アバカン

アバカンとは

アバカンの正式名称は、イソペンチル={[2-(ジエチルアミノ)エチル]アミノ}(フェニル)アセタートですが、一般にはカミロフィンと呼ばれています。カミロフィンの別名は多くあり、アカミロフェニン、アドポン、アボカン、シンテスパスミル、スパスモカン、ナバジル、ノボスパスミン、ベロシンなどがあります。
常温では淡黄色で油状です。融点は25℃で、沸点は165℃から180℃です。
飲み込むと有害で急性毒性を起こす可能性があります。加熱分解により有毒なNOx(窒素酸化物)が発生するため、危険ですので取り扱い時は注意してください。

アバカンの使用用途

アバカンは、鎮痙薬、ムスカリン受容体拮抗薬、すなわち抗ムスカリン薬として使用されます。ムスカリン性コリン受容体拮抗薬には他に、アトロピン、ヒヨスチチアミン、スコポラミン、ピレゼピンなどが挙げられます。過活動膀胱、徐脈、喘息などの呼吸器系疾患のほか、パーキンソン病やアルツハイマー病等の神経系疾患の治療に使われている薬です。

乳児や小児の腹痛、特に胃痛の治療にも効果があるとされています。また、アセトアミノフェンとの併用により、発熱や腹痛の治療にも用いられます。

参考文献
https://www.chemicalbook.com/Price_JP/54-30-8.htm
https://www.genome.jp/dbget-bin/www_bget?dr_ja:D07076
https://www.japanrx.vu/jpn/%E3%82%AB%E3%83%9F%E3%83%AD%E3%83%95%E3%82%A3%E3%83%B3_%E3%82%A2%E3%82%BB%E3%83%88%E3%82%A2%E3%83%9F%E3%83%8E%E3%83%95%E3%82%A7%E3%83%B3-p-1877.html
https://www.kegg.jp/dbget-bin/www_bget?dg_ja:DG01491

黄銅

黄銅とは

黄銅

黄銅とは亜鉛の合金であり、真鍮とも呼ばれます。青銅と並んで最も一般的な銅合金のひとつであり、その比率や金属組成によってさまざま鋼種を有しています。最も一般的な組成である銅65%、亜鉛35%の65/35黄銅のほかに、イエローブラスとも呼ばれる七三黄銅、レッドブラスとも呼ばれる丹銅(亜鉛の含有量が5~20%)、海軍黄銅とも呼ばれるネーバル黄銅(錫を少量添加)、六四黄銅、快削黄銅、鍛造用黄銅などさまざまな種類の黄銅が、その用途に応じて使用されています。

また黄銅の歴史は古く、紀元前20世紀ごろから貨幣や武器に用いられている記録が残っています。これは黄銅の持つ金にも似た外観の美しさ、加工の容易さ、耐食性や剛性の高さなどによるものであり、現在でもさまざまな用途に用いられる重要な合金であるといえます。

黄銅の使用用途

黄銅はその金属比率、添加金属種によって大きく性質が異なるため、非常に幅広い使用用途を有する合金です。比較的柔らかな亜鉛の含有率15%未満の鋼種は、貨幣やメダル、ファスナーや装身具などに用いられます。身近な用途としては金管楽器の多くは黄銅から作られており、ブラスバンドの名称にもあるブラスは黄銅の英語名を由来としています。亜鉛の含有率15%以上の鋼種は強さと延性、展性のバランスによってさまざまな用途に使い分けられますが、代表的な用途としては日用品、自動車や船舶用の部品、ボルトやナットなどが挙げられます。

また電気伝導性の高さを利用してコネクタやコンセントなどに、非磁性である特性をいかして電気機器や自動車計器に、熱伝導性の高さを利用して熱交換器などにも使用されます。さらに特殊黄銅と呼ばれる亜鉛、銅以外の元素を添加した例として、錫を添加したネーバル黄銅は耐海水性に優れるため船舶やシャフトなどに、鉛を添加した快削黄銅は歯車やネジなどの加工が必要な用途に用いられています。

黄銅の特徴

黄銅は亜鉛と銅の合金であることから、その特徴は金属比率や添加金属種によって変化します。一般的に亜鉛含有率が高いほど黄色味を増し、硬度も増加していきますが、脆くなり価格も高価になります。また黄銅は金属比率によらず、電気伝導度が高い、熱伝導率が高い、非磁性である、メッキ加工が容易であるといった特徴を有しています。

その他の特徴として、熱間鍛造性に優れているという点があげられます。これは黄銅が比較的低い融点を有していることに由来しており、青銅などの他の合金と比較しても鋳造に用いやすい合金であるといえます。黄銅の融点は900℃程度ですので、鍛造でも鋳造でも、比較的低い温度で複雑な加工が可能となります。

