ジイソプロピルアミン

ジイソプロピルアミンとは

ジイソプロピルアミン (英: Diisopropylamine) とは、二級アミンに分類される有機化合物です。

示性式は(CH3)2HC-NH-CH(CH3)2と表記されます。常温ではアミン臭又はアンモニア類似臭を呈す、無色透明の液体です。CAS登録番号は108-18-9です。

引火性があるため、消防法により、「危険物第4類」「第一石油類」として定められています。

ジイソプロピルアミンの使用用途

ジイソプロピルアミンは、医薬品や染料中間体、ゴム薬品、除草剤、界面活性剤などの有機合成原料として幅広く利用されている物質です。ゴム薬品としては、ゴムの成形加工において老化防止剤として添加されています。これにより、熱、光、オゾンにより引き起こされる化学反応に伴うゴムの劣化を防止しています。

また、除草剤としては、オーキシン様作用を有するホルモン型の選択性除草剤として利用されている物質です。ただし、あくまでも農地以外での除草目的で使用します。

ジイソプロピルアミンの性質

ジイソプロピルアミンの基本情報

図1. ジイソプロピルアミンの基本情報

化学式C6H15N、融点-61℃、沸点84℃であり、常温では無色透明の液体です。アミン臭又はアンモニア類似臭を呈します。分子量は101.193、密度は0.722g/mL、塩基解離定数pKbは3.43、共役酸の酸解離定数pKaは11.07 (水中) です。

エタノール、アセトンをはじめとする有機溶媒に溶解し、具体的にはメタノール、エーテル、酢酸エチル、芳香族及び脂肪族炭化水素、脂肪酸、鉱油、固形油などと混和します。水にも可溶です。

ジイソプロピルアミンの種類

ジイソプロピルアミンは、通常、研究開発用試薬製品として一般に販売されています。容量の種類には、25mL、100mL、500mL、2.5Lなどがあり、メーカーによって異なる容量規格の提供です。

通常、室温で取り扱い可能な試薬製品として扱われます。試薬製品は、研究開発用途以外での使用を行うことはできません。また、消防法をはじめとした各種法令を遵守して扱うことが必要です。

ジイソプロピルアミンのその他情報

1. ジイソプロピルアミンの反応性

ジイソプロピルアミンは通常の取り扱い条件においては安定な物質ですが、酸化剤とは激しく反応して火災や爆発をもたらす危険性があります。有機塩化物、ニトリル、酸化物など多くの化合物と反応する物質です。

また、亜鉛、ならびにこれらの合金、亜鉛メッキ鋼、アルミ二ウムに対しては腐食性を示し、水素ガスを発生します。加熱や燃焼により、一酸化炭素、二酸化炭素、窒素酸化物など、有毒で腐食性のヒュームやガスを発生します。

2. ジイソプロピルアミンの合成

ジイソプロピルアミンの合成

図2. ジイソプロピルアミンの合成

ジイソプロピルアミンは、アセトンの還元的アミノ化反応により合成することが可能です。原料のアセトンに対して、水素ガス雰囲気下でアンモニアを反応剤とし、亜クロム酸銅などの触媒が用いられます。

水酸化カリウム存在下で蒸留精製し、ナトリウム存在下、不活性ガス雰囲気化で保管可能です。

3. リチウムジイソプロピルアミド (LDA) の調製

LDAの調製

図3. LDAの調製

ジイソプロピルアミンの有機合成的に重要な用途の1つに、リチウムジイソプロピルアミド (LDA) の調製があります。リチウムジイソプロピルアミド (LDA) は、強力な塩基として有機合成にしばしば用いられる物質です。

THF中での酸解離定数pKaは約34であり、アルコールやカルボニル化合物など、ほとんどの酸性プロトンの引き抜きを行うことができます。

LDAを反応に用いる一般的な方法は次の通りです。

  • ドライアイス/アセトン浴 (あるいはドライアイス/メタノール浴、−78℃) において、テトラヒドロフラン (THF) 溶液中、ジイソプロピルアミンに対して1モル当量の n-ブチルリチウム (ヘキサン溶液など) を加える
  • 反応混合物を15分かけて 0℃まで温め、 in situ でLDA溶液を調製する
  • 続く反応で用いる

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/0757.html

ジペンタエリスリトール

ジペンタエリスリトールとは

ジペンタエリスリトールとは、多価アルコール類の1種で、常温では固体であり白色無臭です。

エステル化反応によって一般的な有機酸と結合しやすい、吸湿性が低い、および、空気中で安定であるという特徴があります。ジペンタエリスリトールは、文字通り2つのペンタエリスリトールが結合したような分子構造を有します。

ペンタエリスリトールは、糖アルコールに分類される有機化合物です。英語から日本語への翻訳の影響により、「エリスリトール」は「エリトリトール」と称される場合もあります。ジペンタエリスリトールは、ホルムアルデヒドアセトアルデヒドとを、アルカリの存在下で反応させると、ペンタエリスリトールと共に生成されます。

一般的には、ペンタエリスリトールを製造するときの副生成物です。工業的には、生成したペンタエリスリトールおよびジペンタエリスリトールの混合物から、ジペンタエリスリトールを分離して精製することで得られます。

