アニリン

アニリンとは

アニリンとは、 有機化合物の1種であり、化学式が C6H5NH2の芳香族アミンです。

別名として、アミノベンゼン、フェニルアミン、ベンゼンアミンなどがあります。

室温において無色透明な液状の化学物質ですが、徐々に澄紅色に変化し、空気中では赤褐色になります。人体に対し毒性があり、蒸気の吸入あるいは皮膚からの吸収により中毒を起こすので、取り扱いおよび保管には注意が必要です。

アニリンの使用用途

アニリンが単独で何らかの素材として用いられることはほとんどなく、他の化学物質の原料として用いられた後、多種多様な用途で使用されています。

1. 工業分野

工業分野においては、染料、顔料の原料や、ゴムの硫化促進剤、合成樹脂、プラスチックなどの原料として使用されます。

また導電性高分子であるポリアニリンの原料として用いられます。ポリアニリンは、高い電気伝導性や電気化学的安定性を持つことが特徴です。これらの性質から、電気化学センサーや電池やコンデンサなどの用途で使用されています。

2. 医薬分野

アニリンから合成された化合物が鎮痛薬、解熱薬、化膿疾患薬、抗アレルギー薬、ビタミンの調製に用いられます。

3. 農業分野

農薬、除草剤、殺菌剤の原料にも使用されます。

その他、火薬原料の原料や香料調薬、化粧品原料のハイドロキノンや、ウレタン樹脂の原料であるメチレンジフェニルジイソシアネートの原料として用いられています。また、ガソリンのアンチノック性を高める用途にも用いられます。

アニリンの性質

アニリンは分子量が93.13で、弱塩基性を示し、アミン臭があある物質です。また比重が1.022、融点は-6℃、沸点184℃で、水には難溶ですが、エーテル、エタノールベンゼンなどの有機溶剤に溶けやすい性質を持ちます。アルカリ金属、アルカリ土類金属と反応して水素を発生、アニリドを生成します。

アニリンのその他情報

1. アニリンの製造方法

アニリンの工業的な製造方法としては、以下の3種類があげられます。

ニトロベンゼンを塩酸で還元する方法
ニトロベンゼンに鉄の微粉と塩酸を混合して加熱し還元します。反応後、消石灰、硫酸アルミを加えて中和し、ろ過することで粗アニリンが得られます。これを減圧蒸留することでアニリンが得られます。

ニトロベンゼンを水素で接触還元する方法
水素気流中で銅、ニッケル、白金触媒の存在下で加熱還元します。水洗した後、油相側を減圧蒸留することでアニリンが得られます。

クロロベンゼンのアンモニア置換反応
クロロベンゼンを銅触媒の存在下、加圧加熱してアンモニアと反応させることで、塩酸が脱離してアニリンが生成します。

2. アニリンの安全性

アニリンは、皮膚や粘膜から吸収されます。皮膚からの吸収は速やかであり、短時間で血液中に吸収されることが知られています。また、吸入による毒性も報告されています。

毒性の症状 アニリンの毒性による症状には、貧血、腎臓障害、肝障害、神経障害、皮膚炎などがあり、暴露基準値や許容濃度が定められています。

アニリンを取扱う場合には、適切な防護対策が必要です。皮膚や目を保護するための防護具を着用すること、作業場所を換気すること、取り扱いや処理の際には、適切なマニュアルに基づいて作業することが重要です。

3. ポリアニリンについて

アニリンの主要用途として、導電性高分子のポリアニリンがあります。ポリアニリンはアニリンを電解重合することによって得られます。電解重合する際の溶液のpHによって、生成するポリアニリンの化学構造が変わり、性質の異なるポリアニリンが得られます。

塩酸や硫酸などで酸性にした水溶液中で電解酸化すると導電性の高いポリアニリンが得られます。この方法で得られたポリアニリンは、青色から緑色を呈しており、N-メチルピロリドンなどの有機溶媒に可溶で、塗工したりすることが可能で成型性に優れた材料です。

一方、中性やアルカリ性水溶液中での重合では絶縁性のポリアニリンが生成します。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/62-53-3.html

アドレナリン

アドレナリンとは

アドレナリンの基本情報

アドレナリン (Adrenaline) とは、分子式C9H13NO3で表される有機化合物であり、カテコールアミンの一種です。

生理学的には副腎から分泌されるホルモンであり、神経節や脳神経系における神経伝達物質でもあります。CAS登録番号は、51-43-4です。

「アドレナリン」は米名ですが、英名である「エピネフリン」 (Epinephrine) と呼ばれる場合もあります。大まかに分けると、生物学分野ではアドレナリンと呼ばれることが多く、医学分野ではエピネフリンと呼ばれていることが多いです。ただし、欧州薬局方では「アドレナリン」が採用されており、日本薬局方においても2006年4月より一般名がエピネフリンからアドレナリンに変更されています。

分子量は183.20、融点は215℃であり、常温では白色から褐色の粉末状固体です。空気から光によって次第に褐色となります。薄めた塩酸には溶けますが、水に極めて溶けにくい物質であり、エタノールや、ジエチルエーテルクロロホルムなどの有機溶媒にはほとんど溶けません。キラル化合物ですが、通常はR体 (-体) を指します。

生体においては、一般的に、強いストレス状態や興奮状態となった時に分泌することが知られています。

アドレナリンの使用用途

アドレナリンは、体内でホルモンとして分泌されているだけではなく、医薬品として製造販売されています。臨床用製剤の主な効能・効果には、下記のようなものがあります。特にアナフィラキシー反応に対する治療については、自己注射も可能であり、発症する懸念がある人に処方されています。

