アゾベンゼン

アゾベンゼンとは

アゾベンゼンの構造

アゾベンゼン (Azobenzene) とは、2個のベンゼン環がアゾ基、即ち窒素-窒素二重結合で繋がった構造をしている有機化合物です。

IUPAC命名法では、ジフェニルジアゼンと表されます。これは、ジアゼン (diazene、H-N=N-H) の2個の水素をそれぞれフェニル基に置き換えたものと見なしていることによる命名です。CAS登録番号は103-33-3、分子量は182.22です。

アゾベンゼンは融点68℃、沸点293℃であり、常温では固体です。水には難溶で、エーテルやベンゼン、アルコールなどの有機溶媒に溶解します。消防法や毒劇法などには特段指定のない化合物です。

また、アゾベンゼンの構造を含む、ベンゼン環上にさまざまな官能基を持つ芳香族アゾ化合物群を、総称してアゾベンゼンと呼ぶ場合もあります。

アゾベンゼンの使用用途

アゾベンゼンは、可視光を吸収する特性があるため、誘導体も含めて、色素、顔料や染料などとして広く用いられてきました。棒状の構造から、液晶のメソゲン基としても用いられます。

また、アゾベンゼン及びその誘導体は、光照射によってトランス型→シス型の異性化を起こす分子です。このように、光照射によって分子量を変えることなく分子構造が変化する化合物は、「フォトクロミック化合物」と呼ばれています。光応答性機能材料として調光材料、光記録材料、光スイッチ、機能性インクなどさまざまな分野での応用が期待されています。

アゾベンゼンの原理

アゾベンゼンの原理を性質と化学反応の観点から解説します。

1. アゾベンゼンの性質

アゾベンゼンの光異性化 及び 熱異性化

アゾベンゼン及びその誘導体は、紫外可視領域の光を強く吸収し、色素として用いることができるという特徴があります。無置換のアゾベンゼンは、可視領域の弱いn-π*吸収と紫外領域の強いπ-π*吸収を示し、トランス体 (trans) は黄色、シス体 (cis) は橙色です。

アゾベンゼンにはシス、トランスの配座異性体が存在しますが、シス体は通常トランス体よりも不安定です。理由の一つとして、シス体は2つのベンゼン環同士の立体反発により歪んだ構造をしているため、共役による安定化が弱まっていることが挙げられます。

しかし、光照射や加熱によって、この2種類の異性体の比率を制御することができます。これがアゾベンゼンの光異性化、及び熱異性化です。トランス体のアゾベンゼンに波長300–400nmの可視光を照射するとシス体に変化しますが、シス体に400nm以上の光を照射するとトランス体に戻ります。

また、シス体は加熱によってもトランス体に変化させることができます (T型のフォトクロミック分子)。尚、トランス体は約50kJ/mol程シス体よりも安定であり、光異性化反応におけるエネルギー障壁は200kJ/mol程度です。

2. アゾベンゼンの化学反応

アゾベンゼンの各種反応

アゾベンゼンは、ニトロベンゼン塩化スズ (II) と水酸化ナトリウムと反応させる、もしくはナトリウムアマルガムと反応させる方法により、合成することが可能です。酸化によってアゾキシベンゼンを与え、水素添加によって1,2-ジフェニルヒドラジンが生成します。

また、金属の配位子としても知られており、代表的な金属錯体はニッケルとの錯体である、Ni(Ph2N2)(PPh3)2です。

アゾベンゼンの種類

一般に販売されているアゾベンゼンの種類としては、一般的な試薬製品のほか、融点測定用標準試料があります。市販品には、500mg、1g、25g、100g、500gなどの容量があります。

また、アゾベンゼン及びその誘導体は、色素としても広く利用されています。代表的なものは、メチルレッド、メチルオレンジ、などの化合物です。

無置換のアゾベンゼンと異なり、誘導体はジアゾカップリングで合成されることが一般的です。これは、置換基によって芳香環が電子豊富になっており、芳香族求電子置換反応が進みやすくなっていることが理由として挙げられます。

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