無水マレイン酸

無水マレイン酸とは

無水マレイン酸の概要

図1. 無水マレイン酸の概要

無水マレイン酸はベンゼンやn-ブタンを空気酸化させることで製造される白色結晶状の物質です。無水マレイン酸は食品添加物などに用いられるフマル酸の原料に使われるほか、不飽和ポリエステル樹脂や塗料、インク用の樹脂、樹脂改質剤の原料として用いられています。
無水マレイン酸は酸無水物であり、水によって加水分解を容易に起こし、マレイン酸へ変化します。マレイン酸や幾何異性体のフマル酸はリンゴ酸コハク酸といった有機酸の原料として使われる化合物です。
なお、無水マレイン酸は毒物及び劇物取締法の劇物に該当する物質です。また、皮膚刺激性や腐食性、感作性のほか、呼吸器感作性もあるため、取り扱い時には適切な保護具を着用したうえで皮膚への付着、吸引が無いように適切な取り扱いが求められます。

無水マレイン酸の使用用途

無水マレイン酸は石油化学業界において、ベンゼンやn-ブタンの空気酸化反応で製造されます。この反応では一般的にバナジウム酸化物が使われています。

無水マレイン酸は食品添加物として用いられるフマル酸の原料として使われたり、不飽和ポリエステル樹脂の原料に使われたりします。無水マレイン酸は基本的に他の材料の原料として使われることがほとんどで、使用例としては樹脂の改質剤や塗料やインク用の樹脂、紙表面に塗工する糊剤などの原料が挙げられます。

無水マレイン酸はポリプロピレンなど他の樹脂への修飾剤として用いられることもあり、例えば住宅機材,自動車,船舶,化学装置などの原材料となるガラス繊維強化プラスチック(FRP)に使われています。

無水マレイン酸のその他情報

1. 無水マレイン酸を用いた反応例

無水マレイン酸は分子内で2つのカルボン酸が脱水縮合した構造を有する酸無水物です。一般的に酸無水物は水と反応して加水分解を起こしやすく、無水マレイン酸も水と反応することでマレイン酸を生成します。なお、マレイン酸はシス型の構造ですが、種々の条件下でトランス体であるフマル酸に異性化します。また、160℃で加熱するとマレイン酸が脱水反応を起こし、無水マレイン酸に戻ります。

無水マレイン酸の反応例

図2. 無水マレイン酸の反応例

無水マレイン酸はリンゴ酸やコハク酸などの有機酸の合成原料としても使用されます。リンゴ酸はマレイン酸の炭素-炭素間の二重結合が水と反応して、片方の炭素に水素原子が、もう片方の炭素にヒドロキシル基が結合した化合物です。なおリンゴ酸はマレイン酸、フマル酸のいずれの化合物からも作られますが、工業的にはフマル酸に加圧下で水を作用させてリンゴ酸を製造することが多いです。無水マレイン酸を原料としてリンゴ酸などの有機酸製造までを一貫して行っている化学メーカーもあります。

2. 無水マレイン酸の安全性と法規制

無水マレイン酸は昇華性がある白色結晶であり、刺激臭を発します。固体であるため消防法上の危険物第四類には該当しませんが、引火点102℃の可燃性物質であるため取り扱いには注意が必要です。

また、無水マレイン酸は毒物及び劇物取締法上の劇物に該当するほか、皮膚刺激性、腐食性や呼吸器感作性があることが確認されており、適切な保護具を着用した上での取り扱いが求められます。

なお、無水マレイン酸は労働安全衛生法上のリスクアセスメント対象の物質であるほか、PRTR法の第1種指定化学物質に該当する物質です。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/0203.html
https://www.nite.go.jp/chem/chrip/chrip_search/dt/pdf/CI_02_001/hazard/hyokasyo/No-119.pdf
https://www.jstage.jst.go.jp/article/yukigoseikyokaishi1943/34/7/34_7_505/_pdf

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