  • 蜂毒、食物及び薬物等に起因するアナフィラキシー反応に対する補助治療
  • 気管支喘息、百日咳の気管支痙攣の緩解
  • 急性低血圧又はショック時の補助治療、心停止の補助治療
  • 局所麻酔薬の作用の延長
  • 手術時の局所出血の予防と治療
  • 耳鼻咽頭科における局所出血及び粘膜の充血・腫脹の治療
  • 外創における局所出血の治療
  • 歯科治療における浸潤麻酔又は伝達麻酔

臨床以外の用途では、研究開発用試薬として有機合成化学や生化学の分野で使用される場合があります。

アドレナリンの性質

1. アドレナリンの合成

アドレナリンの生合成経路

図2. アドレナリンの生合成経路

アドレナリンはカテコールアミンの一つです。生合成経路では、L-チロシンからL-ドーパを経て順にドパミン、ノルアドレナリン (ノルエピネフリン) 、アドレナリン (エピネフリン) の順で合成されます。

2. アドレナリンの生理学的作用

アドレナリンの主な生理学的作用

図3. アドレナリンの主な生理学的作用

アドレナリンは、交感神経α及びβアドレナリン受容体に作用し、交感神経を興奮させる働きがあります。主な作用の例として下記のものが挙げられます。

  • 心臓における強心作用: 心拍数、心筋収縮力及び心拍出量を増加させる (β1 刺激作用) 
  • 皮膚及び粘膜の血管を収縮させる作用 (α1 刺激作用) 
  • 骨格筋及び内臓や心臓冠動脈の血管を拡張させる作用 (β2 刺激作用) 
  • 気管支平滑筋を弛緩し、気管支を拡張させる作用 (β2 刺激作用) 

また、α遮断作用のある薬との併用はアドレナリンの作用を逆転させ、急激な血圧降下を起こす可能性があるため禁忌とされています。具体的な薬剤の例としては、下記の抗精神病薬が挙げられます。

  • ブチロフェノン系薬剤
  • フェノチアジン系薬剤
  • イミノジベンジル系薬剤
  • ゾテピン
  • セロトニン・ドパミン拮抗薬
  • ドパミン受容体部分作動薬

尚、ここに記載されていない薬剤でも、α遮断作用のある薬剤は原則的に併用禁忌です。ただし、アナフィラキシーショックの救急治療の際には、アドレナリンが投与される場合があります。

アドレナリンの種類

現在市販されているアドレナリン製品の種類には、主に臨床用の医薬品と研究開発用試薬とがあります。臨床用の医薬品は、主に注射剤として販売されている他、気管支喘息などの治療では吸入薬として用いられることもある薬剤です。

様々なメーカーから、様々な用量・濃度の製品が発売されており、適切なものが選ばれます。代表的な商品名は、「エピスタ」「ボスミン」「エピペン」です。いずれも処方箋が必要な薬剤です。

研究開発用では、輸送は室温で良いものの冷蔵保管が必要な試薬として扱われます。1g , 5g , 10gなどの容量があります。キラル化合物ですが、通常市販されているものはR体です。また、塩酸塩も試薬として販売されています。

参考文献
https://www.mhlw.go.jp/

アデニン

アデニンとは

アデニンの構造

アデニン (Adenine) とは、プリン骨格を持つ有機化合物の一種です。

アデニンは、核酸を構成する5種類の塩基のうちの1つであり、生体内に広く分布する極めて重要な有機化合物です。

別名として6-アミノプリン (6-Aminopurine) とも呼ばれ、IUPAC命名法では9H-Purin-6-amineと表記されます。理論的には1H・3H・7H・9H体の互変異性体をとることが可能ですが、気相などの孤立状態ではほとんど9H体として存在するため、ここでは9H体を基準に説明します。

アデニンの使用用途

アデニンは、DNAやRNAといった核酸を構成する基本成分の一つです。そのため、医薬品としての用途があり、放射線照射や薬物療法に伴う白血球減少症の治療に用いられています。また、悪性腫瘍に対する放射線治療や化学療法中に発生する白血球減少症の改善を目的に用いられています。

また、産業分野での応用も研究が進んでおり、半導体基板の洗浄後における腐食防止効果が確認されています。今後さらなる活用が期待されるところです。さらに、魚類の性識別技術にも応用が可能であることが報告されており、生物学的な分野でも新たな展開が模索されています。

アデニンの原理

アデニンの原理を性質と合成の観点から解説します。

1. アデニンの性質

アデニンの様々な性質

図2. アデニンの様々な性質

アデニンの性質については、主に化学的性質と核酸内での働きに焦点が当てられます。本物質は塩基としての性質を持ち、酸解離定数 (pKa) は4.15および9.08です。生理的条件 (pH 約7)下では1位の窒素原子における水素の受容反応が限定的に起きるため、環境の pH に大きな影響を与えることはありません。 

分子式はC5H5N5、分子量は135.13、融点は360℃ (分解) 、密度は1.6 g/cm3であり、常温では無色または淡黄色の固体として存在します。水にはほとんど溶けず、エタノールやアセトンにも溶解しにくい性質を持ちます。ただし、両性物質であるため、希塩酸などの酸や水酸化ナトリウム水溶液、アンモニア水などのアルカリには容易に溶解する性質があります。CAS登録番号は73-24-5です。

