質量分析計

質量分析計とは

質量分析計のイメージ

図1. 質量分析計のイメージ

質量分析計 (英語:Mass Spectrometer、略称: MS) は、試料中の分子をイオン化し、生じたイオンの検出・質量電荷比 (m/z) の同定を行う装置です。

略称の”MS”は、日本語では慣用的に「マス」と読むこともありますが、日本質量分析学会では国際的に使用されている「エムエス」を推奨しています。分子を何らかのイオン化法によってイオン化すると、静電力によって飛行するようになります。

質量分析計は、飛行しているイオンを真空中において電気的・磁気的な作用等により質量電荷比 (m/z) に応じて分離し、検出する分析装置です。装置は主に試料導入部、イオン源、質量分離部、検出器などから構成されています。

イオン化、質量分離の方法によっていくつか種類があり、測定試料や用途に合わせて使い分けられています。質量分析計では、主に試料の同定や未知試料の成分解析を行うことが可能です。また、同位体を区別して検出することもできます。

質量分析計の使用用途

質量分析計は、低分子化合物から、タンパク質や合成高分子化合物などの高分子化合物まで、幅広い分子の定性・定量分析する際に使用されます。

既知物質の同定や未知物質の構造決定において有効な分析方法であるため、有機化学や生化学をはじめとする化学・生物学分野全般で広く用いられています。具体的には、様々な農薬や医薬品、天然由来化合物などに関連する研究開発や品質管理、分析、検査などです。

また近年では、大きな分子量を有するタンパク質もイオン化できるようになったため、ライフサイエンスや医療分野でも活用されています。

質量分析計の原理

質量分析計の原理

図2. 質量分析計の原理

質量分析計の基本的な原理は次のようになります。下記の一連の工程で得られるマススペクトルは、m/zを横軸、検出強度を縦軸とします。

  1. 試料を試料導入部から装置内に導入します。
  2. イオン源によってイオン化されます。
  3. 質量分離部において、m/zに応じて磁場や電場から受ける作用の大きさが異なることを利用して分離され、検出器で検出されます。

質量分析計では、試料分子が電荷を1つだけ持った1荷イオンの他、2価以上に荷電した多価イオンや、解離によって生成したフラグメントイオン、あるいは試料同士が会合した会合イオンなどが生成し、それぞれを検出することができます。また、ピークは通常、元の分子の同位体比に由来する固有の分布を持ちます。

質量分析計の種類

質量分析計には様々な種類がありますが、主にイオン源の種類と質量分離部の種類の組み合わせによって分類されます。例えば、”MALDI-TOF-MS”や”ESI-TOF-MS”などのように表記されます。

1. 試料導入部

イオン化源と質量分離部の例

図3. イオン化源と質量分離部の例

質量分析計には、試料導入部の前に他の装置を組み合わせたものもあり、研究開発や品質管理の分野で使用されています。例えば、液体クロマトグラフィーを組み合わせたLC-MS、ガスクロマトグラフを組み合わせたGC-MS、誘導結合プラズマを組み合わせたICP-MSなどの分析機器があります。

2. イオン源

EI法 (Electron Ionization、電子イオン化法)
高真空下で熱気化した分子(M)に加速した電子を衝突させます。それによって分子から電子が放出し、分子イオンと呼ばれるラジカルカチオン (M+・) が生成する方法です。

ESI法 (ElectroSpray Ionization、エレクトロスプレーイオン化法)

  1. まず、試料溶液を高電圧をかけたキャピラリに導入します。
  2. キャピラリの外側から霧化ガス (ネブライザーガス) を流してスプレーすることで、帯電液滴を形成します。
  3. 帯電液滴は移動の過程で溶媒の蒸発・表面電場の増加が進み、やがて電荷同士の反発力が液体の表面張力を越え、液滴が分裂します。
  4. 蒸発と分裂の繰り返しにより、最終的には試料イオンが気相中に放出されます。

MALDI法 (Matrix Assisted Laser Desorption Ionization、マトリックス支援レーザー脱離イオン化法)
マトリックス芳香族有機化合物などのマトリックス中に試料を混ぜて結晶を作成し、これにレーザーを照射することでイオン化する方法です。適用できる分子量範囲は1~1000000程と非常に幅広く、タンパク質などの高分子化合物も安定にイオン化することができることが最大の特徴です。

FAB法 (Fast Atom Bombardment、高速原子衝撃法)
グリセリンなどのマトリックスと、有機溶媒に溶かした試料溶液とをよくかき混ぜ、高速の中性原子を衝突させて、試料分子をイオン化する方法です。

この他にも、CI法、FD法、APCI法、ICP法などがあります。

3. 質量分離部

四重極型 (Quadrupole, Q)
4本の電極ロッドを用い、イオン源から放出されたイオンに高周波電圧を印加する手法です。電極ロッドは直流電圧と交流電圧をかけられ、ある特定のm/zをもつイオンのみが検出器に到達可能な電場を作り出します。

直流電圧と交流電圧の比を一定に保ちながら、交流電圧を直線的に変化させることにより、目的とするm/z範囲の全イオンを測定することを原理上可能とする手法です。m/z 4000程度までの範囲に対応しています。

二重収束型
磁場セクター型 (Magnetic Sector) の質量分離部の一つです。磁場セクター型では、イオンを磁場中に通し、その際に受けるローレンツ力による飛行経路の変化を利用します。二重収束型は、特に磁場セクターと電場セクターを組み合わせて、イオンの速度収束と方向収束の両方を実現したものです。

飛行時間型 (Time-of-Flight, TOF)
既知の電界強度の電場によってイオン化した試料を加速し、各イオンが検出器に到達するまでの時間差を検出する手法です。m/zが大きいものほど飛行速度が遅くなり、検出器に到達するまで時間がかかることを利用して、各イオンを同定します。原理上は測定可能な質量範囲に制限がありません。

この他にも、イオントラップ型 (Ion Trap, IT) フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴型 (Fourier-Transform Ion Cyclotron Resonance, FT-ICR) 、加速器質量分析 (Accelerator Mass Spectrometry, AMS) などの手法があります。

参考文献
https://www.jsac.or.jp/bunseki/pdf/bunseki2017/201706NYUUMON.pdf
https://www.mext.go.jp/component/b_menu/shingi/toushin/__icsFiles/afieldfile/2016/03/09/1368133_05.pdf
http://jsac.jp/bunseki/pdf/bunseki2009/200901nyuumon.pdf
https://www.jstage.jst.go.jp/article/kakyoshi/67/10/67_484/_pdf

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