短繊維

短繊維とは

短繊維

短繊維とは、糸を作る原料である繊維の中でも長さが短いものの総称です。

綿や麻のようなほとんどの天然繊維が例として挙げられます。糸を作る際、短い繊維を撚り合わせるため、体積が大きく、かさが高い糸ができ上がることが特徴です。糸を作成した際、撚り合わなかった部分がはみ出るような形になり、毛羽感が出てふんわりとした印象になります。短繊維で作られた糸は、総称してスパン糸とも呼ばれます。

短繊維の使用用途

短繊維はそのままの状態で使用されることはありません。多数の短繊維を撚り合わせて、スパン糸の状態にしてから使用されます。

スパン糸は世界的に見ても縫い糸として広く知れ渡っており、生地になじみが良く、縫いやすいことが特徴です。現在ではニット製品や衣料、タオルなど、さまざまな生地の縫製に使用されています。毛羽感の強いスパン糸を使用した場合は、肌ざわりが優しくなるといわれています。

短繊維の種類

短繊維は繊維の中でも長さが短いものを指し、一般的に繊維を分類する際は、天然繊維と化学繊維に分けられます。

天然繊維とは、天然由来の繊維であり、綿花から作られるコットンや植物の繊維から作られるリネン、羊毛から作られるウールなどが代表的です。化学繊維は化学合成によって作られた繊維です。その中でも再生繊維、半合成繊維、合成繊維の3種類に分けられます。

再生繊維は、レーヨンやコットンリンターから作られるキュプラ、半合成繊維は、アセテート、合成繊維は、ナイロンポリエステルなどが代表的です。その中で短繊維と呼ばれるものは、天然繊維のほとんどが該当します。

合成繊維は、繊維を作る際に、その長さを調節することが可能なため、短繊維、長繊維のどちらにも該当します。天然繊維の中でも絹 (シルク) は長繊維に該当するため、注意が必要です。

白銅

白銅とは

白銅

白銅とは、を主体としたニッケルなどを含む合金です。

JIS (日本産業規格) H3100では、C7060とC7150の2種類が規定されています。白銅は耐食性、加工性、強度、硬度、鋳造性、美しい色合いなど優れた特性を持つため、多様な用途に使用されています。

導電性が良く耐食性を持っているため、電気配線などに利用されます。また、鋳造性が良いため楽器に使用され、特に金管楽器に広く利用されています。美しい色合いと耐食性の高さから、コインやメダルの製造にも適しています。

白銅の使用用途

1. 電気部品、電子部品

配線、コネクタ、回路基板、電気抵抗器、コイル、トランスなどが挙げられます。

2. 電気回路

高周波回路、RFIDアンテナなどが挙げられます。RFIDアンテナとは、RFID (英: Radio Frequency Identification) 技術に使用されるアンテナで、無線周波数で情報を送受信するために使用されます。

3. 自動車

ラジエーター、クラッチ部品 (クラッチディスクなど)、バッテリー端子、などが挙げられます。クラッチディスクとは、自動車やオートバイなどの車両において、エンジンとトランスミッション (エンジンの出力を車輪に伝えるために用いられる機構) をつなぐクラッチ機構の一部であり、エンジン出力を伝えるための部品です。

4. 建築

屋根、外壁、ドアノブ、金属製フェンスなどが挙げられます。

5. 熱交換器

蒸気タービン、空調機器、冷凍庫などが挙げられます。

6. 医療機器

手術器具、人工関節、歯科用具などが挙げられます。

7. 金属部品

ネジ、ワッシャー、バネ、歯車、シャフトなどが挙げられます。

8. 装飾

時計や照明器具、金属製の置物などが挙げられます。

9. スポーツ用品

ゴルフクラブ、テニスラケット、バイクフレームなどが挙げられます。

白銅の種類

JIS H 3320では,C7060とC7150の二種類の白銅が規定されています。化学成分は下表の通りです(単位は%)。

合金番号 Cu Pb Fe Zn Mn Ni その他
C7060 0.05以下 1.0

1.8
0.50以下 0.20

1.0
9.0

11.0
Cu+Ni+Fe+Mnが99.5以上
C7150 0.05以下 0.40~
1.0
0.50以下 0.20

1.0
29.0

33.0
Cu+Ni+Fe+Mnが99.5以上

白銅の性質

1. 色

白銅は銅と亜鉛の合金であり、銅と亜鉛はともに金属であるため、白銅は金属光沢のある材料です。また、銅は純粋な状態でも赤みがかった色をしていますが、亜鉛を添加することによって色を白くできるため、白銅は美しい白色をしています。表面が酸化しにくいため、輝きを長期間維持できます。

2. 加工性

白銅が良好な加工性を持つ理由は、以下の通りです。銅と亜鉛の合金である白銅は、柔らかく加工しやすい特性がある材料です。また白銅は、均一な組織を持つため、加工時に発生する応力を均等に分散し、加工性を向上させます。

さらに、比較的低い溶点と融点を持ち、簡単に加熱して形状を変えられるため、鋳造、鍛造、加工、切削など様々な加工方法が使用できます。

3. 耐食性

白銅は、耐食性に優れています。理由は、以下の要因によるものです。まず、亜鉛が酸化された際に酸化物皮膜を形成するため、腐食に対する銅の保護作用が強化され、さらに白銅合金中で亜鉛が陰極として作用することにより、酸化反応を妨げ、電気化学的な保護作用をもたらします。最後に、白銅は水中での安定性が高く、海水や淡水中でも腐食が進みにくいため、耐食性に優れています。

4. 熱伝導率

白銅は金属で一般的に熱伝導率が高いため、熱を効率的に伝えられます。また、白銅には亜鉛が含まれており、亜鉛は銅よりも熱伝導率が高いため、白銅に亜鉛が含まれていると全体的な熱伝導率が高くなります。白銅の結晶構造は密に配置された球状の粒子がランダムに配列しているため、熱伝導に適した構造を持っているのが特徴です。これらの要因が合わさって、白銅は優れた熱伝導性を発揮します。

5. 電気伝導率

金属である白銅は一般的に電気伝導率が高いため、電気を効率的に伝えられます。また、白銅に含まれる亜鉛は、銅よりも電気伝導率が高いため、全体的な電気伝導率を高める働きがあり、さらに、白銅は結晶構造が密に詰まっているため、電子が自由に移動できるため、電気伝導率が高くなります。