さらに展延性にも優れており、叩き伸ばすことでも加工が容易であること、非磁性であるのでリサイクル・分別が容易であること、叩いても火花が出ないため危険物の取り扱い所での工具に使用可能であること、耐食性が比較的高く、錆びにくいことなど、非常に多くの有用な特徴を持つ合金です。

高張力鋼

高張力鋼とは

高張力鋼

高張力鋼とは、一般的な鋼材と比べて、高い抗張力や優れた溶接性を有した鋼材です。

具体的に高張力鋼は、引張り強度が500~1000メガパスカル程度、降伏点が300メガパスカル以上の鋼板のことです。別名、低合金高張力鋼やハイテン鋼などと呼ばれています。高張力鋼の種類には、炭素やニッケル、シリコン、マンガンなどの元素を添加して強化した「固溶強化型・析出強化型鋼板」や、プレス成形後に焼入れして強化された「複合組織鋼板」などが挙げられます。

高張力鋼は強度に優れており、薄肉化しても、普通鋼と同等の強度を確保しやすいです。そのため、鋼材の使用量を減らし、軽量化できます。さらに、軽量化された鋼材を普通自動車や作業車などの移動車両に適用すると、燃費を向上させ、経済性を高められます。 

高張力鋼の使用用途

高張力鋼は高い耐食性を持っており、屋外の建造物など雨風に晒される環境で使用しても、錆びにくいです。そのため、石油タンクや液体を運ぶ水圧管に使用されているほか、海や河川に浮かぶ構造物や橋などの鋼材としても、幅広く利用されています。

60キロ級以上の高張力鋼に、焼入れや焼きなましを施した調質高張力鋼も用いられます。調質高張力鋼は降伏比が高くて、溶接性に優れているため、高圧容器・橋梁・建築などに広く使用可能です。例えば、関門橋や本州四国連絡橋には、溶接した調質高張力鋼の鋼材が多く利用されています。

そのほか高張力鋼は、産業機械・重機・車両・都市ガスタンク・液化天然ガス貯蔵タンク・造船など、幅広い分野で活用されています。 

高張力鋼の原理

英語で高張力鋼は、ハイ・テンサイル・ストレングス・スティール (英: High Tensile Strength Steel) と表記されます。そのためハイテンや高抗張力鋼とも呼ばれています。

鋼の強度は炭素含有量の増加に伴い向上しますが、溶接性が低下する傾向があります。そこで含有炭素量を0.2%以下とし、マンガン・ケイ素・クロムモリブデン・バナジウム・チタン・ニオブ・ホウ素などを少量添加すると、溶接しやすく、高い靭性を持った鋼板である高張力鋼を製造可能です。

合金元素としてケイ素を加えると、靭性と延性を損なわず、強度を高めます。マンガンによって硬度や強度が増し、チタンで靭性を向上可能です。バナジウムの添加で、摩耗しにくくなります。合金元素の添加や化合物の組成のほか、熱処理技術の進歩とともに、強化された鋼材が得られます。

高張力鋼の種類

一般構造用圧延鋼材は引張強度だけが規定されており、SS400材の引張り強度の保証値は400メガパスカルです。ただし高張力鋼の定義は、国や鉄鋼メーカーで違います。高張力鋼は溶接性、加工性、切欠き靭性、耐食性などに優れた構造用鋼です。

超高張力鋼とは、1,000メガパスカル (1ギガパスカル) 以上の鋼材のことです。一般的には、引張強さがおよそ1,000メガパスカル以下を高張力鋼、1,000メガパスカル〜1,300メガパスカルを強靱鋼、1,300メガパスカル以上を超強力鋼と呼びます。

高張力鋼の選び方

高張力鋼の使用によって、構造材の厚みを薄くでき、重量的にも空間的にも極めて優れていますが、高張力鋼の使用中に腐食が生じるリスクもあります。この欠点を改善するために、リン・・クロムが添加された高張力鋼として、耐候性鋼や耐海水鋼などが挙げられます。

高張力鋼は加熱されても、材質自体が非常に安定で、劣化がありません。また延性にも優れ、熱間だけではなく冷間でも、容易に加工できます。さらに従来の鋼材と比べて、炭素の含有量が低く抑えられ、溶接する際に熱の影響による硬化が少ないです。

高張力鋼は合金元素を添加すると強度を高められる非調質鋼であり、安価に製造できます。使用する素材自体も少なく済むため、経済的なメリットも大きい素材です。 

青銅

青銅とは

青銅

青銅とは、を主成分として錫などの元素を添加した合金です。

ブロンズ (英: bronze) とも呼ばれます。人類最古の銅合金といわれ、錫を含まない合金 (アルミ青銅、ベリリウム青銅など) でも青銅の名称が通称となり、銅合金の代名詞的な用法で用いられる場合もあります。

