シリコンウェハ

シリコンウェハとは

シリコンウェハ

シリコンウェハは、半導体製品の材料です。シリコンとはケイ素のことであり、ウェハは円筒を薄くスライスした形状を指します。したがって、ケイ素単結晶を薄くスライスしたものをシリコンウェハと呼びます。

シリコンは代表的な電子機器の材料です。そして、我々の暮らしは電子機器によって支えられています。電子機器の需要は今後増加と共に、シリコンウェハの需要も増加すると予想されます。

シリコンウェハの使用用途

シリコンウェハを日常生活において目にする機会はありませんが、電子機器にはほぼ確実に使用されます。シリコンウェハは半導体製品の基板として利用されています。半導体製品を使用する代表例を以下に列挙します。

  • スマートフォンやパソコンなどのOA機器
  • 自動車や航空機などの移動機器制御部
  • AIやロボット内部
  • 太陽光電池

シリコンウェハの原理

シリコンウェハは、ケイ素元素を材料に製作されます。ケイ素は地球表面上で酸素に次いで2番目に多い元素です。土壌や岩石などに含まれるありふれた元素ですが、シリコンウェハの材料は石英を用いて精製されます。

シリコンウェハの材料は、シリコンインゴットと呼ばれる円筒状シリコン棒です。シリコンインゴットを薄くスライスすることでシリコンウェハを製造します。

シリコンインゴットは高純度ケイ素結晶での製作が求められます。大きく分けてCZ法(Czochralski法)とFZ法(Floating Zone法)の2つの方法で製造されます。

1. CZ法

CZ法では、シリコン原料を1,000℃超の高温炉で溶かします。その炉中に種シリコン棒を差し込み、高速回転させながら浮上させるとシリコンインゴットが完成します。

2. FZ法

FZ法では、棒状の多結晶シリコン材料を使用します。その原料と種となる単結晶シリコン材を貼り付け、境界面を誘導加熱します。すると、多結晶シリコン材料が単結晶化していき、シリコンインゴットが完成します。

シリコンウェハのその他情報

1. シリコンウェハの製造工程

上記2種の方法で製作したシリコンインゴットによって、シリコンウェハを製造します。製造工程は以下の通りです。

  • インゴットの切断
    インゴットをダイヤモンドブレードを用いて切断し、所望の厚さのウェハを作ります。
  • ウェーハの研磨
    回路パターンの品質を保つため、ウェーハの表面を鏡面状に研磨します。よって、微粒子やその他不純物がありません。

シリコン半導体による大規模集積回路が大きく発展した理由の一つは、高純度で無欠陥なシリコン単結晶を比較的安価で大量生産可能な技術が確立されたためです。製造されたシリコンは純度99.999999999%以上の超高純度であり、9が11個並ぶためイレブンナインと呼ばれています。

シリコンインゴットの製作技術も改善され続けています。インゴットはこれまでに直径20mmから200mmまで大口径化を遂げました。

2. シリコンウェハのシェア

世界の電子機器市場は年々拡大をしており、それを支える半導体産業の重要性はますます向上します。2019年に半導体市場はマイナス成長でしたが、不況を経ても拡大し続けています。シリコンウェハの2018年の市場規模は119億ドルでした。
2020年 「電子機器製造の産業基盤実態調査」経済産業省資料より

シリコンウエハ消費地域別シェア
シリコンウエハ消費地域別シェア

消費地域別のシェアは韓国(35%),北米(29%),台湾(16%),中国(10%),日本(7%)となっており、半導体製造メーカーの拠点となっている北米、韓国、台湾のシェアが高くなっています。
2020年 「電子機器製造の産業基盤実態調査」経済産業省資料より

シリコンウエハ売上高ベンダ国籍別シェア
シリコンウエハ売上高ベンダ国籍別シェア(2018年)

また、ベンダ国籍別シェアは日本(55%),台湾(20%),ドイツ(14%),韓国(10%)となっており、日本企業のシェアが高くなっています。
2020年 「電子機器製造の産業基盤実態調査」経済産業省資料より

参考文献
https://www.sumcosi.com/ir/glance/wafer.html
https://www.ave.nikon.co.jp/semi/technology/story02.htm
https://www.meti.go.jp/meti_lib/report/2019FY/000182.pdf
https://www.seaj.or.jp/file/process01.pdf
http://www.ieice-hbkb.org/files/10/10gun_02hen_02.pdf

分取HPLC

分取HPLCとは

分取HPLC

分取HPLCとは、成分の分離・採取ができる高速液体クロマトグラフィー (HPLC) のことです。

主成分の精製による純度の向上や、試料に含まれる不純物などの微量の成分の採取ができます。分取HPLCの原理は通常のHPLC分析と同一であるため、適切なカラムを選択すれば化学構造や分子量、立体構造など化合物の様々な特徴で各成分を分離、精製することが可能です。

また、カラムのサイズや装置構成を変えることによって、分取HPLCではミリグラムからキログラムオーダーまで目的物の取得量を変えることができます。

分取HPLCの使用用途

1. 化学合成後の目的成分の精製

分取HPLCの特徴は、HPLCの高い分離能力を活かせる点です。HPLC上で分離したピークが得られれば、それぞれ別に分取して得ることができます。

有機化学や生化学などの分野で、化学合成や生体触媒合成で得られたサンプルの中には主成分の他に不純物や副生成物など多数の微量成分が含まれています。通常のカラム精製や再結晶などの一般的な精製方法では、選択的に1つの成分だけを抽出することは困難です。一方、分取HPLCではHPLC分離さえできれば分取できる可能性が高いです。

2. 主成分、不純物の分取による副反応解析

分取HPLCではHPLCで分離した各ピークを別々のフラクションとして収集できるため、主成分、不純物をそれぞれ高純度で選択的に採取することができます。高純度サンプルの用途として、例えば素材業界では分取HPLCによって得られた高純度の目的物を用いた材料、物性評価が行われています。

また、化学業界では高純度の不純物、副生成物の構造解析を通して反応系で発生している副反応の解析が行われています。

3. タンパク質、高分子の精製

生物系の分野では、分取HPLCがサイズ排除クロマトグラフィー (SEC) カラムを使用したタンパク質の精製に使用されています。高分子の分野でも、SECカラムを使用した高分子の精製、分子量分画を行い、各成分の物性評価を行っています。