6. 強度、耐摩耗性

銅と亜鉛の合金である白銅は、硬さと柔軟性のバランスが取れており、強度が高く耐摩耗性に優れています。また、均一な組織を持ち、微細な結晶粒子がランダムに配置されています。そのため応力を均等に分散し、強度を向上させると同時に、微細な結晶粒子摩耗物質を拾い上げます。

具体的には、摩擦によって生じた摩耗物質が白銅の表面に付着すると結晶粒子が摩耗物質を包み込み、その摩耗物質の進行を防ぎます。微細な結晶粒子が摩耗物質を拾い上げることで白銅の耐摩耗性が高くなります。白銅は滑らかな表面を持ち、摩擦による熱の発生が少ないため、耐摩耗性が高くなります。

白銅のその他情報

白銅の磁性

銅は常温常圧下で弱い常磁性を示し、亜鉛も常温常圧下で弱い常磁性を持っていますが、それらを合金化した白銅は、磁性を持たない材料です。

これは、白銅が高い導電性を持っていることに深く関わっています。金属に電磁波が当たると磁場が発生し、その磁場が金属内部で電流を発生させる (電磁干渉) ことがあり 、例えば高周波回路などでは問題となることがあります。しかし、白銅は磁場を発生させず、また電磁干渉を起こさないため高周波回路などの電気回路部品に適します。

焼なまし

焼なましとは

焼なましのイメージ

図1. 焼なましのイメージ

焼なましとは、熱処理加工の1種であり、金属を硬化させた時に生じる内部のひずみを取り除くために行うものです。

焼きなましを行うことで、材料の軟化及び展延性の向上を実現可能で、後工程の加工が容易になります。なお、別名として、焼き鈍しもしくはアニーリング  (Anealing) もあります。

一般的に焼きなましは、完全焼きなましを指す場合が多いですが、それ以外の焼なましも存在します。それぞれの素材に応じて、適当な温度に加熱し、そこからゆっくりと冷却することによって焼きなましが完了します。材料を硬くする焼入れと正反対の熱処理になります。

焼なましの使用用途

半導体における焼なまし

図2. 半導体における焼なまし

焼きなましは、切削や鍛造、プレス加工を行う製品に使用されることが多いです。特に自動車関連の部品が代表的と言えます。焼きなましは、後工程で行う切削や鍛造、プレス加工をしやすくするのが目的です。

焼きなましを行っていない状態では、金属などの組織が均一になっていないため、その後の加工工程で変形を起こしたり、最悪の場合破壊したりする可能性があります。金属における焼なましは、焼入れや機械加工によって乱れた結晶構造を加熱および徐冷によって修復する工程です。

半導体においても同様に、壊れた結晶構造を回復するためにシリコン基板へのヒ素やリンなどの異種元素を注入し、熱処理を行うことでドープ元素とシリコン原子との結合を生成したり、シリコン原子同士の結合を生成したりすることがあります。

焼なましの原理

焼きなましは、金属への処理と半導体への処理で目的が異なります。金属に対して処理を行う場合は、素材を軟化させて組織を均一にすることが目的です。

一方、半導体に対して処理を行う場合は、壊れた結晶構造の回復が目的となります。

1. 金属における焼なまし

金属における最も一般的な焼きなましは、「完全焼なまし」と呼ばれます。均一結晶層であるオーステナイト相の領域まで加熱した後、加熱装置を切ることにより、徐々に冷却する手法です。

完全焼なましを行うことで、加工性の向上と内部応力の除去を行うことができます。

2. 半導体における焼なまし

半導体結晶において壊れた結合を、熱をかけることで再度結合させることができます。理由は、乱れた位置にある原子を熱をかけることで、正しい位置である格子点に移動させられるためです。

焼なましの種類

先述した完全焼なまし以外にも、以下のような焼なましがあるため、用途に応じて使い分ける必要があります。

1. 等温焼なまし (Isothermal annealing)

工具鋼や合金鋼、高合金鋼などの素材を軟化することに適した手法です。冷却の際に、ある一定の温度に固定して冷却する過程を含みます。完全焼きなましと比較して、作業が短時間になることが特徴です。

2. 拡散焼なまし (Homogenizing) 

拡散焼なまし

図3. 拡散焼なまし

拡散焼なましは元素の偏析を取り除くことが目的です。鉄鋼材料では、要求特性を実現するために炭素などの微量元素が添加されますが、溶接後など、凝固直後の鉄鋼材料はこういった元素が著しく偏析しています。

そこで材料を加熱することで元素を拡散させ、成分を均一にするのが拡散焼なましです。

3. 球状化焼なまし (Spheoroidizing)

鋼中の炭素濃度が高い場合に使用される手法です。このような鋼では、セメンタイトが層状あるいは網目状になっており、加工性がよくありません。この状態の鋼を焼なますことで、セメンタイトを球状にし材料中に均一に分散することができ、加工性が改善します。

4. 歪取り焼なまし (Stress relieving)

熱処理、機械加工、溶接を行った金属材料の内部には必ず残留応力が存在します。残留応力を放置すると、何らかのきっかけで残留応力が解放された時に材料の変形が起こります。

内部応力の原因である歪を取り除くため、材料をゆっくり加熱してある温度に保ち、歪が生じないようにゆっくり冷却します。

無機繊維

無機繊維とは

無機繊維

無機繊維とは、化学繊維の一種で、人工的な無機物の繊維のことです。

無機繊維の具体例として、ガラス繊維・金属繊維炭素繊維・岩石繊維・スラッグ繊維などが挙げられます。

ガラス繊維はグラスファイバとも呼ばれ、熱や電気の絶縁性に優れた不燃材です。多くの強化プラスチックには、ガラス繊維が多く利用されています。金属繊維には古くから、装飾用として金糸や銀糸などが使用されてきました。現在では、ステンレス・アルミニウム・鉄・ニッケルなどの金属糸が生産されています。炭素繊維はアクリル繊維等を焼成し、炭化させて作られています。炭素繊維は耐熱衝撃性に優れており、アルミよりも軽量で鉄よりも強度が高いです。 

無機繊維の使用用途

一般的に無機繊維は耐熱性に優れており、防熱や防音などの用途で幅広く使用されています。例えばガラス繊維は、ヘルメットや釣竿、スキー板などに用いられています。また、ガラス繊維を配合したシートは、床材・断熱材・建材などに利用可能です。

