アセトン

アセトンとは

アセトンとは、最も簡単な構造のケトンで、親水性と疎水性どちらも兼ね揃えている両親媒性の液体です。

ジメチルケトンや2-プロパノンとも呼ばれます。アセトンは消防法の「危険物第4類第一石油類水溶性液体」に該当し、非常に引火しやすい液体です。

労働安全衛生法においても、「名称等を表示・通知すべき危険物及び有害物」に該当しており、取扱い時には適切な保護具の着用が必要となります。

アセトンの使用用途

アセトンはさまざまな有機化合物をよく溶かし、室温においても揮発性が高く乾きやすいため、樹脂やゴムや油脂、塗料、染料、接着剤の他、アセチルセルロース、ニトロセルロース等、各用途の溶媒として使用されています。

そのほか、有機化合物をよく溶かす性質を活用した用途として、実験器具の汚れを落とすことが挙げられます。マニキュアの除光液も使用用途の1つです。また、揮発性が高いため、実験器具を水で洗浄した後に水分を取り除くことを目的に使用されることもあります。

また、アセトンは無水酢酸を合成する原料となる他、メタクリル酸メチルやビスフェノールA、アスコルビン酸 (ビタミンC) 、クロロホルムヨードホルム、スルホナール等の合成原料、アセチレンガスの安定化剤等としても使用可能です。

アセトンの性質

アセトンは分子式がCH3COCH3で、分子量が58.08の無色透明の揮発性の液体です。比重は0.791と軽く、水やエタノール、エーテルには任意の割合で混ざります。また、アセトンはエーテルのような匂いを持ち、麻酔作用があります。

アセトンの引火点は-21℃と、常温でも引火します。融点-93.9℃、沸点56.1℃、発火点465~560℃です。揮発性が高いため、使用時には換気の上、火気に注意する必要があります。

親水性、疎水性を問わず、多くの物質との親和性が高く、良く溶かします。プラスチック、宝石、化学繊維などは表面に付着すると侵されたり、変色したりする可能性があるので、予め保護しておく、付着した場合はすぐに拭き取るなどの注意が必要です。

また、アセトンは高温で熱分解すると、ケテンとメタンが生成します。

アセトンのその他情報

アセトンの製造方法

アセトンはプロピレンを部分酸化するヘキスト‐ワッカー法、またはベンゼンとプロピレンを原料としてフェノールとアセトンを同時に合成するクメン法により、工業生産されています。

1. ヘキスト-ワッカー法
プロピレンと酸素供給源となる空気、塩化パラジウム-塩化銅系触媒溶液を反応塔で混合し反応させます。プロピレンは直接酸化されてアセトンを生じます。

生成したアセトンは分離塔で触媒溶液と分離されて、精留塔で精製・脱水されて製品になります。触媒溶液は反応塔での反応の際に還元されますが、酸化塔に回されてそこで空気と反応させ再度酸化されて、反応塔に戻されます。

反応塔でのプロピレンの酸化反応と触媒の還元反応
CH3CH = CH2 + PdCl2 + H2O → CH3COCH3 + Pd + 2HCl
Pd + 2CuCl2 → PdCl2 + 2CuCl

触媒のリサイクル
2CuCl + 1/2O2 + 2HCl → 2CuCl2 + H2O

2.クメン法
プロピレンをゼオライトまたはリン酸を触媒としてベンゼンと反応させてクメン (イソプロピルベンゼン) を生成させます。クメンを酸化すると (クメンハイドロパーオキサイド) が得られ、これを分解するとアセトンとフェノールが得られます。

クメンの生成
CH3CH = CH2 + C6H6 → C6H5-CH(CH3)2

クメンの酸化
C6H5-CH(CH3)2 + O2 → C6H5-C(CH3)2COOH

クメンハイドロパーオキサイドの分解
C6H5-C(CH3)2COOH → C6H5OH + CH3COCH3

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/0635.html

フォトカプラ

フォトカプラとは

光信号を媒体に、回路と回路を結びつけるフォトカプラは耐久面や絶縁度と言った汎用性・信頼性の高さから、音響、医療、工業など、高精度が不可欠な分野で活躍している素子です。

とは言えフォトカプラは、いつどのような場面で使われるのか、どういった原理で動作するのか、あるいは実際にご自身の電子工作でフォトカプラを用いる際、どのように選んで使えばよいかイマイチわからないという方もいらっしゃると思います。

「フォト」が付いていることから、「フォトトランジスタ」「フォトダイオード」などと混同してしまう、といった声も耳にします。

フォトカプラーの使用用途

フォトカプラは主にスイッチング動作で用いられます。スイッチを入れることで回路が通電されることとなりますが、前述の特性、特に絶縁性や長寿命という観点から、高い信頼性が求められるシーンにうってつけです。例えば医療用電子機器やノイズが大敵の音響機器・通信機器などがあります。