生体内でDNA (Deoxyribonucleic Acid) やRNA (Ribonucleic Acid) に組み込まれる際は、ヌクレオシドとしてアデノシン及びデオキシアデノシンが形成されます。DNAにおいてはチミン、RNAにおいてはウラシルと相補的に結合し、二つの水素結合を形成します。また、補酵素A (CoA) 、フラビンアデニンジヌクレオチド (FAD) 、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド (NAD) の構成成分でもあり、エネルギー代謝に重要なATP (アデノシン三リン酸) の塩基部分として機能するため、生命活動において極めて重要な役割を果たします。

生体内の遺伝情報を構成する重要な成分であるため、アデニンは労働安全衛生法において「変異原性が認められた化学物質等」に指定されています。消防法や毒物及び劇物取締法、PRTR法などの法規制には該当しませんが、安全管理体制の整備が不可欠です。

2. アデニンの合成

アデニンの合成

図3. アデニンの合成

アデニンの合成は、体内のプリン代謝に基づく生合成プロセスを経ます。具体的には、リボース-5-リン酸を起点として、グリシン、グルタミン、アスパラギン酸、テトラヒドロ葉酸などを用いてイノシン酸 (IMP) に変換され、その後、アデニル酸 (AMP) やグアニル酸 (GMP) へと変換されます。AMPはRNAの構成成分となるほか、リン酸化されてATPとなり、エネルギー代謝にも関与します。

工業的には、密閉容器内でホルムアミドを120℃で5時間加熱することにより合成が可能です。さらに、酸触媒として塩化ホスホリル (POCl3) や五塩化リン (PCl5) を使用すると、収率を向上させることができます。

アデニンの種類

アデニンは、放射線照射や薬物療法に伴う白血球減少症の医薬品として承認されており、錠剤の形で販売されています。1錠あたり10mgの含有量で調整され、購入には医師の処方箋が必要となります。

また、研究用途としての試薬も販売されており、化学・生化学分野だけでなく、植物組織培養や植物成長制御、器官分化制御などの分野でも利用されています。研究用試薬の純度は95%または99%の高純度製品があり、包装単位として1g、25g、100g、250gなどが販売されています。

アデニンは室温保存が可能ですが、光により変質する恐れがあります。さらに、分解時には有害なガスが発生することが知られており、主な分解生成物には一酸化炭素 (CO) 、二酸化炭素 (CO2) 、窒素酸化物 (NOx) などが含まれます。そのため、取り扱いには十分な注意が必要です。

アゾベンゼン

アゾベンゼンとは

アゾベンゼンの構造

アゾベンゼン (Azobenzene) とは、窒素と窒素の二重結合であるアゾ基 (-N=N-) に2個のベンゼン環が結合した構造を有する有機化合物です。

IUPAC命名法はジフェニルジアゼンになります。アゾベンゼンは常温では固体です。水には難溶で、ベンゼンやアルコールなどの有機溶媒に可溶です。

アゾベンゼンの使用用途

アゾベンゼンはアゾ基が発色団として働くため、古くから顔料や染料として用いられてきました。多種多様な分子設計が可能で、多彩な色調を持つ誘導体を合成することができます。更に、比較的安価に合成することが可能なため、実用化されている染料の半分以上を占めています。

色素や着色剤のデータベースであるカラーインデックスには約2,000種類以上のアゾベンゼン誘導体が記載されています。また、分子自体が棒状の構造をとる為、液晶のメソゲン基としても用いられます。また、アゾベンゼン及びその誘導体は、光照射によってトランス体からシス体への異性化を引き起こします。

この特性を生かし、調光材料、光記録材料、光スイッチ、機能性分子システムの制御部などさまざまな分野での応用が始まっています。

アゾベンゼンの原理

アゾベンゼンの原理として、化学的な性質、特に光異性化についてと、どんな化学反応をするか以下に説明します。

1. アゾベンゼンの性質

アゾベンゼンの光異性化 及び 熱異性化

図2. アゾペンゼンの光異性化及び熱異性化

先述の通り、アゾベンゼンは光が照射されると立体構造が変わる特性を持ちます。このような光機能性材料は数多ありますが、アゾベンゼンはその中でも最も安定な化合物の一つであることが知られています。トランス体の方が熱化学的に安定で、光が照射されない暗所かつ溶液中の状態では、100%がトランス体になります。

アゾベンゼンのトランス体、シス体の異性化の比率は、光照射や加熱によって制御することが可能です。アゾベンゼンは、トランス体の状態で365 nmの紫外線を照射するとシス体に転移し、シス体の状態で450nmの可視光を照射するとトランス体に戻ります。また、シス体は加熱によってもトランス体に変化させることができます。

ちなみに、トランス体は約50kJ/molほどシス体よりも安定であり、光異性化反応におけるエネルギー障壁は200kJ/mol程度です。アゾベンゼンの光異性化反応は最も基本的な光化学反応の一つではありますが、異性化が0.1ピコ秒と極めて短時間で進行するため、反応機構にはまだ不明な点が残されています。

2. アゾベンゼンの化学反応

アゾベンゼンの各種反応

図3. アゾペンゼンの各種反応

アゾベンゼンの合成方法として多くのスキームが知られています。最も利用されている方法は、芳香族ジアゾニウム塩とジアルキルアニリン、またはフェノールとのカップリング反応で合成する方法です。他にも、ニトロベンゼンを用いてナトリウムアマルガムと反応させる方法、芳香族アミンの酸化反応、芳香族ニトロソ化合物と芳香族アミンの反応などがあります。