金属繊維は、複合材・強化材・ろ過材・除電など、特殊な部門で使用可能です。さらに、ロープウェイのロープ、工事クレーンに使われているワイヤー、送電用に使用されている銅線などにも利用されています。

炭素繊維の使用用途として、飛行機の機体や車の車体などが挙げられます。電気抵抗や熱伝導性が金属に近く、熱膨張率が低いです。この特徴を活用して、電磁シールドや電極、耐熱構造体などに応用されています。 

無機繊維の原理

無機繊維は強度が高く、例えばガラス繊維の強度は3.5〜4.6GPaです。高強度繊維として知られるパラ系アラミド繊維の強度は2.4〜3.4GPaであり、無機繊維が強度で上回ります。非常に強度が高い繊維をスーパー繊維と呼び、ほとんどの無機繊維はスーパー繊維に含まれています。

無機繊維は耐熱性が高く、とくにセラミック繊維の融点は2,000°C以上です。高機能有機合成繊維の融点は高くても600°Cほどであり、セラミック繊維はより高い温度でも耐えられます。無機繊維は耐久性も高いため劣化しにくく、産業資材分野で強度や耐熱性が必要な部分に用いられる場合が多いです。

無機繊維の種類

無機繊維は、ガラス繊維やロックウールなどに代表される「非晶質繊維」と、炭素繊維やアルミナ繊維などが含まれる「多結晶繊維」、ウォラストナイトやチタン酸カリウム繊維などの「単結晶繊維」に分類されます。「非晶質繊維」は粒界を持たず、弾性率の低い繊維でも高強度です。「多結晶繊維」は小さい結晶の集合体であり、耐熱性に優れています。「単結晶繊維」はウィスカ状をした微細な繊維であり、極めて高強度です。

人工的に作られる無機物質以外に、天然繊維の中にも無機物質があります。石綿 (アスベスト) は炭化水素を含まない、繊維状の無機物質です。しかし呼吸によって人体へ吸収された際に肺がんを誘発し、大きな社会問題になっています。ただし天然繊維である石綿は、無機繊維に分類されないこともあり、鉱物繊維に分類される場合が多いです。

無機繊維の選び方

ガラス繊維は短繊維グラスウール)と長繊維(グラスファイバー)に大きく分類され、それぞれの性質に応じて幅広く使用されています。短繊維は加熱して融解したガラスを遠心力で吹きとばして、綿状にしたガラス繊維です。長繊維は融解したガラスを高速巻取り機で巻き取って、長い糸状にした繊維です。

炭素繊維には、PAN系炭素繊維とピッチ系炭素繊維の2種類があります。PAN系炭素繊維は、1,000℃以上で焼かれて製造された炭素繊維です。2,000℃以上の高温で焼くと、より高い弾性率を有した製品になり、黒鉛繊維とも呼ばれます。ピッチ系炭素繊維は、等方性炭素繊維と高機能炭素繊維に分類されます。等方性炭素繊維は機械的物性が低いですが、高機能炭素繊維は機械的物性が高くて、弾性率が高いです。

無酸素銅

無酸素銅とは

無酸素銅とは、一般的に酸化物を含まず純度が99.96%以上の高純度なのことです。

一般的に電気分野、通信分野、建築材料分野、加工用材料分野などで広く用いられています。銅は高い電気伝導性や熱伝導性を持ち、耐食性や加工性にも優れていますが、酸素を含むとこれらの特性が低下するため、高純度の銅を求める場合は酸素を取り除いた無酸素銅が使用されます。

JIS (日本産業規格) H3100では,無酸素銅は、銅含有率99.96 %以上で、合金番号「C1020」として規定されています。

無酸素銅の使用用途

1. 電子・電気機器

電線や配線、端子、基板、コネクタなどが挙げられます。

2. ブスバー

パワーコンディショナー、変圧器、インバーター、UPSなどが挙げられます。

ブスバーとは、電気機器の間で電力を伝送するために使用される導体の一種です。パワーコンディショナーとは、交流電力を取り込んで、必要な形式に変換し、安定した電力を供給する電力変換装置です。インバーターとは、直流電力を交流電力に変換する装置です。UPSとは、無停電電源装置のことで、停電や電圧変動、ノイズ、サージなどの問題から電力を保護し、安定した電力を供給する装置です。

3. 熱交換器

冷却器、熱交換器、ヒートシンク、冷却フィンなどが挙げられます。ヒートシンクとは、電子部品や半導体などが発する熱を放熱するために使用される冷却装置の一種です。一般的には、金属製のフィン状の部品で、電子部品に取り付けられます。

4. 音楽機器

オーディオケーブル、アンプ、スピーカーなどが挙げられます。

5. 自動車

電気自動車、ハイブリッド車、燃料電池車、ブレーキなどが挙げられます。

無酸素銅の性質

1. 電気伝導性

無酸素銅は、電気伝導性が非常に高い材料です。銅は電気をよく通す物質であり、電気伝導性は純度が高いほど良くなります。一方、酸素は電気を阻害する物質であるため、銅に酸素が含まれると電気伝導性が低下します。

無酸素銅は、高純度で酸素が含まれていないため、銅の結晶構造が均一で、電気伝導性が非常に高い材料です。また、無酸素銅は熱処理によって結晶粒が細かくなり、さらに電気伝導性が向上します。

2. 熱伝導性

無酸素銅は、熱伝導性が非常に高い材料です。無酸素銅が、優れた熱伝導性を持つ理由は、銅の結晶構造が均一であることが大きく関係しています。無酸素銅は高純度で酸素が含まれていないため、銅の結晶構造が均一であり、原子間の結合力が強いです。

物質中を伝わる熱は、原子や分子の運動によって生じる振動エネルギーの形で存在しているため、熱が無酸素銅中を移動するとき、原子間の結合力が強いので、熱が効率的に伝わります。

また、無酸素銅は非常に良い熱処理性能を持ち、加熱や冷却によって結晶構造を制御できるのが特徴です。熱処理によって、無酸素銅中の結晶粒が細かくなり、原子の拡散が促進されるため、熱伝導性が向上します。

3. 加工性

無酸素銅は非常に高い純度で製造され、結晶構造が均一であるため金属組織が非常に柔軟であり、脆性が低い材料です。また、熱処理によって結晶粒が細かくなり、金属組織が均一化されるため、加工性が良好になります。融点が高く酸化や腐食に強いため、熱処理や加工の際に銅表面が損傷することが少なく、表面の状態が保たれるため加工性が良好です。