4. 天然物の精製

HPLCの高い分離能を利用して、様々な化合物が含まれている天然物のサンプルから目的物を抽出することもあります。分離能力の高い逆相カラムが良く用いられます。

分取HPLCの原理

分取HPLCの分離機構は、分析HPLCと同様です。他の精製法である通常のカラム精製や再結晶と異なり、分析とほぼ同じ分離能力で精製ができることが分取HPLCの強みです。

HPLCカラムには、多孔性のシリカゲルや、アルキル基などの官能基が表面に修飾されたシリカゲルなどが充填されています。充填された物質は固定相と呼ばれ、最も多く用いられているのはオクタデシル (ODS, C18) 基修飾シリカゲルです。カラムに試料溶液を注入すると、試料の各成分が固定相と相互作用するか、固定相に分配されます。

この相互作用の強さ、または分配の度合いは各成分の物理化学的性質によって異なるため、カラムを通過する間に各成分は分かれていきます。このようにして、各成分を分離するのがHPLCの原理です。

分取HPLCのその他情報

1. 固定相のはたらき (順相と逆相)

カラムの固定相のはたらきは、固定相によって異なります。例えば、シリカゲルを固定相とし、有機溶媒を移動相とするものは順相モードと呼ばれる分離原理です。

シリカゲルは多孔質の担体で表面に物質を吸着させる性質を持ち、吸着の強さが物質によって異なるため、試料がカラムを通過する間に分離が達成されます。シリカゲルは親水性のものを強く吸着するため、親水性のものが遅く溶出します。

C18カラムのようにアルキル基が修飾された固定相を用い、含水有機溶媒を移動相とする場合は、逆相モードと呼ばれる分離原理です。含水有機溶媒は水、C18は油に相当し、物質がどちらに親和性が高いか (親水性か親油性か) によって分配が決まり、親油性の物質は固定相に分配されるため、遅く溶出してきます。このようにして、親水性か親油性かによって分離されます。

2. フラクションコレクターを用いた分取

分取HPLCは、HPLC装置の後ろにフラクションコレクターと呼ばれる装置を連結することができます。フラクションコレクターとは、HPLCの溶出液を一定の時間などで区切って採取する装置です。

フラクションコレクターによって分けられた各溶出液を濃縮することで高純度の目的物を得ることが可能になります。

3. リサイクル分取HPLC装置

リサイクル分取HPLC装置は、カラムの後ろに切り替えバルブを搭載しており、一度カラムを通過した溶出液を再度同じカラムに通液させることができます。

一般的にカラムが長いほどHPLCの分離能は向上します。したがって、何度もカラムに通液させることで、カラムを何本も繋げて長くしたのと同じこととなり、1回では分離しなかった成分も分離、回収することが可能になります。ただし、切り替えバルブを設ける装置の構成上、通常のHPLC装置とは別で専用の装置を用意する必要があります。

参考文献
https://www.gls.co.jp/product/topics/plc/
https://www.gls.co.jp/technique/technique_data/lc/usage_of_prep/
https://www.an.shimadzu.co.jp/hplc/support/faq/prep/index.htm

滴定装置

滴定装置とは

滴定装置

滴定装置は自動で各種滴定を行うことができる装置です。

滴定とは、試料中の目的物質を定量する分析方法です。未知濃度の測定試料に既知濃度の標準溶液をゆっくりと添加し、反応終了までに必要な容量を計測することで、測定試料の濃度を求めることができます。

滴定にはいくつか種類があり、例えば、中和滴定、酸化還元滴定、沈殿滴定などがあります。通常の滴定では、ビュレットなどの専用器具を用いて手動で行いますが、滴定装置では、溶液の滴下、終点の判断、濃度計算まで自動で行うことができます。

滴定装置の使用用途

滴定装置では、通常手作業で行う一連の滴定操作を自動で精確に行うことができます。

滴定操作は目的物質の濃度を測定する目的で、製品の品質管理や分析、検査などの分野で行われています。特定の成分を正確に定量できることから、化合物の純度分析や水の硬度測定、食品の酸度分析などで使用されています。

滴定装置を使用すると人手を省くことができ、また精度良く測定できることから、研究施設や企業では導入が進んでいます。

滴定装置の原理

滴定は試料中の目的物質を定量する分析操作です。測定対象の溶液に既知濃度の標準溶液を加え、終点までに必要な容量を求めることで、測定対象の濃度を求めることができます。滴定操作に使用する実験器具には、コニカルビーカー、ビュレット、ホールピペットなどがあり、高校化学でも扱う分野です。終点の判断には通常指示薬を用います。指示薬を用いることで、色の変化で終点を判断できるようにするためです。

滴定装置は主に操作パネル、ビュレット、スターラー、電極、検出器などから構成されています。滴定する試薬をビュレットに接続し、スターラーの上に測定試料が入ったビーカーを乗せて使用します。装置の多くは電気滴定法に対応した機種で、反応によって変化する電気量を計測して終点を判断しています。

参考文献
https://aqua-ckc.jp/doc/stnote_electricity.pdf

ロータリーポンプ

ロータリーポンプとは

ロータリーポンプ

ロータリポンプとは、中真空 (10^-1 Pa) 程度までの真空状態を容易に実現するポンプです。

正式には油回転真空ポンプと呼ばれます。主な特性は以下の通りです。

  • 比較的安価 (10万円から30万円)
  • コンパクトで据え付けが簡単
  • シンプルな構造で使いやすく、メンテナンスが簡単
  • 排気効率が良く、大きな排気速度を得られる
  • 総合的に性能が安定している

比較的安価で操作も簡単なため、科学研究用機器や産業システムなど様々な用途に利用されてきました。

最近では、モータ直結高速回転速型が開発され小型化が進んだことにより、利用範囲が拡大しています。しかし、従来型のベルトがけ低速回転型機種も、化学実験関係のような薬品蒸気を吸引する場面で活躍しています。

ロータリーポンプの使用用途

ロータリーポンプは操作や据え付けが簡単で手軽に使えるため、真空が必要であるが高真空までは必要とされない場面で幅広く使用されています。具体的には、真空が必要な科学実験用装置等と組み合わせて使用します。

また、超高真空を実現する際に初期段階の減圧 (粗引き) や、システム全体の背圧を維持するためのバックポンプとして使用されることも多いです。この使い方では、排気速度の大きさが役立っています。ロータリーポンプのコンパクトさと安定した性能が使いやすさの基盤となっており、多種多様な利用方法にフィットします。