アゾベンゼン誘導体は置換基によって芳香環が電子豊富になっており、芳香族求電子置換反応が進みやすい特性を持ちます。アゾベンゼンは酸化還元反応を起こす性質も有しており、酸化されるとアゾキシベンゼンが合成されます。他方で、還元反応、すなわち水素添加がなされると、アミンになります。無置換のアゾベンゼンの場合、還元により1,2-ジフェニルヒドラジンが生成されます。

この様な還元のされやすさを利用し、染料の脱色がなされています。またアゾベンゼンは金属の配位子として働くことも知られています。代表的な金属錯体はニッケルとの錯体で、化学式はNi(Ph2N2)(PPh3)2になります。他にも、銅やホウ素の錯体の合成、研究もおこなわれています。

アゾベンゼンの種類

一般に販売されているアゾベンゼンの種類としては、試薬製品のほか融点測定用標準試料があります。pH滴定、すなわち酸塩基中和滴定指示薬として知られているメチルレッド、メチルオレンジはアゾベンゼンの誘導体になります。

また先述の通り、アゾベンゼン及びその誘導体は色素としても広く利用されており、別名オイルオレンジとして有名な染料は、1-フェニルアゾ-2-ナフトールというアゾベンゼン誘導体になります。

アセトフェノン

アセトフェノンとは

アセトフェノンの構造

アセトフェノンとは、別名メチルフェニルケトンと呼ばれ、オレンジの花のような独特の芳香を有します。常温で無色の液体であり、天然物としては、ラブダナム油やウミダヌキ香、イチゴ、日本茶花中に存在します。本化合物は、香料、溶剤、有機合成の材料などの用途で幅広く用いられています。

アセトフェノンの使用用途

1. 独特の芳香と香料としての利用

アセトフェノンは、その独特の芳香を活かして、着香料や香料の合成原料として広く用いられています。その使用例としては、ナッツ,飲料,アイスクリーム,キャンディーなどの多くの食品やタバコなどが挙げられます。

2. ケト基の反応性の高さと工業製品、医薬品としての利用

アセトフェノンはカルボニル基を有するという構造上の特徴から工業製品、医薬品の有機合成における有用な基質となります。工業用製品の用途としては、機能性樹脂や、今でも根強い需要のある写真のフィルムなどの光重合開始剤の原料、さらには、沸点が高いことや安定性に優れているという特性を活かした各種溶剤としても使われています。なお、アセトフェノンの溶剤としての使用は、エタノールやケトン、エステルなどと混合されて使われることが多いです。

アセトフェノンの物理化学的諸性質

1. 名称
和名:アセトフェノン
英名:acetophenone
IUPAC名:1-phenylethan-1-one

2. 分子式
C8H8O

3. 分子量
120.15

4. 融点
19.65℃

5. 溶媒溶解性
水に不溶。エタノールクロロホルムに可溶。

アセトフェノンのその他情報

1. カルコンの合成基質としての利用とグリーンケミストリーとの関係

カルコンの合成

図2. カルコンの合成

本化合物は、C-C結合を伸ばして新しい結合を作る反応として有名なアルドール反応の良い基質となります。この特徴から、多くの医薬品中間体として幅広く用いられています。そのような反応の一例として、塩基性触媒存在下でのベンズアルデヒドとアセトフェノンのアルドール縮合によるカルコンの合成があげられます。本反応は、アトムエコノミーが高く、環境への負荷が少ない反応であり、言い換えると『目的生成物を得るためにゴミが出ない反応』と表現する事ができます。そのため、本化合物はグリーンケミストリーという観点から非常に優れた原料であるといえます。

2. アセトフェノンの合成

ベンゼン塩化アセチルとのフリーデル‐クラフツ反応により合成します。

3. アセトフェノンの毒性

飲み込むと有害であり、軽度の皮膚刺激性や強い眼刺激性を有します。また、本化合物は可燃性液体でもあります。このような理由から、消防法上では第4類第3石油類の非水溶性に、労働安全衛生法では有害物表示対象物に指定されています。

アセトニトリル

アセトニトリルとは

アセトニトリル(Acetonitrile)とは、CAS RN®75-05-8の無色透明の液体です。化学的に安定しており、水やアルコールによく溶け、多くの有機化合物を溶かす性質を持つことから産業上欠かせない物質となっています。

アセトニトリルは、分子式C₂H₃N、分子量41.05、沸点81.6℃、融点-45℃、比重0.783で、誘電率が37.5と高く、水と良く混ざります。化学構造は疎水性のメチル基CH3と分極しているニトリルCNから成り、疎水性と誘電率(極性)を併せ持つ分子で、極性溶媒でありながら水酸基を有さない溶媒であるpolar aprotic solventの一つです。

常温で引火することから消防法(危険物第四類第1石油類の水溶性液体)、労働安全衛生法、船舶安全法及び航空法で引火性の化学物質として扱われます。また、毒物及び劇物取締法で劇物に指定され、PRTR法で第1種指定化学物質となっています。

健康に対する有害性があるため、適切に管理して用いる必要があります。吸入する可能性があるほか、経皮吸収性があるため、手袋などの保護具による防護が必要です。

アセトニトリルの使用用途

ここでは、アセトニトリルの使用用途を3つ紹介します。

1. 溶媒・分析用試薬

アセトニトリルは、有機合成反応や精製に用いる溶媒、分析用試薬として利用されています。溶媒としての利点の一つは、水や有機溶剤との均一混合が可能で、多くの化合物を溶解できる点にあります。特に、逆相系HPLCで汎用される担体に含まれるオクタデシル基担体をよく溶媒和することから、HPLC溶媒として優れた性能を有します。