4. 耐食性

無酸素銅は腐食に強く、耐食性に優れている材料です。主な理由は酸化被膜が生成され、金属表面を保護するためです。酸化被膜は銅と酸素が反応して生成され、非常に薄く密着性が高いため銅表面を覆って酸化や腐食から守ります。無酸素銅は高純度で製造され、酸素が含まれていないため生成される酸化被膜がより均一で密着性が高いです。

また、酸化被膜が再生する速度が速く、自己修復能力を持っているため、銅表面が損傷した場合でも再生されます。そのため長期間にわたって金属表面を維持し、腐食に対して非常に耐性が高くなります。

5. 溶接性

無酸素銅は銅の純度が非常に高く、不純物が少なく均一な結晶粒子を持っているため、溶接性とはんだ付け性が良好です。また、熱伝導率が高く、接合部全体が均一な温度に保たれるため、接合部が歪まない加工が容易になります。

6. 磁性

無酸素銅が磁性が低く磁気的に不活性である理由は、その結晶構造にあります。純粋な銅であり、酸素を含んでいないため純度が非常に高い材料です。無酸素銅の結晶構造は、面心立方格子構造を持っています。面心立方格子構造では、原子が密集しており、自由電子の運動が制限されるため、無酸素銅は、磁気的に不活性な性質を持っています。

7. 可塑性

無酸素銅は良好な可塑性を持ち、曲げや折り曲げなどに対しても強度を維持できる材料です。理由は微細な結晶構造と結晶粒界の特性にあります。

無酸素銅は均一な結晶粒子を持ち、結晶粒界が非常に細かく形成されていて、変形時に結晶粒子同士が滑らかに移動するため、変形箇所での応力が軽減され、曲げや折り曲げに対しても強度を維持できます。また、無酸素銅は非常に純度が高く欠陥が生じることがないため、高い強度を維持できます。

8. 硬度や強度

無酸素銅は熱処理によって結晶粒子のサイズや配列が変化し、欠陥が除去され、不純物の拡散が促進されることで、材料の機械的特性が向上します。また、熱間鍛造や熱間圧延などによって、結晶粒子の方向性を制御でき、材料の硬度や強度を変えられます。

無酸素銅のその他情報

銅の純度

無酸素銅は銅の純度が高く、不純物や酸素濃度が非常に低いため、磁気抵抗が非常に小さいです。磁気抵抗とは、電磁波が通過する際に生じる抵抗のことです。磁気抵抗が大きい材料ほど、電磁波の通過に障害が生じやすくなります。

高周波の回路では、通信や電波の伝送に影響を与える電磁波干渉が問題となります。電磁波は、周波数が高いほど磁気抵抗が大きい材料に対して強く干渉するため、高周波回路においては、磁気抵抗が小さい材料を使用する必要があります。

炭素工具鋼

炭素工具鋼とは

炭素工具鋼とは、高硬度、高強度、高耐摩耗性、切削性などの特性を持つ炭素と少量の合金元素を含む鋼の一種です。

一般的に低合金工具鋼や高速度鋼に比べて、加工と熱処理による硬化が容易であるため、刃物、金型、工具などの製造に用いられます。JIS G 4401では11種類の炭素工具鋼が規定されていて、炭素含有量は0.55%~1.50%です。合金工具鋼に比べて比較的低コストであり、多くの用途に適しています。

炭素工具鋼の使用用途

1. 刃物製造

高い切れ味と耐久性を持つため、包丁やはさみなどの刃物の製造に使用されます。

2. 金属加工

硬度が高く、切削加工や穴あけ、プレス加工などの金属加工に使用されます。

3. ドリルビット

ドリルビットの先端に使用されることがあります。ドリルビットとは、金属、木材、プラスチックなどの材料を穴あけするために用いられる工具のことです。

4. 工具部品

スクリュードライバーやレンチ、ハンマーなどの工具部品の製造に使用されることがあります。

5. 冷間鍛造

釘やボルトなどの部品の製造に使用されます。

6. 金属加工

切削加工、穴あけ、プレス加工などの金属加工に使用されます。

炭素工具鋼の種類

JIS G 4401では,以下の11種類の炭素工具鋼が規定されています。( )内の記号は,旧JISの種類の記号です。

種類の記号 炭素含有量
SK140(SK1) 1.30%~1.50%
SK120(SK2) 1.15%~1.25%
SK105(SK3) 1.00%~1.10%
SK95(SK4) 0.90%~1.00%
SK90 0.85%~0.95%
SK85(SK5) 0.80%~0.90%
SK80 0.75%~0.85%
SK75(SK6) 0.70%~0.80%
SK70 0.65%~0.75%
SK65(SK7) 0.60%~0.70%
SK60 0.55%~0.65%

名称の最初に入っているSKは、Steel (鋼) と工具 (Kougu) の頭文字であり、SK以降の数字が大きくなるにつれて、炭素の含有量が多くなり、硬度も高くなります。

炭素鋼工具鋼の性質

1. 化学組成

  • 炭素 (C) : 前述の「炭素工具鋼の種類」に記載
  • シリコン (S) : 0.10%~0.35%
  • マンガン (Mn) : 0.10%~0.50%
  • リン (P) : 0.030%以下
  • 硫黄 (S) : 0.030%以下

2. 炭素含有量

炭素工具鋼は、主要な合金元素として炭素を含んでいます。炭素含有量は0.55%以上であり、高炭素鋼 (炭素含有量は0.6%以上) とほぼ同じです。炭素含有量が高いため、硬さや耐摩耗性が高くなりますが、加工性が低下する可能性があります。

3. 加工性

炭素工具鋼は一般的に不純物の含有量が少なく、高い純度を持っています。そのため切削性や加工性に優れ、刃物や工具などの精密部品の製造に適しています。

4. 耐摩耗性・耐腐食性

炭素工具鋼は、高い硬度を持つため焼入れ硬化によって耐摩耗性や耐腐食性を向上できます。焼入れとは、高温で加熱した後、急速に冷却する工程です。刃物、工具、金型などの高い切削・摩耗耐性が必要な部品の製造に広く使用されています。

5. 脆く衝撃に弱い

炭素工具鋼が脆く衝撃に弱い理由は、結晶構造にあります。焼き入れ硬化によって高い硬度を得るため、焼入れ後の組織が、非常に硬く脆いものとなります。また、焼入れによって生成される組織が一方向に配列しているため、配列方向に強い結合力が働き、配列方向以外には脆くなってしまう傾向があります。

