衝撃試験機

衝撃試験機とは

衝撃試験機とは、衝撃試験を行うための試験機です。

衝撃試験では、私たちが使用する製品が衝撃を受けた際、十分な強度があることを確認したり、壊れる場合にはどのような壊れ方をするのかを確認したりします。私たちが日常使う製品には、衝撃荷重を受けながら使用される部品や偶発的な要因で衝撃を受ける製品もあります。製品の安全性を保つために、衝撃荷重に対する耐久性や壊れ方を評価することは、製品開発において不可欠です。

なお、衝撃試験には大きく2つの区分があります。専用の試験片を作成し、材質自体や塗膜など特性としての衝撃強度を確認する試験と、製品そのものの衝撃強度や衝撃を受けた際の壊れ方などを確認する試験です。

JISなどによって規格化された試験の多くは、前者に区分されます。これらの試験では、試料に衝撃が加わった時の歪み量や膨張量、縮小量、平面度、表面のひび割れなどが測定されます。

衝撃試験機の使用用途

衝撃試験機は、製品や製品に使用される部品、その素材が規定の衝撃強度があるか、またはどの程度の衝撃強度があるかを評価する際に使用されます。金属材料や樹脂の衝撃強度、工業製品の衝撃荷重に対する強さを確認するために、衝撃試験機が用いられます。

私たちの生活に不可欠なスマートフォンは、普段衝撃荷重を受けることはありません。しかし、うっかり落下させてしまうことは起こりえます。このような偶発的な落下でも、製品が壊れないことを確認したり、どのような壊れ方をするかを知るために、衝撃試験機を使った衝撃試験が行われています。

衝撃試験機の原理

衝撃試験にはさまざまな試験方法があり、それぞれ専用の試験機があります。衝撃試験機の原理として共通して言えることことは、試験の繰り返し精度を確保するために、試験片や試験方法が定められていることです。

衝撃試験機では試験対象に衝撃荷重を与えますが、繰り返し試験した際に、同じ条件を与えることが重要になります。衝撃試験を行うと、試験対象物は大きな塑性変形が生じたり、割れてしまう場合もありますが、衝撃荷重のわずかな違いによって、結果が大きく変わってきます。

試験対象物自体のばらつきも影響するかもしれません。そこで、いかにして同じ衝撃荷重を、繰り返し与えられるかどうか、再現性の高い試験が行えるかという観点から、試験方法が定められています。

衝撃試験機のその他情報

衝撃試験の種類

代表的な衝撃試験として、以下の3つが挙げられます。

1. アイゾット衝撃試験機
アイゾット衝撃試験は料片の片側を固定し、反対側に衝撃を与えて衝撃値を測定する方法です。切り込みを入れた試料片の片側を固定して、振り子式のハンマーで衝撃を与えます。

評価は試験片に衝突したハンマーが、惰性で持ち上がった時の角度で行われます。主に材料の靱性、粘り強さを評価する試験方法です。

2. シャルピー衝撃試験機
シャルピー衝撃試験は、材料の脆弱性を評価する試験です。脆弱性とはもろさのことです。中央に切り込みを入れた試料片の両端を固定し、その中央に固定の力で衝撃を与えてその時の試料片の変形量や、破損時の衝撃値の大きさを測定することで評価します。

破損時は、衝撃を加えて飛び上がったハンマーの位置エネルギーを利用して、破損する際の試験片が吸収するエネルギーを算出しています。

3. 高加速度衝撃試験機
高加速度衝撃試験機は、衝撃テーブルの上に測定対象の製品を固定し、テーブルに衝撃加速度の波形を発生させて、製品がどの程度衝撃によって損害を受けるかを測定する試験機です。スマートフォンやノートパソコンなどの電子機器に使用されます。

 

その他、プラスチック‐引張衝撃強さ試験や、デュポン式落下衝撃試験、ダートインパクト試験などがあります。

参考文献
https://www.shinyei-tm.co.jp/shocktesting/info/shockinfo/
https://www.shinyei-tm.co.jp/tech_dropshock_shocktest.html
https://www.keyence.co.jp/ss/products/recorder/testing-machine/material/impact.jsp