また、モーターの駆動システムでも利用されています。なぜモーターかと言うと、駆動の際にインバータで回転速度を制御しているのですが、高出力なためノイズが発生します。このノイズはモーター自体の誤作動のみならず、大地を流れて周辺機器に影響を及ぼす場合があります。

とりわけ配線の長い機器類はこの高出力ノイズを拾いやすいため、工場などで発生すると大きな損失となったり、時には重大な事故を引き起こしたりしてしまいます。絶縁性の高いフォトカプラをスイッチングに使用することで他回路・機器への影響を最小限に抑えることが可能となります。

フォトカプラーの原理

フォトカプラは光を介して信号伝達を行うため、入力側と出力側の絶縁性を高めることが大きな特徴です。

絶縁性が高いということは、ノイズの影響を受けづらいことに加え、隣り合う回路間で予期せぬ電流が流れ込むことを防ぎ、安全面で非常に有効な作用を発揮します。また、構造自体がシンプルなため比較的リーズナブルでもあります。

長い歴史を持つため各メーカーからラインナップが豊富なこともフォトカプラの特性ならではのメリットとなります。物理的な接点がないので、パーツ同士の摩耗が少なく、比較的長寿命なところも嬉しいところです。

一方でLEDが経時や温度変化によって劣化してしまい、発光効率が変動しやすいという特性もあります。特に素子のプラスティックなどが曇ってしまうと、上手に発光することができません。

とは言えスイッチングで考えた場合、機械的接触を持つ有接点に比べれば長寿命と言えると思います。また、フォトトランジスタはフォトダイオードなどと比べると速度が遅いことも多く、高速通信などでは用いられません。

しかしながらこれも、出力側に増幅回路を設けて高速化を行った素子もあること、全ての電子回路に高速化が必要なわけではないことから、一概にデメリットとは言えません。

酸化チタン

酸化チタンとは

酸化チタンとは、酸化鉱物の一種であるチタン鉄鉱を細かく粉砕して得られる不溶性のチタン酸化物です。

化学的に極めて安定性が高く、優れた白色度や着色力を有するため、白色顔料として使用されることが多くあります。酸化チタンには酸化数によって、3種類の酸化物が存在します。

その中で二酸化チタン (英: titanium dioxide) が最も安定しており、多方面で幅広く利用可能です。二酸化チタンは酸化チタン (英: titanium oxide) やチタニア (英: titania)とも呼ばれます。

酸化チタンの使用用途

酸化チタンは、優れた白色度や隠蔽力、着色力、化学的に極めて高い安定性などの特色を活かし、白色顔料として、塗料や絵具、釉薬、印刷インキ、化合繊等の用途で幅広く使用されています。その他、酸化チタンの光触媒作用を利用して、工業的に難分解性の物質を分解しています。

酸化チタンは、安全な着色料としての用途や、紫外線防御作用の目的から、日焼け止め製品や化粧品、洗顔料・洗顔石鹸、ネイル製品等にも使用されています。 

酸化チタンの性質

酸化チタンは、熱濃硫酸、フッ化水素酸、溶融アルカリ塩などに溶解しますが、硝酸などの酸には不溶です。アルカリ、水、有機溶剤にも溶けません。

酸化チタンの屈折率は、ダイヤモンドよりも高いです。光触媒作用を有しており、光を受けると表面で強力な酸化力が生じます。

酸化チタンの構造

酸化チタン (IV) には、アナターゼ型、ルチル型、ブルッカイト型の結晶構造が存在します。アナターゼ型とルチル型は正方晶で、ブルッカイト型は斜方晶です。

アナターゼ型を900℃以上に、ブルッカイト型を650℃以上に熱すると、ルチル型に転移します。最安定構造はルチル型です。そのため、ルチル型に一度転移すると、低温に戻しても構造を維持します。

工業用に用いられている結晶構造は、ルチル型とアナターゼ型です。屈折率などの性質や用途が異なります。天然で酸化チタン (IV) は、金紅石、鋭錐石、板チタン石の主成分として産出します。金紅石と鋭錐石は正方晶系で、板チタン石は斜方晶系の結晶構造です。

酸化チタンのその他情報

1. 酸化チタンの製造

原料としてルチル鉱石やイルメナイト鉱石 (FeTiO3) が使われます。工業的生産のための主な方法は、塩素法 (英: chlorine method) と硫酸法 (英: sulfuric acid method) です。

塩素法は気相法 (英: gas phase method) とも呼ばれています。まず、ルチル鉱石をコークスや塩素と反応させて、ガス状の四塩化チタンにします。その後冷却して液状にし、高温で酸素と反応させて、塩素ガスを分離することで酸化チタンを生成可能です。

硫酸法は液相法 (英: liquid‐phase method) とも呼ばれます。イルメナイト鉱石を濃硫酸に溶かして、不純物を硫酸鉄として分離し、オキシ硫酸チタンにします。加水分解によってオキシ水酸化チタンが沈殿し、洗浄、乾燥、焼成により酸化チタンを得ることが可能です。

