酸化インジウム

酸化インジウムとは

酸化インジウム (英: indium oxide) は、インジウムと酸素からなる金属酸化物です。

化学式はIn2O3、CAS番号は1312-43-2で、白色から淡黄色の粉末状固体です。 高い融点を持ち、熱的、化学的に安定で、優れた光学特性と半導体特性を示すことから、ディスプレイやタッチパネル用透明電極の原料として活用されています。さらに、光学コーティングや半導体デバイスなど、さまざまな分野において、先端技術の発展を支える重要な化合物の一つです。

酸化インジウムの使用用途

酸化インジウムの最も重要な用途は、ITO (英:Indium Tin Oxide、インジウム・スズ酸化物) の主原料としての利用です。ITOは、酸化インジウム (In2O3) に酸化スズ (SnO2) を適切な割合で混合して製造される透明導電膜材料であり、以下の用途で広く使用されています。

  • 液晶ディスプレイ (LCD) 、有機EL (OLED) 、プラズマディスプレイなどの透明電極
  • スマートフォンやタブレットなどのタッチパネル
  • 自動車、産業機械、家電の操作パネルのタッチセンサーおよび静電容量センサー
  • 太陽電池の透明電極
  • 航空機のフロントガラスの電磁波シールドや防曇コーティング
  • 帯電防止コーティング材

一方、酸化インジウムとしても以下の用途で活用されています。

  • 特定の化学反応を促進する触媒材料
  • 光学レンズや特殊フィルム用光学薄膜材料
  • 半導体や電子デバイスの抵抗素子
  • n型半導体材料
  • ガスセンサー材料
  • ホットミラーなどの赤外線反射薄膜材料

酸化インジウムの性質

1. 物理的性質

酸化インジウムはモル質量277.63 g/mol、密度7.179 g/cm³の無臭の固体です。融点は約1,910 ℃と高く、優れた熱安定性を示します。可視光領域における高い透過率と、約3 eVのバンドギャップを持つn型半導体性を利用して、透明電極材料として使用されています。

2. 化学的性質

水に不溶である一方、塩酸や硝酸などの酸には溶解してインジウム塩を形成します。両性酸化物であり、酸および塩基の両方と反応可能です。大気中などの酸化雰囲気下では安定ですが、還元性雰囲気下では還元されやすく、金属インジウムや低酸化状態のインジウム酸化物へ変化する可能性があります。

酸化インジウムの構造

酸化インジウムの結晶構造には、ビックスバイト構造 (立方晶系) とコランダム型構造 (三方晶系) の二種類があります。両構造ともに約3 eVのバンドギャップを持ち、酸化インジウムの半導体特性に寄与しています。

ビックスバイト構造は、最も一般的な構造であり、蛍石構造に類似しています。この構造では、六配位と八配位の二種類のインジウムサイトが存在し、酸化インジウムの高い透明性と導電性を支える要因の一つです。コランダム型構造は、高温高圧環境など、特定の条件下で形成されます。

酸化インジウムのその他情報

1. 法規制および安全性

酸化インジウムは、労働安全衛生法において「名称等を表示すべき危険物および有害物」「名称等を通知すべき危険物および有害物」に指定されています。その他、PRTR法で「第1種指定化学物質・第1種No. 44」、大気汚染防止法で「有害大気汚染物質」にも指定されています。

GHS区分では、皮膚および眼への刺激性はGHS区分2、呼吸器に対する刺激性はGHS区分3、発がん性はGHS区分1Bです。特定標的臓器毒性に関しては、反復ばく露による影響がGHS区分1に分類されています。

2. 取扱い上の注意点

酸化インジウム粉塵の吸入によって気道刺激や健康被害を引き起こす可能性があります。特に、長期間の暴露により肺への影響が懸念されるため、取り扱う際は、以下の点に留意が必要です。

  • 保護具の着用:手袋、保護眼鏡、粉塵防止マスクを使用
  • 換気の確保:密閉空間での使用を避け、適切な換気を行う
  • 保管方法:密閉容器に乾燥した状態で保管し、湿気を避ける

参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0109-0298JGHEJP.pdf
https://www.chem-info.nite.go.jp/chem/chrip/chrip_search/cmpInfDsp?cid=C005-510-02A

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