.4~1ppm 残留塩素濃度

 

残留塩素とは、消毒完了後に水中に残った有効塩素のことです。

4. 取り扱い上の注意

次亜塩素酸ナトリウムあるいはそれを主成分とする漂白剤やカビ取り剤は、どこにでも売られていて簡単に入手できます。しかし、市販されている原液の状態では強アルカリ性で、「化学やけど」を引き起こす恐れがあります。

皮膚への刺激が強く、万一目に入れば失明する恐れもあるため、取り扱いには十分な注意が必要です。希釈したり、原液を取り扱ったりする際には、保護メガネや手袋、マスクなどを着用します。

また、容器の横転や落下などを引き起こすような危険性のある状態で、作業するのは避けましょう。次亜塩素酸ナトリウムは金属や木材など様々なものを腐食させるので、正しい知識に裏付けられた「安全であるという確信」がない限り、原液を別の容器へ入れ替えることは避けた方が賢明です。

また、高濃度の次亜塩素酸ナトリウム水溶液を多量の酸性洗剤などと混ぜることは、有毒な塩素ガスが発生するため禁忌事項として良く知られています。

5. 次亜塩素酸ナトリウムの長期保存

次亜塩素酸ナトリウムの分解は高温や光線などの物理的刺激で加速するため、分解して放出した酸素が逃散する状態ではいつまでも分解し続けます。従って、次亜塩素酸ナトリウムを保存する際には、腐食されない材質の遮光密閉容器に入れ、冷暗所に置くことが原則です。

また、危険物であることを理解できない年少者などの手に触れられない場所を選びましょう。良い状態で保存した次亜塩素酸ナトリウム水溶液であっても、3ケ月以上経過してから使用する場合は、市販の検査紙などを用いて有効塩素濃度を確認することをおすすめします。

効果があると信じて効果の消失したものを用いた場合、思わぬ事故を引き起こす可能性があるためです。

木酢酸

木酢酸とは

木酢酸は、樹木から得られる強酸性(pH1.5~3.7程度)の液体です。木酢酸は、約90%が水分、そして、約5%が酢酸から成り立っており、さらに、その他アルコール類・エステル類・フェノール類など、約200種類もの有機成分が含まれています。木酢酸の構成成分は、樹木の種類によって異なることが特徴です。

木材を乾留して得られる液体は、2層または3層に分かれており、ろ過して不純物が取り除かれたものが、木酢酸となります。数層に分かれた液体の、上澄みが木酢酸、下層が木タールや沈降タールと呼ばれます。 

木酢酸の使用用途

木酢酸の用途は幅広く、主に農業用、畜産用、飼料添加用等に用いられています。木酢酸には希釈倍率によってさまざまな作用があり、これらの作用を活かした用途が開発されています。

1. 殺菌・消毒

1〜100倍に希釈した木酢酸には殺菌作用があります。木酢酸に含まれる酢酸やアルコールに殺菌や菌の生長を抑える効果があるためです。

強い殺菌作用は土壌消毒に利用できます。20〜30倍の高濃度希釈液を、作物を植える10〜14日前に散布することで、土壌消毒ができます。また、木酢液は土壌中で分解されるため、土壌消毒を行ってから10〜14日後には殺菌作用の影響がなくなり、安心して農作物を育てることができます。

さらに、水虫の治療や民間療法の場面でも木酢酸が使われることがあります。

2. 植物の生育抑制

200〜300倍に希釈した木酢酸は、雑草の生育を抑制する効果があります。

木酢酸は、多くの生き物が苦手とする香りを有しており、その効果から、害虫除けとしても使用することができます。特に、カメムシやハエなどの害虫防除に役立つとされています。これらの効果を活かして、農業や園芸分野で利用されています。

3. 作物の生長促進

さらに、500〜1000倍に希釈した木酢酸には、植物の芽や根の成長を促進する効果があります。低濃度の木酢液を作物や芝に与えることで、根や芽の成長を促すことができます。散布の頻度としては、10〜15日おきに与えるのがおすすめです。

木酢液に含まれる酢酸やプロピオン酸などの有機酸成分は、土壌中のミネラルを吸収しやすい形に変えます。そのため、作物がミネラルを吸収しやすくなり、成長が促進されます。