2. 酸化チタンの水素による還元

600℃以上で酸化チタン (IV) は、水素ガスによって部分的に還元されて、青色のチタン (III) が混じった酸化物を生成します。ただし、酸素に触れると、速やかに酸化チタン (IV) に戻ります。

酸化チタン (IV) に担持された貴金属触媒を高温で還元すると、SMSI (英: Strong Metal Support Interaction) が発生しやすいです。SMSIとは、酸化物担体に担持した金属ナノ粒子が反応ガスに触れた際に、触媒の活性が大きく変化する現象のことです。

900℃以上で水素還元した場合には、濃青色で不定比組成のTiOx (x=1.85〜1.94) を生成します。この組成は常温常圧で酸素に触れた際にも安定しています。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/13463-67-7b.html
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/13463-67-7.html

酢酸

酢酸とは

酢酸の基本情報

図1. 酢酸の基本情報

酢酸とは、酢の主成分として知られる有機化合物で、カルボン酸の一種です。

酢酸は別名、エタン酸とも呼ばれています。代表的な弱酸で、強い酸味と刺激臭がある無色透明の液体です。酢酸は、化学合成とバクテリアによる発酵 (酢酸発酵) の両方によって生成されます。

化学合成による生成の場合は、メタノールのカルボニル化によって作られることが多いです。また、酢酸は木材の乾留によって生成することもできます。

酢酸は染色や合成酢、写真の定着液等に使われています。酢酸と水との混合液は腐食性が高いため、取り扱いには注意が必要です。

酢酸の使用用途

酢酸の主な用途として、化学物質を合成するための原料が挙げられます。具体的には、酢酸ビニル無水酢酸アセトン、酢酸エステル、医薬品等の原料として広く用いることが可能です。

例えば、酢酸ビニルは合成樹脂の原料として、酢酸エステルは塗料の原料等として用いられています。無水酢酸は強力なアセチル化試剤であり、アセチルセルロースの製造等に用いられています。

酢酸は古くから、食酢やお漬物、ソース等の食品に、調味料や酸味料として使用可能です。また、香料の原料にも使用される等、用途は非常に幅広いです。

酢酸の性質

酢酸の融点は16.7°C、沸点は118°Cです。酢酸は水、エタノール、酢酸エチル、アセトニトリル、クロロホルム、エーテル、ベンゼンなどと任意の割合で混和します。オクタンのような長鎖炭化水素には溶けにくいです。二硫化炭素にも不溶ですが、無機塩や糖などの極性化合物は溶解します。

高純度の酢酸は低温で結晶化するため、氷酢酸と呼ばれています。2分子の酢酸が脱水縮合すると、別の化合物の無水酢酸 (英: acetic anhydride) となります。

酢酸の構造

酢酸の二量体の構造

図2. 酢酸の二量体の構造

酢酸の示性式はCH3COOH、モル質量は60.05です。酢酸を構成している炭素原子と酸素原子は、同一平面上に位置しています。結合角はC−C−OHとC−C=Oが119°、O=C−OHが122°です。結合距離はC−Cが152pm、C−OHが131pm、C=Oが125pmです。

水素結合によって、酢酸2分子が結合した環状二量体を形成します。気体状態においては電子回折を用いて、固体状態においてはX線結晶構造解析を使用して、構造を確認することが可能です。

純粋な液体状態では、二量体になっているか、直鎖状や環状の多量体になっており、おそらく単量体はほとんど存在していません。ベンゼンや四塩化炭素のような非プロトン性の希薄な溶媒中では、二量体を形成します。その一方で、水のようなプロトン性の溶媒中の場合には、単量体として存在します。酢酸の沸点が比較的高い理由は、二量体を形成しているためです。

酢酸のその他情報

1. 酢酸の反応

酢酸は酸性なので、塩基との中和反応が起こります。例えば、炭酸カリウムと中和によって、酢酸カリウムを生成可能です。

酢酸は一般的なカルボン酸と同様の反応性を示します。具体的には硫酸を触媒として、アルコールとともに加熱することで、酢酸エステルを得ることが可能です。これはフィッシャーエステル合成反応 (英: Fischer esterification) と呼ばれています。フィッシャーエステル合成は可逆反応なので、効率的にエステル生成物を得るためには、過剰に出発物質を用いる必要があります。

さらに、酢酸に日光を当てて塩素と反応させると、酢酸の水素原子と塩素原子が交換されたクロロ酢酸を生成可能です。ラジカルの発生を含んだ機構で進行するため、副生成物としてジクロロ酢酸やトリクロロ酢酸も生じます。

2. 無水酢酸の合成法

無水酢酸の合成

図3. 無水酢酸の合成

酢酸2分子の脱水縮合によって、無水酢酸が生成します。無水酢酸はカルボン酸無水物の一種です。無水酢酸は酢酸セルロース繊維の原料やアスピリンなどの医薬品製造のほか、香料や染料などの合成原料に用いられます。