UV吸収が少ないため、UV検出と組み合わせたHPLCにおいて、分析時の背景信号が低く、良好なクロマトグラムを与えます。メタノールもHPLCによく使われる溶媒ですが、アセトニトリルはメタノールに比べ分離能力に優れるほか、粘度が低いため、使用時の圧力が低くなる点でも優れています。

2. 極性物質の溶解

polar aprotic solventとして水を用いないで極性物質を溶解することにも使われます。例えば、AlCl3やPOCl3を使う非水反応など、水が共存してはいけない反応において、溶媒に利用されます。溶媒としてのもう一つの利点は、誘電性が高い溶媒であるために、有機合成反応の反応速度を高めることが可能で、溶媒として反応場を提供するのに使えます。

3. 農薬や医薬など

その他のニトリル化合物と同じように、シアノ基の反応性を活かした有機合成用の原料として、農薬や医薬をはじめ、染料、合成樹脂改質剤、エポキシ樹脂硬化剤などに利用されています。さらにアセトニトリルは多くの有機溶媒と2成分系共沸混合物を形成することから、石油精製分野での抽出蒸留溶媒としても活躍の場を広げています。具体的には、パラフィン-オレフィン混合物からオレフィンを分離・精製する工程です。

今後は二次電池の電解液や有機EL材料合成用溶媒への応用のほか、電子部品の洗浄に用いることも期待されていると言われています。また、DNA合成・精製溶媒としても期待されています。

アセトニトリルの種類

アセトニトリルの多様な用途を反映し、用途に適合するように不純物を制御した製品が提供されています。分析用試薬としてはHPLC用、LC/MS用、残留農薬・PCB試験用などがあります。

アセトニトリルのその他情報

アセトニトリルの供給問題

アセトニトリルは、工業的に大部分がアクリロニトリル生産時の副生物として得られています。アクリロニトリルは自動車部品のABS樹脂に多く使われているため、自動車産業の減産や生産調整があると、アクリロニトリルの副生物であるアセトニトリルも供給が減少し、品薄になる傾向にあります。

最近では、2020年の新型コロナウイルス感染症の世界的流行によって、自動車工場の操業が出来なくなったときにも、アセトニトリルの供給懸念が浮かび上がりました。そのため、アセトニトリルの取り扱い会社では、原料確保の取り組み、自社工場の立ち上げ、別の合成法の検討など、安定供給に全力を尽くしています。

一方、HPLCメーカーでは溶媒使用量の少ない装置を開発し、アセトニトリルの供給問題がユーザーの事業に影響しにくくなるように努力しています。

アセトアニリド

アセトアニリドとは

アセトアニリドの基本情報

アセトアニリド (Acetanilide) とは、化学式C8H9NOおよび示性式C6H5NHCOCH3で表される有機化合物です。

IUPAC命名法による名称はN-フェニルアセトアミドであり、N-アセチルアニリンやN-アセチルベンゼンアミン、アセタニルなどの別名もあります。この物質のCAS登録番号は103-84-4です。

物理的な性質としては、分子量135.16、融点114~117℃、沸点304~305℃です。常温では白色の粉末または板状結晶として存在し、エステルのような独特の臭いがあります。また、密度は1.219g/cm3で、エタノールアセトンなどによく溶け、ジエチルエーテルベンゼントルエンにも溶けることができます。一方で、分子の極性が高くないため水にはほとんど溶けず、その溶解度は20℃で5.2g/kgですが、熱水には溶解する特性があります。

アセトアニリドの使用用途

アセトアニリドの関連物質

図2. アセトアニリドの関連物質

アセトアニリドは多岐にわたる用途で使用されており、化学合成や研究、工業製品の原料として重要な役割を果たしています。以下に、その主な用途を詳しく説明します。

1. 有機化合物の合成原料

アセトアニリドは、染料、色素、医薬品、繊維などのさまざまな有機化合物の合成に使用される合成原料です。具体的には、過酸化水素の安定剤やゴム加硫促進剤としての役割を担い、トナーのアゾ顔料としても利用されています。

2. 医薬品原料としての利用

医薬品としては、アセトアニリドはサルファ剤の中間体である4-アセトアミドベンゼンスルホニルアジドの製造に原料として使用されます。また、解熱鎮痛作用があるアセトアミノフェンと同属の薬品として知られ、過去には「アンチヘブリン」という名称の大衆薬として販売されていました。

しかし、アセトアニリドには毒性があることが後に明らかになりました。メトヘモグロビン血症の原因となり、肝臓や腎臓への損傷、血球破壊、けいれんなどの中毒症状を引き起こす事例が多数確認されています。そのため、現在ではより毒性の低い化合物であるアセトアミノフェンなどが主に使用されており、アセトアニリドの医薬品としての利用はあまり見られません。

3. 研究用途としての活用

アセトアニリドは、研究試薬としても広く利用されています。特に元素分析における標準品として高い需要があります。元素分析に使用される際には、高純度の試薬が必要とされ、試験結果の精度を高めるために利用されています。

アセトアニリドの性質

1. 化学的性質

アセトアニリドは空気中では比較的安定した化合物ですが、強酸化剤や強塩基とは激しく反応するため取り扱いには注意が必要で、これらの物質との混触を避けて保管することが求められます。また、引火点は161℃であり、545℃以上に加熱されると発火するとされています。

