ジシクロペンタジエンとは
図1. ジシクロペンタジエンの基本情報
ジシクロペンタジエン (英: Dicyclopentadiene、DCPD) とは、化学式C10H12で表される有機化合物です。
分子量132.20、融点32.5℃、沸点170℃であり、常温では無色結晶又は淡黄色粉末です。カンファー様芳香を有します。密度は0.98g/mLです。
構造的にはendo体とexo体が存在しますが、これらを区別しない混合物のCAS登録番号は77-73-6です。エタノール、エーテル、ベンゼンなどの有機溶剤や、酢酸に溶解します。
ジシクロペンタジエンの使用用途
ジシクロペンタジエンの主な用途は、不飽和ポリエステル樹脂、コーティング剤、香料などです。合成樹脂の原料としては、反応射出成形樹脂原料、その他エポキシ、ポリエステル、アルキッド、EPラバーなど各種樹脂原料に使用されています。DCPD樹脂と呼ばれており、剛性と耐衝撃性が特徴です。また、インクや接着剤、あるいは塗料にも使用されています。
ジシクロペンタジエンは、有機合成的にも有用な化合物です。ジシクロペンタジエンを熱分解して得られるシクロペンタジエンは、親ジエン剤とディールス・アルダー反応を行う共役ジエンとして知られています。その他、工業的に農薬や殺虫剤の原料としても用いられています。
ジシクロペンタジエンの性質
図2. ジシクロペンタジエンの化学反応
ジシクロペンタジエンを150℃以上に加熱すると、逆ディールス・アルダー反応により、シクロペンタジエンが得られます。ただし、この反応は可逆反応であるため、室温でゆっくりと二量化してジシクロペンタジエンに再び戻ります。
また、ジシクロペンタジエンの水素化によってendo-テトラヒドロジシクロペンタジエンが生成します。この化合物を更に塩化アルミニウムと共に昇温すると、転位反応を起こしアダマンタンが生成します。
ジシクロペンタジエンの種類
ジシクロペンタジエンは、研究開発用試薬製品や、工業用化学薬品などとして一般的に販売されています。研究開発用試薬製品として使用する場合、主に有機合成原料として使用され、25mL、500mL、100g、500g、1kg、2.5kgなど容量はさまざまです。
基本的に室温で取り扱い可能な試薬製品で、工業用製品は主に特殊樹脂や化学合成品の原料として使用されています。
ジシクロペンタジエンのその他情報
1. ジシクロペンタジエンの製造
ジシクロペンタジエンは、コールタールの低沸点留分や、ナフサ熱分解における副精油中に含まれる物質です。また、ナフサおよび重油の水蒸気分解によるエチレンの生産時にも大量に共生産されます。
2. ジシクロペンタジエンと重合
図3. ジシクロペンタジエンの重合
ジシクロペンタジエンは、重合反応を起こします。ジシクロペンタジエンのホモポリマーも生成しますが、ノルボルネン二重結合のみを利用してエチレンあるいはスチレンと共重合する反応も報告されています。どちらも触媒存在下における反応です。また、開環メタセシス重合により、ポリジシクロペンタジエン生成します。
ジシクロペンタジエンは、通常の保管条件では安定ですが、空気に触れると重合反応を起こすことがあります。そのため、抗酸化剤としてブチルヒドロキシトルエン (BHT) の存在下で保管するのが一般的です。
3. ジシクロペンタジエンの法規制情報
ジシクロペンタジエンは、 経口・経皮有害性、皮膚刺激、吸入により生命に危険を及ぼす可能性、眼刺激、呼吸器系・肝臓・腎臓の障害、眠気又はめまいのおそれなどが知られており、人体へ有害な物質です。また、引火点が26~38℃と低く、引火性の物質でもあります。
労働安全衛生法では、「名称等を表示すべき危険有害物」「リスクアセスメントを実施すべき危険有害物」「 危険物・引火性の物」に指定されています。消防法では、「 第4類引火性液体」「第二石油類非水溶性液体」に指定されている物質です。法令を遵守して正しく取り扱うことが必要です。