撹拌子

撹拌子とは

攪拌子のイメージ図

図1. 攪拌子のイメージ図

攪拌子とは、液体を攪拌する際に使用する、小さな磁石でできた実験器具です。

スターラー・バー、スターラー・チップ、回転子などと呼ばれることもあります。撹拌子を入れた容器をマグネチックスターラーの上に載せ、撹拌子を回転させるのが一般的な使用方法です。マグネチックスターラーの磁石の動きに伴って容器中の撹拌子も回転し、液体を攪拌することができます。 

撹拌子の使用用途

磁気攪拌機は化学や生物学、薬学、医学の分野をはじめとする、液体の撹拌が必要なあらゆる分野の実験・開発・分析などで使用されています。

単純な棒状の磁石自体よりも効率的に攪拌ができるという長所があります。また、破損や磨耗する可動の外部部品を持たないため、ギア駆動の電動攪拌機よりも使用しやすいです。良好な撹拌状態にするために、マグネチックスターラーの速度を細かく調整することが大切です。

ただし、粘性のある液体や厚い懸濁液を扱うことは困難であり、大きな容積またはより粘性のある液体を攪拌するためには、形状、大きさが異なる撹拌子を用いる必要があります。

撹拌子の原理

攪拌子の使用方法

図2. 攪拌子の使用方法

撹拌子は通常マグネチックスターラーとセットで使用します。マグネチックスターラーと撹拌子によって容器の中の液体が撹拌される仕組みは下記のようになります。

  1. 撹拌容器に液体と撹拌子を入れ、マグネチックスターラーの上に置きます。
  2. マグネチックスターラーの中には磁石が入っているので、撹拌子とマグネチックスターラーの中の磁石が引き合います。
  3. マグネチックスターラーの電源を入れると、マグネチックスターラーの中の磁石が回りはじめ、攪拌子も一緒に回転します。
  4. 撹拌子の回転によって液体が攪拌されます。

攪拌子は小さいため、他の装置や攪拌棒よりも容易に洗浄および殺菌することが可能です。ただし、粘性のある液体や濃厚な溶液を混合する場合は、撹拌力が十分でない可能性があるため、別の攪拌方法を用いる方が望ましいとされます。

複雑な密閉など条件を必要とせず、磁気に影響を与えない容器であれば使用が可能です。一般的には、バイアルビーカーなどの、実験用のガラス器具において使用されます。

また、攪拌子は通常はテフロンまたはガラスでコーティングされており、化学的に不活性です。混合中の混合物を汚染したり、反応したりすることはありません。

撹拌子の種類

様々な攪拌子

図3. 様々な攪拌子

撹拌子の撹拌力は、撹拌する液体や容器の形状によって変わってきます。様々な形状の製品が市販されており、大きさは数ミリから数センチまで様々です。

1. 棒状の撹拌子

最も使用されている一般的な撹拌子です。底面が平面である、ビーカーなどの容器を撹拌する際に使用されています。

2. フットボール型の撹拌子

フットボールのように先細りになっている、テーパーがついている撹拌子です。先細りの構造になっているため、丸底フラスコやナスフラスコなどでもスムーズな撹拌が可能です。

3. オクタゴン型の撹拌子

断面が八角形の形状をしており、回転のために中心に帯がついていることが特徴です。中心の帯によって、撹拌の際に容器に当たりにくくなっています。

4. 三角型の撹拌子

断面が三角形の撹拌子です。撹拌力が強く、沈殿物を含む液体や、粘性の強い液体を撹拌するときに使用されています。

5. クロス型の撹拌子

上から見た時に十字型の形をしている撹拌子です。その形状から、撹拌の際に渦を作り出せるため強力な撹拌力を所持しています。

撹拌子の選び方

撹拌子は撹拌するものの量や状態、使用する容器やスターラーのモーターの力などに合わせてよって選択します。多種多様な撹拌子がありますが、基本的には自分の使用目的を明確にした上で、撹拌子の仕様書に書かれている内容を目安に選択することをおすすめします。