酒石酸

酒石酸とは

酒石酸は、化学式C4H6O6で表される、ヒドロキシカルボン酸の1種です。

英語名は「Tartaric acid」、分子量は150.1です。ブタンの2位と3位の炭素に結合する水素を1つずつカルボン酸に変換した構造を持つため、2,3-ジヒドロキシコハク酸とも呼ばれます。酒石酸は1分子中に不斉炭素原子を2つ持っていて、3種類の異性体が存在します。

3種類の異性体はそれぞれL-酒石酸、D-酒石酸、メソ酒石酸と呼ばれ、自然界にはL-酒石酸が最も多いです。また、ラセミ体の酒石酸は別名ブドウ酸とも呼ばれています。

融点はL体およびD体が170℃、メソ体が151℃、L体とD体が1対1の割合で混ざったラセミ体が206℃です。また、CAS番号はD体が147-71-7、L体が87-69-4、ラセミ体が133-37-9、立体不定のものが526-83-0です。

酒石酸の性質

酒石酸は常温では無色の固体で、極性のある溶媒に良く溶けます。ラセミ体は水には溶けにくいですが、L体、D体、メソ体はいずれも水によく溶けます。酒石酸は、まずワインを醸造するときに副成する生酒石に含まれる酒石から合成します。

酒石は酒石酸の塩である酒石酸水素カリウムでできているので、まずここに水酸化カルシウムまたは炭酸カルシウムを加えて半量を酒石酸カルシウムとします。次に塩化カルシウムまたは硫酸カルシウムを加えて全量を酒石酸カルシウムにして、酒石酸カルシウムとして取り出します。ここにやや過剰量の希硫酸を加えて、酒石酸を得るというのが酒石酸の合成法です。

別の合成法として、マレイン酸やフマル酸を過酸化水素水で酸化し、生成したエポキシコハク酸を酵素分解 して、L体の酒石酸を合成する方法があります。また、エポキシコハク酸を加水分解して生成するラセミ体の酒石酸を光学分割してL体の酒石酸を得るという方法もありますが、これらの方法は実用化されていません。

酒石酸の使用用途

酒石酸は、食品添加物として利用される場合が多いです。爽やかな酸味を与える酸味料あるいは調味料として、清涼飲料水、ゼリー、ジャム、ソースなどに用いられます。また、酒石酸の塩である酒石酸水素カリウムや酒石酸ナトリウムは、加熱すると分解して二酸化炭素を放出する性質を利用して、膨張剤にも使用される場合があります。

そのほか、pHの調整や収れん作用を目的に、化粧品に配合されることも多いです。クエン酸リンゴ酸と合わせてケミカルピーリング溶剤に入れることで、皮膚の古い角質を除去する効果があると言われています。 また、酒石酸は有機合成における原料や触媒としても用いられています。

酒石酸は天然に多量に存在する不斉点をもつ物質なので、入手しやすい不斉触媒として利用されています。なお、不斉触媒とは、有機合成において特定の光学異性体のみを合成したい場合に使用する触媒のことです。

具体的には、シャープレス酸化という反応にこの触媒が利用されています。この反応は、チタンテトラアルコキシドと酒石酸ジアルキルから合成される錯体を触媒として用いることで、アルケンから特定の立体配置を持つエポキシドを合成する方法です。エポキシドは様々な誘導体を合成することにつながる非常に活性の高い物質なので、エポキシドを合成できるこの反応は非常に有用です。

酒石酸のその他情報

1. 酒石酸の由来

酒石酸という名前は、ワイン製造時に生じる酒石に含まれていることに由来しています。酒石に限らず自然界に広く存在していて、特に葡萄に多く含まれています。わずかな苦味と切れ味の良い酸味を有しています。 

2. 酒石酸と鏡像異性体

1849年にフランスの化学者、生物学者であるルイ・パスツールは酒石酸の塩の結晶には2種類の形があり、それぞれが鏡像に映した関係にあることを発見しました。さらに、彼は2種類の結晶を分離し、性質を調べたところ逆向きに偏光面を同じだけ回転させることが分かりました。そこから、彼は鏡像異性体という概念を発見したのが、化学界に大きく貢献したきっかけです。

窒化ホウ素

窒化ホウ素とは

窒化ホウ素 (英: Boron nitride) とは、難燃性の無色の結晶です。

ホウ素と窒素からなる無機化合物で、化学式はBN、分子量は24.82、CAS登録番号は10043-11-5です。炭素と等電子構造を持つことから、性質面でも共通する部分が多くあります。

窒化ホウ素の構造

窒化ホウ素の主な同素体として、六方晶系のh-BN (α-BN)、立方晶系のc-BN (β-BN)、立方晶系ウルツ鉱型のw-BN (γ-BN) の3種類が存在します。

1. 六方晶系 (h-BN)

六方晶系は最も安定な結晶形であり、h-BN、α-BN、g-BN、およびグラファイト窒化ホウ素とも呼ばれます。六方晶窒化ホウ素 (点群=D6h、空間群=P63/mmc) は、グラファイトに似た層状構造を持っています。各層内では、ホウ素原子と窒素原子は強い共有結合によって結合されていますが、層は弱いファンデルワールス力によって一緒に保持されています。

