酸化カリウム

酸化カリウムとは

酸化カリウムとは、硝酸カリウムとカリウムを熱することで得られる化合物です。

酸化カリウムは室温では、無色の結晶または灰色の固体の状態で存在しています。一般的に、水酸化カリウムの状態で使用されることが多いです。

毒劇法において劇物包装等級Ⅱに指定されているため、取り扱いには注意が必要です。なお、酸化カリウムの関連物質として、カリウム (英: potassium) 、水酸化カリウム (英: potassium hydroxide) 、過酸化カリウム (英: potassium peroxide) などが挙げられます。

酸化カリウムの使用用途

酸化カリウムは、水と反応させた水酸化カリウムの状態で使用されることが多いです。水酸化カリウムは、具体的には、液体石鹸や洗剤、化学肥料の原料、アルカリ電池の電解液など幅広い用途に使用されています。

水酸化カリウムは、洗剤の原料の中でも、洗浄作用の強い塩基性の化合物と言われています。特に油汚れを分解、溶解する作用が強いため、業務用の洗剤などに配合されている場合が多いです。

酸化カリウムの性質

酸化カリウムは350℃で、カリウムと過酸化カリウムに分解します。密度は2.35g/cm3です。水によく溶け、溶解後は、水酸化カリウムに変化します。酸化カリウムは空気中の水とも反応するため危険です。腐食性もあります。

酸化カリウムはカリウムの酸化物で、化学式はK2Oです。酸化カリウムの結晶固体は、立方晶系に属しています。逆蛍石型構造 (英: antifluorite structure) を取っており、フッ化カルシウムのフッ化物イオンの位置にカリウムイオン、カルシウムイオンの位置に酸化物イオンが配置しています。酸化カリウムの格子定数は、a = 6.436Åです。

酸化カリウムのその他情報

1. 酸化カリウムの生成

少量の空気と金属カリウムを反応させると、酸化カリウムを合成可能です。過剰の反応していない金属カリウムは、蒸留によって除去できます。

金属カリウムと硝酸カリウムを熱することでも、酸化カリウムが得られます。

2. 岩石中の酸化カリウム

一般的に岩石の組成は、酸化物の形で表示されます。ただしK2Oと表示されていても、酸化カリウムとして含まれているわけではありません。KAlSi3O8といった構造の正長石 (英: orthoclase) などのケイ酸塩 (英: silicate) として含まれています。例えば、花崗岩 (英: granite) の組成としてK2O4.5%と表示されていた場合、およそ26.6%の正長石成分を含んでいることになります。

カリ肥料における成分表示も同様です。つまり、成分が炭酸カリウムあるいは硫酸カリウムの場合にも、カリウム分がK2Oに換算されて表示されています。

3. カリウムの特徴

350℃で酸化カリウムは、過酸化カリウムとともに、カリウムに分解します。カリウムは原子番号19番の元素です。元素記号はKのアルカリ金属で、典型元素の一つであり、生物にとって必須元素でもあります。カリウムはすぐに空気によって酸化されます。

4. 水酸化カリウムの特徴

酸化カリウムを水に入れると、高熱を発し、水酸化カリウムが生成します。水酸化カリウムはカリウムの水酸化物で、化学式はKOHです。水酸化物イオンとカリウムイオンから構成されるイオン結晶であり、硬くてもろい白色の固体です。水酸化カリウムは苛性カリ (英: caustic potash) とも呼ばれています。

5. 過酸化カリウムの特徴

350℃で酸化カリウムは、カリウムとともに、過酸化カリウムに分解します。過酸化カリウムはカリウムの過酸化物であり、過酸化カリとも呼ばれています。化学式はK2O2です。

液体アンモニア中に金属カリウムを溶解させ、−50℃で濃青色の溶液に酸素を吹き込むと、反応によって溶液が無色になり、オレンジ色の沈殿として過酸化カリウムが生成します。

参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0116-2181JGHEJP.pdf

酸化インジウム

酸化インジウムとは

酸化インジウムとは、半導体材料やディスプレイ材料として主に用いられているインジウムを酸化した無機化合物です。

化学式In2O3、分子量277.63、CAS登録番号1312-43-2で、酸に溶け、水には溶けない性質を有しています。国内法規上で酸化インジウムは、安衛法で「名称等を表示すべき危険物および有害物」「名称等を通知すべき危険物および有害物」に指定されています。