銅と錫の比率や添加する元素によって、特徴が異なります。銅に錫、亜鉛、鉛を少量添加した砲金、リンを微量添加したリン青銅、錫と鉛をそれぞれ10%程度添加した鉛青銅などがよく知られています。

青銅の使用用途

青銅は人類最古の銅合金であり、用途は時代によって大きく異なります。歴史学では「青銅時代」のように、青銅の名称が正式に用いられています。

鉄の普及までは人が最も広く利用していた合金とも言われ、武器や貴金属製品として使用されてきました。鉄の普及後も、耐食性の高さと加工性の良さから、建造物や銅像、貨幣などの用途に広く用いられています。

さらにリンが添加されたリン青銅は強度、硬度、耐摩耗性、弾性などの性質が通常の青銅と比較して向上しており、電子部品から日用品に至るまで幅広い用途に用いられています。

また身近な青銅の使用例は、10円硬貨の原料です。この材料には銅が95%、錫が1〜2%、亜鉛が3〜4%の青銅が使用されています。そのほか、奈良の東大寺の大仏をはじめ、多種多様な銅像や建造物にも用いられています。

青銅の構造

青銅は銅と錫の合金であり、金属比率や添加金属種によって特徴が変化します。錫の含有量が少ないと赤銅色に、多いと黄金色に、一定以上添加されると白銀色に色調が変化します。

貨幣などでの使用を除く実用的な普通青銅は、錫の添加量を10%弱として、弾性や耐食性を有した圧延鍛造材として使用可能です。わずかに亜鉛や鉛を添加すると鋳造性が向上し、耐食性を有する機械部品鋳物などに用いられています。

特に脱酸剤として使用するリン剤を残して製造したリン青銅は、普通青銅よりも性質に優れており、強度や耐摩耗性は加工硬化にもよりますが、鋼鉄と同程度とも言われ、耐疲労性にも優れています。

弾性は純銅と同程度で、靭性は3倍にも達し、ばね性に優れた素材です。ほかにも導電性や熱伝導性が高く、非磁性や一定の耐食性を有するため、幅広い用途に用いられています。

青銅の選び方

1. 砲金

靭性に富んでおり、大砲の砲身に使われていました。対浸食性や耐摩耗性に優れ、鋳造が容易です。砲金のスクラップには水道メーターやバルブが知られています。一般的には銅が85%、錫が5%、亜鉛が5%、鉛が5%です。

2. 砲金削粉

砲金から出るダライ粉です。砲金粉や砲金ダライ粉とも呼ばれています。

3. 鉛青銅

鉛青銅の成分は、銅が77~81%、錫が9~11%、鉛が9~11%、ニッケルが1%以下です。銅に鉛がほとんど固溶しないため融点が低く、偏析や逆偏析が起こりやすいです。反面鋳造性や切削性に優れ、軸受材料に適しています。

4. リン青銅

溶解鋳造時にリンをわずかに添加して脱酸を行い、溶湯の流れも良くなるため鋳造性が向上します。強度やバネ特性に優れ、電気器具用の材料に利用可能です。一般的には錫が4~10%、リンが0.35%以下で残りが銅です。

青銅の種類

アルミニウム青銅、ニッケル青銅、マンガン青銅、シルジン青銅などは銅合金です。例えばアルミニウム青銅は、銅が77.0〜92.5%、アルミニウムが6.0〜12.0%、鉄が1.5〜6.0%、ニッケルが7.0%以下、マンガンが2.0%以下です。そのため錫と銅から構成される通常の青銅を、錫青銅と呼ぶ場合もあります。ただし最近開発されたクロム銅、チタン銅、ジルコニウム銅のような銅合金は、名称に銅を付けています。

当初ベリリウム銅は、ベリリウム青銅と呼ばれるときもありました。リン青銅は錫を含んでいるため、通常の意味の青銅です。

長繊維

長繊維とは

長繊維

長繊維とは、細く連続した非常に長い繊維のことです。

フィラメントとも呼ばれ、主に数百から数千m続く繊維のことを指します。

天然繊維では、生糸が唯一の長繊維の例ですが、化学繊維はレーヨンナイロンポリエステルなどが長繊維として作られています。ただし化学繊維は製造段階で長さを制御できるため、長繊維か短繊維か繊維ごとに分類はできません。例えばレーヨンのフィラメントは長繊維で、レーヨンのステープルは短繊維です。

長繊維の使用用途

天然繊維の中で唯一長繊維である生糸は、ネクタイなどの高級衣料に使用されています。それに対して化学繊維の場合にはナイロンやレーヨン、ポリエステルのようなあらゆる長繊維を得られます。