2. 立方晶系 (c-BN)

立方晶系窒化ホウ素は、ダイヤモンドと同様の結晶構造を持ちます。ダイヤモンドがグラファイトよりも安定性が低いように、立方晶は六方晶よりも安定性が低くなります。立方晶は、ダイヤモンドと同じ閃亜鉛鉱結晶構造 (B原子とN原子が秩序ある) を持ち、β-BNまたはc-BNとも呼ばれます。

3. ウルツ鉱型 (w-BN)

ウルツ鉱型の窒化ホウ素 (w-BN、点群=C6v、空間群=P63mc) は、炭素のまれな六方晶多形であるロンズデーライトと同じ構造を持っています。ウルツ鉱型では、ホウ素原子と窒素原子が6員環状にグループ化され、立方晶ではすべての環は椅子型の配置ですが、w-BNでは層間の環はボート型の配置になります。その硬度は46GPaで、市販のホウ化物よりわずかに硬く、立方晶の窒化ホウ素よりも柔らかいです。

窒化ホウ素の性質

1. 物理的特性

真空中では1,500℃、不活性雰囲気では2,200℃付近まで、問題無く使用できるほど高い耐熱性があります。また、熱膨張率が小さく熱伝導率がよいため、熱衝撃性に優れています。そういった特性から、窒化ホウ素の成形体は、鋼に近い熱伝導率を有する高熱伝導性のセラミックスとして利用されています。

2. その他の特徴

その他の特徴としては、無機・有機薬品に対して極めて安定であり、優れた耐食性を示します。また、優れた絶縁体でもあり、高周波用の絶縁材料としても活用されています。 

窒化ホウ素の使用用途

窒化ホウ素は、熱伝導性や電気絶縁性に優れていることから、放熱樹脂シートや放熱基板用のフィラーとして幅広く使用されます。

耐熱性や耐食性、潤滑・離型性にも優れた材料であるため、各種マトリックスへの添加材としても使用されています。具体的な用途の例として、各種放熱材料の添加材、グリース、オイル添加材、高温潤滑添加材等が挙げられます。また、各種金属・ガラスの耐熱離型材や溶融金属保護コーティング材等としても使用されております。

感触改良や表面処理を目的として、メイクアップ化粧品や日焼け止め製品等にも、窒化ホウ素が使用されることもあります。

窒化ホウ素のその他情報

1. 窒化ホウ素の製法

ホウ砂とアンモニア、または、ホウ酸もしくはホウ酸塩と塩化アンモニウム、シアン化アルカリ金属を加熱することで、窒化ホウ素が生成されます。窒化ホウ素は、結晶の状態では鱗片状で層に沿って滑りやすく、成形体の状態では剥離性があります。

2. 法規情報

窒化ホウ素は毒物及び劇物取締法や消防法で、特に指定されていません。化学物質排出把握管理促進法 (PRTR法) では、第1種指定化学物質 (法第2条第2項、施行令第1条別表第1、第1種管理No. 405) に指定されています。

3. 取扱いおよび保管上の注意

取扱い及び保管上の注意は、下記の通りです。

  • 容器を密栓し、乾燥した冷暗所に保管する。
  • 屋外や換気の良い区域のみで使用する。
  • 強酸化剤との接触は避ける。
  • 使用時は保護手袋、保護眼鏡を着用する。
  • 取扱い後はよく手を洗浄する。
  • 皮膚に付着した場合は、石鹸と水で洗い流す。
  • 眼に入った場合は、水で数分間注意深く洗う。

参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/jp/product/detail/W01W0102-0228.html

硫酸銅

硫酸銅とは

硫酸銅とは、1価の銅からなる硫酸銅 (I) と2価の銅からなる硫酸銅 (II) が存在するの硫酸塩です。

硫酸銅 (I) の化学式はCu2SO4、硫酸銅(II) はCuSO4で表されます。単に硫酸銅と言うときは、硫酸銅 (II) を指すことが多いです。硫酸銅 (I) は無色か灰色の粉末で、水と容易に反応して分解します。

硫酸銅 (II) には、無水和物と五水和物が存在します。無水和物は白色の結晶で、水を吸収して五水和物になりやすいです。五水和物は青色の結晶で、胆礬 (たんぱん) として天然にも存在します。工業的には、黄銅鉱に空気を通じて熱して、生成した硫酸銅を水で抽出するなどの方法で得られます。

硫酸銅の使用用途

硫酸銅には殺菌作用があるため、農薬であるボルドー液に使用されています。ボルドー液とは、硫酸銅と消石灰 (水酸化カルシウム) を混ぜて作られ、主に果樹や野菜の栽培に利用されるものです。硫酸銅水溶液に含まれるCu2+が殺菌力を持ち、消石灰が葉への付着力を高める効果があります。