アセトアニリドを安全に保管するためには、直射日光や湿気を避け、密閉容器で管理することが推奨されます。

2. 溶解性

アセトアニリドの溶解性は、用途によっても注目されています。水への溶解度が低いため、水性溶液での反応には不向きですが、有機溶剤に溶解しやすいため、有機合成における試薬として広く使用されています。

アセトアニリドの種類

アセトアニリドは、主に試薬メーカーから研究用の試薬製品として販売されています。販売される容量には、1g、5g、100g、500g、1kgといった選択肢があり、用途や規模に応じて適切なサイズを選ぶことが可能です。また、製品の純度もさまざまであり、特に分析用には高純度品が使用されます。

この化合物は、通常の有機合成に加えて、高度な分析技術や研究分野でも活用されています。薬物とタンパク質結合のアフィニティキャピラリ電気泳動の研究で使用されることや、元素分析を行う場合に標準品として利用されることもあり、これらの用途では正確性が重視されるため、高品質な製品が求められます。

アセトアニリドのその他情報

1. アセトアニリドの合成

アセトアニリドの合成反応

図3. アセトアニリドの合成反応

アセトアニリドは、アニリンのアセチル化によって合成されます。一般的には無水酢酸がアセチル化剤として使用されますが、アニリニウム塩や塩化アセチルを使用することも可能です。

アニリンと無水酢酸の反応は、典型的なアミド形成反応の一例であり、化学の学習において頻繁に取り上げられる基本的なプロセスです。

2. アセトアニリドの代表的な化学反応

アセトアニリドをニトロ化すると、ニトロアセトアニリドが生成されます。この反応は、芳香族求核置換反応の一例であり、オルト位およびパラ位への配向性が特徴です。その結果、2-ニトロアセトアニリドと4-ニトロアセトアニリドの両方が生成されます。

特に4-ニトロアセトアニリドは、染料の原料として利用される重要な化学物質です。また、2-ニトロアセトアニリドと4-ニトロアセトアニリドは、酸処理によってアセチル基を除去することで、それぞれ2-ニトロアニリンと4-ニトロアニリンを得ることができます。

さらに、アセトアニリドが医薬品として使用された場合、アセトアミノフェンがその代謝産物として生成されることが報告により示唆されています。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/103-84-4.html

アセチルアセトン

アセチルアセトンとは

アセチルアセトンの構造

アセチルアセトン (Acetylacetone) とは、常温で無色または淡い黄色の液体として存在する有機化合物の一種です。

示性式CH3COCH2COCH3で表されます。IUPAC命名法では、2,4-ペンタンジオン (Pentane-2,4-dione) で1,3-ジケトンに分類されています。

アセチルアセトンは、金属錯体の形成をはじめとする多くの化学反応に関与し、さまざまな用途で活用されています。金属イオンの抽出剤、触媒、添加剤としての利用に加え、太陽電池や有機合成の分野でも重要な役割を担っています。

アセチルアセトンの使用用途

アセチルアセトンは、金属イオンの抽出剤として広く利用されています。その理由は、アセチルアセトンの共役塩基であるアセチルアセトナート (acac) が、2つの酸素原子を介して多くの遷移金属イオンと六員環結合を形成する能力にあります。

アセチルアセトンの金属錯体は、多岐にわたる分野で応用されています。触媒や反応試薬の前駆体、NMRシフト試薬、遷移金属触媒、有機合成触媒として利用されるほか、工業的にはヒドロホルミル化触媒の前駆体としても重要な役割を果たしています。

さらに、アセチルアセトンはガソリンや潤滑油の添加剤としても知られており、特定の化学反応において重要な役割を担っています。近年では、色素増感型太陽電池の開発において、酸化チタン (TiO2) にアセチルアセトンを添加することで性能が向上することが報告され、その応用範囲はさらに広がっています。

アセチルアセトンの原理

アセチルアセトンの原理を性質や合成方法、化学反応の観点から解説します。

1. アセチルアセトンの性質

アセチルアセトンのケト-エノール平衡

アセチルアセトンの分子量は100.12、融点は-23℃、沸点は約141℃、引火点は39℃です。密度は0.98 g/mLで、常温では無色透明の液体として存在します。この化合物は1,3-ジケトンであり、ケト-エノール平衡状態を取ります。特にエノール体はC2v対称分子として存在し、エノールの水素原子が2つの酸素の中間に位置することで安定化されています。この性質は、マイクロ波分光法によって確認されています。

また、果物が腐った際に感じられるケトン臭を発し、水にも比較的よく溶けます (溶解度16 g/100 mL) 。加えて、エタノールやジエチルエーテルなどの有機溶媒にも容易に溶解する性質を持っています。CAS登録番号は123-54-6です。

安全性に関しては、安全衛生法によって「名称等を表示すべき危険有害物」に指定されています。また、消防法では第4類 第2石油類 (非水溶性液体) に分類されるため、取り扱いには注意が必要です。

2. アセチルアセトンの合成方法

アセチルアセトンは工業的に、酢酸イソプロペニルの熱転位によって製造されます。また、実験室では以下の方法で合成が可能です。これらの方法を用いることで、アセチルアセトンを効率的に合成できます。