その他、PRTR法で「第1種指定化学物質・第1種No. 44」、大気汚染防止法で「有害大気汚染物質」にも指定されています。

酸化インジウムの使用用途

酸化インジウムは、酸化スズを添加して作られる「酸化インジウムスズ (英: Indium Tin Oxide, ITO) による透明導電膜の原料としてよく知られています。酸化インジウムを使ったITO膜は、次のような用途に用いられます。

1. 透明導電膜

ITO膜は透明で電気を通す性質があるため、透明導電膜として使用されます。透明導電膜は、スマートフォンやタブレットなどのタッチパネルや液晶ディスプレイ、有機ELパネルなどの表示装置で使用されます。

2. 太陽電池

ITO膜は、太陽電池の電極としても使用されます。太陽電池の光吸収層となるシリコンなどの半導体素材が光を吸収することで発生した電子が、ITO電極に集められます。

3. 電子材料

ITO膜は、液晶ディスプレイのバックライトや発光ダイオード (LED) の電極など、電子材料の製造にも使用されます。また、半導体材料の製造にも使用されます。

酸化インジウムの性質

酸化インジウムは、インジウムと酸素からなる化合物で、化学式はIn2O3と表されます。酸化インジウム単体や酸化インジウムに微量の金属元素をドーピングした素材は、以下に示すような特殊な性質を有します。酸化インジウムは、半導体産業やディスプレイ産業など、性質を活かしてさまざまな分野で使用されています。

1. 透明性

可視光線に対して高い透明性を示します。特に、紫外線から近赤外線までの波長域において、高い透過率を示します。

2. 導電性

導電性から半導電性があります。透明でありながら電気を通すことが可能で、透明導電膜の素材として広く用いられています。

3. 耐熱性

 高温下でも安定した性質を持ちます。そのため、高温プロセスが必要な製造工程においても使用されます。

4. 化学的安定性

空気中で安定した性質を持ちます。酸化物であるため、酸やアルカリに対しても化学的に安定です。

5. 磁性

常磁性体であり、磁場によって磁化しない性質を持ちます。

酸化インジウムのその他情報

酸化インジウムの製造方法

1. 熱酸化法
金属インジウムを高温で燃焼させ、生成した酸化物を回収する方法です。酸化反応を促進するために、酸素や空気を供給します。酸素供給量や反応温度を調整することで、製品の品質や収率を制御できます。

2. 水熱法
水とインジウムの塩を混合して、高温・高圧の水中で反応させる方法です。この反応によって生成する酸化物は、粒子の大きさや形状が均一で、高い結晶性を持つことが特徴です。また、反応条件を調整することで、異なる形状の酸化物を得ることができます。

3. 沈殿法
インジウムイオンを含む水溶液に、アンモニア炭酸ナトリウムなどのアルカリ剤を加え、pHを上げて反応させる方法です。反応によって生成した沈殿物を遠心分離や濾過などの方法で回収し、乾燥して酸化インジウムを得ます。この方法は、反応容器の設備が比較的簡単であることや製品の品質を均一に保つことができることから、工業的にも広く用いられています。

透明導電膜の被膜形成は、スパッタリングという不活性ガス中での高電圧印加による蒸着技術を使用することで、薄くかつ均一な膜形成を可能としています。

参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0109-0298JGHEJP.pdf
https://www.nite.go.jp/

酸化イットリウム

酸化イットリウムとは

酸化イットリウム (英: Yttrium oxide) とは、白色をした粉末の固体です。

イットリウムと酸素から構成される無機化合物で、化学式はY2O3、分子量は225.81、CAS登録番号は1314-36-9です。別名でイットリアとも呼ばれます。

酸化イットリウムの使用用途

酸化イットリウムの使用用途は主に下記の通りです。

1. 発光材料

酸化イットリウムは、カラーテレビのブラウン管に赤色を与えるYVO4:EuやY2O3:Eu、Y2O2S:Eu発光体の製造に使われています。これらの材料では、発光スペクトルの線幅が非常に狭く、純度の高い赤色を得ることが出来ます。自然光のもとで見るのと同じように色を忠実に再現できるという「高演色蛍光灯」の蛍光体にも使用されています。

2. レーザー材料

酸化イットリウムは、有望な固体レーザー材料の一つです。特に、イッテルビウムをドーパントとするレーザーは、無変調連続波とパルス状領域の両方で効率よく動作します。そのほかにも、Y (イットリウム) 、A (アルミニウム) 、G (ガーネット) の結晶に、Nd (ネオジウム) を添加した結晶体を使用したレーザー (YAGレーザー) の材料にもなっています。