また、硫酸銅は乳児用のミルクにも使用されます。銅は乳児にとって欠かすことのできない成分です。特に人工乳に依存している乳児の場合は、ミルクから銅を摂取する必要があるため、国の定めた基準値以内の硫酸銅の使用が認められています。

そのほか、銅メッキや触媒、顔料なども用途の1つです。

硫酸銅の性質

無水物は白色の粉末で、水に溶けやすく、吸湿性があります。水分を吸収すると青色の五水和物になるので、水分の検出に利用されます。650℃で酸化銅 (Ⅱ) とSO3に分解します。

五水和物は青色の結晶で、水によく溶け、水100gに対する溶解度は0℃で19.2g 、20℃で26.3gです。 

硫酸銅の構造

硫酸銅五水和物 (CuSO4・5H2O) の結晶には5つの水和水が存在し、そのうち4つはCu2+に対して比較的強く配位しています (これを配位水といいます) 。さらに、少し離れた位置に SO42- があり、Cu2+ に弱く配位結合しています。そして、残りの1つの水和水分子は[Cu(H2O)4]2+ と SO42- とのすきまにあり、水素結合で SO42- と配位水につながっているのが陰イオン水です。

CuSO4・5H2O を加熱すると、結合力の最も弱いインイオン水と配位水1分子が失われて、CuSO4・3H2O となります。このとき、配位水1分子が抜けた場所には SO42- が配位し、結晶の密度が増加します。

さらに加熱を続けると、2つの配位水分子が失われ、CuSO4・H2O となります。このとき、失われた配位水の位置にもSO42- が配位し、結晶の密度が増加します。CuSO4・H2O は、CuSO4・5H2O の構造と比較してH2O と SO42- の配置が入れ替わった構造を持ち、その H2O は Cu2+ と Cu2+ の間をつなぐ役割を果たす架橋配位水となり、加熱により最も離脱しにくいです。

硫酸銅のその他情報

1. 硫酸銅の製造方法

酸化銅 (Ⅱ) や炭酸銅 (Ⅱ) を硫酸に溶かした水溶液を蒸発濃縮させると、五水和物が得られます。工業的には希硫酸に銅の屑を入れ、空気を吹き込みながら加熱して大量に生産されます。

硫酸銅の無水物は、五水和物の加熱脱水で得られます。加熱しすぎると反応がさらに進み酸化銅、二酸化硫黄、酸素に分解してしまうので火加減に十分注意が必要です。

  • 脱水
    CuSO4・5H2O → CuSO4・3H2O → CuSO4・H2O → CuSO4
  • 分解
    CuSO4 → CuSO4 + SO4 , O2

2. 硫酸銅の安全性情報

硫酸銅は極めて有毒であり、吸入や摂取によって強い急性毒性が現れます。ラットの場合、経口摂取による半数致死量 (LD50) は300mg/㎏です。

人間では、まず胃腸炎が発生し、吐き気、嘔吐、吐血などの症状が現れます。さらに、硫酸銅の中毒は溶血性貧血、黄疸、そして腎臓や肝臓の損傷を伴うことが多いです。

硝酸マグネシウム

硝酸マグネシウムとは

硝酸マグネシウムとは、化学式Mg(NO3)2のマグネシウム硝酸塩です。

通常、硝酸マグネシウム6水和物として市販されています。硝酸マグネシウム6水和物は、潮解性のある無色または白色の結晶です。

製造方法は、硝酸酸化マグネシウムを反応させる中和法があります。この中和反応で得られた水溶液を冷却して硝酸マグネシウム6水和物として析出させます。

硝酸マグネシウム6水和物の融点は88.9℃です。そのため、88.9℃以上に加熱すると、塩基性硝酸マグネシウムに変化するので、88.9℃以下で保存・使用します。

硝酸マグネシウムの使用用途

1. 肥料

硝酸マグネシウムは、植物の肥料として用いられています。マグネシウムは、植物が光合成に必要な葉緑素を作るのに重要な構成成分です。そのため、マグネシウムが不足すると、葉緑素が減少し、葉が黄色になるマグネシウム欠乏症が起こります。マグネシウム欠乏を防ぐために硝酸マグネシウムを元肥、追肥として使用します。

水に溶けやすいため、土壌の水分によく溶けそのまま植物に吸収されやすく、即効性があります。その反面、雨が多いと水に溶けて流れてしまうのがデメリットです。

2. 火薬の原料

硝酸マグネシウムは、火薬の原料としても重要な役割を果たします。硝酸マグネシウムは、硝石  (硝酸カリウム) と同様に酸化剤の働きをします。これは、硝酸マグネシウム自体が燃焼時に酸素を放出し、他の燃料を燃やす際に必要な酸素を供給するためです。この性質が、火薬の爆発力や燃焼速度を高めるのに役立ちます。

3. 花火の製造

硝酸マグネシウムは、花火の製造にも広く使用されています。特に、マグネシウムの炎色反応によって発生する白色光は、花火の見栄えを良くするために重要な役割を果たしています。マグネシウムを燃焼させると、高温の火花が飛び散り、空中で酸化されることで非常に明るい白色の光を放出します。