化学繊維は1本ずつ糸を巻き取ったモノフィラメントと、複数の糸をまとめたマルチフィラメントに分類可能です。モノフィラメントの太い長繊維は、主に工業用として釣糸や魚網、ブラシなどに使われ、細い長繊維は婦人用靴下に用いられています。マルチフィラメントの使用例としては衣料用が多いです。

長繊維の構造

天然繊維の長繊維である生糸は、一匹の蚕が変態の過程で作る繭から得られ、長さが1,000m以上にも及びます。生糸は天然の素材であり、柔らかく滑らかで吸湿や放湿、保温性などが高く、静電気が起こりにくいです。しかし虫に食われやすく摩擦にも弱いため、傷みやすいことがデメリットになります。

化学繊維の長繊維は、短繊維と比べて手触りが滑らかで、生地に光沢があります。繊維の長さは1,000m以上もあるため薄い生地を作れます。そのまま長繊維を用いると薄くて滑らかな生地になり、糸にボリューム感を出す加工も可能です。長繊維は1本1本の繊維が繋がっているため毛羽も少ないです。

化学繊維の場合には無限の長さを生み出せます。これは多数の細い孔が開いた口金から溶解した樹脂を繊維として押し出して形にするため、樹脂がある限り無限に作れるからです。

長繊維の種類

長繊維には下記のような種類があります。

1. シルク

天然繊維の中で唯一の長繊維で、長さが1,000m以上もある天然繊維はほかにありません。

2. コットン

綿花とも呼ばれます。耐久性が高く、肌触りや吸湿性が良く、下着やTシャツなどの直接肌に触れる製品によく用いられます。

一般的なコットンの繊維の長さはおよそ28mmです。28mm以上を長繊維綿と呼びます。繊維長が35mm以上の長繊維綿は超長綿と呼ばれ、光沢感があります。

3. レーヨン

レーヨンには長繊維のフィラメントと短繊維のステープルがあります。木材パルプが原料で成分はセルロースです。原料は植物であり、吸水性や吸湿性に優れています。

レーヨンは発色性が良く独特の光沢がありますが、吸湿すると強度が低下し、寸法安定性が低いためシワになりやすいです。

4. ポリエステル

短繊維のステープルと長繊維のフィラメントで、物性にはわずかに違いがありますが、引っ張り強さに長けた材料です。

ポリエステルは耐衝撃性、耐薬品性、耐熱性、ガスバリア性などに優れています。水を吸いにくく、水を吸っても性能に変化が小さいため衣服などは型崩れしにくいです。シワになりにくいため綿と混ぜて使用される場合もあります。

長繊維の選び方

長繊維と短繊維は特徴が異なります。

例えば長繊維は最軽量糸の紡績が可能であり、強度高く軽量生地が作れます。また、膨らみがなく薄くて軽やかな生地が得られるため短繊維のような毛羽感が出にくいです。そのためフラットな表面感に向いています。

長繊維の無加工糸は表面がフラットで反射率が高いため、光沢感が強いです。糸の加工次第では光沢感を調整できます。

さらに、長繊維と短繊維のそれぞれの特徴を活かすために両方を組み合わせた糸で生地を作る方法もあります。長繊維の安定性や強度を維持しつつ、短繊維の風合いの良さも有するハイブリッドな生地も製造することができます。

金属繊維

金属繊維とは

金属繊維とは、細く繊維状にした金属のことです。

金属繊維は直径10μm以下から200μm前後まで、幅広く製造されています。主に、引抜法・溶融紡糸法・切削法によって製造可能です。最近では、CVD法などの新しい製造技術も開発されています。

古くから装飾用に金糸や銀糸などが使用されていました。現在では複合材料の発達によって、繊維状材料への注目が高まっており、ステンレス・アルミニウム・鉄・ニッケルタングステンモリブデン・ベリリウムなど、様々な種類の金属繊維が生産されています。

金属繊維の使用用途

金属繊維は、主に、複合材・強化材・ろ過材・除電など、特殊な分野で使用されています。その他にも、金属繊維の一種であるステンレス繊維は、織物などに混織させて、帯電防止用に使われる場合があります。さらに、金や銀は装飾用として、鉄は綿状にして研磨用に利用可能です。

金属繊維は繊維強化複合材料として、釣り竿やゴルフシャフトの補強材など、身近な材料にも用いられています。また、錆びにくく耐久性にも優れているため、各種フィルターにも使われています。そして、金属繊維の導電性を活かし、電磁波シールドアイテムとしても使用可能です。