3. 歯科用セラミック

酸化イットリウムは、メタルフリーな歯科用セラミックのジルコニアを安定化させるために使用されます。これは、セラミック修復用材料として使用される、非常に硬いセラミックです。歯科で使用されるジルコニアは、酸化イットリウムの添加で安定化された酸化ジルコニウムで、イットリア安定化ジルコニア (英: Yttria-stabilized zirconia、YSZ) と呼ばれます。

4. マイクロ波フィルター

酸化イットリウムは、非常に効果的なマイクロ波フィルターであるイットリウム鉄ガーネット (YIG) の製造にも使用されます。YIGは、マイクロ波、音響、光学、磁気光学アプリケーション(マイクロ波YIGフィルター、音響送信機、音響トランスデューサなど) で使用されます。

5. その他

酸化イットリウムは、その他にも超電導用材料、ファインセラミックスの原料、光学レンズの添加剤、ニッケル水素電池の材料といった幅広い分野で利用されています。

酸化イットリウムの性質

酸化イットリウムは、融点/凝固点が2,420℃で、沸点は約4,300℃、密度は5.01g/cm3、熱伝導率は、27W/(m・K) です。水にはほとんど溶けず、希硝酸に溶けるという性質を有します。蛍石型の立方晶の結晶構造を持ち、空間群はIa-3で八面体型の配位構造をとっています。

酸化イットリウムのその他情報

1. 酸化イットリウムの製法

2010年に新しい鉱物種として承認されたイットリアアイト (英: Yttriaite) は、イットリウムの天然型です。シベリアの極ウラル地方の川の砂鉱床の天然タングステン粒子の含有物として産出します。他の鉱物の化学成分としては、スウェーデンのストックホルム近くのイッテルビーという町の鉱山の希土類鉱物から、1789年にヨハン・ガドリンによって最初に分離されました。

2. 法規情報

国内法規上の適用は、安衛法で「名称等を表示すべき危険物および有害物」「名称等を通知すべき危険物および有害物・別表第9No. 54」の指定がされているのみで、そのほか消防法といった主だった法令での適用はありません。

3. 取扱いおよび保管上の注意

取扱い及び保管上の注意は、下記の通りです。

  • 容器を密栓し、冷暗所に保管する。
  • 屋外や換気の良い区域のみで使用する。
  • 粉塵が飛散しないように注意する。
  • 静電気放電に対する予防措置を講じる。
  • 使用時は保護手袋、保護眼鏡を着用する。
  • 取扱い後はよく手を洗浄する。
  • 皮膚に付着した場合は、大量の水で洗い流す。
  • 眼に入った場合は、水で15~20分間注意深く洗う。
  • 眼の刺激が続く場合は、医師の診断・手当を受ける。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/1314-36-9.html

酢酸タリウム

酢酸タリウムとは

酢酸タリウム (英: Thallium acetate) とは、無味無臭で白色の結晶性粉末です。

IUPAC名は、酢酸タリウム(I) (英: Thallium(I) Acetate) 、また英語の別名としてThallium monoacetateやThallous acetateとも呼ばれます。化学式TlC2H3O2で表され、分子量263.43の金属塩の1種です。CAS登録番号は563-68-8です。

なお、酢酸タリウムは、毒物及び劇物取締法により劇物に指定されています。

酢酸タリウムの使用用途

酢酸タリウムは、19世紀から20世紀初頭にかけて、皮膚科における脱毛剤や化粧用脱毛クリームとして使用されていました。現在ではその毒性から、劇物として厳しく管理されています。

現在の使用用途は、殺鼠剤 (失効農薬) 、殺虫剤、農薬全般 (中間体を含む) 、花火の染料、光学材料、電子材料などです。微生物学において、菌を選択的に培養するための添加剤としても用いられます。

酢酸タリウムは古くは殺鼠剤として使われていました。ネズミは鋭い嗅覚を持ちますが、酢酸タリウムは無味無臭、かつ毒性があるためよく使用されていました。現在では、クマリン系など安全な材質の殺鼠剤が出回っています。

殺鼠剤の誤飲などの事故により、タリウムを摂取してしまった場合の治療薬としては、プルシアンブルー (ヘキサシアノ鉄 (II) 酸鉄 (III) ) が用いられます。

酢酸タリウムの性質

融点は130°Cで、常温で固体です。潮解性を持ちます。水やエタノール、クロロホルムに溶け、アセトンには不溶です。

タリウムは、急性および慢性毒物として知られる毒性の強い元素の1つです。暴露の影響は累積的であり、症状は12〜24時間遅れて発現することもあります。吸入、摂取または皮膚から吸収された場合、致命的となる可能性があります。