撹拌子に使用されている磁石の一例は以下の通りです。

1. ネオジム磁石

ネオジム、炭素、ホウ素を合わせて焼結することで作られた磁石です。永久磁石の中でも高い磁性を示します。値段が高いことと、温度によって磁性が変化することが欠点です。80 ℃以下で使用する必要があります。

2. フェライト磁石

酸化鉄とバリウムを合わせて焼結することで作られた磁石です。安定した磁性を示すだけでなく値段も安価です。大型のものにも使いやすい磁石です。

3. サマリウムコバルト磁石

サマリウムとコバルトを合わせて作られた磁石です。希少な金属を利用しているため、ネオジム磁石よりさらに高価です。高温でも磁性が安定しているため撹拌子の材料としても使用されることがあります。

4. 希土類磁石

ネオジム、ホウ素、鉄を焼結させて製造されたものであり、最高の磁気特性を有しています。温度特性が低いため80℃以下で使用する必要があります。強磁力スターラーや超強磁力スターラーとして使用されています。

攪拌子のその他情報

1. 回転子によるコンタミネーション防止

回転子はコンタミネーションの原因となりやすい器具です。溶液から取り出したあとは、使用した溶液が除去できる適切な方法で洗浄します。

また、使用前には表面が清浄であることを確認し、黄ばみがある場合には廃棄します。

2. 回転子の取り出し

回転子を使用後には、マグネットを容器の外からあてたり、マグネットでできた棒などを用いたりして、回転子を取り出します。取り出し後は不用意に触らず、洗浄します。

参考文献
https://axel.as-1.co.jp/asone/s/A0020500/
http://www.nissinrika.co.jp/product/st_mayottara.html

ラマン顕微鏡

ラマン顕微鏡とは

ラマン顕微鏡

ラマン顕微鏡 (または顕微ラマン) とは、ラマン分光装置と光学顕微鏡を組み合わせた測定機器です。

化学構造や分子間相互作用、結晶性などの物質に関する詳細な情報を非破壊で分析できます。ラマン分光装置と顕微鏡を組み合わせることで、測定対象を顕微鏡で観察して選んだ箇所を測定したり、組成の分布を可視化した画像を得ることが可能です。

ラマン顕微鏡の使用用途

ラマン分光法は化学結合に基づいているため、測定によって以下の情報を得ることができます。

  • 化学構造
  • 位相、多形
  • ひずみ
  • 不純物、汚染

ラマンスペクトルは物質ごとに固有であるため、迅速に物質を識別したり、他の物質と区別するために使用することができます。また、ラマン顕微鏡は多くの異なるサンプルの分析に使用することができます。 一般的には、金属や合金の分析には適さず、以下の分析に適しています。

  • 固体、粉体、液体、ゲル、スラリー、気体
  • 無機、有機、生体材料
  • 純化学品、混合物、溶液
  • 金属酸化物と腐食

ラマン顕微鏡が使用されている代表的な例としては、下記の通りです。

  • 芸術と考古学の分野における顔料、セラミック、宝石の特性評価
  • 炭素材料ナノチューブの構造と純度、欠陥・乱れの評価
  • 化学分野において、構造、純度、反応モニタリング
  • 生命科学において、単一細胞と組織、薬物相互作用、疾患診断

ラマン顕微鏡の構造

図1-ラマン顕微鏡の構造

図1. ラマン顕微鏡の構造

ラマン顕微鏡はラマン分光装置と顕微鏡を組み合わせた測定機器で、上図のような構造をしています。

レーザー光源からの照射光は、顕微鏡の対物レンズを通して試料に導かれ、試料に照射されます。試料から発生した散乱光を対物レンズで集光し、レイリー光カットフィルターを通してラマン散乱光のみを検出します。

ラマン顕微鏡の原理

図2-ラマン散乱

図2. ラマン散乱

物質に光を照射すると散乱現象が起きます。生じた散乱光のほとんどは照射光と同じ波長のレイリー散乱光ですが、一部、照射光と波長がわずかに異なった散乱光が含まれており、この散乱光をラマン散乱光といいます。

ラマン散乱光には、照射光の波長よりも波長が長いストークス散乱光と、波長の短いアンチストークス散乱光の2種類がありますが、一般的なラマン顕微鏡ではより強度の強いストークス散乱光を測定します。