金属繊維は硬さがあり、皮膚への刺激が強い恐れがあるため、あまり衣類には使用されません。ただし一部ブラジャーカップの補形材やワイヤーなどに利用される場合があります。 

金属繊維の原理

1. 引抜法

金属繊維の製造方法の一つである「引抜法」は、金属の線材を、ダイスと呼ばれる型に通して引き伸ばしていく方法です。金属の線材を通す際に、少しずつダイスを小型のものに替えながら引抜を繰り返して、金属繊維を細く成形していきます。

2. 溶融紡糸法

「溶融紡糸法」では、金属を溶かし、溶けた金属をノズルから押し出して、金属を繊維状に成形します。

3. 切削法

「切削法」は、金属の薄い板を、切削装置の主軸に巻き付け、金属板の端を切り落として、金属繊維を製造する方法です。

金属繊維の種類

金属繊維は用途に応じて、様々な形状で流通しています。具体的には、金属繊維の束である「トウ」や、綿状の「ウェブ」、ウェブをシート状に加工した「ニードルパンチウェブ」、ウェブを焼結して多孔質体とした「焼結品」などの状態があります。

焼結体は透過性に優れ、耐熱性や耐腐食性が高いです。ポリマー繊維から構成されるポリマーペレットや顆粒もあります。繊維の束はサイジングで接着されて、互換性がある押出コーティングが適用されます。従来の織物繊維と同じように、不織布やフェルトも金属繊維で製造可能です。紡績の工程でエンドレスステンレス鋼繊維の束を糸へ変えられます。対衝撃性や導電性を改善するため、複合材料の補強繊維としても使用可能です。

金属繊維の選び方

金属繊維の特徴として、高導電性や高熱伝導性が挙げられます。粘り強さがあり、繊維が引き伸ばしやすく、切れにくいです。さらに、強度が高く、耐熱性にも優れているため、産業資材用途に適した繊維と言われています。

その一方で、一般衣料に使用する繊維と比較すると、金属繊維は硬いため、肌に直接触れるような用途では使用しにくい素材です。金属繊維は何度も折り曲げると金属疲労が生じ、強度が低下するなどの課題も挙げられます。

金属繊維の構造

金属繊維の製造で最も多く使用されている技術は、集束伸線です。コンポジットワイヤーと呼ばれる状態に数千ものフィラメントを束ねて、型の中を引っ張り抜いて製造可能です。覆われているチューブを酸に溶解させると、それぞれの金属長繊維が得られます。コンポジットワイヤーが各繊維の求める細さになるまで、工程を繰り返します。

集束伸線法では、数千メートルの長繊維束も製造可能です。繊維の断面形状は八角形になり、技術の洗練によって太さのばらつきが少なくて均質な繊維が得られます。最近では、200nm以下の細さでも作れるようになりました。

超々ジュラルミン

超々ジュラルミンとは

超々ジュラルミン (英: 7075 aluminium alloy) とは、アルミニウム合金 (英: aluminum alloy) の一種です。

日本産業規格 (JIS)ではA7075と呼ばれています。主体となる成分はアルミニウムで、を1.2~2.0%、マグネシウムを2.1~2.9%、亜鉛を5.1~6.1%加えて得られます。鉄材と同程度の強度を持っていますが、軽量です。

ジュラルミン (英: Duralumin) と比較しても約1.5倍の強度があります。しかし銅を多く含むことから、耐食性が低い点がデメリットです。長時間経過すると強度が低下するため、注意が必要です。

超々ジュラルミンの使用用途

超々ジュラルミンは強度の割に軽く、一般的な鋼材であるステンレスと比較すると3分の1程度の軽さです。この特徴を活かし、航空機の各種材料だけでなく、野球のバットなどにも使用されています。鉄道車両以外にも、金属バット、スキー板、ストックのような、さまざまなスポーツ用品に利用可能です。

しかし超々ジュラルミンは、耐食性が低いです。そのため、耐食性が必要な場所で使用する場合は、ステンレスのような耐食性に優れた材質を挟み込むことで対応しています。また、溶接の際もリベットボルトを使用して、固定度を高めています。

超々ジュラルミンの種類

超々ジュラルミンは、アルミニウム合金に含まれるジュラルミンの一種です。ジュラルミンには、ジュラルミン、超ジュラルミン (英: 2024 aluminium alloy) 、超々ジュラルミンの3種類があります。

ジュラルミンと超ジュラルミンは、主にアルミニウムと銅の合金です。それに対して超々ジュラルミンは、アルミニウムを主体とした、銅、亜鉛、マグネシウムからなる合金です。

ジュラルミンの硬度は、HB (ブリネル硬さ) で比較できます。アルミニウムは65HB、ジュラルミンは105HB、超ジュラルミンは120HB、超々ジュラルミンは160HB、ステンレスは187HBです。