摂取による人間の致死量は体重1 kgあたり、約8mgです。急性毒性 (経口) や生殖毒性の有害性をもち、飲み込むと生命に危険、生殖能や胎児への悪影響のおそれの疑い、毛 (脱毛症) の障害のおそれ、神経系の障害、長期又は反復ばく露による神経系の障害、水生生物に有害などさまざまな危険性を持ちます。

酢酸タリウムの種類

酸化状態により酢酸タリウム (I) と酢酸タリウム (II) (英: Thallium(III) triacetate) の2種類が存在します。

酢酸タリウム (II) は、化学式TlC6H9O6で表され、分子量381.52、CAS登録番号は2570-63-0です。

酢酸タリウムのその他情報

1. 酢酸タリウムの製造法

水酸化タリウムまたは炭酸タリウムと酢酸から合成します。アルコール中で、溶媒を蒸発させ再結晶することで精製できます。

2. 取り扱い及び保管上の注意

取り扱う場合
強酸化剤や酸類との接触を避けます。局所排気装置であるドラフトチャンバー内で使用することが重要です。また、使用の際は、個人用保護具を着用します。

火災の場合
酢酸タリウムは不燃性で、それ自体が燃えることはありません。ただし、熱分解で腐食性や毒性の蒸気またはガスを発生するおそれがあります。

消火には水噴霧や泡消火剤、粉末消火剤、炭酸ガス、乾燥砂などを使用します。棒状放水は行わないでください。

皮膚に付着した場合
腐食性や刺激性があります。皮膚に付着しないよう注意が必要です。使用時は必ず白衣や作業着などの保護衣や保護手袋を着用します。

保護衣の袖は決して捲らず、皮膚が暴露しないようにする必要があります。万が一、皮膚に付着した場合は、石けんと大量の水で洗い流します。衣類に付着した場合は、汚染された衣類をすべて脱いで隔離します。ただちに、医師の診療を受けることが重要です。

眼に入った場合
眼に対し強い刺激性を持ちます。重篤な損傷を起こす可能性があるので、使用時は必ず保護メガネまたはゴーグルを着用が必要です。

万が一眼に入った場合は、水で数分間注意深く洗います。コンタクトを着用している場合で簡単に外せるときは外し、しっかり洗浄します。必ず医師の診察を受けることが重要です。

保管する場合
保管する際は、ガラス製容器に入れて密閉します。直射日光を避け、換気がよく、なるべく涼しい場所に保管します。また、保管庫は必ず施錠することが重要です。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/563-68-8.html
https://pubchem.ncbi.nlm.nih.gov/compound/11247#section=Odor

酢酸アミル

酢酸アミルとは

酢酸アミルの基本情報

図1. 酢酸アミルの基本情報

酢酸アミル (Amyl acetate) とは、有機化合物の一種で、酢酸とアミルアルコールのエステルです。

化学式C7H14O2、分子式CH3COO(CH2)4CH3の分子式で示されます。IUPAC命名則による名称は、「エタン酸ペンチル」です。他の名称に、「酢酸ペンチル」「酢酸n-アミル」「酢酸n-アミルエステル」などがあります。CAS登録番号は、628-63-7です。

分子量は130.18、融点は-71℃、沸点は149℃で、常温では無色透明の液体です。特異臭を持ち、果実臭あるいはナシのような芳香と形容されます。密度は0.876g/cm³です。水に難溶 (溶解度1.7×10-3 mg/L (20℃))ですが、アルコールやエーテルなどの有機溶媒には混和します。

また、1-ペンタノールの異性体の一つ、あるいはそれらの混合物から製造されたエステルも酢酸アミルと称されることがあります。尚、酢酸アミルは引火性があることから、消防法による第4類危険物第2石油類の指定を受ける物質です。

酢酸アミルの使用用途

酢酸アミルの主な使用用途は、溶剤、ラッカーなどが中心です。香料や織物用染料の溶剤、接着剤の製造、油絵具、ラッカー、ニトロセルロースの溶剤などがあります。写真フィルムなどのフィルム調剤、合成プラスチック材料のセルロイドなども用途です。このように、多岐にわたって工業的に活用されています。

また、模造真珠を作る際、ガラスを丸く珠にしたものに外層や中空の内側から吹き付ける液をパールエッセンスと呼びますが、酢酸アミルはこのような塗料液に用いられたりもします。その他、シミ抜き剤の成分として含まれる場合もあります。