ジペンタエリスリトールの使用用途

ジペンタエリスリトールは、アルキド樹脂、ポリウレタン樹脂、ロジンエステル、合成潤滑剤、塩化ビニル可塑剤、界面活性剤、化粧品、架橋剤、または爆薬などの各原料として幅広く利用されています。

ジペンタエリスリトールを原料とするアルキド樹脂の用途は主に塗料です。ポリウレタン樹脂は、塗料や接着剤の他、繊維製品、スポンジ製品、自動車部品などに幅広く使用されています。ジペンタエリスリトールを用いて合成されたロジンエステルの主な用途は接着剤です。

また、塩化ビニル樹脂に、可塑剤として添加することにより、壁紙やホースなどの軟質塩化ビニル製品が作り出されます。ジペンタエリスリトールを原料として合成された架橋剤は、後述するように例えばジペンタエリスリトールヘキサアクリレートなどです。

ジペンタエリスリトールの性質

ジペンタエリスリトールの性質の1つは親水性です。分子中にヒドロキシ基 (-OH) を6つ有するため、分子量が比較的大きいにも関わらず水への溶解性を有します。言い換えると、分子中に6つのOH基を有するため有機化合物でありながら親水性が比較的高い物質です。

ジペンタエリスリトールは、20℃の水1Lあたり数g溶解します。ジペンタエリスリトールの融点は210℃~220℃程度であり、分子量は約254です。

ジペンタエリスリトールの構造

ジペンタエリスリトールの分子構造は、2つのペンタエリスリトールがつながっいています。ジペンタエリスリトールの化学式は、(HOCH2) 3CCH2OCH2C(CH2OH) 3です。

上述の通り、ジペンタエリスリトールは分子中に6つのヒドロキシ基 (-OH) を有します。ヒドロキシ基 (-OH) は合成反応によって比較的容易に他の物質と結合するため、ヒドロキシ基 (-OH) を6つ有するジペンタエリスリトールからさまざまな化合物を合成可能です。

ジペンタエリスリトールのその他情報

ジペンタエリスリトール構造を有する架橋剤

ジペンタエリスリトールを原料にして、架橋剤を合成できます。具体的には、ジペンタエリスリトールのヒドロキシ基 (-OH) と、アクリル酸またはメタクリル酸のカルボキシ基 (-COOH) とをエステル結合させると、いわゆる多官能型架橋剤が得られます。

この種の架橋剤の分子中には、重合反応できるアクリロイル基 (H2C=CH–C(=O)–) またはメタクリロイル基 (H2C=C(CH3)–C(=O)–) があります。よって、この種の架橋剤と重合用モノマーを併用することで、架橋された高分子化合物を合成可能です。

ジペンタエリスリトールのすべてのヒドロキシ基 (-OH) にアクリル酸がエステル結合した場合、分子中に6つのアクリロイル基を有する架橋剤が得られます。この架橋剤は、独立していた6つの分子鎖を互いに化学結合させることが可能です。したがって、架橋度の高い高分子化合物を製造できます。

このような架橋剤の具体例として、ジペンタエリスリトールトリアクリレート、ジペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートなどが挙げられます。

参考文献
https://www.nies.go.jp/kisplus/dtl/chem/JPN00296

ジプロピレングリコール

ジプロピレングリコールとは

ジプロピレングリコールとは、二価アルコールの1種で、常温で粘性を有する無色の液体です。

融点は-40℃であり、沸点は231.8℃です。2個のプロピレングリコール (PG) が脱水縮合したような分子構造を有します。ジプロピレングリコールは、消防法において「危険物第4類」「第三石油類」に指定されています。

以前、ジプロピレングリコールは、プロピレンオキサイド (PO) 水和反応を用いてプロピレングリコール (PG) を製造する際に発生する副反応生成物でした。近年、ジプロピレングリコールの需要が増えていることから、PG生産における副反応頼らなくてもジプロピレングリコールを製造できる方法が実用化されつつあります。

ジプロピレングリコールの使用用途

ジプロピレングリコールの使用用途は、繊維強化プラスチック (FRP) などの材料である不飽和ポリエステル樹脂の原料、安息香酸エステル系可塑剤のグリコール成分としての原料、または化粧品の原料などです。

ジプロピレングリコールは、特に化粧品の分野において、角層水分量を増加させるための保湿剤または防腐剤の目的で使用されています。ジプロピレングリコールが使用される化粧品を列挙すると、以下のとおりです。

  • スキンケア化粧品
  • メイクアップ化粧品
  • 化粧下地
  • シート&マスク製品
  • 日焼け止め
  • 洗顔石鹸
  • シャンプーやコンディショナー
  • ヘアカラー
  • ヘアスタイリング剤
  • ネイル剤
  • 香水

ジプロピレングリコールの性質

ジプロピレングリコールの特徴は、有機化合物でありながら親水性が高い点です。有機物でありながら分子内に水酸基 (-OH) およびエーテル基 (-O-) の両方を有するため、親水性化合物の性質を有します。

ジプロピレングリコールは、水と完全に混ざり合って溶解します。アルコールなどの極性有機溶媒にも溶解しやすい物質です。

ジプロピレングリコールの分子構造

ジプロピレングリコールの分子構造は、文字通り2つのプロピレングリコールがつながったような構造です。具体的には、2つのプロピレングリコールの-OH基が互いに脱水縮合したような分子構造をとっています。分子鎖の両端部にそれぞれ-OHがあり、両端部の間には1つのエーテル結合が炭化水素を挟んで配置されています。