さらに、炭素工具鋼はその合金元素の中でも炭素の含有量が高く金属組織の中に多数の炭素化合物が形成されます。これらの炭素化合物が、結晶構造内で結合力を強めることが原因で、結晶間の結合力を弱めるため、脆くなってしまいます。

6. 高温環境下での使用には不適

炭素工具鋼が高温環境下での使用には適していない理由は、主に以下の2つの要因によるものです。

1つは「炭素工具鋼は、高温下での酸化が進行しやすくなるため、表面が劣化することによって機械的特性が低下する可能性があること」です。

炭素工具鋼に含まれる合金元素の中でも炭素の含有量が高いため、高温下での酸化が進行しやすくなります。よって、炭素工具鋼表面に酸化物やスケールが生成され、表面の質感や粗さが変化することがあります。また、酸化物やスケールの形成によって、表面が劣化し、機械的特性が低下する可能性があります。

スケールとは、金属表面に形成される酸化物の膜や、金属表面に付着する不純物の膜のことです。

1つは「炭素工具鋼は、高温下で結晶粒の成長が進行し、その結果、強度や硬度が低下する場合があること」です。

炭素工具鋼は、焼き入れ硬化によって硬度が高くなりますが、高温下での使用によって結晶粒の成長が進行した結果、強度や硬度が低下する場合があります。

高温下での結晶粒の成長が、金属組織内部の強い結合を弱め、結晶粒境界に粒界屈曲や空洞が生じることによって、強度や硬度の低下が引き起こされます。強度や硬度が低下は、高温下での使用によって、金属部品の機械的特性の低下や破壊を引き起こすことがあります。

溶接管

溶接管とは

溶接管

溶接管とは、帯状の鋼板を円形に成形し、接続部を電気抵抗溶接などによって接合した鋼管です。

電縫管や電気抵抗溶接鋼管とも呼ばれます。溶接管は鋼帯を丸めて成形するため、厚みが少ないことが特徴です。鋼帯を使用して継ぎ目を溶接するという、比較的簡単な工法となっています。連続的に製造できるため、低コスト・大量生産に向いています。6A程度の小径から700A程度の大径まで、幅広く対応可能です。

また、炭素鋼鋼管・ステンレス鋼管・低合金鋼管など、様々な材質の鋼管が製造されています。一方で、溶接の痕が残るため、外観を重視する場合は、削り取って滑らかにする必要があります。溶接管は、各種配管をはじめ、自動車部品・機械部品・建築物などに多く使用されます。

溶接管の使用用途

溶接管は、材質・管の径・厚さ・長さなど各種の製品があり、汎用性が高いと言えます。代表的な種類の使用用途は、以下の通りです。

1. 炭素鋼鋼管

  • 鋼管杭・矢板
  • 電線管
  • 上下水道配管
  • 空調用・消火用・排水用の水配管
  • 鉄塔
  • 足場
  • 支柱
  • 基礎くい
  • 機械器具・自動車・自転車・家具・機械などの部品
  • 蒸気・水・油・ガス・空気などの配管
  • 高温・低温の配管
  • ボイラの水管・煙管・加熱器
  • 化学工業・石油工業用の熱交換器
  • 土木・建築用の構造物
  • 油圧シリンダ・空気シリンダのシリンダチューブなど

2. 合金鋼鋼管

合金鋼鋼管は上記以外に、ステンレス鋼サニタリー管を使用して、酪農・食品工業・医療医薬品などにも使用されます。

溶接管の原理

溶接管を製造する素材は、コイル材の鋼帯です。アンコイラーやレベラーなどの機械を用いて鋼帯を連続的に引き出し、鋼帯の両側端面をエッジ加工します。

そして、鋼帯の軸方向を円形に丸めて、パイプ状に成形し、両端に大電流を流すことにより、瞬間的に接合部を高温にします。そのまま押し付けて突合せ、電気抵抗溶接などを使って溶接接合してパイプに成形します。その後、所定の長さに切断し、冷却後矯正機にかけて完成です。

接合部の溶接方法として、高周波抵抗溶接・高周波誘導圧接・電気抵抗溶接などが挙げられます。

  • 高周波抵抗溶接
    抵抗溶接の一つで、接合部を加圧しながら、高周波電流を流して接合する方法。
  • 高周波誘導圧接
    接合部を加圧しながら高周波誘導加熱により、溶接する方法。
  • 電気抵抗溶接
    接合部に大電流を流し、発生する抵抗熱によって加熱溶融して圧力をかけて溶接する方法。抵抗溶接法には、電流・加圧力・通電時間の3大条件があり、適切な管理が必要。

溶接管の種類

溶接管には、使用される材質によって以下の2種類に大別されます。

1. 炭素鋼を使用した溶接管

最も一般的な溶接管であり、低炭素鋼のS10Cから高炭素鋼のS50Cまで、さまざまな炭素含有量の炭素鋼を使用して製造されています。また、用途や温度環境に合わせて材質を選定して使用されます。

2. 合金鋼を使用した溶接管

特にステンレス鋼やクロム・モリブデン鋼、高マンガン鋼などが多く使われます。合金鋼を使用した溶接管の中でも、機械構造用やサニタリー管、ボイラ・熱交換器用など、用途に応じて規格が異なっています。

その中でも、ステンレス鋼は、耐食性や耐酸化性、耐熱性に優れているため、高温・低温環境下での配管に多く使用されます。また、クロム・モリブデン鋼は、高い耐熱性と耐圧性をもつことが特徴です。この特徴を活かし、現在は火力発電プラントや石油精製プラントなどの圧力容器等に使用されています。

溶接管のその他情報

1. 溶接管の規格

溶接管には、JIS規格に多くの種類が規定されています。具体例として、JIS G 3444 一般構造用炭素鋼鋼管、JIS G 3445 機械構造用炭素鋼鋼管、JIS G 3441 機械構造用合金鋼鋼管、JIS G 3452 配管用炭素鋼管などが挙げられます。

この他、土木用の鋼管ぐい・鋼管矢板、電気工事用の鋼製電線管、配管用の各種鋼管、熱交換器用の各種鋼管、自動車用の鋼管、建築用の鋼管などのJIS規格があります。溶接管の製造方法である電気抵抗溶接を表す記号「E」を、鋼管の種類を表す記号の後に付けます。