4. その他の用途

木酢酸は、防腐剤、消臭剤、酢酸石灰の製造といった用途に用いられています。

木酢酸のその他情報

1. 木酢酸の製造

木酢酸は、木材などの植物性原料を高温で炭化し、その煙を冷却・凝縮することによって得られます。木材を高温で加熱した際に発生する蒸気や煙を冷却し、凝縮させた液体を一般に「木酢液」と呼びます。木酢液には、酢酸、メタノール、アセトイン、フェノール、クレゾール等の有機化合物や無機化合物が含まれています。

具体的には、木材を容器に詰め、密閉した状態で高温で加熱することで炭化を促進します。この過程で木材中に含まれる水分や有機化合物が蒸発し、炭素を主成分とする固体物質である木炭が生成されます。

同時に、木材中に含まれる有機化合物が熱分解して煙が発生します。この煙を冷却し、液体状態にすることで木酢液が得られます。

得られた木酢液は蒸留器によって蒸留され、木酢酸を含む蒸留物が得られます。この蒸留物から木酢酸を単離・精製することで、純度の高い木酢酸を製造することができます。なお、この過程で得られる木炭は、炭素含有量が高く燃焼効率がよいため、燃料や肥料として利用されることがあります。

2. 木酢酸の安全情報

木酢酸は強い刺激臭がありますが、有毒性は低く、皮膚に触れても刺激を起こす程度で、健康に影響を与えることはありません。

木酢酸を取り扱う際は、手袋やマスク、保護メガネなどを着用することをお勧めします。木酢酸を誤って飲み込んだ場合は、すぐに大量の水を飲んで、医師に相談するようにしてください。木酢酸が目に入った場合は直ちに水で洗い流すようにしてください。

参考文献
https://www.nihonmokusaku.jp/faq/

塩化マンガン

塩化マンガンとは

塩化マンガンとは、マンガン塩素の化合物です。

塩化マンガンには酸化数が+2と+3の化合物があり、塩化マンガン(II)と塩化マンガン(III)です。一般的に塩化マンガンは、塩化マンガン(II)のことを指し、二塩化マンガンとも呼ばれます。

長期的に塩化マンガンの粉末や蒸気に触れると、マンガン中毒を起こす可能性もあります。そのため施錠して保管し、廃棄時には内容物や容器を専門の廃棄物処理業者への委託処理が必要です。

塩化マンガンの使用用途

塩化マンガン(II)は幅広く使用されています。主な用途は、染色工業、窯業用顔料、医薬品製造、塩化物合成の触媒です。また、塗料乾燥剤 (褐色ピグメント) や塗料乾燥剤のホウ酸マンガンの製造にも使用可能です。

化学肥料の合成促進剤、印刷インキの乾燥剤、乾電池の原料、軽合金用フラックス、ガラスゼオライトにも用いられています。医療でも、核磁気共鳴画像法 (MRI) 用造影剤や無機質性剤として使用されています。

塩化マンガンの性質

塩化マンガンの無水物は、潮解性の淡赤色結晶です。融点は654°Cで、沸点は1,225°Cです。

エタノールに溶け、25°Cの水100gに77.2g溶解し、水溶液はpH4ほどの弱酸性を示します。水溶液から淡赤色の四水和物であるMnCl2・4H2Oの結晶が得られます。色が薄い理由は、ハイスピン型であるd5電子配置のためです。4水和物は、ペンキ、印刷インキの乾燥剤、顔料、電池用二酸化マンガンの原料などに使用可能です。

塩化マンガン(II)はさまざまなマンガン化合物の合成に利用可能です。具体的には、炭酸カリウムと反応して、炭酸マンガン(II)が沈殿します。この反応中のMnCl2のマンガンイオンは、水和して[Mn(H2O)6]2+になっています。弱いルイス酸である塩化マンガン(II)は、塩化物イオンとの反応によって、[MnCl6]4−、[MnCl4]2−、[MnCl3]などの錯イオンを生成可能です。

塩化マンガンの構造

塩化マンガンの化学式はMnCl2で表されます。モル質量は125.844g/molで、密度は2.98g/cm3です。結晶構造は六方晶系の塩化カドミウム型を取っています。塩化マンガンは常磁性です。

塩化マンガンには無水物以外にも、2水和物や4水和物が存在します。

塩化マンガンのその他情報

1. 塩化マンガン(II)の合成法

天然にはベスビオ火山などで、スカッチャイト (英: scacchite) として塩化マンガン(II)が産出します。

塩化マンガン(II)の無水物の塩は、塩素と金属の反応によって得られます。金属マンガン、マンガン酸化物、炭酸マンガンに塩化水素を反応させても生成可能です。

濃塩酸と酸化マンガン(IV)を加熱すると、塩化マンガン(II)が生じます。塩酸により4価のマンガン塩が2価に還元されて、マンガンにより塩化物イオンが塩素に酸化される反応です。かつては塩素の製造法に利用されていました。