分子式で単純に示すとHO (C3H6O) 2Hとなりますが、カッコ内の部分は直鎖ではなく一般的には分岐鎖です。プロピレングリコールには、3つの炭素 (C-C-C) のうちどの2つの炭素に-OH基が付いているかによって分子構造が異なる異性体が含まれています。

このようなプロピレングリコール同士を脱水縮合反応させたと仮定すると、-OH基の反応パターンによってさまざまなジプロピレングリコールの異性体が生じます。したがって、工業原料として使用されるジプロピレングリコールは、通常各種異性体が混ざった混合物です。

ジプロピレングリコールのその他情報

ジプロピレングリコールの製造方法

ジプロピレングリコールは、プロピレングリコールまたはトリプロピレングリコールと同様に、一般的にはプロピレンオキサイドから製造されます。具体的には、水の存在下でプロピレンオキサイドを開環させることによって得られます。

この製造法ではプロピレングリコールが主産物として得られる一方で、ジプロピレングリコールは副産物として得られるのが特徴です。したがって、ジプロピレングリコールは必ずしも多量に製造されているわけではありません。

ジプロピレングリコールだけを特異的に製造する方法も検討されていますが、主流の製造方法にはなっていないのが現状です。

参考文献
https://www.nies.go.jp/kisplus/dtl/chem/JPN00359
https://www.tcichemicals.com/JP/ja/p/D0933

ジニトロベンゼン

ジニトロベンゼンとは

ジニトロベンゼン (英: Dinitrobenzene) とは、白色〜淡黄色の針状または板状結晶の芳香族ニトロ化合物です。

化学式はC6H4N2O4で表され、分子量は168.11です。ジニトロベンゼンは、ニトロ基の置換位置により3種類の位置異性体があります。

1、2置換体をo (オルト) -ジニトロベンゼンまたは1,2-ジニトロベンゼン、1、3置換体をm (メタ) -ジニトロベンゼンまたは1,3-ジニトロベンゼン、1、4置換体をp (パラ) -ジニトロベンゼンまたは1,4-ジニトロベンゼンと言います。

ここでは、もっとも一般的な異性体であるm-ジニトロベンについて主に説明します。

ジニトロベンゼンの使用用途

1. 染料中間体

工業的に容易に合成できるm-ジニトロベンゼンは、染料中間体として用いられてきました。m-ジニトロベンゼンを硫化ナトリウムなどで部分還元することで、m-ニトロアニリンが鉄-塩酸で還元することで、m-フェニレンジアミンが得られます。

上記の方法で得られるm-フェニレンジアミンは、アゾ系の塩基性染料や媒染染料、直接染料、酸性染料の中間体として用いられています。また、m-ジニトロベンゼンから合成されるm-フェニレンジアミンは、イオン交換樹脂の原料や現像液などの写真製品、アラミド繊維やスパンデックスの原料としても使用されています。

2. 呈色試薬

m-ジニトロベンゼンは、性機能検査の呈色試薬としても使用されます。血液中のテストステロンが代謝されて生成されるのが17−ケトステロイドです。

尿と共に排出される17−ケトステロイドを、m−ジニトロベンゼンに接触させると赤色に呈色します。17-ケトステロイドの検出値は、男性のアンドロゲン分泌量を知る指標となります。

ジニトロベンゼンの性質

1. o-ジニトロベンゼン

CAS登録番号は528-29-0です。融点は118 °C、沸点は318 °Cで、常温で固体です。ベンゼンやクロロホルムに溶け、水にはほとんど溶けません。

2. m-ジニトロベンゼン

CAS登録番号は99-65-0です。融点は89.6 °C、沸点は297 °Cで、常温で固体です。アセトンやエタノール、酢酸エチル、クロロホルムに非常に溶けやすく、エーテルに溶け、水にはほとんど溶けません。

3. p-ジニトロベンゼン

CAS登録番号は100-25-4です。融点は174 °C、沸点は299 °Cで、常温で固体です。p-ジニトロベンゼンは、3種類の一異性体の中で最も対称性が高いため、最も高い融点を有します。アセトンやベンゼン、酢酸エチル、クロロホルムに溶け、水にはほとんど溶けません。

ジニトロベンゼンのその他情報

1. ジニトロベンゼンの製造法

m-ジニトロベンゼンは、硝酸硫酸の混合酸でベンゼンをニトロ化し、合成された中間体であるニトロベンゼンを同条件にてさらにニトロ化することで得られます。

2. 法規情報

m-ジニトロベンゼンは、以下の国内法令に指定されています。

  • 労働安全衛生法
    名称等を表示すべき危険物及び有害物 (法第57条第1項、施行令第18条第1号、第2号別表第9) 、名称等を通知すべき危険物及び有害物 (法第57条の2、施行令第18条の2第1号、第2号別表第9)
  • 消防法
    第5類自己反応性物質、ニトロ化合物 (法第2条第7項危険物別表第1・第5類)
  • 船舶安全法
    毒物類・毒物 (危規則第2,3条危険物告示別表第1)
  • 航空法
    毒物類・毒物 (施行規則第194条危険物告示別表第1)