ラマン散乱光は、照射光が物質と相互作用した結果生じるもので、レイリー散乱光とラマン散乱光の波長差が照射された物質の分子振動のエネルギーに相当します。このとき、ラマン散乱が起こる分子振動は、ラマン活性のある振動モードのみであることが知られており、分子構造からラマン活性な振動モードの推測やシミュレーションをすることが可能です。

分子の振動を利用した類似の分析装置として赤外分光光度計がありますが、測定できる分子振動に違いがあり、相補的な分析装置となっています。

分子の種類や結合状態の違いによって分子振動のエネルギーが異なるため、異なったラマンスペクトルが得られます。ラマンスペクトルのピーク位置と相対的なピーク強度を既知の物質と比較することで物質の同定が可能です。また、次のような解釈をすることで定性分析にもよく利用されます。

  • ピーク位置
    化学結合の情報
  • ピークシフト
    分子間相互作用、応力、ひずみの情報
  • スペクトル波形
    分子構造の情報、結晶構造の違い
  • 半値幅
    結晶・非結晶性の違い

スペクトルの強度が濃度に比例することを利用して定量分析も可能です。

ラマン顕微鏡のその他情報

1. ラマン顕微鏡の注意点

図3-レーザー照射による影響

図3.  (a) レーザー照射による蛍光発生の影響  (b) レーザー照射による劣化

ラマン散乱光はレイリー散乱光に比べて弱いため、ある程度のレーザー光の強度が必要ですが、そのレーザー光によって問題が生じる場合があります。レーザー光の波長が測定する分子の吸収領域と重なっている場合、分子が蛍光を発してラマンスペクトルのバッググラウンドが上昇し、得たいスペクトルが埋没します。

これを避けるためには、露光時間などの測定条件の調整、焦点深さの調節、分光スリットを絞る、共焦点フィルター (DSF) を用いるなどの対策をとる必要があります。他にも、レーザー光源を変えることで蛍光を抑制することができます。

有機物などでは一般的な532 nmのレーザー光を用いると蛍光が生じる場合が多いため、785 nmなどのより長波長のレーザー光が選択されることがあります。ただし、長波長のレーザー光に変更する場合には、分光器や検出器によっては感度が極端に低下することがあるため注意が必要です。

測定対象が有機物やカーボン材料などの場合には、レーザー光の強度と照射時間によっては、測定物質が “焦げて” 劣化することがあります。測定物質の劣化を防ぐには、レーザー強度をさげる、露光時間を短くするなどの測定条件の調整で対応することができます。

また、カーボン材料の一部などは、照射したレーザー光によって反応を起こす光反応性を持つものがあります。このような材料には、同様の測定条件の調整で対応することができる他、レーザー光の波長を変えることで光反応を抑制することができます。

2. ラマン顕微鏡の新技術

ラマン顕微鏡の感度や分解能の向上を目的に、様々な手法が開発されています。

表面増強ラマン (SERS) 、チップ増強 (TERS) などは、金属表面で起こる局在表面プラズモン共鳴という現象を利用しており、ラマン散乱光の強度が大きく測定でき、より高感度、高空間分解能の測定が可能になっています。

コヒーレント反ストークスラマン散乱 (CARS) 、誘導ラマン散乱 (SRS) は非線形ラマン散乱の種類で、2つの波長の異なる光を同時に使用することで、何桁も高い信号強度のスペクトルを得ることができます。

他にも、ビームスプリッター等を用いることで、1度のレーザー照射で直線状や面状にラマンスペクトルを取得でき、ラマンイメージングがより迅速に行える技術も開発されています。

参考文献
https://www5.hp-ez.com/hp/calculations/page322

ヘマトクリット毛細管

ヘマトクリット毛細管とはヘマトクリット毛細管

ヘマトクリット毛細管とは、血液検査に用いられる器具の一つです。

血液は、細胞性成分である血球 (酸素輸送に関与する赤血球や身体の免疫防御に関与する白血球) 及び血小板、並びにこれらを浮遊させる液性成分である血漿で構成されています。健康な人の血液では、細胞成分の大部分は赤血球です。赤血球には血液の赤色を呈するヘモグロビン (Hb) が含まれており、酸素結合能を持っています。

