高張力鋼

高張力鋼とは

高張力鋼

高張力鋼とは、一般的な鋼材と比べて、高い抗張力や優れた溶接性を有した鋼材です。

具体的に高張力鋼は、引張り強度が500~1000メガパスカル程度、降伏点が300メガパスカル以上の鋼板のことです。別名、低合金高張力鋼やハイテン鋼などと呼ばれています。高張力鋼の種類には、炭素やニッケル、シリコン、マンガンなどの元素を添加して強化した「固溶強化型・析出強化型鋼板」や、プレス成形後に焼入れして強化された「複合組織鋼板」などが挙げられます。

高張力鋼は強度に優れており、薄肉化しても、普通鋼と同等の強度を確保しやすいです。そのため、鋼材の使用量を減らし、軽量化できます。さらに、軽量化された鋼材を普通自動車や作業車などの移動車両に適用すると、燃費を向上させ、経済性を高められます。 

高張力鋼の使用用途

高張力鋼は高い耐食性を持っており、屋外の建造物など雨風に晒される環境で使用しても、錆びにくいです。そのため、石油タンクや液体を運ぶ水圧管に使用されているほか、海や河川に浮かぶ構造物や橋などの鋼材としても、幅広く利用されています。

60キロ級以上の高張力鋼に、焼入れや焼きなましを施した調質高張力鋼も用いられます。調質高張力鋼は降伏比が高くて、溶接性に優れているため、高圧容器・橋梁・建築などに広く使用可能です。例えば、関門橋や本州四国連絡橋には、溶接した調質高張力鋼の鋼材が多く利用されています。

そのほか高張力鋼は、産業機械・重機・車両・都市ガスタンク・液化天然ガス貯蔵タンク・造船など、幅広い分野で活用されています。 

高張力鋼の原理

英語で高張力鋼は、ハイ・テンサイル・ストレングス・スティール (英: High Tensile Strength Steel) と表記されます。そのためハイテンや高抗張力鋼とも呼ばれています。

鋼の強度は炭素含有量の増加に伴い向上しますが、溶接性が低下する傾向があります。そこで含有炭素量を0.2%以下とし、マンガン・ケイ素・クロムモリブデン・バナジウム・チタン・ニオブ・ホウ素などを少量添加すると、溶接しやすく、高い靭性を持った鋼板である高張力鋼を製造可能です。

合金元素としてケイ素を加えると、靭性と延性を損なわず、強度を高めます。マンガンによって硬度や強度が増し、チタンで靭性を向上可能です。バナジウムの添加で、摩耗しにくくなります。合金元素の添加や化合物の組成のほか、熱処理技術の進歩とともに、強化された鋼材が得られます。

高張力鋼の種類

一般構造用圧延鋼材は引張強度だけが規定されており、SS400材の引張り強度の保証値は400メガパスカルです。ただし高張力鋼の定義は、国や鉄鋼メーカーで違います。高張力鋼は溶接性、加工性、切欠き靭性、耐食性などに優れた構造用鋼です。

超高張力鋼とは、1,000メガパスカル (1ギガパスカル) 以上の鋼材のことです。一般的には、引張強さがおよそ1,000メガパスカル以下を高張力鋼、1,000メガパスカル〜1,300メガパスカルを強靱鋼、1,300メガパスカル以上を超強力鋼と呼びます。

高張力鋼の選び方

高張力鋼の使用によって、構造材の厚みを薄くでき、重量的にも空間的にも極めて優れていますが、高張力鋼の使用中に腐食が生じるリスクもあります。この欠点を改善するために、リン・・クロムが添加された高張力鋼として、耐候性鋼や耐海水鋼などが挙げられます。

高張力鋼は加熱されても、材質自体が非常に安定で、劣化がありません。また延性にも優れ、熱間だけではなく冷間でも、容易に加工できます。さらに従来の鋼材と比べて、炭素の含有量が低く抑えられ、溶接する際に熱の影響による硬化が少ないです。

高張力鋼は合金元素を添加すると強度を高められる非調質鋼であり、安価に製造できます。使用する素材自体も少なく済むため、経済的なメリットも大きい素材です。 

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