アセトニトリル

アセトニトリルとは

アセトニトリル(Acetonitrile)とは、CAS RN®75-05-8の無色透明の液体です。化学的に安定しており、水やアルコールによく溶け、多くの有機化合物を溶かす性質を持つことから産業上欠かせない物質となっています。

アセトニトリルは、分子式C₂H₃N、分子量41.05、沸点81.6℃、融点-45℃、比重0.783で、誘電率が37.5と高く、水と良く混ざります。化学構造は疎水性のメチル基CH3と分極しているニトリルCNから成り、疎水性と誘電率(極性)を併せ持つ分子で、極性溶媒でありながら水酸基を有さない溶媒であるpolar aprotic solventの一つです。

常温で引火することから消防法(危険物第四類第1石油類の水溶性液体)、労働安全衛生法、船舶安全法及び航空法で引火性の化学物質として扱われます。また、毒物及び劇物取締法で劇物に指定され、PRTR法で第1種指定化学物質となっています。

健康に対する有害性があるため、適切に管理して用いる必要があります。吸入する可能性があるほか、経皮吸収性があるため、手袋などの保護具による防護が必要です。

アセトニトリルの使用用途

ここでは、アセトニトリルの使用用途を3つ紹介します。

1. 溶媒・分析用試薬

アセトニトリルは、有機合成反応や精製に用いる溶媒、分析用試薬として利用されています。溶媒としての利点の一つは、水や有機溶剤との均一混合が可能で、多くの化合物を溶解できる点にあります。特に、逆相系HPLCで汎用される担体に含まれるオクタデシル基担体をよく溶媒和することから、HPLC溶媒として優れた性能を有します。

UV吸収が少ないため、UV検出と組み合わせたHPLCにおいて、分析時の背景信号が低く、良好なクロマトグラムを与えます。メタノールもHPLCによく使われる溶媒ですが、アセトニトリルはメタノールに比べ分離能力に優れるほか、粘度が低いため、使用時の圧力が低くなる点でも優れています。

2. 極性物質の溶解

polar aprotic solventとして水を用いないで極性物質を溶解することにも使われます。例えば、AlCl3やPOCl3を使う非水反応など、水が共存してはいけない反応において、溶媒に利用されます。溶媒としてのもう一つの利点は、誘電性が高い溶媒であるために、有機合成反応の反応速度を高めることが可能で、溶媒として反応場を提供するのに使えます。

3. 農薬や医薬など

その他のニトリル化合物と同じように、シアノ基の反応性を活かした有機合成用の原料として、農薬や医薬をはじめ、染料、合成樹脂改質剤、エポキシ樹脂硬化剤などに利用されています。さらにアセトニトリルは多くの有機溶媒と2成分系共沸混合物を形成することから、石油精製分野での抽出蒸留溶媒としても活躍の場を広げています。具体的には、パラフィン-オレフィン混合物からオレフィンを分離・精製する工程です。

今後は二次電池の電解液や有機EL材料合成用溶媒への応用のほか、電子部品の洗浄に用いることも期待されていると言われています。また、DNA合成・精製溶媒としても期待されています。

アセトニトリルの種類

アセトニトリルの多様な用途を反映し、用途に適合するように不純物を制御した製品が提供されています。分析用試薬としてはHPLC用、LC/MS用、残留農薬・PCB試験用などがあります。

アセトニトリルのその他情報

アセトニトリルの供給問題

アセトニトリルは、工業的に大部分がアクリロニトリル生産時の副生物として得られています。アクリロニトリルは自動車部品のABS樹脂に多く使われているため、自動車産業の減産や生産調整があると、アクリロニトリルの副生物であるアセトニトリルも供給が減少し、品薄になる傾向にあります。

最近では、2020年の新型コロナウイルス感染症の世界的流行によって、自動車工場の操業が出来なくなったときにも、アセトニトリルの供給懸念が浮かび上がりました。そのため、アセトニトリルの取り扱い会社では、原料確保の取り組み、自社工場の立ち上げ、別の合成法の検討など、安定供給に全力を尽くしています。

一方、HPLCメーカーでは溶媒使用量の少ない装置を開発し、アセトニトリルの供給問題がユーザーの事業に影響しにくくなるように努力しています。

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