血漿は主に水 (約93%) から構成されており、その他の構成要素は塩類、各種タンパク質、脂質、糖 (グルコースなど) などです。血液検査で血液に占める赤血球の体積の割合 (ヘマトクリット) を調べることがあります。例えば、貧血の指標とする場合です。貧血は血液が薄くなった状態を指し、その指標としてヘマトクリットが用いられています。

このヘマトクリットを測定する器具が、ヘマトクリット毛細管です。

ヘマトクリット毛細管の使用用途

ヘマトクリット毛細管は、主に血液検査におけるヘマトクリットの測定に用いられます。また、動物実験などで少量の血漿を得る目的に使われることもあります。

1. ヘマトクリットの測定

ヘマトクリットの測定は、貧血や脱水、出血、その他の内科的・外科的疾患が疑われる場合に行われることがあります。低ヘマトクリットは、循環赤血球の数が少ないことを反映しており、酸素運搬能力の低下または過湿の指標となります。

低ヘマトクリット(貧血)を引き起こす状態の例としては、以下のものがあります。

  • 内出血または外出血 – 出血
  • 慢性腎不全の合併症-腎臓病
  • 悪性貧血~ビタミンB12欠乏症
  • 溶血 – 輸血反応に伴う
  • 自己免疫疾患や骨髄不全

高いヘマトクリットは、赤血球数の絶対的な増加、または血漿量の減少を反映している場合があります。

  • 重度の脱水 – 例:火傷、下痢、または利尿剤の過剰使用の場合
  • 赤血球過剰症-赤血球過剰症
  • ウイルス性多血症-血球の異常な増加
  • ヘマクロマトーシス – 遺伝性の鉄代謝障害
  • 赤血球の生成を促す外因性エリスロポアチン(EPO)の過剰摂取の指標

2. 動物実験

ごく少量の血液を採取でき、遠心分離により血漿が得られる特徴から、主に動物から微量の血漿を得るときに用いられることがあります (マイクロサンプリング) 。

ヘマトクリット毛細管の原理

ヘマトクリット毛細管は、よく使われるものは、内側がヘパリン処理された毛細管 (キャピラリーチューブ) です。未処理のもの (プレイン) もあります。

採取した血液に毛細管の一端を接すると、毛細管現象によって血液が毛細管に吸い込まれます。吸い上げると同時に、ヘパリン処理のものはヘパリンにより抗凝固処理がされるのです。

この毛細管を遠心分離機にかけ、血球と血漿を分離します。赤色に見える血球部分 (赤血球カラム) の長さと、無色~淡黄色 (ヒトの場合) に見える血漿部分の長さから、ヘマトクリットを求めます。

ヘマトクリット毛細管のその他情報

1. ヘマトクリットの定義

ヘマトクリットの定義は、全血液量に対する赤血球の体積の比率であり、パックド・セル・ボリューム (PCV) とも呼ばれています。ヘパリン化した血液 (ヘパリンは抗凝固剤) を遠心分離すると、赤血球はチューブの底に詰まった状態になり、血漿は上部に透明な液体として残ります。この赤血球が詰まった体積と全血量の比がヘマトクリットです。

ヘマトクリットはパーセンテージまたは比率として報告されます。健康な成人では約40~48%ですが、新生児では60%に達することもあります。

以下は、ヘマトクリットを議論する際に関連する略語の要約です。

  • Hct:ヘマトクリット
  • ctHb:総ヘモグロビン濃度
  • 赤血球 (RBC)
  • MCV:平均細胞体積
  • MCHC:平均冠状ヘモグロビン濃度

2. ヘマトクリットを測定する場合の使い方

シール
遠心分離する前に毛細管の一端をシールする必要があります。シールしなければ遠心力で血液が流れ出てしまうためです。毛細管をシールするには、専用のパテを使用します。

血液を吸いあげた後、一方の端を専用のパテに突き刺してパテを毛細管内部に食い込ませることで、毛細管の一端をシールします。シールした側を外側、すなわち遠心力がかかる向きにします。