4. その他

その他の使用用途として、濃硝酸の脱水剤、マグネシウム化学物質の原料が挙げられます。

硝酸マグネシウムの性質

硝酸マグネシウム6水和物は、白色の結晶性固体です。水に溶けやすく (0℃: 233g/100g) 、水溶液はアルカリ性です。エタノールやメタノールなどの有機溶媒にも溶けます。希硝酸には水素と二酸化窒素を発生して溶けますが、アルカリ水溶液には溶けません。

水との親和性が高いため、六水和物を加熱しても脱水しないです。代わりに、酸化マグネシウム、酸素、窒素酸化物に分解します。

   4Mg(NO3)2・6H2O + 熱 → 4MgO + 2NO2 + 2N2O + O2 + 6H2O

硝酸マグネシウムのその他情報

1. 硝酸マグネシウムの製造方法

工業的に使用される硝酸マグネシウムは、さまざまな方法で合成されています。硝酸と金属マグネシウムとの反応は一方向であり、MgO との反応は別方向です。水酸化マグネシウムと硝酸アンモニウムも生成物を形成しますが、副生成物としてアンモニアが放出されます。

  • 2HNO3 + Mg → Mg(NO3)2 +H2
  • 2HNO3 + MgO → Mg(NO3)2 +H2O
  • Mg(OH)2 + 2NH4NO3 → Mg(NO3)2 + 2NH3 + 2H2O

2. 硝酸マグネシウムの安全性情報

硝酸マグネシウムは強力な酸化剤のため、可燃性物質や還元性物質との反応によって火災の発生や爆発の危険性があります。硝酸マグネシウムとメチルエステルやエチルエステルの混合物は、硝酸メチルや硫酸エチルの形成により爆発する可能性が高いです。

硝酸マグネシウムを扱う場合は、マスクとコーグル、手袋を必ず着用してください。潮解性があるので、密閉容器に入れたうえで保存します。酸化剤、有機物質と接触すると火災の危険性があるので、可燃物との接触は避けることが大切です。

皮膚についてしまった場合は、流水と石鹸で洗い流します。目に入ってしまった場合は、数分間流水で洗い流してください。吸引してしまった場合や飲み込んでしまった場合は、直ちに医師に連絡する必要があります。

無水酢酸

無水酢酸とは

無水酢酸は、分子式C4H6O3、示性式(CH3CO)2Oで表される有機化合物です。無色の液体で、水と反応して酢酸を作ります。空気中において、水分と反応することで、酢酸の強い刺激臭を呈します。

純酢酸(高純度の酢酸)、氷酢酸(純度98%以上の酢酸)は、水分含有量の少ない酢酸(CH3COOH)であり、無水酢酸とは違う化合物であることに注意が必要です。

最も単離が容易なカルボン酸の無水物で、有機合成の原料として広く用いられています。例えば、アルコール、セルロースなどとエステルをつくります。

無水酢酸の性質

酢酸の沸点が118度であるのに対し、無水酢酸の沸点は139.8度と高く、発生した蒸気は催涙性があり、皮膚に付着すると水ほうや炎症が発生します。そのため、素手で取り扱わないようにし、無水酢酸を熱するときは目を保護することが必要です。

多くの酸無水物と同様に、無水酢酸も加水分解してカルボン酸が生成します。無水酢酸の場合、酢酸が形成され、酢酸は水に完全混和します。
(CH3CO)2O + H2O → 2 CH3COOH

無水酢酸の製法

歴史的には、1852年にフランスの化学者シャルル・フレデリック・ゲルハルトが、酢酸カリウム塩化ベンゾイルで加熱することで、無水酢酸を初めて合成しました。

工業的には、無水酢酸はケテンと酢酸を45~55℃かつ低圧下で反応させて製造します。
H2C=C=O + CH3COOH → (CH3CO)2O

無水酢酸の分子構造

無水酢酸は、酢酸メチルのカルボニル化によっても生成します。
CH3CO2CH3 + CO → (CH3CO)2O

無水酢酸の使用用途

無水酢酸は、有機化合物にアセチル基を導入するアセチル化のための広く用いられる薬品です。以下の反応において、無水酢酸はアセチル基(CH3CO−)の供給源として用いられています。

アルコール類やセルロースのアセチル化

無水酢酸とアルコールを反応させると酢酸エステルが得られます。例えば、エタノールと反応させると、酢酸エチルが得られます。
(CH3CO)2O + CH3CH2OH → CH3CO2CH2CH3 + CH3COOH
セルロースと無水酢酸を反応させることで、アセチルセルロースを得られます。アセチルセルロースは、タバコのフィルター製造、写真やフィルム、合成繊維やプラスチック、各種コーティング材などの用途で使用されています。