  • 三フッ化ホウ素を触媒として用い、アセトンと無水酢酸を反応させる方法
  • アセトンと酢酸エチルをアルカリ触媒により縮合させ、生成物をプロトン化する方法

3. アセチルアセトンの化学反応

アセチルアセトンの反応の例

アセチルアセトンの共役塩基 (acac) は、さまざまな金属錯体を形成します。代表的な錯体として以下のものが挙げられます。

  • Mn (acac)3
  • VO (acac)2
  • Cu (acac)2
  • Fe (acac)3
  • Co (acac)3

例えば、Mn(acac)3はフェノール類の酸化的カップリング反応に使用される1電子酸化剤として知られています。

アセチルアセトンは、そのカルボニル基を利用してアミンと縮合し、モノまたはジケトイミンを形成します。また、ヒドラジンと反応することでピラゾールを、尿素と反応することでピリミジンを合成することができます。アセチルアセトンは、酵素アセチルアセトンジオキシゲナーゼの作用によって炭素-炭素結合が切断されます。この反応により、酢酸と2-オキソプロパナールが生成されます。

アセチルアセトンの種類

アセチルアセトンは、実験室用の化学試薬として市販されており、一般的な容量は25 mL、100 mL、500 mLなどです。通常、常温保存が可能ですが、光による分解を防ぐため暗所に保管することが推奨されます。

また、アセチルアセトンの金属錯体 (Al, Cr, Co, VO, Cu, Fe, Ni, Zn, Zr, Sn, Ti, Inなど) は、実験室用の小規模スケールから工業用途の5 kg、10 kgスケールまで、さまざまな形態で販売されています。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/123-54-6.html

アジピン酸ジヒドラジド

アジピン酸ジヒドラジドとは

アジピン酸ジヒドラジドは、化学式C6H14N4O2、分子量174.20で表される白色の粉末または結晶の塊です。

この物質は、水に溶けやすく、架橋剤として広く使用されています。融点は180~182℃、沸点は305.18℃で、適切な条件下で化学的に安定した性質です。

また、セバシン酸ジヒドラジドやドデカンジオヒドラジドなど、他のヒドラジド化合物と共に、ADH (アジポジヒドラジド) とも略称されます。この化合物は、工業的にも重要であり、多くの応用分野で利用されています。

アジピン酸ジヒドラジドの使用用途

アジピン酸ジヒドラジド (ADH) は、塗料や接着剤などの分野で活躍する熱硬化性樹脂の一つです。その高い反応性と多機能性から、主に以下のような用途で利用されています。 

1. ホルムアルデヒド除去剤

ADHはアルデヒド基と容易に反応する特性を持ち、ホルムアルデヒドとの結合により揮発の防止が可能です。

2. プラスチックの改質

ADHはプラスチックの改質剤としても利用され、材料の機械的特性や耐久性を向上させます。これにより、製品の品質や性能強化が可能です。

3. エポキシ樹脂の硬化剤

ADHは高温でエポキシ樹脂と反応し、硬化を促進します。特に粉体塗料において、エポキシ樹脂の硬化剤として使用され、優れた耐久性と仕上がりを提供します。

4. 常温架橋型水性コーティング

ADHは、アクリルモノマーとジアセトンアクリルアミド (DAAM) からなるアクリルエマルジョンと組み合わせることで、常温で迅速に架橋可能です。この反応により、耐水性に優れた塗膜が形成され、水性塗料の性能向上に寄与します。

アジピン酸ジヒドラジドの原理

アジピン酸ジヒドラジド (ADH) は、化学式C₆H₁₄N₄O₂の化合物です。主に架橋剤として利用されます。その構造は、中央に6つの炭素原子からなる直鎖状の骨格 (ヘキサン二酸) を持ち、両端にヒドラジン基 (-NHNH₂) が結合したものです。この構造により、ADHは二官能性の化合物となり、架橋反応を通じて高分子間の結合を形成することができます。ADHは、以下のような化学反応を通じて架橋を形成します。

1. カルボニル基との反応

一つの主な反応は、カルボニル基との反応です。カルボニル基は、多くの樹脂に含まれる化学基です。ADHのヒドラジン基は、エポキシ樹脂やアクリル樹脂などのカルボニル基と反応し、シッフ塩基を形成します。この反応により、分子間で共有結合が形成され、架橋が進行します。

2. エポキシ樹脂との反応

もう一つの重要な反応は、エポキシ樹脂との反応です。ADHは高温でエポキシ樹脂と反応し、硬化を促進します。この反応は、アミンによるエポキシ樹脂の硬化反応と同様です。反応中に生成する活性水素化合物によって促進されます。

これらの反応により、ADHは高分子間で強固な結合を形成し、材料の機械的特性や耐久性を向上させます。特に、エポキシ樹脂やアクリル樹脂の硬化剤として使用される際に、その効果が顕著です。

アジピン酸ジヒドラジドの種類

アジピン酸ジヒドラジドは、エポキシ樹脂やアクリル樹脂の硬化剤として利用される化合物で、これに類似した種類のジヒドラジド誘導体も多く存在します。これらの化合物は、異なる酸とヒドラジンを反応させて製造され、それぞれに特有の性質と用途があります。

1. イソフタル酸ジヒドラジド

イソフタル酸とヒドラジンを反応させて得られる化合物です。この化合物は、エポキシ樹脂の硬化剤やアクリル樹脂の架橋剤として使用されます。高温環境でも安定した硬化性を発揮し、特に耐熱性が求められる用途に適しています。分子量は194.2 g/molで、融点は215~225℃です。

2. セバシン酸ジヒドラジド

これも代表的な誘導体の一つです。セバシン酸を基にしたこの化合物は、より柔軟性のある特性を持つため、塗料や接着剤の分野で使用されます。融点や反応特性が異なることで、用途に応じた多様な選択が可能です。分子量は230.3 g/molで、融点は186~188℃です。