スケールプレート
毛細管内の遠心分離された血液サンプルからヘマトクリットの値を得るためには、スケールプレートを参照します。充填された赤血球カラムの底部が最初に目盛り板の「0」の線に並び、次に血漿カラムの上部が「100%」の線に並ぶまで目盛りをサンプルの下に移動させます。

この状態で、赤血球カラムと血漿カラムの境目の数値を読み取ります。赤血球と血漿の間の層である白色の層は、約1%を占めますが、この層は赤血球側には含めません。

3. 微量採血器としての使い方

ガラス製毛細管を使用し、通常使用と同様に、血液採取しシールした毛細管を遠心分離します。ガラス製にするのは、途中で折る操作があるためです。遠心分離後、血球カラムと血漿の境目、やや血漿寄りにガラス切りで傷をつけ、毛細管を折ります。

折った毛細管の血漿側を回収容器 (マイクロチューブなど) に立て、遠心分離することで容器に血漿を回収することができるのです。この方法は折る操作が実施しにくいため、近年ではマイクロサンプリング専用の器具が開発されています。

参考文献
https://www.monotaro.com/g/02957720/

バイオセンサー

バイオセンサーとは

バイオセンサーとは、生物学的反応を利用して対象物質を特異的に検出することのできるセンサーです。

バイオセンサーに使用される材料は、酵素からなる生体触媒群、抗体や核酸を含む生体親和性群、微生物を含む微生物群の3つのグループに分類されます。 これらの生体物質の分子識別能を利用することで対象物質を特異的に検出することが可能です。

バイオセンサーの開発には、化学、生物学、工学などの学際的な研究が必要とされます。医学薬学をはじめとして、食品分析や環境調査など幅広い分野での応用が期待されています。

バイオセンサーの原理

図1-バイオセンサーの構造

図1. バイオセンサーの構造

バイオセンサーは主に、バイオレセプター、固定化層、トランスデューサーから構成されています。

1. バイオレセプター

バイオレセプターは、対象物質を検出するために用いられる生体物質のことです。対象分子を選択的に認識する生体物質をもちいることで、対象物質のみを特異的に検出することを可能にします。バイオレセプターとして、酵素、抗体、細胞、アプタマー、核酸などの生体物質が用いられます。

2. 固定化層

固定化層はバイオレセプターとして用いられる生体物質を、機能を損なわずにトランスデューサー上に固定化する層のことです。

一般的には生体物質を強固な方法によって固定化すると機能や活性が失われることが多いですが、機能や活性を保つために固定を弱くすると生体物質が剥離し検出能が低下するという課題があります。この課題の克服のために様々な研究開発が行われており、多孔性膜や高分子を利用したマトリックスを用いる方法や、物理吸着法や架橋法等の固定化法などが利用されています。

3. トランスデューサー

トランスデューサーは、バイオレセプターの反応を測定可能な信号に変換する部分です。測定可能な信号として利用されているのは、主に光学的信号と電気化学的信号の2種類です。得られた信号を処理することで、対象物質の量や濃度をけ計算することができます。

バイオセンサーの使用用途

図2-バイオセンサーの特徴

図2. バイオセンサーの特徴

バイオセンサーは生体物質を利用して作製されるため比較的感度が良くなっています。一般的に測定デバイスが安価で小型であり、操作が簡便といった特徴があるため医療分野以外にも食品や環境分野など様々な分野で用いられています。

化学実験や分光法を行う従来の技術は正確ですが試料の調整といった煩雑な操作が必要であり、目的物質以外の信号も検出してしまうなどの欠点があります。

また、測定は安定した室内で行う必要があるためフィールド調査などで採取した試料は一度持ち帰る必要があり、結果が出るまでに時間がかかることも欠点の一つです。

簡便な操作で短時間のうちに結果が得られる安価な測定装置であるバイオセンサーは幅広い分野で利用が期待されています。

特に医学の分野では、バイオセンサの応用が急速に進んでいます。例えば、血糖値を正確に管理する必要がある糖尿病の診断に、グルコースバイオセンサが臨床応用されています。