超々ジュラルミンの原理

1906年に銅を添加したアルミニウム合金が製作されました。とくに1日放置すると、焼き入れ直後よりも大幅に硬度の向上が見られます。このアルミニウム合金は、ジュラルミンとして市場に参入しました。

1928年に引張強度が強いジュラルミンが開発されました。この時期に作られた超ジュラルミンは、多くケイ素を含んでいたため、含ケイ素超ジュラルミンと呼ばれています。1931年にはケイ素を用いず、マグネシウムの添加量を1.5%に増やした合金も発明されています。

しかし応力腐食割れは、多くの高強度金属の問題でした。応力腐食割れを防ぐために、クロムの添加によって対策されています。そして1936年に、当時最も強度が高い超々ジュラルミンが開発されました。

超々ジュラルミンの選び方

1. 超々ジュラルミン

超々ジュラルミンは、アルミニウム合金の中でもトップクラスの強度を有します。超ジュラルミンより銅の割合を少なくした分、マグネシウムの比率を増やし、亜鉛を加えて強度を得ています。ジュラルミン類の中では「超」が付くほど、強度が高くなる傾向にありますが、合金自体の重量や溶接性、耐食性は、ほとんど変わりません。

2. ジュラルミン

一般的なジュラルミンは、3種類のジュラルミンの中で最も安価です。身近な製品にも使用され、ジュラルミンケースは代表的な例です。軽い上に強度があり、荷物の持ち運びに適しています。

3. 超ジュラルミン

超ジュラルミンは、ジュラルミンと超々ジュラルミンの間の強度です。超々ジュラルミン同様、航空機の部品として使用される場合が多いです。

超々ジュラルミンの構造

超々ジュラルミンは強度を確保するため、アルミにマグネシウム、銅、亜鉛が加えられています。亜鉛を添加すると強度は高くなりますが、応力腐食割れのリスクが少なからず生じます。

ジュラルミンは時効硬化によって、強度を高めた素材です。時効硬化とは、焼き入れ後、一日ほど寝かせると、焼き入れ直後よりも、強度が向上する現象です。ジュラルミンは時効硬化によって強度を確保していますが、長期的に使用すると少しずつ強度は失われます。

超ジュラルミン

超ジュラルミンとは

超ジュラルミン (英: super duralumin) とは、アルミニウムとマグネシウムなどを加えたアルミニウム合金です。

アルミニウムに銅などを加えたジュラルミンよりも、強度や切削性などが優れています。ジュラルミンの硬度が105HBなのに対し、超ジュラルミンの硬度は120HB程度です。

ただし、銅を多く含むことによって、耐食性が落ちてしまう点がデメリットとして挙げられます。

超ジュラルミンの使用用途

超ジュラルミンは、鋼材の1/3ぐらいの比重です。軽量・高強度などの特徴を活かし、航空機の機体などの色々な構造材料、ボルトの素材材、スピンドルなどに使用されます。

溶接性が他のアルミ合金より劣るため、超ジュラルミンを使用した製品を接合する場合は、リベット・ボルトなどを使用する場合が多いです。近年では、溶接法が進歩して抵抗スポット溶接などによる溶接接合が使われます。

超ジュラルミンの原理

純アルミニウムは非常に軽量で加工性に優れた素材ですが、短所は強度が低いことです。一般的に、「銅を含ませると母材の強度が上がる」という性質があります。ジュラルミンは、アルミニウムに銅を加えて強度と切削加工性を向上させた合金です。

なお、超ジュラルミンは、アルミニウムに銅とマグネシウムを加えています。同じ組成のジュラルミンに比べてマグネシウムの量を多くし、さらに強度を上げているのが特徴です。

アルミニウム合金は熱処理によって、特質が大きく変わります。熱処理は、金属をある一定の温度に加熱した後、冷却することです。熱処理記号のT3は焼き入れ後冷間加工したもの、T4は焼き入れのみで、通常4日程度の常温放置で時効硬化したもの、T6は焼き入れ後、冷間加工したものを焼き戻し処理を行ったものを表します。

超ジュラルミンの融点は、約500~650℃程度であり、比較的容易に鋳造加工が可能です。

ジュラルミンの種類

ジュラルミンと呼ばれる素材は3種類あり、JIS規格になっています。具体的には、A2017ジュラルミン、A2024超ジュラルミン、A7075超々ジュラルミンです。いずれもアルミニウムに銅を加えて、強度を上げています。銅などの金属間化合物が析出して硬化する析出硬化型の合金です。

