シリンジポンプ

シリンジポンプとは

シリンジポンプ

シリンジポンプとは、溶液や薬液を充填した注射器 (シリンジ) から、正確な量および速度で持続的に送液または吸引を行うための機械です。

医療用の製品と、研究・開発用などの製品があります。シリンジポンプは、予め設定した量・時間で正確に送液・吸引を行うため、シリンジのサイズに応じて、シリンジのプランジャを一定速度で動かします。シリンジポンプ

図1. シリンジポンプ

シリンジポンプの使用用途

シリンジポンプの使用用途には、大きく分けて医療用と研究用の2種類があります。シリンジポンプの目的は、流量を制御しながら正確な量の溶液・薬液を一定速度で送液・吸引することです。

1. 医療用シリンジポンプ

医療用シリンジポンプは、1回の投与量が50mL以下で、厳密かつ正確な投与量の薬剤を投与する場合に用いられます。弾力のあるチューブを利用する輸液ポンプと比べ、剛性のある注射器を使用するため正確な輸注が可能です。

2. 研究・開発用シリンジポンプ

研究・開発用シリンジポンプは、無脈流・定量での高精度な送液を必要とするアプリケーションで利用されている装置です。フローマイクロ反応や試薬の滴下、薬理・動物実験、分析機器へのインジェクションなど、用途は様々です。流体量が非常に少量である場合もあり、臨床での使用には適さない、追加の特性を持ち合わせている場合があります。

その他の用途には、生産現場の部品製造・組立ラインにおける、接着剤や銀、はんだペースト、グリス、薬液、液晶などの各種液体の吐出などが挙げられます。

シリンジポンプの原理

シリンジポンプの原理

図2. シリンジポンプの原理

シリンジポンプは、シリンジの外筒を固定し、内筒をモーターの力で押し出すことで一定送液を行います。モーターには、速度調節が容易で、一定速度で動作できるステッピングモーターを採用することが一般的です。

シリンジを人力で使用する場合は流量や速度の調節を行うことが極めて困難ですが、シリンジポンプでは一定速度でモーターがシリンジを押し出すため、精度の高い流量調節や、無脈動での送液を可能とします。

シリンジポンプの選び方

前述の通り、用途に合わせてまずは医療用/研究開発用の別を選ぶ必要があります。その上で自分の目的に合わせて、必要な機能の備わっているものを使用すると良いです。

1. 医療用

医療用のシリンジポンプには、それぞれ5・10・20・30・50・100mLシリンジに対応しているものがあります。使用する薬液量・目的の流入量に合わせた製品選定が必要です。

製品によっては、安全対策としてシリンジが正しく装着されるまでの間、ブザー音で注意を促すものもあります。これは、サイフォニング現象と呼ばれる、患者さんより高いところに設置されているシリンジポンプにおいて、シリンジの押し子が固定されていない場合に落差で薬液が大量注入される現象を防ぐためのものです。

その他には、ポンプの動作状態を遠隔監視できるよう、無線LANが搭載されているものや、パルス注入 (間歇注入) 設定が可能なもの、シリンジポンプ自体の注入速度量値と連動したガンマ量計算値表示が可能なものもあります。また、2台のシリンジを同時に装着して別々の薬剤を投与したり、連続注入を行ったりできるようになっている製品もあります。

サイフォニング現象の危険性

図3. サイフォニング現象の危険性

2. 研究・開発用

マイクロリットル単位の微量液量のものから、100mL単位の液量対応のものまで、様々な大きさのものがあります。まずは自分の用途にあったスケールのものを選定することが必要です。送液専用のシンプルなものから、送液/吸引及び、プログラム送液が可能なものまで、基本機能も製品によって異なっています。

操作部は、流量設定をダイヤルでセットするだけのシンプルなものから、マイコン搭載の高機能タイプまで様々なものがあります。また、リモコンケーブルを追加すると、リモコンでの操作も可能です。例えば、ドライブ部のみをコールドルーム内等に設置し、流量を外からコントロールするなどの場合に用いられます。

その他に特筆すべき機能として、CMC溶液のような高粘度の液体でも送液が可能なものもあります。主要メーカーのシリンジデータが予め入力されていて、選択するだけで良いように設定されているものもあります。

シリンジポンプのその他情報

1. シリンジポンプに関連したインシデント

シリンジポンプに関連したインシデントとしては、以下のような事例が挙げられます。

ポンプの流量設定の入力誤り
シリンジポンプは、正確な量、速度で薬剤を持続的に投与する際に使用されますが、流量を誤って入力してしまうと、場合によっては患者の命に係わる重大なインシデントとなります。他に設定入力の誤りの例としては、薬剤Aと薬剤Bの流量を取り違えて入力してしまったり、思い込みで誤った流量の単位を入力してしまったりする例が報告されています。

ポンプの気泡検出器の不具合
通常、シリンジポンプは気泡を検知して自動でポンプが停止するようになっていますが、機器の不具合により、ポンプが止まらず、患者側に空気が送られてしまう事例が報告されています。保守点検がなされていても、このような事例は起こりうるため、ポンプの使用時には予定量を入力することが重要とされています。

また、これらの事例の背景や要因としては、医療関係者の知識や経験が不足していたことが多くの事例で報告されています。手順書の周知徹底や使用方法の再教育も、これらの事例を未然に防ぐためには重要です。

2. シリンジポンプの流量設定における医療事故防止対策

シリンジポンプにおいて、流量設定は非常に重要であり、誤った操作方法は重大な事故に繋がります。事故を未然に防ぎ、より安全にシリンジポンプが使用できるよう、厚生労働省より「輸液ポンプに関する医療事故防止対策について」という通知が発出されています。

シリンジポンプへの設定の入力誤りによる事故が多数報告されていることから、この通知では、シリンジポンプの機器自体に以下のような機能を搭載するよう求めています。

  • 流量及び予定量は、その両方を入力しないと作動しないようにする。
  • 設定した予定量よりも流量が大きい場合には、一時停止させ、再度確認しないと作動しないようにする。
  • 電源を再投入した場合には、流量及び予定量の表示は0とする。

さらに、シリンジポンプへの設定の入力誤りを容易に発見できるように、以下のように画面表示を改善するように求めています。

  • 流量及び予定量はそれぞれ別画面で表示する。
  • 整数と少数の表示は大きい差を変えて表示する。
  • 小数点の表示は、浮動小数点表示ではなく、固定小数点表示とする。

参考文献
http://www.med-safe.jp/pdf/report_61.pdf
https://www.pmda.go.jp/files/000144111.pdf

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