バイオセンサーのその他情報

バイオセンサーの医療への応用可能性

図3-バイオセンサーの応用例

図3. バイオセンサーの応用例

バイオセンサーの応用として最も期待されているのが医療分野への応用です。自身の健康状態をモニタリングし治療や健康管理に利用することが可能になります。

  1. 血糖値の測定
    糖尿病になると簡易血糖計測計を用いて血糖値を測定しますが、ウェアラブルデバイスを使うと採血せずに測定できます。コンタクトレンズ型やウォッチ型など様々な形式が研究されており、実用化に期待が高まっています。
  2. 病気の診断
    従来様々な検査が必要だった病気を尿検査などの簡便な検査だけで診断できるセンサーが多数開発されています。例えば、疾患関連のたんぱく質やウイルス等を免疫反応を利用して測定する抗原抗体検査などがあります。より高感度かつ定量性の高い測定方法や、複数の病気の診断を同一のバイオセンサーを用いて行う方法の研究が進められています。
  3. 薬学分野
    薬学分野でもバイオセンサーの応用が研究されています。人の体内の目的の場所で必要な量の薬剤を放出するドラッグデリバリーシステム (DDS) が次世代の薬として期待されています。厳密にはトランスデューサーを用いないためバイオセンサーには含まれませんが、信号を発生させる代わりに内部に含んだ薬剤を放出します。

    バイオレセプターを用いるDDSは、人の免疫反応などを利用して目的の場所のみで薬剤を放出することができるため、手術が必要な病気や手術では完治が難しいがんなどの病気を飲み薬や注射で治療することが可能になります。

今後このように生化学的な情報を取得し利用することで本格的な医療やヘルスケアに役立つことが期待されます。

シリンジポンプ

シリンジポンプとは

シリンジポンプ

シリンジポンプとは、溶液や薬液を充填した注射器 (シリンジ) から、正確な量および速度で持続的に送液または吸引を行うための機械です。

医療用の製品と、研究・開発用などの製品があります。シリンジポンプは、予め設定した量・時間で正確に送液・吸引を行うため、シリンジのサイズに応じて、シリンジのプランジャを一定速度で動かします。シリンジポンプ

図1. シリンジポンプ

シリンジポンプの使用用途

シリンジポンプの使用用途には、大きく分けて医療用と研究用の2種類があります。シリンジポンプの目的は、流量を制御しながら正確な量の溶液・薬液を一定速度で送液・吸引することです。

1. 医療用シリンジポンプ

医療用シリンジポンプは、1回の投与量が50mL以下で、厳密かつ正確な投与量の薬剤を投与する場合に用いられます。弾力のあるチューブを利用する輸液ポンプと比べ、剛性のある注射器を使用するため正確な輸注が可能です。

2. 研究・開発用シリンジポンプ

研究・開発用シリンジポンプは、無脈流・定量での高精度な送液を必要とするアプリケーションで利用されている装置です。フローマイクロ反応や試薬の滴下、薬理・動物実験、分析機器へのインジェクションなど、用途は様々です。流体量が非常に少量である場合もあり、臨床での使用には適さない、追加の特性を持ち合わせている場合があります。

その他の用途には、生産現場の部品製造・組立ラインにおける、接着剤や銀、はんだペースト、グリス、薬液、液晶などの各種液体の吐出などが挙げられます。

シリンジポンプの原理

シリンジポンプの原理

図2. シリンジポンプの原理

シリンジポンプは、シリンジの外筒を固定し、内筒をモーターの力で押し出すことで一定送液を行います。モーターには、速度調節が容易で、一定速度で動作できるステッピングモーターを採用することが一般的です。

シリンジを人力で使用する場合は流量や速度の調節を行うことが極めて困難ですが、シリンジポンプでは一定速度でモーターがシリンジを押し出すため、精度の高い流量調節や、無脈動での送液を可能とします。

シリンジポンプの選び方

前述の通り、用途に合わせてまずは医療用/研究開発用の別を選ぶ必要があります。その上で自分の目的に合わせて、必要な機能の備わっているものを使用すると良いです。

1. 医療用

医療用のシリンジポンプには、それぞれ5・10・20・30・50・100mLシリンジに対応しているものがあります。使用する薬液量・目的の流入量に合わせた製品選定が必要です。

