水素吸蔵合金とは
水素吸蔵合金とは、水素を貯めることができる合金材料です。
特定の金属が水素と結合して水素化物になるという仕組みを利用しています。多種類の金属元素のうち、比較的容易に水素化物になりやすい金属として、マグネシウム (Mg) などが挙げられます。
水素吸蔵合金は、水素化物になりやすい金属を特定の比率で混合し、合金にすることによって得ることが可能です。
水素吸蔵合金の使用用途
水素吸蔵合金の使用用途は、水素自動車や燃料電池自動車の燃料タンク、ニッケル・水素二次電池の負極材料などです。水素吸蔵合金自体の体積よりも1,000倍以上の体積の水素を内部に貯蔵できるという特徴を有するため、このような特徴を活かせる用途で使用されています。
中でも水素吸蔵合金の最も有名な用途は、ニッケル水素充電池の負極材料です。乾電池型のニッケル水素充電池が実用化され、今でも販売されています。しかし、リチウムイオン二次電池と比べて電池容量が小さいことから、あまり広く普及していない状況です。
現状の水素吸蔵合金は、希少な金属 (レアメタル) を使用する場合が多いため、製造コストが高い等の課題を有します。高コストというデメリットを解決できる技術革新が進めば、水素吸蔵合金を利用した二次電池を広く普及させるチャンスが生まれると考えられます。
水素吸蔵合金の性質
水素吸蔵合金の特徴は、水素を貯め込むだけでなく貯め込んだ水素を放出できる点です。通常の状態では、水素という元素 (H) は、水素ガス (H2) の状態であるため非常に希薄です。水素吸蔵合金は、水素ガス (H2) の状態よりも高い充填密度で水素を溜め込むことができます。水素吸蔵合金は水素を貯め込むときに発熱し、一方加熱されると水素を放出します。
水素は化石燃料に代わるエネルギー源として将来的に有望な資源の1つです。ところが、水素ガスという気体の状態ではエネルギー密度が低いため、水素ガス自体をそのまま運搬するとかなり非効率です。水素吸蔵合金は、エネルギー密度が高い状態で水素を貯蔵できるため、将来のエネルギー問題の解決策になり得るかもしれない材料と言えます。
実用化できる程度の水素を貯蔵できる水素吸蔵合金として、従来、希少で高価な希土類元素 (レアアース) を用いた合金が利用されてきました。しかし、高価で希少な希土類元素 (レアアース) を用いなくても、水素を十分に貯蔵できる新たな合金材料の開発が進んでいます。
水素吸蔵合金の種類
水素吸蔵合金の種類は、含有成分の点で大まかに分類すると5種類です。配合比や使用金属の種類によって分類名称や結晶構造が異なります。
1. AB5型
主に希土類元素を基にして作られます。ニッケル (Ni) などの遷移元素も含んでいます。吸蔵できる水素量が比較的多いことから、ニッケル・水素二次電池の負極材料として実用化されています。
2. AB2型
主にマンガン、チタン、ニッケル、ジルコニウムなどの遷移元素を基にして作られます。上記のAB5型と比べて水素の吸蔵量が多いため、活発に研究開発されている合金材料です。
3. AB型
主にチタンおよび鉄を基にして作られます。Ti-Fe系と省略される場合があります。希少な希土類元素を使用しなくても製造できるため製造コストが比較的安価です。
4. A2B型
主にマグネシウムを基にして作られるMg合金です。マグネシウムが多量の水素を吸蔵できるという特徴を利用しているため、水素吸蔵量が多いという特徴を有します。
5. 固溶体型 BCC合金
主にバナジウムやクロムを基にして作られます。Ti-VやTi-Cr と表記される場合があります。AB5型や AB2型と比べて水素吸蔵量が多いという特徴を有します。
水素吸蔵合金のその他情報
1. 水素吸蔵合金の応用
水素吸蔵合金を応用した用途として、ヒートポンプ、コンプレッサなどが挙げられます。他にも、水素自動車に搭載するために、水素吸蔵合金と高圧容器を組み合わせた水素貯蔵タンク材料などが開発されています。
2. 水素吸蔵合金の今後
水素吸蔵合金は、水素を貯蔵および放出できる材料です。水素は化石燃料に代わるクリーンなエネルギーとして期待されています。
多量の水素を貯蔵および放出可能で、しかも低コストで製造できる水素吸蔵合金が開発された場合には、水素吸蔵合金は将来的に有望な材料となります。
参考文献
https://www.material.tohoku.ac.jp/dept/applicants/lecture/lecture11.html
https://www.nstec.nipponsteel.com/tsushin/magazine/suisokyuuzou.pdf