3. ドデカンジオヒドラジド

長鎖脂肪酸を基にした化合物で、高い架橋効果を発揮します。この特性から、特殊な工業用素材に適用されています。分子量は258.4 g/molで、融点は188~192℃です。

このように、アジピン酸ジヒドラジドとその誘導体にはさまざまな種類があり、それぞれの化学構造や特性に応じて用途が異なります。適切な種類を選ぶことで、材料の性能を最適化できるのが特徴です。

参考文献
https://www.chemicalbook.com/ChemicalProductProperty_JP_CB4129556.htm?https://www.chemicalbook.com/msds/jp/1071-93-8.htm?
https://www.tcichemicals.com/JP/ja/p/A0170?
https://www.otsukac.co.jp/products/cat-hydrazine-derivative/hydrazine.html?chrome-extension://efaidnbmnnnibpcajpcglclefindmkaj/https://www.jstage.jst.go.jp/article/networkpolymer1980/7/2/7_67/_pdf/-char/ja?

アジ化ナトリウム

アジ化ナトリウムとは

アジ化ナトリウム (Sodium Azide) とは、分子式NaN3で表される、常温で白色の結晶性の粉末の物質です。分子量は65.01であり、比重は1.85、沸点は約300℃、融点は275℃です。

アジ化ナトリウムの性質

アジ化ナトリウムは水や液体アンモニアにはよく溶けますが、エタノールやエーテルには難溶です。

金属と触れると爆発する危険性があるため、秤量する際はプラスチック製のスパーテルを使用することが推奨されます。

消防法では第5類自己反応性物質として、労働安全衛生法の名称等を表示すべき危険有害物に指定、さらに毒物及び劇物取締法でも毒物に指定されています。

アジ化ナトリウムを吸入または経口ばく露した場合、めまいや呼吸困難、痙攣などの症状を引き起こす恐れがあります。取り扱い場合は、火災や爆発、ばく露に注意することが必要です。

アジ化ナトリウムの使用用途

アジ化ナトリウムの主な使用用途には以下の5つがあります。

  • アジド基の導入
    アジ化ナトリウムはアジ化物イオンとナトリウムイオンで構成される塩です。そのため、アジ化物イオンの求核性を利用することで、有機化合物にアジド基を導入することができます。例えば、有機化合物が有用な脱離基を持つ場合、アジ化物イオンが求核攻撃することでSn2反応が進行し、立体反転を伴ってアジド基が導入されます。アジド基は銅触媒存在下で、アルキンと環化付加反応を起こすことが知られています。この反応は有機化合物に蛍光基などの機能性分子を連結させる際に極めて有用であることから、アジド基は有機化学の分野において非常に重要な官能基の1つです。
  • アミノ基の導入
    先述したアジド基は、別の重要な館嘔気であるアミノ基へと容易に変換できます。例えば、アジド基の導入後にパラジウム触媒を用いた接触水素還元を行うことで、窒素(N2)の脱離を伴いながらアジド基をアミノ基へと変換できます。またカルボン酸アジドの場合は、加熱するとクルチウス転位が起こることでイソシアネートが生成され、これを加水分解することでアミノ基を得ることができます。
  • 窒素ガス発生剤
    アジ化ナトリウムは爆発原料としても使用されています。以前までは、自動車の運転席側エアバックにおいて、衝突時などの衝撃で火薬を爆発させることで生じる高熱を利用して、アジ化ナトリウムを爆発させて窒素ガスを発生させる発生剤に使用されていました。しかし、リサイクルなどで漏出した同物質が酸と反応し有毒なアジ化水素を発生させるため、現在では代替品へと切り替わっています。
  • 防腐剤
    アジ化ナトリウムは市販の抗体に防腐剤として含まれていることがあります。これによって細菌の増殖を抑えることが可能になります。しかし、アジ化ナトリウムはホースラディッシュ・ペルオキシダーゼ (Horseradish peroxidase; HRP) という酵素の活性を阻害することから、HRPの標識抗体には含まれていません。
  • 溶存酸素 (DO) の測定
    水中の溶存酸素量 (DO) を測定する方法の1つに「ウィンクラー法」があります。この手法は、硫酸マンガン (Ⅱ) 水溶液をアルカリ処理することで得られる水酸化マンガン (Ⅱ) とDOが反応することで、褐色沈殿である亜マンガン酸 (H2MnO3) を生じさせる方法です。この方法を用いた際、水中の亜硝酸イオンがDOと反応してしまい正しい測定が出来ないおそれがありますが、アジ化ナトリウムを試料中に加えておくことで、亜硝酸イオンとDOの反応を抑制することが出来ます。

アジ化ナトリウムの反応性

アジ化ナトリウムは熱力学的に不安定な物質であるため、融点を超える温度によってナトリウムと窒素に分解します。これを利用して、先に述べたように過去にはエアバックで使用されていました。

またアジ化ナトリウムは、酸に反応し有毒で爆発性あるアジ化水素(HN3)を発生させます。

アジ化水素はアジ化ナトリウムと同等の毒性を発揮することに加えて、血管拡張や気管支炎を引き起こす恐れがあるため十分な注意が必要です。

アジ化ナトリウムの製法

工業的には、Wislicenus process と呼ばれる方法で製造されています。これは、液体アンモニウムからナトリウムアミド(NaNH2)を経て亜酸化窒素 (N2O) と反応させる製造法です。

参考文献

https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/26628-22-8.html
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/7782-79-8.html