ステンレス表面処理とは
ステンレス表面処理とは、ステンレスが持つ不動態被膜という被膜を形成する特性を活かした表面処理のことです。
ステンレス鋼は鉄を主成分として、11%以上のクロムを含有した合金鋼を指します。ステンレスの不動態被膜は酸化することがないので、金属内部の腐食も発生しません。
英語で錆はステン (stain) と表記され、ステン (錆) が生じない鋼として、ステンレス (stainless) と呼ばれています。ステンレスは錆びにくいだけでなく強度も強い材料です。表面加工処理をすることにより、さまざまな分野に使用されています。
ステンレス表面処理の使用用途
ステンレスは塗装やコーティングなどで表面を覆わなくても、錆びずに金属の光沢を保つことができるため、金属の光沢を活かしたい装飾部分によく用いられます。具体的には、自動車の内装部品や家電製品などです。
そのほか、厨房機器やクリーンルーム、工場内で製品の搬送を行う装置のガイド部品、食品や医療品といった衛生面が重視される製品の搬送シュートやホッパーでも、ステンレスの表面処理を活かした製品が広く使われています。
ステンレス表面処理の原理
ステンレスが金属光沢を残したままの表面処理ができるのは、ステンレスが不動態被膜を形成し、自ら錆の発生を抑える効果を発揮するからです。ここではステンレスの不動態被膜について説明します。
まずステンレス鋼の主成分である鉄は、大気中において酸化することによって錆を生じます。錆が進行すると、鉄自体がボロボロと分解してしまいます。ところが鉄にクロムを混ぜると、鉄よりもクロムが酸化します。
表面のクロムが鉄よりも先に酸化することによって、酸化被膜が形成されます。これがステンレスの不動態被膜です。特にクロムの含有量が11%を超えると、鉄はほとんど錆びなくなります。
ステンレスの不動態被膜は表面にキズがついても、すぐに不動態被膜が形成されます。不動態被膜の再生が妨げられない限り、ステンレス鋼が錆を発生することはありません。
ステンレス表面処理の種類
表面処理方法には、さまざまな種類があります。よく使われている表面処理は以下のとおりです。
1. No.1 (ナンバーワン材)
ステンレス表面についた酸化スケールを除去したのものです。表面の状態は光沢がなく、銀白色をしています。
2. No.2D仕上げ
熱処理・酸洗を行い、つや消しの仕上げを行ったものです。
3. No.2B (ツービー材)
No.2D仕上げ材に光沢を与えたものです。表面は滑らかになっており、少しだけ光沢もあります。
4. BA
冷間圧延後、光輝熱処理を行った表面処理の事です。鏡面に近い処理になっています。
5. #400
No.2B材をさらに研磨処理したものです。No.2B材よりも光沢があることが特徴になっています。
6. ヘアライン仕上げ
スクラッチ線を縦模様につけて表面仕上げしたものです。建材によく使用される表面処理方法です。
7. #700 (No.7)
#400仕上げよりも細かい研磨で仕上げ処理をしたものです。準鏡面仕上げとも呼ばれています。鏡面仕上げよりも、細かいキズが残っていることが特徴です。
8. #800 (No.8)
鏡面仕上げのことです。表面はキズひとつなくピカピカな仕上げになります。
ステンレス表面処理のその他情報
1. ステンレス表面処理における酸洗い
酸洗いはステンレスを硫酸や塩酸などの強酸に浸すことで表面を洗浄する作業で、「不純物の除去」「耐食性の向上」を目的に行われます。
「不純物の除去」を目的とした酸洗いでは、熱処理時に生じた焼けや黒皮、在庫保管時などにできる錆や微細な傷、加工工程でできたバリや切削油などを除去します。これによって表面状態が綺麗になり、また適度な凹凸が表面につくことで下地として仕上がり、その後のステンレス表面処理の品質が向上します。
「耐食性の向上」を目的とした酸洗いは、一度形成したステンレス表面の不働態被膜を除去し、改めて綺麗なものを形成させるためです。ステンレスはそのままの状態でも、不働態被膜が形成されますが、熱処理や機械加工、運搬や保管で被膜が破壊されたりすることで耐食性が低下しています。
このため、酸洗いにより耐食性の劣化した不働態被膜を除去し、再度ステンレス表面に綺麗な不働態被膜を形成させます。
2. ステンレス表面処理による黒染め
ステンレスは、クロム酸化法や硫化法、またアルカリ溶液高温着色法などの化学的方法により黒染め表面処理することが可能です。ステンレスの黒染めによる表面処理は、通常の不働態被膜よりも優れた耐食性と耐熱性、耐摩耗性が得られます。
また、反射を抑えることができることから、光学機器等の部品や、装飾としても利用されています。