2. 塩化マンガン(II)の反応

有機化合物の配位子と反応すると、空気酸化によって3価のマンガン錯体が形成されます。例えば、[Mn(EDTA)] (EDTA錯体) 、[Mn(acac)3] (アセチルアセトナト錯体) 、[Mn(CN)6]3− (シアン化物錯体) などが有名です。トリフェニルホスフィンと反応すると、不安定な1:2付加物が生じます。

塩化マンガン(II)の無水物は、禁水条件の反応に使用されます。ナトリウムシクロペンタジエニドとの反応では、マンガノセン (英: Manganocene) を合成可能です。マンガノセンとはビス(シクロペンタジエニル)マンガン(II)とも呼ばれる有機マンガン化合物であり、化学式は[Mn(C5H5)2]nと表されます。

3. 塩化マンガン(III)の特徴

酢酸マンガンに-100°Cで塩化水素を反応させると、塩化マンガン(III)が得られます。化学式はMnCl3で、黒色粉末で熱的に不安定です。

塩化マンガン(II)の濃塩酸溶液と塩素が反応して生じる褐色溶液には、塩化マンガン(III)のクロロ錯体 (MnCl52-など) が含まれています。

亜硝酸ナトリウム

亜硝酸ナトリウムとは

亜硝酸ナトリウム (英: Sodium nitrite) とは、無色または淡黄色のイオン結晶粉末です。

ナトリウムの亜硝酸塩で、化学式はNaNO2、分子量は69.01、CAS登録番号は7632-00-0です。亜硝酸ソーダや亜硝酸Naとも呼ばれ、工業薬品JIS K1472-83、試薬JIS K8019-92の食品添加物に分類されます。

亜硝酸ナトリウムの構造

亜硝酸ナトリウムは、ナトリウムカチオンのNa+と亜硝酸アニオンNO2から構成されており、結晶は斜方晶系となります。分子としての構造を見ると、亜硝酸アニオンNO2の酸素原子 (O) と窒素 (N) の結合は、折れ曲がり構造を形成しています。

亜硝酸ナトリウムの性質

1. 物理的特性

亜硝酸ナトリウムは、融点が270℃、沸点 (分解温度) が320℃で、密度/相対密度が2.17です。潮解性があり、水に溶けやすく、水溶液は弱アルカリ性を示します。アルコールやエーテルにはわずかに溶け、酸で分解すると三酸化二窒素を生じます。

2. その他の特徴

亜硝酸ナトリウムは、食肉に含まれるアミンと結合し、ニトロソアミン類という発がん性物質に変化する恐れがあります。そのため、摂取し続けると、癌になる可能性が高まるといった点が懸念されています。

亜硝酸ナトリウムの使用用途

1. 食品添加物

亜硝酸ナトリウムは、食肉加工をはじめとする食品分野において、食品添加物として広く利用されています。具体的には、ハム・ソーセージ・ベーコン・タラコ・イクラ等の発色剤として使われています。亜硝酸ナトリウムの添加は、発色以外にも効果をもち、獣肉特有の肉臭さを取り、熟成による風味を作り出すといった効果や、危険な食中毒菌であるボツリヌス菌の増殖を抑制させるといった役割もあります。 

2. 医療用品

亜硝酸ナトリウムは、滅菌剤として医療器具に使用することで、ほとんどのウイルスや細菌を不活性にする中水準消毒剤となります。また、血管拡張剤として、シアン中毒患者の治療にも、亜硝酸ナトリウムが利用されています。

3. その他

亜硝酸ナトリウムは、コンクリート中の鉄筋腐食防止用のさび止めとして利用されることもあります。その他にも、有機ジアゾニウム塩、アゾ染料の合成、繊維の漂白、金属の表面処理、ジアゾ化滴定用などの分析試薬などといった用途で広く用いられています。

亜硝酸ナトリウムのその他情報

1. 亜硝酸ナトリウムの製法

亜硝酸ナトリウムは、溶融した硝酸ナトリウムを鉛で還元した生成物から、水で抽出することで生成します。工業的には、一酸化窒素二酸化窒素の混合ガスを、水酸化ナトリウムに吸収させることによって製造されています。