ロータリーポンプの原理

ロータリーポンプは形式によって原理が異なります。

1. 回転翼形油回転真空ポンプ

シリンダの内側に組み込まれているローターに取り付けられた2枚の羽根によって、シリンダ内を3つの空間に分割する構造になっています。羽根によって分割された小部屋の気体がローターの回転とともに排出されることにより、減圧が進みます。

2. カム形油回転真空ポンプ

円筒形ステータの中心に設置された偏芯ローターの一部がステータと接触しながら回転します。ステータとローターの隙間空間にある気体が排出されることにより、減圧が進みます。

3. 揺動ピストン形油回転真空ポンプ

偏心ローターの回転によってピストンが上下運動を行います。シリンダ内部の期待がピストンにより圧縮・排出されることで減圧が進みます。

これらすべての形式のロータリーポンプにおいて、ベアリング部の潤滑や冷却、ポンプ内部の気密性を高めるためオイル (油) を用いています。そのため油回転真空ポンプと呼ばれます。

ロータリーポンプの選び方

ロータリーポンプを選ぶ時は、下記の3点を確認する必要があります。

1. 到達させたい真空度

到達させたい真空度が機種の性能に合致しているかが、選定する際に最も重要です。ロータリーポンプの中でも、ツーステージ型は高い真空を得ることができます。

2. 電源

屋外で手軽に使う場合は、バッテリー駆動型が便利です。例えば、エアコン設置のときに冷媒を吸引する作業の時などが挙げられます。

据え置きで使用する場合は電源使用のタイプになります。多くの装置が単相交流100Vを用いますが、工業用のモデルでは3相交流を用いるタイプもあります。

3. オイル逆流防止機能

真空引きをしている途中に停電が発生するなど、作業中に動作が止まってしまった際に、ロータリーポンプから真空側にオイルが吸引されて流れてしまいます。停止操作のときに減圧解除が不十分である場合も同様のことが起こるため、防止する逆流防止機構の有無も重要な選択ポイントです。

ロータリーポンプのその他情報

1. オイルミストの発生とその影響

ロータリーポンプでは、オイルを用いる以上、どうしてもオイルミストが排気側に飛んでいきます。また、ごくわずかなオイルがミストとして真空側にも舞い上っていきます。真空にオイルミストが混ざることが好ましくない場合は、油回転ポンプではなくオイルフリー型のポンプを検討するとよいでしょう。

可燃性・支燃性ガス (酸素) を廃棄する場合、オイルミストが排気側で粉塵爆発に似た現象で爆発する場合があります。このようなガスを排気する場合、オイルに不活性油 (ハロゲン化炭化水素のオイル等) を用いると良いとされています。

2. ガスバラスト操作の効果

減圧時に吸引した気体に含まれる、少量の凝縮物 (水や有機溶媒など) はオイルに溜まっていきます。そのままにしておくと、オイルの本来の性能が発揮できなくなるため、これを除去するためにガスバラストという操作を行います。

ロータリーポンプの温度が十分上がっている状態で、ガスバラストバルブという弁を開放することで、凝縮物を揮発させて放出することが可能です。

3. オイル交換の必要性

オイルは徐々に劣化していくため、定期的に交換が必要です。一般的には、半年から1年に1回程度の交換を行います。

参考文献
http://www.asahiseiki.co.jp/
http://www.asahiseiki.co.jp/column/post/
http://www.shinku-pump.com/vacuumpump/rotary/

ステンレス表面処理

ステンレス表面処理とは

ステンレス表面処理とは、ステンレスが持つ不動態被膜という被膜を形成する特性を活かした表面処理のことです。

ステンレス鋼は鉄を主成分として、11%以上のクロムを含有した合金鋼を指します。ステンレスの不動態被膜は酸化することがないので、金属内部の腐食も発生しません。

英語で錆はステン (stain) と表記され、ステン (錆) が生じない鋼として、ステンレス (stainless) と呼ばれています。ステンレスは錆びにくいだけでなく強度も強い材料です。表面加工処理をすることにより、さまざまな分野に使用されています。

ステンレス表面処理の使用用途

ステンレスは塗装やコーティングなどで表面を覆わなくても、錆びずに金属の光沢を保つことができるため、金属の光沢を活かしたい装飾部分によく用いられます。具体的には、自動車の内装部品や家電製品などです。

そのほか、厨房機器やクリーンルーム、工場内で製品の搬送を行う装置のガイド部品、食品や医療品といった衛生面が重視される製品の搬送シュートやホッパーでも、ステンレスの表面処理を活かした製品が広く使われています。

ステンレス表面処理の原理

ステンレスが金属光沢を残したままの表面処理ができるのは、ステンレスが不動態被膜を形成し、自ら錆の発生を抑える効果を発揮するからです。ここではステンレスの不動態被膜について説明します。

まずステンレス鋼の主成分である鉄は、大気中において酸化することによって錆を生じます。錆が進行すると、鉄自体がボロボロと分解してしまいます。ところが鉄にクロムを混ぜると、鉄よりもクロムが酸化します。

表面のクロムが鉄よりも先に酸化することによって、酸化被膜が形成されます。これがステンレスの不動態被膜です。特にクロムの含有量が11%を超えると、鉄はほとんど錆びなくなります。

ステンレスの不動態被膜は表面にキズがついても、すぐに不動態被膜が形成されます。不動態被膜の再生が妨げられない限り、ステンレス鋼が錆を発生することはありません。

ステンレス表面処理の種類

表面処理方法には、さまざまな種類があります。よく使われている表面処理は以下のとおりです。

1. No.1 (ナンバーワン材)

ステンレス表面についた酸化スケールを除去したのものです。表面の状態は光沢がなく、銀白色をしています。

2. No.2D仕上げ

熱処理・酸洗を行い、つや消しの仕上げを行ったものです。

3. No.2B (ツービー材) 

No.2D仕上げ材に光沢を与えたものです。表面は滑らかになっており、少しだけ光沢もあります。

4. BA

冷間圧延後、光輝熱処理を行った表面処理の事です。鏡面に近い処理になっています。

5. #400

No.2B材をさらに研磨処理したものです。No.2B材よりも光沢があることが特徴になっています。

6. ヘアライン仕上げ

スクラッチ線を縦模様につけて表面仕上げしたものです。建材によく使用される表面処理方法です。

7. #700 (No.7) 

#400仕上げよりも細かい研磨で仕上げ処理をしたものです。準鏡面仕上げとも呼ばれています。鏡面仕上げよりも、細かいキズが残っていることが特徴です。

8. #800 (No.8)