製品によっては、安全対策としてシリンジが正しく装着されるまでの間、ブザー音で注意を促すものもあります。これは、サイフォニング現象と呼ばれる、患者さんより高いところに設置されているシリンジポンプにおいて、シリンジの押し子が固定されていない場合に落差で薬液が大量注入される現象を防ぐためのものです。

その他には、ポンプの動作状態を遠隔監視できるよう、無線LANが搭載されているものや、パルス注入 (間歇注入) 設定が可能なもの、シリンジポンプ自体の注入速度量値と連動したガンマ量計算値表示が可能なものもあります。また、2台のシリンジを同時に装着して別々の薬剤を投与したり、連続注入を行ったりできるようになっている製品もあります。

サイフォニング現象の危険性

図3. サイフォニング現象の危険性

2. 研究・開発用

マイクロリットル単位の微量液量のものから、100mL単位の液量対応のものまで、様々な大きさのものがあります。まずは自分の用途にあったスケールのものを選定することが必要です。送液専用のシンプルなものから、送液/吸引及び、プログラム送液が可能なものまで、基本機能も製品によって異なっています。

操作部は、流量設定をダイヤルでセットするだけのシンプルなものから、マイコン搭載の高機能タイプまで様々なものがあります。また、リモコンケーブルを追加すると、リモコンでの操作も可能です。例えば、ドライブ部のみをコールドルーム内等に設置し、流量を外からコントロールするなどの場合に用いられます。

その他に特筆すべき機能として、CMC溶液のような高粘度の液体でも送液が可能なものもあります。主要メーカーのシリンジデータが予め入力されていて、選択するだけで良いように設定されているものもあります。

シリンジポンプのその他情報

1. シリンジポンプに関連したインシデント

シリンジポンプに関連したインシデントとしては、以下のような事例が挙げられます。

ポンプの流量設定の入力誤り
シリンジポンプは、正確な量、速度で薬剤を持続的に投与する際に使用されますが、流量を誤って入力してしまうと、場合によっては患者の命に係わる重大なインシデントとなります。他に設定入力の誤りの例としては、薬剤Aと薬剤Bの流量を取り違えて入力してしまったり、思い込みで誤った流量の単位を入力してしまったりする例が報告されています。

ポンプの気泡検出器の不具合
通常、シリンジポンプは気泡を検知して自動でポンプが停止するようになっていますが、機器の不具合により、ポンプが止まらず、患者側に空気が送られてしまう事例が報告されています。保守点検がなされていても、このような事例は起こりうるため、ポンプの使用時には予定量を入力することが重要とされています。

また、これらの事例の背景や要因としては、医療関係者の知識や経験が不足していたことが多くの事例で報告されています。手順書の周知徹底や使用方法の再教育も、これらの事例を未然に防ぐためには重要です。

2. シリンジポンプの流量設定における医療事故防止対策

シリンジポンプにおいて、流量設定は非常に重要であり、誤った操作方法は重大な事故に繋がります。事故を未然に防ぎ、より安全にシリンジポンプが使用できるよう、厚生労働省より「輸液ポンプに関する医療事故防止対策について」という通知が発出されています。

シリンジポンプへの設定の入力誤りによる事故が多数報告されていることから、この通知では、シリンジポンプの機器自体に以下のような機能を搭載するよう求めています。

  • 流量及び予定量は、その両方を入力しないと作動しないようにする。
  • 設定した予定量よりも流量が大きい場合には、一時停止させ、再度確認しないと作動しないようにする。
  • 電源を再投入した場合には、流量及び予定量の表示は0とする。

さらに、シリンジポンプへの設定の入力誤りを容易に発見できるように、以下のように画面表示を改善するように求めています。

  • 流量及び予定量はそれぞれ別画面で表示する。
  • 整数と少数の表示は大きい差を変えて表示する。
  • 小数点の表示は、浮動小数点表示ではなく、固定小数点表示とする。

参考文献
http://www.med-safe.jp/pdf/report_61.pdf
https://www.pmda.go.jp/files/000144111.pdf