酢酸アミルの原理

酢酸アルミの原理を合成方法と化学的性質の観点から解説します。

1. 酢酸アミルの合成方法

酢酸アミルの合成

図2. 酢酸アミルの合成

(上: カルボン酸とアルコールの脱水縮合 / 中: 酸ハロゲン化物とアルコールの縮合 / 下: 酸無水物とアルコールの縮合)

酢酸アミルは、カルボン酸 (酢酸) とアルコール (1- ペンタノール (n‐アミルアルコール) ) 、及び濃硫酸などの酸触媒を用いた通常のエステル合成反応によって合成することが可能です。

また、他のエステル一般と同様、酸無水物や酸ハロゲン化物を用いた合成も可能と考えられます。

2. 酢酸アミルの化学的性質

酢酸アミルの化学反応

図3. 酢酸アミルの化学反応の例 (上: 加水分解 / 下: 還元)

酢酸アミルは、酸または塩基存在下で加水分解を受け、酢酸と1-ペンタノールへ分解されます。また、還元剤である水素化アルミニウムリチウム (LiAlH4) や水素化ホウ素ナトリウム (NaBH4) 、ボラン (BH3) などを用いた反応では、アルコール (エタノールと1-ペンタノール) が生成します。

熱や光には比較的安定です。しかし、硝酸塩、強酸化剤、強塩基、強酸との混合は避けるべきとされます。これらの物質と混触した場合、火災や、爆発の危険を引き起こす可能性があるためです。

引火点は25℃と低く、引火性液体及び蒸気として扱うべき物質です。燃焼によって一酸化炭素二酸化炭素を生じます。 人体に対しては、軽度の皮膚刺激・眼刺激・呼吸器への刺激のおそれがあり、やや有害です。

3. 酢酸アミルの法令による規制情報

酢酸アミルは前述の通り、引火性があり人体に対しても有害な物質です。そのため、各種法令による規制の対象となっています。主なものとして、以下の規制が挙げられます。

  • 労働安全衛生法:「名称等を通知すべき有害物」「名称等を表示すべき有害物」「第2種有機溶剤等」「危険物・引火性の物」
  • 消防法:「第4類引火性液体」「第二石油類非水溶性液体」
  • 船舶安全法:「引火性液体類」
  • 航空法:「引火性液体」

酢酸アミルの種類

市場に供給されている酢酸アミルには、一般的な化学試薬製品や工業用薬品などの種類があります。化学試薬としては、実験室で取り扱いやすい25mL , 500mLなどの容量が主流です。通常、ガラス瓶で扱います。常温で輸送・保管が可能な試薬です。

工業用薬品としては、溶剤類の一種として取引されています。15kg石油缶、180kgドラム缶、1,000Lコンテナなどの大型荷姿で取り扱われることが多いです。工場などに対して納品されています。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/0732.html

酒石酸カリウムナトリウム

酒石酸カリウムナトリウムとは

酒石酸カリウムナトリウムとは、酒石酸ナトリウムカリウムの塩を形成した構造をもつ複塩です。

別名、ロッシェル塩 (英: Rochelle salt) やセニエット塩 (英: Seignette salt) とも呼ばれています。通常の状態では、無色または青白色をした結晶として存在しています。水にはよく溶けますが、アルコールには溶けにくいのが特徴です。

基本的には水和物の状態で使用します。消防法などの国内法規には該当していませんが、水質汚濁の危険性があるため、廃棄の際には注意が必要です。

酒石酸カリウムナトリウムの使用用途

酒石酸カリウムナトリウムは、強い圧電効果と高い誘電率を有する化合物のため、発振器圧電素子として使用されたり、マイクロフォンや受話器などにも使用可能です。工業的に酒石酸カリウムナトリウムは、酒石酸水素カリウムと炭酸ナトリウム水溶液を反応させることによって合成されます。

その他、フェーリング液の主成分にもなっており、EUでは食品添加物として登録されています。また、医薬品や食品工業などにも用いられています。さらに、穏和な還元作用を持っているため、銀の無電解めっきの際に還元剤として利用され、古くは板ガラスから鏡を作るときに使用されていました。

酒石酸カリウムナトリウムの性質

酒石酸カリウムナトリウムのモル質量は282.1、融点は75°C、沸点は220°Cです。酒石酸カリウムナトリウムの結晶は、相対湿度がおよそ84%以上で溶解し、相対湿度がおよそ30%以下になると脱水します。

酒石酸カリウムナトリウムは、2価のカルボン酸である酒石酸とナトリウムおよびカリウムの塩です。通常4分子の結晶水を含んでおり、化学式はKNaC4H4O6·4H2Oで表されます。