2. 法規情報

亜硝酸ナトリウムは、毒物及び劇物取締法で、劇物に指定されており、取り扱いには注意が必要です。消防法では、危険物第1類 (酸化性固体) の亜硝酸塩類 (酸化性固体亜硝酸塩類第1種酸化性固体 (50kg)) に、水質汚濁防止法で施行令第2条有害物質に指定されています。亜硝酸ナトリウムが発色剤・防腐剤として使われた加工肉では、タンパク質からニトロソアミンが生成するため、発がん性が明確であるというグループ1に分類されます。

3. 取扱いおよび保管上の注意

取扱い及び保管上の注意は、下記の通りです。

  • 容器を密栓し、乾燥した冷暗所に保管する。
  • 屋外や換気の良い区域のみで使用する。
  • 可燃物と混合すると容易に発火するため、熱や可燃物から遠ざけて使用、保管する。
  • 爆発のおそれがあるので、アンモニア塩類やシアン化合物と混合しない。
  • 使用時は保護手袋、保護眼鏡を着用する。
  • 取扱い後はよく手を洗浄する。
  • 皮膚に付着した場合は、石鹸と水で洗い流す。
  • 眼に入った場合は、水で数分間注意深く洗う。
  • 高濃度の溶液を飲んだ場合は、頭痛や吐き気、けいれん、意識障害に至ることもあるため、牛乳や生の鶏卵などを飲ませ速やかに吐き出させる。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/7632-00-0.html

ヨウ化アンモニウム

ヨウ化アンモニウムとは

ヨウ化アンモニウムとは、化学式NH4lで示される無機化合物です。

白色の結晶性化合物で潮解性があり、分解によるヨウ素の遊離によって、結晶は次第に黄色に変色します。分子量は 144.94g/mol で、密度は 2.514g/cm³ です。融点は551℃、沸点は235℃と高いですが、沸騰する前に昇華して分解してしまいます。

水によく溶け、温度の上昇とともに溶解度は増加します。エタノールメタノールアセトングリセリンにも溶解します。ヨウ化アンモニウムは実験的に、ヨウ化水素酸 (ヨウ化水素の水溶液) をアンモニアまたは炭酸アンモニウで中和すると得られる液体です。

工業的には、水中でヨウ化水素酸 (HI) とアンモニア (NH3) を反応させることにより製造されます。また、医療や写真現像、有機合成といった幅広い用途で用いられています。

ヨウ化アンモニウムの使用用途

ヨウ化アンモニウムは、そのユニークな特性から、医薬品や写真の増感剤、有機合成試薬など、さまざまな分野で利用されています。

1. 医療用途

ヨウ化アンモニウムは、去痰剤という気道からの粘液の排出を促進する用途で医薬品として使用されます。また、甲状腺を小さくする効果があるため、甲状腺疾患の治療にも使用されています。

2. 写真増感剤

写真の現像において、X線フィルムや写真プレートに使用されるハロゲン化銀乳剤の増感剤として使用されています。

3. 有機合成試薬

ヨウ化アンモニウムは、有機合成反応の試薬として広く使用されています。具体的には、有機ハロゲン化合物やヨウ素化合物の合成などです。そのほか、さまざまな反応の溶媒としても使用されており、ヨウ化アンモニウムは安価で入手しやすいため、有機合成化学において広く使用されている試薬の1つです。

ヨウ化アンモニウムの性質

ヨウ化アンモニウムは、化学式NH4Iで表される白色の結晶性化合物です。空気中の水分による分解を受けてヨウ素が遊離し、決勝は次第に黄色くなります。

分子量は 144.94g/mol で、密度は 2.514g/cm³ です。融点は551℃、沸点は235℃と高いですが、沸騰する前に昇華して分解してしまいます。

ヨウ化アンモニウムは水に非常に溶けやすく、温度の上昇とともに溶解度は増加します。エタノールとアセトンにもよく溶解しますが、エーテルには難溶です。ヨウ化アンモニウムは加熱によって分解し、アンモニアガス (NH3) とヨウ化水素ガス (HI) を生成します。

ヨウ化アンモニウムの構造

ヨウ化アンモニウムの化学構造は、アンモニウムカチオン (NH4+) とヨウ化物アニオン (I) から構成されています。アンモニウムイオンは、中央に窒素原子、四隅に水素原子を持つ四面体の形状をしています。