1. A2017ジュラルミン

A2017ジュラルミンは、アルミニウムに銅とマグネシウムを添加した合金です。日本では、1921年に住友伸銅所でA2017ジュラルミンの工業生産が開始され、翌年には飛行機の構造体に国産ジュラルミンが使用されました。

比重は2.79であり、非常に軽量でありながら、優れた強度と切削加工性を有しているのが特徴です。一方、他のアルミニウム材と比べて、耐食性と溶接性が劣ります。粒界腐食が発生しやすい短所があり、また、割れ感受性が高く、溶接施工が非常に難しい素材です。

A2017ジュラルミンは、アルミニウムに、銅3.5~4.5%、マグネシウム0.40~0.80%を加えて製造されます。アルミニウムは銅を加えると、強度が高くなりますが、酸化しやすくなります。硬度は、アルミニウムの65HBに対し、A2017ジュラルミンは105HBに上昇します。

軽量で高い強度の特徴を活かし、幅広い分野で使われます。航空機やロケットの部品、船舶用、油圧装置やギヤなどの機械部品、アタッシュケース、ねじ・リベットなどの締結部材、建物の窓枠などです。

2. A2024超ジュラルミン

A2024超ジュラルミンは、A2017ジュラルミンと同様な合金ですが、含有量が銅3.8~4.9%、マグネシウムが1.2~1.8%と違いがあります。A2017ジュラルミンより硬度が高く、120HB程度あり、強度が上昇します。一方、銅の含有量が増えている影響で、耐食性はやや劣ります。また、切削性に優れた素材です。

A2024超ジュラルミンは、溶接性の低いデメリットがあります。表面の酸化皮膜が母材よりも融点が高く、事前に酸化皮膜の除去が必要です。また、母材の熱が逃げやすいため、溶込みが不安定になりやすいのも短所です。

3. A7075超々ジュラルミン

A7075超々ジュラルミンは、アルミニウムに銅を1.2~2.0%、マグネシウムを2.1~2.9%、亜鉛を5.1~6.1%含有させた合金です。

硬度が160HBあり、ジュラルミンでは最も強度が高い素材です。引張強さは、570N/mm^2程度で、A2017ジュラルミンの425N/mm^2、A2024超ジュラルミンの470N/mm^2より、大幅にアップしています。

A7075超々ジュラルミンの用途は、航空機、鉄道車両、スポーツ用品等です。A2024超ジュラルミン同様、耐食性が劣るため、使用環境や防腐処理に注意が必要です。

磁性流体

磁性流体とは

磁性流体

磁性流体とは、2~3nmの界面活性剤でコーティングし、油や水などの媒質で安定に分散させた液体です。

マグネタイトなどに代表される磁性微粒子です。磁性体の特徴である強磁性と液体の性質である流動性の、二つの要素を兼ね備えています。

磁性流体は永久磁石などによって磁場が与えられると、その磁場の方向や大きさによって、位置や向き、形などを変化可能です。また、変化する磁場が与えられると、流動する特徴もあります。さらに、磁性流体が磁場中に置かれると、その磁場の強さに応じて、見かけ上の粘度や比重が変化します。

磁性流体の使用用途

磁性流体の最も広く普及している用途は、磁性流体シールです。磁性流体シールは、磁石によって回転軸と磁極の間に磁力線が作られ、その磁力線に沿って磁性流体が保持されます。HDD内の帯電を防止する防塵シールや半導体を製造する装置に使われる真空シールなど、幅広く活用されています。

また磁性流体は、スピーカーやダンパーとして、広く利用可能です。とくに最近では、磁性流体が封入されたダンパーを利用したショックアブソーバなど、自動車にも磁性流体が使用されています。

さらに医療分野で磁性流体は、がん診断の造影剤などに利用されています。 

磁性流体の原理

磁性流体に含まれているマグネタイトは、磁場中に置かれた時のみ、磁石と同様の振舞いを見せます。そのため磁性流体は、磁場がない環境下では通常の流体として働き、磁場が存在する環境では磁石のような動きが可能です。

磁性流体に用いられている磁性粒子は、磁石を近づけると磁石に引き寄せられます。その際に、磁石のN極-S極に構成される磁力線に沿って配向可能です。この配向する力は、磁性流体が有している界面張力と拮抗するため、磁性流体の表面は鋭い見た目になり、この現象をスパイク現象と呼びます。

磁性流体の金属微粒子であるマグネタイトは、純金属ではありません。マグネタイトは既に酸化された状態の超微粒子であり、空気にさらされるとさらに酸化して、ヘマタイトへと変化します。ヘマタイトは磁性を帯びておらず、磁性流体として働かなくなります。磁性流体としての働きを持続させるためには、空気にマグネタイトが触れる前に、界面活性剤などによるコーティングが必要です。 