3. 取り扱い及び保管上の注意

取り扱う場合の対策
ジニトロベンゼンは、強酸化剤、強塩基および還元性の金属 (スズ、亜鉛) と激しく反応し、火災や爆発の危険を生じます。上記の混触危険物質との接触は避けてください。局所排気装置であるドラフトチャンバー内で使用してください。使用の際は、個人用保護具を着用します。

なお、ジニトロベンゼンは可燃性です。粉末や顆粒状で空気と混合すると、粉塵爆発の可能性があるとともに、加熱により空気がなくても爆発することがあります。高温や直射日光、衝撃、熱、炎、火花、静電気、スパークには近づけないようにしてください。

火災の場合
燃焼すると、有毒なガスや窒素酸化物などを生成します。消火には水噴霧や泡消火剤、粉末消火剤、炭酸ガス、消化砂などを使用します。棒状注水は行わないでください。

皮膚に付着した場合
接触するとアレルギー性皮膚反応を起こす恐れがあるので、皮膚に付着しないよう注意してください。使用時は、必ず白衣や作業着などの保護衣や保護手袋を着用します。保護衣の袖は決して捲らず、皮膚が暴露しないようにしてください。

万が一皮膚に付着した場合は、石けんと大量の水で洗い流します。衣類に付着した場合は、汚染された衣類をすべて脱いで隔離します。皮膚刺激又は発しんが生じた場合や症状が続く場合は、医師の診療を受けてください。

眼に入った場合
眼に対し強い刺激性があります。使用時は必ず保護メガネまたはゴーグルを着用してください。

万が一眼に入った場合は、水で数分間注意深く洗います。コンタクトを着用している場合で簡単に外せるときは外し、しっかり洗浄します。直ちに、医師の診察を受けてください。

保管する場合
保管する際は、遮光性のポリエチレン製容器に入れて密閉します。直射日光を避け、換気がよく、なるべく涼しい場所に施錠して保管してください。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/99-65-0.html
https://pubchem.ncbi.nlm.nih.gov/compound/1_3-Dinitrobenzene

ジシクロペンタジエン

ジシクロペンタジエンとは

ジシクロペンタジエンの基本情報

図1. ジシクロペンタジエンの基本情報

ジシクロペンタジエン (英: Dicyclopentadiene、DCPD) とは、化学式C10H12で表される有機化合物です。

分子量132.20、融点32.5℃、沸点170℃であり、常温では無色結晶又は淡黄色粉末です。カンファー様芳香を有します。密度は0.98g/mLです。

構造的にはendo体とexo体が存在しますが、これらを区別しない混合物のCAS登録番号は77-73-6です。エタノール、エーテル、ベンゼンなどの有機溶剤や、酢酸に溶解します。

ジシクロペンタジエンの使用用途

ジシクロペンタジエンの主な用途は、不飽和ポリエステル樹脂、コーティング剤、香料などです。合成樹脂の原料としては、反応射出成形樹脂原料、その他エポキシ、ポリエステル、アルキッド、EPラバーなど各種樹脂原料に使用されています。DCPD樹脂と呼ばれており、剛性と耐衝撃性が特徴です。また、インクや接着剤、あるいは塗料にも使用されています。

ジシクロペンタジエンは、有機合成的にも有用な化合物です。ジシクロペンタジエンを熱分解して得られるシクロペンタジエンは、親ジエン剤とディールス・アルダー反応を行う共役ジエンとして知られています。その他、工業的に農薬や殺虫剤の原料としても用いられています。

ジシクロペンタジエンの性質

ジシクロペンタジエンの化学反応

 図2. ジシクロペンタジエンの化学反応

ジシクロペンタジエンを150℃以上に加熱すると、逆ディールス・アルダー反応により、シクロペンタジエンが得られます。ただし、この反応は可逆反応であるため、室温でゆっくりと二量化してジシクロペンタジエンに再び戻ります。

また、ジシクロペンタジエンの水素化によってendo-テトラヒドロジシクロペンタジエンが生成します。この化合物を更に塩化アルミニウムと共に昇温すると、転位反応を起こしアダマンタンが生成します。

ジシクロペンタジエンの種類

ジシクロペンタジエンは、研究開発用試薬製品や、工業用化学薬品などとして一般的に販売されています。研究開発用試薬製品として使用する場合、主に有機合成原料として使用され、25mL、500mL、100g、500g、1kg、2.5kgなど容量はさまざまです。

基本的に室温で取り扱い可能な試薬製品で、工業用製品は主に特殊樹脂や化学合成品の原料として使用されています。

ジシクロペンタジエンのその他情報

1. ジシクロペンタジエンの製造

ジシクロペンタジエンは、コールタールの低沸点留分や、ナフサ熱分解における副精油中に含まれる物質です。また、ナフサおよび重油の水蒸気分解によるエチレンの生産時にも大量に共生産されます。

2. ジシクロペンタジエンと重合

ジシクロペンタジエンの重合

図3. ジシクロペンタジエンの重合

ジシクロペンタジエンは、重合反応を起こします。ジシクロペンタジエンのホモポリマーも生成しますが、ノルボルネン二重結合のみを利用してエチレンあるいはスチレンと共重合する反応も報告されています。どちらも触媒存在下における反応です。また、開環メタセシス重合により、ポリジシクロペンタジエン生成します。