鏡面仕上げのことです。表面はキズひとつなくピカピカな仕上げになります。

ステンレス表面処理のその他情報

1. ステンレス表面処理における酸洗い

酸洗いはステンレスを硫酸塩酸などの強酸に浸すことで表面を洗浄する作業で、「不純物の除去」「耐食性の向上」を目的に行われます。

「不純物の除去」を目的とした酸洗いでは、熱処理時に生じた焼けや黒皮、在庫保管時などにできる錆や微細な傷、加工工程でできたバリや切削油などを除去します。これによって表面状態が綺麗になり、また適度な凹凸が表面につくことで下地として仕上がり、その後のステンレス表面処理の品質が向上します。

「耐食性の向上」を目的とした酸洗いは、一度形成したステンレス表面の不働態被膜を除去し、改めて綺麗なものを形成させるためです。ステンレスはそのままの状態でも、不働態被膜が形成されますが、熱処理や機械加工、運搬や保管で被膜が破壊されたりすることで耐食性が低下しています。

このため、酸洗いにより耐食性の劣化した不働態被膜を除去し、再度ステンレス表面に綺麗な不働態被膜を形成させます。

2. ステンレス表面処理による黒染め

ステンレスは、クロム酸化法や硫化法、またアルカリ溶液高温着色法などの化学的方法により黒染め表面処理することが可能です。ステンレスの黒染めによる表面処理は、通常の不働態被膜よりも優れた耐食性と耐熱性、耐摩耗性が得られます。

また、反射を抑えることができることから、光学機器等の部品や、装飾としても利用されています。

紫外線硬化型接着剤

紫外線硬化型接着剤とは

紫外線硬化型接着剤

紫外線硬化型接着剤とは、紫外線の照射によって硬化する接着剤のことです。

UV (ultraviolet) 硬化型接着剤とも呼ばれ、一般的な乾燥硬化型接着剤と比較して、速硬化性に優れており、硬化時の体積変化が小さいことが特徴です。また、熱を加える必要がないので、耐熱性の低いプラスチック材料の使用に向いています。

一方で、紫外線が照射される部分しか硬化しないため、入り組んだ複雑な構造物への使用には向いていません。また、使用する接着剤が多い場合、充分に硬化しないことがあります。

紫外線硬化型接着剤の使用用途

紫外線硬化型接着剤の利点は、瞬間的な硬化と高い接着強度、透明性、耐候性、耐熱性、耐薬品性があります。また、溶剤を含まないため、環境にも優しいとされています。

ただし、使用する際には紫外線照射装置が必要です。また、紫外線が届かない部分は硬化しません。

1. 電子機器・電子部品

プリント基板の接着やコンポーネントの固定、ワイヤーの保護、液晶ディスプレイの組み立て等。

2. ガラス・光学

ガラスの接合や補強、レンズやプリズムの組み立て、光ファイバーの接続等。

3. 自動車業界

ヘッドライトやテールライトの製造、内装部品の固定、エンブレムの接着等。

4. 医療・歯科

歯科用の充填材やセメント、医療機器の組み立てや修理等。

5. プラスチック・樹脂

合成樹脂やプラスチックの接着や成形、成型品の補修等。

6. 宝飾品・アクセサリー

金属やガラス、石の接着や装飾品の修理等。

紫外線硬化型接着剤の原理

紫外線硬化型接着剤には、モノマーやオリゴマー、光重合開始剤、添加剤などの成分が含まれています。紫外線硬化型接着剤に紫外線を照射すると、光重合開始剤が紫外線を吸収し、光重合開始剤の種類によって、ラジカル、カチオン、アニオンのいずれかを発生させます。

この開始剤が発生させる重合種によって、ラジカル重合、カチオン重合、アニオン重合のいずれかで、分子量の小さなモノマーやオリゴマー同士が結合し、分子量の大きなポリマーになることで硬化する仕組みです。

ラジカル重合タイプは硬化速度が速く、一般的に広く使用されています。カチオン重合タイプやアニオン重合タイプと比べて、モノマーやオリゴマーの合成が容易であるため、要求される性能に応じて樹脂の成分を変化させることが可能です。

一方で、カチオン重合タイプやアニオン重合タイプは硬化時の収縮が小さいことが特徴で、材料を加圧して形状を整えられない場合や精度が要求される場合に効果的です。

紫外線硬化型接着剤の種類

紫外線硬化型接着剤は、構成するモノマーの種類に応じてさまざまな特性を持つものが作れます。紫外線硬化型接着剤に含まれるモノマーを以下に記載します。

紫外線硬化型接着剤に使用されるアクリル系モノマーの例として、単官能アクリレートや2官能、3官能などの多官能アクリレートが挙げられます。

1. 単官能アクリレート

単官能アクリレートは、2官能や3官能アクリレートと比較して重合反応部位が少ないので、樹脂の架橋密度を低減できます。それにより、樹脂の粘性を減少させる、重合反応性を増加させるなどの効果が期待できます。

単独で使うよりも他のモノマーやオリゴマーと混ぜて、接着剤の性質を調節する目的で使用します。

2. 2官能・3官能アクリレート

二次元的な架橋構造を作ることができるので、接着剤の強さが向上します。また、耐溶剤性や硬度を高めることができます。これらのアクリレートは反応部位が多く、短い時間で硬化するので、作業性の面で効率が良いです。

しかしながら、2官能や3官能アクリレートの添加量が多すぎると、その分反応部位が多くなってしまうので、全体の重合率が悪くなる可能性があります。また、重合反応時の接着剤の収縮が大きくなってしまい、基材への密着性が悪くなる、基材が湾曲するなどの問題が生じることがあります。

紫外線硬化型接着剤のその他情報

1. 紫外線硬化型接着剤の使い方

広く使用されている熱硬化型接着剤と同様に、塗布したい箇所に適量塗布します。次にUVライトなどの紫外線照射装置を使って、接着剤を塗布した部分に紫外線を照射すると、すぐに硬化が始まります。

短時間で硬化反応が終了し、接着完了です。このように、紫外線硬化型接着剤の使い方は非常に簡単なので、誰でも気軽に使うことができます。

2. 紫外線硬化型接着剤の注意点

紫外線硬化型接着剤の使用上の注意点は、主に2つあります。1つ目は、使用する紫外線の照射強度を適切に設定する必要があることです。強度が大きい場合、接着剤の硬化反応がすぐに進行しますが、過度に大きいと接着剤の表面のみで硬化反応が進行し、内部が充分に硬化しないことがあります。