磁性流体の種類

一般的に磁性流体は、溶媒の種類で分類可能です。具体的には、炭化水素油ベース磁性流体、水ベース磁性流体、ふっ素油ベース磁性流体などが挙げられます。 

ベース液の具体例は、水、イソパラフィン、アルキルナフタレン、パーフルオロポリエーテルなどです。ただしどの流体でも磁性流体にできるわけではありません。ベース液に対応している界面活性剤が必要で、目的や用途に合った選択が重要です。

磁性流体は凝集法 (還元法) 、熱分解法、物理気相成長 (PVD) 法、レーザー蒸発法、化学気相成長、活性液面連続真空蒸着法などで製造可能です。例えば活性液面連続真空蒸着法では、回転した真空ドラムへ界面活性剤と油を加えて、金属を2,000°C付近に熱するための蒸発源をドラムの中心に配置して、微粒子を製造します。

磁性流体の構造

磁性流体は磁性コロイド溶液です。マンガン亜鉛フェライトやマグネタイトのような強磁性微粒子、表面を覆う界面活性剤、水や油などのベース液の3種類で構成されています。磁性流体中の強磁性微粒子は、ベース液と界面活性剤の親和力によって凝集したり、界面活性剤同士の反発力によってベース液中で沈降したり、安定した分散状態を保っています。

強磁性微粒子の直径はおよそ10nmととても小さく、インフルエンザウイルスの10分の1程度です。粒径は9nmで、界面活性剤の分子長は1.5nmが、それぞれ適切とされています。界面活性剤が短いと凝集しやすく、長いと油の中での金属磁性体の充填割合が下がるため、磁性が十分得られません。

砲金

砲金とは

砲金は、約90%の銅と約10%の錫を含む合金のことをいいます。砲金は、銅と錫という組成をもつことから、青銅に分類されます。

砲金は、高い靭性を有しており、大砲の砲身に使われていたことがありました。そのため、「砲金」と名付けられました。また、その事実に由来して、「ガンメタル」と呼ばれることもあります。

砲金は、靭性に優れている他、耐摩耗性や鋳造性、耐腐食性にも優れているといった特徴があります。さらに、砲金は、対海水性が高く、軸受特性にも優れているといった特徴も兼ね揃えています。

砲金に該当する青銅としては、CA401やCA402など、5種類が存在します。それぞれ、特徴や適した使用用途などが異なっています。 

砲金の使用用途

砲金は、機械的性質や耐食性、耐摩耗性に比較的優れているといった特徴があります。

そのため、砲金の使用用途としては、「バルブ」「コック」「注水器」「軸受」「歯車」「羽根車」「ブッシュ」「液体酸素用の製造部品」「ポンプケーシング」「ピストンリング」「温水器や湯沸し器の部品」「メーター部品」「圧延機ウォームホイール」「船舶用プロペラ」「製紙用ロール」「美術鋳物」「景観鋳物」「滑り軸受」「電動機器部品」「一般機械部品」「高弾性のばね材料」「船用の丸窓」「船舶部品」「印刷用の部品」「化学工業用品」「歯付き座金」「標識」「ボルト」「バネ座金」などといったように、非常に幅広い分野において利用されています。

砲金の特徴

青銅の中で、砲金に相当する組成のものとしては、「CA401」や「CA402」などの五種類が存在します。

「CA401」は、青銅鋳物系の銅鋳物で、バルブメタルとも呼ばています。湯流れや被削性に優れているといった特徴をもっており、バルブメタルという別名からも分かる通り、バルブによく利用されています。

「CA402」は、青銅鋳物系のうち、耐圧性・耐摩耗性・耐食性に優れた特性を持っている鋳物です。また、機械的性質も、青銅鋳物の中では優れているといった特徴があります。さらに、耐海水性にも非常に優れているため、海水が関わるポンプ部品等にも使用されています。

「CA403」は、青銅鋳物系の中で、耐圧性・耐摩耗性・機械的性質に優れているといった特徴があります。錫の含有量が比較的多いという特徴もあるため、耐磨耗性や耐食性が求められる環境下での使用が検討されています。「CA403」は、青銅系の中では、最も海水に強い材料でもあります。

「CA406」は、オンスメタルや鉛入りレッドブラスとも呼ばれています。青銅鋳物系の中では、耐圧性・耐摩耗性・被削性・鋳造性に優れた性質を示す材種です。また、「CA406」は、生産量が多く、非常に良く使われている銅鋳物の一つでもあります。

「CA407」は、青銅鋳物のうち、機械的性質が「CA406」より優れており、水蒸気用バルブ青銅とも呼ばれています。また、汎用性の高い「CA406」よりも、さらに高い性質を求められる場合に、「CA407」の適用が検討されることが多いです。