また、鋼管の仕上げ方法を示す記号をさらに付けます。「H」は熱間仕上げ、「C」は冷間仕上げ、「G」は仕上げなしをそれぞれ意味します。

2. 溶接管とシームレス管との違い

溶接管は、鋼板をパイプ状に成形して継目を溶接して製造します。一方、シームレス管は、丸棒の中心を押し広げて中空にした継ぎ目のない管です。

シームレス管は継ぎ目がない分、溶接管より強度が高いです。内圧やねじれに強く、厚肉のパイプに向いています。寸法精度は溶接管より低く、コストが高い傾向があります。管の表面性状は、シームレス管の方が少し粗いです。

洋白

洋白とは

洋白

洋白とは、亜鉛を主成分として、ニッケルを添加することで作られる合金です。

洋白の名称は、白色がかった光沢を持つことに由来します。銅や亜鉛の特性を持ちつつ、ニッケルの添加によって耐食性や加工性に優れています。特に耐食性に優れており、海水や強い酸に対しても錆びにくいため、海洋関連の部品や装置、化学工業の設備部品などに使用されることがあります。

また、加工性にも優れており、鍛造、圧延、引き抜きなどの加工が容易な材用です。そのため金属加工製品や装飾品などにも使用されています。

洋白の使用用途

1. 食器

洋白は軽くて丈夫なため食器類に広く使用されています。例えば、フォーク、ナイフ、スプーン、ボウル、プレートなどが挙げられます。

2. 楽器

トランペット、トロンボーン、サックスなどが挙げられます。

3. 装飾品

洋白は美しい光沢を持ち、装飾品の素材として使用されます。例えば、置物、アクセサリー、時計、キャンドルスタンドなどが挙げられます。

4. 金属加工

洋白は柔軟性があり、加工が容易であるため、金属加工にも使用されます。例えば、スプリング、歯車、ピンなどが挙げられます。

5. 電気部品

洋白は電気をよく通すことから、電気部品としても使用されます。例えば、接点、リレー、コンタクトなどが挙げられます。コンタクトとは、主に電気信号を伝達するために使用される部品で、電気回路上での接点やスイッチング部品などに用いられます。

6. 医療機器

洋白は非常に清潔で、細菌が繁殖しにくいことから、医療機器にも使用されます。例えば、外科用の器具、歯科用の器具、人工関節などが挙げられます。

7. 自動車部品

洋白は耐摩耗性が高く、熱に強いことから、自動車部品の素材として使用されます。例えば、エンジン部品 (ウォーターポンプインペラ) 、ブレーキ部品 (ブレーキパッド、ブレーキシュー) 、ギアなどが挙げられます。

ウォーターポンプインペラとは、エンジンの冷却水を循環させる部品です。洋白の耐食性に優れた特性を活かして使用されます。

ブレーキパッドとは、ブレーキディスクやドラムに押し付けられ、車両を減速させる部品です。洋白は耐熱性が高く、制動力が安定するため、ブレーキパッドの素材として使用されることがあります。

ブレーキシューとは、ドラムブレーキの内側に取り付けられ、車両を減速させる部品です。洋白は摩擦特性が優れており、ブレーキシューの素材として使用されることがあります。

8. 印刷機器

洋白は表面の仕上げが容易で、インクの乗りがよく、印刷機器の素材として使用されます。例えば、印刷機のローラー、文字盤などが挙げられます。

9. 硬貨

洋白は、多くの国の硬貨の製造に使用されています。洋白には、高い耐久性と耐食性があるためです。

洋白の種類

JIS (日本産業規格) H 3270では,C7451、C7521、C7541、C7701の4種類が規定されています。下表では、Cu (銅) 含有率とNi (ニッケル) 含有率をまとめています。

合金番号 Cu含有率 Ni含有率
C7451 63.0%~67.0% 8.5%~11.0%
C7521 62.0%~66.0% 16.5%~9.5%
C7541 60.0%~64.0% 12.5%~15.5%
C7701 54.0%~58.0% 16.5%~19.5%

洋白の性質

1. 比較的柔らかく加工しやすい

洋白が比較的柔らかく加工しやすい理由は、洋白の成分によるものです。洋白は、主に銅、亜鉛、およびニッケルの三種類の金属で構成されています。

銅と亜鉛は、柔らかい金属であり、洋白の主成分であるため、洋白は柔らかく加工しやすい材料となります。銅と亜鉛は、結晶粒の形成が細かく、柔軟性が高く、鍛造や圧延などの加工が容易な材料です。また、銅と亜鉛の比率を調整することで、洋白の硬度を調整できます。

一方、ニッケルは銅や亜鉛よりも硬く、強度が高い金属です。ニッケルを洋白に添加することで、洋白の硬度が向上し、強度も増します。しかし、添加しすぎると、洋白が硬くなりすぎて加工性が低下することがあります。

洋白の主成分である銅と亜鉛は、柔軟性が高く、鍛造や圧延などの加工が容易であり、ニッケルの添加によって強度が向上するため、一定の強度を保ちながら加工しやすいです。

2. 酸化しにくく、腐食に強い

洋白が酸化しにくく、腐食に強い理由は、主に表面の酸化被膜によるものです。

洋白は、銅と亜鉛を主成分とし、ニッケルを添加することで作られる合金です。洋白の表面には、酸化被膜が形成されます。この酸化被膜は、銅や亜鉛などの金属の酸化物や、ニッケルの化合物などからできており、表面を覆っています。

この酸化被膜は、酸や塩基などの腐食性のある物質から、金属表面を保護します。酸化被膜は非常に薄いため、透明であることが多く、肉眼では見えにくいことがあります。しかし、この膜は金属表面を覆い、酸や塩基などから金属を守ります。

また、洋白には銅や亜鉛が酸や塩基に対して強い耐性を持っているため、腐食にも強いです。さらに、ニッケルの添加によって、耐腐食性が向上します。

3. 高温に強く、熱伝導率が高い

洋白は、高い耐熱性と優れた熱伝導性を持ちます。その理由は、洋白の結晶構造や物理的性質に起因しています。

まず、洋白の結晶構造は、面心立方格子構造を持っています。面心立方格子構造では、銅とニッケルの原子が交互に配置され、空隙が少ない密な構造を形成するのが特徴です。よって、洋白は密度が高く、強靭で、高温に強いという特性を持ちます。