そのため、接着強度が小さくなる可能性が考えられます。また、強度が小さすぎると、照射により発生したラジカルの量が少なく、空気中の酸素と反応してしまうため、硬化が不充分となることがあります。

2つ目は、接着剤を塗布した箇所に紫外線を到達させる必要があることです。接着剤の特性上、塗布される部分のほとんどが入り組んだ部分や接着するもの同士の間です。そのため、硬化に必要な紫外線が接着剤まで届かず、硬化が不充分となることがあります。接着剤を塗布した部分にしっかりと紫外線が照射されるように工夫が必要です。

参考文献
https://www.toli.co.jp/product_adhesive/pdf/gijutu02.pdf
https://techtimes.dexerials.jp/bonding/how-to-use-adhesive/ https://www.jstage.jst.go.jp/article/yukigoseikyokaishi1943/33/8/33_8_634/_pdf
http://www.daicel-allnex.com/products/product07.html
https://www.kusumoto.co.jp/product/coating-sol/additives/leveling.html https://www.jstage.jst.go.jp/article/networkpolymer/34/5/34_245/_pdf/-char/ja https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjspe/76/2/76_2_161/_pdf

分光分析装置

分光分析装置とは

分光分析装置

分光分析装置 (英: Spectrometer) とは、物質が発光する光、吸収する光の測定により、物質の組成や性質を調べることができる分析装置の総称です。

装置は主に光源、分光部、試料部、検出器などから構成されています。分光分析装置は、使用する光源の種類や装置の仕組みなどによって様々な種類のものがあります。

具体的には、紫外可視分光光度計 (UV-Vis) 、赤外分光光度計 (IR) 、誘導結合プラズマ発光分光分析装置 (ICP-AES)、原子吸光分析装置 (AAS) 、蛍光X線分析装置 (XRF) 、X線光電子分光分析装置 (XPS) などが挙げられます。各装置で分析できる内容は異なるため、目的に応じて使い分ける必要があります。

分光分析装置の使用用途

分光分析装置は、様々な分野で使用されています。以下に代表的な使用用途をいくつかご紹介します。これらは一部の例であり、分光分析装置は幅広い分野で活用されています。

1. 化学・生化学

合成した化学品の分子構造や、反応率、不純物含量の確認などの品質管理、タンパク質やDNAの構造解析、酵素反応の測定などが挙げられます。

2.環境科学

水質や大気中の汚染物質の検出、分析が挙げられます。

3.医療・薬学

薬物の質量測定や血液中の成分測定、病気の診断などが挙げられます。

4.食品工業

食品中の栄養成分や添加物の定量分析、品質管理、材料の組成解析、表面の物性測定、酸化反応の研究などが挙げられます。

分光分析装置の原理

分光分析装置は、基本的に試料に何らかの光を照射し、このとき試料に吸収、反射、もしくは試料から発光される光の分析により、試料中の物質の同定や定量を行う装置です。分析した結果は、スペクトルと呼ばれる波形図で出力されます。

このスペクトルデータの解析により、例えば、試料の定性分析や定量分析、分子構造の評価、材料特性の評価などを行うことが可能です。測定原理は装置毎に異なり、先述した6つの代表的な装置の測定原理を簡単に記述します。

1. 紫外可視分光光度計

紫外・可視領域波長までの光を試料に照射すると、市試料中に含まれる物質によって、光が吸収、反射されます。入射光の波長ごとに、吸収や透過する光の強度を測定して、試料中に含まれる成分の分子構造や、定量が可能です。

2. 赤外分光光度計

試料に赤外線を照射すると、試料は赤外線を吸収したり反射したりします。吸収、反射される赤外線は、試料中の化合物の種類や結合の状態によって異なります。分光器で赤外線を波長ごとに分け、検出器での光の強度測定により、試料中の化合物の種類や結合の状態がわかります。

3. 誘導結合プラズマ発光分光分析装置

物質を高温で燃やすことで発生する「プラズマ」と呼ばれる炎の中に試料を導入し、発光を観察して物質の成分を知ることができます。試料は、プラズマの中に入れられると、原子やイオンに分解されます。

この際に、プラズマ中の原子やイオンがエネルギーを吸収し、それを放出する際に光が発生します。この発光は、さまざまな波長の光で構成されており、その光の強さや波長の測定により試料中の成分を知ることができます。

4. 原子吸光分析装置

特殊な光源から出た光を試料に当てます。元素は元素固有の波長の光を吸収するため、吸収された光の強度の波長ごとの測定により、試料中の元素の量を知ることができます。

5. 蛍光X線分析装置

X線が試料に当たると、試料中の元素がエネルギーを吸収し、それを放出する際に蛍光X線が発生します。

この蛍光X線のエネルギーは、元素の種類によって異なるため、蛍光X線のエネルギーを測定して、どの元素が試料中に含まれているかを知ることができます。

6. X線光電子分光分析装置

固体表面に、X線を当てると原子や分子のイオン化が起こり、イオン化に伴って電子が放出されます。放出された電子は、元素やその化学的な状態によって異なるエネルギーを持っています。

装置内の検出器によって、放出された電子のエネルギーを測定し、それを元に試料中の元素の種類や状態を知ることができます。X線のエネルギーを変えながら測定を行うことで、さまざまな深さの試料表面を調べることが可能です。

分光分析装置の種類

分光分析装置は様々な種類があり、装置によって分析可能なことが異なります。ここでは、6つの代表的な装置の概要を簡単に記述します。

1. 紫外可視分光光度計 (UV-Vis)

紫外線や可視光線を光源として、物質が透過、吸収、反射した光を調べることができる装置です。試料中の成分の定性、定量分析を行うことができます。

2. 赤外分光光度計 (IR)

赤外線を光源として、物質が透過、反射した光を調べることができる装置です。試料中の成分の構造推定や定量を行うことができます。

3. 誘導結合プラズマ発光分光分析装置 (ICP-AES)

誘導結合プラズマ中に試料を導入し、その際に生じる発光現象を検出する装置です。感度が非常に高いので、微量元素の定性、定量分析を行うことができます。

4. 原子吸光分析装置 (AAS)

原子が固有の波長の光を吸収する現象を利用し、微量元素の定性、定量分析を行うことができる装置です。

5. 蛍光X線分析装置 (XRF)

