無水酢酸

無水酢酸とは

無水酢酸は、分子式C4H6O3、示性式(CH3CO)2Oで表される有機化合物です。無色の液体で、水と反応して酢酸を作ります。空気中において、水分と反応することで、酢酸の強い刺激臭を呈します。

純酢酸(高純度の酢酸)、氷酢酸(純度98%以上の酢酸)は、水分含有量の少ない酢酸(CH3COOH)であり、無水酢酸とは違う化合物であることに注意が必要です。

最も単離が容易なカルボン酸の無水物で、有機合成の原料として広く用いられています。例えば、アルコール、セルロースなどとエステルをつくります。

無水酢酸の性質

酢酸の沸点が118度であるのに対し、無水酢酸の沸点は139.8度と高く、発生した蒸気は催涙性があり、皮膚に付着すると水ほうや炎症が発生します。そのため、素手で取り扱わないようにし、無水酢酸を熱するときは目を保護することが必要です。

多くの酸無水物と同様に、無水酢酸も加水分解してカルボン酸が生成します。無水酢酸の場合、酢酸が形成され、酢酸は水に完全混和します。
(CH3CO)2O + H2O → 2 CH3COOH

無水酢酸の製法

歴史的には、1852年にフランスの化学者シャルル・フレデリック・ゲルハルトが、酢酸カリウム塩化ベンゾイルで加熱することで、無水酢酸を初めて合成しました。

工業的には、無水酢酸はケテンと酢酸を45~55℃かつ低圧下で反応させて製造します。
H2C=C=O + CH3COOH → (CH3CO)2O

無水酢酸の分子構造

無水酢酸は、酢酸メチルのカルボニル化によっても生成します。
CH3CO2CH3 + CO → (CH3CO)2O

無水酢酸の使用用途

無水酢酸は、有機化合物にアセチル基を導入するアセチル化のための広く用いられる薬品です。以下の反応において、無水酢酸はアセチル基(CH3CO−)の供給源として用いられています。

アルコール類やセルロースのアセチル化

無水酢酸とアルコールを反応させると酢酸エステルが得られます。例えば、エタノールと反応させると、酢酸エチルが得られます。
(CH3CO)2O + CH3CH2OH → CH3CO2CH2CH3 + CH3COOH
セルロースと無水酢酸を反応させることで、アセチルセルロースを得られます。アセチルセルロースは、タバコのフィルター製造、写真やフィルム、合成繊維やプラスチック、各種コーティング材などの用途で使用されています。

芳香族環のアセチル化

酸触媒を用いて反応を促進させ、芳香族環を無水酢酸でアセチル化します。例として、フェロセンからアセチルフェロセンへの変換があります。
(C5H5)2Fe + (CH3CO)2O → (C5H5)Fe(C5H4COCH3) + CH3COOH

その他の酸無水物の調製

ジカルボン酸は、無水酢酸で処理すると無水物に変換されます。

また、無水酢酸を薄めて布や花びらなどを染める染料としても使用されています。この他にも、酢酸ビニルの製造、医薬、香料などでも利用されます。

近年では、LCD用偏光板保護フィルム向けとしての酢酸セルロースや、液晶ポリマー、ウレタン弾性繊維用など新しい分野に用途が拡大しています。

法規制

消防法において、第4類引火性液体、第二石油類非水溶性液体に指定されており、指定数量以上の管理については危険物取扱者免許が必要です。

また、毒物及び劇物取締法において、無水酢酸およびこれを含む製剤は劇物に指定されています。

また、無水酢酸でモルヒネをジアセチル化すると、ヘロインが生成します。このため、平成13年に「特定麻薬向精神薬原料」に指定されている他、多くの国で規制されています。

 

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