ヨウ化物アニオンは、非金属原子にハロゲン原子が結合した負の電荷を持つハロゲン化物イオンです。

ヨウ化アンモニウムのその他情報

ヨウ化アンモニウムの製造方法

ヨウ化アンモニウムは、水中でヨウ化水素酸 (HI) とアンモニア (NH3) を反応させることにより製造されます。

NH3(g) + HI(aq) → NH4I(s)

この反応は発熱性で、収率を上げるために通常は還流条件下で行われます。得られた溶液を濃縮することで、ヨウ化アンモニウムの結晶を析出させることができます。

得られたヨウ化アンモニウム固体は、通常冷水で洗浄し、不純物を除去した後、真空下で乾燥させます。また、ヨウ化水素酸を炭酸アンモニウムで中和することによりヨウ化アンモニウムを調製することも可能です。

(NH4)2CO3(aq) + 2HI (aq) → 2NH4I(s) + CO2(g) + H2O(l)

しかし、この方法はアンモニアとヨウ化水素酸を直接反応させる方法と比べると、あまり一般的ではありません。

メタクリル酸

メタクリル酸とは

メタクリル酸とは、不飽和脂肪酸の1種で、刺激臭をもつ無色透明液状の有機化合物です。

別名で、α-メチルアクリル酸、2-メチルプロペン酸があり、MAA、MAとも略されます。メタクリル酸は、消防法で「第4類第3石油類水溶性液体」に分類されています。また、毒劇物取締法では、劇物にも指定されており、取り扱いには注意が必要です。腐食性があり、皮膚などに対しての強い刺激性があります。

メタクリル酸の使用用途

メタクリル酸は、水溶性高分子の合成原料、他のビニル化合物との共重合体の製造、イオン交換樹脂の製造などに用いられています。メタクリル酸のエステル化合物であるメタクリル酸メチルは、アクリル樹脂の原料として非常に重要です。

アクリル樹脂は透明度が高く丈夫であることから、有機ガラスとして利用されています。例えば、航空機や自動車の窓ガラス、照明用具、コンタクトレンズなど暮らしの中で身近なものが多いです。また、この他にも義歯材料や塗料、紙加工剤、繊維処理剤、接着剤、電気絶縁材などもメタクリル酸の用途として挙げられます。

メタクリル酸の性質

メタクリル酸の分子式はCH2 = C(CH3)COOHで分子量は86です。融点15℃、沸点159℃、比重1.015で、常温で無色透明の強い刺激臭のある液体です。しかし、冬場は凝固して、すぐに使えないというトラブルがよくあります。

水には可溶で、エタノール、エーテル等の有機溶媒にはよく溶けます。また、酢酸よりも強い酸性を示すことも特徴です。メタクリル酸は、長時間保管しているだけでも重合するなど、重合を起こしやすい物質です。また、酸を数滴加えた場合は、速やかに重合し、水溶性高分子化合物ポリメタクリル酸になります。

メタクリル酸の保存には、重合防止剤として0.1% のヒドロキノンが加えられます。 カルボキシル基を持つため、アクリル系樹脂の金属面に対する接着性や安定性を向上させる目的や、親水性または水溶性を付与する目的、油・グリース類に対する耐久性を付与させる目的で、構成モノマーの1つとして添加されます。また、樹脂の硬度や、軟化温度を高めるなどの効果もあります。

メタクリル酸のその他情報

メタクリル酸の製造方法

メタクリル酸は、工業的にはACH法とイソブチレン法の2つの方法で製造されています。ACH法は古くからある方法ですが、猛毒であるシアン化水素 (HCN) が原料であることや、大量の硫酸塩の廃棄物が出ることが課題です。

現在、欧米や中国では依然としてACH法が採用されていますが、国内ではモリブデン系触媒を使用して、イソブチレンを直接酸化して合成するイソブチレン法が多く取られています。さらに、近年はエチレンを原料にしてプロピオン酸を経由して合成するプロセスも開発されています。

1. ACH法
アセトンとシアン化水素を反応させて、アセトンシアンヒドリン (ACH) を合成します。アセトンシアンヒドリンを濃硫酸と混合し、反応させてアミド化し、メタクリルアミドを合成します。メタクリルアミドに水とメタノールを加えて反応させることで、メタクリル酸とメタクリル酸メチルが得られます。

CH3COCH3 + HCN → CH3COH(CH3)CN
CH3COH(CH3)CN + H2SO4 → CH2 = C(CH3)CONH2・H2SO4
CH2 = C(CH3)CONH2・H2SO4 + H2O + CH3OH → CH2 = C(CH3)COOH + CH2 = C(CH3)COOCH3 + NH4HSO4