X線を光源として、物質の元素分析を行うことができる装置です。各元素固有の蛍光X線を測定して、試料の定性分析、定量分析を行うことができます。

6. X線光電子分光分析装置 (XPS)

X線を光源として、固体表面を構成する原子や分子の情報を得ることができる装置です。

参考文献
https://www.ushio.co.jp/jp/technology/glossary/glossary_ha/spectrophotometric_analysis.html
https://www.xrite.co.jp/colorknowledge-blog/color-expert-blog/536-blog-20180619.html https://www.jstage.jst.go.jp/article/jcrsj1959/29/2/29_2_149/_pdf 
https://www.mst.or.jp/method/tabid/1222/Default.aspx
https://www.jstage.jst.go.jp/article/johokanri/10/4/10_172/_pdf https://www.ushio.co.jp/jp/technology/glossary/glossary_ha/spectrophotometric_analysis.html

赤外分光光度計

赤外分光光度計とは

赤外分光光度計とIRスペクトルのイメージ

図1. 赤外分光光度計とIRスペクトルのイメージ

赤外分光光度計 (英: Infrared Spectrophotometer、略称: IR) とは、試料に赤外線を照射し、透過、反射した赤外線を検出する分析装置です。

試料の分子構造などに関する情報を得ることを目的に使用されます。装置の主な構成は、光源、分光部、試料部、検出器などです。分子に赤外線を照射すると、試料中の分子の振動や回転によって吸収が生じます。この吸収スペクトルは分子の構造によって異なっているため、分子構造に関する情報を得ることが可能です。

特に分子構造に含まれる官能基を特定する目的で使用されたり、試料の定性分析や定量分析に使用されます。非破壊で簡便に測定を行うことが可能で、粉末試料や薄膜など様々な材料に対応することができる手法です。

赤外分光光度計の使用用途

赤外分光光度計 (IR) は有機化合物を取り扱う、薬学、農学、生物学、ガス分析、鑑識などの広い分野で使用されています。物質の定性分析や定量分析に利用される手法です。

主な用途の一つに、化合物の部分的な構造決定があります。官能基はそれぞれ固有の吸収を持ち、ピークがそれぞれほぼ一定の波数域 (特性吸収帯) に検出されることを利用したものです。

また、IRスペクトルは物質に固有な情報であるため、標準試料のスペクトルと、測定したスペクトルを照合することにより未知試料を同定する、という利用方法もあります。局所的に赤外線を照射できる顕微赤外分光光度計では、微量試料の測定や材料中の異物分析の特定が可能です。

赤外分光光度計の原理

赤外吸収によって観測される分子の振動の例

図2. 赤外吸収によって観測される分子の振動の例

赤外分光光度計で用いられている手法は、赤外分光法 (英:infrared spectroscopy, 略称:IR) と呼ばれる分析手法です。物質に赤外線 (2500~25000nm) を照射すると、分子の振動や回転などに基づいた吸収が起こります。

このとき、分子内の原子を繋ぐ結合部分は結合の種類によって異なった伸縮を示すため、その結果として吸収スペクトルも結合の種類によって異なります。これが、IRが官能基の構造決定に適している所以です。吸収された赤外線の波数を調べることで、官能基の種類を判別することができます。

検出器では、試料に吸収 (もしくは反射) されることにより、照射された赤外線からどの程度減少したか、を測定しています。これによって得られるIRスペクトル (赤外吸光スペクトル) は、照射した赤外線の波数 (単位の表記:cm-1、読み:カイザー) を横軸に、透過率%Tを縦軸にとります。

赤外分光光度計の種類

分散型IR (上) とFT-IR(下) の概略図

図3. 分散型IR (上) とFT-IR(下) の概略図

赤外分光光度計には、分散型とフーリエ変換型 (フーリエ変換赤外分光光度計 FT-IR) があります。

1. 分散型

分散型では、分光器回折格子を用い、試料を透過した後の光を分散させた後、各波長を順次検出器で検出します。

2. フーリエ変換型 (FT-IR)

フーリエ変換型では、干渉計を用いて干渉波を作り、これを試料に照射します。非分散で全波長を同時に検出した後、コンピュータ上でフーリエ変換を行って各波長成分を計算する方法です。

一度にすべての波数で測定することが可能で、短時間で簡単に測定することができます。感度や分解能にも優れているため、現在はフーリエ変換型が赤外分光法の主流です。

分散型と比較してフーリエ変換型 (FT-IR) のメリットとして以下4点が挙げられます。

多波長同時検出
フーリエ変換型では移動鏡を動かすことでIRスペクトルが得られます。分散型のように回折格子を動かして多波長をスキャンする必要がなく、高速測定が可能です。

測定対象の数が多い場合や、積算をおおくかけてノイズを低減させたい場合には、FT-IRを使う方が時間効率が圧倒的に良くなります。加えて多波長を同時に測定できるため、波長ごとに時間的な変動が少ないとうメリットがあります。 (測定装置の温度ドリフトの低減)

SNRの向上
分散型ではスリットを用いますが、FT-IRではスリットを用いず、検出器にに到達するエネルギーが大きくなるため、SNRが向上します。

波数分解能が高い
波数分解能の高いスペクトルを測定するにはスリットを絞る必要のある分散型と異なり、FT-IRでは移動鏡の移動距離を伸ばすことで波数分解能を簡単に上げることが可能です。

測定波数域の拡張が可能
光源、ビームスプリッター、ディテクタ、窓板の交換により、遠赤外から可視域まで波数域を拡張可能です。

赤外分光光度計のその他情報

測定試料の調製

赤外分光光度計を用いて化合物同定を行う場合の大半は、透過法で分析します。透過法には、粉末状の試料をKBrプレートに挟み込んだり (KBrプレート法)、粉末化してKBr粉末と混ぜ合わせて錠剤状に固めたり (KBr錠剤法) するなどの調製法があります。

このように調製した測定試料に赤外線を照射し、透過した赤外光を分析します。吸湿性を有する試料の場合は、粉末化した試料と流動パラフィンを練り合わせ、ペースト上にしたものを窓板に塗布する方法があります (ヌジョール法)。高分子化合物など薄膜上の試料は、赤外光が試料を透過するため、直接赤外光を照射し、測定することが可能です。

また、調製法によっては、分析できない吸収体が存在するので注意が必要です。例えば、KBr錠剤法では、KBrの吸湿の影響により、OH基の吸収帯の評価は困難であり、ヌジョール法では流動パラフィンの吸収が出るため、該当吸収体の測定はできません。

