アジ化ナトリウムとは
アジ化ナトリウム (Sodium Azide) とは、分子式NaN3で表される、常温で白色の結晶性の粉末の物質です。分子量は65.01であり、比重は1.85、沸点は約300℃、融点は275℃です。
アジ化ナトリウムの性質
アジ化ナトリウムは水や液体アンモニアにはよく溶けますが、エタノールやエーテルには難溶です。
金属と触れると爆発する危険性があるため、秤量する際はプラスチック製のスパーテルを使用することが推奨されます。
消防法では第5類自己反応性物質として、労働安全衛生法の名称等を表示すべき危険有害物に指定、さらに毒物及び劇物取締法でも毒物に指定されています。
アジ化ナトリウムを吸入または経口ばく露した場合、めまいや呼吸困難、痙攣などの症状を引き起こす恐れがあります。取り扱い場合は、火災や爆発、ばく露に注意することが必要です。
アジ化ナトリウムの使用用途
アジ化ナトリウムの主な使用用途には以下の5つがあります。
- アジド基の導入
アジ化ナトリウムはアジ化物イオンとナトリウムイオンで構成される塩です。そのため、アジ化物イオンの求核性を利用することで、有機化合物にアジド基を導入することができます。例えば、有機化合物が有用な脱離基を持つ場合、アジ化物イオンが求核攻撃することでSn2反応が進行し、立体反転を伴ってアジド基が導入されます。アジド基は銅触媒存在下で、アルキンと環化付加反応を起こすことが知られています。この反応は有機化合物に蛍光基などの機能性分子を連結させる際に極めて有用であることから、アジド基は有機化学の分野において非常に重要な官能基の1つです。
- アミノ基の導入
先述したアジド基は、別の重要な館嘔気であるアミノ基へと容易に変換できます。例えば、アジド基の導入後にパラジウム触媒を用いた接触水素還元を行うことで、窒素(N2)の脱離を伴いながらアジド基をアミノ基へと変換できます。またカルボン酸アジドの場合は、加熱するとクルチウス転位が起こることでイソシアネートが生成され、これを加水分解することでアミノ基を得ることができます。
- 窒素ガス発生剤
アジ化ナトリウムは爆発原料としても使用されています。以前までは、自動車の運転席側エアバックにおいて、衝突時などの衝撃で火薬を爆発させることで生じる高熱を利用して、アジ化ナトリウムを爆発させて窒素ガスを発生させる発生剤に使用されていました。しかし、リサイクルなどで漏出した同物質が酸と反応し有毒なアジ化水素を発生させるため、現在では代替品へと切り替わっています。 - 防腐剤
アジ化ナトリウムは市販の抗体に防腐剤として含まれていることがあります。これによって細菌の増殖を抑えることが可能になります。しかし、アジ化ナトリウムはホースラディッシュ・ペルオキシダーゼ (Horseradish peroxidase; HRP) という酵素の活性を阻害することから、HRPの標識抗体には含まれていません。 - 溶存酸素 (DO) の測定
水中の溶存酸素量 (DO) を測定する方法の1つに「ウィンクラー法」があります。この手法は、硫酸マンガン (Ⅱ) 水溶液をアルカリ処理することで得られる水酸化マンガン (Ⅱ) とDOが反応することで、褐色沈殿である亜マンガン酸 (H2MnO3) を生じさせる方法です。この方法を用いた際、水中の亜硝酸イオンがDOと反応してしまい正しい測定が出来ないおそれがありますが、アジ化ナトリウムを試料中に加えておくことで、亜硝酸イオンとDOの反応を抑制することが出来ます。
アジ化ナトリウムの反応性
アジ化ナトリウムは熱力学的に不安定な物質であるため、融点を超える温度によってナトリウムと窒素に分解します。これを利用して、先に述べたように過去にはエアバックで使用されていました。
またアジ化ナトリウムは、酸に反応し有毒で爆発性あるアジ化水素(HN3)を発生させます。
アジ化水素はアジ化ナトリウムと同等の毒性を発揮することに加えて、血管拡張や気管支炎を引き起こす恐れがあるため十分な注意が必要です。
アジ化ナトリウムの製法
工業的には、Wislicenus process と呼ばれる方法で製造されています。これは、液体アンモニウムからナトリウムアミド(NaNH2)を経て亜酸化窒素 (N2O) と反応させる製造法です。
参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/26628-22-8.html
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/7782-79-8.html