アドレナリン

アドレナリンとは

アドレナリンの基本情報

図1 アドレナリンの基本情報

アドレナリン (Adrenaline) とは、分子式C9H13NO3で表される有機化合物であり、カテコールアミンの一種です。

生理学的には副腎から分泌されるホルモンであり、神経節や脳神経系における神経伝達物質でもあります。CAS登録番号は、51-43-4です。

「アドレナリン」は米名ですが、英名である「エピネフリン」 (Epinephrine) と呼ばれる場合もあります。大まかに分けると、生物学分野ではアドレナリンと呼ばれることが多く、医学分野ではエピネフリンと呼ばれていることが多いです。ただし、欧州薬局方では「アドレナリン」が採用されており、日本薬局方においても2006年4月より一般名がエピネフリンからアドレナリンに変更されています。

分子量は183.20、融点は215℃であり、常温では白色から褐色の粉末状固体です。空気から光によって次第に褐色となります。薄めた塩酸には溶けますが、水に極めて溶けにくい物質であり、エタノールや、ジエチルエーテルクロロホルムなどの有機溶媒にはほとんど溶けません。キラル化合物ですが、通常はR体 (-体) を指します。

生体においては、一般的に、強いストレス状態や興奮状態となった時に分泌することが知られています。

アドレナリンの使用用途

アドレナリンは、体内でホルモンとして分泌されているだけではなく、医薬品として製造販売されています。臨床用製剤の主な効能・効果には、下記のようなものがあります。特にアナフィラキシー反応に対する治療については、自己注射も可能であり、発症する懸念がある人に処方されています。

  • 蜂毒、食物及び薬物等に起因するアナフィラキシー反応に対する補助治療
  • 気管支喘息、百日咳の気管支痙攣の緩解
  • 急性低血圧又はショック時の補助治療、心停止の補助治療
  • 局所麻酔薬の作用の延長
  • 手術時の局所出血の予防と治療
  • 耳鼻咽頭科における局所出血及び粘膜の充血・腫脹の治療
  • 外創における局所出血の治療
  • 歯科治療における浸潤麻酔又は伝達麻酔

臨床以外の用途では、研究開発用試薬として有機合成化学や生化学の分野で使用される場合があります。

アドレナリンの性質

1. アドレナリンの合成

アドレナリンの生合成経路

図2. アドレナリンの生合成経路

アドレナリンはカテコールアミンの一つです。生合成経路では、L-チロシンからL-ドーパを経て順にドパミン、ノルアドレナリン (ノルエピネフリン) 、アドレナリン (エピネフリン) の順で合成されます。

2. アドレナリンの生理学的作用

アドレナリンの主な生理学的作用

図3. アドレナリンの主な生理学的作用

アドレナリンは、交感神経α及びβアドレナリン受容体に作用し、交感神経を興奮させる働きがあります。主な作用の例として下記のものが挙げられます。

  • 心臓における強心作用: 心拍数、心筋収縮力及び心拍出量を増加させる (β1 刺激作用) 
  • 皮膚及び粘膜の血管を収縮させる作用 (α1 刺激作用) 
  • 骨格筋及び内臓や心臓冠動脈の血管を拡張させる作用 (β2 刺激作用) 
  • 気管支平滑筋を弛緩し、気管支を拡張させる作用 (β2 刺激作用) 

また、α遮断作用のある薬との併用はアドレナリンの作用を逆転させ、急激な血圧降下を起こす可能性があるため禁忌とされています。具体的な薬剤の例としては、下記の抗精神病薬が挙げられます。

  • ブチロフェノン系薬剤
  • フェノチアジン系薬剤
  • イミノジベンジル系薬剤
  • ゾテピン
  • セロトニン・ドパミン拮抗薬
  • ドパミン受容体部分作動薬

尚、ここに記載されていない薬剤でも、α遮断作用のある薬剤は原則的に併用禁忌です。ただし、アナフィラキシーショックの救急治療の際には、アドレナリンが投与される場合があります。

アドレナリンの種類

現在市販されているアドレナリン製品の種類には、主に臨床用の医薬品と研究開発用試薬とがあります。臨床用の医薬品は、主に注射剤として販売されている他、気管支喘息などの治療では吸入薬として用いられることもある薬剤です。

様々なメーカーから、様々な用量・濃度の製品が発売されており、適切なものが選ばれます。代表的な商品名は、「エピスタ」「ボスミン」「エピペン」です。いずれも処方箋が必要な薬剤です。

研究開発用では、輸送は室温で良いものの冷蔵保管が必要な試薬として扱われます。1g , 5g , 10gなどの容量があります。キラル化合物ですが、通常市販されているものはR体です。また、塩酸塩も試薬として販売されています。

参考文献
https://www.mhlw.go.jp/

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