芳香族環のアセチル化

酸触媒を用いて反応を促進させ、芳香族環を無水酢酸でアセチル化します。例として、フェロセンからアセチルフェロセンへの変換があります。
(C5H5)2Fe + (CH3CO)2O → (C5H5)Fe(C5H4COCH3) + CH3COOH

その他の酸無水物の調製

ジカルボン酸は、無水酢酸で処理すると無水物に変換されます。

また、無水酢酸を薄めて布や花びらなどを染める染料としても使用されています。この他にも、酢酸ビニルの製造、医薬、香料などでも利用されます。

近年では、LCD用偏光板保護フィルム向けとしての酢酸セルロースや、液晶ポリマー、ウレタン弾性繊維用など新しい分野に用途が拡大しています。

法規制

消防法において、第4類引火性液体、第二石油類非水溶性液体に指定されており、指定数量以上の管理については危険物取扱者免許が必要です。

また、毒物及び劇物取締法において、無水酢酸およびこれを含む製剤は劇物に指定されています。

また、無水酢酸でモルヒネをジアセチル化すると、ヘロインが生成します。このため、平成13年に「特定麻薬向精神薬原料」に指定されている他、多くの国で規制されています。

 

無水マレイン酸

無水マレイン酸とは

無水マレイン酸の概要

図1. 無水マレイン酸の概要

無水マレイン酸はベンゼンやn-ブタンを空気酸化させることで製造される白色結晶状の物質です。無水マレイン酸は食品添加物などに用いられるフマル酸の原料に使われるほか、不飽和ポリエステル樹脂や塗料、インク用の樹脂、樹脂改質剤の原料として用いられています。
無水マレイン酸は酸無水物であり、水によって加水分解を容易に起こし、マレイン酸へ変化します。マレイン酸や幾何異性体のフマル酸はリンゴ酸コハク酸といった有機酸の原料として使われる化合物です。
なお、無水マレイン酸は毒物及び劇物取締法の劇物に該当する物質です。また、皮膚刺激性や腐食性、感作性のほか、呼吸器感作性もあるため、取り扱い時には適切な保護具を着用したうえで皮膚への付着、吸引が無いように適切な取り扱いが求められます。

無水マレイン酸の使用用途

無水マレイン酸は石油化学業界において、ベンゼンやn-ブタンの空気酸化反応で製造されます。この反応では一般的にバナジウム酸化物が使われています。

無水マレイン酸は食品添加物として用いられるフマル酸の原料として使われたり、不飽和ポリエステル樹脂の原料に使われたりします。無水マレイン酸は基本的に他の材料の原料として使われることがほとんどで、使用例としては樹脂の改質剤や塗料やインク用の樹脂、紙表面に塗工する糊剤などの原料が挙げられます。

無水マレイン酸はポリプロピレンなど他の樹脂への修飾剤として用いられることもあり、例えば住宅機材,自動車,船舶,化学装置などの原材料となるガラス繊維強化プラスチック(FRP)に使われています。

無水マレイン酸のその他情報

1. 無水マレイン酸を用いた反応例

無水マレイン酸は分子内で2つのカルボン酸が脱水縮合した構造を有する酸無水物です。一般的に酸無水物は水と反応して加水分解を起こしやすく、無水マレイン酸も水と反応することでマレイン酸を生成します。なお、マレイン酸はシス型の構造ですが、種々の条件下でトランス体であるフマル酸に異性化します。また、160℃で加熱するとマレイン酸が脱水反応を起こし、無水マレイン酸に戻ります。

無水マレイン酸の反応例

図2. 無水マレイン酸の反応例

無水マレイン酸はリンゴ酸やコハク酸などの有機酸の合成原料としても使用されます。リンゴ酸はマレイン酸の炭素-炭素間の二重結合が水と反応して、片方の炭素に水素原子が、もう片方の炭素にヒドロキシル基が結合した化合物です。なおリンゴ酸はマレイン酸、フマル酸のいずれの化合物からも作られますが、工業的にはフマル酸に加圧下で水を作用させてリンゴ酸を製造することが多いです。無水マレイン酸を原料としてリンゴ酸などの有機酸製造までを一貫して行っている化学メーカーもあります。

2. 無水マレイン酸の安全性と法規制

無水マレイン酸は昇華性がある白色結晶であり、刺激臭を発します。固体であるため消防法上の危険物第四類には該当しませんが、引火点102℃の可燃性物質であるため取り扱いには注意が必要です。

また、無水マレイン酸は毒物及び劇物取締法上の劇物に該当するほか、皮膚刺激性、腐食性や呼吸器感作性があることが確認されており、適切な保護具を着用した上での取り扱いが求められます。

なお、無水マレイン酸は労働安全衛生法上のリスクアセスメント対象の物質であるほか、PRTR法の第1種指定化学物質に該当する物質です。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/0203.html
https://www.nite.go.jp/chem/chrip/chrip_search/dt/pdf/CI_02_001/hazard/hyokasyo/No-119.pdf
https://www.jstage.jst.go.jp/article/yukigoseikyokaishi1943/34/7/34_7_505/_pdf