酒石酸カリウムナトリウムのその他情報

1. 酒石酸カリウムナトリウムの生成

1モルの酒石酸水素カリウムを含む加熱溶液に、0.5モルの炭酸ナトリウムを添加することで、酒石酸カリウムナトリウムが調製可能です。熱い内に溶液を濾過して、濾液を乾燥することで、固体の酒石酸カリウムナトリウムが晶子 (英: Crystallite) として析出します。

スカイラブ (英: Skylab) において微小重力と対流条件下で、ロッシェル塩の大きい結晶への成長実験が実施されたことがあります。

2. 酒石酸カリウムナトリウムのキレート作用

酒石酸カリウムナトリウムは水への溶解度が高く、水中では電離してキレート作用を有する酒石酸イオンが生成します。そのため弱塩基性キレート剤として、酒石酸カリウムナトリウムを広く使用可能です。

有機合成において酒石酸カリウムナトリウムは、水素化アルミニウムリチウム (LAH) や水素化ジイソブチルアルミニウム (DIBAL-H) といった水素化アルミニウム系試薬を使った反応の後処理に利用されています。酒石酸カリウムナトリウムはキレート作用によって、分液操作時のエマルションや沈殿形成を抑止することが可能です。

さらに工業的にめっき液の成分として、化学分析ではフェーリング反応 (英: Fehling’s reaction) 、ビウレット試験 (英: Biuret test) 、ネスラー反応 (英: Nessler reaction) 、カドミウムの定量などにおいて、試薬の一つとして用いられています。

3. 酒石酸カリウムナトリウムの圧電効果

酒石酸カリウムナトリウムの単結晶は強誘電体として、4,000程度の高い比誘電率を示します。その一方で下限のキュリー温度を持っており、255〜297Kの温度範囲でのみ強誘電性を示さないことも特徴です。

以前はこの特徴を活かして、クリスタルマイクやクリスタルイヤホンなど、盛んに圧電素子として用いられていました。しかし現在では、圧電素子としてチタン酸バリウム (BT) やリン酸二水素カリウム (KDP) のような他の材料が発見されたため、湿気に弱い酒石酸カリウムナトリウムはほとんど使用されていません。

参考文献
http://www.st.rim.or.jp/~shw/MSDS/16476250.pdf

過酸化マグネシウム

過酸化マグネシウムとは

過酸化マグネシウムとは、マグネシウムの過酸化物であり、別名、二酸化マグネシウムとも呼ばれています。

過酸化マグネシウムの無水物を合成するには、いくつか合成の方法があります。1つは、硝酸マグネシウムの溶液とアンモニア溶液中に固体の超酸化カリウムを加える方法です。もう1つは、マグネシウム化合物のエーテル、または、水溶液に過酸化水素とアルカリを加える方法です。

これらから得られた過酸化マグネシウムは、消防法において、第一類危険物 (酸化性固体) に指定されているため。取り扱いには注意が必要です。

過酸化マグネシウムの使用用途

過酸化マグネシウムは、主に、酸化剤、漂白剤、殺菌剤などに使用されています。過酸化マグネシウムは、アルカリ土類金属の過酸化物です。そのため、アルカリ金属の過酸化物ほど、水との反応によって多量の酸素が発生することはなく危険性は低いです。

過酸化物は、漂白剤の中でも酸素系漂白剤に分類されます。
これらの酸素系漂白剤はは、漂白作用だけでなく、殺菌作用も持ち合わせているため、殺菌剤として使用されることもあります。

参考文献
https://www.nite.go.jp/chem/chrip/chrip_search/cmpInfDsp?cid=C005-165-67A&slIdxNm=20830&slScNm=RJ_01_040&slScCtNm=1&slScRgNm=722&bcPtn=4

過酸化カリウム

過酸化カリウムとは

過酸化カリウムとは、カリウムの過酸化物であり、別名、過酸化カリやペルオキシキカリウムとも呼ばれています。

一般的に合成する際は、−50℃環境下で、液体アンモニア中に溶解した金属カリウムに対し、溶液が濃青色から無色になるまで酸素を吹き込んで反応させます。
オレンジ色の粉末状態で存在しており、加熱によって酸素が発生することが特徴です。

消防法においては、危険物第1類〈酸化性固体)に指定されているので、取り扱いには注意が必要です。

過酸化カリウムの使用用途

過酸化カリウムは、主に、漂白剤や酸化剤、酸素発生のガスマスクなどに使用されています。

漂白剤の中でも、酸素系の漂白剤に分類されています。
酸素系の漂白剤には、他にも過炭酸ナトリウムや過酸化水素などがあり、染料を脱色しないことから比較的幅広いものに使用できることが特徴です。