ジシクロペンタジエンは、通常の保管条件では安定ですが、空気に触れると重合反応を起こすことがあります。そのため、抗酸化剤としてブチルヒドロキシトルエン (BHT) の存在下で保管するのが一般的です。

3. ジシクロペンタジエンの法規制情報

ジシクロペンタジエンは、 経口・経皮有害性、皮膚刺激、吸入により生命に危険を及ぼす可能性、眼刺激、呼吸器系・肝臓・腎臓の障害、眠気又はめまいのおそれなどが知られており、人体へ有害な物質です。また、引火点が26~38℃と低く、引火性の物質でもあります。

労働安全衛生法では、「名称等を表示すべき危険有害物」「リスクアセスメントを実施すべき危険有害物」「 危険物・引火性の物」に指定されています。消防法では、「 第4類引火性液体」「第二石油類非水溶性液体」に指定されている物質です。法令を遵守して正しく取り扱うことが必要です。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/0783.html

ジグリセリン

ジグリセリンとは

ジグリセリンとは、グリセリンが2つ結合した二量体です。

分子中に4つの水酸基を有する多価アルコールの1種です。別名では、ジグリセロールと称されます。ジグリセリンは、消防法によって「危険物第4類」「第三石油類」に指定されています。

無色無臭であり、透明な粘稠液体です。ジグリセリンは、例えばグリセリンを脱水縮合反応させてジグリセリンやトリグリセリンなどの混合物を生成させたあと、蒸留によって精製されて製造されます。

吸湿性を有し保湿性が良好であるため、主に各種化粧品の保湿剤として使用されます。

ジグリセリンの使用用途

ジグリセリンは、水になじみやすくて肌への刺激性が低いため、基礎化粧品 (化粧水、乳液、洗顔料など) の配合成分として汎用されています。また、皮膚に塗布されたときに温感を付与できるため、マッサージジェルなどにも配合されています。

主な工業用用途は、ウレタン (ポリウレタン) の原料、脂肪酸エステルなどの誘導体を合成するための原料、界面活性剤の原料、または水溶性高分子の可塑剤などです。後述するようにジグリセリンは、分子中に4つのヒドロキシ基 (-OH) を有します。ヒドロキシ基 (-OH) は化学反応によって比較的容易に反応するため、ヒドロキシ基 (-OH) を有するジグリセリンからさまざまな化合物を合成できます。

また、ジグリセリンは、例えばガスクロマトグラフ (GC) で用いられる強極性カラム充填剤 (固定相液体) として使用されます。

ジグリセリンの性質

ジグリセリンは、水になじみやすい性質を有します。水およびエタノールに溶けますが、 エーテルに不溶です。ジグリセリンの引火点は190~202℃程度であり、比重は1.29です。

グリセリンと同様に、肌に対して保湿効果を有します。皮膚に塗布したときにグリセリンよりも軽い感触 (テクスチャー) です。グリセリンおよびジグリセリンはいずれも肌への安全性が高いですが、グリセリンの方がニキビの原因菌を増やしやすいデメリットがあると考えられます。

ジグリセリンの構造

ジグリセリンの分子構造は、文字通りグリセリンが2つ結合しています。各グリセリンの3つのヒドロキシ基 (-OH) のうちの1つが、互いに脱水縮合したような分子構造です。したがって、ジグリセリンは分子中に4つのヒドロキシ基 (-OH) を有します。

化学式はO [CH2CH (OH) CH2OH]2 で表せます。分子量が比較的大きい有機化合物ですが、分子中に4つのOH基を有するため親水性が比較的高い物質です。

4つのOH基のうち1つのOH基に脂肪酸をエステル結合させると、界面活性剤の1種であるジグリセリン脂肪酸エステルとなります。

ジグリセリンのその他情報

ジグリセリン構造を有する界面活性剤

上述の通り、ジグリセリンからジグリセリン脂肪酸エステルという界面活性剤が得られます。ジグリセリン脂肪酸エステルのジグリセリン部分が親水基であり、脂肪酸部分が疎水基です。

脂肪酸にはいくつかの種類があるため、ジグリセリンにエステル結合した脂肪酸の種類によって、ジグリセリン脂肪酸エステルの界面活性性能が変わります。ジグリセリン脂肪酸エステルとしては、例えば、ジグリセリンラウレート、ジグリセリンステアレート、ジグリセリンオレートなどがあります。

ジグリセリンラウレートは、ジグリセリンに対して炭素数が12のラウリン酸がエステル結合した界面活性剤です。同様に、ジグリセリンステアレートおよびジグリセリンオレートは、炭素数が18のステアリン酸または炭素数が12のオレイン酸がそれぞれ結合した界面活性剤です。

なお、ジグリセリンは4つのヒドロキシ基 (-OH) を有するため、理論的には1分子のジグリセリンに4つの脂肪酸がエステル結合できます。しかし、すべてのヒドロキシ基 (-OH) がエステル化されると親水基がなくなるため、界面活性剤としては機能しなくなります。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen_pg/KAG_DET.aspx?joho_no=28452
https://www.nite.go.jp/chem/jcheck/detail.action?cno=59113-36-9&mno=2-0418&request_locale=ja

