酒石酸カリウムナトリウムとは
酒石酸カリウムナトリウムとは、酒石酸にナトリウムとカリウムの塩を形成した構造をもつ複塩です。
別名、ロッシェル塩 (英: Rochelle salt) やセニエット塩 (英: Seignette salt) とも呼ばれています。通常の状態では、無色または青白色をした結晶として存在しています。水にはよく溶けますが、アルコールには溶けにくいのが特徴です。
基本的には水和物の状態で使用します。消防法などの国内法規には該当していませんが、水質汚濁の危険性があるため、廃棄の際には注意が必要です。
酒石酸カリウムナトリウムの使用用途
酒石酸カリウムナトリウムは、強い圧電効果と高い誘電率を有する化合物のため、発振器や圧電素子として使用されたり、マイクロフォンや受話器などにも使用可能です。工業的に酒石酸カリウムナトリウムは、酒石酸水素カリウムと炭酸ナトリウム水溶液を反応させることによって合成されます。
その他、フェーリング液の主成分にもなっており、EUでは食品添加物として登録されています。また、医薬品や食品工業などにも用いられています。さらに、穏和な還元作用を持っているため、銀の無電解めっきの際に還元剤として利用され、古くは板ガラスから鏡を作るときに使用されていました。
酒石酸カリウムナトリウムの性質
酒石酸カリウムナトリウムのモル質量は282.1、融点は75°C、沸点は220°Cです。酒石酸カリウムナトリウムの結晶は、相対湿度がおよそ84%以上で溶解し、相対湿度がおよそ30%以下になると脱水します。
酒石酸カリウムナトリウムは、2価のカルボン酸である酒石酸とナトリウムおよびカリウムの塩です。通常4分子の結晶水を含んでおり、化学式はKNaC4H4O6·4H2Oで表されます。
酒石酸カリウムナトリウムのその他情報
1. 酒石酸カリウムナトリウムの生成
1モルの酒石酸水素カリウムを含む加熱溶液に、0.5モルの炭酸ナトリウムを添加することで、酒石酸カリウムナトリウムが調製可能です。熱い内に溶液を濾過して、濾液を乾燥することで、固体の酒石酸カリウムナトリウムが晶子 (英: Crystallite) として析出します。
スカイラブ (英: Skylab) において微小重力と対流条件下で、ロッシェル塩の大きい結晶への成長実験が実施されたことがあります。
2. 酒石酸カリウムナトリウムのキレート作用
酒石酸カリウムナトリウムは水への溶解度が高く、水中では電離してキレート作用を有する酒石酸イオンが生成します。そのため弱塩基性キレート剤として、酒石酸カリウムナトリウムを広く使用可能です。
有機合成において酒石酸カリウムナトリウムは、水素化アルミニウムリチウム (LAH) や水素化ジイソブチルアルミニウム (DIBAL-H) といった水素化アルミニウム系試薬を使った反応の後処理に利用されています。酒石酸カリウムナトリウムはキレート作用によって、分液操作時のエマルションや沈殿形成を抑止することが可能です。
さらに工業的にめっき液の成分として、化学分析ではフェーリング反応 (英: Fehling’s reaction) 、ビウレット試験 (英: Biuret test) 、ネスラー反応 (英: Nessler reaction) 、カドミウムの定量などにおいて、試薬の一つとして用いられています。
3. 酒石酸カリウムナトリウムの圧電効果
酒石酸カリウムナトリウムの単結晶は強誘電体として、4,000程度の高い比誘電率を示します。その一方で下限のキュリー温度を持っており、255〜297Kの温度範囲でのみ強誘電性を示さないことも特徴です。
以前はこの特徴を活かして、クリスタルマイクやクリスタルイヤホンなど、盛んに圧電素子として用いられていました。しかし現在では、圧電素子としてチタン酸バリウム (BT) やリン酸二水素カリウム (KDP) のような他の材料が発見されたため、湿気に弱い酒石酸カリウムナトリウムはほとんど使用されていません。