参考文献
https://www.kobelcokaken.co.jp/tech_library/pdf/no06/b.pdf
https://www.jstage.jst.go.jp/article/shikizai1937/78/10/78_480/_pdf
http://www.jsir.org/wp/wp-content/uploads/2014/10/1995.12VOL.5NO.2_4.pdf
https://www.jstage.jst.go.jp/article/gomu/90/12/90_571/_pdf/-char/ja
https://www.jasco.co.jp/jpn/technique/internet-seminar/ftir/ftir2.html
https://co-labo-maker.com/equipment/733

質量分析計

質量分析計とは

質量分析計のイメージ

図1. 質量分析計のイメージ

質量分析計 (英語:Mass Spectrometer、略称: MS) は、試料中の分子をイオン化し、生じたイオンの検出・質量電荷比 (m/z) の同定を行う装置です。

略称の”MS”は、日本語では慣用的に「マス」と読むこともありますが、日本質量分析学会では国際的に使用されている「エムエス」を推奨しています。分子を何らかのイオン化法によってイオン化すると、静電力によって飛行するようになります。

質量分析計は、飛行しているイオンを真空中において電気的・磁気的な作用等により質量電荷比 (m/z) に応じて分離し、検出する分析装置です。装置は主に試料導入部、イオン源、質量分離部、検出器などから構成されています。

イオン化、質量分離の方法によっていくつか種類があり、測定試料や用途に合わせて使い分けられています。質量分析計では、主に試料の同定や未知試料の成分解析を行うことが可能です。また、同位体を区別して検出することもできます。

質量分析計の使用用途

質量分析計は、低分子化合物から、タンパク質や合成高分子化合物などの高分子化合物まで、幅広い分子の定性・定量分析する際に使用されます。

既知物質の同定や未知物質の構造決定において有効な分析方法であるため、有機化学や生化学をはじめとする化学・生物学分野全般で広く用いられています。具体的には、様々な農薬や医薬品、天然由来化合物などに関連する研究開発や品質管理、分析、検査などです。

また近年では、大きな分子量を有するタンパク質もイオン化できるようになったため、ライフサイエンスや医療分野でも活用されています。

質量分析計の原理

質量分析計の原理

図2. 質量分析計の原理

質量分析計の基本的な原理は次のようになります。下記の一連の工程で得られるマススペクトルは、m/zを横軸、検出強度を縦軸とします。

  1. 試料を試料導入部から装置内に導入します。
  2. イオン源によってイオン化されます。
  3. 質量分離部において、m/zに応じて磁場や電場から受ける作用の大きさが異なることを利用して分離され、検出器で検出されます。

質量分析計では、試料分子が電荷を1つだけ持った1荷イオンの他、2価以上に荷電した多価イオンや、解離によって生成したフラグメントイオン、あるいは試料同士が会合した会合イオンなどが生成し、それぞれを検出することができます。また、ピークは通常、元の分子の同位体比に由来する固有の分布を持ちます。

質量分析計の種類

質量分析計には様々な種類がありますが、主にイオン源の種類と質量分離部の種類の組み合わせによって分類されます。例えば、”MALDI-TOF-MS”や”ESI-TOF-MS”などのように表記されます。

1. 試料導入部

イオン化源と質量分離部の例

図3. イオン化源と質量分離部の例

質量分析計には、試料導入部の前に他の装置を組み合わせたものもあり、研究開発や品質管理の分野で使用されています。例えば、液体クロマトグラフィーを組み合わせたLC-MS、ガスクロマトグラフを組み合わせたGC-MS、誘導結合プラズマを組み合わせたICP-MSなどの分析機器があります。

2. イオン源

EI法 (Electron Ionization、電子イオン化法)
高真空下で熱気化した分子(M)に加速した電子を衝突させます。それによって分子から電子が放出し、分子イオンと呼ばれるラジカルカチオン (M+・) が生成する方法です。

ESI法 (ElectroSpray Ionization、エレクトロスプレーイオン化法)

  1. まず、試料溶液を高電圧をかけたキャピラリに導入します。
  2. キャピラリの外側から霧化ガス (ネブライザーガス) を流してスプレーすることで、帯電液滴を形成します。
  3. 帯電液滴は移動の過程で溶媒の蒸発・表面電場の増加が進み、やがて電荷同士の反発力が液体の表面張力を越え、液滴が分裂します。
  4. 蒸発と分裂の繰り返しにより、最終的には試料イオンが気相中に放出されます。

MALDI法 (Matrix Assisted Laser Desorption Ionization、マトリックス支援レーザー脱離イオン化法)
マトリックス芳香族有機化合物などのマトリックス中に試料を混ぜて結晶を作成し、これにレーザーを照射することでイオン化する方法です。適用できる分子量範囲は1~1000000程と非常に幅広く、タンパク質などの高分子化合物も安定にイオン化することができることが最大の特徴です。

FAB法 (Fast Atom Bombardment、高速原子衝撃法)
グリセリンなどのマトリックスと、有機溶媒に溶かした試料溶液とをよくかき混ぜ、高速の中性原子を衝突させて、試料分子をイオン化する方法です。

この他にも、CI法、FD法、APCI法、ICP法などがあります。

3. 質量分離部

四重極型 (Quadrupole, Q)
4本の電極ロッドを用い、イオン源から放出されたイオンに高周波電圧を印加する手法です。電極ロッドは直流電圧と交流電圧をかけられ、ある特定のm/zをもつイオンのみが検出器に到達可能な電場を作り出します。

直流電圧と交流電圧の比を一定に保ちながら、交流電圧を直線的に変化させることにより、目的とするm/z範囲の全イオンを測定することを原理上可能とする手法です。m/z 4000程度までの範囲に対応しています。

二重収束型
磁場セクター型 (Magnetic Sector) の質量分離部の一つです。磁場セクター型では、イオンを磁場中に通し、その際に受けるローレンツ力による飛行経路の変化を利用します。二重収束型は、特に磁場セクターと電場セクターを組み合わせて、イオンの速度収束と方向収束の両方を実現したものです。

飛行時間型 (Time-of-Flight, TOF)
既知の電界強度の電場によってイオン化した試料を加速し、各イオンが検出器に到達するまでの時間差を検出する手法です。m/zが大きいものほど飛行速度が遅くなり、検出器に到達するまで時間がかかることを利用して、各イオンを同定します。原理上は測定可能な質量範囲に制限がありません。

この他にも、イオントラップ型 (Ion Trap, IT) フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴型 (Fourier-Transform Ion Cyclotron Resonance, FT-ICR) 、加速器質量分析 (Accelerator Mass Spectrometry, AMS) などの手法があります。