シメン

シメンとは

シメンの異性体群

図1. シメンの異性体群

シメン (英: Cymene) とは、有機化合物の1種で、ベンゼンの2つの水素がメチル基とイソプロピル基で置換された構造の化合物です。

通常はベンゼン環のパラ位 (1位と4位) にメチル基とイソプロピル基が置換した構造を持つp-シメン  (パラシメン) のことを指します。

CAS登録番号は99-87-6です。位置異性体として o-シメン (CAS登録番号: 527-84-4) と m-シメン(CAS登録番号: 535-77-3) がありますが、どちらも天然では見つかっていない物質です。

シメンの使用用途

シメンは自然界において、月桃やクミン、タイムなどの精油に含まれている物質です。香料として使用されることが一般的であり、石鹸などに用いられています。揮発油臭を帯びた柑橘臭を有する物質です。

また、有機合成原料としても有用な物質です。テレフタル酸やチモールの合成原料として利用されます。シメンから合成可能な中間体やビルディングブロックとしては、シメンヒドロペルオキシド、4-メチルアセトフェノン、4-イソプロピルベンジルアルコール、4-イソプロピルベンズアルデヒド、4-イソプロピル安息香酸などが挙げられます。さまざまな条件下での酸化反応の研究に使用されることもある物質です。

シメンの性質

シメンの基本情報

図2. シメンの基本情報

p-シメンは、モノテルペン (炭素数10の植物や昆虫、菌類、細菌などによって作り出される炭化水素) 、芳香族炭化水素に分類される有機化合物です。4-イソプロピルトルエンなどの別名を持ちます。分子式は C10H14、分子量は134.22です。

融点-68.9℃、沸点177.10℃、常温では無色透明の液体です。特徴的な香りを有し、レモンを思わせる柑橘系の香りと形容されることもあります。エタノール、アセトン、ベンゼン、四塩化炭素及び石油エーテルと混和しますが、水にはほとんど溶けません。密度は0.857g/mLです。

p-シメンは通常の取扱い条件下では安定ですが、酸化剤と反応し、ゴムを侵すとされます。保管の際には、これらの物質との混触を避けることが必要です。また、シメンはルテニウムへの配位子として用いられます。代表的なものに、ジクロロ(p-シメン)ルテニウム(II) (η6-cymene)2Ru2Cl4) があり、通常ダイマーの形で販売されています (CAS 登録番号 [52462-29-0]) 。

この錯体は、三塩化ルテニウムと α-フェランドレンから合成され、各種ルテニウムシメン錯体への前駆体として利用される化合物です。その他には、オスミウムのシメン錯体も知られています。

シメンの種類

シメンは、一般的には研究開発用試薬製品や香料などの工業原料物質として販売されています。前述の通り、p-シメンが一般的です。p-シメンは、研究開発用試薬製品としては、25mg、25mL、500mL、1kg、8kg、20kgなど多様な容量の製品が提供されています。通常、室温で取り扱い可能な試薬製品です。

試薬メーカーの中にはo-シメンや、m-シメンを取り扱っているメーカー企業もありますが、容量は数百ミリグラム程度と少量であり、また価格も効果となっています。工業原料としては、100g、1kg、25kgなどの単位で提供されていますが、その他需要に合わせたカスタマイズにも対応している場合があります。

シメンのその他情報

1. p-シメンの合成

シメンの合成

図3. シメンの合成

p-シメンは、工業的にはヨウ素 (I2) または三塩化リン (PCl3) を用いたα-ピネンの脱水素化や、トルエンとプロペンのフリーデル・クラフツアルキル化反応などによって製造されています。

2. p-シメンの法規制情報

p-シメンは引火点47 ℃の引火性物質であり、また、人体への有害性が報告されている物質です。そのため、労働安全衛生法では、 「危険物・引火性の物、変異原性が認められた既存化学物質」に指定されており、消防法にでは「第4類引火性液体」「第二石油類非水溶性液体」に指定されています。法令を遵守して正しく取り扱うことが必要です。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/99-87-6.html

シトラール

シトラールとは

ゲラニアールとネラール

図1. ゲラニアールとネラール

シトラール (英: Citral) とは、一組の異性体である有機化合物のネラールとゲラニアールの混合物を指す名称です。

IUPAC命名法での名称は 3,7-ジメチル-2,6-オクタジエナールであり、レモナール (英: lemonal)という別名で呼ばれることもあります。この一組の異性体は共に分子式C10H16Oのモノテルペンアルデヒドであり、シストランス異性体の関係にあります。E体がゲラニアールで、Z体がネラールです。なお、CAS登録番号は5392-40-5です。

シトラールの使用用途

シトラールはレモンような香気を有するため、このままで賦香剤として香粧品や食品等に用いられるほか、香水や化粧品や洗顔料、ボディーソープ、シャンプー、洗剤、食品などさまざまな製品に利用されています。天然物ではレモングラス、レモン、マンダリンなどの精油やその他のさまざまな果実やスパイスに存在する物質です。

揮発性が高く、強い香りを放つため、調合香料の中でももっとも初めに香りを感じさせるトップノートに用いられています。それ以外では、他の香料の製造原料として用いられる場合もあります。

また、シトラールは一般の有機合成原料としても有用な化合物です。ビタミンAやビタミンE、ヨノンなどの化学物質の合成原料として用いられます。

シトラールの性質

シトラールの基本情報

図2. シトラールの基本情報

シトラールは、ゲラニアールとネラールの混合物です。シトラールとしては、分子量152.24、融点-10℃以下、沸点229℃であり、常温では無色から淡黄色の液体です。酸化を受けやすく、空気に触れて徐々に黄色味を呈します。