しかし、過酸化カリウムは、アルカリ金属の過酸化物であり、水との発熱反応により多量の酸素が発生することが知られているため、爆発などが起きやすく注意が必要です。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/1394.html

過硫酸アンモニウム

過硫酸アンモニウムとは

過硫酸アンモニウムとは、アンモニアの過硫酸塩で、別名ペルオキソ二硫酸アンモニウムとも呼ばれる物質です。

分子式(NH₄)₂S₂O₈で表され、分子量は228.20g/molです。化学物質固有の番号であるCAS番号は、7727-54-0が割り当てられています。

過硫酸アンモニウムの製造方法には硫酸アンモニウム利用する方法が挙げられます。具体的には、陽イオン交換膜で隔てられた電解槽の陽極側に硫酸アンモニウム水溶液を供給することで過硫酸アンモニウムを生成する方法です。

この製造方法は連続運転が簡単であるとともに、陰極に追加原料を供給する必要が無いため、高効率で過硫酸アンモニウムを製造することができるという利点があります。

常温常圧では、無色の結晶または白色の粉末として存在しており、弱い不快臭が生じる場合があります。水に対する溶解度は20℃で58.2g/100mlと溶けやすいものの、エタノールジエチルエーテルにはほとんど溶けないという性質をもっています。

過硫酸アンモニウムの使用用途

過硫酸アンモニウムは、主に酸化漂白剤、パイポ除去剤、金属の表面処理剤、小麦粉の改質剤、重合開始剤、プリントエッチング剤など幅広い分野に使用されています。金属の表面処理剤や酸化漂白剤には過硫酸塩類が使用されるため、過硫酸アンモニウムだけでなく、過硫酸カリウム過硫酸ナトリウムも使用されることがあります。

小麦粉の改質剤として使用すると、小麦粉自体を漂白するだけでなく、パンの熟成を促進するなど様々な効果が得られます。過硫酸アンモニウムは、アクリルアミドの化学重合法の促進剤として用いられる場合も多いです。テトラメチルエチレンジアミン (TEMED) と一緒に用いることにより、過硫酸塩から酵素ラジカルが誘発され、そのラジカルがアクリルアミドの重合を開始します。

製造されたアクリルアミドは工業用途において、紙力増強剤や水処理剤、土壌凝固剤、漏水防止剤、化粧品 (シェービングジェルや整髪剤) などに用いられるポリアクリルアミドの原料として使用されます。プリント基板のエッチング剤は金属や金属酸化物を腐食させる薬剤であり、主に金属やガラス、半導体などを対象に自身がもつ腐食性を利用して表面を削る表面加工法として用いられます。

過硫酸アンモニウムの性質

過硫酸アンモニウムは、消防法において第1類酸化性固体、ペルオキソ二硫酸塩類に指定されています。そのため、自身は燃焼しないものの、可燃物と混合すると発火して激しく燃焼するという特徴を持っているため、取り扱いには注意が必要です。また、水溶液自体は酸性であり、水生生物においても有害であることが明らかとなっています。

過硫酸アンモニウムは強力な酸化剤であり、溶液中で鉄、アルミニウム粉末、銀塩と激しく反応します。加水分解した際には、酸性亜硫酸アンモニウムと過酸化水素を生成し、強い酸化作用を示します。加熱すると、有毒で腐食性のヒューム(アンモニア、窒素酸化物、硫黄酸化物など) を生じます。

過硫酸アンモニウムのその他情報

1. 過硫酸アンモニウムの法規情報

  • 消防法: 第一類酸化性固体 ペルオキソ二硫酸塩類に該当
  • 毒物及び劇物取締法: 非該当
  • 化学物質排出管理促進法 (PRTR法) : 第1種指定化学物質に該当
  • 船舶安全法及び航空法: 酸化性物質類・酸化性物質に指定