また、洋白は熱伝導率が非常に高いため、熱を効率的に伝えられます。この熱伝導率の高さは、洋白の結晶構造によるものです。面心立方格子構造は原子が密集しているため、熱エネルギーが原子から原子へと効率的に伝えられます。

4. アレルギー反応

洋白は、銅と亜鉛を主成分とし、ニッケルを添加することで作られる合金です。しかし、一部の人が、洋白の成分に対してアレルギー反応を引き起こすことがあります。主に、ニッケルに対してアレルギー反応が起こることが知られています。

洋白には微量ながらニッケルが含まれており、長時間接触することでニッケルアレルギーを引き起こすことがあるため注意が必要です。特に、洋白の使用が多い食器類などは、直接肌に触れることが多いため、ニッケルアレルギーのリスクが高くなります。

洋白のその他情報

洋白の錆び対策

洋白は、銅が主成分であるため、湿気や水分に触れると表面が酸化し、錆びやすい傾向があります。

錆びを防ぐためには、洋白製品を乾燥させることが重要です。洗浄後にはしっかりと水気を拭き取り、乾燥させる必要があります。また、湿気の多い場所に保管しないようにし、適切な保管方法を選ぶことも大切です。酸性の洗剤や研磨剤を使用せず、中性の洗剤で洗浄することで、表面の銀めっきが傷つくことを防げます。

水素吸蔵合金

水素吸蔵合金とは

水素吸蔵合金とは、水素を貯めることができる合金材料です。

特定の金属が水素と結合して水素化物になるという仕組みを利用しています。多種類の金属元素のうち、比較的容易に水素化物になりやすい金属として、マグネシウム (Mg) などが挙げられます。

水素吸蔵合金は、水素化物になりやすい金属を特定の比率で混合し、合金にすることによって得ることが可能です。

水素吸蔵合金の使用用途

水素吸蔵合金の使用用途は、水素自動車や燃料電池自動車の燃料タンク、ニッケル・水素二次電池の負極材料などです。水素吸蔵合金自体の体積よりも1,000倍以上の体積の水素を内部に貯蔵できるという特徴を有するため、このような特徴を活かせる用途で使用されています。

中でも水素吸蔵合金の最も有名な用途は、ニッケル水素充電池の負極材料です。乾電池型のニッケル水素充電池が実用化され、今でも販売されています。しかし、リチウムイオン二次電池と比べて電池容量が小さいことから、あまり広く普及していない状況です。

現状の水素吸蔵合金は、希少な金属 (レアメタル) を使用する場合が多いため、製造コストが高い等の課題を有します。高コストというデメリットを解決できる技術革新が進めば、水素吸蔵合金を利用した二次電池を広く普及させるチャンスが生まれると考えられます。

水素吸蔵合金の性質

水素吸蔵合金の特徴は、水素を貯め込むだけでなく貯め込んだ水素を放出できる点です。通常の状態では、水素という元素 (H) は、水素ガス (H2) の状態であるため非常に希薄です。水素吸蔵合金は、水素ガス (H2) の状態よりも高い充填密度で水素を溜め込むことができます。水素吸蔵合金は水素を貯め込むときに発熱し、一方加熱されると水素を放出します。

水素は化石燃料に代わるエネルギー源として将来的に有望な資源の1つです。ところが、水素ガスという気体の状態ではエネルギー密度が低いため、水素ガス自体をそのまま運搬するとかなり非効率です。水素吸蔵合金は、エネルギー密度が高い状態で水素を貯蔵できるため、将来のエネルギー問題の解決策になり得るかもしれない材料と言えます。

実用化できる程度の水素を貯蔵できる水素吸蔵合金として、従来、希少で高価な希土類元素 (レアアース) を用いた合金が利用されてきました。しかし、高価で希少な希土類元素 (レアアース) を用いなくても、水素を十分に貯蔵できる新たな合金材料の開発が進んでいます。

水素吸蔵合金の種類

水素吸蔵合金の種類は、含有成分の点で大まかに分類すると5種類です。配合比や使用金属の種類によって分類名称や結晶構造が異なります。

1.  AB5型

主に希土類元素を基にして作られます。ニッケル (Ni) などの遷移元素も含んでいます。吸蔵できる水素量が比較的多いことから、ニッケル・水素二次電池の負極材料として実用化されています。

2. AB2型

主にマンガンチタン、ニッケル、ジルコニウムなどの遷移元素を基にして作られます。上記のAB5型と比べて水素の吸蔵量が多いため、活発に研究開発されている合金材料です。

3. AB型

主にチタンおよび鉄を基にして作られます。Ti-Fe系と省略される場合があります。希少な希土類元素を使用しなくても製造できるため製造コストが比較的安価です。

4. A2B型

主にマグネシウムを基にして作られるMg合金です。マグネシウムが多量の水素を吸蔵できるという特徴を利用しているため、水素吸蔵量が多いという特徴を有します。

5. 固溶体型 BCC合金

主にバナジウムやクロムを基にして作られます。Ti-VやTi-Cr と表記される場合があります。AB5型や AB2型と比べて水素吸蔵量が多いという特徴を有します。

水素吸蔵合金のその他情報

1. 水素吸蔵合金の応用

水素吸蔵合金を応用した用途として、ヒートポンプコンプレッサなどが挙げられます。他にも、水素自動車に搭載するために、水素吸蔵合金と高圧容器を組み合わせた水素貯蔵タンク材料などが開発されています。

2. 水素吸蔵合金の今後

水素吸蔵合金は、水素を貯蔵および放出できる材料です。水素は化石燃料に代わるクリーンなエネルギーとして期待されています。

多量の水素を貯蔵および放出可能で、しかも低コストで製造できる水素吸蔵合金が開発された場合には、水素吸蔵合金は将来的に有望な材料となります。

参考文献
https://www.material.tohoku.ac.jp/dept/applicants/lecture/lecture11.html
https://www.nstec.nipponsteel.com/tsushin/magazine/suisokyuuzou.pdf

析出硬化系ステンレス

析出硬化系ステンレスとは

析出硬化系ステンレスとは、高強度や耐食性が求められる環境において使用されることが多いステンレス鋼の一種です。

析出硬化系ステンレス鋼に含まれるクロム、ニッケル、マンガンなどの合金元素は、ステンレス鋼の耐食性、強度、耐摩耗性を向上させる役割を果たしています。高温下での硬化処理によって非常に高い強度と耐食性を発揮できます。ステンレス鋼の結晶構造が変化し、特殊な強化相が析出するため強度が向上します。

