酢酸タリウムとは
酢酸タリウム (英: Thallium acetate) とは、無味無臭で白色の結晶性粉末です。
IUPAC名は、酢酸タリウム(I) (英: Thallium(I) Acetate) 、また英語の別名としてThallium monoacetateやThallous acetateとも呼ばれます。化学式TlC2H3O2で表され、分子量263.43の金属塩の1種です。CAS登録番号は563-68-8です。
なお、酢酸タリウムは、毒物及び劇物取締法により劇物に指定されています。
酢酸タリウムの使用用途
酢酸タリウムは、19世紀から20世紀初頭にかけて、皮膚科における脱毛剤や化粧用脱毛クリームとして使用されていました。現在ではその毒性から、劇物として厳しく管理されています。
現在の使用用途は、殺鼠剤 (失効農薬) 、殺虫剤、農薬全般 (中間体を含む) 、花火の染料、光学材料、電子材料などです。微生物学において、菌を選択的に培養するための添加剤としても用いられます。
酢酸タリウムは古くは殺鼠剤として使われていました。ネズミは鋭い嗅覚を持ちますが、酢酸タリウムは無味無臭、かつ毒性があるためよく使用されていました。現在では、クマリン系など安全な材質の殺鼠剤が出回っています。
殺鼠剤の誤飲などの事故により、タリウムを摂取してしまった場合の治療薬としては、プルシアンブルー (ヘキサシアノ鉄 (II) 酸鉄 (III) ) が用いられます。
酢酸タリウムの性質
融点は130°Cで、常温で固体です。潮解性を持ちます。水やエタノール、クロロホルムに溶け、アセトンには不溶です。
タリウムは、急性および慢性毒物として知られる毒性の強い元素の1つです。暴露の影響は累積的であり、症状は12〜24時間遅れて発現することもあります。吸入、摂取または皮膚から吸収された場合、致命的となる可能性があります。
摂取による人間の致死量は体重1 kgあたり、約8mgです。急性毒性 (経口) や生殖毒性の有害性をもち、飲み込むと生命に危険、生殖能や胎児への悪影響のおそれの疑い、毛 (脱毛症) の障害のおそれ、神経系の障害、長期又は反復ばく露による神経系の障害、水生生物に有害などさまざまな危険性を持ちます。
酢酸タリウムの種類
酸化状態により酢酸タリウム (I) と酢酸タリウム (II) (英: Thallium(III) triacetate) の2種類が存在します。
酢酸タリウム (II) は、化学式TlC6H9O6で表され、分子量381.52、CAS登録番号は2570-63-0です。
酢酸タリウムのその他情報
1. 酢酸タリウムの製造法
水酸化タリウムまたは炭酸タリウムと酢酸から合成します。アルコール中で、溶媒を蒸発させ再結晶することで精製できます。
2. 取り扱い及び保管上の注意
取り扱う場合
強酸化剤や酸類との接触を避けます。局所排気装置であるドラフトチャンバー内で使用することが重要です。また、使用の際は、個人用保護具を着用します。
火災の場合
酢酸タリウムは不燃性で、それ自体が燃えることはありません。ただし、熱分解で腐食性や毒性の蒸気またはガスを発生するおそれがあります。
消火には水噴霧や泡消火剤、粉末消火剤、炭酸ガス、乾燥砂などを使用します。棒状放水は行わないでください。
皮膚に付着した場合
腐食性や刺激性があります。皮膚に付着しないよう注意が必要です。使用時は必ず白衣や作業着などの保護衣や保護手袋を着用します。
保護衣の袖は決して捲らず、皮膚が暴露しないようにする必要があります。万が一、皮膚に付着した場合は、石けんと大量の水で洗い流します。衣類に付着した場合は、汚染された衣類をすべて脱いで隔離します。ただちに、医師の診療を受けることが重要です。
眼に入った場合
眼に対し強い刺激性を持ちます。重篤な損傷を起こす可能性があるので、使用時は必ず保護メガネまたはゴーグルを着用が必要です。
万が一眼に入った場合は、水で数分間注意深く洗います。コンタクトを着用している場合で簡単に外せるときは外し、しっかり洗浄します。必ず医師の診察を受けることが重要です。
保管する場合
保管する際は、ガラス製容器に入れて密閉します。直射日光を避け、換気がよく、なるべく涼しい場所に保管します。また、保管庫は必ず施錠することが重要です。
参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/563-68-8.html
https://pubchem.ncbi.nlm.nih.gov/compound/11247#section=Odor