アデニンとは
図1. アデニンの構造
アデニン (Adenine) とは、プリン骨格を持つ有機化合物の一種です。
アデニンは、核酸を構成する5種類の塩基のうちの1つであり、生体内に広く分布する極めて重要な有機化合物です。
別名として6-アミノプリン (6-Aminopurine) とも呼ばれ、IUPAC命名法では9H-Purin-6-amineと表記されます。理論的には1H・3H・7H・9H体の互変異性体をとることが可能ですが、気相などの孤立状態ではほとんど9H体として存在するため、ここでは9H体を基準に説明します。
アデニンの使用用途
アデニンは、DNAやRNAといった核酸を構成する基本成分の一つです。そのため、医薬品としての用途があり、放射線照射や薬物療法に伴う白血球減少症の治療に用いられています。また、悪性腫瘍に対する放射線治療や化学療法中に発生する白血球減少症の改善を目的に用いられています。
また、産業分野での応用も研究が進んでおり、半導体基板の洗浄後における腐食防止効果が確認されています。今後さらなる活用が期待されるところです。さらに、魚類の性識別技術にも応用が可能であることが報告されており、生物学的な分野でも新たな展開が模索されています。
アデニンの原理
アデニンの原理を性質と合成の観点から解説します。
1. アデニンの性質
図2. アデニンの様々な性質
アデニンの性質については、主に化学的性質と核酸内での働きに焦点が当てられます。本物質は塩基としての性質を持ち、酸解離定数 (pKa) は4.15および9.08です。生理的条件 (pH 約7)下では1位の窒素原子における水素の受容反応が限定的に起きるため、環境の pH に大きな影響を与えることはありません。
分子式はC5H5N5、分子量は135.13、融点は360℃ (分解) 、密度は1.6 g/cm3であり、常温では無色または淡黄色の固体として存在します。水にはほとんど溶けず、エタノールやアセトンにも溶解しにくい性質を持ちます。ただし、両性物質であるため、希塩酸などの酸や水酸化ナトリウム水溶液、アンモニア水などのアルカリには容易に溶解する性質があります。CAS登録番号は73-24-5です。
生体内でDNA (Deoxyribonucleic Acid) やRNA (Ribonucleic Acid) に組み込まれる際は、ヌクレオシドとしてアデノシン及びデオキシアデノシンが形成されます。DNAにおいてはチミン、RNAにおいてはウラシルと相補的に結合し、二つの水素結合を形成します。また、補酵素A (CoA) 、フラビンアデニンジヌクレオチド (FAD) 、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド (NAD) の構成成分でもあり、エネルギー代謝に重要なATP (アデノシン三リン酸) の塩基部分として機能するため、生命活動において極めて重要な役割を果たします。
生体内の遺伝情報を構成する重要な成分であるため、アデニンは労働安全衛生法において「変異原性が認められた化学物質等」に指定されています。消防法や毒物及び劇物取締法、PRTR法などの法規制には該当しませんが、安全管理体制の整備が不可欠です。
2. アデニンの合成
図3. アデニンの合成
アデニンの合成は、体内のプリン代謝に基づく生合成プロセスを経ます。具体的には、リボース-5-リン酸を起点として、グリシン、グルタミン、アスパラギン酸、テトラヒドロ葉酸などを用いてイノシン酸 (IMP) に変換され、その後、アデニル酸 (AMP) やグアニル酸 (GMP) へと変換されます。AMPはRNAの構成成分となるほか、リン酸化されてATPとなり、エネルギー代謝にも関与します。
工業的には、密閉容器内でホルムアミドを120℃で5時間加熱することにより合成が可能です。さらに、酸触媒として塩化ホスホリル (POCl3) や五塩化リン (PCl5) を使用すると、収率を向上させることができます。
アデニンの種類
アデニンは、放射線照射や薬物療法に伴う白血球減少症の医薬品として承認されており、錠剤の形で販売されています。1錠あたり10mgの含有量で調整され、購入には医師の処方箋が必要となります。
また、研究用途としての試薬も販売されており、化学・生化学分野だけでなく、植物組織培養や植物成長制御、器官分化制御などの分野でも利用されています。研究用試薬の純度は95%または99%の高純度製品があり、包装単位として1g、25g、100g、250gなどが販売されています。
アデニンは室温保存が可能ですが、光により変質する恐れがあります。さらに、分解時には有害なガスが発生することが知られており、主な分解生成物には一酸化炭素 (CO) 、二酸化炭素 (CO2) 、窒素酸化物 (NOx) などが含まれます。そのため、取り扱いには十分な注意が必要です。