炭素工具鋼とは
炭素工具鋼とは、高硬度、高強度、高耐摩耗性、切削性などの特性を持つ炭素と少量の合金元素を含む鋼の一種です。
一般的に低合金工具鋼や高速度鋼に比べて、加工と熱処理による硬化が容易であるため、刃物、金型、工具などの製造に用いられます。JIS G 4401では11種類の炭素工具鋼が規定されていて、炭素含有量は0.55%~1.50%です。合金工具鋼に比べて比較的低コストであり、多くの用途に適しています。
炭素工具鋼の使用用途
1. 刃物製造
高い切れ味と耐久性を持つため、包丁やはさみなどの刃物の製造に使用されます。
2. 金属加工
硬度が高く、切削加工や穴あけ、プレス加工などの金属加工に使用されます。
3. ドリルビット
ドリルビットの先端に使用されることがあります。ドリルビットとは、金属、木材、プラスチックなどの材料を穴あけするために用いられる工具のことです。
4. 工具部品
スクリュードライバーやレンチ、ハンマーなどの工具部品の製造に使用されることがあります。
5. 冷間鍛造
釘やボルトなどの部品の製造に使用されます。
6. 金属加工
切削加工、穴あけ、プレス加工などの金属加工に使用されます。
炭素工具鋼の種類
JIS G 4401では,以下の11種類の炭素工具鋼が規定されています。( )内の記号は,旧JISの種類の記号です。
種類の記号 | 炭素含有量 |
SK140(SK1) | 1.30%~1.50% |
SK120(SK2) | 1.15%~1.25% |
SK105(SK3) | 1.00%~1.10% |
SK95(SK4) | 0.90%~1.00% |
SK90 | 0.85%~0.95% |
SK85(SK5) | 0.80%~0.90% |
SK80 | 0.75%~0.85% |
SK75(SK6) | 0.70%~0.80% |
SK70 | 0.65%~0.75% |
SK65(SK7) | 0.60%~0.70% |
SK60 | 0.55%~0.65% |
名称の最初に入っているSKは、Steel (鋼) と工具 (Kougu) の頭文字であり、SK以降の数字が大きくなるにつれて、炭素の含有量が多くなり、硬度も高くなります。
炭素鋼工具鋼の性質
1. 化学組成
- 炭素 (C) : 前述の「炭素工具鋼の種類」に記載
- シリコン (S) : 0.10%~0.35%
- マンガン (Mn) : 0.10%~0.50%
- リン (P) : 0.030%以下
- 硫黄 (S) : 0.030%以下
2. 炭素含有量
炭素工具鋼は、主要な合金元素として炭素を含んでいます。炭素含有量は0.55%以上であり、高炭素鋼 (炭素含有量は0.6%以上) とほぼ同じです。炭素含有量が高いため、硬さや耐摩耗性が高くなりますが、加工性が低下する可能性があります。
3. 加工性
炭素工具鋼は一般的に不純物の含有量が少なく、高い純度を持っています。そのため切削性や加工性に優れ、刃物や工具などの精密部品の製造に適しています。
4. 耐摩耗性・耐腐食性
炭素工具鋼は、高い硬度を持つため焼入れ硬化によって耐摩耗性や耐腐食性を向上できます。焼入れとは、高温で加熱した後、急速に冷却する工程です。刃物、工具、金型などの高い切削・摩耗耐性が必要な部品の製造に広く使用されています。
5. 脆く衝撃に弱い
炭素工具鋼が脆く衝撃に弱い理由は、結晶構造にあります。焼き入れ硬化によって高い硬度を得るため、焼入れ後の組織が、非常に硬く脆いものとなります。また、焼入れによって生成される組織が一方向に配列しているため、配列方向に強い結合力が働き、配列方向以外には脆くなってしまう傾向があります。
さらに、炭素工具鋼はその合金元素の中でも炭素の含有量が高く金属組織の中に多数の炭素化合物が形成されます。これらの炭素化合物が、結晶構造内で結合力を強めることが原因で、結晶間の結合力を弱めるため、脆くなってしまいます。
6. 高温環境下での使用には不適
炭素工具鋼が高温環境下での使用には適していない理由は、主に以下の2つの要因によるものです。
1つは「炭素工具鋼は、高温下での酸化が進行しやすくなるため、表面が劣化することによって機械的特性が低下する可能性があること」です。
炭素工具鋼に含まれる合金元素の中でも炭素の含有量が高いため、高温下での酸化が進行しやすくなります。よって、炭素工具鋼表面に酸化物やスケールが生成され、表面の質感や粗さが変化することがあります。また、酸化物やスケールの形成によって、表面が劣化し、機械的特性が低下する可能性があります。
スケールとは、金属表面に形成される酸化物の膜や、金属表面に付着する不純物の膜のことです。
1つは「炭素工具鋼は、高温下で結晶粒の成長が進行し、その結果、強度や硬度が低下する場合があること」です。
炭素工具鋼は、焼き入れ硬化によって硬度が高くなりますが、高温下での使用によって結晶粒の成長が進行した結果、強度や硬度が低下する場合があります。
高温下での結晶粒の成長が、金属組織内部の強い結合を弱め、結晶粒境界に粒界屈曲や空洞が生じることによって、強度や硬度の低下が引き起こされます。強度や硬度が低下は、高温下での使用によって、金属部品の機械的特性の低下や破壊を引き起こすことがあります。