次亜塩素酸ナトリウム

次亜塩素酸ナトリウムとは

次亜塩素酸ナトリウムとは、水酸化ナトリウム水溶液と塩素ガスを反応させることによって製造される、化学式NaClOの白色の固体です。

次亜塩素酸ナトリウムは、熱や光などの刺激に対して非常に不安定な物質のため、通常は水溶液として取り扱われています。安定剤として水酸化ナトリウムを添加し、pHが12以上になるように調整するのが一般的です。

次亜塩素酸ナトリウム水溶液は緑黄色の透明な溶液で、塩素ガスに似た臭気を持つのが特徴です。

次亜塩素酸ナトリウムの使用用途

強い酸化力で微生物や有害成分を分解できる次亜塩素酸ナトリウムは製造業やサービス業、家庭あるいは各種施設などの様々な場面で用いられています。

1. 消毒

次亜塩素酸ナトリウムは、ノロウイルス・インフルエンザウイルス・サルモネラ菌・大腸菌など、多くの病原体に有効です。また、水で薄めて濃度を自由に調節できるため扱いやすく消毒目的で幅広く使用されています。

次亜塩素酸ナトリウムは、病原体などの有機物を酸化した後にNaCl (食塩) となり、有害物質を残しません。そのため、比較的安全な殺菌料として、食品製造業界などで活用されているほか、水道水、プールの水や公衆浴場の風呂水などの消毒にも使用されています。

2. 漂白、その他

次亜塩素酸ナトリウムは、色素を分解する酸化漂白剤としても使われています。主な用途はクリーニングや製紙業界での漂白です。

一般家庭でも漂白剤として、あるいは漂白機能をもつ洗剤などの主成分に使われています。その他の用途としては、金型や食器の汚れ (特にタンニン) 、排水中の有害物質などを酸化分解する除染、便器や排水口などの臭い成分を分解する消臭などがあります。

次亜塩素酸ナトリウムの特徴

構造式と空間充填モデル

図1. 次亜塩素酸、次亜塩素酸ナトリウムと次亜塩素酸イオン

化学的には、塩化ナトリウム (食塩) が塩酸のナトリウム塩であることと同様に、次亜塩素酸ナトリウムは次亜塩素酸のナトリウム塩です。保存に最適な状態を保っても濃度の高いものは不安定で、放置すると徐々に分解して酸素を失い、塩化ナトリウムなどに変化してしまいます。

そのため、市販されている次亜塩素酸ナトリウム水溶液のほとんどは有効塩素 (酸化能力のある塩素) 濃度4~12%の強アルカリ性水溶液として売られています。

次亜塩素酸ナトリウムのその他情報

1. 次亜塩素酸存在比率のpH依存性

市販されている次亜塩素酸ナトリウム原液はpHが12以上です。そのため、次亜塩素酸ナトリウムは、ほぼ完全に次亜塩素酸イオンとナトリウムイオンに解離した状態となっています。

NaClO → ClO + Na+
このような高いpHの次亜塩素酸ナトリウム水溶液を水で希釈してpHを10以下まで下げていくと、次亜塩素酸イオンの一部が水素イオンと結合して次亜塩素酸に変化していきます。

ClO + H+ → HClO
酸と混合することでpHをさらに下げ続けると、pH7.5付近で次亜塩素酸と次亜塩素酸イオンの量比がほぼ同じになります。次亜塩素酸がほぼ100%を占めるようになるのは、pHが4~6付近です。さらに、pHを下げると次亜塩素酸が水素イオンと反応して塩素と水になる反応が進みます。

2HClO + 2H+ → Cl2 + 2H2O
pHの低下に従って、有効塩素の存在形態が次亜塩素酸イオンから次亜塩素酸へ、さらに次亜塩素酸から塩素へと変化する様子は下記図2を参照してください。

存在比のpH依存性を示すグラフ

図2. 次亜塩素酸イオン、次亜塩素酸および塩素の存在比のpH依存性

次亜塩素酸は次亜塩素酸イオンに比べて殺菌能力が約80倍以上あることが分かっているので、消毒効果を目的とする場合はpHを下げた方が有利です。従って、食品や調理器具などの消毒を目的として用いる場合は、安全性も考慮して、有効塩素濃度100~500ppm (pH8~10) 程度に薄めて用いるのが一般的です。

2. 次亜塩素酸ナトリウムの希釈濃度

家庭用漂白剤やカビ取り剤など、使用目的に合わせて調合されている製品であれば、容器などに記載されている使用方法と使用上の注意に従ってください。

それ以外の製品の場合は、次亜塩素酸ナトリウム水溶液の原液を希釈して用いるのが一般的です。原液を自分で希釈する場合、金属や有機物などの酸化されやすい不純物が入っている水は用いないでください。日本国内であれば、水道水による希釈で問題ありません。

3. 次亜塩素酸ナトリウム希釈水溶液の有効塩素濃度の目安

使用濃度の目安

図3. 次亜塩素酸ナトリウムを使用する際の濃度目安

消毒・漂白対象 有効塩素濃度の目安 使用方法など
生野菜や食器類 100ppm 5~10分間浸漬
まな板、包丁類 200ppm 清拭
浴室、浴槽、便器等の除菌 500ppm 清拭
嘔吐物などの汚物 1% 5~30 分間浸漬
水(飲料水) 0.1~0.4ppm 残留塩素濃度
水(プール、風呂水) 0.4~1ppm 残留塩素濃度

 

残留塩素とは、消毒完了後に水中に残った有効塩素のことです。

4. 取り扱い上の注意

次亜塩素酸ナトリウムあるいはそれを主成分とする漂白剤やカビ取り剤は、どこにでも売られていて簡単に入手できます。しかし、市販されている原液の状態では強アルカリ性で、「化学やけど」を引き起こす恐れがあります。

皮膚への刺激が強く、万一目に入れば失明する恐れもあるため、取り扱いには十分な注意が必要です。希釈したり、原液を取り扱ったりする際には、保護メガネや手袋、マスクなどを着用します。

また、容器の横転や落下などを引き起こすような危険性のある状態で、作業するのは避けましょう。次亜塩素酸ナトリウムは金属や木材など様々なものを腐食させるので、正しい知識に裏付けられた「安全であるという確信」がない限り、原液を別の容器へ入れ替えることは避けた方が賢明です。

また、高濃度の次亜塩素酸ナトリウム水溶液を多量の酸性洗剤などと混ぜることは、有毒な塩素ガスが発生するため禁忌事項として良く知られています。

5. 次亜塩素酸ナトリウムの長期保存

次亜塩素酸ナトリウムの分解は高温や光線などの物理的刺激で加速するため、分解して放出した酸素が逃散する状態ではいつまでも分解し続けます。従って、次亜塩素酸ナトリウムを保存する際には、腐食されない材質の遮光密閉容器に入れ、冷暗所に置くことが原則です。

また、危険物であることを理解できない年少者などの手に触れられない場所を選びましょう。良い状態で保存した次亜塩素酸ナトリウム水溶液であっても、3ケ月以上経過してから使用する場合は、市販の検査紙などを用いて有効塩素濃度を確認することをおすすめします。

効果があると信じて効果の消失したものを用いた場合、思わぬ事故を引き起こす可能性があるためです。

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