参考文献
https://www.jsac.or.jp/bunseki/pdf/bunseki2017/201706NYUUMON.pdf
https://www.mext.go.jp/component/b_menu/shingi/toushin/__icsFiles/afieldfile/2016/03/09/1368133_05.pdf
http://jsac.jp/bunseki/pdf/bunseki2009/200901nyuumon.pdf
https://www.jstage.jst.go.jp/article/kakyoshi/67/10/67_484/_pdf

ソーラーパネル

ソーラーパネルとは

ソーラーパネル

ソーラーパネルは、太陽の光エネルギーを電気エネルギーに変換して発電する機能を持ったパネル状の電池です。

ソーラーパネルは太陽光パネル、太陽光発電モジュールとも呼ばれます。ソーラーパネルは自宅の屋根に取り付ける住宅用の小型パネルから、空き地や山間部の広大なスペースを利用して大容量発電を行う企業や投資家向けの産業用ソーラーアレイ(ソーラーパネルを複数組み合わせたもの)といったものが存在します。

ソーラーパネルの使用用途

ソーラーパネルは発電による電気機器の駆動(消費)、営利目的の売電(生産)も含めて電気を発電することで何らかの利益を享受することを目的に利用されます。

ソーラーパネルは、主に3つのタイプに分類でき、用途や設置環境に応じて適切な素材や構造のソーラーパネルを選ぶ必要があります。

  • 屋根一体型パネル+蓄電池:オール電化を導入している家庭において、日中に高くなる電気代を抑えるため夜間に発電と蓄電を行う。
  • ソーラーカー、電卓、モバイルバッテリー:機器にソーラーパネルを搭載し、機器を駆動するための電力を発電により賄う。

ソーラーパネルの原理

ソーラーパネルは、一般的に太陽光の光エネルギーをパネル表面に照射させることで、光起電力効果を利用することで電力を取り出しています。

電力を増やすためには複数のソーラーパネルを直列に接続して電圧を確保する必要があり、また、それらのパネルを並列に接続して電流量も確保する必要があります。取り出した電力は直流のため、実際に家庭で使用する交流電力に変換するためには別途パワコン(パワーコンディショナ)という装置が必要です。

ソーラーパネルからの発電の原理にはいくつかの種類があります。

古くから使われ様々な形式を持つ「シリコン系」、コストダウンを図った「化合物系」、さらなる薄型化や柔軟性、着色性付加価値を持たせられる「有機系」などの方式がありますが、生産コストやエネルギー変換効率の二点から主に「結晶シリコン系」が多く採用されています。

1. シリコン系

シリコン系とは、言葉通りシリコンを素材としたソーラーパネルのことです。

シリコン系はシリコンウエハーを半導体として利用しており、光エネルギーを電子が吸収することで光起電力効果により電力が発生します。光起電力効果は主にpn接合型のフォトダイオードなどにより実現させています。

シリコン系は材料や構造でさらに細分化されています。

  • 材料としての分類:単結晶シリコン型、多結晶シリコン型、アモルファスシリコン型があります。
    それぞれ、発電効率の良い単結晶型、安価な多結晶型、薄くて軽いが発電量が比較的低いアモルファスシリコン型といった違いがあります。
  • 形態としての分類:薄膜シリコン型、多接合型など
    シリコン層を薄くすることで生産コストの低減を図った薄膜シリコン型、異なる種類のシリコン層を積層化することで高い変換効率、優れた温度特性をもつ多接合型と、それぞれメリットがあります。

2. (無機)化合物系

(無機)化合物系とは、結晶シリコンの代わりとなるような無機化合物を素材としたソーラーパネルのことです。

半導体を用いたCIS系やGaAs系など、様々な無機化合物の組み合わせにより構成されています。シリコン系と同じく、化合物系も半導体を用いた光起電力効果により電力が発生します。

3. 有機系

有機物系とは、上記のシリコンや無機化合物の代わりに有機化合物を素材としたソーラーパネルのことです。寿命や変換効率が課題ではありますが、柔軟で軽量、着色可といった付加価値が特徴です。

有機系は有機色素を利用して光起電力を得ています。二枚の電極間に色素を吸着させた二酸化チタン層があり、色素中の電子が光励起を起こして電力が発生します。

ソーラーパネルの価格

太陽光発電システムを家庭に導入するため、ソーラーパネルの設置を検討されている方が増えています。同時に、その価格を懸念されている方も多いのではないでしょうか。

設置費用は、部材費や人件費はもちろん、コーキング材などの諸経費が必要です。そのため、設置容量を5.00kWと想定すると、設置価格の目安は145万円程度が相場です。これは、経済産業省の資料から算出されています。

費用で懸念されている方は、月々の電気代や売電収入、メンテナンス代などと合わせて設置費用も参考にしてください。メリットを確保した上で、長期的な計画が大切です。

ソーラーパネルの寿命

ソーラーパネルの寿命は約20年、長いもので約30年と考えられています。寿命を迎えたソーラーパネルは、交換するしか手段がありません。

また、屋外に設置することから経年劣化は免れません。劣化具合によって、寿命を迎えるよりも早く発電効率が悪くなる可能性もあります。

そのためソーラーパネルには、こまめなメンテナンスは必要不可欠です。一般的には、4年に1度の定期メンテナンスが推奨とされています。有償メンテナンスとなると、1回の費用は10万〜20万円程度が目安です。

蓄電や、売電での収益を目的としている方は、しっかりと電力を供給できるように、少しでも寿命を延ばすことが大切です。

ソーラーパネルと蓄電池

家庭用ソーラーパネルの設置に合わせて普及しだしたのが、蓄電池です。自家消費用として使用するためにも、売電するためにも、電気を蓄える装置が必要です。そのため多くの方が、ソーラーパネルと蓄電池を合わせて購入するものとして検討しています。

時代が進むにつれ、自家消費用としての蓄電池を検討している方が、ますます増加しています。2019年には、経済産業省から10年間の電気の固定買取期間を終了すると発表があると同時に、蓄電池補助金の制度が発表されたからです。また、自然災害による大規模停電がニュースで報じられたことも大きく影響し、災害対策としての蓄電池の需要が高まったことも理由です。

参考文献
https://www.nedo.go.jp/content/100544817.pdf
https://www.solar-partners.jp/category/price
https://www.shouene.com/photovoltaic/cost/cardinal-rules-of-photovoltaic-system.html
https://limia.jp/idea/131787/
https://www.solar-partners.jp/category/battery