2. イソブチレン法
イソブチレンをモリブデン系触媒 (Mo-Bi) の存在下で酸化し、2段階目の反応を触媒をMo-P系に変えて酸化反応を行うことでメタクリル酸を得られます。

CH2 = C(CH3)CH3 +O2 → CH2 = C(CH3)CH = O + H2O
2CH2 = C(CH3)CH = O +O2 → 2CH2 = C(CH3)COOH 

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/0070.html

プロピレン

プロピレンとは

プロピレン (英: Propylene) とは、微かに芳香臭がある無色の気体です。

化学式C3H6で表される折れ曲がり型構造の化学物質で、分子量は42.08です。可燃性を有する鎖状不飽和炭化水素化合物の一つで、CAS登録番号は115-07-1になります。 別名「プロペン」「メチルエチレン」「メチルエテン」などとも呼ばれます。

プロピレンの反応活性は高く、重合や酸化などの反応を受けやすい性質があり、合成化学工業の分野においてエチレンとともに重要な化合物です。

プロピレンの性質

1. 物理的特性

融点が-185.2℃、沸点が-47.6℃です。エーテルやエタノールには溶けますが、水への溶解度は0.62g/m3でほとんど溶けません。通常、加圧下で液体として貯蔵されますが、承認された容器に室温で気体として安全に貯蔵することも可能です。

2. 環境・人体への影響

山火事、タバコの煙、自動車や航空機の排気ガスによる燃焼の産物で、一部の加熱ガス中の不純物です。吸入による急性毒性は低く、発がん性があるとは考えられていません。揮発性有機化合物 (VOC) と見なされ、排出量は多くの政府によって規制されています。

プロピレンの使用用途

1. 基礎原料

プロピレンは、ポリプロピレン、アクリロニトリルフェノール等プロピレン系製品の基礎原料となります。また、溶剤や合成洗剤などの基礎原料としても使用される他、液化石油ガスとして、燃料や重合ガソリンの製造原料としても広く利用されています。さらに、石油化学製品としての用途もあり、「イソプロピルアルコール」「アセトン」「アリルアルコール」「グリセリン」「アクロレイン」等の原料として用いられています。

2. その他

プロピレンが重合して生成されるポリプロピレンは、自動車用バンパーや包装用フィルムなどといった用途で使われています。 曲げを目的とした金属の酸素燃料溶接および切断、ろう付けおよび加熱において、アセチレンの代替燃料としても使用されます。

プロピレンのその他情報

1. プロピレンの製造法

プロピレンは、石油分解ガスから低温で分留する方法や、プロパンを蒸気分解して脱水素化するといった方法によって、工業的に多量に生産されています。レニウムやモリブデン触媒を用いたオレフィンメタセシス反応により、エチレンと2-ブテンから相互変換して得ることもできます。

2. プロピレンの反応

プロピレンは、チーグラー・ナッタ触媒などを用いて配位重合することで、非常に重要な熱可塑性プラスチックであるポリプロピレンを合成できます。他のアルケンと同様に、酸化やハロゲン化、ハロゲン化水素化、アルキル化、ヒドロホルミル化などを起こします。また、他のアルケンと同様に燃焼し、水と二酸化炭素を形成します。

3. 法規情報

プロピレンは、毒物及び劇物取締法や化学物質排出把握管理促進法では指定がありません。労働安全衛生法では、危険物・可燃性のガス、名称等を表示・通知すべき危険有害物に、高圧ガス保安法では液化ガス、可燃性ガスに指定されており、取り扱いには注意が必要です。 

4. 取扱いおよび保管上の注意

取扱い及び保管上の注意は、下記の通りです。

  • 保管容器には専用の高圧ガス容器を使用し、換気の良い40 ℃以下の場所で保管する。
  • 発火の恐れがあるため、高温の物体、火花、裸火との接触は避けて保管する。
  • 使用後は、容器のバルブを完全に閉め、口金キャップと保護キャップを付ける。
  • 爆発の恐れがあるため、酸素に富む物質 (強酸化剤) との接触は避ける。
  • 屋外や換気の良い区域、防爆仕様の局所排気設備などで使用する。
  • 使用時は保護手袋、保護眼鏡を着用し、取扱い後はよく手を洗う。
  • 窒息の恐れがあるため、蒸気の吸入を避ける。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/115-07-1.html