2. 取扱い及び保管上の注意

  • 可燃物や還元剤との接触を避ける。
  • 周辺で高温物を使用しない。
  • 保管場所は壁、柱、床を耐火構造とし、はりは不燃材料で作る。
  • 保管場所は屋根を不燃材料で作るとともに、金属板その他軽量な不燃材料でふいて、天井を設けない。
  • 保管場所には貯蔵や取扱いに必要な採光、照明及び換気の設備を設ける。
  • 直射日光や湿気を避けて保存する。
  • ポリエチレン容器の保存を推奨する。
  • 金属容器で保存した際は、過硫酸アンモニウムが水分の存在下で加水分解により生じた硫酸によって、腐食する要因となるため注意する。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/0947.html
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0101-2050JGHEJP.pdf
https://jglobal.jst.go.jp/detail?JGLOBAL_ID=202003007649507846

https://labchem-wako.fujifilm.com/jp/product/detail/W01W0101-2050.html

過硫酸ナトリウム

過硫酸ナトリウムとは

過硫酸ナトリウムとは、ルオキソ二硫酸ナトリウムや過硫酸ソーダとも呼ばれていて、分子式がNa2S2O8の物質です。

過硫酸には、ペルオキソ一硫酸 (分子式: H2SO5) ペルオキソ二硫酸 (分子式: H2S2O8) の2つがありますが、一般に過硫酸ナトリウムという場合、ペルオキソ二硫酸の2価のナトリウム塩を指します。化学物質固有の番号であるCAS番号は、7775-27-1が割り当てられています。なお、分子量は238.1g/molです。

常温常圧では、白色の結晶状態で存在しており、わずかな刺激臭があります。水に対する溶解度は20℃で556 g/Lと溶けやすいものの、エタノールには溶けにくく、エタノール中では易分解性です。水溶液は中性ないし、弱酸性を呈します。沸点や融点は観測されず、加熱した場合約180℃以上で分解します。

過硫酸ナトリウムの使用用途

過硫酸ナトリウムは、その強い酸化剤としての用途で工業的に用いられます。具体的には、合成樹脂・合成繊維の重合開始剤や、プリント基板のエッチング剤、金属の表面処理剤などです。

中でも、合成樹脂の重合開始剤としての使用が多く、ラジカル重合反応における開始剤として使用されています。ラジカル重合反応とは、高分子化学における重合反応の形式の一種であり、ラジカルを反応中心としてポリマー鎖が伸張していく反応です。

過硫酸ナトリウムの分解により硫酸ラジカルが生じ、そのラジカルによる水素あるいは電子の引き抜きにより連鎖重合反応が進みます。これによって、ポリエチレンを始めとするポリオレフィンポリスチレンなどの高分子化合物が得られます。

近年、注目されている用途としては、有害物質の酸化分解への利用が挙げられます。例えば、排水中に含まれる富栄養化の原因となるアンモニア体窒素の分解や、土壌汚染物質であるハロゲン化炭化水素類の分解です。過硫酸ナトリウムの強い酸化力と、分解後の生成物が自然環境中に多量に存在する硫酸イオンである点がこの用途に適しています。

過硫酸ナトリウムの性質

過硫酸ナトリウムを始めとするペルオキソ硫酸塩は、不安定で自身が還元し、硫酸オキシドを発生させやすいことから、酸化剤としての性質を持ちます。熱、温度に対して不安定であり、加熱すると分解し、有毒で腐食性のヒューム (硫黄酸化物など) を生じます。

また、強力な可燃性物質や還元性物質、金属粉末、強塩基との強い反応性を持つ物質です。 アルコールと接触又は混合すると、分解して酸素が分離し、猛毒の二酸化硫黄が生じます。この分解時に酸素が生じる性質から、自身に可燃性はありませんが、他の物質の燃焼を助ける働きがあります。

よって、消防法危険物に指定されており、第1類酸化性固体、ペルオキソ二硫酸塩類です。

過硫酸ナトリウムのその他情報

過硫酸ナトリウムの安全性

人体、動物に対する安全性の観点では、経口毒性はGHS区分の区分4と高くありませんが、その酸化力から呼吸器や皮膚への刺激性が高いです。また、分解物やそれを含むミストは毒性が高い可能性があるため、使用時には呼吸器の保護具を含む適切な保護具を地着用した上で、想定外の分解を起こさぬよう保管環境を整え、混触を避けて扱わねばなりません。

よって、労働者の安全を守る労働安全衛生法では、容器へのラベル表示やSDSの交付が義務付けられています。また、環境への影響を把握するために化学物質排出把握管理促進法において、事業所から環境への移動量を把握、届出するPRTR制度の対象物質です。

火災、爆発等の予防の観点では、可燃物との接触によってその燃焼を助ける働きがある酸化性固体です。また、金属や還元性物質との反応は激しいです。そのため、これらとの混触は避けなければなりません。

特にアルコールとの接触時や燃焼による分解物には、有害な硫黄酸化物が含まれる可能性があります。このことから、消防法危険物第一類に指定されており、管理や移動に際しては消防法や航空法、船舶安全法などの関連法令に従う必要があります。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/7775-27-1.html