アセトアニリドとは
図1. アセトアニリドの基本情報
アセトアニリド (Acetanilide) とは、化学式C8H9NOおよび示性式C6H5NHCOCH3で表される有機化合物です。
IUPAC命名法による名称はN-フェニルアセトアミドであり、N-アセチルアニリンやN-アセチルベンゼンアミン、アセタニルなどの別名もあります。この物質のCAS登録番号は103-84-4です。
物理的な性質としては、分子量135.16、融点114~117℃、沸点304~305℃です。常温では白色の粉末または板状結晶として存在し、エステルのような独特の臭いがあります。また、密度は1.219g/cm3で、エタノールやアセトンなどによく溶け、ジエチルエーテルやベンゼン、トルエンにも溶けることができます。一方で、分子の極性が高くないため水にはほとんど溶けず、その溶解度は20℃で5.2g/kgですが、熱水には溶解する特性があります。
アセトアニリドの使用用途
図2. アセトアニリドの関連物質
アセトアニリドは多岐にわたる用途で使用されており、化学合成や研究、工業製品の原料として重要な役割を果たしています。以下に、その主な用途を詳しく説明します。
1. 有機化合物の合成原料
アセトアニリドは、染料、色素、医薬品、繊維などのさまざまな有機化合物の合成に使用される合成原料です。具体的には、過酸化水素の安定剤やゴム加硫促進剤としての役割を担い、トナーのアゾ顔料としても利用されています。
2. 医薬品原料としての利用
医薬品としては、アセトアニリドはサルファ剤の中間体である4-アセトアミドベンゼンスルホニルアジドの製造に原料として使用されます。また、解熱鎮痛作用があるアセトアミノフェンと同属の薬品として知られ、過去には「アンチヘブリン」という名称の大衆薬として販売されていました。
しかし、アセトアニリドには毒性があることが後に明らかになりました。メトヘモグロビン血症の原因となり、肝臓や腎臓への損傷、血球破壊、けいれんなどの中毒症状を引き起こす事例が多数確認されています。そのため、現在ではより毒性の低い化合物であるアセトアミノフェンなどが主に使用されており、アセトアニリドの医薬品としての利用はあまり見られません。
3. 研究用途としての活用
アセトアニリドは、研究試薬としても広く利用されています。特に元素分析における標準品として高い需要があります。元素分析に使用される際には、高純度の試薬が必要とされ、試験結果の精度を高めるために利用されています。
アセトアニリドの性質
1. 化学的性質
アセトアニリドは空気中では比較的安定した化合物ですが、強酸化剤や強塩基とは激しく反応するため取り扱いには注意が必要で、これらの物質との混触を避けて保管することが求められます。また、引火点は161℃であり、545℃以上に加熱されると発火するとされています。
アセトアニリドを安全に保管するためには、直射日光や湿気を避け、密閉容器で管理することが推奨されます。
2. 溶解性
アセトアニリドの溶解性は、用途によっても注目されています。水への溶解度が低いため、水性溶液での反応には不向きですが、有機溶剤に溶解しやすいため、有機合成における試薬として広く使用されています。
アセトアニリドの種類
アセトアニリドは、主に試薬メーカーから研究用の試薬製品として販売されています。販売される容量には、1g、5g、100g、500g、1kgといった選択肢があり、用途や規模に応じて適切なサイズを選ぶことが可能です。また、製品の純度もさまざまであり、特に分析用には高純度品が使用されます。
この化合物は、通常の有機合成に加えて、高度な分析技術や研究分野でも活用されています。薬物とタンパク質結合のアフィニティキャピラリ電気泳動の研究で使用されることや、元素分析を行う場合に標準品として利用されることもあり、これらの用途では正確性が重視されるため、高品質な製品が求められます。
アセトアニリドのその他情報
1. アセトアニリドの合成
図3. アセトアニリドの合成反応
アセトアニリドは、アニリンのアセチル化によって合成されます。一般的には無水酢酸がアセチル化剤として使用されますが、アニリニウム塩や塩化アセチルを使用することも可能です。
アニリンと無水酢酸の反応は、典型的なアミド形成反応の一例であり、化学の学習において頻繁に取り上げられる基本的なプロセスです。
2. アセトアニリドの代表的な化学反応
アセトアニリドをニトロ化すると、ニトロアセトアニリドが生成されます。この反応は、芳香族求核置換反応の一例であり、オルト位およびパラ位への配向性が特徴です。その結果、2-ニトロアセトアニリドと4-ニトロアセトアニリドの両方が生成されます。
特に4-ニトロアセトアニリドは、染料の原料として利用される重要な化学物質です。また、2-ニトロアセトアニリドと4-ニトロアセトアニリドは、酸処理によってアセチル基を除去することで、それぞれ2-ニトロアニリンと4-ニトロアニリンを得ることができます。
さらに、アセトアニリドが医薬品として使用された場合、アセトアミノフェンがその代謝産物として生成されることが報告により示唆されています。