アデニン

アデニンとは

アデニンの構造

アデニン (Adenine) とは、プリン骨格を持った有機化合物の一つです。

別名6-アミノプリン (6-Aminopurine) 、IUPAC命名法では9H-Purin-6-amineです。理論上は1H・3H・7H・9H体の互変異性体をとることができますが、気相などの孤立条件下で確認されるのはほぼ9H体であるため、本項でも9H体として取り扱います。

核酸を構成する5種類の塩基のうちの1つであり、生体内に広く存在します。分子式はC5H5N5、分子量135.13、融点360℃ (分解) 、密度1.6 g/cm3の、常温では無色もしくは淡黄色の固体です。水に対して難溶で、エタノールアセトンにも溶けにくい物質です。ただし、両性物質のため、希塩酸などの酸、及び、水酸化ナトリウム水溶液やアンモニア水などのアルカリによく溶けます。CAS 登録番号は73-24-5です。

アデニンは生体遺伝子に含まれる化合物であるため、労働安全衛生法では「変異原性が認められた化学物質等」に指定されています。その他、消防法、毒物及び劇物取締法やPRTR法などの法規制には該当しません。

アデニンの使用用途

アデニンは、遺伝子に含まれるDNAやRNAなどの核酸を構成する物質です。そのため、放射線曝射ないし薬物による白血球減少症に対する医薬品として、認可されています。悪性腫瘍の放射線療法及び化学療法時に起こる白血球減少症の治療に対して用いられます。

アデニンは、半導体基板製造時の洗浄後の腐食防止効果を示すことなどが研究で知られており、現在産業分野への活用も模索されているところです。魚類の性識別などの活用方法も報告されています。

アデニンの原理

アデニンの原理を性質と合成の観点から解説します。

1. アデニンの性質

アデニンの様々な性質

アデニンは塩基として働きますが、酸解離定数 pKaは4.15、9.08です。即ち、1位の窒素原子が水素を受け取る反応のpKaが4.15であるため、生理的条件 (pH 7程度) では溶液を塩基性側に傾けるような効果はありません。

生体内ではDNA (デオキシリボ核酸) 、RNA (リボ核酸) を構成するプリン塩基です。対応するヌクレオシドは、アデノシン (A) 及びデオキシアデノシン (dA) となります。DNAではチミンと、RNAではウラシルと、それぞれ2つの水素結合を介して相補的に会合します。

また、アデニンは補酵素A、FAD、NADの構成成分であり、エネルギー物質ATPの塩基部分であるため、非常に重要度の高い核酸塩基です。

2. アデニンの合成

アデニンの合成

アデニン骨格を含むヌクレオシドは、生体内ではプリン代謝によって生合成されます。この合成経路は、まずリボース-5-リン酸をグリシン・グルタミン・アスパラギン酸・テトラヒドロ葉酸などを用いてイノシン酸 (IMP) に変換する経路です。アデニル酸 (AMP) やグアノシン一リン酸 (GMP) を合成します。

工業的製法においては、密閉容器でホルムアミドを120℃で5時間加熱することで合成できます。この反応では、塩化ホスホリル (POCl3) または五塩化リン (PCl5) を酸触媒として用いることにより、収量の増加が可能です。

アデニンの種類

アデニンは、放射線曝射や薬物による白血球減少症に対する医薬品として承認されていることから、錠剤として販売されています。1錠にアデニン10mgを含みます。購入には処方箋が必要な薬剤です。

その他には、研究用試薬としても販売されています。主な用途は、一般的な化学・生化学の他、培養工学における植物組織培養・植物生長制御試薬・器官分化制御剤などです。95%または99%の純度で製品化されており、包装単位には、1g, 25g, 100g, 250gなどがあります。

室温保存可能な化合物ですが、光により変質する恐れがあるとされています。また、有害な分解生成物として、一酸化炭素 (CO) 、二酸化炭素 (CO2) 、窒素酸化物 (NOx) が挙げられているため、留意が必要です。

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