密度は0.893g/mLであり、エタノールやエーテルに易溶ですが、水には不溶です。特有の香りを持ちますが、成分のうちゲラニアールは清涼感のある強いレモン臭、ネアールは弱いレモン臭と甘味を持ちます。

シトラールの種類

シトラールは、一般的には研究開発用試薬製品や、香料原料として販売されています。研究開発用試薬製品としては、 1mg、5mg、5mL、100mL、500mL、25g、1kgなどメーカーによってさまざまな容量の製品があります。冷蔵試薬として扱われる場合と、室温で取り扱い可能な試薬として扱われる場合とがある試薬製品です。

なお、試薬製品は、研究開発用途でのみ使用可能であり、人や動物の医療用・臨床診断用・食品用に使用することはできません。産業用製品は、香料メーカー、化学メーカーなど複数企業から販売されています。

1Lボトルから、25Lドラム、180kgドラム、200Lドラムなど、超大型容量までさまざまな荷姿の販売展開です。工場などの製造現場に合わせた製品提供となっています。

シトラールのその他情報

1. シトラールの製造・合成方法

シトラールの合成

図3. シトラールの合成

シトラールは、種々の精油に含まれているため、精油からの分離によって製造することが可能です。合成的にも製造すできるため、メチルヘプテノンを原料として製造される場合があります。具体的な合成の例として、下記の合成経路が挙げられます。

  1. メチルヘプテノンとエトキシアセチレンマグネシウムブロミドの縮合反応
  2. 触媒的な部分的水素化反応 (エノールエーテルの生成)
  3. リン酸を用いた加水分解と脱水

その他の合成例の1つは、アセチレンとメチルヘプテノンの縮合反応によって生じるデヒドロリナロール中間体を経由する方法です。この中間体は、不活性溶媒中、シリコンスルホン触媒の存在下140〜150°Cで転位し、シトラールを与えます。

2. シトラールの法規制情報

シトラールは引火点99.5℃であり、引火性液体です。そのため、消防法では「第4類引火性液体、第三石油類非水溶性液体」に分類されています。ただし、 法規制に従った保管及び取扱においては安定です。法令を遵守して正しく取り扱うことが重要とされています。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/5392-40-5.html

シクロヘキセン

シクロヘキセンとは

シクロヘキセンの基本情報

図1. シクロヘキセンの基本情報

シクロヘキセン (英: Cyclohexene) とは、シクロアルケンの1種で、分子式C6H10で表される有機化合物です。

別名には、1,2,3,4-テトラヒドロベンゼンなどの名称があります。分子量82.14、融点-104℃、沸点83℃であり、常温ではフェノール臭のある無色の液体です。密度は0.811g/mL、水への溶解度は0.21g/L (20℃) です。水に溶けにくいものの、エタノール及びアセトンに容易に溶けます。なお、CAS登録番号は、110-83-8です。

シクロヘキセンの使用用途

シクロヘキセンは、他の有機化合物と同様に有機溶媒として用いられるほか、接着剤の溶剤などに利用されています。合成的には、アジピン酸マレイン酸など種々の有機化合物の合成原料として用いられる化合物です。

シクロヘキセン誘導体は、農薬や医薬品などさまざまな製品として活用されています。また、特有の悪臭がありながらも硫黄分を含まないことから、都市ガスへの付臭剤としても使用されています。

シクロヘキセンの性質

シクロヘキセンの合成

図2. シクロヘキセンの合成

シクロヘキセンは、ベンゼンの部分的水素化によって合成が可能です。実験室的にはシクロヘキサノールを酸触媒下で脱水し、蒸留することによっても得られます。

また、シクロヘキサノールからもシクロヘキセンを合成することが可能です。この合成経路では脱水素反応の際にシクロヘキサノンも副生しますが、このシクロヘキサノンはカプロラクタムの前駆体として用いることができます。

シクロヘキセンの構造

シクロヘキセンの安定配座 (左) とシクロヘキサンの安定配座 (右)

図3. シクロヘキセンの安定配座 (左) / シクロヘキサンの安定配座 (右)

シクロヘキセンの再安定配座は、半いす型構造です。シクロヘキサンでは、全てのC-H結合が立体障害を回避するためにいす型構造が再安定となっていますが、シクロヘキセンは分子内に二重結合を有し、この部分が平面になっています。

シクロヘキセンの種類

シクロヘキセンは、一般には研究開発用試薬製品や工業原料薬品として販売されています。研究開発用試薬製品としては、25mL、500mL、1L、2Lなどの容量の種類があります。基本的に、室温で取り扱われる試薬製品です。

過酸化物の発生を防ぐ酸化防止剤として、ジブチルヒドロキシトルエン (BHT) が添加される場合もあります。工業用の製品は、160kgドラム、18Tコンテナ、10Tタンクローリーなどの容量・荷姿での提供です。

工場などの需要に合わせた大型容量となっています。主な用途は、付臭剤、溶剤、農薬原料などが想定されている化合物です。

シクロヘキセンのその他情報

1. シクロヘキセンの化学反応

シクロヘキセンには、光や空気と反応して過酸化物を生じる性質があります。しばしば、使用する直前に蒸留して過酸化物を除去した上で使用されています。

シクロヘキセンの水和反応では、シクロヘキサノールが生成します。また、シクロヘキセンの酸化的開裂によってアジピン酸を合成することが可能です。この反応では、酸化剤として過酸化水素を用い、タングステン触媒存在下で反応が進行します。