析出硬化系ステンレスの使用用途

1. 原子力発電所

制御棒、核燃料棒、冷却材管などの部品が挙げられます。

制御棒とは、原子炉内の核分裂反応を制御するための部品であり、棒状で長さ数メートル程度です。核燃料棒とは、原子炉内で核分裂反応を起こし、熱エネルギーを発生させるための部品であり、通常は円筒形状をしています。冷却材管とは、原子炉内で発生した熱を冷却するための管状の部品です。

2. 医療機器

人工関節、外科用器具、心臓ペースメーカー、歯科インプラントなどの部品が挙げられます。

3. 石油・ガス産業

海底油田掘削装置、パイプライン、石油精製プラントの設備部品などが挙げられます (例: バルブや配管など) 。

4. 自動車産業

高性能エンジン部品、サスペンション、車体部品などが挙げられます (例: クランクシャフト、カムシャフトなど) 。自動車のクランクシャフトとは、内燃機関においてピストンの上下運動を回転運動に変換する部品の1つです。自動車のカムシャフトは、内燃機関においてバルブの開閉タイミングを制御する部品の1つです。

5. 電子機器産業

高精度計測機器、半導体製造装置の部品などが挙げられます。 (例: センサーやガス分配弁など) 

ガス分配弁は、半導体製造装置において高純度ガスを配管から供給するために使用されます。センサーは高精度計測機器や半導体製造装置において、温度や圧力、流量などのパラメーターを計測するために使用されます。

析出硬化系ステンレスの種類

JIS (日本産業規格) では、析出硬化系ステンレスとして、SUS630とSUS631の2種類が規定されています。どちらも固溶化熱処理後に析出硬化熱処理を行っています。

SUS630は、主にクロム、ニッケル、および少量の銅を含む鋼種であり、リッチン化処理により硬化が促進されます。リッチン化処理により、銅が析出して結晶粒界を強化することで硬化します。

リッチン化処理とは、析出硬化系ステンレス鋼の熱処理の一種であり、固溶化熱処理後に実施する工程です。リッチン化処理により、鋼中に含まれる特定の合金元素が析出して、結晶粒界などの欠陥部分に集積し、結晶粒の強化や硬化を促進できます。

SUS631の熱処理では、アルミニウムを添加して硬度を向上できます。理由は、アルミニウムが析出して結晶粒界を強化することで硬化するためです。

析出硬化系ステンレスの性質

析出硬化系ステンレス鋼の主な性質は以下の通りです。

1. 強度

析出硬化系ステンレスは高い強度を持つ材料です。理由は、析出硬化処理によって微細な析出物が形成され、結晶粒が細かくなることで結晶粒界の面積が増加し、強度が向上するからです。また、微細な析出物が結晶粒界に分布することにより、粒界強化効果が現れ、疲労寿命も向上します。

粒界は、材料内部の欠陥や非晶質領域を含むため、強度が低下する傾向があります。しかし、析出硬化系ステンレス鋼のように、微細な析出物が結晶粒界に分布することによって、粒界の強度が向上し、結晶粒界を固め、粒界での滑りや移動を妨げることで強度を向上させます。

2. 耐食性

析出硬化系ステンレス鋼は腐食に強い材料です。理由は、含有量が多いクロムによる酸化膜の形成と、合金化元素による腐食に対する耐性があるためです。クロム、ニッケル、マンガンなどの合金化元素は、鋼材表面を保護することで腐食を防止する効果があります。したがって、析出硬化系ステンレス鋼は、一般的なステンレス鋼と同様に腐食に強い性質を持っているのが特徴です。

3. 焼き入れ性

析出硬化系ステンレス鋼は、一般的に優れた焼き入れ性を持つ材料です。理由は、析出硬化系ステンレス鋼は、熱処理によって析出硬化物を形成できるためです。

析出硬化系ステンレス鋼は、高温での固溶化処理 (オーステナイト化) を行い、その後、急冷して析出硬化物を形成します。固溶化処理により、鋼材の組織が変化し、硬度や強度が向上します。

4. 耐熱性

析出硬化系ステンレス鋼は、耐熱性に優れた材料です。理由は、高いクロム含有量や合金化元素の影響によって酸化膜が形成され、鋼材表面が保護されることに加え、析出硬化処理によって形成される微細な析出物が高温下でも鋼材の強度を保てるためです。また、結晶粒界に分布する析出物によって、粒界の強度が向上することで、高温下でも鋼材の強度を維持できます。

5. 耐疲労性

析出硬化系ステンレス鋼は、高い強度と優れた耐食性を持つ鋼材です。理由は「高い強度」、「優れた耐食性」、「緻密な結晶構造」、「優れた熱処理性能」によるもので、以下の通りです。

高い強度から疲労による変形が少なく、疲労寿命が延びます。ステンレス鋼は一般的に耐食性が高く、疲労亀裂の発生を抑制できます。冷却速度を遅くすることで緻密な結晶構造を持ち、疲労亀裂の発生が抑制され、疲労強度が向上します。また、熱処理によって微細な析出物が形成されるため、疲労強度が向上します。

析出硬化系ステンレスのその他情報

1. 溶接性

析出硬化系ステンレス鋼は一般的に溶接が可能ですが、焼け付きや溶接欠陥が発生する可能性があることに注意が必要です。よって、適切な溶接条件とともに、焼入れ処理や予熱などのが必要です。また、粒界付近に微細な析出物が存在するため、溶接によって粒界脆化が起こる可能性があることも留意すべき点です。

2. 磁性

SUS630、SUS631は磁性のある材料です。固溶化熱処理状態では、SUS630、SUS631は非磁性です。しかし、析出硬化処理後では、SUS630、SUS631は強い磁性を示します。理由は、材料中に微小な磁気的な領域が形成されるためです。

析出硬化処理によって材料中に析出物が形成され、析出物の中に微小な磁気的な領域が含まれることが磁性の原因です。この領域は、材料中の一部分であり、個々の領域は微小ですが、領域の数が増えると、材料全体として磁性を帯びるようになります。

3. 加工が困難

析出硬化系ステンレス鋼は高い硬度や強度を持つため、一般的なステンレス鋼に比べて加工が困難な場合があります。ただし、加工方法や条件を適切に選定することで、加工性を向上できます。