2. シクロヘキセンの法規制情報

シクロヘキセンは人体への有害性が報告されており、具体的には、経口摂取での有害性・神経系の障害・呼吸器への刺激・眠気またはめまいなどの可能性が挙げられます。また、引火点が-17℃と低く、引火性の高い物質です。揮発性が高く、空気との接触で過酸化物の形成、及び爆発の危険性があります。

このため、労働安全衛生法では「 名称等を表示すべき危険物及び有害物」「危険性又は有害性等を調査すべき物」「危険物・引火性の物」に指定されており、消防法でも「第4類 引火性液体 第一石油類 非水溶性」に指定されている物質です。取り扱いの際は、法令を遵守して正しく使用することが求められています。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/110-83-8.html

シクロヘキシルアミン

シクロヘキシルアミンとは

シクロヘキシルアミン (英: Cyclohexylamine) とは、脂肪族アミンに分類される有機化合物です。

化学式はC6H13Nで表され、シクロヘキサン上の水素が1つアミノ基で置換されている構造をしています。毒物及び劇物取締法により「劇物」に指定されている化合物です。

別名には、「アミノシクロヘキサン」「アミノシクロヘキサヒドロベンゼン」「ヘキサヒドロアニリン」などの名称があります。なお、CAS登録番号は108-91-8です。

シクロヘキシルアミンの使用用途

シクロヘキシルアミンの主な使用用途は、清缶剤、防錆材、顔料や染料、ゴム用薬品、染色助剤、殺虫剤、不凍液などです。特に印刷インキ工業では、フラッシング助剤として用いられます。

また、シクロヘキシルアミンは有機合成化学的に有用な物質であるため、医薬品などの各種化合物の中間原料としての用途もあります。シクロヘキシルアミンを原料として合成される主な物質には、スルフェンアミド系加硫促進剤、除草剤であるヘキサジノン、グリース (油よりも粘度の高い半固体状の潤滑剤) 、人工甘味料であるチクロなどがあります。

医薬品では、粘液溶解薬・鎮痛剤・気管支拡張薬などの薬品の原料として用いられる場合が多いです。

シクロヘキシルアミンの性質

シクロヘキシルアミンの基本情報

図1. シクロヘキシルアミンの基本情報

シクロヘキシルアミンは、分子量99.17、融点-17.7 ℃、沸点134.5 ℃であり、常温では無色から黄色の液体です。 強い魚臭またはアンモニア類似の臭いを呈します。

密度は0.8627g/mL、酸解離定数pKaは10.64です。 アルコール類、エーテル類、ケトン類、エステル類、脂肪族炭化水素類、芳香族炭化水素類に可溶であり、すなわち一般的な有機溶剤に溶解します。

シクロヘキシルアミンの種類

シクロヘキシルアミンは、研究開発用試薬製品や産業用化学薬品として販売されています。研究開発用試薬製品では、25mL、500mLなどの容量の種類があり、研究室で取り扱いやすい容量で提供されています。

有機合成原料として使用されることが多く、通常室温で取り扱い可能な試薬製品です。産業用化学薬品としては、15kg缶や170kg前後のドラムとして供給されています。ゴム用薬品、染料、顔料、防錆剤、不凍液などに利用されており、工場などの需要に合わせた大型容量の製品です。

シクロヘキシルアミンのその他情報

1. シクロヘキシルアミンの合成

シクロヘキシルアミンの合成

 図2. シクロヘキシルアミンの合成

シクロヘキシルアミンの主な合成方法には、ニッケルやコバルトを用いてアニリンを水素化する方法と、シクロヘキサノールをアンモニアによってアルキル化する方法とがあります。

2. シクロヘキシルアミンの反応性

シクロヘキシルアミンは、 強塩基性であり、酸と激しく反応します。また、加熱や燃焼によって分解し、窒素酸化物などの有毒で腐食性のヒュームを生じます。

強酸化剤と激しく反応して火災の危険を伴うとともに、アルミニウム、銅、亜鉛を侵す物質です。保管の際にはこれらの物質との混触を避けることが必要です。

3. シクロヘキシルアミンの安全性と法規制情報

シクロヘキシルアミンの有害性

図3. シクロヘキシルアミンの有害性

シクロヘキシルアミンは、 経口摂取・皮膚接触・吸入において有毒な物質です。遺伝性疾患、生殖能又は胎児への悪影響、臓器の障害などの危険性が指摘されており、毒物及び劇物取締法により劇物に指定されています。

また、シクロヘキシルアミンは引火点が26.5 ℃と低い引火性液体であり、26.5℃以上では蒸気/空気の爆発性混合気体を生じることがあるとされている物質です。このため、消防法では「危険物第4類第2石油類」、労働安全衛生法では「危険物・引火性の物、名称等を表示すべき危険有害物」「リスクアセスメントを実施すべき危険有害物」に指定されています。

化学物質排出把握管理促進法 (PRTR法) でも、「第1種指定化学物質」に指定される物質です。法令を遵守して適切に取り扱うことが必要です。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/108-91-8.html